Interlude

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  安らぎ。

  それが守護騎士全員から伝わってきた想い。

  その言葉は知っていたが実感するのは初めての気がした。

  実際は以前にも感じていたのかもしれないが、少なくとも私は憶えていない。

  だがそれは烈火の将も、紅の鉄騎も、風の癒し手も、蒼き狼も、皆同じだろう。

  そんな私達に安らぎを与えてくれた今代の主を、私を含め皆深く愛しているのが良く解る。

 

  そしてそんな主の傍に居る、碌な魔力も持たぬ一般人と呼んで差し支えない者。

  最初は不信と嫌悪と侮蔑という、私達が慣れ親しんだ思いしか向けられなかった者。

  事実その者は信じられるほど、慕えるほど、そして敬えるほど理解できる存在ではなかった。

  ただ解っていたのは、鬼畜や外道と言われる類の者だということだけだった。

  事実その者は何一つ誇りなど持ち合わせておらず、他者の嘆きに心を痛めぬどころか嘆きを理解できず、更には平然と他者をその状況に突き落とそうとする人非人だった。

 

  だが共に暮すうちにその者が主から無上の好意と信を向けられるに足る人物であると理解できた。

  鬼畜や外道に見えたのは正しく無感情故、そしてその様な行為を採ろうとする理由は常に主を含めた私達の為だった。

  その者は主と違い何一つ想いは持ち合わせていなかったが、代わりに恐ろしいほど純粋且つ侵し難い意思を持っていた。

  その意思の下に私達を家族と呼びそしてその為に腐心する姿は、たとえ悪と謗られるような行為をしていようと貴く綺麗に感じられた。

  無論直ぐには認められなかったが。

 

  だが蒐集を行うようになってからは誰もが認めた。

  その者は目的の為になら自身すら一つの道具として平然と使い潰す覚悟を持っていると。

  そして主だけでなく守護騎士すら護らんとする意思がはっきりと感じられた。

  魔力も一般人と変わらぬほどしか持たず身体的にも未成熟で非力な身でありながら、それを克服せんと自身の意志で極少の確率に命を賭け続けて怪我を負い続ける姿は私達の認識を変えるには十分過ぎた。

 

  気付けば主が私達と道を照らし、守護騎士が主を護りつつ道を行き、その者が道を行く為の備えをする、そんな構図が当然になった。

  そして私達がその者を認め好意的になった事に主は心より喜ばれた。

  その者が私達に好かれたことだけではなく、私達が闇の書に関係ない誰かを好きになってくれた事が嬉しいと言われた。

  不自由な身でありながらも幸せだと言われた。

  私達が何に代えても護ろうとしている笑顔で。

 

  だがどこかで私はそれが壊れてしまうと諦めてもいた。

  今までの主同様暴走に陥り、やがては主の大切なモノ全てを壊すか管理局に討たれるかの何れかだと。

  だからせめてこの日溜りの様な幸せの日日が少しでも長く続く術がないか求めていた。

  しかしどれだけ考えを巡らそうと、私の記憶にはそんな術など手掛かりすら無かった。

 

  私ではどうにもならないと解っている。

  だけどそれでも諦めきれない。

  だから誰か私に教えてほしい。

  この幸せな時間を護る術を。

 

 

 

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  Interlude out

 

 

 

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魔法少女リリカルなのはAS二次創作

【八神の家】

第十七話:求めと望みと願い

 

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  これからのことをシグナムと話し終えた速人は戦闘に適した格好になるため、戦闘訓練の時に着ていたような服を着た。

  そして着替えている最中退室していたシグナムだったが、着替えが終わったのを確認して部屋の中に入って唖然とした。

「天神………そこの武器や兵器についても色々問い質したい物が多数あるが、その奇天烈な服装はどうにかならんのか?」

  そう言ってシグナムは服に様様な武器や兵器を納めたり括り付けたりしている最中の速人に溜息混じりに問いかけた。

  それを作業の手は止めぬままシグナムの方を見ながら速人は返事をする。

「格好が気になるならば布等を羽織って隠す程度なら可能だ」

「……………………………………………………………………」

  それを聞き、戦闘に移った瞬間に体を覆っていた外套を脱ぎ捨て、奇抜と言うか珍妙と言うか間違えた前衛的な格好をした速人が現れるのをシグナムは考えた。

(ダメだ。まるで戦闘の緊張感が無い。

  …………天神には悪いが、そんな奇天烈な格好をしたヤツと掴む勝利は力の限り遠慮したい。それに万一撤退しようものならその姿は敗走兵どころか道化かちんどん屋にしか見えん。正直そんな背水の陣は勘弁してほしいぞ。

  いや、勝ってもちんどん屋の守護騎士とか道化の協力者などのレッテルを張られて一括りにされるのを考えると、勝っても負けても何かが確実に終わるぞ)

  そう思いながら改めてシグナムは速人の格好を見た。

 

 

 

―――

 

  下はやたら頑丈そうなジャングルブーツに対して和物丸出しの袴。

  上は肩まで伸びたガードスリープのような物に対してランニングシャツ風の和物の軽戦装束、更にそれに重ね着をされた洋物のベスト。

  そして頭には鉢金で、あと全身を覆う外套。

  服装の基本構造だけなら初めてシグナム地下研究所で戦闘訓練をした時の物と大差は無い。

  しかしシグナムが問題としているのは変更された服装の色や追加された布だった。

  色については鉢金から靴に至るまでの全てに視覚認識テストや騙し絵などで使う眼が痛くなる模様が描かれていた。

  縞模様や連続した矢印の様な模様はまだオシャレで通りそうだった。しかし極彩色のグラデーションに太さと長さが異なり微妙に平行でない線の模様などは、常人なら視認対象が止まっていれば吐気がし、動けば霞んで見えて頭痛がするという代物だった。他にも袴は速人の膝がある部分より上の部分に若干立体的に絵柄が伸びているように見える柄があってそこが膝だと勘違いしてしまいそうだが、よく見るとその少し下が実際に膝のある位置で混乱しそうになる。オマケに背中の外套は鏡のように周囲の光景を映しており、イマイチ距離感が掴め無いようになっていた。

  そしてシグナムにはまだ他にも頭痛の要因があった。

  1970年代〜1980年代の歌手が手首から肩へと翼のように細切れの布を服に付けていたのを先程の服に付けていることだった。しかも腕の外側だけでなく、脇下から腰までと脚の外側にも付いていた。

  しかもやたらと光を反射する布らしく、少し動けば布ははためき光が尾を引くように煌き簡単に目標として捕捉されそうだが、実際は布のはためきと光の残像が眼に留まりがちで速人の体の方には眼に留まり難いという効果もあった。しかも飾り布だけでなく服にも視認を妨げる柄あるので益益捕捉され難かった。

  一応迷彩服のジャンルに入るがシグナムが言うように奇天烈という言葉が当て嵌まり、普通の感性の持ち主ならば一緒に同行してもらうのは力一杯遠慮したい代物だった。特にそれが命を賭すような真剣な場ならば尚の事。

 

―――

 

 

 

  改めて速人を見たシグナムだったが、僅かでも綺麗だと感ないことに自分の美的感覚が極めて正常だと再認識しただけだった。

  そして美的感覚が正常だと確認した後シグナムは、自身の精神衛生や騎士としての誇りと言うか寧ろ一般常識的な世間体を護る為に速人の説得に入った。

「天神……私はその服の模様に幻惑効果があるのは素直に認める。お前が考え抜いた末の格好だというのも認める。またお前が先入観の有無に関わらず物事の本質を直ぐに見抜き、また本質とそれ以外の価値を見誤る事が無いのは美徳だと思っている。

  だが……………だがしかし!それが高じ過ぎ、本質を重視しすぎてそれ以外を軽んじすぎるのはお前の欠点でもある!

  たしかにお前が軽んじているのは本質ではないだろう!だが本質ではなくとも本質に影響を与えるモノも世には少なからずある!いや!寧ろ本質ではないが本質に影響を与えるモノが世の大半を占めているといってもいい!ならば安易に本質でないからと軽んじるのは控えるべきだ!主に自身の格好とか評判とか風評とか流行とか世間体とか、何と言うか人間としてそれは捨てたらダメだろう的なもの全部だ!!

  と言うか被害が天神だけでなく私達にも飛び火するのは頼むから控えてくれ!具体的に言うとその服だ!あまりに前衛的と言うか少数派(マイノリティ)向けと言うか、なんか無闇矢鱈と世の流れに逆らうような意気込みが伝わるその服を着るのは勘弁してくれ!」

  力一杯主張して少少気疲れしているシグナムにいつも通り淡淡とした声で手を休めず返事を返す速人。

「要約すると俺がシグナム達と関係していると悟られるような時は第三者からの評価を考慮しろというわけか?」

「出来れば可能な限り精一杯力尽きるほど普段からもそうしてほしいと言い続けたいところだが、まあ………そういうことだ」

  普段から服装に気を払えと言い聞かせたいシグナムだったが、今そんな議論をして疲れ果てれば肝心の問題点について話し合う気力が無くなってしまい簡単に言い包められると思い、今回は渋渋流すことにした。

  そしてそんなシグナムの葛藤を気にしているのかしていないのか判らない、いつも通りの淡淡とした声で返事をする速人。

「俺の主観に寄るがこの地球の世界標準から大きく逸脱したと判断される服装ならばシグナムの主張を呑んでも構わないが、その場合シグナムにはその服装を撤回した事による不利益を被ってもらう事になる可能性が発生するが構わないか?」

「お前がその服装をやめた事によって戦闘の際に上昇した危険度分お前を護れというなら喜んでするぞ。というか言われずともそれくらいはするぞ」

  疲れた様相ながらも極自然に速人を護ると言った事に気付いたシグナムは、自身の心境の変化に顔にこそ出さなかったが内心苦笑しながらも速人の返事に対して漠然とした心構えをしながら聞いていた。

「俺が不利益を被ってもらうといったのは、服装変更に伴い低下する目的達成率の補佐をしてもらう事だ。無論家族に直接関係の無いことで補佐を依頼する事は無い。

  後俺が危機に瀕した際に俺を護るよりも、その危機を好機と相手に攻撃してほしい。そも、俺を護るよりも俺を放置して敵の打倒に専念した方が結果的に俺の危険度は低くなると場合が殆どだからな」

「まあ……限定的にだが私に頼っているので色々文句を言いたい所は堪えよう。的も射ているしな。

  …………………で、確認なのだが今回のその服装は一般常識内などと言ってそのまま事に挑むということはないだろうな?

  念の為に言っておくがお前のその格好は一般人だろうが軍人だろうが、この世界の者なら万人どころか億人に一人も普通とは答えんぞ」

  警戒心も露わにその一線は譲れぬとばかりに徹底抗戦の気構えをしだしたシグナムだったが―――

「戦闘に影響が出かねないほどシグナムの平静さを欠くと解った物を装備し続けはしない。同型の服で着色は無地で黒を基調とした物に変更する。

  それと俺の感性は一般から乖離しているが、認識は乖離していないのでこの服装の柄が著しく一般常識から逸脱していることは理解しているぞ」

―――と、答えられ安堵の溜息を吐いて返事をした。

「揉めずに済んで助かった。お前と口論していると不思議と一番大事なこと以外は言い包められるか煙に巻かれるからな。

  だが……………お前が戦闘用に準備した物をあっさり変更するとは驚きだな。手間も掛かっていように」

「これを装備しているからといって然して目標達成率が上がるわけでもない。第一装備する利よりシグナムが平静を欠くという損が上回るなら、変更を躊躇う理由は無い。譬えそれがどれだけ手間が掛かっていようと」

  それを聞いたシグナムが慌てて再び速人に訊ねた。

「待て。それじゃなにか?天神、お前はさして効果が無いにも拘らずあのファッション業界に全面戦争しかけるような服を作り、そしてそれを着込んで私と共に戦おうとしたのか?」

「そうだが何か問題があるのか?」

「大有りに決まっているだろうが!?そんな有っても無くてもさして影響が無いにも拘らずあんな間違った前衛的服装の極みと言える服を着て私の隣に立たれた日には私の誇りとか矜持とか美的感覚とか羞恥心とか疑われたうえに完全に晒し者になるところだったんだぞ!?」

  一息に捲し立ててやや息を荒げているシグナム。

  対して速人はシグナムに凄まじい迫力で巻くし立てられても平然としており、やはりいつも通り無感情な顔で淡淡と返事をした。

「済まない。俺は自尊心等のような充足や喪失を感じる類のモノは持ち合わせていないので、最優先事項の為ならば今し方シグナムが述べた様なモノが原因による葛藤を事前に切り捨てられる若しくは封じる事が出来ると思っていた」

「あ」

「重ねて言うが済まない。俺が人間性と呼ばれるモノを理解出来ていなかった為それらを踏み躙ってしまった」

  考えもしなかった理由を話された上、深深と頭を下げられシグナムは慌てて返事をする。

「いや気にするな。たしかにお前は人間性というモノを軽んじていたかもしれんがそうまでして果たそうとした目的は納得いくものだ。寧ろ何に代えてもと言いながら選り好みする私こそ覚悟が足りぬと謗られる筈だったのだ。だからそれ以上謝ってくれるな」

「謝るなと言われれば謝らぬが、自らを自らで完全に制御できぬ所以が人間性と呼ばれるモノにも拘らず、それを理解せずに制御できると判断した為様様な運用を誤り目的達成率が減じる手段を採っていたのは理解してくれ。

  それと出来ぬことを出来なかったからと詫びる必要も恥じる必要も無いだろう。出来ぬことは出来ぬ、それは当然の事なのだから」

「べつに目的達成率が減少する手段を採っていたといっても、どの程度影響があるかも判らないほど微微たる変化だろうに………。そもそも事前に自力で気付いたのだから気にすることは全く無いぞ。……………まあ必要な事は憶えたので平行線になりそうなこの話はここまでだ。

  で、あと出来ぬことは出来ぬのが当然と言ってたが、出来ぬことを当然とすれば発展は無いぞ?

  そもそも出来ぬ事を当然と受け入れれば不可能を可能と信じて目標に据えることは有り得なくなり、錬磨を重ね成長する道は永遠に閉ざされてしまう」

  常常「一対一ならベルカの騎士に負けは無い」と不可能すら可能に出来ると誇りを持って信じているシグナムとしては、出来ぬことを当然と受け止めている速人の言い分は納得がいかないらしく、武人らしい主張を口にした。

  その主張を聞いた速人はシグナムの主張に異を唱えて波風立ててでも会話を続行するか、それとも波風立てないように適当に相槌を打って労力を払わずに場を纏めるかを一瞬考えたが、直ぐに様様な思惑は在りながらもシグナムの主張に異を唱える選択を採った。

「シグナムの主張を否定はしない。だが、俺は不可能を可能と思い込んで事に挑む真似はしない。

  思い込みは思考の幅を狭め、事実を真実に捻枉げ、そして自身の過ちすら気付き難くさせる

  俺は不可能と判断した事を可能にたらしめる要素は研鑽や練磨や修練という既存のモノを発展させる事ではなく、発見や還元や創造という新たな体系を確立させることが不可能を可能とする要素だと思っている」

  荒れるだろうと思いながら話した速人だったが、シグナムは別段怒った素振りは見せず平然とそれについて返事をしだした。

「それがお前にとっての物事への挑み方なら文句はつけん。挑み方は違うが目指す所は同じであるしな」

  それを聞いた速人は表情も雰囲気も変えなかったが、速人を見ていたシグナムはニヤリと笑いながら話を続けた。

「ふっ………大方私が自分の主張を突っ撥ねられたと憤りながらお前の考え方を否定するので場が荒れると思ったのだろう?だが目指すものが同じであり且つお前が我等の主義を常に最大限尊重しているのに、私だけいつまでもお前の主義を全否定などしない」

  シグナムは自分が推察した速人の心情が特に速人から反論がないことで正しかったと判断し、笑みを深くしながら更に話す。

「主はやてやヴィータがお前のことを理解しようとするのが少し解った気がするな。

  お前の内面に………心に触れるのはとても心地良い。清流に清められるような感じだ……」

「心地良いという感覚は理解できないが、清められるという感じは俺が洗脳解体若しくは洗脳しているという解釈で合っているのか?」

「待て。何故そこでお前は穏やかじゃない方向への解釈になるのだ?他者の心に触れて清められる感覚を洗脳解体と言うのはまだ解るが、どう解釈すれば洗脳になるのだ?」

「個人差はあるようだが一般的に軽度の洗脳を解体する時は恍惚感があり、重度の洗脳を強いられる際も恍惚感があるとされるからだ」

「………納得した。だが私は洗脳された憶えは無い。よってお前の心配は杞憂だ」

  シグナムの言葉を聞き速人は逡巡と言うには少し長い間考え、それからシグナムに尋ねた。

「俺は先程シグナムを心配していたのか?」

  その言葉に若干面食らったような表情をし、そして微笑しながらシグナムは返す。

「ふっ……そういう事にしておけ。いや、そう言われたと憶えておけばいい」

「了解した」

  自分の台詞にも速人の返事にも納得のいくものだったシグナムは満足気な表情をしていた。

  と、唐突に気になっていたことを思い出したシグナムはそのことを速人に訊ねてみたた。

「ところで話は変わるのだが、高町なのはのデバイスがそろそろ復旧するのはどうして分かったのだ?

