この話はオリジナル主人公登場の魔法少女リリカルなのはASの二次創作です。

  自分の文才の無さが原因で登場人物の人格及び性格が変わっている可能性もあります。その様な事に耐えられない方は気合を入れられて見るかブラウザの戻るを押される事をお勧めします。

 

  またこの物語は外伝ではなく幕間に位置していますが、殆どが本編には直截関係の無い話で構成されています。

 

 

 

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魔法少女リリカルなのはAS二次創作

【八神の家】

 

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「……………………………………………………朝やな」

  朝日が自室に差し込む時間帯に目を覚ましたはやてはポツリとそう呟いた。

「………………………………………………」

  ぼんやりと窓の外を見れば相変わらず雪が積もっており、さらに雪掻きが必要かと思われる程雪は降っていた。

  一目見て外が寒いのは窺えたが、完璧とも言えるエアコンが稼動しているはやての部屋は快適な温度と湿度だった。

  普段ならば寝る時は停止しているのだがあまりの寒さと何より風邪だったので最近は稼動させ続けて寝かされていた。

  相変わらずぼんやりとしたままはやては自分の身体を鑑みたが、昨日と変わらず倦怠感や寒気は治ってはおらず、徐々に覚醒すると幸い昨日と違って頭痛は治ったらしかったが、いまいち思考が纏まらないのは相変わらずだった。

  そしてはやてがいまいち思考は纏まらないが目が覚めた頃、ベッドの傍に居た速人がはやての額からまだ僅かに冷たさの残るタオルを取りながら話しかけてくる。

「保冷材入りの枕に交換するか?」

  朝の挨拶を抜きにした速人らしい言葉を投げ掛けられたはやては、少々空元気気味に返答した。

「もう必要無さそやけど、念の為に代えてもらおかな?」

「了解した」

  そう答えた速人は左腕をはやての頭の方から背中の方へと枕及び敷布団とはやての間に差し込み、背と頭が凭れられる様にしながら右手で枕を保冷材入りの枕と交換した。

  はやては身体を起こすくらい出来るので断ろうとしたが、それすらも疲れてしまう程自身が消耗しているのが解ったのでされるがままだった。

(あー、速人はんの肌サラサラしてて首が気持ちいいなー。

  ………………………そういやさっきのタオルまだ冷たかったな。…………………………また寝らんで看てくれたんやな…………………………。

  …………………………あ、そういえば速人はん朝の挨拶しとらんな…………………………て、うちもしとらんか…………………………。し忘れってことは無いやろからうちが余計な事言わんでいいように気い遣ってくれたんやろな…………………………)

  はやてがそんな事を思っている間に枕交換は終了し、はやては再び寝かされた。

「朝食を用意するが要望はあるか?」

「…………………………特にあらへん」

「了解した。30分以内に調理を終えて配膳する予定だ。

  病状の悪化や手洗いに行く等の際は、枕元のボタンを押すようにしてくれ」

  速人はノートパソコンから伸びたナースコールとも言えるボタンを指し示した。

  はやては相変わらず大げさだと思いながらも頷き、それを確認した速人は朝食を作る為に退室した。

 

  部屋に一人になったはやては寝ながらぼんやりと考えた。

(……………………………………………………結局治らんかったな……………………………………………………)

  ぼんやりとカレンダーを見ながらさらに思い耽る

(…………………………大分前から楽しみしとったのに…………………………。絶対喜んでもらおうて色んな本読んで勉強したのにな…………………………………………………)

  はやては楽しみにしていた日付から力無く視線を外し、天井を見やりながら風邪を引く前日の事を思い出した。

 

 

 

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「しっかし意外やったな〜。てっきり速人はんはスウィートチョコとかミルクチョコは嫌いやと思っとったんやけどな〜」

「高カロリーで携帯し易いのでそれを選択しただけだ。

  なお出逢った日に軟水が好みなのでよく飲むと言ったが、この場合の好みとは望むという意味合いで嗜好的な意味合いではない。またその時の好みという言葉には、純水に近い水ほど不純物が少なく毒物や細菌が溶けている可能性が少なく安全性が高い為、という意味合いで使用した」

「む〜〜〜ぅ、てっきり食べ物の好き嫌いとかはあると思っとったんやけどな〜」

「俺が自身に好き嫌いという言葉を使用する時は、好きという言葉は【思う儘にする事】を指し、嫌いという言葉は【区別】の意味で使用する。

  何かに心を引かれると言う意味合いでの好き、またその対の意味合いでの嫌いという言葉は、俺は自身に対して使用したことは無い」

「…………………………普通食べもんにくらい好き嫌いはあると思うんやけどなー。……………第一速人はんは味覚も料理の腕も凄いのに、何で好き嫌い無いんやろ……………」

「味覚や嗅覚は対象の成分を分析する為に、調理技術は多種の目的を達する一手段として獲得した。

  俺の味覚及び嗅覚並びに調理技術は安全に多種の成分を摂取する為と発熱効果や殺菌作用等の副次効果や他者毒殺等を目的とはしても、自身の味覚及び嗅覚を刺戟して快楽を得る為のモノではない」

