Interlude

  ――― 天神 速人 ――――

 

 

 

  怒りを抱いたことは一度も無い。

  喜びを抱いたことは一度も無い。

  憂いを抱いたことは一度も無い。

  恐れを抱いたことは一度も無い。

 

  どれだけ自分の意向が叶わずとも怒りは湧かなかった。

  どれだけ自分の都合が通ろうとも喜びは湧かなかった。

  どれだけ自分の思惑が沿わずとも憂いは湧かなかった。

  どれだけ自分の力量が及ばずとも恐れは湧かなかった。

 

 

 

  自分が人間の範疇から外れていることは初期の頃から知っていた。

 

  餓死寸前まで絶食しようと食欲は湧かなかった。

  唯、身体に不足している栄養素は理解可能になった。

 

  見目麗しいとされる雌に蟲惑させようと性欲は湧かなかった。

  唯、自身に向けられている媚びや蔑みや憎しみや怒りという負の感情と呼ばれるモノは察知可能になった。

 

  衰弱死寸前まで不眠でいたが睡眠欲は湧かなかった。

  唯、思考能力の限界を把握可能になった。

 

  そして、三大欲求の欠如だけでなく、生命体として自己保存の根幹に関わる快と不快を感じる機構も欠落していると知った。

 

  ヒトが快と感じる要因の生体麻薬を抽出し、どれほど摂取しようと快とは感じなかった。

  快感以外の薬用効果と副作用は現れていたにも拘わらず。

 

  ヒトが不快と感じる要因の痛覚神経に過剰な刺激をどれほど与えようと不快とは感じなかった。

  触覚は正常に機能していて理論上生命体が知覚可能とされる僅かな刺激も知覚出来たにも拘らず。

 

 

 

  二年近くの歳月を経て漸く出せた結論は、自分が人並どころか知的生命体として最低限得られる生の充実を全く得られておらず、又得られる事が無いだろうということだった。

 

  しかし、結論に至る過程で得られたモノは在った。

 

  不可能と断じ、叶わぬと認め、それでも尚求め続けられると知った。

  定められた機構に逆らう機構を持つ事が可能であると知った。

  依存せず、しかし孤立せず、深みや高みや他者の存在する領域を目指す事が可能であると知った

 

  絶望して尚朽ちぬ意思、性をも超えられる意思、群体に属し尚個を確立させられる意思。

  自分ではでは再現不可能なソレらに遭遇し、初めて精神と呼ばれるモノに価値を見出せた。

 

 

 

  だが、それらより遥か彼方の存在を、生物では不可能な領域に位置する存在を知った。

 

  物質体として具現せず、情報体としてのみ存在しながらも多種多様な感情を発露させ、更には自分では再現不可能な意思をも持っていた。

 

  生物が生の充実を得るには物質的刺激を受け且つその刺激を是とする生体麻薬の分泌機構が不可欠という定理をその存在は全て無視しており、更にはそれが当然とばかりに極自然に体現していた。

 

  故に、物質体でなくとも情報体だけで生の充実を得られるならば、情報を内包する物質体の俺にも辿り着ける領域に思えた。

  そして、その領域に辿り着くことが出来たのならば、脳内麻薬による干渉を受けず、純粋に精神のみで精神を確立させる事が出来る。

  そう思った

 

  誕生以前より生物としての基本機構が幾つも欠損し、死ぬ理由が無いだけで永らえてきた今が終わると思った。

  死なぬ為に群体に成らず単体で或る事を選んだ時から今に至るまで、理解もせずに選ばなかった選択肢の詳細だけを求める未練の日日が終わると思った。

  そして其れ等に対してすら何の感慨も沸かぬ日日が終わると思った。

 

  唯、自身の欠落を埋め、真に完成されたモノに成れる、そう思った。

 

  故にあの名も亡き者をはやての許に留め続ける。

  如何様にしてその領域に至れたのかを知る為に。

 

  しかしそれは極めて高い確率で時空管理局と対立し、自身の命を賭す事になる。

  そしてそれは極めて高い確率で自身が死ぬ事を指す事だった。

 

  だが現状で和睦、降伏、撤退、逃亡、どれを選択しようが最終的には時空管理局に拿捕され、そして何かしらの理由を付けて解体される可能性も対立時とほぼ同等程度在ると推測した。

  故にどの様な選択を採ろうと死亡確率に誤差範囲と呼べる程の差しかないのならば、極めて稀少且つ貴重である名も亡き者をはやての許に留め続けるのが妥当と判断した

 