  復旧の目処がついたならばデバイスが自動で大出力の魔力放出を行うと言っていたが、上の管理局の艦からはそのような魔力放出は感知していないぞ?」

「すまない。緊急の事と思い情報の入手経路を省いて報告した。そして追求が無いので説明をせずとも良いと解釈していた」

「いや、この質問はお前を責めているのではなく単に私の知的好奇心と言うヤツだ。

  で、何故デバイスの復旧が近いと分かったのだ?」

  情報戦では速人に遠く及ばないことは認めているが、だからといって魔力感知で遅れをとるとも思っていないシグナムとしてはそこが不思議だった。

  だがその絡操りは―――

「予測される高町なのはの行動範囲は全て監視してある。

  管理局の巡航艦アースラから通信があれば直ぐに分かる」

―――という相変わらずな所業によるものだった。

  尚高町家には用心の為速人は一切監視装置の類は設置していないが、遠距離からの光学観測や衛星からの熱監視や電波反射による振動解析の盗聴等等、外部にはその代わりとばかりに何かの冗談の様に大量の監視装置が高町家に向けられていた。しかも監視が凄まじいだけではなく、なのはに狙いを定めていると思われないよう近くに政界の重要人物を数名住まわせ、なのはへの監視に気付かれても不審に思われない処置を施す念の入れ方だった。

  と、具体的な監視体制までは理解できていないがそれでも相変わらずな周到さと相手に気付かれずに監視を続けられる方法に、シグナムは感嘆とも呆れとも付かない溜息を吐きながら感想を漏らした。

「全く……一体どうやれば管理局に監視されていると悟らせずに監視できるのやら……」

「然して難しい事ではない。

  得られた情報から推測する限り、管理局は魔力を利用していないこの星の科学のみならずこの星に住まう全ての者の全ての能力と技術を軽視している。

  突けこめる隙は幾らでも存在する」

  相変わらず速人は管理局に対し否定的というか嫌悪感を含んだ様な話し方をする。

 

 

  ―――

  速人は静養している間、シグナム達から得た管理局についての情報とレイジングハートからの情報と直接応対したなのは達との情報を基に管理局がどの様な組織かを推察していた。

  結果速人は以前はやてに告げたような傲慢な組織という認識を強めた。

 

  理由の一つとしては、自分達(管理局)の管理不行き届きが原因でロストロギアが管理外と名を打っている地球にばら撒かれたにも拘らず、それに対処していた現地民のなのはから戦果と言えるジュエルシードを徴発した挙句碌な説明をせずに事態の蚊帳の外に置こうとしていたことにあった。これを速人は自己の失態と行動を正当化し且つ自己の優位性の誇示と判断していた。

  そして他にも非干渉と言わず管理外世界と呼称し干渉を原則として禁じず、次元世界の平和と謳ってその世界での多岐に渡る行動や施設設置の容認。更には戦略核兵器級の破壊行為を現地民に説明無しでの使用容認。

  その他も様様あるが、速人が傲慢だと判断した理由を要約すると、【自らを絶対の善とし、魔法文明を持たないあらゆる者を下と認識している】ということだった。

―――

 

 

  何と無く不機嫌そうに話す速人をいつかのはやての様に喜ばしく思いながらも特に指摘はせず、シグナムはただ速人の返事に返事をした。

「たしかに隙はあるかもしれんが、そう易易と突けるような隙でもないだろうに。

  実際隙が出来ても仕方無しと言える程度は科学力に開きがあるというのに……」

「たしかに時空管理局の科学力は高いだろう。実際地球の科学では再現不能な領域の時空管理局の科学は、魔力運用と隔離結界の二つが挙げられる。

  だが他は程度の差は在れども手の届かない領域ではなく、空間転移も大質量若しくは高活力が在れば空間干渉が可能だ。またその他のモノも方向性の違いで一概に優劣は決められないモノだ。

  ならば地球の科学力でも出来ることは幾つも存在する」

「む………たしかに………な」

  以前質量兵器を使用しその有用性を理解しているシグナムは地球の科学力では時空管理局に全く太刀打ち出来ないとは思っておらず、寧ろ質量兵器を遠ざけていて正確な認識が無いだろう今の管理局の者には想定以上の効果があるだろうと思っていた。(無論魔法が質量兵器に劣るともシグナムは思っていないが)

  ただシグナムとしては加減が難しく且つその構造や理論を解さぬ者が安易に使える質量兵器はやはり好ましくはなかった。

  この話を続けてもあまり愉快には成らないだろうと判断したシグナムは、明日のことへと話を切り替えた。

「ところで明日のクリスマスはお前の誕生日という意味以外にも主はやてとお前が出逢って1年目という意味もあるようだが、お前は主はやてに何か贈り物でもあるのか?

  あ、それとヴィータはお前からクリスマスプレゼントが貰えると完全に期待しきっていたぞ。用意していないのなら今からでも何か用意した方がいいぞ」

  シグナムははやて達と風呂場でクリスマスについて話していた時のことを思い出しながら告げた。

 

 

 

―――

 

  先日まで30人程はかるく入浴可能なここの浴場で八神家女性陣が入浴している最中、度度クリスマスについての話題が上り全員で話を弾ませていた。

  ヴィータは「よく解んねえけど速人からプレゼントが貰えるぜ!」とはしゃぎ、シャマルは「恋人が愛を語らう為の習慣があるなんて素敵です」と若干曲解した感想を危険な瞳をしながら述べ、そんなヴィータとシャマルにはやては微笑ましげに見シグナムは呆れていた。尤も、その後シャマルからサンタの話を聞いたシグナムは「贈り物をする為とはいえ不法侵入するとは感心せんな。御安心を主はやて。もしそのような不埒者が現れたなら引っ捕らえて正面から堂々と訊ねるよう矯正します」とシャマルの狙い通り笑いの種を提供してしまった。

 

  他にも色色あったが、その際はやては今年のクリスマスと速人の誕生日と出逢って1年目になる25日への意気込みを熱くシグナム達に語り、あまり動き回るなと注意されているはやては自分の代わりに飾り付け等を協力してくれるようにシグナム達に頼み、シグナム達は当然それを快諾した。

  そしてそれからまたどんな飾り付けにするかやどんな料理を用意するか等で話が盛り上がり、一品作ろうと言い出したシャマルが「それは別の機会にしてや」や「味覚破壊料理人は引っ込んでろ」や「宴席の余興にしては度が過ぎているぞ」と言われ阻止されるお約束もあった。

 

  尚、はやては速人とザフィーラも一緒に風呂に入るように言ったのだが、ザフィーラはザフィーラ自身とシグナム達全員の拒否で除外され、速人に関しては色色と既に一人前と認めているシグナムの断固とした拒否と速人が体温と血圧を上げたくないと言ったので速人も除外された。

 

  ―――

 

 

 

 

  速人ははやて達の入浴中の会話は与り知らず、そしてヴィータのプレゼントを期待する熱い視線もいまいち理解してはいなかった。

  だが理解は出来ずとも推測は十分出来る速人は、ヴィータの期待を散らすことがない選択を採っていた。

「問題無い。5名分の贈答品は用意してある」

  相変わらず淡淡とした喋り方だがその内容に満足したシグナムは安堵の息を吐きながら返事をする。

「すまんな。我等の分まで用意してもらって」

「贈答は俺が利と判断して行うのだ。謝罪や謝礼を述べる必要は無い。

  ただ贈答品が不快ならば情報収集の為に非難や罵倒は遠慮せずにしてくれ」

「よし。毎度毎度の不穏当な発言は流すとしよう。ああ流すとしよう。

  ………で、今不思議に思ったのだが、お前が個人的に自由に使える金銭は主はやてからの小遣いのはずだが、贈答品が購入品か手作りかは知らぬが少なからず金はかかるだろうが負担は無いのか?」

「俺は金銭を自由に使って構わないとはやてに言われているのでその心配は無用だ」

「は?」

  シグナムは予想外の返答を聞き呆気にとられた顔をして聞き返した。

  そして速人は説明が必要だろうと判断し説明を始めた。

「8月の初頭にはやてが俺の雑費用の通帳を見て300億円以上ある事に混乱していたが、希少品の転売で元手を稼ぎそれを基に外国為替取引等で増やしたと説明したらはやては雑費の制限を解除した」

「……………主はやてはその時何と言っておられた?」

「要約されている言葉は「増やす為に時間使うくらいなら、増やす手間省いてその分自由な時間にしてもろた方がマシや」だろう。

  全て聞きたければ話すが、聴くか?」

「いや……いい」

  シグナムは何と無く痛む頭で速人には清貧の二文字は無縁だと認識した。

  そんな頭痛で顔を顰めているシグナムを見て体調不良かと思った速人だったが、知恵熱の類が原因だろうと推測した為特には言及せず、代わりに場を締め括る言葉を発した。

「着替え直して装備を整える。3000秒以内に全てを終わらせて地表階層に到着予定だ。以後用向き時はそれを考慮してくれ」

「解った。上で待っている」

  急な話題の切り替えだったが準備を早く済ませて困ることも無いと思ったシグナムはそう告げて一足先に上に向かった。

  そして速人はそれを見届ける事無く代えが無い外套だけはコーティングされた模様を剥がす為に部屋を後にした。

 

  誰も居なくなった部屋にはシグナムが速人の格好の奇抜さの為あまり気に留められなかったナノワイヤーや高分子ナイフがあった。

  他にもシグナムが理解できなかった超小型の浄水器や小型のチェーンソー、果ては輸血用パックや試験管の中に固定されている注射器等という戦闘ではなく戦争時に必要そうな物が暫く部屋に散乱したままだった。

 

 

 

                                   

 

 

 

  Interlude

  ――――八神家――――

 

 

 

「ふ〜ん、なら速人の怪我ってほとんど治ってるんだ」

  クリスマスの飾り用の豆電球をソケットに嵌めながらアリサは気の無いような、安堵したような、何かが引っかかっているような、そんな微妙な声を出していた。

「そうやで。

  ………そやけど傷口にゼリーみたいなモン付けて電極刺しただけでこんなに(はよ)治るなんて、ほんと驚きやな」

「うわ。なんか生生しいわね、それ。

  ていうかそれって速人が自分でしてんでしょ?なんかマッドな科学者みたいに思えてきたわ………」

「う〜ん………私はマッドって言うより、研究に没頭する引き篭もりな感じがするけどな」

「速人は引き篭もりというよりマッドよマッド。いえ、マッドと言うより人知をフライングしているフライングマンよ!」

「アリサちゃん、フライングってちょっとカッコ悪いよ?

  ここは【人間を飛び越している者(アドバンスト)】にしようよ。はやてちゃんもこっちがカッコ好いと思うよね?」

「カッコ好いとは思うけど………すずかちゃん、それってパクリやろ?なんか無理のある英語やし」

「えへへ、実は………。

  でもこの単語の出る小説って面白いんだよ?それにこのお話の『根こそぎ』と『甘やかし』と『水鏡』を足してそのままにしたら速人さんだと思うんだ」

「いや……そんな力強お言われてもあたしは読んだ事ないから解らんのやけど……」

「はやて、パクリな名前よりあたしのフライングマンの方がカッコ好いわよね?

  ていうか、こう、違反ぽかったり反社会的ぽかったりと、なんか犯罪と立証されていない容疑者みたいな感じの響きが速人にぴったりでしょ?」

「アリサちゃん………サラリと酷い事言うな。

  てか速人はんが変なのは確定なんやね」

  苦笑い気味に言うはやてに―――

「何当たり前のこと言ってんのよ」

「それは否定できないな〜」

―――と、悪びれていない二人の即答を貰い、全くだと苦笑いしながらはやても同意した。

 

 

 

 

 

  そんな楽しげに歓談する三人をヴィータは見ながら、見た目は普通に装いつつも頭を痛ませていた。

≪あ〜、シャマル〜、速人は何て言ってた?≫

  色紙で色違いの輪を繋げた鎖を作る作業をしつつ、ヴィータはリビングに戻ってきたシャマルに念話で話しかけた。

  それを新たに増設された設備の確認をしつつも速人と連絡を取っていたシャマルは、ヴィータの前に座って再び説明書を読みつつ念話で返事をした。

≪素直に二人を招いてパーティーをして、その後地下研究所に雲隠れするのが一番だろうって。

  もしその場で戦闘になったなら、アリサちゃんかすずかちゃんのどちらかを私達が保護する構えを見せたなら、相手が勝手に人質と勘違いして隙だらけになるだろうから簡単に取り押さえられるだろうって言ってたわ≫

≪………相変わらずギリギリな作戦だな。

  っていうか断るって選択肢は無かったのか?≫

≪どの道今日仮面の者を倒したなら、こっちの情報が相手からバレるだろうから今日か明日が潮時だろうって言ってたわ≫

≪あ〜、だからこっちに戻ったって知らせたのか。

  あと、今日アイツと会うって決めたのは、はやてと堂々と離れる口実作れるからだったのか………≫

  鋏で色紙を切っている為若干歪んだりささくれた感じに切れてしまい、修正しようとしたが失敗して使い物にならなくなったので丸めてゴミ箱に投げ入れながら、不機嫌なような納得したような感じの念話をヴィータはした。

  それをアリサに寄りかかられたり毛並みの手入れをされたり肉球を触られたりしているザフィーラが疑問を挟んだ。

≪直ぐにでもこの家を離れた方が安全だと思うが何故それをしないのだ?≫

≪ここならいざとなれば地下研究所に魔法無しで3分以内に直行できるわ。

  それにあそこは核攻撃が3回直撃しても大丈夫なように造られたらしいから、常識を疑うほど頑丈よ。

  もし管理局が攻め込んで来たなら下手に移動するよりもあそこで陣を構えて蒐集に当たった方がいいわ。あそこなら蒐集を完了させて離脱する程度の時間は十分稼げるし。

  あと私以外にシグナムもそれに同意しているわ。設計図と現場を見た上でね≫

≪ならば私が言うことは特に無い。

  戦局を操作するのはシャマルとシグナムと天神の役割で、私やヴィータの役割は予想される戦局を理解しそれに対し最適な戦闘を行い結果に反映させることだからな≫

≪だな。事前に考えんのが速人で、現場でそれを基に考えんのがシャマルで、責任持ってそれを決めんのがシグナムだ。

  んで、アタシは全力で敵に突っ込んでいって、ザフィーラは全力で敵からみんなを護るのが役割だからな≫

  シャマルから渡されたカッターナイフで色紙を切っていたが、定規等を当てずに切っていた為余計歪に切れてしまった色紙を紙吹雪用に使おうとストレス解消代わりに切り刻みながら念話をするヴィータにザフィーラが釘を刺してきた。

≪自分の役割を自覚するのはいいことだが、だからと考えることを放棄する理由にはならないから気をつけるんだな。

  どうにもお前は戦闘時には猪突猛進になる傾向があるからな≫

≪うっせえ。アタシは十分色々考えてるよ。

  だいたいアリサに抱き着かれてニヤついたりマッサージされてニヤついたりしてるヤツに言われたかねえよ≫

≪微塵も不埒な気持ちなど抱いていないので文句を言われる筋合いは無い。

  第一穢れ無き純粋な子供の抱擁やマッサージは誰でも頬が緩むものだと思うがな≫

≪…………ザフィーラ…………お爺さんやお婆さんが言うなら兎も角、見た目青年のあなたが狼に変身して言うと変体の戯言にしか聞こえないからそれ以上喋らない方がいいわよ≫

≪なっ?!≫

  シャマルから放たれた想定外の台詞に動揺するザフィーラ。そしてここぞとばかりに追い打ちをかけだすヴィータ。

≪そういやベタベタ触られんの好きじゃねえみてえだけど、ちっこいヤツには黙って触られてるよな。わりと男以外には。

  あと、ちっこくないヤツがベタベタ触ろうとしたら避けたり睨んだりするしな。特に男には≫

≪そういえばそうね。

  うーん……………やっぱりはやてちゃんの貞操の為にも、番になるような存在がほしいわね。

  私的にはあのフェイトって子の使い魔のアルフなんかお薦めなんだけど、どう?≫

≪色々と反論したいことがあるが、敵と番に成る気は無いとだけは言っておく≫

≪あら?その口振りからしたら、敵じゃなかったら番になる気があるみたいね。

  ………そういえば何度か戦闘中にも拘らず話してたみたいだけど、その時に何か色々思う所があったのかしら?≫

≪………特に無い。

  と言うか、天神に唾を付けて光源氏計画遂行しようとしているお前に変態云々を言われる筋合いは無い≫

≪なあ、光源氏計画って何だ?≫

  定規に沿ってカッターで大量に重ねた色紙を切りながら疑問顔で訊ねるヴィータ。

  それにアリサに丁寧に毛を梳かれているザフィーラが答えた。

≪身体と精神が未成熟な者………特に精神が未成熟な者を慕わせ、自身の思う様に精神を成長………と言うか好意を抱くように操作し続ける事だ。

  大抵は対象と精神と身体の年齢が非常にかけ離れすぎた者がする行為だ≫

≪最低だな≫

  切り終えた色紙で鎖を作りつつ、白い目でシャマルを見ながら簡潔な感想を漏らすヴィータ。

  そんなヴィータの白い目をとりあえずは無視し、しかめっ面に強引に笑顔を貼り付けたようなシャマルがザフィーラにくってかかった。

≪ザフィーラ………普通に年が離れたと言えばいいのに、わざわざ「非常に」とか「かけ離れ」とか「すぎた」とか、おまけに「精神と身体」とか言っているのはなにかの嫌味かしら?≫

≪べつにお前のことだとは言っていない。

  しかし近所の風評では、お前は未亡人やら結婚適齢期後半やら言われているので、その風評を基に考えるならお前の思い込みは強ち間違ってはいないだろうな≫

≪………ひょっとしなくても私のこと馬鹿にしてるでしょ?≫

≪まさか。先程のお前のように客観的な意見を言っているだけだ≫

  視線を合わす代わりに攻撃的な気配を放ち始めるザフィーラとシャマル。

  しかしそんなことをすれば当然近くに居るはやて達にもそんな攻撃的な気配は降りかかり、結果何だか解らないが急に強烈な居心地の悪さをはやて達は感じだした。

  そしてその居心地の悪さ元が毛梳きをされているザフィーラだと理解したアリサは慌ててザフィーラから離れて謝る。

「ごめん、ザフィーラ!