  平日午前の店内は幸い人が少なく店内BGMのおかげもあり、速人の危険な発言ははやて以外に聞かれることはなかった。

「…………………………めっちゃ速人はんらしい理由やけど、食べもんの好き嫌いが無い理由にはなっとらん気がするんやけど?」

「好き嫌いが無い理由は、自覚していないか感じていないか、若しくは片方だけを感じていて比較不能状態のどれかだと判断している」

「あ〜〜〜、ごめん。なんか解るんやけど、いまいち分からんわ」

「異なる感性や感覚の者を理解・実感・納得することは困難な場合が多い。

  実感や納得が出来ぬからと謝罪する必要は無い」

  普通の少年少女の会話とかけ離れた会話をしながらはやての指差す方に速人ははやてを乗せた車椅子を押しながら移動していた。

「まぁそうかもしれへんけど、速人はんはうちをよく見て理解してくれとるからうちもそれに応えたいんよ…………………」

「俺ははやてを理解していない。

  理解とは対象に関するあらゆる情報を誤差無く保有している状態を指す。もしくはその情報を基に別の要素をかけ合わせて式を構築し、解を計算できる事を指す。

  理解している者と交流する理由は利用価値があるからだが、はやてを理解した時に利用価値が残っているとは考え難く、はやての傍に居るという事は理解していない事の証明と判断して構わない」

  はっきりと理解不能だが利用価値があるから傍に居ると明言する速人。

  気遣いや思い遣り等は微塵も籠めずに、ただ淡々と自分の考えを述べる。

「あ、あはははは……………………ホントにズバズバ包み隠さずきっついこと言うなー……………………。

  ………………………………………………………………なぁ速人はん、…………………………………………もしうちを理解したら……………………やっぱどっか別なトコ行ってまうんか?」

  捨てられる恐怖に怯えながらの問いかけにいつも通り淡々と返す速人。

「現段階ではそうするつもりだ」

  またもや全く気遣いや思い遣り等を微塵も籠めずに自分の考えを述べる速人。

  その言葉を聞いたはやてが泣きだしそうなほど落ち込んでいたが、それを無視するように速人は更に言葉を続けた。

「それとはやては俺だけでなくはやて自身も現関係を終了させられるというのを失念しているようなので、改めて留意した方がいいだろう。

  第一出逢いだけで得られるほど俺とはやての求めたモノは易くは無いだろう。

  俺は自身の思考体系若しくは行動原理等が当時では不都合と判断される変化が起こる可能性があり、はやては俺がはやてを理解しきる前に俺がはやての傍に居るように変化させていなければ離れる可能性がある。

  はやてほどの年齢の者ならば現状の幸福感で自らの立ち居地を失念する者が多いが、俺もはやても誰かの保護下という訳では無いので、自らの立ち居地を認識して現状を把握して先を考えることを怠らぬようにするべきだろう」

  相変わらず正論ながらも優しくない物言いで構成されているが、家族ならば欠点を指摘して矯正を促すという一般的な感覚に照らし合わせた気遣いと呼べるか微妙な気遣いの下に速人はその言葉を述べた。

  そしてその気遣いとも呼べない気遣いを感じ取ったからなのか、それとも速人の言葉に思う所が在ったのかは定かではないが、はやては周囲の人の流れがある程度変化するほどの間黙り込み、そして何かの結論に達したのか車椅子を反転させて速人に向き直って話し出した。

「うん………………………………………………………………速人はんの言う通りや…………………………。

  ただ出逢っただけで手に入るような安易なモンをうちは求めた憶えは無い。

  ………………………………………出逢いで得られるのはきっかけだけ。…………………………………………あとはうちの頑張り次第や。

  ……………………うん、絶対速人はんが離れてかんように頑張るで!」

  決意に満ちた意気込みを語るはやて。

  そしてその言葉は確りと速人と近場に居た店員と客に届いた。

 

  ・・・・・・・・・・

 

「えっと…………………………………………」

  不意に自分と速人…………………………どちらかと言えば自分に集まる視線に気付き、はやては現状を鑑みた。

(ええと、今うち達は現在チョコの材料売り場。

  今日は平日でうちも速人はんも子供やけど、結構ここには来とるから補導される心配は無し。

  速人はんはセミロングの髪なんで一見女の子に見えるけど服装的に十分男の子に見えるし、うちは当然女の子に見えるはず。

  ここのコーナーの上には【2月14日、チョコに愛を籠める日】の釣り看板。

  うんでさっきまで速人はんここで話して…………………………)

  はやてが改めて会話の内容を振り返ると、場所が場所なだけに子供ながらに愛の告白と思われてもしょうがない台詞だと気付き、その瞬間自分達に向けられる視線が好奇のモノだと解り、瞬間的に顔が紅くなる。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜*§♪♭‡†¶¥〆々¢$℃☆★◎※〒∀∂≡∬!!!!!!」

  恥ずかしさで混乱しながら全力で車椅子を漕ぎ出すはやて。

  当然速人と向き合っていたので速人に突撃という事になったが、速人は車椅子の肘掛に両手を乗せて逆立ちするように飛び上がり、はやてと顔が衝突する前に肘掛に乗せた手を離して空中で縦と横に半回転してはやてと衝突することを回避し、はやての方を向く様に着地した。

  曲芸じみた回避の仕方に店員や客の感嘆の声を浴びながら速人は50mを6秒切る速さで混乱しながら移動しているはやてを追走した。

 

 

 

                                   

 

 

 

 

  あの後勘違いかどうか微妙な視線に晒されて暴走したはやてを止める為に速人は直ぐに後を追ったのだが、車椅子の取っ手を掴んで止めれば慣性の法則ではやてが投げ出されてしまう速さの為、はやてが正気に戻るのを待とうかと思った。が、階段の方に全く減速せずに向かっている為、直ぐに壁に正面衝突か階段から転落すると判断したので左手をはやての膝裏に差し入れて強引に車椅子から抜き取るように抱き上げ、回避不可能な程に間近に在る踊り場の壁は右手で車椅子を持ち上げて壁に車輪から着くようにして衝撃を和らげ、速人は片足を壁に蹴りつける様に叩きつけて慣性を吸収して衝突を回避した。