  だが時空管理局と対立するならば、それは他の選択肢の時とは違いヴィータ達の存続可能性を著しく下降させる事になる。

  そして仮にヴィータ達の存続可能性を一切上昇修正せず放置していた場合、高確率で名も亡き者に拒絶され理解が著しく困難になる。

 

  対立を避けても自身の死亡確率は対立時の死亡確率の誤差範囲を出る事は無いが、しかし対立を避ければ名も亡き者との接触及び理解が極めて困難になり、事態回避の為に対立し且つ名も亡き者の不興を買わぬ為の対処を成すならば、それは自身の死亡確率を大幅に上昇させてしまう。

  故に結論として自己防衛の為、名も亡き者の存続及び理解の機会の放棄の選択が最善となる。

 

  だが第一思考基準の一個体としての結論ではなく、第二思考基準の家族の一員としての結論は、無条件で自身の全てを使用して自身を除く八神家全員及び名も亡き者の存続を提唱している。

  提唱の根拠は、家族は全員平等の存在価値が在る為、少数を多数の存続の為に費やすという最も妥当な判断に裏付けされたものであり、又、存在価値は平等だが利用価値が著しく低い若しくは高確率で低くなると予測される者に対する最も妥当な扱いである。

 

  第一思考基準と第二思考基準の意見に相違が出たが、第二思考基準は原理的に譲歩不可能な提唱だが第一思考基準は生存確率がゼロでないのならば譲歩可能である為、最終的に行動方針は自身を除く家族及び名も亡き者の存続となった。

 

 

 

  しかし、自身で最も妥当と判断して選択したにも拘らず、詮無い仮定を思った。

 

  もしも不確定な事象に対し、自身に都合の良い結果を想定し続ける【信じる】という人間性を、事の始まり以前に俺が持ちえていた場合、時空管理局を信用し、そしてはやて達を説き伏せて投降したのならば、少少若しくは多多かもしれぬが不自由は在れども、家族全てと名も亡き者は何一つ傷を負わず済んだのだろうか?と。

 

  仮に今からでも降伏すれば収監はされるだろうが、服役を終えれば再び家族全員が揃い、更には書の暴走機能も解消された状態で返還されるかもしれぬと考えていた。

  時空管理局の情報をヴィータ達から齎された時、未完成のレイジングハート・エクセリオンから情報を得た時、名も亡き者より情報を齎された時、と、何れの時も常に十全とは言い難い判断材料で時空管理局への投降や和睦を否定してきたが、判断材料が少ない為時空管理局に降伏する際の危険度は≒100%から下限未知数であり、自分は危険度が≒0%の策を放棄して態態危険度が高い策を肯定して実行に移しているのではないか?と、時空管理局の情報を得る度に思った。

 

  だが、時空管理局の尖兵やその協力者、更には重役と思しき者を観察してその考えは消失した。

  少なくとも現在時空管理局に降伏する際、此方の降伏を受けると判断される要職に就いているであろう者達は、皆例外無くヴィータ達を裁くのではなく処分する算段なのが容易に理解出来た。

  意志も想念も記憶も全てが些事で、自身達の掲げる理想に隷属するか如何かが全てであり、其れに反するモノは例外無く断罪か廃棄に処さんとしている事が容易に理解出来た

 

  そしてそんな者達を観察し、信じると呼ばれる行為は精神安定を図るという価値を超えないモノだという認識を強め、同時に信じるという行為は博打であり且つ理解の放棄だという認識を強めた。

  それは主観的判断だけでなく客観的判断でも変わりは無く、最終的に信じるという行為に対して下した結論は、【人間の進化を妨げる最大の要因】だった。

 

  しかし俺の思考や価値観では早早に人間社会から弾かれ、社会的若しくは生物学的に抹殺されるのは明らかであり、俺もその思考に染まる若しくはその行動を擬態しなければ生き続けるのが凄まじく困難であり、当然生き続ける為に理解も出来ずに擬態し続けた。

  だが、理解に及んでいない事を擬態しても容易く看破されてしまい、幾度も対人関係等で軋轢を生んだ。

 

  そんな最中、理解に至る一つの手段を手に入れ、そして理解に至るまでの間、俺が生み出す多くの軋轢から派生する事象に対する防波堤になる存在、はやてと出逢った。

 

 

 

  だが、そこまで考え、悟られぬ為に、家族の前では封じていた思考が片方の自己より氾濫する。

 

  はやてと家族になり、理解が及ばず又実感を得られなかった多くのモノの理解と実感を得られた。

  はやてと家族になり、俺は単体として完成にこそ届きはしていないが、確実に完結した存在には近づいていった。

  はやてと家族になり、現在までの時間全てが、確実に俺にとって極めて得難い糧となっていた。

 