  もしかしてあたし、なんか気に触るようなトコ触ったりした?」

  会話が成立するとは思っていないアリサだが、少なくともザフィーラが自分の意図をある程度読み取ってくれるほど賢いと思っているので謝りながらも尋ねた。

  と、そんなとばっちりを受けて勘違いをしたアリサにせっせと色紙で鎖を作っているヴィータがフォローを入れた。

「あ〜ちがうちがう。シャマルが不機嫌になったのに連動してザフィーラも不機嫌になっただけだ。

  べつにアリサに文句があって不機嫌になってるわけじゃねえからあんま気にすんな」

  軽い調子でそう言うヴィータの言葉を聞き、自身がザフィーラを不機嫌にさせたわけでないらしいと思ったアリサは安堵しながらザフィーラに尋ねた。

「よかった〜。べつにあたしがドジ踏んでザフィーラ怒らせたわけじゃないのよね?」

≪………≫

  言葉を返すわけにはいかないが、自身の攻撃的な気配が原因で勘違いな心配をさせてしまった以上フォローは入れるべきだろうと思い、ザフィーラは無言で首肯した。

  その首肯を見てアリサは上機嫌にはやてに話しかける。

「うん。やっぱザフィーラは賢いし優しいわね〜。

  ねえはやて。速人とザフィーラを家に連れていっていい?無期限に……って言いたいところだけど、今はまだ駄目そうだから物凄〜〜く妥協して2週間くらい」

「いや、それはあたしに聞かんで直接本人に聞いてや。

  ……まあザフィーラは返事出来んやろから、アリサちゃんに付いて行きたがっとるんやったら構わんで」

「………ふ〜ん。何気に自分の所有物みたいな発言しないのは流石ね。独占欲とか依存度とか高そうなのに」

「いや、あたしは一緒に居てほしかったり頼ったりはしとるけど、独占や依存はしとらんつもりやけど?」

「べつにそうだって言ってるんじゃなくて、そういう気配が強いって言ってるだけよ。

  てか、はやてにとって速人との関係って比翼みたいに見えるのよ」

「あ、アリサちゃんそれナイスな表現だよ」

「いや、ちょい待ってや。比翼って夫婦のことやん。あたしと速人はんはそんなんやあらへんって。

  第一あたしと速人はんが一緒やったら、色々釣り合わんで落っこってまうし」

  慌てる事無く意見を述べるはやてへと多分に呆れの念を篭めた視線を送りながらアリサが返事をした。

「はあぁぁ。………あのねぇはやて、自分じゃ気付いてないみたいだけど、速人にとってあんたがどれだけ価値があるかはあんまり解んないけど、少なくとも自分の命ぐらいの価値はあるはずよ。

  自分の命と同じぐらいの価値が在ると思ってるのに釣り合わないとか言われるのって、普通のヤツならムカつくセリフよ。謙虚じゃなくて卑下してのセリフなら尚更ね。……まあ速人はムカつかないでしょうけど」

「そうだよはやてちゃん。

  マンガとかで告白されたのに『釣り合わないから』とか言う人見てイラッてなるのと同じだよ。そういう時は一緒に居ると気疲れするとかはっきり言わないと却って相手に失礼だよ」

「そうよ。だいたいその類の話見てていつも思ってたんだけど、相手を上に置いてるんなら喜んで受けろっての!にも拘らず強気に頑固に聞く耳持たずに言いたいこと言って立ち去るなんて自分が上だって言ってるみたいじゃない!って言うか釣り合いが取れてないのに告白したんならそんなの知ってて告白したか知らずに告白したただの間抜けかのどっちかなんだって気付きなさいよ!

  ………あーー〜〜!その類のマンガ思い出したら腹立ってきた!だいたい釣り合い取れてないから断ったってんなら釣り合い取れるほど下げるなり上げるなりしたら付き合うのかっての!だいたい釣り合い取れないって大抵客観的に見た意見じゃない!客観的に見て釣り合いの取れるヤツなんてそうそう居ないわよ!知識に差が在ったり技術に差が在ったりお金に家柄に身分に年齢に人生に身体に精神にその他諸諸と全部に釣り合い取れるヤツなんて居るわけないでしょが!つか自分の全てと釣り合い取れるヤツなんて自分しか居るわけないでしょが!そんなに釣り合い取りたいならドッペルゲンガーか鏡の中の自分と結婚するとか言うつもりかーーーーーーーっっっっ!!」

  喉が張り裂けるほどの声ではないが、喉を痛めつけかねない叫びとも言える声を発したアリサは荒い息を吐きつつ横からシャマルに差し出された水(水素混入水)を豪快に一気に飲み干して息を整えた。

  そしてそんなアリサの色色と思うところが在る叫びを聞いたはやては、頭を何度か振ったり耳を押さえた後返事をした。

「あーーーーー〜〜〜〜〜……………まぁアリサちゃんの魂の叫びはよう解った。色々心に響いたし痺れもした。……鼓膜や頭も痺れたし痛かったけどな。

  ま、それはそれとして、たしかに大切にしてくれとる人に自分を卑下したこと言うんは失礼やったな。うん。

  ……弱気にならんでも少し強気に自信を持つようにするわ」

「それがいいよ。速人さんと付き合うなら兎に角自信持たないと上手くいかないと思うから」

「うん……速人はんはこっちが何か言わんと、一人でどんどん色々決めてまうからな」

「ま、何か言えばきちんと話し合うし、無茶な折衷案でも叶えるみたいだから、アレくらい強引でもいいんじゃない?」

「う〜ん、強引とは思うとらんのやけど、速人はんのあーいうトコあたしは好きやな」

「うん、なんだかいかにもな男の人の優しさだから、女の子なはやてちゃんにはストライクゾーンど真ん中みたいだね」

「あ〜、それはあるわね。

  はやてってロマッチックに弱いというか防御が甘いというか、攻めに弱そうだもんね」

「うんうん。

  こ〜う、抱きしめられて押し倒されたら抵抗せずに嬉し泣きしそうな女の子って感じだよね」

「……(すずかの危ない表現に顔を顰めながら)……ぶっちゃけそんなヤツ漫画の中だけの話だと思ってたけど、実際いるトコにはいるのね。乙女回路持ったようなヤツって」

  好き勝って言っている二人の言葉に色色と反論したいはやてだったが何とかそれは堪え、少少震えてはいたが何とか二人に冷静に告げた。

「………墓穴掘りそうやから、そこはノーコメントで通させてもらうわ」

「残念。せっかく禁断の家族恋愛とか、背徳感いっぱいの少女漫画的な話が聞けるかと思ったのに」

「すずか……何気に趣味悪いわよ」

「え〜、女の子ならこういう話ってみんな好きだと思うけど?」

「少なくともあたしは好きじゃないわよ。そんな香ばしい恋バナなんて」

「あたしもアリサちゃんと同じやで。

  あと、あたしと速人はんは血繋がっとらんから禁断でもないし背徳感もあらへんて」

  そんなはやてのセリフを聞いたすずかは目を輝かせながらはやてに話しかけた。

「う〜ん?わざわざ血が繋がってないって言うのは、もしかして―――」

「ストーーップッ!すずか!あんたちょっと暴走しだしてるわよ!」

「―――って、アリサちゃん、何そんなに慌ててるの?」

  心底不思議そうな顔で聞き返すすずかに、怒りと言うよりは苛立ちと言ったほうがしっくりくる声で言い返すアリサ。

「なにそんな不思議そうな顔と声出してんのよ!あんたが原因なのよ、あんたが!

  あんたが少女漫画な世界をココに具現化しそうだから止めたのよ!」

「え?少女漫画の世界って素敵じゃないかな?」

「字面通り少女向けの漫画ならそうかもね。

  だけど最近の少女漫画は修羅場もHも多すぎ!何で発禁にならないのか不思議なくらい!」

「え〜、少女漫画って昔から今のような感じだってお姉ちゃんが言ってたよ?

  だからきっとアレくらいは女の子にとっては害じゃないって国が認めてるんだよ」

  堂堂と言い切るすずかに呆れたようなはやてがツッコミを入れた。

「いや、すずかちゃん。国のやることを全面的に信用すると、いつかドカンと痛いメ遭うからその考えは直したほうがいいで?」

「はやての言う通りよ。

  だいたいすずかみたいな無菌状態の女子が見るなんて3年……ううん、5年は早いわよ。いえ……5年早かったのよ。

  くっ……はやてから色色借りたとか言ってたけど、そのおかげでいつの間にかこんなヘドロ色の思考になってしまったわ」

  心底悔しそうな口調で話すアリサに、若干頬が引き攣っているはやてが話しかけた。

「アリサちゃん。それってあたしの思考がヘドロ色やって言うとるん?」

「そうじゃないわよ。すずかははやてと違ってあっという間に思考汚染されるって言ってるのよ」

「……なんか色々引っかかるんやけどそれは措いとくとして、たしかにすずかちゃん、最近ヤバなってきた気がするし。

  ……なんかシャマルに毒されてきたような気もするしな……」

  と、いきなりはやてから名指しされたシャマルが驚いた様な顔で崩れ落ちながら涙声で反論しだした。

「そ、そんな、速人さんだけじゃなくてはやてちゃんにもそんな風に見られてたなんて………」

  床に崩れ落ちて両手を顔に当てて落ち込むシャマルに、

「おーい、シャマル〜。メチャクチャわざとらしいぞ〜」

と、丁度飾り付け用の鎖を作り終えたヴィータが半眼でツッコミを入れた。

  そしてそんなツッコミを入れられ、更にはヴィータと同じ半眼や呆れの視線が自分に集まっていることを知ったシャマルは、益益芝居がかった動作と声で反論する。

「あ、あんまりだわ!私は花も恥らう繊細可憐な乙女だって言うのに!」

「鼻もほじくる前菜カレーな女?

  ………なんだそりゃ?」

「「「ぷぅっ!」」」

  とんでもない聞き間違いをしたヴィータのセリフを聞いて噴き出した三人と、黙ってはいるが微かに震えて笑いを堪えているザフィーラ。そしてそんな笑いの渦の中心に居る呆然としたシャマル。

  呆然としているシャマルをほったらかしにし爆笑する三人と置いてけぼりなヴィータは好き勝手なことを言い出す。

「くっくくくくくぅっ!見事なボケや!ヴィータ!笑いの神が降りて来とるで!」(一応遠慮しているけど堪えきれずに爆笑)

「そ、そん、なに笑、…っちゃ悪、……いよ、はやてちゃん」(懸命に笑い声を堪えているが顔は完璧に笑い顔)

「あっははははははは!ナイス!ちびっ子!座布団3枚よ!」(気にする事無く大爆笑)

「な、なんだよ?アタシそんなに変なこと言ったのか?あとちびっ子って言うな」

「いや、あの切り返しは見事やで。ホンマ。

  あとシャマルは、『花も、恥らう、繊細、可憐な、乙女』って言うたんや」

「あ、意味は、【花も自分が恥ずかしくなるほど美しい人】、て意味よ。ちびっ子」

「だからちびっ子って言うな。

  ……だけどそういう意味なのか。………なんか図々しいな。

  やっぱり鼻もほじくる前菜カレーな女で十分だ。てかピッタリだ」

「……(必死に笑い声を噛み殺しながら)……だ、だめだよ、そんなこと言っちゃ。

  お、女の人は、見た目と中身、が、年とっても、お、…お、……乙女でいたいんだから…っ」

「いや、図々しすぎだろ、それ。特にシャマルは」

  すずかの言い分をあっさり斬り捨てるヴィータ。

  そして密かに震えだしているシャマルに気付かず、更にズバズバ女心を斬り刻む言葉を放つヴィータ。

「だいたい近所じゃ若奥さんとか若妻とか未亡人とか言われてんだぜ?ばあちゃんって顔じゃねえけど、乙女って言うには見た目5年分は余計だぞ。

  それに最近じゃ中身が完全に噂好きのおばちゃんだぜ?

  見た目も中身もずれてんのに乙女だなんてホント図々しすぎだぞ。鏡じゃなくて自分の日常ビデオに撮っていっぺん観て見ろってんだ」

  容赦無い言葉の斬撃の雨霰を繰り出したヴィータに苦笑している二人を尻目に、アリサは感心したようにヴィータに話しかけた。

「いや、本当にナイスな毒吐きっぷりね。

  見事よ、ちびっ子」

「だからちびっ子言うなって言ってるだろが!

  アタシの名前はヴィータだ!ヴィータ!」

「分かったわ。それじゃあ親愛の念を篭めて、チビータ、って呼ばせてもらうわね」

「全っ然分かってねえだろ!?つか、喧嘩売ってるだろお前!」

「ごめんごめん。なんかヴィータみたいにツンデレしてるのって初めて見たし、それになんだかイジリ甲斐があって、つい」

「『つい』じゃねえ!

  つかアタシはツンデレじゃねえ!」

「いや、ヴィータはもろにツンデレやで?

  特に速人はんに対してはツン3・デレ7っちゅう黄金比や!」

「むむっ。それってたしか男の人が一番嬉しい比率だよね?……やるね、ヴィータちゃん。

  だけどアリサちゃんも負けてないよ?ツン9〜3・デレ1〜7と基本ツン寄りツンデレだけど、好感度やムードで振分が変わる変動型ツンデレだよ!」

「ちょっ!誰がツンデレよ!誰が!?

  千歩譲ってツンは認めてやるけど、デレは無いわよ!デレは!」

「う〜ん………ヴィータもそうやけど、自分がツンデレやって自覚するのも認めるんも難しいんやな………」

  神妙な顔で重重しくポツリと呟くはやてにすかさずツッコミが入る。

「「だからはやて!少なくてもあたし(アタシ)はツンデレじゃないって!(ねえ!)」」

「はっはっはっ。ツンデレはみ〜んなそう言うんやで?」

「どこの魔女裁判の理屈よそれ!?ツンデレじゃないヤツでも普通はそう言うでしょうが!?」

「そうだぜはやて!そこのバーが言う通りだ!そうで―――」

「ちょいと待った!バーって誰よ!?バーって!?もしかしてあたし!?」

「―――なく……………って、会話に割り込むんじゃねえよバー!」

「こっ!?このちびっ子!名前で呼ばないならもちょっとしマシな言い方しなさいよ!」

「うっせえ!お前もアタシをチビータって言っただろが!

  それにそんなに気にいらねえなら、ちゃん付けて言ってやるよ!バーちゃんって!」

「上等じゃない!チビータ改めチビッタ!!」

「チッ!?チッ!?チビッタだと!!?いい度胸だっ!はやてとハヤトの友達だと思って下手に出たら調子に乗りやがって!!

  庭ん出ろ!!アイゼン使わねえで素手で叩き潰してやる!!このバグ女が!!」

「やってやろうじゃないの!速人直伝の護身術で張り倒してやるわ!!」

「けっ!ハヤトに訓練したアタシの攻撃で庭の敷石にしてやる!!」

  颯爽と上着を脱いで庭に出ようとしたアリサとヴィータだったが、すずかがアリサを、はやてがヴィータを引き留めた(タイヤを固定して)。

「お、落ちつくんや!ヴィータ!速人はんやったから怪我しても平気そうに見えただけで、普通の人がおんなじ目に遭ったら最悪ショック死やで!?」

「落ち着いてアリサちゃん!同じツンデレ同士仲良くしようよ!ね!?」

「って!すずかちゃーん!?それ火に油注いでるで!?」

「よし!すずか!あんたにはさっきの比率の事についてとかで色色言いたいし、今から一緒に拳で語り合いましょうか!?」

「アリサちゃん、ツンデレじゃなくてツンギレだとあんまり男の人は喜ばないよ?

  速人さんは色色とマニアックだけど、多分女の人は静かな人が好きそうだからツンギレは止めた方がいいよ?」

「むむむ!?ってことは今速人はんとシグナムは人気の無い所で二人きりやから………もしかして戻ってきた時には…………!?」

「きっと二人とも名前で呼び合う関係になってたり、指先が少し触れ合っただけでお互い微笑み合ったりする仲になってたりして?!」

「っっっつうっ!!?やべえ!ハヤトがおっぱい魔人の毒牙にかかっちまう!

  はやて!ちょっとハヤトんトコに行って来る!」

「だ、大丈夫やって!落ち着きやヴィータ!速人はんはムードとかに流される類や絶対なかて!寧ろムードブレイカーやから!

  っちゅうかすずかちゃーん!火に油どころか爆弾投げ込まんでくれんかな!?」

「え〜?せっかく身近に少女漫画世界への入口があるんだから開こうよ?

  そして牡丹が落ちたり薔薇が咲いたりする失楽の園を覗いてみようよ?ね?」

「少女漫画の世界だけど全然少女向けの世界じゃないでしょが!それ!

  てか、その世界へあたし達を叩き込む気満満でしょ、あんた!

  何が嬉しくて小学生のあたし達が昼ドラの世界に行かなきゃなんないのよ!?」

「あ〜〜〜もうみんな落ち着いてやー!