  それから直ぐに車椅子にはやては座らせられたのだが、片腕お姫様抱っこ状態で壁を挟んで速人に覆い被さられるような感じだったのとその一部始終を先程の店員と客に見られた羞恥心から踊り場に有るトイレに暴走しない程度に駆け込んで暫くの間パニックになっていた。

  そしてはやてのパニックが治まるまでの間、トイレの外にはやての意味不明の念仏の様な声が聞こえていたが、速人は特に気にせずに遅まきながら危機を実感したのと男性の接触に耐性が無いのとその現場を衆人環視に見られた羞恥心から来る混乱と結論付けて黙って待っていた。

  そしてある程度落ち着いてトイレからはやては出てきた。

  はやては羞恥心から店を変えようかとも思ったが、そこまですると全力で肯定しているようなので渋々この店での買い物に戻った。

 

「う〜〜〜〜、あの眼は絶対に誤解しとる眼や〜〜〜〜〜〜」

  ニヤニヤとニタニタと微笑みと失笑の入り混じった店員の視線を浴びながら、はやては顔を真っ赤にしながら呻いた。

「許容し難いならば誤解された情報を他者に伝達できぬようするが、どうする?」

「…………いや、そこまでするほどじゃないから遠慮しとくわ…………」

「了解した」

  何気無い会話だが、もしはやてがうっかり頼んでしまえば急遽何名か行方不明者が出ていたところだった。

  密かに速人の魔の手から幾人かの命を救ったことを当然知らぬまま、はやてはとりあえず店員の視線を無視しながら買い物に専念する事にした。

「うん、人の噂も七十五日と謂うし、気にせんようにしながら買い物再開や!」

「了解した」

「よっし、それじゃあ改めて聞くけど速人はんはどんなチョコ食べたいん?遠慮せずにガンガン注文してや!」

  本当は内緒で作ってプレゼントしたかったが、一緒に暮らしていて速人の目を盗んで作成するのはほぼ不可能に近いことをはやては理解していたし、かといって暫く家を出てろと言えば勘違いして二度と戻って来こなさそうなので、それならば速人の好みを聞いて要望に沿った物を作ろうという結論に落ち着いた。

「水を必要とせずに咀嚼せず飲み込める大きさで、栄養価が高く長期間保存可能で、体温や外気温による変形が無い物だ」

「うん、大方そんなこと言うやろ〜な〜って思っとったから、そこら辺はきちんと考慮しとる。

  うちが聞いとるのは味とか香りとか舌触りとかや。

  本当は形もそんな非常食みたいなヤツ以外のを言ってほしいんやけど、速人はんの為のチョコで速人はんの意見を無視するわけにはいかんしな」

  質実剛健主義と言うより単に悦楽無関心な速人の考えを流石に理解しているはやては、速人の大凡バレンタインデーで貰うチョコのリクエストとは思えないリクエストにも驚かずにサラリと流し、それ以外のリクエストを尋ねる。

「飲む際に無味無臭粘度零。これら全てを満たすか、若しくはそれらに近い物が望ましい。

  尤も養分が十分に有り携帯性に優れているならば特に指定は無い」

「………………文字通り何とも味気無いバレンタインチョコを所望やな……………。

  …………………………そやけど栄養価高くて携帯できて無味無臭で粘つかないって、………………………………………腕の振るい甲斐は有りそうやけど食べ甲斐はまるで無さそうなリクエストやな〜」

「食べ甲斐のある物を作るつもりならば、硬度を高くして咬筋等を鍛えるのを目的とした物を作ればいい」

「うぅ〜〜〜、何かどんどんバレンタインの甘いムードが欠片も無い話になってくなーー」

「日本の恋愛以外の親愛や感謝の意を籠めて贈答するセントバレンタインチョコレートも、家族間には必要無いだろう。

  改めて形として贈るというのは、普段接触頻度や時間が少なくそれらを伝える機会が少ない親しい者が対象と思うが?

  俺とはやては一日の大半を共に過ごしているので、今更形にする必要性は感じられないのだが?」

「あ、速人はん、その考えはNGや。

  女は目に見えない想いだけじゃ不安やから、なんでも形にしたがるんやで?