  だが、唯一つだけ、はやてと出逢い、最早挽回が限り無く不可能に近い過ちが在った。

 

  それははやてと家族となったその時、希薄だった自己を一生命体としての自己と家族としての自己に分割した事。

  その唯一の過ちの為、現状ではこれ以上精神関係の理解及び実感は望めなくなった。

 

  家族としての役割上、あらゆる事象に対して情や私心を挟まず、唯理に依ってのみ判断を下すのが俺である以上、これ以上の精神関係の理解及び実感は不要以前に害悪であるので、俺の変異はこの段階までに留めなければならない。

  故に俺がはやてと家族である以上は最早精神的変異は在り得ず、単体として完成若しくは完結を目指すならば、俺ははやてと縁を切ってこの場を発つのが妥当と判断した。

 

  しかし、最早家族としての自己が家族としての関係を破棄する事を拒絶し、単体としての自己も既に現状を容認こそしないものの、家族関係の破棄は武力行使を用いてでも修復を行うとする者が存在するので現状維持を提唱していた。

 

  そして、進化や退化と呼ばれる変化を生きる為に自ら封じ、宛ら霊廟に置かれた棺の中で眠る様な時間を過ごした。尤も、周囲に悟られぬ様、変化を禁じてはいたがこれまで同様の思考と行動を維持し続けた。

  遠くない日に役割を効率的に果たす為に自我を自ら消去し、自身を含めた家族という総体のみの為に行動する単一機能の存在になると思いながら。

 

  だがそんな時、自身以上の存在、名も亡き者と出逢った。

  出逢い、直ぐにこの存在と共にあることで自分が単体として深みを目指せる事は理解出来たが、そんな実行不可能な事よりも別の重大な可能性に気付いた。

 

  自身以上の能力を持ち、自身以上の寿命を持ち、自身以上に家族の為に腐心せんとする存在。

  ならば自身の役割の全てを名も亡き者に熟してもらい、家族としての役割を終え、家族としての自己の活動を封じ、単体としての深みを再度目指そうと思った。

 

  無論俺が家族より抜ける事を家族が阻止しようとするだろうが、その為に俺が家族より抜ける事を納得させる理由若しくは俺の行動を制限しない理由を用意する必要が在るが、それははやての快復及び名も亡き者の存続の途中で用意可能だと判断した。

  恐らく現状が現状打破の最初にして最後の機会であり、成功確率こそ極めて低いが、自身が選択可能な選択肢では双方の自己にとって最良である為一切行動制限を受けず、単体としての自己が求める【単体存在としての完成若しくは完結及び存続】を目指せると思った。

 

 

 

  そう…俺はヴィータ達と違い家族の存続だけでなく、自身の為に家族を抜けるべく事にも挑んでいるのだ。

 

 

 

 

  ―――― 天神 速人 ――――

  Interlude out

 

 

 

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魔法少女リリカルなのはAS二次創作

【八神の家】

第十九話:熱の無いオモイ

 

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  ―――Side  天神 速人―――

 

 

 

  朦朧としながら意識を取り戻したフェイトが薄っすらと開けた眼に飛び込んだ最初の光景は、血塗れで身動き一つしないアルフと、赤黒い血を吐き出している速人だった。

(………………アルフを助けなきゃ………)

  朦朧とした意識ながらも、直ぐにアルフの下に向かおうとしたフェイトだったが―――

「っっぅあっ!!」

―――突如胴体を襲った衝撃と痛みに小さな悲鳴を漏らして倒れてしまい、起き上がる事を阻害されてしまう。

 

  一方、フェイトに銃弾を放った速人は、処理落ちしている最中の為数に物をいわせて発砲した為、残弾数0になり予備の弾倉も無くなったデザートイーグルを邪魔にならぬよう第二実験場の端の方に右手で投げ、同時に膝を支えていた左手で左腰のもう一丁のデザートイーグルを抜いた。

  そして漸く処理落ち状態から回復して精密射撃が可能になった速人は、フェイトが不調な内にデバイスを破壊しておこうと両手でデザートイーグルを構え、着弾角度と衝撃や加圧や被害等を考慮してバルディッシュのカートリッジ排出口に照準を合わせた。

  しかしそれと同時に―――

 

『ちょっと待ってくれるかしら?』

 

―――と、唐突に制止の声が掛けられ、速人の視界を遮るかの如く、宙にリンディの姿が映し出された。

 

  しかしその程度の事で止まる筈も無い速人は、一瞬の躊躇も無く発砲した。

 