  シャマルも(はよ)帰ってきてヴィータ止めるの手伝ってやー!」

  最早アリサは眼中に無いとばかりに玄関に向かい出すヴィータをザフィーラと一緒に止めながらシャマルの復帰を願って叫んだはやての言葉だったが、最近乙女でないという認識を最近立て続けに突き付けられてプライドとか何か色色なモノが耐久限界を超えてしまった為暫く呆然としているシャマルの耳には届かなかった。

 

 

 

  ――――八神家――――

  Interlude out

 

 

 

 

 

 

  Interlude

  ――――アースラ――――

 

 

 

「レイジンッ、グハート、が、治ったっ、てっ、ホント、ですか!?」

  デバイスメンテナスルームのドアが開くなり、挨拶もせずにそう大声を上げながら息を切らせて駆け込んできたなのは。

「まだ全部が全部直ったってわけじゃないけれどとりあえず会話なら何とかできる程度には直ったわ。

  だからまず落ち着いたらどうかしら?」

Please settle down. Master.>(落ちついて下さい。マスター)

「良か、たあぁっ。お話すぃ、出来ぃ、る、よぉ、な、たん、だぁっ」

Therefore, please settle down Master.

It falls because of hypoxia when it is the state as it is.?>(ですから落ちついて下さいマスター。

  このままでは酸欠で倒れますよ?)

  懐かしい声に感慨も無く窘められ、少少言いたい事がある様な顔をしたなのはだったが、リンディとレイジングハートの言う通りとりあえず落ち着くことにした。

  消耗しすぎている時に深呼吸出来る技能を持ち合わせていないなのはは何度か荒い呼吸を繰り返し、そして深呼吸出来る程度に回復したら深呼吸に切り替えて落ち着きを取り戻した。

「すうぅっ、はあぁっ、すうぅっ、はあぁっ、すうぅっ、はあぁっ、すうぅ、はあぁ、…………うん、落ち着いたよ」

「それじゃあなのはさんが落ち着いて六人揃ったことだし、これからの事とレイジングハートに何があったかを訊くことにしましょう」

「え?六人って……あ、あれ?フェイトちゃんにアルフさん一体何時の間に?それにエイミィさんとユーノ君も……」

  リンディの言葉に慌てて周囲を見渡したなのは。

  それにアルフが呆れ混じりに答えた。

「アタシとフェイトはなのはが深呼吸してる間にしっかり到着してたよ。エイミィとユーノは多分初めから居たんだろうねぇ」

「あ、そ、そうなんだ」

「そうだよ〜。ここには最初から艦長とユーノ君も居て、フェイトちゃんとアルフは迷惑にならない程度の小走りで直ぐになのはちゃんの直ぐ後にここに来たんだよ〜」

  エイミィから説明を受け納得したなのはだったが、直ぐにアルフからまた呆れ混じりに話しかけられた。

「……だけどあたしとフェイトがちょっと急いで歩いたのとあんまり変わんない速さで走ってたってのに、なんでそこまで息が切れてるんだろね?」

「うっ……」

「たまーに学校覗いてんだけど、身体動かすことはもう下の下かどん底のずんどこかってくらいポンコツみたいだけど、前線向けの魔導師やるんなら魔法使わなくてももうちょい……どころじゃないくらい身体動かせたほうがいいと思うよ。

  フェイトのように頭も良くて運動も凄いくらい出来た方が戦闘するなら絶対イイって」

「……どん底のずんどこ…………」

  悪気も無く純粋に思ったことを言われ、しかも見事に的を射ている為反論できずに気落ちするなのは。

「だ、大丈夫だよ、なのは。

  なのはは遠距離からの砲撃か、硬い守りで近距離からのカウンター狙いとかだから、あんまり身体動かせなくても問題無いって。うん」

It is possible to say, and it is as Alufu says. Master should improve moving ability a little.>(いえ、アルフの言う通りです。マスターはもう少し体捌きを向上させてください)

「レ、レイジングハート……久しぶりにお話出来たってのになんだか容赦ないね……」

  約半月ぶりに話せるようになった自分のデバイスからわりと辛口な台詞をかけられ、若干落ち込みながら戸惑っているなのは。

  そしてそんなレイジングハートの態度を不審に思ったフェイトは、その場に居る者が抱いている疑問を代表するように問いかける。

「ど、どうしたのレイジングハート?

  なんだか不機嫌みたいだけど……」

Attention is only drawn to Master to be able to say, and so as not to become a magic supremacy principle.>(いえ、魔法至上主義にならぬよう注意を促しているだけです)

「え?あたしそんなこと考えてないけど……」

  レイジングハートの台詞に戸惑いながら返事をするなのは。

  そんななのはに辛辣ではないが簡素な否定の言葉を告げだすレイジングハート。

Self-conceiting it was possible to say, and it was defeated at that boy.

  If that boy was treated as well as the wizard and faced, it is likely not to have been defeated easily.>(いえ、慢心していたからあの少年に敗北したのです。

  もしあの少年を魔導師と同様に扱っていれば易々と遅れはとらなかったでしょう)

「う……」

Missing the resolution, the capability, and consideration to it became clear because of that defeat.

Hereafter, please devote your energies from the progress of magic to those improvements to Master.>(それに覚悟も技量も思慮も欠落しているのがあの敗北で浮き彫りになりました。

  マスターにはこれからは魔法の上達よりもそれらの向上に力を注いでいただきたい)

「あう…………で、でもでも、たしかにあたしの力が足りなくてやられちゃったけど、覚悟はしてたし色々考えもしてたよ?」

Yes. It had to have been predictable that that boy showed up if there was consideration among the forecasts breaking of me if there was a resolution.>(いいえ、覚悟があるなら私が壊れることも予測の内ですし、思慮があるならあの少年が現れることも予測できたはずです)

「あうぅぅ…………」

  言っていることは尤もだが以前より若干辛口の意見になっているレイジングハートに、フェイトはなのはへの助け舟も兼ねて反論した。

「レイジングハート、なのはは友達を助ける為に戦いに行ったんだよ?覚悟や技量や思慮も大事だけど、友達を助けたいっていう想いが一番大事なんじゃないかな?」

It is a person who doesn't fight. It is insufficient only in it if it fights.

  ………It was this time and it was felt strongly the earliness for Master to fight. Therefore, I want you to train until the resolution to fight can be done.>(それは戦わぬ者の場合です。戦うのならばそれだけでは足りません。

  ………今回の事でマスターが戦いに臨むには早すぎると痛感しました。ですから私としては戦う覚悟が出来るまで修練を積んでほしいのです)

  その台詞にまたフェイトが反論しようとしたが、それより早く発せられたなのはの言葉に反論することを控えた。

「友達を助けたいって想いじゃ………覚悟にはならないのかな?」

  おずおずと発せられたその言葉だったが、

No.>(その通りです)

あっさりと否定された。

  否定されて俯くなのはを一瞬気遣うように見たフェイトだったが、直ぐに目尻を吊り上げてレイジングハートにくってかかる様に反論した。

「レイジングハート……どうしてそんな事言うの?なのはは自分が傷付くのも構わず私とお話しする為に頑張って強くなったりしたんだよ?

  なのにどうして覚悟が無いなんて言うの?」

  出会った時は自分より遥かに劣っていたが、自分と話す為に力を得ていったなのはを戦う覚悟が無いと言われるのが、それもその時傍に居続けた筈のなのはの相棒たるレイジングハートがそれを言うのが我慢できず、睨み付けんばかりの視線で質問と言うより詰問に近い形で問いかけるフェイト。

  しかしそれに対する答えは先程のなのはに対するものと同じようにあっさり返された。

It is an easy thing. That was not a fight though that was a quarrel. It is only it.

Because there was will kill by Master and you neither or killing.>(簡単な事です。あれは諍いですが戦いではなかった。それだけです。

  マスターにも貴女にも殺す気も仕留める気も無かったのですから)

「そんなの当たり前だよ。非殺傷設定が出来るんだから殺したりする必要なんか無いよ」

The undesirable term has been used. ………It restates it.

  Is Master and you thought oneself was killed and was it thought that rolling a surrounding person and oneself did it?>(不適切な言葉を使ってしまいました。………言い直します。

  マスターも貴女も自身が殺されることを、周囲の者が巻き込まれることを、そして自身がそれを成してしまうことを考えましたか?)

「っ!だからそんなの非殺傷設定を使って結界を張ればありえないよ!」

However, you had to have been dead if having hit it directly even if it was magic set not to kill to that boy at that time.>(しかしあの時あの少年に非殺傷設定の魔法であっても直撃させていたなら死んでいた筈です)

「!!」

In a word, this. If magic was shot at that boy at that time, mastering might have killed the family of friend's friend and the friend. It became in the fact, and, mastering might suffer, and become a heavy trauma.

  It is different from the motive with the resolution to fight whether the fact that I caused by the fight is caught.>(つまりそういうことです。もしあの時あの少年に魔法を放てばマスターは友人の友人、若しくは友人の家族を殺していたでしょう。そしてその事実にマスターは苦しみ、重いトラウマにもなったでしょう。

  戦う覚悟とは自身が戦いの結果起こした事実を受け止められるかどうかということで、動機とは違います)

  尤もなことを述べられ消沈するフェイト。

  そしてなのはまでなら兎も角、フェイトまで論破されて黙っていられないアルフがフェイトの仇とばかりにくってかかろうとしたが、

In a word, are you telling the person who doesn't have your Master, it, and the resolution not to fight?>(つまり君は君のマスター、それとその覚悟が無い者に戦うなと言っているのか?)

何時の間にか待機状態でフェイトの胸元辺りに浮いていたバルディッシュがレイジングハートに問いかけ、出鼻を挫かれてしまったので不機嫌そうに黙り込んだ。

Yes. I do not have a mind to limit the master and the action in the other only by advising.

  I am a person supported to treat the power most efficiently when the master acts, and the current advice agrees it is presumptuous.>(いいえ。私は忠告しているだけでマスターや他の方の行動を束縛する気はありません。

  私はマスターが行動をする際、その力を最も効率的に振るえるよう補佐する存在で、先の忠告が僭越とは承知しています)

<………Then, there is no said thing from me.

  Ser and Alufu should also refrain from the controversy more than advice and practical this. Because the talk doesn't seem to advance.>(………ならば私から言う事は無い。

  サーとアルフも忠告と割り切りこれ以上の論争は控えるべきでしょう。話が進みそうにありませんから)

  同じデバイスとしてレイジングハートの台詞に何か感じるものがあったのか、それ以上の追求を止め、フェイト達にもそう促すバルディッシュ。

  そしてフェイトは消沈しながら、アルフは淡淡といった感じで追及を取り下げた。

  そんな二名と未だ落ち込んでいるなのはの成り行きを黙して見ていたリンディだったが、バルディッシュが会話の軌道を修正してくれたのでそろそろ話を進めようとレイジングハートに尋ねた。

「色々耳に痛い話だったけれどバルディッシュの言う通りとりあえずは忠告として胸に留めるとして、レイジングハート。訊きたい事があるのだけれど、いいかしら?」

It is good.>(どうぞ)

「それじゃあ………って、なのはさん。落ち込むのは分かるのだけれど、これから重要な話………レイジングハートが何故音信不通になったのか、と、これからどうするかを話し合うから、落ち込んでいるところ本当に悪いのだけれど聞いていてちょうだいね?」

「あ、……は、はい」

<………Master. It is not because only it makes all of Master valueless even if there is no resolution to fight.

  It is a thing to be at the same time precious worthy though the desire of Master who tried to go to help the friend at that time is at least shallow-brained. I think at least so.>(………マスター。たとえ戦う覚悟が無かったとしても、それだけでマスターの全てが無価値になるわけではありません。

  少なくともあの時友人を助けに赴こうとしたマスターの想いは浅慮ですが、同時に貴く価値のあるモノです。少なくとも私はそう思っています)

「…………うん。…………レイジングハート、…………ありがとう」

No problem.>(お気になさらず)

  そんなやり取りを経て結構回復したなのはを見てリンディは微笑み、それから和んだ気持ちを心持ち引き締めてからレイジングハートに尋ねた。

「それじゃあなのはさんも元気になったところで改めて尋ねるけれど、どうして音信不通……と言うか機能不全になったか解るかしら?」

It doesn't understand. Because the record of that time remains only in the splinter, it is not predicable though seems that it is a cause to have poured a large amount of magic in me when a large current and Master of a high voltage fainted though it is a guess.>(解りません。おそらく高電圧の大電流とマスターが前後不覚になる際に私に大量の魔力を注ぎ込んでしまったのが原因かと思われますが、その時の記録は断片でしか残っていませんので断定できません)

  それを聞きちらりと確認の意味を篭めてエイミィを見るリンディ。

  そして視線の意味を理解しているエイミィはレイジングハートの言葉に続いた。

「本当ですよー。電流が流れた思われるあたりの記録は酷い虫食い状態です。しかもその辺はデータ破損じゃなくて純粋に記録されているデータの不足ですから、修復・最適化しても修理の糸口掴めなさそうでしたんでそこのデータ修復や最適化を後回しにして地道に修理したんですよー。

  あ、ですんで電流受けたとされる辺りのデータは殆どそのまんまです。けど時間さえかければレイジングハートでも修復や最適化できます。

  それと今のレイジングハートは会話するのが限界で、デバイスとしての機能を完全に復旧させるにはあと10時間くらいかかりますね。……だいたい宵の口辺りですね」

「そう………。レイジングハートは速人君………なのはさんに攻撃を仕掛けた子だけど、その子が意図してそんな状態にしたと思う?」

No. There is not the trace that magic was used for at least, and the judgment materials which I intend that boy without the trace that the machine was used for besides a stun gun, and it is possible for in a function stop state with me forcibly are not found.

(思いません。少なくとも魔法が使用された形跡は無く、機械もスタンガン以外使用された形跡も無く、あの少年が意図して私を強制的に機能休止状態に出来る判断材料が見当たりません)

「………まあ……そういう結論になるわよね…」

  自分達の推測通りの情報と結論だった為、落胆とまではいかなくても単なる事故として片付ける事になった為どこか釈然としない返事をするリンディだったが、子供である速人が犯人ではないという結論が出たことで、子供を逮捕せずに済んで良かったと思うことで納得した。

「うん。………ならこの件は事故として処理するわね。なのはさんもレイジングハートもこの決定に異論は?」

「ないです」

<…Yes.>(…同じく)

  なのはは自分が攻撃されたとはいえ、なんだかんだで友達のアリサの為に大怪我した速人を悪人とは思っておらず、故にそんなことはしないだろうと思った為深く考えずに即答し、対してレイジングハートはなのはが即答した経緯を大凡把握していたが、信じるところから始めるのはなのはの欠点だが同時に得がたい美徳と思っているので特に異論を挟まず、そしてなのはと違って客観的に分析した後なのはの言葉に追随した。

「それじゃあ次は闇の書について分かったことなんだけど……」

  そう言って説明を調査したユーノにしてもらうよう眼で促すリンディ。

  そしてユーノから闇の書について語られた。

 

 

 

―――

  ロストロギア・闇の書。

  正式名称【夜天の魔導書】。通称夜天の書。

  作製年代不明。

  作製目的は各地の優れた魔導師の技術を蒐集し研究材料と成す為。

  搭載機能は蒐集と復元と転移。そして夜天の魔導書とその主を守護する為に存在する四名から成る守護騎士【ヴォルケンリッター】。

 

  この夜天の魔導書の頃はただの旅する魔導書で、記されている中身を危険視する声はあるものの殆ど無害なものだったらしい。

 

  しかし何代目かの夜天の魔導書の主がプログラムを改変。

  結果、転生機能や無限再生機能を得、それだけでなく蒐集完了後の暴走と長期間蒐集を行わない場合主のリンカーコアの侵食という機能まで搭載されてしまう。

  そしてこの頃から暴走による大規模破壊と大量殺戮が原因で【闇の書】の別称を付けられ、何時しか元来の名は忘れ去られる。

 

  そして闇の書と呼ばれるようになって現在に至るまで幾度も暴走し数数の文明を主諸共滅ぼし続け、管理局が幾度も事態の解決に及んだが、蒐集完了前に闇の書の改変を主以外が試み、そして闇の書のプログラムに干渉すると主を巻き込んで転生する安全機能が搭載されており、たとえ闇の書を消滅させても転生機能と無限再生機能により主に相応しき者の元へと転移し、また同様の事を繰り返し暴走に至るので封印も破壊も極めて困難とされており、現在までの対処は全て暴走後に闇の書を主諸共に消滅させるという後手しか採れておらず、根本的な解決法には成り得ない対処だった。

―――

 

 

 

  ユーノから語られた新たな情報に沈黙するなのは達。

  そして語られた事の全てを理解しているわけではないが、それでも早早に確認しておきたいことがあったのでユーノに尋ねるなのは。

「……ねえユーノ君。……もしあの人達が蒐集を止めたら主の人はどうなるの?」

  訊かれるとは思っていたが、正直あまり訊かれたくない事を訊かれ、どうしたものかと思いながらもちらりとリンディをユーノは見やり、特に制止も無いので嘘を吐かずに話す。

「どれくらいの確立とは言えないけど、治る可能性は有ると思うよ」

「!じゃあ治るんだね!?」

「…まあ絶対とは言えないけれど……」

「それでもいいよ!治るかもしれないならあの人達だってあんなことしないで済むんだから!」

  レイジングハートももうすぐ直るので、今度会った時にこれで戦いを止められると喜ぶなのは。

  対してユーノはリンディとエイミィと一緒に複雑な心境だった。

  嘘は何一つ言っていないが敢えて伏せていることが幾つも在り、もしそれらを全て伝えればなのはが酷く苦悩するだろうと思ってユーノはそれらを伏せ、リンディとエイミィも敢えてそれを指摘しなかった。

