この物語はオリジナル主人公登場の魔法少女リリカルなのはASの二次創作です。

  自分の文才の無さが原因で登場人物の人格及び性格が変わっている可能性もあります。その様な事に耐えられない方は気合を入れられて見るかブラウザの戻るを押される事をお勧めします。

 

 

 

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魔法少女リリカルなのはAS二次創作

【八神の家】

 

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「うめえ〜〜っっ!やっぱはやてのケーキはギガうまだ〜〜っ!」

  満面の笑顔を浮かべながらケーキを食べるヴィータ。いや寧ろ貪ると言う方が近い食べ方だった。

「もう少し落ち着いて食べたらどうだ、ヴィータ」

「ふん、アタシは落ち着いてるぜ。ただ人より食べるのが少し早いだけだ」

  そう言いながら次から次に口にケーキを運ぶヴィータ。

  それを見てヴィータに見えない様に溜息を吐くシグナム。

  そんなシグナムを見ながらはやては喋る。

「ふふ………いいやんかシグナム。作った側としては美味しく食べてもらうのが一番なんよ」

「たしかにそうかもしれませんがアレは些か騎士の本分を忘れている様に見えまして………」

「騎士やなくて家族なんやからって…………言ってもシグナムは納得せんやろから、こういう平和な時は騎士の本分を忘れて家族でおったっていいやんか、って事にしてくれへん?」

「…………ヴィータのあの立ち振る舞いを認めたとしても、私は何時如何なる時も騎士の本分を忘れはしません」

「シグナムは堅いなあ〜。まぁそこがシグナムの良いトコなんやけど」

  言いながら先程自分が作ったケーキを食べるはやて。

  速人が緑茶の効能を重宝している為に大量にある茶葉を使った抹茶ケーキは満足のいく出来であった。

  そして【抹茶】ケーキなので緑茶が合うかと思い緑茶を淹れる達人(とはやてが呼んでいる)に緑茶を淹れてもらった。

「あ、このお茶あんまり苦くないな。口の中がサッパリしてケーキがもっと美味しく感じるぜ」

  ガツガツゴクゴクという擬音が似合いそうな勢いで飲み食いするヴィータ。

「はやて、ケーキまだあるか?」

「ヴィータ用にまだ残してあるから今のと同じ分だけあるで」

「やったぜ!ハヤト、このお茶のお代りだ!」

「無い」

「は?何で無いんだよ?葉っぱなら大量にあるだろ?直ぐに出来るだろ?」

「これは水出し茶といい茶葉を水で淹れる物だ。完成まで約1時間かかる」

「げっ!ならなんで大量に作らなかったんだよ!?」

  はやては台所にヴィータの皿を持って行き、ケーキを乗せながらその会話楽しげに聞いていた。

「2リットルは作った」

「なら何で無くなってんだよ?」

「はやての話を聞く限りケーキが出来上がる前に6分以上をシグナムが飲んだとの事だ」

「……………なんだって?」

  ギヌロという擬音が聞こえてきそうな目付きでシグナム達を睨むヴィータ。

「おいシグナム!お前あたしには落ち着けとか言っときながら自分は先に飲んでやがったのか!?」意地汚いぞ!」

「………どの口がそれを言えるのだ………まぁ先に飲んでいたのは詫びよう。水出し茶と言う聞きなれない物であって興味が湧いてな、主はやてに薦められるまま飲んだのだが普段の緑茶と違いまた美味でな、朝食後・食間・昼食前・昼食時・昼食後と飲み、気付けば半分以上飲んでしまっていた」

「気付けばじゃねえよ!直ぐ気づけ!だいたいシグナム、お前天神は苦手だ〜とか言ってたくせにハヤトの作ったもん何バカスカ飲んでんだよ」

「天神はたしかに苦手だが天神が作った物に非は無い」

「都合の良い理屈言ってんじゃねえ!」

  一触即発になりかけた時に速人が横から声を掛けてきた。

「俺の分を飲むか?」

「…………いらねえ…………ハヤトの分を貰ってまで飲みたいわけじゃねえし」

「解った」

「貰うなら…………そこの一人で半分以上飲んだシグナムからだ!」

  シグナムを睨みつけながら言い放つヴィータ。

「悪い事をしたと思っている。だから私の分のケーキを皆の分に分けてもらっている。水出し茶も私の分を除いて用意してもらったので私の分は何一つ無いぞ」

「まぁあたしもシグナムがあんなにガブガブ飲むなんて思わんかったからな〜。ケーキと一緒に飲むって言っとらんかったし、あたしにも責任あるからあんまりシグナムばっかり責めんどいてやヴィータ」