  発砲された銃弾は宙に映し出されたリンディの顔面を吹散らし、速人が視界を遮られる直前の位置に在ったバルディッシュに命中した。

  そして速人は着弾した衝撃で宙を舞っているだろうバルディッシュに追撃を放つ為、未だ視界を塞ぐ様に宙に映る映像から半歩横に身をずらして視界を確保し、カートリッジ排出口辺りが破損して宙を舞うバルディッシュを視界に納め、即座に目標の軌道予測と弾道予測と着弾時差を計算し、再度発砲した。

 

  二発目はバルディッシュの重心点と思しき場所に命中し、深い罅を生じさせながら弾き飛ばした。

  だが、バルディッシュ自体の重さと壁まで距離もあった為、弾き飛ばされたバルディッシュが壁に叩きつけられることはなかった。

 

  床を滑っていくバルディッシュを再度着弾の衝撃で跳ねさせようとした速人だったが、起き上がったフェイトが射線上に割り込み、更に再度速人の視界を遮る様に宙にリンディの顔が映し出された。

 

  そして宙に映し出されたリンディが切羽詰った声で速人に話しかかける。

『っっ!お願いだから話を―――』

「―――話すといい」

 

  だが、リンディが告げ終わる前に速人は「聞きはするが止まらぬ」と言外に含めた言葉を被せながら銃を右の片手持ちにし、空いた左手で遅延時間3秒の特殊閃光弾を服から毟り取った。

  そして片手持ちのまま、まるでフェイトなど存在していないかのようにフェイトの向こう側のバルディッシュ目掛けて発砲し、その後即座に銃口をアルフに向け、髪だけに狙いを定めて一発発砲した。

 

  そして被弾しながらもそれを見ていたフェイトは、バルディッシュとアルフのどちらを優先させるか僅かな間迷ってしまう。

  しかし、そんな逡巡は隙にしかならず、結果、フェイトは速人が顔面目掛けて投げ付けた特殊閃光弾の対処が出来なかった。

 

  フェイトの眼前で炸裂する特殊閃光弾。

 

  閃光と轟音を至近距離で浴びて前後不覚に陥るフェイト。

  対して速人は炸裂点から距離もあり、更には閃光に対してのみとはいえ対処もしたので殆ど被害はなかった。

  そしてフェイトが前後不覚になっている間に速人はアルフへと疾走しつつもバルディッシュのコア目掛けて発砲した。

 

  着弾角度や重心位置を無視しての発砲だったので、主からの魔力供給が無い状態だったが砕くには至らず、着弾でコアに罅が発生するだけだった。

  そして着弾箇所に問題があったため、着弾の衝撃でバルディッシュが跳ね上がる事はなかった。

 

  バルディッシュに発砲後、速人はフェイトの足止めの為、人中・喉・心臓・肝臓・横隔膜・子宮に狙いを定めて発砲し、予備も含め残弾数0になったデザートイーグルを又もや邪魔にならぬよう端の方に投げやり、それと同時にアルフの側に着いた。

  そしてフェイトが呻いている隙に速人はアルフの瞼を指で開かせ、眼球に塗料用スプレーを吹き付けた。

 

  完全に気絶している為アルフの抵抗は全く無く、好都合とばかりに速人は念入りに両目に薬品洗浄しなければ剥がせないほど塗料を吹き付け、止めとばかりに鼻腔と耳孔にもスプレー缶が空になるまで吹き付けた。

 

  そして、空になった缶を又もや端の方に投げやりつつ右腰の魔導師殺しを抜きフェイトに銃口を向けた時―――

 

『お願いだから止まって話を聞いて頂戴!!』

 

―――三度目の静止の声が掛けられた。

 

 

 

  リンディの切羽詰った声に思い止まってではなく、単に交渉の準備を済ませたからという理由で速人はリンディの制止の声に応じた。

 

  とりあえずフェイトへの発砲を一時中断した速人は、まるで虚空を見ているような眼で宙に映し出されたリンディを一瞥して話し出す。

「要件が有るならば話すといい。

  だが―――」

 

  ―――魔導師殺しを両手持ちにし、両足を肩幅程開いてから中腰の姿勢になり―――

 

「―――不審な行動は控えた方がいいぞ」

  そう言って魔導師殺しの通常弾(.700NE弾)を発射する速人。

 

  轟音と共に発射された弾丸はフェイトの左ガントレットを掠めただけで粉砕し、そして壁に着弾した際に対戦車手榴弾炸裂時に匹敵する轟音を撒き散らした。

 

  発射した分の弾丸を再装填しつつ、速人は呆然とするフェイトとリンディに対して更に告げた。

 