  そやから男の人にとっては記念日って面倒くさいだけかもしれんけど、女の人にとっては想いを形にできるし形にしてもらえる大切な日なんよ」

「その説明だと多くの女性は概念及び想念重視と言うより物質及び行動重視という解釈になるが、この認識でいいのか?」

  女性の心理を一刀両断で切り捨てるような悪意ゼロの毒台詞を吐く速人。

「……………そう言われると身もふたもないんやけど…………、なんか女がえらく俗物的に聞こえるな……………」

「俗物的だろうとそれは現実的だ。

  概念や想念で全てが満たされるならば、人の世は既に退廃と堕落が蔓延しているだろう」

「?  全てが満たされてるんなら幸せ一杯夢一杯の世界やと思うんやけど?」

「旧約聖書に記載されている退廃の町ソドムとゴモラを考慮すると解り易いだろう。

  全てが満たされたならば意欲は全て失せ発展は止まり自他への理解は不要と成る」

「……………なんか夢を叶えた人が虚脱状態になるのが解った気がする…………………」

  相変わらず子供の会話とは思えない会話をするはやてと速人。

  そして少し沈黙が降りた後、話題を元に戻すべく速人が話しかけた。

「……………はやて、人類学や心理学についての会話も有意義だが、買い物は終了したのか?」

「あっと、そやったそやった」

  再び商品が陳列している棚に目を向けながらはやては言う。

「とりあえず速人はんのリクエスト作ろう思うたら、とにかく栄養価の高い物が必須やけどそれは後回しにして、まずはカカオを買わなな」

  そう言ってとりあえず速人のリクエスト用の材料とそれとは別に速人と食べるチョコレート用の材料を吟味しだすはやて。

  そして幾つかの材料を籠に入れながら思案するはやて。

(速人はんと一緒に食べるチョコの分のカカオやココアバターは特に問題ないんやけど、速人はんのリクエストしとる物が難儀やな〜。

  とりあえず飲み込み易い様に大豆より少し大きいぐらいのサイズにして、表面は栄養価の高いチョコを別のチョコで硬くなるよう包んで、表面のチョコは無味無臭に近くせなアカンけど無味は水でもない限り無理やから無臭に近くすることで手を打つとして、問題は栄養価の面やな)

  とりあえず目ぼしい材料を籠に入れ終わり、自分の世界に没頭するはやて。

  一方速人は何時も通りはやての選んだ物が健康を害する添加物の有無や包装が破られた形跡の有無等を調べていた。

(せっかく作るんやから市販品には無い物を作らなな。

  そやから味とか香りとかは別のチョコで包むから全部無視して徹底的に栄養価の高い物を作るんや!)

  料理人と言うより栄養士の思考をしながら更に思考するはやて。

(ええと、栄養価の高い物っていうたら、蜂蜜、牛乳、胡麻、パセリ、鮪の脳、クロレラ、納豆、青汁、ヒアルロン酸、必須アミノ酸)

  片端から栄養価の高そうな物を考えているが、あまり思いつかないのか材料から加工食品に移った挙句最後はただの栄養素を挙げだすはやて。

(……………う〜ん、何かいまいちピンとこんな〜。

  速人はんに聞けば直ぐに答えてくれるんやろけど、プレゼントする相手にプレゼントのアイデアとか作り方聞くわけにはイカンし……………。

  正直蜂蜜以外に栄養価の高そうなモンってあったかな〜)

  思案顔で何とはなしに周囲を見回すと不意にゼリーの材料が目に入り、その瞬間はやては最高の栄養食品を思い出した。

(ああああああああああああ!!!あるやん!!!蜂蜜は蜂蜜でも最高の蜂蜜のロイヤルゼリーが!!!

  たしかテレビでこれ以上栄養価のある食材は無い言うてたし間違いないやろ!!!)

  最高の食材に思い至り問題は解決したかに思えたが、直ぐに現実的な問題に直面する。

(って、ロイヤルゼリーってたしかスプーン一杯で20〜30万円するはずやなかったっけ?

  しかも穴の底にある純度の高いのは表面の物の10倍以上の値段だったはず…………………………)

  品質と純度次第では同質量の黄金や麻薬より高いのを思い出し一気に消沈するはやて。

(あかん…………………………いくらなんでも高すぎや…………………………。米粒くらいのチョコ作るだけで1万円はするわ…………………………。

  いや、やけどお金ならあるからそれくらい買うのはできる筈やけど…………………………速人はんに無駄遣いするなと言うたのにうちがするわけにはイカンし…………………………。そやけど速人はんの為にするのが無駄遣いとは思いと無いし…………………………)

  どうしたものかとはやては暫く思案したが、結局速人が無駄と言わなければ買うことに決めたのだった。

  購入予定品の安全確認も済み、先程以上に周囲の安全確認に余念が無い速人にはやては振り返って尋ねてみた

「なぁ速人はん。…………………………実は速人はんのリクエストのチョコにロイヤルゼリー使お思っとるんやけど…………………………………買ってもいいやろか?」

「その必要は無いだろう」

  相変わらず美少女の上目遣いでのお願い(今回は無自覚)を一切意に介さず即座に拒否する速人。

  しかし続く言葉ははやての悩みの前提を吹き飛ばす、じつに速人らしいものだった。

「既に6日前に医療用食品として高純度の物が配送されている。

  窒素封入未加工状態の物と凍結乾燥した物がそれぞれ200gで30個購入してある」

「ふえ!?

  い、いったい何時の間に買うたんや?」

「16日前、可搬式消化器具や放射線量計測器等を購入する際に購入した。

  和名で王乳と表示されていた物がローヤルゼリーだ」

  言われて2週間と少し前を思い出すはやて。

(たしか庭に造るよう頼んだ簡易核シェルターに常備しとく色々な物頼むついでに、便乗して色々頼んだんやっけ?

  幾つか良う解らん項目が有ったんやけど、てっきり核シェルターの備品かなんかやと思っとった…………………………。

  総合計で4億円近くやけど、耐極地用防護服とかいう宇宙服みたいなヤツとか色々物騒なモンあったから値段に何一つ疑問持たんかったけど、たしかにあの中に紛れとっても不思議は無かね)

  なお簡易核シェルターは周囲にその存在を知られれば非常時に殺到される為、近場の空地から地下道を造り、八神家の敷地内に造るようにした為に高くなってしまったのだった。因みに入口は保管庫に見えるよう出来上がる予定になっており、自動ドアになっていても怪しまれない為の措置であった。(勿論手動でも開閉可能)