「…………………まぁはやてがそう言うなら……………」

「うん。それならこれで喧嘩はお終いや。はいヴィータ残りのケーキやで」

「うん。ありがと、はやて。………まぁケーキがあるから良しとすっか………」

「………なぁ速人はん、水出し茶以外にサッパリしてこのケーキに合いそうで直ぐに作れるやつ何かあらへんか?」

「思い当たらない」

  それを聞き食べるのを待っていたヴィータはガクッと頭を垂らす。

「う〜んそれじゃあサッパリしとらんでいいからこのケーキに合いそうなやつ何かあらへんか?」

「乳製品・紅茶・珈琲、大別してこれらが挙げられる」

「あ〜言い方が悪かったわ。ウチ達がまだ飲んだ事が無くてこのケーキに合いそうで、尚且つ今直ぐ作れるやつって………何かある?」

「主観で構わないならある」

「なら何か作ってくれへん?ヴィータ、なにかリクエストあるなら言うといいで」

「じゃあさっきはサッパリしたやつだったから、次は甘いやつだ!」

「他のみんなは何かリクエストあるんか?」

   シグナムは首を振り、騒動に巻き込まれないように離れて食べていたシャマルとザフィーラも首を振る。

「なぁ、はやてはリクエスト無いのか?」

「あたしはこのケーキに合うのを頼んでるから今回は辞退や」

「そっか。それじゃあハヤト、甘くてまだ飲んだこと無くて美味しくてこのケーキに合うやつ頼んだぜ!」

「要望に沿えるよう善処する」

  そう言いながら何時の間にか空になった食器を持ち台所に行く速人。その背に声が掛けられる。

「ハヤト〜、どれくらいかかるんだ」

「700秒以内に完成予定だ」

「700秒って言うと12分か………う〜、なげえ〜なぁ〜。ハヤト〜待ってるから沢山用意してくれよな〜」

「了解した。ヴィータには400CC用意する」

  そう言いながら台所で準備をする速人。

  そこに食器を片付けにはやてが現れた。無言で速人ははやての手から食器を取りシンクに置く。

  はやては何をするでもなく準備する速人を眺めていた。

  そして暫くした後に口を開いた。

「ふふふ、やっぱ速人はんは優しいな〜」

「…………何に対しての発言か特に思い当たる節はないので説明してくれるか?」

「さっきヴィータに自分の水出し茶をやるって言うたやろ。速人はんが自分からあんな事言うなんてウチ驚いたわ。

  速人はんって必要な事以外自分から話しかけへんから」

「必要だと判断したから発言した」

「?べつにヴィータとシグナムが喧嘩しとっても速人はん困らんやろ?」

「あのままだと団欒と調和を乱す可能性が高かった。

  家族がそのような状態になるなら同じ家族がそれを修正する必要があると判断した」

「また難しいというか堅苦しい考え方やな…………」

  苦笑しながらはやてはそう言った。

「俺は判断を誤ったか?」

「ううん、間違ってなんかあらへんよ」

「そうか」

  そんな遣り取りをしながらはやては胸中で溜息を吐いた。

(…………………はぁ、速人はんはこんな優しいのに何でシグナムもシャマルも苦手とか言うんやろ…………)

  皆で暮すようになって暫くしたら速人に対する守護騎士達の意見はそれぞれ違っていた。

  ヴィータは最初こそいびり倒す気満々だったが、自分を子供扱いせず、無遠慮で無愛想だが自分を評価して接し、疑問や要望に軽んじず応え、特にはやてが全面的に信じているのも大きく影響し、ヴィータも速人を気に入り信じる様になっていた。

  ザフィーラは全体を見て決定する速人に何か通じるものがあるのか、速人の行動の意をある程度汲んでいるようで、好意も嫌悪も抱いていないようだが評価し認めている様だった。

  シャマルは淡々と物事を理解・思考・判断・実行をする速人を評価し認めていたが、守護騎士達の参謀役として本来は速人の様な在り方が自身の在るべき姿と思ってしまい、まるで自分の行く末の体現者の様な……………案山子か人形の様な速人が直視できずとにかく避けていた。

  シグナムは当初の通り一切信を置かず存在を認めてもいなかった。ただ速人のはやてに対する安全面や健康面等の進言や実行は評価しており、信を置かず存在を認めてもいないが評価に値し、はやてからの信頼と信用を得る速人に不用意な発言や行為をすればはやてが悲しむ為、シグナムは対応に困り兎に角苦手だった。