「交渉中に不審な行為に及ぶならば、そこで倒れている者が標的になる可能性も考慮した方がいいぞ」

 

  そう言い、足元のアルフの額へと、高く振り上げた右足の踵を、軸足を捻りつつ弧を描く様にして叩き付けた。

 

  その結果、眼孔や鼻腔から血を流すアルフを冷静に観察しつつ、フェイト達に聞かせるように独り言を発した。

「なるほど。騎士甲冑と同じくバリアジャケットも、神経系だけでなく内臓等も防御対象外というわけか。

  これならば接近さえすれば生身でも打倒は一応可能というわけか」

  そう言いながらバリアジャケットの性能を測る為、連続してアルフを足蹴にする速人。

 

  そんな生物実験を行っている様な速人を、フェイトが慌てて止めようとしたが―――

 

「別の奴を屍にしたいのか?」

 

―――と言う言葉と共にクロノに銃を向けた速人を見、無念そうに足を止めるフェイト。

  そしてそんなフェイトを然して気にも留めずに速人はリンディに話しかける

 

「交渉をするつもりではなかったのか?」

『っっ!え、ええ。交渉と事情聴取がしたいの。

  だからアルフへの攻撃を止めてほしいのだけれど?』

「意識が戻るまでの間ならば条件付で中断しよう」

 

  相変わらずアルフを連続で足蹴にしながら何事もないかのように言う速人。

  そしてそんな速人に若干気圧されながらも即座に返事をするリンディ。

 

『私達に対する要求じゃなければ即座に呑むから、直ぐに止めてちょうだい』

「分かった。

  尚条件とは、交渉中俺に対して攻撃行動を行われた場合、先の戦闘で気絶させた二名が意識を取り戻すまでの間にその二名の蒐集が完了していなかった場合、交渉が終了若しくは中断した場合、この三つだ」

 

  そう言ってとりあえずアルフを足蹴にするのを止める速人。

  そしてそんな速人に眉を顰めながらリンディが話しかける。

 

『…………呑むと言ったからには呑むけれど、交渉中に互いの関係者を傷付ける交渉なんてあるのかしら?』

「ならば其方は交渉中此方が不利になる要素を一切行っていないというのか?」

『それは―――』

「―――もしそうならば、そんな愚挙を容認する最高責任者及びその配下の者と交渉する余地は微塵も無い。

  それと告げておくが、俺には其方と交渉を行う事自体への必要性は薄い。

  故に交渉中に虚言若しくは奇襲や急襲の為の交渉と判断した際は、即座に交渉を終了する」

『………………』

 

  出来る限り交渉を長引かせてなのは投入までの時間を稼ごうとも考えていたリンディだったが、即座に釘を刺されてしまう。

 

「そういうわけなので遠隔蒐集は予定通り行ってくれ。

  それと可能ならば足蹴にしなかった方の者を先に蒐集してくれ。

  防御及び補佐系の技能者を殺さず戦闘不能にするのは容易ではないのでな」

  そう言って速人はアルフを起き上がりざまに攻撃出来ない程度に横に転がしてからリンディに話しかける。

 

「交渉の場は設けた。交渉するなら迅速に成せ」

『……分かったわ。

  では改めて、告げさせてもらうわね。

  私は時空管理局巡航L級8番艦アースラ艦長、リンディ・ハラオウン。

  この事件……連続魔導師襲撃事件の最高責任者です』

「用件は?」

『…一つ目の用件は降伏勧告です。

  直ちに武装解除後降伏し、法の下に厳正且つ公平な捌きを受けて下さい』

「此方にとっての利は?」

『……これ以上の傷を負わないことと多少の便宜を図ってもらえること。この二点です』

「断る。交渉の余地すら無い」

 

  一瞬の逡巡も無く、反射と言える程の速さで答えを返す速人。

  その返答に眉を顰めながらリンディが食い下がる。

 

『ど―――』

「司法取引の無い降伏勧告は受けるに値しない」

『―――うしてか………』

 

  リンディの発言を先回りして答える速人。

  そしてリンディの評価を随時低く修正しながら速人は更に話す。

 

「二つ目の用件は?」

『……二つ目の用件は事情聴取です。

  この事件………連続魔導師襲撃事件に、あなたの家族の八神はやてさんはどの程度関わっているのかしら?』

「回答することによる此方の利は?」

『……逮捕後―――』

「現時点でアースラに存在している全員を現在から交渉終了後及び中断後180秒後までアースラに拘束すること及び同時間内アースラを用いての戦闘及び戦争行為の禁止、並びに交渉の終了及び中断の権利は此方のみが保有すること、この二つの条件を承諾すれば事情聴取を含めた交渉に応じよう。無論質問によっては回答しないが」