  着々と八神家が一般住宅からかけ離れつつある事を実感した会話を思い出したはやては納得顔で返事を返した。

「あぁ、あん時に頼んどったんやな」

「不明瞭な点が無いか明細を提出して、はやてはそれを確認した筈だが失念していたのか?」

「う…………………じ、じつは良う解らんかったんで、速人はんなら無駄な備えとかせんと思うて、大雑把な説明だけ聞いて納得したんで詳しく知らんのや……………………」

「ならば次回からは概要のみを報告し、不審な点があればその際に明細表と共に説明するようにしよう」

「あ〜、せっかくやけどそれも遠慮させてもらうわ。

  正直速人はんがする何かの備ええはほとんど解らんし、研究についてはサッパリ解らん。そやけどなにより速人はんはウソの報告なんかせんから、備えと研究についてはウチ達の家………………八神家をいじくる時以外は特に報告はいらんよ」

「了解した」

「ごめんな速人はん。せっかく速人はんが説明してくれたのに解らんで話進めとって…………」

「はやてが理解できるように報告せず、また明細を把握していない事を理解していなかった俺にも非が在る。

  互いに至らなかったのならば謝罪する必要は無い」

「…………………………その辺の話を突っ込むと長くなりそうやからそれは後で話すってことでとりあえず納得しとくわ」

  他者のせいにしないというより単に他者の能力や人格を全く当てにしていない速人の考え方にはやては意見を言いたかったが、周囲に人の目のあるところで速人の欠点(とはやてが思っている)を指摘して注目されるのは望むことでは無いので、とりあえず保留する事にした。

「ん、それじゃあ家にロイヤルゼリーも有るって解ったし、あとは日用品とか見て回ってから帰ろか?」

「了解した」

  相変わらず何時も通り淡々とした速人の声で若干重く暗くなりかけていた話は終わり、はやては気を取り直して楽しく買い物再開した。

  そうして二人はとりあえず籠に入れている物を清算する為にニヤニヤに近いニコニコとした笑顔の店員が居るレジへと向かって行った。

 

 

 

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(…………………………あの後栄養学の本も買って、加熱したり食材の組み合わせで栄養が無くならんようにと勉強もしたのにな………………………………………)

  ただその際に夜更かししてしまい、外出ではやて本人が気付いていないが消耗していた為風邪に罹ってしまい現在に至っている。

(…………………………………………うちが寝とる時に寝ずに看病してくれたり、寝る時に手繋いでくれたりしてくれるんはすごくすごく嬉しいんやけど………………………………………なんでよりによって今なんやろな………………………………)

  速人ははやての体調が崩れた初日に採血した血液を医療センターに即配送して感染症の有無を確認したり、八神家の全ての物品を消毒したり、はやての部屋のエアコンを文字通り加湿・除湿・浄化・暖房・冷房の機能を搭載した正真正銘のエアコンを取り付けたりと、支払った金銭も相当の額だが速人の気の払い方も相当のモノだった。

  エアコンの取り付けや八神家の敷地内の全物品の消毒、洗濯や炊事、一日1回のベッドメイキング等、病症時に見知らぬ者が居ると心労すると判断した速人は全て一人でしていた。

  それと病状が酷く寝汗も相当な量を掻いてた時、清拭をしようとはやての寝巻きの上を肌蹴た時にはやてが目覚め、はやてが自分の胸元が肌蹴ていて速人が覆い被さるように近くに在る事を知った瞬間に声に成らない息を吐き出す様な絶叫を上げて気絶するという事件が起きた。(その後気絶から覚めたはやては速人が下心ゼロのなのが十分解っていた為怒りはしなかったが、【乙女の柔肌をみだりに見んように!】と2時間近くかけて話し、何とかほんの少しだけ速人に緊急時での妥協を取り付けた。が、これが原因で更に病状が悪化したのだった)

(……………………知らん人がおったらうちが緊張する思て、気い遣って速人はんが色々骨折ってくれたんがホント嬉しかったわ………………………)

  少々常識が欠落した看護だが、過保護とも言える手厚い看護がはやては涙ぐむほど嬉しかった。

(そやから(はよ)元気になって…………………………………日頃と看病してくれた感謝の気持ちをたくさんたくさん籠めたチョコ贈りたかったんやけど………………………………)

  力無く両の拳を握り締め、これ以上無い程悔しそうに心中で呟く。

(…………………………………なんで…………………………………ほんとになんでよりによって今風邪になるんや…………………………………………………………………)

  肝心な時に寝込んでいる自分の体が情けなくて、……………人より少しだけ体力が無いせいで風邪を拗らせているのが悔しくて、…………………………なにより速人に一緒に楽しく過ごして貰いたかった今日が台無しになった事が悲しくて、………………………………………呆と天井を見ていた視界がどんどん歪んでいった。

  泣き出しそうになる寸前にはやては寝巻きの袖で乱暴に目元を拭い、陰気を振り払うように頭を振った。

(あかんあかん。病気のせいでちょっと情緒不安定やな。

  速人はんが一生懸命看病してくれとんのに、落ち込んどったら失礼やん)

  何が失礼なのか本人も良く解っていなかったが、兎に角際限無く落ち込む事に何とか歯止めをし、再び横になろうとしたときに扉がノックされた。

「はやて、食事を用意した。入っても構わないか?」

  看病したての頃に比べ随分と柔らかくなった速人の言葉が扉の向こうからはやての耳に届いた。(看病したての頃は「入室の是非を問う」等、事務的と言うより軍人口調だったがはやての頼みでかなり緩和された)

「あ、構わんよ」

  はやての言葉の後直ぐに扉が開かれ、はやてと自分の分の食事を持った速人が部屋に入ってきた。(はやてが一緒に食べたいと言っている為、病人食のはやてと速人の料理は違うが一緒に食べる事にしている)