  結果速人は守護騎士達3名に認められる事となった。

  はやては速人に対する酷評………主にシグナムに対してどうにかならないか考えていた。

  そしてそんなことを考えている間にどうやら飲み物が出来たようだった。

  速人とはやては一緒に台所を離れ、リビングの席に着いた。

「コーヒーのカイザー・メランジュという飲み物だ」

  それぞれの前に容器を置く速人。

「なんかカッコイイ名前の飲み物だな」

  そういいながら一口飲むヴィータ。

「うめ〜!」

「ホントこれ美味しいわ。速人はんこれどう作るん?なんか牛乳や卵使ってたみたいやけど」

「一般的な調理方は中煎りコーヒー100CC、牛乳30CC、鶏卵黄1個分、グラニュー糖10gを材料とする。

  中煎りコーヒーを作り、鍋に牛乳・鶏卵黄・グラニュー糖を入れ混ぜ合わせる。その後その鍋に中煎りコーヒーを注ぎ、約70度まで加熱し完成だ。

  注意点は加熱しすぎると卵黄が固まる事だ」

「そうなんや。でもあんまり甘くないんやけど?」

「今回は分量通り入れるとケーキと対立すると判断したので、卵黄とグラニュー糖を少なくしコクと甘みを控えめにしてある。

  甘みが足りないのであればそこのスティックグラニュー糖を入れるといいだろう。ヴィータはケーキのクリームを入れればいいだろう」

「おう…………ぐるぐると…………おー、もっと美味くなったぜ!」

「要望に添えたなら何よりだ」

  そういいながら自身もコーヒーを飲む速人。

「シグナム、シャマル、ザフィーラ、これ美味しいか?」

「………美味だと思います」

「はやてちゃんだけでなく男の速人さんにも負けたと思うとショックですけど美味しいです」

≪美味ですが先程の物が好ましいです≫

  三者三様の返事だが美味しいという評価を得た事がはやては自分の事の様に嬉しかった。

「よかったな、速人はん。みんな美味しい言うてくれたで」

「不快にさせる事なく何よりだ」

  一気飲みしたわけでも無いのに何時の間にか飲み終えた速人はテーブルにある幾つかの食器をシンクに置きそのまま自室に去っていった。

(もうちょっと愛想がよければシグナムもシャマルとも打ち解けてくれるんやけどな〜。

  そやけどヴィータが一番速人はんと打ち解けてくれたのは驚きやね。最後まで打ち解けんと思ったんやけど、一番速く打ち解けてくれて何よりや)

  そんなこと思いながらはやてはヴィータと速人が打ち解けていく様を思い返していた。

 

 

 

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  シグナムとヴィータから負わされた傷も完治し、速人は久しぶりにはやてと買い物をしていた。最も依然微塵も溝が埋まっていない守護騎士が速人とはやてだけでの外出を承諾するわけもなく、お目付け役としてザフィーラとヴィータが着く事になった。

  本来はシグナムとヴィータになるはずだったのだが、あまりにギスギスし過ぎた空気にはやてがどちらかザフィーラと代わってくれと言い、はやてと一緒の外出を強くヴィータが望んだ為シグナムがザフィーラと代わる事になった。

  結果何とか子供だけのお買い物+護衛犬、とほのぼのと見えなくもない構図が出来上がった。最もヴィータの敵対視線は最初と変わらないが、大好きな姉に懐く子供の敵意と解釈が可能にはなった。

  最初の構図の時はシグナムの強烈な敵意もあり、はやての足の麻痺の原因が速人にあると勘違いされかねない程両者共に凄まじい敵意を放ち、はやてと速人の距離を強引に開けさせていた。

  そんな事情を毎度の事ながら微塵も気にせずに速人は商店街の中をはやての車椅子を押しながら進んでいた。

「う〜ん速人はんに押してもらうのも久しぶりやな〜。この自分で漕いでる時とあんまり変わらん速度がまた安心できるな〜」

  はやては上機嫌で周りを見ていた。が、それとは対照的にヴィータは不機嫌だった。

(ちくしょー、なんだよこいつ。アタシとはやての楽しい買い物の邪魔しやがって。おまけにはやてを押して喜んでもらってるのに全然表情変えやがらねえし。考えたらイライラしてきたぞ)

  ただでさえ初対面での評価が底辺からだったのだが、今凄まじい勢いで評価の底辺を掘り下げているヴィータだった。

(兎に角コイツをはやての近くに置いてるとイライラする。引き離そう)