『―――最大限………』

 

  時間省略の為、又もやリンディの発言を最後まで聞かずに話す速人。

  そして発言を中断させられたことに眉を顰めながらもその程度ならと思い、速人の提示した条件を浅くない程度考えてから呑むことにするリンディ。

 

『…分かったわ。その条件を呑みましょう』

「違約した場合この場に居る四名を殺傷するがその点は了承するか?」

『違約しないのでそれで構わないわ』

 

 

 

―――

  リンディとしてはレイジングハートの修理が済むまでは何とか時間を稼いでおきたく、3分以上交渉出来れば時間的元を取れ且つ情報も聞き出せ、更にフェイトの回復に時間を当てることも出来るので損の無い条件だと思い了承した。

  だがそれはリンディの主観のみの視点であり、それは相手側の視点に欠いた思考であり、その条件をリンディが呑むことにより速人が何を得るかをまるで考えていない思考だった。

 

  速人がリンディに出した条件を承諾させることによって得るモノは大きく分け五つだが、そのどれもが重大な意味を持っていた。

 

  一つめ、交渉の終了と中断の権利を相手から剥奪することに因りほぼ際限無く時間稼ぎが可能。

  二つめ、交渉終了後アースラ関係者からの増援を180秒間阻止し一定以上の安全確保。

  三つめ、交渉中の身体機能の回復。

  四つめ、ユーノとアルフ蒐集の後、書が覚醒した場合アースラからの妨害に対する牽制。

  五つめ、ユーノとアルフ蒐集の後、書が覚醒しなかった場合はやてに対する状況説明と行動方針決定時間の確保。

 

  客観的に見てもこのような条件を呑む指揮官は無能と断じざるをえないほど、速人が提示した条件は速人にとって有利すぎるモノだった。

  尤も、熟考出来ぬよう、二度呼びかけを無視することにより交渉を行うことの困難さを植え付け、重傷のアルフに追い討ちをかけ即決を迫るという幾つかの布石が在ったので、一概にリンディが完全に無能というわけではなかった。が、それでもリンディの下した決断は指揮官として愚挙だった。

 

  そもそもある程度速人に対する情報を得ていたにも拘らず、クロノを単独で正面から送りつけたのが愚挙の初めだった。

  その後なのはを欠いた状態で次戦力を投入し、更に追加戦力の全員が戦闘に対して理解が無く、止めに意志薄弱且つ暴走危険の高いフェイトが居た事が追加戦力崩壊を招いた。

  そして今、リンディは速人が現状で最も確保したがっている時間を、交渉を行うという条件だけで十分過ぎる程提供するという愚挙を起こしていた。

―――

 

 

 

  自分にとっては都合が良いが、リンディの下す判断の愚かさに低能の烙印を胸中で押しながら速人は話し出す。

 

「八神はやては連続魔導師襲撃事件に書の主として以外は関与していない」

『(前振りも無いのね……まあ構わないけど)……どの程度関わったかいまいち分からないのだけれど?』

「書の主として存在することで守護騎士四名とそのデバイスを具現化させた事以外、客観的に見て関与していないということだ」

『……つまりはやてさんには何も知らせず、あなたの独断で動いたということでいいのかしら?』

「その認識で間違い無い。

  そして予定通りならば先程のリーゼアリア襲撃時に、八神はやてには説明がなされている」

『…今ここにあなたが居るのははやてさんの指示かしら?』

「否。

  八神はやての意向を無視した俺自身の意志だ」

『そう…………なら蒐集が終わった筈のクロノを殺していないことは、はやてさんとは無関係のかしら?』

「無関係ではない。

  俺は八神はやてと、殺人以外に妥当案が無い限り殺人を行わないと約を交わしている。

  故に殺処理以外にも妥当案が存在する現状では、八神はやてとの約がクロノ・ハラオウンを殺処理しない最大の要因になっている」

『…………もし……はやてさんとの約束が無ければ、あなたはクロノを殺していたのかしら?』

「フェイト・テスタロッサを暴走させる役割があるので殺していなかっただろう」

『………さっき殺していない最大の理由は、はやてさんとの約束だからと言ってなかったかしら?』

「発言に矛盾は無い。

  用済みに成ったクロノ・ハラオウンが未だ存命しているのは、八神はやてとの約が最大の要因だ」

 

  まるで使い終わった爪楊枝を捨てる様に、極極平然と言い放つ速人。

  そしてリンディは速人のその発言に肝を冷やしつつも、速人に殺人抑制をしたはやてへと感謝をし、それから軽く一息吐いてから改めて速人に話しかける。

 