  余計な事とまではいかないが、知ってもどうしようも無い上に苦悩の種にしかならないならばいっそ黙ってようというユーノ達なりの気遣いだった。

  だが次に守護騎士達と遭遇した時、この事を話せば本気で争いが終わると思っているなのはの姿を見、やはり全て話すべきだったかと一瞬ユーノ達は思ったが、訊かれるまでは黙っていようと思い直したので口を噤んだ。

  そしてなのはほど浮かれてはいないがアルフもこれで聞く耳くらいは持つだろうと気楽に考えていたが、フェイトは未だ黙り込んで考えていた。

  が、何かしらの疑問が明確な形を成したらしくユーノ達に恐る恐る尋ねだした。

「闇の……………夜天の魔導書の守護騎士達は人間じゃないんですか?」

  自身の生い立ちがトラウマになっており、『人間か人間でないのか?』ということに強い拘りを持っているフェイトの問いにユーノはどう答えたものかと悩んだが、それに関してはリンディが答えるつもりのようで、ユーノを眼で制してフェイトの問いに答える。

「フェイトさんの言う通り彼女達は人間ではないわ。そしてその実態は夜天の魔導書……今は闇の書と言うけれど、とにかく書に因り作られたプログラムが彼女達よ。

  一見人間のように見えるけれどプログラムである彼女達には一定の限界が定められていて、どうあがいても人間のように完全な自由意志で行動できないわ。

  つまり彼女達はあなたと違って人間ではないし、あなたと違って全ての行動を自らの意思で決することは出来ないわ。

  ………何を悩んでいるのかは訊かないけれど、少なくともあなたは彼女達とは違うわ」

「…………はい………」

  微妙に自分の悩みから外れた励ましだったので自分が知りたい答えは得られなかったが、それでもその言葉のおかげである程度気を持ち直したフェイトはとりあえず悩みに蓋をした。

  そしてまだどこか落ち込んだ感じのあるフェイトを見、やはり息抜きを兼ねた気分転換が必要だろうと思ったリンディはクロノが戻ってくるまでの間だけだが、せめてなのはと一緒にすっぽかした友人とのイヴを満喫してもらおうと思って二人に話しかける。

「え〜と、今は特にこれ以上話す事は無いからフェイトさんもなのはさんも地球でお友達とイヴを楽しんでくるといいわ。

  …………まあクロノの情報が深刻で緊急性の高い情報なら急いでアースラに来てもらう事になるかもしれないからゆっくり出来ないかもしれないけど………」

「うぅー………まあそのときは仕方ないんであきらめます」

「ほんとごめんなさいね」

「リンディさんが気にしなくてもいいですよ。

  じゃあ時間がもったいないし直ぐに行こっか?」

「うん。

  あ、アルフは……」

  そういって自分の方を振り向いたフェイトにアルフは笑いながら答えた。

「あたしはここでのんびりしてるからフェイトはなのはと一緒に楽しんできなよ。

  あ、出来たらお土産はほしいけどね」

「わかった。それじゃあお土産買って帰ってくるね」

「期待して待ってるよ。

  んじゃあ気をつけてね」

「うん。美味しいの買ってくるよ」

「じゃあ行こっか、フェイトちゃん」

  そう言ってフェイトの手を引いて部屋を出て行くなのはとフェイト。

  しかし部屋を出た後ドアが閉まる前になのはは慌てて部屋に戻ってきてエイミィに話しかけた。

「エイミィさん、レイジングハートのことお願いします。

  …………今みたいに喋れる様に戻っただけでも嬉しいですけど、やっぱりあたしはレイジングハートと一緒に魔法を使って戦いたいから………だから………お願いします」

  頭を下げて頼み込むなのはを微笑みながら見ていたエイミィはその表情を崩さずに返事をする。

「了〜解。今日中にはお望み通りに出来るから安心してていいよ。

  だからなのはちゃんもしっかり楽しんできなよ?」

「はい。それじゃあみんな、今度こそ行って来ます」

See you Master.>(また後で会いましょう、マスター)

「うん。

  じゃ行こっ。フェイトちゃん」

  そう言ってなのははリンディ達に見送られながらフェイトの手を引いて出て行った。

  それを見送った後アルフは伸びをして体を解しながら誰にはともなしに言い出す。

「それじゃああたしはフェイトが帰ってくるまで寝てるから」

  それだけ言うと犬形態に変化してその場でアルフは丸くなり、リンディとエイミィは各各の仕事に携わる為にその場を離れ、ユーノは連日徹夜で調べ物をしていた疲れから仮眠を取るべくリンディたちと同じくその場を離れた。

 

 

 

  その後誰も居なくなった部屋で悠悠自適に寝ていたアルフだったが、1時間と少しで食欲を誘う香りで眼を覚ますとそこには御土産のローストチキンとその他を持ったフェイトとなのはが居り、非常召集でもないのに何故そこに居るのかと疑問に思いアルフは二人に尋ねた。

  すると二人が言うには、先にアルフのお土産を買っている最中にアリサからの電話で明日はやての家でクリスマスパーティーと速人の誕生日祝いをするからその時全員腹を割って話し合おうと言われ、ならば非常召集で場を引っ掻き回す可能性が高い今日は会いに行かずに会うのは明日にした方が良いだろうと思い戻ってきたとのことだった。

  そしてその後リンディ達にも同様の説明をし、明日どれだけ魔法のことを話してもいいものかと悩んでいた面面だったが、アルフの『とりあえず全部話して、魔法の事をバラされたら白を切り徹す』という割と適当気味な案が可決された。

  そして色色と明日への不安はあるものの、とりあえずは成る様に成ると覚悟を決め、御土産を温め直して皆で和気藹藹と食べていたが、丁度食べ終わる頃戻ってきたクロノから聞いた話に皆気を引き締めた。

 

  恐らく次の出撃が決戦になるだろうということもあり、アースラの空気は緊張と警戒に満たされていた。

 

 

 

  ―――― アースラ ――――

  Interlude out

 

 

 

 

 

 

  Interlude

  ――――八神家――――

 

 

 

「あー〜……何か無闇矢鱈と疲れたわ」

  グッタリと、だらしないというよりはしたない格好に近い体勢で溜息混じりにそう零すアリサ。

「ははは。そやけどあたしは楽しかったで。こう……なんちゅうか……いっぱいいっぱいちゅうか無我夢中な感じが」

  アリサと同じく異性の速人が居ないのでかなり無防備な体勢でそう言うはやて。(はやての中でザフィーラは普段は異性から除外されている)

「私も楽しかったよ。

  ……少女漫画の世界にならなかったのは残念だけど」

  色色と爛れ気味というか一般から外れ気味な感性を持っているすずかだが、アリサとはやてと違って身嗜みを整えてから寛ぎつつそう言う。

「そんなの見ようとしたらぶっ飛ばすぞ。アタシははやてとハヤトが悲しむのは見たくねえんだからよ。

  けど……まあ………さっきの時間は……………悪くねえな」

  羞恥心皆無と言われても致し方ない格好でそう言うヴィータ。

「結局誰も慰めてくれなかったのはきつかったですけど、私も楽しかったです。……ええ、本当に少しキツカッタですけど」

  放置されていたので服装は乱れておらず疲れてもいないので、遅くなりすぎた昼食の準備をしながら言うシャマル。

≪…………≫

  アリサとすずかがいるのではやてに念話を送っても返答できないので沈黙するザフィーラ。その代わりにはやてとヴィータに顔を動かしてシャマルが食事の準備をするという不穏な動きを見せていることを知らせる。

「……って、おいシャマル!お前なに地獄を作り出そうとしてんだ!」

「シャマル、お願いやからやめて。

  あたしはわざわざ傷つける言葉や仕草をしとないんや」

「……………………只管失礼ですね。

  ……………………大丈夫ですよ。これは速人さんが事前に作ってくれた昼食ですから」

  それを聞き一気に安堵するはやてとヴィータ。

「あ、それなら安心やな」

「そうだな。ハヤトの飯はシャマルの飯モドキと違って危険物じゃねえからな」

「モドキって…………くっ……美味しくなくてもあれはきちんとしたご飯です

  口惜しそうに小声で反論したシャマルだったが、それに容赦ない反論がぶつけられた。

「シャマル。悪いんやけどアレは美味しくないんやなくて、『不味い』やで。しかも食べれへんほどの」

「つうかアレは食いモンじゃなくて毒だって。まずそこを認めろよ。

  全部食ったハヤトがぶっ倒れて顔紫色になって震えたり息が変になったりしたんだぞ?」

「そ、それは最初の時だけです。その次からはそうじゃなかったじゃないですか」

「いや、毎回速人はんは顔紫にして具合悪そうにしとるで?」

「そ、それは速人さんはきっと体が弱いのよ。うん。

  だってはやてちゃん達はいつも平気なんだから」

「体が弱い人が食えん料理って、普通無いで?

  特に食べてすぐ具合悪くなるような料理は………」

「それとお前の飯モドキ全部腹に流し込んでるのはハヤトだけだぞ?

  はやての物を無駄にするなってのを守ってるのと、材料が毒じゃないからってアタシ達が必死に止めてるのに腹に流し込んでるけど、そろそろ死にそうだからお前は料理すんな。どうせ料理は出来上がらねえんだからよ。

  つか、速人が危険物を腹に流し込むのをアタシ達が止めてたの、お前都合良く忘れてただろ?」

「……え?あれって私のご飯を奪い合っていたんじゃ………」

「ごめん、シャマル。それ冗談でも本気でも笑えんわ」

「お前一度精密検査してもらえ。特に頭」

  容赦無い言葉の集中砲火を浴びてまたもや撃沈するシャマル。

  撃沈したシャマルをヴィータとはやてはとりあえず放って措き、シャマルが準備していた昼食の準備を代わりに進めていく。

「え〜と、中身はサンドイッチみたいやな。

  かなり多めに有るみたいやから、すずかちゃんとアリサちゃんの分も十分やな」

「はやて〜、取り分けんの面倒だからそのまま食おうぜ」

「ちょい待ってや、二人に聞いてみるから。

  すずかちゃーん、アリサちゃーん、取り分けんでも良かかな?」

「うん、べつに構わないよ」

「あたしもそれでいいわよ〜」

  あっさりと二人が了承したのではやてはサンドイッチなどが入ったクーラーボックスをテーブルに持って行き、ヴィータには皿等を用意してもらうことにした。

  そしてはやては中身が入っていて重いクーラーボックスを何とかテーブルの横に置き、アリサ達に手伝ってもらって弁当箱(重箱型の保温機能付き)をクーラーボックスから取り出してテーブルに置いて蓋を開けるとアリサとすずかから感嘆の声が上がった。

「うわ!カツサンドにベーグルサンドにロールサンド!」

「こっちはアイスサンドにフルーツサンドだよ!」

  本格的なサンドイッチの数数を見て驚くアリサとすずかを見たヴィータは、皿とコップをテーブルと床のザフィーラの前に置きながら自慢気に胸を張りながら二人に話しだす。(ザフィーラはコップの代わりに丼)

「へへ〜。はやての料理もギガうまだけど、ハヤトの料理も負けねえくれえギガうまだぜ?」

「へぇ〜、はやての作ってくれた料理の腕はこの前シグナムさんが届けてくれたお菓子で知ってるけど、速人の料理はお茶以外知らないからちょっと楽しみね。

  あ、はやて。手を洗うから流し場借りるわよ?」

「あ、私も借りるね?」

「構わんよ〜。てか、あたしもヴィータもまだ手洗っとらんかったから洗わんとな」

「あ、はやて、アタシは皿出す時に洗ってるぞ?」

「そうなん?

  なら待っとる間シャマルを復活させといてくれんかな?」

  と、今まで落ち込んで立ち尽くしているシャマルを見てそう言うはやて。

「任せてくれ。

  この前爺ちゃん達に教えてもらった壊れたモンの直し方を試してみたかったしな」

  そう不穏な台詞を発したヴィータを「やりすぎんようにな?」とはやては言い残し、三人は連れ立って流し場に移動して手を洗った。

 

 

 

  三人が手を洗っている最中「斜め45度!」とか「抉りこむ様に!」とか「刹活●!」等、間違った対処法にしか聞こえない掛け声から始まり、次第に間違いと言うより関係ない上危険そうな掛け声とシャマルの細い悲鳴が聞こえた頃はやて達がリビング戻ると悶絶しているシャマルと乾いた笑いのヴィータが居た。

「………あ〜………一応想像はつくんやけど、一応聞いとくわ。どないなっとるん?」

「いや、この前爺ちゃん達が調子が変なのは斜め45度で叩いて直すんだって聞いたから叩いたんだけどさ………蹲って小声で笑いながら震えるようになっちまっただけで上手くいかなくてさ………他に教えてもらったの試していったら…………こうなっちまった………」

  そう言って床で痙攣しているシャマルをバツが悪い顔で示すヴィータ。

  微塵も艶を感じさせない痙攣を繰り返すシャマルを見ていたはやて達だったが、怪訝な顔をしたアリサがヴィータに話しかけた。

「色々やったってのも気になるんだけど……そもそも最初斜め45度とか言ってたけど、何処を45度に叩いたのよ?」

「どこって……頭には届かねえから、しょうがねえから首を真正面の下から斜め45度にチョップだぞ?」

  その言葉を聞き、アリサ達は頬を引きつらせた。

  そして頬を引きつらせながらもはやてが諭す様にヴィータに話しかける。

「あ、あんなぁヴィータ?初めに叩いて蹲ったのって………笑ってたんやなくて悶絶しとったんやと思うで?」

「え!?で、でもハヤトはシグナムと訓練してっ時、首蹴られて浮き上っても直ぐに動いてたぞ?

  アタシがやったチョップはメッチャ手加減してっから、浮き上がるどころかチョコッと後ろに動く程度だぜ?」

「いや…………速人はんを基準にしたらあかんて………」

  何の事だかよく分からないアリサとすずかだが、速人を基準にするなということだけは同感なのか力強く頷き、静観していたザフィーラも頷いていた。

「え……いや……だけどよ………ハヤトは技とか頭とかはスゲエけど、体は子供だろ?なら子供が別にどこもおかしくならねえなら大人のシャマルなら平気かなーって………」

「いや、その理論は分からんでもなかけど……今度からは普通にそこらを歩いてる人にやっても大丈夫そうなツッコミに威力抑えよな?」

「あう………分かった。悪かったなシャマル…………て、ありゃ?寝てんぞ?」

  足元で何時の間にか静かな呼吸を繰り返すシャマルの頬を突付きながらそう言うヴィータ。

  そしてそのヴィータにアリサは呆れながら突っ込みを入れる。

「………どう考えても悶絶の果てに気絶したようにしかあたしには思えないけれど?」

「でもそのわりには何だかすっごく幸せそうだよ?」

「確かに幸せそうなんやけど……なんか不気味な表情の混じった顔しとらん?」

「たしかにそうね……こう……微笑以外に恍惚と愉悦が混じった微妙な顔よね」

「……よく判んねえけど、なんか気持ちよそさそうだから起こすの止めとくか?」

  ヴィータの言に一同シャマルの顔を見やり、過程は兎も角結果としては起こすのが気の毒な程の幸せそうな笑顔と、関わり合いになるのを遠慮したくなる表情を浮かべているので、とりあえず無理に起こさなくてもいいだろうという結論に全員至った。

  眼で会話した後ヴィータはシャマルの頭側から脇の下を抱えて引き摺りながらはやて達に告げる。

「んじゃここじゃ邪魔だから隅の方に置いとくな。

  あ、ザフィーラ、一応風邪ひかねえようにタオル持ってきてくれ」

  その言葉を受け無言でタオルを取りに行くザフィーラ。

「………なんか普通にザフィーラに言葉通じてるのがすごいわね」

「って言うか通じるのが当然と思ってるヴィータちゃんや、それを不思議に思わないはやてちゃんがもっと凄い気がする……」

「いややな〜、こんくらいは序の口やで?速人はんならザフィーラとアイコンタクトが出来るで?」

「………なんだか速人ならアイコンタクトどころか犬語とか猿語とか象語とか普通に出来そうよね……」

「いや象語は無理なんじゃないかな………確か像の声って人が喋れない程の低さだった筈だし……」

「………っちゅうか普通に犬語と猿語は出来ると思うとるんやね」

  苦笑い気味にツッコミを入れるはやて。

「だって……ねえ?」

「うん………」

「………まあその辺は深くツッコまんとくわ。

  さて…とっ。シャマルが欠けてもうたけどご飯にしよか?」

  その言葉に異論のある者は居らず、不気味とも珍妙とも奇怪ともいえる表情をしたシャマルを視界に入らない場所に置き、はやて達は遅めの昼食をとりだした。

 

 

  ・・

  ・・・

 

「あー〜、やっぱり速人は凄いわね。

  料理のスキルに執事のスキルにメイドのスキル、さらに用心棒のスキルに医学・語学・政治・経済・物理・雑学とおまけにほとんどの乗り物扱えるんだもの。

  もう家に一人居れば隆盛間違い無しだから、さながら座敷童ね」

「うーん。座敷童にしては全然可愛気が無いと思うけど?」

「それに関しては同感やな。

  速人はん無表情か能面の様な無貌かのどっちかやからな〜。……咳する時とかも全然表情変わらへんし」

「あーー、アレを初めて見た時は無表情さも筋金入りだと呆れちゃいましたね」

「そんでその後はやてとくすぐったりして笑わせようとしたんだけど、全然駄目だったんだよな〜」

  食事も済み、はやて達はお茶を楽しみながら会話に花を咲かせていた。(シャマルは食事の中盤辺りで起き、色色と文句を言いたげだったがとりあえずそれらを飲み込み、何事も無かったかのように食卓に着き現在に至る)