  決めたら即実行のヴィータは直ぐにはやてに話しかけた。

「はやて、アタシも押したいけどいいか?」

「大丈夫か?ヴィータだと前見えんと思うんやけど?」

「大丈夫だ!こんなヤツに出来てアタシに出来ねえ事なんてねえ!」

  速人を指差し言い放つヴィータ。

≪主に怪我は負わせるなよ≫

≪うっせえ!そんな事分かってる!!≫

  ザフィーラからの忠告に乱雑に返すヴィータ。

  何かの意思疎通をしている事と会話の内容に見当がついているので特に気にせず速人ははやてに声を掛ける。

「結局ヴィータに代わるのか?それともこのまま俺が押すのか?」

「あ、それじゃあヴィータに代わってや」

「了解した」

「よっしゃ!はやて、どこに行くんだ?火の中にだろうが水の中にだろうが押していくぞ!」

「う〜ん、火の中や水の中に押してかれるのは勘弁やな〜」

「あうっ!」

「ははは、冗談や冗談。それにいざという時は火や水の中をヴィータに押して突っ切ってもらうわ。頼りにしてるで、ヴィータ」

「おう!まかしとけ!」

「うん、まかせたで。で、行き先やけどな、とりあえずそこのスーパーで食材買う予定なんよ」

  そう言って近くのスーパーを指差すはやて。

「そうなのか?なんかコイツがリュック背負ってるから山とかに上るのかと思ったぜ」

「あ、それはお米も買うからなんよ。大量に買った方が安くなるからリュックに入れて運ぶんや」

「ふ〜んそうなのか」

  そんなことを話している間にスーパーに到着した。入口にペット入店お断りとあったのでザフィーラは入口で待機となった。

≪一時だが主は任せたぞ≫

≪任せろ!こいつが妙な真似したら今度こそ叩き潰してやる!≫

  入口前でザフィーラとヴィータが念話で会話し、ヴィータは速人を一瞬睨んだが直ぐに車椅子の横から前を見、店の中へと入っていく。速人は籠を取りヴィータに追随する形で店の中に入った。

  店の中は平日の午前ということもあってあまり人が居なかった。

「速人はんの看病で家にある果物の缶詰殆ど開けてもうたから、まず缶詰から買おか。後から入れると色々潰してまうし」

  はやての言葉に従い缶詰のコーナーへ進む一行。

  そして缶詰のコーナーに到着した。

  そこには時代錯誤のピラミッド型陳列方という完全見た目重視で、安全性も利便性も欠いたものがあった。

「こんな並べ方実際に見たのは初めてやな〜」

「何かすげえ並べ方だな」

  床から2メートル近くまで積み上げられた缶詰ピラミッドを見て呆然と呟くはやてとヴィータ。

「ヴィータ、そのまま進むとその缶詰を積み上げたワゴンにぶつかり倒壊させてしまうぞ」

「うっせえ!分かってる!」

  そういいながら大きく迂回し缶詰コーナーに入りはやてとヴィータは物色し次々に籠に放り込んでいく。

  籠が一つでは足りなさそうなので、入口に戻り籠をもう一つ取ってくる速人。

  通路に置かれた缶詰が大量に入った籠を回収し、缶詰ピラミッド側の通路で方向転換しているはやて達の所に歩いていく。

  が、前がはっきり見えなかった為か缶詰ピラミッドのワゴンに車椅子の前輪を派手にぶつけてしまう。

  ヴィータはしまったという顔をしたが一応安全対策に接着財で接着された缶詰ピラミッドは崩壊する事無く聳えたままだった。

「ビビった〜」

「たしかにこんな山積みされてたら接着するんが普通やね」

  が、次の瞬間山積みされ規定重量を超えた為、ワゴンの滑車部分………車椅子がぶつかった所の滑車が壊れ、ワゴンが傾き一気に缶詰ピラミッドがそのままはやてとヴィータに迫り来る。

(ヤバッ!急いで車椅子を動かして………駄目だ!はやてを放り飛ばしちまう!)

  回避しようと思うと旋回する必要があり、そうするとはやては遠心力で放り飛ばされてしまう為回避は出来ない。飛び上がって缶詰を弾き飛ばそうとしてもバラバラになってはやてに降り注ぐ。盾になろうにもヴィータでは身長が足りない。