  速人が慣れた手付きではやて用にベッドの上に食事用の机を設置し、はやてはそこに並べられた料理を眺める。

(フカヒレやツバメの巣や朝鮮人参や冬中夏草とか、とにかく栄養のあるモンを食欲が無くても食べやすく作ってくれるんは本当にありがたいし嬉しいんやけど…………………………うちのご飯は下ごしらえで凄く時間取るし、速人はんのご飯がうちの料理の余りモンでできてるんもホント心苦しいな……………………)

  基本的に速人の食べる料理ははやてに使った食材の余りや一食前の残りを使用し、足りない栄養分は適当に食材を追加して補い、味を全く考慮しない酷い物が出来上がっている。特に初日は一人で食事するつもりだったのとあまり時間が無かったので全てミキサーで粉砕攪拌し、出来上がった物は人の吐瀉物の様な気持ち悪い物だった。

  一応一緒に食べる際に臭いや見た目ではやてが不快にならないない様に速人の料理もある程度マシには成っていたが、不透明な汁物の中に具材を隠す程度の処置で、殆ど闇鍋状態である。

(…………………………基本的に病気でずっと寝っぱなしのうちと、健康で色々動きまわっとる速人はんの食事が同じじゃないのは解るんやけど……………………………………速人はん自分の食事は手え抜き過ぎや…………………………。いや……………………速人はんとしては味付けはほんとにどうでもいいんやろな…………………。

  ただ……………………そのどうでもいいことをうちの為に態々してくれるんは…………………ほんとに嬉しいなぁ……………………)

  と、そんな事を思いながら目の前の料理を見ていたはやてだが、不意に二つ飲み物がある事に気付いた。

  見た目はコーヒーのようで匂いもなんとなく少し似ている気がするが、いまいち何なのか解らないはやてに速人から説明があった。

「それはカカオマスを粉末にして湯で溶き味付けした物だ。ホットチョコレートの様な物と認識すればいい。

  ただポリフェノールとテオプロミン摂取が目的の為、ココアバターを使用していないのでチョコレートの規格には含まれない為ホットチョコレートと言う呼称は正確ではない」

「……………………カカオを使えばチョコレートなんとちゃうんか?」

「チョコレート生地そのものか、若しくはチョコレート生地60%以上のチョコレート加工品をチョコレートと呼ぶ。

  尚、チョコレート生地は6種類あるが全種類共通で一定比率以上のカカオ分とココアバターの使用・水分3%以下、これらが共通項目だ。

  詳しく比率を述べると長くなり心労の原因となる可能性が高いので省略するが、カカオ分とココアバターを一定比率以上の使用と水分3%以下でなければ6種類ある全てのチョコレート生地の条件に当て嵌まらず、必然的にチョコレートとは呼べなくなる」

  それを聞き肩を落としながら残念そうにはやては呟く。

「ははは……………………チョコレートは贈れんかったけど、逆にチョコレート贈ってもらえたかと思たんやけどな……………………」

  バレンタインデーの話の最中、速人が日本以外では男女どちらからでも贈り物をすると言っていたのをはやては憶えていたので、ホットチョコレートと聞いててっきり速人からのバレンタインチョコかと喜んだだけにチョコレートでないと知った時酷く落胆した。

  と、その時完全にはやての予想外の言葉が速人から掛けられた。

「先日からバレンタインデーに俺とチョコレートを食べたいといっていたので少量だが作ってある」

  そう言って湯銭にかかったチョコレートをはやてに見せる速人。

「先程のホットチョコレートもどきに入れて味を調整して飲むといい」

「…………………………………………………」

  はやての想いに気付かず、渡されたチョコレートは湯煎され蜂蜜のような粘性の高い液状で、しかも飲み物に入れる砂糖や牛乳といった調味料代わりという大凡バレンタインデーを楽しみにしていた者に対する対応とは思えない状況にも拘らず、はやては笑っていた。

(なんか全然バレンタインの雰囲気やないけど………………………………………少なくともうちの為に態々作ってくれたんよね。

  病人食考えて作るだけでも大変やろに、チョコレートのことまで考えて作ってくれたんや、めっちゃ大変やったろな……………………)

  実際速人は5分と考えていなかったが、通常の病人食が3秒以内に決まることを考えれば一応ははやての思っている通り悩んだ事になる。

「ふふ………………………………………………チョコは贈れんかったけど………………………………………速人はんがうちを想ってチョコ作ってくれたんや…………………………今それ以上望むとバチが当たりそうやな。

  ………………………………………うん、ほんと嬉しいし、これで十分やわ」

「念の為に言っておくが、そのチョコレートには想いは微塵も篭めていない。

  好意や愛情は理解不能で恐らく持ち合わせていないので籠めようがなく、感謝は日常の折々でしているのでこのチョコレートに改めて籠める感謝は無い」

「ふふふふふ。大丈夫やって。なんも想わずに態々面倒な事なんて誰もせんよ。特にそれが何のプラスにもならんかったらなおさらや」

「俺の行動に何を見出しているかは解らないが、はやてがそう思っているならば事実は兎も角それははやての真実なのだろう。ならば特に問題があるように思えないので、問題になるその時まで否定したりする気は俺には無い」

「うん。とにかく自分で否定してしまったら、自分には無いって思い込んでせっかくの芽が潰れてしもうからな。

  在るって思わんでもいいから、まずは無いて思わんようにしよや」

「確かに一度も自身に在ると実感した事が無いモノを無いと結論付ける事は、発生若しくは存在していた時に自覚及び実感が困難になる。

  以後改めるようにしよう。指摘感謝する」

  頭も視線も全く下げず、何時も通りの表情が欠落した容貌で淡々と礼を言う速人。

「ふふっ……………………チョコ贈って喜んでもらういうんは出来んかったけど、速人はんからチョコ貰えたし感謝もされた。おまけに付きっきりで手厚い看病までされてるんや。これで不満なんて言うたらバチが当ってまう。

  それに……………………喜んでもらうんはべつに今日やのうてもいつでもできるんや。

  …………………………うん、元気になったら一日といわずに毎日速人はんが楽しめるように連日全力投球や!」

  気合を込めて意気込むはやてに速人は即冷静に指摘する。

「5日もせずに消耗して静養が必要となると思われるので自粛するよう薦める」

「大丈夫や!もし倒れても速人はんがまた看病してくれるんやろ?