「で、その後ムキになったヴィータちゃんが速人さんの靴下とかシャツとかを剥ぎ取って、同じくムキになったはやてちゃんと半裸の速人さんを撫で回したのよねー」

「ちょ!?シャマル!?」

「そうそう。なのにハヤト全然ピクリとも笑いやがらねえんだよな。

  はやてが疲れてそのまま寝ちまうぐらい一緒にやったのによー」

「寧ろ擽っている最中のはやてちゃんとヴィータちゃんが凄い笑顔でしたね。

  あと半裸の速人さんの胸に顔を埋めて寝ているはやてちゃんは、まるで天使の様に可愛い寝顔でした」

「ちょーシャマルさーん!?」

「あー、あん時のはやてスゲエ幸せそうでイイ顔だったよな。

  ……たしか写真に撮ってたはずだよな?」

「ええ。もうそれはばっちりくっきり鮮明に。

  ……見てみますか?」

「お断―――」

「「―――ぜひ見せて下さい」」

  顔を真っ赤にして断ろうとしたはやてだったが、興味深そうに聞いていたアリサとすずかに力強く言葉を被せられ意見を封殺される。

「はいはーい。了解しました。」

  軽快に去って行くその後姿を呼び止めようとはやてが声を上げかけるが、

「いやあ、さっすが速人とはやてね。

  話題に事欠かない生活送ってるわね〜」

と、晴れやかな笑みを浮かべながら話すアリサに口を塞がれ、

「もしかしてはやてちゃんも速人さんがくすぐるために裸だったり……きゃーっ!」

嬉しそうに顔を赤くして喜色満面の笑みのすずかに車椅子を漕いでシャマルを止めようとした腕を絡め撮られていた。

  行動不能になったはやてはヴィータに眼で助けを求めるが、

「大丈夫だって。はやての寝顔、スッゲエ幸せそうで綺麗だったからこいつらもぜってー見惚れるって」

勘違いのフォローを受け、最早頼れる味方が居ないと思ったが、ザフィーラが居た方へ視線を向けた時、丁度シャマルがアルバムを持って登場し、終わったと脱力するはやて。

「もう、はやてちゃんもそんなに落ち込まないでよ。

  そりゃ恥ずかしいかもしれないけど、その時の速人さんの艶姿も見れるんだから、そんなに悪いことばかりじゃないと思うわよ?」

「う…」

「そうだぜはやて。

  はやては綺麗で可愛いかったけど、ハヤトは綺麗でカッコ好かったんだぜ?」

「うぅ……」

「さすがにはやてちゃんがどうしても嫌だって言うなら仕舞っちゃいますけど、どうします?」

「うぅー………」

  ちらりと左右を見ればいつの間にか拘束を解いたアリサとすずかが、肩をすくめたり苦笑いしながら眼で無理強いはしないと告げていた。

「ううぅぅーー、…………なんか無性にはめられた感じがするわ」

  自分の痴態(と、はやては思っている)を人に見られるのは嫌だが、盛り上がった場を白けさせるのも嫌で、結局羞恥心と雰囲気を秤に乗せ、結果少少雰囲気が重かったので渋渋だが承諾の首肯をするはやて。

「あー〜あ、速人はんやったら空気気にしないで少しでも嫌ならスパッと断るんになー」

「諦めなさい。速人の空気読んでも気にしないスキルはランクEXってとこよ。

  真似しようと思って真似出来るレベルじゃないわ」

「だよね。むしろはやてちゃんは【空気が読めても流される:A(乙女チック展開限定時:EX)】持ちで正反対だからね」

「あ、それ分かります。

  はやてちゃん期待されると割と簡単に流されますからね」

「うぅー、そんなに流されやすうないと思うんやけどな……」

「大丈夫だって。はやて、前に怒った時スゲエ頑固だったぞ?」

  ヴィータにそう言われ、基本的に温厚で怒ることが少ないはやては直ぐにいつぞやか金融機関銃撃戦があった日の出来事を思い出した。

「………うーん、あれは頑固って言うより、単に聞く耳持つ余裕無かっただけのような気がするんやけどな……」

  当時の自分の対応を思い返し、苦笑と思案顔の中間の表情で返事をするはやて。

「はやてが怒った時のことも知りたいけど、とりあえず今ははやての寝顔を見せてもらうわよ。

  ってわけなんで、シャマルさん、早速見せてください」

「はいはーい」

  軽い返事をしながらシャマルはアルバムから防水加工(ラミネート)された画像を一枚取り出して机の上に置いた。

  すでに見たことのあるシャマルとヴィータは三人がどういう反応をするか楽しみに観察していた。

  そして観察されていると気づいていない三人は机の上に置かれた画像を覗き込んだ。

「………(赤面)………」

「………(朗らかな微笑み)………」

「………(柔らかな微笑み)………」

  三人が黙り込んで注視している画像にはシャマルとヴィータが言ったとおりはやての寝顔があり、その画像は正しく芸術の域にあるはやての幸せな寝顔だった。

 『幸せそう』などと言う曖昧な憶測を孕んだ表現ではなく、僅かでも幸せを感じたことがある者なら必ず『幸せ』と解る寝顔であり、形容も女神や天使と言い切っても納得してしまうぐらいのモノだった。

  そんな画像をアリサとすずかは幸せが伝播したように微笑みながら注視し、はやては自分がそんな顔をしていたのが恥ずかしくて赤面していた。

  そしてそんな三人を見ていてシャマルは微笑ましい顔をしながら、しかし内心で三人が狼狽えるさまを楽しみにしながら更に一枚の画像を机に置いた。

「………(耳まで真っ赤になる)………」

「………(赤面しながらの微笑み)………」

「………(かなり強めの微笑み)………」

  新たに差し出された画像ははやての寝顔があるのは変わらなかったが、今度は視点が遠ざかった為速人も存在していた。

  そして構図は大き目のクッションと乱雑に丸められた掛け布(はやては知らないが絹)を壁に押し付けてベッドの上で凭れ掛かっている半裸の速人と、先ほどの寝顔でその胸に寄りかかって寝ているはやてだった。

「………(何かを喋ろうとしているが声にならず口だけ動いている)………」

「………なんか滅茶苦茶退廃的に見えるのになんでこんなに和むのかしら………」

「………なんだか天井を仰ぎ見ながら煙草吸ってたらもっと絵になってそうだね………」

  三人のそれぞれのリアクションに満足した後シャマルは最後にと取っていた一枚を机の上にそっと置いた。

「………(全身真っ赤にして茫然自失)………」

「………(全身真っ赤にして声も出さずに口だけ動かしている)………」

「………(僅かに頬を朱に染めて凄く嬉しそうにとても凄く強めの笑みで画像を凝視)………」

  差し出された画像は先程の画像より更に視点が離れていて、そして二人にシーツがかかっているのが先程のと目立った相違点だった。

  が、シーツのかかり方が見事に速人とはやての服の部分に全て覆い被さり、そして肌が露出しているところは殆ど覆い被されておらず、情事の後の様にも見えてしまう画像だった。特に幸せなはやての寝顔と無表情だが若干気疲れしたとも見えるような速人の表情、そして擽っているとき少し引っ掻いたのか肩の辺りの蚯蚓腫れから滲む血が情事の後に見える要素に拍車をかけていた。

「………(全身真っ赤にして茫然自失中)………」

「………(全身真っ赤にしてはやてと画像を震える指で交互に指し示し声無き声を出している)………」

「………(艶っぽく溜息を吐き)これを投稿したら絶対優勝しちゃうね………」

  と、今まで沈黙を保っていたヴィータがすずかの言葉に誇らしそうに胸を張りながら肯定しだした。

「だろだろ!?はやてもハヤトもスッゲエ綺麗で可愛くてカッコ好くてぜってー1番取れるぜ!

  おまえもそう思うだろ!?」

「うん。これなら児童ポルノ法を敵に回してでも掲載されるよ」

「………すずかちゃーん。別に児童ポルノ法に触れるような画像じゃないわよ、コレ」

「大丈夫です。この画像とこの画像の前後の状況はしっかり脳内補正してますんで、どこから見ても児童ポルノ法に触れます」

「………それって補正じゃなくて改竄や捏造って言うんじゃ………」

「この程度のことは補正ですよ?

  現に今時の女の子はみんな普通にこの技能もってるらしいですよ?」

「………普通って何なのかしら………」

  ポツリと呟いたシャマルの声ははやてと速人の自慢をするヴィータと腐女子と言えなくもない返答をしているすずかには当然届かず、未だ茫然自失のはやてと混乱しているアリサにも当然届かず、唯一その言葉が届いていたのはザフィーラだけだったが軽く溜息を吐くだけでシャマルの呟きの答えにはなっていなかった。

「……えーと……もしかして………すずかちゃんの暴走の原因って…………私?」

  躊躇いがちに呟かれた言葉には誰も応えず、ただザフィーラが溜息を吐くだけだった。

 

 

  ・・

  ・・・

 

「な〜るほどね。どうりでクリスマスパーティーにしてはやたらと気合が入ってると思ったけど、速人の誕生日だったとはねー。

  たしかにそれなら気合も入るわよね」

「でも意外と言うか何と言うか速人さんらしい誕生日だよね。

  私としては2月29日かはやてちゃんの誕生日と同じ日かとも思ってたんだけど」

「あーたしかに。それはあたしも思ったわ。

  他にも終戦記念日とかベルリンの壁崩壊日とか、兎に角意表を突く誕生日なんだろうとは思ってたわ」

「アリサちゃん鋭いで。実際クリスマスっちゅう以外にも驚く要素はあったんや。詳しくは秘密やけどな♪」

「うわぁー、凄くいい笑顔で秘密宣言するわね」

「きっと速人さんと二人だけの大切な思い出なんだよ。多分人に言えないぐらい恥ずかしい内容の」

「シャマルさーん!どうもシャマルさんの影響ですずかの壊れ具合が加速してるんですけど、どうにかしてくれませんか−?!」

「え?!わ、私のせいですか?!」

「他にも色々あるだろうけど、やっぱ一番の原因だと思うぞ。

  すずかが貸りてった本ってほとんどシャマルのだろ?」

「で、ですけど私より速人さんの方が性格に与える影響は大きいと思いますけど……」

「や、ハヤトが原因で変わるなら、仲悪くなるか疑り深くなるか落ち込むかもっと派手にぶっ壊れるかのどれかだぞ?

  そのどれでもねえならシャマルが原因だと思うぞ?」

「あう……」

  時間を忘れて会話に花を咲かせながら明日のために飾り付けをしているはやて達。

  しかし陽が沈みきるまで後15分も無いだろうと思われるほど窓の外が暗くなった時、ようやく自分達が長い時間話し込んでいたことに気づいたはやてはいつの間にか日暮れ時になっていることに驚いた。

「まったく最近のシャマルは自分がおばさん思考になってる自覚が無いな〜………って、うわ!いつの間にか太陽が沈みかけとる!」

「え?……うあ……いったい何時の間に……」

「うーん……楽しい時間は本当にあっという間に過ぎちゃうね」

  窓の外の暗くなった景色を見てしみじみと呟く三人。

「あーあ、楽しい時間もこれで終わりやね」

「ま、あたしも名残惜しいけど何時までも長居するわけには行かないしね。

  けど明日はなのはん()でパーティーが終わった後すずかと一緒に二人を引き連れて結構遅くまでお邪魔させてもらうつもりだけどいいかしら?」

「そんなん全然構わんで。

  っつうかあたしとしては寧ろそのままみんなで泊まってこの前のお泊り会の仕切り直しにしたいんやけどな」

「あ、それいい考えだよはやてちゃん。私は賛成だよ」

「あたしも賛成よ。

  っていうかむしろ一足速く今日から泊まりたいくらいよ」

  先程迄の時間を振り返り、しみじみと呟くアリサに名案だとばかりにはやてが同意した。

「あ、それならアリサちゃんとすずかちゃんだけでも今日から泊まらへん?」

「え?そりゃそうしたいけど……あたしもすずかも着替えとか色色持ってきてないから無理よ」

「その辺は大丈夫やで。

  速人はんがそういうモンの予備を用意しとるから、あたしとあんま体形が変わらんアリサちゃんにすずかちゃんなら十分服とか下着と歯ブラシか使えるで。あ、あと一応未開封の新品やから」

 

 

 

 

 

  はやてが今日アリサとすずかを泊めようとしている最中、見た目は普段通りだが内心若干焦っているヴィータがシャマルに念話で尋ねてきた

≪……おい……このままじゃ二人とも泊まっちまうんじゃねえか?≫

  もうすぐ速人とシグナムが仮面の者を迎撃し始める時間で、最悪はやてを八神家から強制非難させる事態も在りうるので、シャマルにそれとなく二人が泊まらないようにするような意味を込めたヴィータの念話だったが、

≪べつにいいんじゃないかしら?≫

あっけらかんとした返事がシャマルより発せられた。

≪おい……まさか平和ボケしすぎてもう直ぐハヤトとシグナムがあの仮面のヤツと戦うの忘れてんじゃねえだろうな?≫

≪失礼ね。いくら私でもそこまで平和ボケしないわよ。

  単にシグナムと速人さんから二人が泊まるのならそのまま泊めて、有事の際には二人もはやてちゃんと一緒に守りつつ事情を話して、それから私達と一緒に行動するかの選択をさせる機会ぐらい在ってもいいだろうって………≫

≪………邪魔にならねえか?≫

≪………勘違いされるのは物凄く不本意だけど……一般人が私達と一緒に行動してれば管理局の攻撃は一時的にとはいえ弱くなると思うわ。

  だから僅かな間なら問題は無いと思うわ≫

  シャマルの意見を聞きヴィータとザフィーラはしばし考え込んだが、やがて先に答えが出たらしいザフィーラが返事をする。

≪……ふうぅ、私としては特に反対する理由は無いな。

  あまり想定したくはないが、主がこの地を離れる際に事情説明と別れの言葉を言う機会は在るべきだと思うしな≫

  相変わらずはやて達の傍で寛いでいるザフィーラがあまり驚いた様子もなくあっさりとシャマルの意見に同意する。

  そしてそんなザフィーラの意見に追随するようにヴィータも賛成した。

≪ま、アタシもそんな理由なら特に反対は無えよ≫

  ザフィーラとヴィータも賛成し、裏方の意見は纏まったのでアリサ達が泊まるようシャマルははやてを援護しようとする。が、

≪ところでシャマル、ハヤトから拳銃貰ったはいいけど………使えんのか?≫

と、ヴィータから疑問を投げかけられ、はやてへの援護を中断しヴィータへ返事をする。

≪発砲練習をさせてもらいましたけど………5m以上離れていると殆ど当たりません。

  誤差5cmで命中させるなら1メートル以内、誤差1cm以内で命中させようとするなら0.1m以内で発砲する事が条件です≫

≪駄目じゃん……≫

  速人がズバ抜けた静止視力・深視力・射撃技術・弾道計算・未来予測・其の他諸諸で80mが精密射撃の射程内であるのに比べ、あまりにも短すぎる射程距離に呆れるヴィータ。

  対してそれを十分自覚しているシャマルが憮然としながら返す。

≪どうせ私は下手っぴですよ。ええ下手っぴですとも。

  でもいいんですよ。下手っぴでも。

  後方支援だと思って油断して近づいてきたところに凄い一撃を撃ち込むんですから≫

≪……まあ……なんかあった時はやての傍に最後まで居るのはシャマルだろうからそれでいいけどさ…………ソレが当たったら騎士甲冑やバリアジャケット纏っててもシールドとか他に張ってなきゃ簡単に死ぬって解ってんだろうな?≫

 

 

 

―――

 

  先日速人が対魔導師用にと製作した銃器【魔導師殺し】通称【ハイランク・キラー】の試験品(テストタイプ)が完成したので必要性が低くなった試作品(プロトタイプ)をシャマルに護身用にと渡し試射させたのだが、シュツルムファルケンを上回る貫通力及び3km/Sと圧倒的な弾速に、シャマル達は全員驚愕していた(破壊範囲は1%未満と大きく後れを取っているがそれでもヴィータの指摘通り簡単に魔導師すら殺せる程の物だった)。

  しかもただ死ぬだけでなく、騎士甲冑やバリアジャケットを纏っていても手足に掠れば手足が弾け散り、胴に当たれば胴が千切れ、垂直に脳天に当たれば手足を残して胴体を周囲に撒き散らした歪な死体を容易く生み出せると容易に想像できるもので、普通の価値観を持った者なら使用を躊躇う物だった。

 

―――

 

 

 

  忘れていたわけではないが改めて告げられ、自身が持つ物がどういう物かを思い出したシャマルは静かに返事をした。

≪解ってます……≫

  魔法と違って非殺傷設定という機能は当然存在せず、シールドを張っていなければ成体の竜種すら一撃で殺しかねない威力を持つ弾丸とソレを撃つに見合った銃を速人から渡された時に聞いた理由を思いだし、真剣に自分なりの覚悟をシャマルは告げる。