  ヴィータが逡巡している間にも缶詰ピラミッドは倒れてきておりあと少しではやてにぶつかるという時、空の籠がはやての頭に被さるように投げつけられた。

  咄嗟にヴィータはそれを少し持ち上げはやてに衝撃が伝わらないようにした。

  直後派手な音を立てながら倒れ、崩れる缶詰ピラミッド。

  全て床に缶詰が落ちた判断したあとヴィータが急いではやてに声を掛ける。

「はやて!大丈夫か!?」

「平気やで。1個もあたしに中らんかったし」

「え?」

  ヴィータははやての顔から視線を外し、身体を見てみた。たしかに缶詰がぶつかった形跡が無かった。

  ヴィータは速人が護ったのかと思ったが速人は店員と話をしていた。

「あの野郎ー、はやてが危険な目に遭ったってのに何店員と話してるんだ!」

  今すぐ殴り掛からんばかりに激昂しているヴィータにはやてが待ったをかける。

「ヴィータ、ちょい待ってや。速人はんはあたしの盾になってくれたんやで?」

「へ?」

「缶詰降り終わってあたしとヴィータが無事やと確認したら直ぐに店員さんの所に行ったんや」

「本当か?」

「本当やって。ヴィータが顔で速人はんがそれ以外を護ってくれたからあたしは全然平気やで」

「…………………」

≪ヴィータ、どうした?襲撃を受けた気配はないが何か不測の事態が起こったか?≫

≪もう危険はねえ…………。後で何があったか話す≫

≪…………解った≫

  ザフィーラからの念話をそっけなく打ち切るヴィータ。

  自分が原因ではやてを危険な目に遭わせ、碌に対処できなかった事に落ち込むヴィータ。

  そして直ぐに速人が店員を連れ戻ってきて、謝罪と説明をされた。

  ディスプレイ用の空き缶を積むはずだったが手違いで商品が詰まれてしまったということだった。

  そしてお詫びに今回の買い物が只になった。

 

 

 

                                  

 

 

 

≪で、説明してくれるか。ヴィータ≫

「分かってるよ」

  不機嫌と言うよりは落ち込んだ感じが強い声色でヴィータは説明しだした。

  あの後ヴィータは速人が運んでいた荷物を自分が持つと言い、速人は荷物を渡し代わりに車椅子を速人が押すことになった。

  一言も発さなくなったヴィータにはやてが気を使うが効果が無く、あまり会話がないまま米屋で白米(ササニシキ)15キロ購入し帰宅した。

  そして帰宅しリビングに買った物を下ろした時にザフィーラから念話で話しかけてきた。リビングにいたシグナムとシャマルは何の事かと話を聞いていた。

  ヴィータが話し終ると当たり前だがシグナムが憤慨した。

「ヴィータ!主を守護するべき立場に在りながら主を危険に晒したばかりか、その原因が自分とは何事だ!」

  シグナムの憤慨は最もなので反論できずに項垂れているヴィータ。

「しかも主を護ったのが殆ど天神だと?情けないにも程があるぞ!」

「ぅぅぅぅぅーーーーーっっ」

  シグナムの言う通りヴィータ自身が原因ではやてを危険な目に遭わせ、その危険からはやてを護ったのは殆どが速人だったのだ。シグナムに言われるまでもなく誰よりもヴィータ自身が情けなさを痛感している。

  だが情けなさを痛感しているところに更にシグナムから追い打ちをかけられ、益々情けなくなってきた。反論しようと思える程弁明が在る訳でないのはヴィータにも解っているので唸ることしか出来ない。

「あんまりヴィータを怒らんといてや。べつに悪気があってやったわけやないし、あたしは怪我も痛い目にも遭っとらんのやし」

「いえこれは譲れません。ヴィータは主を守護する騎士であるにも拘らず自身の所業で主を危険に晒し、更にその危険から自身のみで主を護れなかったのです。

  しかもヴィータが護れなかった大半以上を護ったのは我ら騎士とは違い、主を護る役割も碌な力も無い天神です。騎士の名に泥を塗った者を将たる私は叱責も無しに容認するわけにはいきません」

「そやけどヴィータも十分そこ辺りは解ってるみたいやん。だからこれで終わりにしようや」

「しかし…………」

「1回怒れば十分やんか。何回も同じ事を解っているもんに言うんわ苛めやで?苛めはカッコ悪いで?」

「…………………………」

「それに役割を果たせなかったヴィータを怒るんなら、代わりにそれを果たした速人はんを褒めるなり感謝するなりせなあかんと思うんやけど、シグナムさっきから速人はんに何も言っとらんみたいやけど?」

「うっ……………………」

  たしかにヴィータの不始末を肩代わりしてくれた者に対して感謝の一つも述べないのは将の名折れである。

  シグナムはこれ以上ヴィータを叱責すればそれに見合う分速人に感謝しなければならないことを理解した。今までの叱責は将として必要な叱責であった為、速人に対する感謝も将として必要な感謝で事足りるが、これ以上ヴィータを叱責するとそれほど叱責する事を肩代わりした速人を評価し感謝せざるをえなくなる。