  そやからそれが治ったらまた連日全力投球の繰り返しや!」

「看病はするが倒れるまで自身の身体に負担をかけ続けると言うならば、睡眠薬を使用して強制的に静養させるか拘束して静養させるかのどちらかを採るつもりだ」

  速人のぶっ飛んだ発言に驚かずに考え込むはやて。

(ええと、睡眠薬で眠らされたら起きるまで放置やろうけど、拘束されたらご飯はもしかして「あ〜ん」か!?)

  嬉しさと恥ずかしさで顔がにやけるはやて。

(うあ〜〜〜〜!恥ずかしいやんか!もー!

  って………………………………………………あれ?でも食べたんなら当然…………………………………………………)

  当然排泄もあるわけで、その事に考えが至ったはやてはあっという間に真っ赤になった。

(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!

  あかん、絶対にあかん!間違い無く下の世話までされる!!下手したら裸だけやのうて、出した物まで念入りに調べられてまう!!!

  つうか速人はんに下心が在ろうと無かろうと男の人にそんな事されてもうたらお嫁にいけへん!!!)

  自分が下の世話をされているところを想像しかけたはやては、その想像を頭を振ることで急いで散らした。

  そして若干荒い息を吐きながら不承不承はやては速人の忠告に従うことにした。

「…………………………解った。速人はんの言う通り自粛する事にする。

  そやけど!体は全力とはいかんでも、心は何時でも全力投球や!!」

「心労にならない範囲ならば特に異論は無い。

  あとそろそろ食べ始めなければ料理が冷めるので、会話を終え食事にすることを勧める」

「と、そやったそやった。せっかくの料理が冷めてまうな。

  それじゃあいただきます」

「いただきます」

  はやてに徹底的に起床と食事と就寝と出立と帰宅の挨拶について説かれた為、挨拶は基本的にはやて限定だが速人はするようになっていた。

  そしてはやては速人が挨拶をする度に、自分一人の挨拶だけじゃなく他の者の挨拶もある、そんな些細な事が長い間一人で暮らしてきたはやてには嬉しいのか、挨拶の度に嬉しそうに微笑む。

  そして微笑みながら真っ先に食べるべく手を伸ばしたのはホットチョコレートもどきだった。

  相当苦いというのを覚悟しながら少しだけ口に含むと、舌が縮むような感じがするほど苦かった。

「苦っ!つうか痺れるっ!」

「チョコレートなどで味付けをしなければかなり苦い。

  湯煎されたチョコレートで味を付けるならば、蓮華2杯を目安に入れるといいだろう」

「うー、了解や〜」

  相変わらず淡々とした喋り方で説明する速人にはやては苦さで涙ぐみながら返事をし、湯煎されたチョコレートを受け取るはやて。

  そして口直しに蓮華にすくったチョコを少し口に含むはやて。

「!?!?!?甘っ!苦っ!!つうかクドっ!!!」

「そのチョコレートはホットチョコレートもどきを味付けする調味料として作成したので、日本では一般的にそのまま飲食する類の物ではないぞ」

「あう〜〜〜。そういう事は早めに言ってや〜」

「特に害が無いと判断したので静観していたのだが、今度からは未知の体験をする時は無害でも一言忠告しよう」

「そうしてや〜。

  う〜〜〜ぅ、まだ舌がおかしな感じや」

  はやては口直しに緑茶を飲んで一息吐き、言われた通り蓮華のチョコを2杯ホットチョコレートもどきに入れて掻き混ぜる。

  そして十分に掻き混ぜたチョコレートドリンクは匂いだけなら先程のホットチョコレートもどきやチョコレートの時と同じく良い香りがした。

(う〜ん、相変わらず匂いだけは良いんよね。

  ただはっきり言って美味しくないというより不味いあの二つ足して出来た物がどんなのか……………………………………………………ちょい恐いな〜)

  恐々しながらも兎に角速人とチョコを食べると決めたはやてはゆっくりとチョコレートドリンクを口に近づけた。ちなみに食事の事ははやての頭からはすっかり抜け落ち、対して速人は一人黙々と闇鍋状態の汁物を食べていた。

  意を決するかのよう結構な量を口に含み飲み込むはやて。

「あっつぅ〜〜〜〜〜〜!!!」

  湯気が立ち上り持ち手が熱い程の物だという事を失念して大量に嚥下した為、悶えるほど熱さに苦しむはやて。

  そこに素早く近くの水差しの飲み口を拭いた速人ははやての口に水差しの飲み口を突っ込んだ。

  口の中に流れてくる温い水を一気に嚥下し、何とか一息ついて速人の手から水差しを受け取って食卓の上に置くはやて。

「はふぅ〜〜。あんがとな、速人はん」

「礼を述べるよりもまず落ち着いた方がいいぞ」

「うぅ〜〜、たしかにそうやね。

  ちゅうかさっきからうちグダグダやな……………………」

  そう呟いて暫く深呼吸をしてようやく落ち着きを取り戻すはやて。

  対して速人は常人なら噴出す程不味い闇鍋のような汁物を汁も残さず飲み干し、はやてと同じチョコレートドリンクを作成していた。

「うあ、いつの間にか速人はんが食べ終えとる?」

「落ち着いたのは構わないが、今度は落ち着きすぎだ。

  その湯飲みの飲み物が20℃近く下がる程時間が経過すれば普通は食べ終える」

「あうぅ。と、とにかく今度こそこのチョコドリンクを飲むんや!