≪たとえ相手を殺してしまうとしても、私はやられるわけにはいかない。

  私は緊急時ははやてちゃんと逃げ延びて隠れるのが役目。

  だからたとえはやてちゃんが悲しむとしても、安全策なら躊躇わず実行するわ≫

  立ち居地の為ヴィータもザフィーラもシャマルの瞳を見れなかったが、念話に篭められた覚悟は伝わったのかヴィータもザフィーラもそれ以上は追求してこなかった。

≪……ま、土壇場で躊躇しねえなら文句は無えよ≫

≪だな。優しさと甘さを履き違えていないなら私も特に言う事は無い≫

  それでその話題は終わったと判断したのかシャマルはいつも通りの笑みを浮かべてはやて達の会話に入っていった。

  そんなシャマルをぼんやり見ながらヴィータはぽそりと呟く。

「せめて明日まではここに居てえな………」

  その呟きは歓談しているはやて達には聞こえなかったが、それが聞こえたザフィーラもヴィータと同じく今日中に此処を発つ事になると漠然とした予感があったので、

≪ああ………≫

と、同意したが、直ぐに不安が的中するのを前提に同意した様に思え、同意せずに聞き流せばよかったとザフィーラは僅かに顔を顰めた。

  そしてヴィータもザフィーラと同じ心境で、呟いたせいで不安が的中するように感じられ顔を顰めた。

  しかし直ぐにヴィータもザフィーラも気を持ち直し、ヴィータははやて達の会話に加わり、ザフィーラはいつも通り伏せてそれを眺めていた。

 

 

 

  そして陽が完全に沈みきった頃、八神家に泊まることになったアリサとすずかを交えて出前の他に何品かおかずをはやては作っていた。

  胸の内で[死ぬならこんな毎日を送りながら死にたいな………]と思いながら。

 

 

 

  ――――八神家――――

  Interlude out

 

 

 

                                  

 

 

 

  陽も沈み、曇り空なので常人では満足に足元も見えない明度の中、速人とシグナムは天神宅の前(地下研究所の地表部分)にシグナムは騎士甲冑と腰に大量のカートリッジを納めたガンベルトを装備し、速人は口の開いたバックを肩から下げて初めてシグナムと戦闘訓練をした時に着ていた衣服に酷似した物を纏って向かい合って佇んでいた。

  氷点下の気温の為吐く息が白くなるのを何と無く眺めていたシグナムだったが、速人の口元は全くそのようなことになっていないのを見、特別な呼吸法を睡眠時でも常にし続けることが出来るのを思い出し、魔法以外で自分が速人に勝っている所が在るのだろうかと考えていた。

  対して速人は万が一にでも不意打ちをされない為に全方位に最大限の注意を払っていた。

  そして速人とシグナムは外に出てずっと沈黙していたが、遠くから僅かに聞こえる雑多な音の為静寂な空間ではあったが常に無音ではなかった。が、突如無音になる。

「…………」

「来たか」

  シグナムは結界を展開されたことにより来訪を知覚し、速人は急遽雑多な音が掻き消えると同時に大気の対流が停止したことで結界が展開されたと推測して来訪したと予測した。

  視線を合わせずとも互いがすることを十分理解している速人とシグナムは、互いに相手を視界内に納めつつ来訪者の位置を特定しようとした。

  だが直ぐに上空から風を切る音が聞こえ、この場へ降り立とうとしていると速人とシグナムは予測し、シグナム直ぐに上を仰ぎ見、速人は先程と同じくシグナムを視界内に納めつつ不意打ちに備える為周囲を警戒していた。

  そして来訪者は登場と同時の攻撃もせず速人とシグナムの間、シグナムから約1.5mの位置にシグナムの方を向いて着地した。

  それを確認した速人は自分と来訪者とシグナムが一直線上になるようにしつつ、来訪者から約1mの距離に立った。

  これで速人とシグナムが互いの背後を警戒できるので不意を打たれ難くなり、そして速人とシグナムの中間点にいる来訪者がどちらかを攻撃又は盾にしようとしても、最悪互いに盾にされた者ごと来訪者に致命傷を与えられる間合いになった。

  挟み撃ちされた形になった来訪者は憮然とした口調で話し出す。

「……指定された通りの日時と場所に来たっていうのに随分と剣呑な出迎えなんだけど?」

「変身魔法と仮面を使って以前通りの姿で現れれば、もう少しは剣呑さが減っていただろうな」

「……態々素顔を晒して話し合いに来たっていうのに、随分な口の利き方ね」

「敵かどうかの判別を付けられず逡巡している隙に討ち取ろうとしていると考られる以上、このくらい剣呑になるのは至って普通だと思うがな」

「他者の覚悟や気遣いを邪推するなんて、騎士として恥ずかしくないの?」

「惰性と意地で行動しているようなヤツが覚悟や気遣いなどと口にして、よくもまあ恥ずかしさで悶死しないものだな?」

「そっちこそ存在自体が害悪なのに、よくもまあ自害せずに―――」

「どちらから用件を言うか?」

「―――のうのうと……………」

  突如として始まった舌戦はある意味空気を読んだ速人が強引に会話に割り込んで中断となった。

「……私から話すけど、いい?」

「構わない」

「ああ」

  隙無く周囲を警戒しながら速人は答え、シグナムは交渉関係を全て速人に任せているので速人の言葉に追随した。

「じゃあとりあえず自己紹介から。

  ……私はリーゼアリア。お父様……ギル・グレアムに仕える二体の使い魔の一体。そして見た目で分かるだろうけど、私は猫を素体に生み出された使い魔」

  リーゼアリアは自己紹介をし、速人とシグナムにも自己紹介を促す為にしばし沈黙したが、シグナムは相変わらずリーゼアリアのあらゆる挙動に細心の注意を払っており、速人も相変わらずシグナムを視界内に納めたまま全方位に最大限の警戒を払っていた。

  暫く待っても全く返事が返ってこず、自己紹介をする気が無いと判断したリーゼアリアは話を進める。

「で、こちらの用件だけど………闇の書を主と一緒に渡してくれないかしら?」

  その言葉を聞いたシグナムは怒りで反論しそうになったが、会話に意識を割く事は隙になると理解しているので怒りで口から飛び出しかけた反論を何とか飲み込み、黙って速人に交渉を任せていた。

  そして相手の要求から1秒足らずの時間の内、速人はこれまでのリーゼアリアの発言や行動パターンから会話等から情報を引き出せるか?そして管理局がこの場所に介入する為の時間を与える価値の在る情報なのか?と、考えていたが、直ぐに結論が出たらしく返事をする。

「此方の条件を呑むのならそちらの要求を距離と時間制限付だが呑もう」

「…………条件は?」

  まさか条件付とはいえ要求を呑もうとするとは思わなかったのか、驚愕の表情をしながら何とか返事をするリーゼアリア。

  対してシグナムはそんなことを言い出すとは全く想像していなかったが、微塵も動揺せずリーゼアリアに対して細心の注意を払っていた

「一つ。ギル・グレアム並びに同名の闇の書の封印という意思に賛同していた者全ての脳髄を摘出し、培養液を満たした培養槽に隔離させること。

  二つ。脳髄を摘出された各自の肉体の廃棄処分を認めること。

  三つ。培養槽に隔離した者の行動が此方に対して不利益と判断された場合、事前通告無しで行う全ての対処を認めること。

  四つ。培養槽の設置場所は此方に決定権が在ること。

  五つ。第三者が介入した時点でこれらの取り決め全ての白紙化を認めること。

  この5点を容認するならばギル・グレアムの培養槽の半径1m以上3m未満の範囲で5分という条件付でそちらの要求を呑もう」

  大人しく殺されろと言わんばかりの条件を突き付けられ、しばし呆然とするリーゼアリア。

  しかし直ぐに気を持ち直して苛立ち混じりに声を返した。

「話にならないわね」

「ならば他に話すことはあるか?」

「…………私達は闇の書とその主が標的。だから貴方がこの件から手を引くというなら、私達は私達の誇りにかけて貴方に手を出さないけど………」

「俺が抜けても問題が無い場合以外は関わり続ける」

  迷わず気負わず至極自然にそう告げる速人。

「そう………」

  その言葉を聞いたリーゼアリアは、速人が最後の瞬間まで自分達の行く手に立ち塞がり続けると認識し、この瞬間はっきりと敵と認識した。

「なら魔法を使えない一般人だろうとあなたを敵と認識するわ。

  あと最後になるけれど、私が敗れた時は直ぐにあなた達の情報が管理局に知られる手筈になってるわ。だからいずれ一人一人討ち取られていくよりは今纏めて全員仲良く討ち取られない?」

「拒否する」

  簡潔に否定し、そしてシグナムに何か言うことが在るかどうかとシグナムを見やったが、事前に取り決めた合図を出していないので話す事は無いのだと判断した速人はリーゼアリアに告げる。

「では双方話すことは無いと見て会見を終了するが構わないか?」

「ええ」

  その言葉が終わった瞬間リーゼアリアは全力でフィールドを張り、シグナムの斬撃と速人がデザートイーグルより放った銃弾を完全に防ぎきり、バインドを発動させ速人とシグナムを捕縛しようとする。

  が、その前に速人はバッグから何かを取り出してリーゼアリアに軽く放り投げていた。

  放られたモノの重さも速度も一般人が放り投げた程度で、大きめの西瓜程の赤い物体はリーゼアリアが張ったフィールドに当たり呆気なくその場に落ちた。

  爆発もせず、音も光も出さず、熱や電磁波と言った不可視な類のモノが放出されているようにも感じず一瞬リーゼアリアは訝ったが、直ぐに捕縛寸前だったバインドの術式に集中した。

  だが、

(え?)

足元に転がったモノが血塗れだが自身が父と慕う者の頭部だと思った瞬間、一瞬にして集中が霧散し、結果速人とシグナムを捕獲しかけていたバインドは消失、それどころかバリアジャケットのみを残して展開していたフィールドも消失していた。

  そしてその機を逃さずシグナムは威力よりも速度を重視した右手のみの斬撃を放ち、速人は全力でその場を飛び退りながら右手にデザートイーグルを持ちつつ魔法を使う者を打倒する為に製作した【魔導師殺し(ハイランク・キラー)】を括りつけていた背中から左手で剥ぎ取る。

  その一瞬の間にリーゼアリアは足元に転がるモノが自身の知っている父と幾つかの相違点を見つけたので精巧な模型と結論を下し、瞬時に気を持ち直した後直ぐ傍に迫ったシグナムの刃を無理に回避するよりはフィールドを展開して威力を殺した後にカウンターなり離脱なりしようと決断した。

  だが飛び退(すさ)った速人がリーゼアリアの足元のモノ目掛けデザートイーグルより一発発砲した。

  そして銃弾を受けたソレが弾けるのと同時にリーゼアリアはシグナムの斬撃により傷を負ったが、フィールドのおかげで十分戦闘続行が可能な程度の傷に抑えていた。

  しかし斬撃を浴びた後直ぐに離脱か反撃を仕掛ける筈だったリーゼアリアは、速人の銃撃で飛び散った脳や眼球や血液が全て本物であると認識した瞬間混乱状態に陥った。

(なに?え?あれ?なんで?髭違ったし髪違ったから模型の筈なのに眼も脳も血も本物。え?あれ?なんで?ならコレは模型じゃなくてまさか本物の父様?)

  偽者だと判断していたリーゼアリアだったが、本物の臓器が飛散したことにより()()()()()()という思い込みを破壊され、再び真偽の判断を下す状況に戻される。しかも人の頭蓋が弾けるという場面を見た為混乱している中で判断を下さなければならなくなった。

  しかし非殺傷設定が罷り通っているとはいえ、主共共様様な事件に関わってきたリーゼアリアは5秒もせずに混乱状態から回復して直ぐに冷静な判断を下せるだけの能力は持っていた。

  だが、近接戦闘時における5秒とは必死とも言える隙である。が、それも()()()()()()()()()()()()()()()()()のみで、分からない場合は溜めが長い大威力の攻撃よりも速度と命中率を優先させた攻撃をするのが常道である。

  但し、隙が生まれると予測していれば、罠か切り札を発動させるのもまた常道だった。

  そして隙が出来ると聞かされていたシグナムはその隙に左手でガンベルトを引き千切り、それを鞭の様に撓らせてリーゼアリアの右脇下から背中を通って左肩に一瞬張り付くようにし、そしてそれが成功して剥がれ落ちる前にシグナムはパンツァーガイストを発動させながら全力で速人の眼前に駆けていく。

  シグナムが速人の眼前に立つ前に、リーゼアリアの肩に僅かの間張り付いているだろうガンベルトが剥がれるまでの間に、そして何より再びリーゼアリアがフィールド若しくはシールドを展開する前に、速人はリーゼアリアの肩の部分のガンベルトに挿されているカートリッジが4つ重なるように照準を定めハイランク・キラーより通常弾の.700NE弾を発砲した。

  拳銃でありながらライフル並のエネルギー変換効率を有すハイランク・キラーは弾丸の性能を十全に引き出し、本来の威力で打ち出された.700NE弾は4つのカートリッジを易易と砕き、更にはリーゼアリアの肩を鎖骨ごと抉り散らした。

  そしてリーゼアリアの骨肉が撒き散らされるのとほぼ同時にカートリッジに込められていた圧縮魔力が暴発気味に流出する。

  当然流出した魔力が真っ先に向かうのはガンベルトであり、瞬時に破壊しつくされてしまう。

  次いで流出した魔力が向かったのはリーゼアリアと隣り合うカートリッジで、リーゼアリアに向かった魔力はバリアジャケットに大半を阻まれて然して傷を付けられなかったが、隣のカートリッジに向かった魔力は内圧には耐久性が高いが外圧には内圧ほど耐久性が高くないカートリッジをあっさりと破壊し、内部の圧縮魔力を暴発気味に流出させる。

  一度カートリッジの破壊が伝播すればその後は誘爆する様に次次とカートリッジが破損し、そしてカートリッジに内包されていた圧縮魔力の暴発とも言える流出を連続でほぼゼロ距離で浴び続けたバリアジャケットは崩壊し、内包された圧縮魔力を無防備に浴びたリーゼアリアは大怪我を負う。

  上半身のバリアジャケットが崩壊し血塗れの半裸になったリーゼアリアだったが、速人は油断せずに止めとばかりにデザートイーグルに装填されている硬質ゴム弾をカートリッジの魔力から守るために眼前に立ち塞がっていたシグナムの脇からリーゼアリアの後頭部・延髄に二発ずつ撃ち、残弾は全て背骨に狙いを定めてばら撒く様に撃った。

  そして発砲音が鳴り止んだ時、リーゼアリアは完全に気絶しており、更には脊髄を破壊されていて意識を取り戻しても戦闘は明らかに不可能だった。

  シグナムはそれを確認した後急いで蒐集を開始する。

「……………」

  蒐集を行いながらシグナムは速人に無言で飛散した脳漿等を指し示し説明を求めた。

「それはギル・グレアムに似ていると判断した死刑を執行された者の頭部だ」

「…………………死体を使うか…………」

  死者への冒涜と言いたい所だが、死刑を執行された者なので冒涜されずに葬られるに値する者なのかどうかと測りかねていた時、それを見越した速人がシグナムの疑問を先回りして答える。

「簡略するが、殺人・強姦・死姦、これらが主な罪状だ。

  妊婦の腹部を切り開いて胎児を摘出した後に死姦し、その後生存していた胎児を強姦した事があるらしい者なので、この者の死体の扱いは気にする必要は無いだろう」

  聞いているだけで吐きそうな話を聞いたシグナムは、死体を自分達の戦いに利用したことへの後ろめたさは残っていたが、速人が利用した死体への哀悼の念等は完全に消え去っていた。寧ろ血の一滴もこの世に残さぬと言わんばかりに周囲を炎で埋め尽くして焼却処分し、速人に無言で頭部を入れていたバッグを焼却処分するよう眼で促し、速人はシグナムの要望通りバッグを炎の中に放り投げた。

  瞬く間にバッグは燃え尽き、灰が夜空にほぼ垂直に舞い上がっていたが急に夜風で流されるのを見、それで結界が消失したと速人は判断した。

  対して丁度蒐集を終えたシグナムも周囲の変化に気付いたらしく、速人を見て頷いた。

  シグナムの頷きに速人は視線で返事をし、無言で近くに置いていたバッグから救急医療具を取り出してリーゼアリアに応急手当を施していく。

  そして応急処置が終わった速人はポケットのリモコンを操作して地下研究所直通のエレベーターを出現させ、リーゼアリアを抱えてシグナムと共にエレベーターに乗り込み、そして僅かな後に地下研究所に向けて降下が始まった。

  降下している最中にシグナムは速人に尋ねる。

「…………戦うのか?」

  その尋ねる声は覚悟を伴って凛としていたが、覚悟以外にも様様な苦悩が篭められており、それを理解していながらも速人はいつも通りに返事をする。

「そうだ」

  呆気なく自身が死地に赴くと告げた速人を見、シグナムは強く拳を握りながら微かに歯軋りする。

(…………この者………リーゼアリアだったか………を餌にして管理局の者を誘き寄せ交渉。そして決裂後は迎撃装置満載の場所で打倒しシャマルが遠隔蒐集。

  たとえ打倒出来ずとも時間を稼ぐ事は出来るのでその間に主はやてに説明をし、その後御決断を下して頂く、か………)

  僅かな降下音と各自の息遣い以外の音がしないエレベーター内で更にシグナムは考える。

(蒐集完了後………………………………万が一天神の推測通りの展開になるとしたなら…………守護騎士全員が万全の状態でなければ立ち向かえないだろう……………。

  …………そしてその時は直接的な戦闘能力が低く、且つ空戦が不可能な天神より我等の方が重要だ。

  故に我等が消耗せずに蒐集が完了若しくは完了寸前までの可能性が有る天神の単独戦闘はたしかに良策だろう。………たとえ成否に拘わらず、天神が高確率で重い傷を負う若しくは捕縛されるとしても……)

  抱えていたリーゼアリアを床に寝かせ、ハイランク・キラーのシリンダーとデザートイーグルのマガジンに弾丸を込める速人を見ながら、シグナムは更に思考する。

(だが………天神が傷つき倒れる若しくは捕らわれるとしても…………予測されうる最悪の事態のために備えは必須だ。

  そして………最悪の事態になれば後を託された我等が命を散らせようとも何とかし、その後生きていれば同じく命を散らせようとも天神を助ける。

  それが衰弱していると知って尚戦う事を容認した私のケジメだ)