  しばしシグナムは逡巡し、はやての言う通りヴィータは十分己の失態を理解しているので叱責を止めることにした。

「天神、ヴィータの代わりに主はやての身を護ってくれたことに感謝する」

  表情にも声にも嫌悪感はないのだが、凄まじい嫌悪の果てにその言葉をシグナムが述べたのはシグナムを纏う雰囲気から丸解りだった。

  それを先程から購入した物を直していた速人はシグナムを見る事無く告げる。

「不快な言葉なら態々吐かなくても構わない」

  場が纏まりそうだったのを態々引っ掻き回す発言をする速人。

「………将として必要な事だ。言わないわけにはいかん」

「独り言がしたいなら虚空にでも向かってしていてくれ。無駄な独り言に付き合うつもりは無い」

  シグナムの言い分を独り言と斬って捨てる速人。

「お前は騎士の誇りを侮辱する気か?」

  静かに殺意を籠めて言うシグナム。

「俺は先までに掛けられた言葉の中で騎士の誇りに通じる言葉が有ったと思っていない。よって侮辱などしていない」

「そこに直れ、恐怖も痛みも感じる間も無く死なせてやろう」

「恐怖も感じないのであれば断る」

  凄まじい殺気を撒き散らすシグナムに対し、米櫃に米を移しながら何時も通り応える速人。

  今にも斬りかかりそうだったシグナムの手を握り静止するはやて。

「落ち着いてやシグナム」

「主はやて、私は十分落ち着いています」

  そう言いながら剣の柄を握ったと思ったら刀身が突如具現化し炎を纏った。

「ちょっとまってやシグナム、何するつもりなん!?」

「騎士の誇りを侮辱した者に報いを与えるだけです」

「とにかく落ち着いてや。まず速人はんと話し合おうや。あと剣で攻撃するんは駄目やで。喧嘩じゃなくて殺し合いになってまう。家族で殺し合いなんて馬鹿な真似、あたしは絶対に許さんから」

  はやてに強く言われシグナムは剣を消し、速人に話しかけた。

「天神、お前は先程私の言に騎士の誇りを感じないと言ったが、何故感じない?」

  買った物の収納を中断しシグナムに向き直る速人。

「騎士の名誉………誇りは忠誠と認知しているが、先程の言にそれは感じられなかったからだ」

「………………………………………………………………………………………何故私の言に忠誠がないと思う」

  激昂するのを辛うじて堪えて速人に問うシグナム。

「忠義の騎士ならば主が危機に遭った事後報告を平時に受けた時、最初に出るべき言葉は主を気遣うものだと思うが?」

「っ!?」

「危機が去り、即座に主を気遣ったヴィータを忠義の騎士とは認知しているが、主への気遣いより先に叱責の言葉が出、今に至るまで主を気遣う発言が無い者の言の何処に忠誠を感じられる要素がある?」

  言い訳不能な理由を示され意気消沈するシグナム。

  その落ち込み様は先のヴィータより酷い。

「あ、あんな、シグナム。あたしは元気ピンピンやったから気遣いの言葉が出なくても気にすることないで?」

「いえ、天神の言う通りです。主の容態に関わらず出るべき第一声は気遣いの言葉だったのは間違いありません。それをしなかった私は不忠義者と言われても反論できません」

  シグナムの様に言葉にこそ出さなかったが最初に感じたのがヴィータに対しての憤りであったザフィーラとシャマルも深い自責の念に襲われていた。

  そしてヴィータは速人の言葉に驚いていた。

(…………あの一瞬でそこまで見てたのかよ…………)

  普通なら主を危機に晒したヴィータは罵倒されても文句が言える立場ではないのだが、速人は罵倒するどころかヴィータを評価していた

  そしてヴィータは不思議に思い速人に声を掛けた。

「おい、はやてを危険に晒したアタシに何も文句は無いのか?」

  何時もの元気さは鳴りを潜めた声でヴィータは問いかけた。

「自身の失敗を直ぐに認め、原因を理解しそれに即対処した者に何を言えと?」

「……………原因はアタシだろ?」

「原因の所在は各々が決める。ヴィータは原因を己が所業に有ると判断した。俺は原因を危険と知りつつヴィータとの交代に了承したはやて、前方確認が疎かになると知りつつ交代した俺自身、前方確認が疎かになるのを理解して交代を望み結果ワゴンに車椅子をぶつけたヴィータ、中身の詰まった缶詰をピラミッド型に積み上げた店、それぞれにあると判断している。

  原因の一つである俺が、己が原因を理解しそれに即対処した者に何を言えと?」

  速人はヴィータを庇うでもなく馬鹿にするでもなく、ただ自身の考えを述べる。

  そして速人の言葉を受け、はやてが纏める。

「うん、あたしにも原因があるんやからみんなして落ち込まんでええって。悪いと思うとこは次に活かせる様にすればいいやんか。な?」

「おう。次は出来ない事やってはやてを危険に晒すなんてしねえ!」

「了解だ。以後予測される危険性を事前に知らせるよう心がける」

  ヴィータと速人は即返事をする。

≪主を蔑ろにした失態は二度と晒しはしない≫

「私も主を蔑ろにする真似を二度としません」

  少し遅れてザフィーラとシャマルが返事をした。

  しかしシグナムは今だ思うところがあるのか沈黙したままだった。

「ほら、シグナムも立ち直ってや。あたしは全然気にしとらんから」

「はい。御気を使わせてしまい申し訳ありません。先程の様な不忠な言動と行動を二度としないことをここに誓います」

  片膝を突き、頭を下げてそう言う。

「あああ、だからそんな畏まらんでいいってシグナム。」

  はやてがそう言っても今だ片膝を突き、頭を下げるシグナム。

  はやては助けを求めるように周囲を見たがヴィータとシャマルとザフィーラは掛けるべき言葉が見つからず困り顔。そして何時も通り無愛想で立つ速人に白羽の矢が立ち、目でシグナムを如何にかしてくれと合図を送るはやて。