『なら………とりあえず今はクロノが殺されることは無いのかしら?』

「絶対とは言わぬが、高確率で殺処理することは無いだろう」

『そう………念の為に訊くけれど、殺人が罪だと理解しているのかしら?』

「其方の法は殆ど知らん。

  殺人罪が在るのかも」

『いくらなんでも殺人罪が無い国家組織なんて無いわよ。

  それと私が言っているのは時空管理局の法じゃなくて、あなたが今居る場所の法で殺人が罪と認識しているかと訊いたのよ』

「勘違いしているようだが、此処に殺人罪は存在しない」

『……は?』

 

  想定外の返事に、呆気に取られた声を漏らすリンディ。

  対して速人はそんなリンディに構わず説明しだす。

 

「此の施設を含む一定範囲の領域は此の惑星最大の組織、連盟された国家群、以降国連と呼称する組織に治外法権地域として認証させている。

  尚、如何なる理由が在ろうと、俺の許可無しに此処の領域内に侵入したモノに対し、俺はその裁量に一切の制限を負わない。つまり俺の許可無しにこの領域に侵入したフェイト・テスタロッサ達四名に対し俺がどのような処理を為そうと、それは国連が認めている。

  故に俺が先程此の場で行った行為に関しては、此処の法律及び国連では一切罪とはならない。

  又、俺はこの領域に属す者の最高責任者だ。因って、此処では俺が法だ」

『……………………その話………………信じる証拠は?』

「俺の話を初めから受け入れぬ者に対して示せる有効な証拠は無い。

  確たる証拠を欲するのならば、盗撮盗聴侵入を是としている機関に属しているのだから自分達で調べると良いだろう」

『……………………色々と言いたいことはあるけれど…………とりあえずこの話は一旦措いておくわね。

  ……それで今度は交渉なのだけれど………はやてさんをこちらに引渡してもらえないかしら?』

「此方にとっての利は?」

 

  速人の返答に対し、今度こそは交渉を成立させると内心意気込みつつ、リンディは詰まる事無く返答した。

 

『引き渡しに応じてくれた場合、三つのメリットがあるわ。

  一つめ、事件に巻き込まれただけのはやてさんは最悪でも軟禁処置に留めるよう計らいます。

  二つめ、はやてさんが闇の書から受けている侵食を解除し健康体に戻せるよう計らいます。

  三つめ、引渡しに応じたあなたに対する処置は最悪でも保護観察処分若しくは軟禁処置に留めるよう計らいます。

  ………どうかしら?』

  リンディとしては破格の条件と思って提示したのだが―――

「司法取引でないのなら応じる理由は無い」

―――速答で拒否されてしまった。

 

  胸中で交渉の基本すら理解していないリンディの評価を胸中で予想範囲内の最低まで引下げつつ、速人は疑問を返そうとしているリンディの発言を封じるのと理由の説明を兼ねて即座に話を続ける。

 

「司法取引以外を拒否する理由だが、それは発言内容が高確率で履行されないからだ。

  そして仮に司法取引であったとしても、その内容では応じるに足る理由は無い。

  まず八神はやてへの処遇についてだが、八神はやてを事件の被害者とするならば、俺が引渡さずとも処遇は最悪軟禁処置に留まる。又、俺が引渡しを拒否する事により、其方が八神はやてを被害者から加害者へと切り替えるのならば、其の様な者との交渉に応じる理由も無くなるので、其方が提示する一つめの利は存在しない。

  次に八神はやてへの治療についてだが、其方の法は知らぬが推測するに身柄を拘束した者を生存させる義務が有ると仮定しているので、俺が引渡しを拒否しても治療は為される。また、俺が引渡しを拒否することにより、其方が八神はやてへの治療を行わないというならば、其の様な者との交渉に応じる理由も無くなるので、其方が提示する二つめの利は存在しない。

  次に俺への処遇についてだが、其方が如何様な判断を下そうと俺は構わない。其方が下した処遇を考慮し、最適と判断されるよう自身を運用すれば済む話なのだから。因って其方が提示する三つめの利は存在しない」

『……………』

 

  取り付く島が無いほど自分が提示した利を否定され、言葉に詰まるリンディ。

  そんなリンディを微塵も気にせず速人は更に話す。

 

「俺が其方の要求を受諾する条件は四つ。

  一つめ。八神はやて及び守護騎士ヴォルケンリッター4名を含めた計5名の処遇を、司法取引に依り2年以内の軟禁処分のみ若しくは同期間の保護観察処分のみ若しくは無罪放免にする事。