  静かに、だが力強くこれからの事に対して覚悟を決めるシグナム。

  そしてシグナムが覚悟を決めた時、丁度エレベーターは地下研究所に到着した。

  床に下ろしたリーゼアリアを抱える速人を置いて先にエレベーターを降りたシグナムが速人に告げる。

「主はやての下に向かう。

  伝言はあるか?」

「無い」

  即座に断言した速人の言葉に僅かに苦笑するシグナム。

「ふっ……だろうな。

  お前は伝えたい事は常に会う度に伝えているのだろうからな」

「その認識で大差無い」

  リーゼアリアを抱えてエレベーター内から出ながら速人はそう答え、そしてリーゼアリアを近くに準備していた搬送用のベッドに寝かせる。

「ふっ……変人のお前の思考をある程度理解しているなら、私の理解力も捨てたものではないな」

  的外れでない事が解って満足気に声を出すシグナムだった。

  だがその言葉に速人は返事をせず、代わりにリーゼアリアの応急処置を始めた時に抜き取っていたカードを差し出す。

  そして差し出された物を見、それがデバイスだと理解したシグナムは黙ってそれを受け取った。

「………では、次の戦いは任せる。

  次に会う時は御健勝になられた主はやてと我等が出迎えよう」

  現実的な意見が返ってくるのを聞きたくなかったシグナムは返事を待たずにその場を去っていった。

  残った速人は淡淡とリーゼアリアに適切な処置を施していた。

 

 

 

  リーゼアリアの処置を終え、収容場所に移している最中何者かが直通のエレベーターに乗って向かっていると知った速人は、エレベーターの到着時間を自分がその場所に戻った後になるよう調整した。

  そしてリーゼアリアの収容を終え先程の場所へ戻った時、その時になるよう到着時刻を調整されたエレベーターは到着し、中からバリアジャケットを纏ったクロノが現れた。

 

 

 

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  第十七話:求めと望みと願い――――了

 

 


【後書】(長文)

 

 

 

  はい、今回の一番の反省点は【魔導師殺し】こと【ハイランク・キラー】ですね。

  正直「どれだけブットンだ性能なんだよ!」ってツッコミ入れられまくる性能に仕上がっています。(弾丸の方は使ってませんが)

  ただバリアジャケットの具体的な防御力がハッキリしていないので、自分的にはエース級(なのは)は武装ヘリの装甲程度と解釈しており、ならばバズーカか機関銃か対物ライフル程の性能がないとバリアジャケットは貫けないと判断しています。

  というかリリカルの世界は基本的に血が出ませんから、傷を負った(バリアジャケットを突破した)かどうかの判断が難しいです。そもそも衰弱している要因が魔力ダメージなのか自分が魔力を放出したからなのかもイマイチ判りませんし。

 

 

  今回カートリッジを破壊し、内部に凝縮された魔力を暴発させて攻撃するシーンがありましたが、ヴォルケンリッターにカートリッジの予備や製造技術の有無については知りませんが、多分製造技術があるのだろうと解釈してカートリッジ使い捨て作戦を決行しました。

  それとフェイトが一発のカートリッジで重症になったのに、リーゼアリアが10発以上のカートリッジ内の魔力流出を受けて死んでいないのは、フェイトがカートリッジ内の魔力に干渉している時に失敗したのでフェイトに逆流して内から壊されたので1発のカートリッジで重症になりましたが、リーゼアリアはカートリッジに干渉していなかったのでバリアジャケットが文字通り鎧となって身を守った。と、こう解釈して下さい。

  若しくは血液にニトロ流し込んで着火されたのがフェイトで、バリアジャケット越しに大量のニトロに着火されたのがリーゼアリアだと思ってくだされば分かり易いかと。

 

 

  気付けば何時の間にかシグナムがデレ始めています。

  一応Sts編と違ってA‘S編ではまだ世間慣れしていないせいで、守護騎士は全員他人との付き合い方が子供の様に極端にしようと決めていたのですが、当然普通の子供は一度気を許したら無防備になりますので気付けばこうなっていました。

  ………正直ヴィータ以外は全員ヴァイスとの様な付き合い方にしようと思ってたんですけど、修正が効かずザフィーラは戦友のような感じになり、シグナムはデレ期に入り、シャマルは光源氏計画に走り出したりと、全員完全に無防備な姿を平然と速人に晒してしまっています。………大人な付き合い方を目指したはずだったんですが………。

  こうして見るとなんだかヴィータが八神家唯一の大人で常識派な気がしてきました。

  あと守護騎士女性陣が速人に恋愛感情を持ってるっぽく見えるのは、子供なら好きなモノは四六時中傍に在って欲しいと普通は思いますし、シャマルの行動は【異性とずっと居るには結婚】と言う子供的な思考の極地を基に突っ走っているだけです。たぶん成長すれば全員親愛と恋愛の区別がつく筈です。(区別後どちらの想いなのかは分かりませんが……)

 

 

  それとデバイスの英文会話ですが、スルーして下さると嬉しいです。

  エキサイトとか使ってもなんか変な文章になり、自分でやっても変な文章になり、最後はデバイスの会話を軸に話を進める本末転倒事態になってしまったので、多分デバイスの会話は次から日本語表記になるはずです。

  って言うか特定の言語を異国語に訳すのは根本的に無理と言っていた友人の弁が身に沁みました。………解釈や文化の違いも大きいですが、存在しない言葉も意外にあると痛感しました。

  五月雨・時雨・秋雨も英語じゃ全部Rainですし、恋も愛もLoveでひっくるめている英語での心象描写は本当に難しいです。というか自分には無理です。

  …………欧米人が感情の起伏が激しくないと理解できない要因が少し分かりました。

 

 

  次回は一部の方に人気の【速人VSクロノ】です。(フェイト達とも戦う予定です)

  当然舌戦だけでなく実力行使もあります。

  と言うか次回は速人の見せ場で、戦闘と舌戦とその他がほぼ同比率になると思います。

 

 

  話は変わりますが、「ヤフったりしても直ぐに出てこないタイトルって、どうよ?」と言われたので、ペンネーム諸共変更予定中です。

  まあ、第一話完成後1秒か2秒で考えたタイトルとペンネームなんで、いい加減変え時なんでしょうけど。(タイトル名、感想と一緒に募集中です)

 

 

 

  毎回誤字修正版も多数投稿して御手を煩わせた上感想を頂ける管理人様と御読み下さった方に沢山の感謝を。

 

 

 

  で、今回の兵器説明ですが、普段より結構詳細に記した為、火器の知識が無い人は置いてけぼりになる内容ですので、ただの凄い火器と納得されて見ないのをお勧めします。

 

 

 

【作中補足】(火器に興味が無い人は本当に見ないほうがいいです)

 

 

                                     

 

 

.700NE弾】

 

  口径・・・・・:70(約17.78mm)

  弾頭重量・・・:64.79891g(1000gr)

  初速・・・・・:609.6m/s(2000fps)

  初活力(エネルギー)・:約12040J(約8500ft―lbs)

  (初速や初活力は使用銃により若干変動有り)

 

 

  対物ライフル弾に迫る装薬量を持つ大型獣狩猟用マグナム弾です。(NEとはNitro(ニトロ) Express(エクスプレス)の略)

  人間の胴体に着弾すれば胴体が二つに千切れる威力を持ち、現在(2009年7月)では防ぎきれる防弾着は少なくとも市販には存在しません。

  明らかに対人用ではないですが対物用には僅かに届かない(一応戦車装甲の貫通は可能)微妙な威力で対象用と言われることもあり、実際象撃用としては十分過ぎる威力を持ち、頭を狙えば鯨すら殺害可能な弾丸です。

 

 

                                     

 

 

魔導師殺し(ハイランク・キラー)(弾丸)】

 

  口径・・・・:70(約17.78mm)

  弾頭重量・・:約240g(約3703gr)

  初速・・・・:約3000m/s(約9842fps)

  初活力(エネルギー)・:約1080000J(約796383ft−lbs)

  (上記の数値は専用銃を使用した場合のものです)

 

  エネルギーは一般的な速射砲弾の約1000%、一般的な戦車砲弾の約13%という常識外れの銃弾。

  最も比重が重い元素(二番目ともされている)イリジウム(比重22.61)を弾芯にし、装薬を固体ではなく液体(高圧液体)にした、弾丸の規格を遥かに超えた重量と速度を実現させた、正しく【魔導師殺し】の名に相応しい一品。

 

 

                                     

 

 

魔導師殺し(ハイランク・キラー)試験品(テスト・タイプ)(拳銃)】

 

 

  速人が対魔導師用に設計した拳銃です。

  名前のルビ振りはヴィータ命名で、製作依頼等の対外用に大活躍し、今ではハイランク・キラーと呼ばずに魔導師殺しと呼ぶのは速人だけです。

 

  分類・・・・・・:回転式拳銃

  口径・・・・・・:70(約17.78mm)

  全長・・・・・・:約270mm

  重量・・・・・・:約4000g(対魔導師用弾丸装填時)

  装弾数・・・・・:6発

  作動方式・・・・:シングルアクション及びダブルアクション

  銃身長・・・・・:6インチ 20インチ (約152mm 約508mm)

  腔線(ライフリング)  :6条左回り 16条左回り

 

  分類は回転式拳銃(リボルバー)ですが、構造的弱点たる弾丸発射時の活力(エネルギー)拡散を防いで可能な限り弾丸の推進力に変換するようナガンM1895を参考にしており、撃発時は回転弾倉(シリンダー)銃身(バレル)の隙間を無くす工夫がされ、現在量産されているライフルを凌ぐ活力変換効率になっており、この機能がなければ撃発時に回転弾倉から漏れる光(火)(マズルフラッシュ)で腕を焼かれてしまいます。

  銃身はかなり切詰められており、デザートイーグルと殆ど同じ約15cmですが、回転弾倉から銃口に向かうほど腔線周期(ライフリングピッチ)が高くなっている為、大口径弾にも拘らず短い銃身で発射可能になっています。

  又、射程距離・精密射撃性・威力の増幅機能として発射時に銃身が伸びるようにする切り替え機能も有り、伸びた銃身は若干口径が広がりますが十分銃身内での加速を可能にしており、撃発時の活力変換効率が極めて高いので銃身が50センチ近くまで伸びれば拳銃でありながら対物ライフルと同等以上の性能になります。(銃身が15cmの時は通常の高性能狙撃用ライフル並です)

  そして耐久性も桁外れに高く、対魔導師用弾丸を少なくとも銃身延長時なら5千回、非延長時なら2万回発砲しても破損しないよう出来ています。

  ただ活力変換効率を重視した為反動吸収機能は低く、対魔導師用弾丸を一発撃発すれば、普通の射撃体勢ならば現在の速人では手首から肘までほぼ確実に粉砕骨折するようになっています。また通常弾(.700NE弾)発砲時でも手首に過度の負担が掛かります。

 

  速人が対魔導師用に設計した銃器の完成形の一つで(量産化は難しいですが)、通常弾でもバリアジャケットを貫通可能にしており(なのは程防御能力が高いと体内に弾丸が残留する可能性がありますが)、対魔導師用弾丸ならば大抵のシールドは突破可能で、全弾一斉発砲時はなのはでも防御不可能な程の威力になっています(現在の速人が行えば、反動の為全弾発砲前に発砲不可能状態(ほぼ即死)になります)。

  対魔導師用だけあって性能も常軌を逸脱した高さですが、開発費込み(6話終了時から開発開始)の製作費用も常軌を遺脱した高さで、戦闘機10機分並の金額(約350億円)で試作品(プロトタイプ)が完成し、更に戦闘機20機分(約700億円)費やして試験品(テストタイプ)まで完成させています。

  尚、活力変換効率の技術や液体装薬技術や銃本体に使用した合金等の詳細と引き換えに只で某米の国に作らせており、突貫で作らせられたことを差し引いても某米の国側に十分利益がある取引になっています。

 

  大きさはだいたいデザートイーグルと同じで、回転弾倉があるのと着色が黒一色ということ以外は一見すると同じに見えます。が、よく見ると結構違いますが、黒一色のため意外と相違点が見つけ難い作りです。

 

  試作品はFate/Zer●にあるコンテンダーのように単発式ということ以外は試験品とあまり違いはありません。

  因みに護身用に速人がシャマルに対魔導師用弾丸20発+1発(装填済み分)と一緒に渡しています。(シャマルは騎士甲冑のおかげでほぼノーダメージで発砲可能ですが、射撃技術が低いので接近戦で無ければ命中はほぼ不可能ですが)

 

 

                                     

 

 

【ナガン1895】

 

  分類・・・・・・:回転式拳銃

  口径・・・・・・:30(約7.62mm)

  全長・・・・・・:約230mm

  重量・・・・・・:約750g

  装填数・・・・・:7発

  作動方式・・・・:ダブルアクション

  銃身長・・・・・:4.5インチ(約114mm)

 

  7.62mmナガン弾という専用弾丸を使用し、装弾数は回転式拳銃では珍しい7発になっており、最大の特徴は回転弾倉の内側にあるガスシーラーとして機能する円柱状の部品です。

  ガスシーラーが撃発時に実包(カートリッジ)がガスシーラーごと前進して銃身と弾倉の隙間を塞ぎ、これにより回転式拳銃最大の弱点である燃焼ガス漏れが解消され弱装弾であっても十分な威力での使用が可能になっています。

  しかし事前に撃鉄を起こしておくシングルアクションは不可能で、回転弾倉も取り外し不可能な為右側の装填口から一発ずつ装填しなければならず、相当利便性に欠いた拳銃です。

 

 

                                     

 

 

【対魔導師用装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)】と【専用砲】(ネタです)

 

 

  分類 ・・・・・・:砲

  口径・・・・・・:440(約141.4mm)

  全長・・・・・・:約230mm

  重量・・・・・・:約86900g(弾丸込)

  装填数・・・・・:1発

  作動方式・・・・:完全手動と半手動と完全自動の3種類

  銃身長・・・・・:約33インチ(838mm)

  腔線・・・・・・:無し

  弾心直径・・・・:31.42mm

  砲弾重量・・・・:59.5kg

  弾心重量・・・・:6kg

  初速・・・・・・:2100m/s

 

  速人の携帯可能兵器の中の奥の手。

 

  破壊力ではなく貫通力を追求して作られている為命中時に爆発する為の火薬等は砲弾に封入されておらず、杭に円筒形の重りと翼を付けて推進エネルギーを杭へ一点集中する事と弾道の安定を追及されている物です。

  また貫通力を重視している為、速度がありすぎても貫通力が減少するので砲弾速度を秒速2km前後に速度を調整されています。

 

  APFSDSはミサイルではないので推進力は発射時から減少するしか無いのですが、対魔導師用APFSDSは目標命中時に弾心後方の液体燃料が推進力となるべく燃焼するようになっており、貫通力は均質圧延装甲(RHA)を3000mm 3500mm貫通可能になっています。また侵入角度が0.1未満でない限りは跳弾をせず効果を発揮し、滑らすという意味での避弾経始も殆ど無効化します。

 

  携行は可能ですが殆ど機関銃と同じ据え置きの類の為、反動吸収や砲身の強化に力を注いでおり、反動を気にせず発射可能な代物で使用者に対して負担が少なく出来上がっています。

 

  熱エネルギーではなく固体物質に運動エネルギーを一点集中させた兵器の為、エネルギー系(対魔法)の対策をしている魔導師にとって最も相性の良い攻撃手段になっており、迎撃と回避は兎も角単独での防御は事実上不可能と守護騎士達のお墨付きを頂いた一品です。

  但し、貫通力を重視している為、人体に命中しても弾心分の孔が空くだけで銃弾のように孔の拡大はしない為、急所に命中しなければ絶命させることは出来ないようになっており、更に近距離では効果を十分に発揮しない為遠距離専用兵器になっており、使い所が相当難しくなっています。(200m離れれば性能を在る程度発揮可能です)

  この兵器が効果を上げるには対象が遠距離で且つ砲目掛けて攻撃を仕掛けておらず且つ射線上から外れていない事が条件の為、完全に不意を突くか此方に向かって来る対象への迎撃用として使うかの二つが主な使い道で、防御は不可能ですが回避や迎撃は比較的容易な為、援護射撃で使用するのが妥当な代物です。

 

  因みに御値段は普通のAPFSDSならば50万円前後で、対魔導師用APFSDSは5000万円とミサイル並です。

  尚ネタとしての登場なのでA‘S編では使われません。(なので詳しく書いていないので興味がおありなら調べられた方が宜しいでしょう。なにしろ防御せずに受けた方がダメージは低くなる不思議機能は説明が難しいです)

  闇の書の闇に使用しても、恐らくシールドを貫通するだけでシールドを崩壊させる事は出来ない為、文字通り雨の様に降らせない限り役に立たないでしょう。

 

 

                                     

 

 

【作中補足終了】



速人といると、シグナムがあんな突っ込みをするまでになったか、とか思ったり。
美姫 「皆、かなり影響されているというか」
速人も少しだけれど変わったのかな。
美姫 「速人に関しては、よく分からないわね」
変化があるようにも見るし、ないようにも見える。
美姫 「大部分ではやっぱり変わらずって感じだけれどね」
だからこそ、面白いというのもあるけれど。
美姫 「リーゼアリアも蒐集されてしまったしね」
見事な手際というか作戦というか。
美姫 「次はクロノみたいだけれど」
こっちはどうなるのか。
美姫 「次回も楽しみにしてますね〜」
ではでは。



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