  それを見ていたヴィータとザフィーラとシャマルは只管に嫌な予感がしていたが、はやての意を受けている速人を安易に止めるわけにはいかず見守ることにした。

「忠義の騎士は主が主の本分を以って下した裁定に反論も反抗もしない。先程から騎士の誇りと言い主を蔑ろにしていたが、この期に及んでまだ蔑ろにする気か?

  容姿・言動・行動、これらこそ幼さを感じさせるが理解・思考・対処と優れたヴィータとは雲泥の差だ」

  本人は立ち直らせるつもりなのだろうが、傷口に塩を塗りこみまくる発言をする速人。

「失態を悔いたければ幾らでも悔いても構わないが、家族の調和と団欒を乱されるわけにはいかない。よって今後そういう事は自室で気付かれぬよう一人で簡潔且つ密やかに悔いるがいい」

  塩を塗りこむどころか止めを刺すような発言を淡々と言い放つ速人。

  本人に悪意は全く無く鼓舞するつもりで、しかも言っている事が事実と正論で構成されているので極めて性質が悪かった。

「は、速人はん!シグナムに止めさすつもりなんか!?」

「鼓舞のつもりなのだが?」

「どう聞いても止めさしてるようにしか聞こえんのやけど!?」

「事実と主観的意見と主観的対処法を提示し立ち直らせようとしていたのだが………判断を間違えたか?」

「判断は間違えとらんと思うけど言い方が間違っとるんや」

「………発言内容ではなく発言方法が間違えているのか?」

「そうや、もうちょっと意見と対処法を曖昧にして喋ってや。そんなんやと立ち直る前に気力を根こそぎ刈り取ってしまうで」

「了解した。では改めて、シグナム。主が下した結論に抗う様な真似をするのは騎士として如何なものと思う。

  将と名乗る以上主と配下に失態を晒した事を悔いるのは当然だが、あまり度が過ぎると更に失態を晒すことになるだろう。

  将たる者は失態を晒し謝罪をしても毅然とするものだと思うが?」

  沈黙する一同。シグナム以外の胸中は「初めからそう言え!」だった。

「速人はん。初めからそう言えばいいのに何であんな言い方したん?」

「その言い方が一番自分の意見が伝わると判断した為だ」

  悪意が無いその言い分に肩を落すはやて達。

「主はやて、天神の言うことは全て事実ですので御気になさらずともよいです」

  立ち直ったのか毅然とした表情でそう述べるシグナム。

「口惜しい話ですが、天神の方が私より遥かに騎士の在り方、将の在り方についても正確に把握していたようです。

  この失態により私に着せられた汚名は必ず返上できる様に私の行動で示して見せます」

  いつも通り毅然とした表情と口調でそう言うシグナム。

「うん。いつも通り堅苦しいけど綺麗でカッコ好いシグナムや。

  大丈夫や、シグナムのいいトコきちんと解ってるからシグナムに汚名なんてあらへんよ」

「勿体無き御言葉。その言葉を受け更に精進します」

  そしてそのまま終れば良かったのだが、自分から話し掛けてまたもや場を引っ掻き回す速人。

「シグナム。先程の俺の発言で俯いていたが、傷心していたのか?」

「………………………お前の言う事は正論だった。故に自らの行いを振り返り自責していただけだ」

  不機嫌さを隠そうともせずに言い放つシグナム。

「そうか、俺の無思慮な発言でシグナムを傷心させ、家族の調和を乱してまったようだ」

  そういいシグナムに頭を下げる速人。

「先の無思慮な発言に対し謝罪する。済まなかった」

  この行動に驚く一同。

  頭を下げ続ける事無く、謝罪が済めば頭を上げる速人。

  そして我に返ったはやてがシグナムを見詰めていた。

「主はやて?」

  シグナムがそう問いかけてもシグナムをじ〜っと見詰め続けるはやて。

「主はやて?」

  シグナムは視線の意味が解らず再度問いかける。

「……………シグナム、謝った速人はんに何も言わんの?」

「…………そうでしたね。失礼致しました。

  ………………………………天神、お前の言った事は全て事実と正論だ。そして私はそれを甘んじて受ける立場と状況にあった。故にお前に文句は無い。が、他の者、特に主はやてにはその様な無思慮な発言はしてくれるなよ」