  ホントはまずは一口飲んでご飯食べて、その後速人はんと一緒に飲むつもりやったんやけど、グダグダしとる間に予定が狂ってもうた」

「不都合があるならば暫く待つぞ」

「べつにええって。

  さて、それじゃ改めて飲ませてもらうな」

  はやてはそう言って今度は少しだけ口に含んで飲み込む。

「…………………………ほわぁ〜。なんかすっごくほっとする感じやな〜」

「不快にさせずなによりだ」

  見る者の心を癒す様な顔をしながら感想を述べるはやてに、既に一気飲みして空になったチョコレートドリンクのカップを置きながら応える速人。

「って、相変わらず情緒も無く飲み食いするな〜。こんなほっとする優し感じのする飲みモンなんやから、もうちょい味わってもよかと思うんやけどな〜」

「他者が作成した物ならば成分分析の為と時間をかける意義はあるが、予め成分分析や材料比や調理課程等も把握しているならば味わう必要性は感じない」

  速人はただの早食いではなく、一見消化効率が良さそうだが実はあまり消化効率が良くない御粥や茹で卵等は十分咀嚼するが、消化効率の良い豆腐や湯葉等は基本的に丸呑みするのであった。尤もはやてが作った料理でそれをやった為、散々味わう事の必要性を説かれたのではやての料理は基本的に丁寧に咀嚼されている。

  ただ今回は飲み物であるのであまりはやても目くじらたてずに流すことにした。

「まぁ飲みモンやから一気飲みしてもそれはその人の嗜好やから特に文句は言わんけど、出来たらこういう時は味わって飲んでほしいわ」

「特に急を要する事が無ければ要望に沿おう」

「うん、素直で自分の意見も言う良い返事や♪」

  機嫌よくそう言いながらはやては食事に取り掛かった。

 

 

 

  相変わらず栄養価や薬用効果が非常に高い物を効率よく吸収でき尚且つ病人用にかなりあっさり作られており、更に美味しくはやてが食べられる量を考えて作られた完璧とも呼べる病人食を美味しいと感じながらもはやては考え事をしていた。

(チョコは美味しかったし、贈ってくれた事はホントに嬉しい。

  …………………………そやけど……………………………………………………来年も一緒に迎えられるやろか………………………)

  先日目的を果たせば去るとはっきりと告げられた恐怖が、チョコレートを用意されて嬉しさがこみ上げて来た時、同時に僅かだが拭い難い恐怖が胸にある事をはやては自覚した。

(いっそ速人はんの目的が果たされんよう邪魔すれば速人はんは何処にも行かんのやろけど、そんな裏切りは絶対に出来へん…………………………。

  それに………………………………………………速人はんめっちゃ優しいから口ではああ言うても、うちを一人残してどっかに行くなんてあるわけ無い…………………………)

  事実はやては本気でそう思い結論付け、それと同時に恐怖心は霧散した。

  しかしはやて自身も気付かないほど深い所で燻り続ける恐怖心は消えてはいなかった。

 

  速人から贈られたチョコレートに大いに喜び感動したはやてだったが、同時にその時小さな恐怖心が生まれた。

  それははやて本人でも気付かないほど深い所に根ざしていたが、確実にはやての思考と行動に影響していった。

 

 

 

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  幕間二之三話:大きな嬉しさと小さな恐怖のバレンタインデー――――了

 

 


【後書】

 

 

  【作中注意】

 

  ロイヤルゼリーは蜂の巣から採取されるものですが、働き蜂の咽頭線から分泌される物で蜂蜜とは違います。

 

  日本以外のバレンタインデーでは送り主は男女特に区別が無いだけでなく、チョコレートに限らず様々なものを渡します。

  またホワイトデーの風習は殆ど無いそうです。

 

  【作中注意終了】

 

 

  バレンタインネタは外せないが、チョコを贈るバレンタインネタなんて見飽きるほどあちこちにあるので、いっそ逆に贈られる話にするという安易な発想の基出来上がった話がこの話です。

  書いていて守護騎士やアリサが居ないと会話が全然起きず・進まず・弾まない、と、オリキャラながら非常に使い勝手が悪いと痛感しました。

 

 

 

  毎回多くの投稿SSがあるにも拘らず冴えないこのSSを御読み下さり、しかも御感想付きで掲載してくださる管理人様、本当に感謝しています。しかも頻繁な誤字修正版も掲載して頂いて本当に申し訳ありません。

  そしてこのSSを御読み下さっている方、拙い文と誤字が多いにもかかわらず御読み下さり感謝します。




ヴァレンタインネタ〜。
美姫 「ここでもまた速人らしいと言えばらしいわね」
だな。だが、これが何とも言えない。
美姫 「確かにね〜。まだ騎士たちとも出会う前だしね」
うんうん。はやて以外のキャラがいないと使い勝手が悪いとの事だけれど、やっぱりはやてとの絡みが好きだな。
美姫 「勿論、他のキャラとの絡みも良いけれどね」
ああ。はやては速人の考え方を理解して受け入れているからかな?
二人の会話は落ち着いているというか、良い感じ。
美姫 「さて、次はどんなお話になるのかしら」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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