「了解した」

  シグナムの要求に逡巡した素振りを見せず即答する速人に若干不満を持ったが何時もの事と割り切るシグナム。

「うん、よかったよかった。家族が仲違いしたままは悲しいからな。速人はんも謝ったしシグナムも赦したし、また仲良うしような。暗い話しはこれでお終いや」

  シグナムは断じて速人と仲が良くないと言いたかったが、主の上機嫌に水をさすわけにもいかずその言葉を飲み込んだ。一方速人は先程シグナムに頭を下げて中断した収納を再開していた。

  収納をしている速人にヴィータは近づいて行き、聞き取り難い程小さな声で話しかけた。

「………………………………………ありがと………………………………………アタシだけじゃはやてを怪我させちまってた………………………………………」

「家族は相互扶助する関係だ。気にする必要はない」

「………………………………………家族か………………………………………なら今度お前が何かしたらアタシが助けてやるよ」

「その時は宜しく頼む」

「任せとけ………ハヤト」

  小声だが近くに居たはやて及び聴覚性能が常人より遥かに高いシグナム達にはしっかりと聞こえており、皆の驚いた表情から直ぐにその事に気付いたヴィータは恥ずかしさのあまり暴れる結果になった。

  はやてはそんなヴィータを優しい目で見詰めていた。

 

 

 

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(あれからやったなー。ヴィータが速人はんに興味を持ち出したんわ)

  昔と言う程のことではないが懐かしく感じながら思い返すはやて。

(速人はんの無遠慮な物言いに怒る事もあったけど、速人はんもヴィータも素直で優しいからあっという間に仲良くなっていったな〜。

  あんまり仲が良く見えて少しヴィータをからかったら凄い勢いで「アタシははやてが一番だ!」って嬉しい事言ってくれたな〜。でも速人はんを否定しなかったんも嬉しかったな〜)

  ケーキとコーヒーを美味しそうに食べるヴィータを微笑みながら見詰め、速人が淹れたコーヒーを飲むはやて。

(まぁ速人はんとヴィータが仲良うなるきっかけが、シグナムが速人はんを苦手言う原因になってる気もするけど………)

  苦笑いしながらそんなことを考えるはやて。

(まぁ最初の時みたいに速人はんを追い出そうとか言い出さない分だけマシやと思うことにしよ。時間は一杯あるんやからいつかはみんな仲良う笑える家になるよう頑張らんとな)

  はやてはそう自らを鼓舞し新たに決意を固めた。

(『速人はん育成計画』と並行して『幸せ家族計画』開始や!)

  またもや若干如何わしい名前を胸の裡で命名したはやてだった。

 

 

 

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  第四話:平穏を生む波乱――――了

 

 


【後書】

  ようやくA‘S本編に突入したのにまたもや微塵も進んでおらず申し訳ありません。

  しかも次回も話が微塵も進まずに八神家の日常について延々とダラダラ紹介する予定の為、バトルもおそらく一切無く盛り上がりのない話になると思われます。

 

  今回は守護騎士達の話になっていますが、見て御解かりの通り完璧にヴィータが主役になっています。当初はこのSSの最後まで速人を汚物の如く嫌っている様にしようと思ったのですが、なぜかこのような結果に。このままではツンデレ街道というより、デレ街道一直線になってしまいそうです。

  対してザフィーラとシャマルは完全におまけ扱いです。両者共に速人に話しかけるようなキャラじゃない為、仕方ないといえば仕方ないですけどこのままじゃ速人を評価する理由が解らない為、次回あたりにそういう話を盛り込めればと思っています。

  そしてシグナムは守護騎士の将として汚れ役を一手に担っています。当初は割と直ぐに速人を認めはやてへの忠誠と速人への想いで揺れる女性になってもらうつもりでしたが、結果はそんな可能性は芽どころか土壌すら存在していません。シグナムファンの方が見てらしたら、大概にしろと言うお言葉を賜ること間違い無しな話になってしまいました。

 

  最後に毎回進歩の無いこの駄SSを掲載して頂いた上、窓枠の淵をなぞるが如く長所を探して感想を書いて頂いている管理人様に深く感謝を申し上げます。

  そしてこのSSを読まれている方、稚拙な文を御読み下さり感謝します。




ヴィータは速人に懐くと言うか、気を許したみたいだな。
美姫 「みたいね。シグナムはやっぱりまだみたいだけれどね」
だな。戦闘がなくてもとても面白いです。
美姫 「はやてと速人、そして騎士たちの日常は確かに楽しいわよね」
うんうん。速人のあの機能的な受け答えがまたいい感じ。
美姫 「次はどんなお話が待っているのかしら」
楽しみにしてます。



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