  二つめ。八神はやての進行性麻痺を司法取引に依り完治させること。

  三つめ。時空管理局の指すロストロギア・蔑称及び通称【闇の書】を、封印及び破壊並びに八神はやてより徴発及び押収しない事を司法取引する事。

  四つめ。其方が八神はやての身柄確保後、俺がどのような行動を取ろうと先の三項目の司法取引を履行する事を司法取引すること。

  以上だ」

『………………あまりに厚かましい条件じゃないかしら?』

「其方が此方の提示した条件を承諾するならば、其方には四つの利が発生する。

  一つめ。現在まで俺が収集した魔法技術の情報と現物流布の中止。

  二つめ。この場に派遣されたフェイト・テスタロッサ以外への解体処理の中止。

  三つめ。アースラへの民間協力者高町なのはへの国家安全保障法抵触に因る無条件拿捕の解除、並びに同親族への同処分の解除。

  四つめ。フェイト・テスタロッサへの精神解体の中止。

  但し、これらは俺に対し直接間接威嚇を問わず攻撃を行った際、全て無効となる。

  以上だ」

『………………………』

 

  仮に実行されたとしたならば、間違い無くリンディだけの責任では済ませられない事をサラリと述べる速人。

  そして其の話の真偽を懸命に計ろうとしたリンディだったが、出た結論は―――

『………仮に本当であったとしても、私では司法取引は行えないわ。

  だからその条件は呑めないわ』

―――という、当たり障りの無い凡百な答えだった

  だが速人はその答えに対して何も思わず、淡淡と答えを返す。

「ならば其方の要求には応じない。

  他に交渉案件や事情聴取事項が有るならば即座に行え」

『………随分とあっさり引き下がったみたいだけれど、それは先程言った事を実行してもう一度交渉しようとしているからかしら?』

「回答を拒否する」

『…何故かしら?』

「無駄な回答は拒否する」

『……何が無駄なのかしら?』

「説明が無駄だ」

『………重要な事への説明は無駄じゃないと思うのだけれど?』

「説明内容を予測出来ない低能に説明するのは無駄だ。

  何時までも些事に拘らず、他の交渉案件や事情聴取に移れ」

『責任者は予想される最悪の事態を把握するのも役目なのよ。

  だからそう簡単に引くわけにはいかないのよ』

「第一項目は明後日零時よりこの星の各所で開始予定だ。

  第二項目は交渉終了後無力化の為、両目・両耳・鼻・口唇・歯・舌・声帯・脊髄・四肢・片肺・片腎臓・卵巣・子宮・精巣・性器、を熱切断予定だ。無論、存在しない器官は不可能だが。尚、俺以外全てが戦闘不能になれば、フェイト・テスタロッサ以外は、脳髄のみを培養液を満たした培養槽に封入し、残骸は熱滅却処理予定だ。

  第三項目については明後日零時まで干渉は行われないようになっている予定だ。

  第四項目については高町なのはを戦闘不能後に実行予定だ」

 

  ユーノの蒐集が終わった事を確認しつつ、速人は更に話す。

 

「説明拒否の理由は、先の俺の発言を実行及び成功不可能と判断しているならば、裏付けの無い意思確認は訊くに値しないと判断したからだ。尚、俺が虚言を言わぬと判断しているので実行の有無を尋ねる、などと間の抜けすぎた戯けきった事を思っているならば、訊いてもほぼ無駄に終わる。

  理由は司法取引でないにも拘らず、自分の行動を確約するなどという愚挙を行なうつもりは無いからだ。

  故に訊くだけ無駄だ。

  以上だ」

 

  説明終了と同時にアルフの蒐集が始まり、フェイトがそれを阻止するべく動こうとするが―――

「間に合うと思うか?」

―――そう言いながらアルフの頭部に銃口を向けた速人を見て悔しそうにフェイトは項垂れる。

  そしてそんなフェイトに速人は淡淡と告げる。

 

「次は死体になっていると思え」

 

  極平然と、何一つ気負う事無く、一般人が冗談で使うかのようにそう言う速人。

  しかし、速人と僅かならがでも付き合いのあるフェイトは、次に迂闊な行動をすれば間違いなくアルフが殺されると確信した。

  だがその発言を唯の牽制発言と捉えたリンディが質問をする。

『さっき殺人はしないと言ってなかったかしら?』

  演技臭い不思議顔で速人に訊ねるリンディ。

「他に妥当案が無い限り、という前提を欠いているぞ」

  リンディの演技臭い不思議顔を気にせず返事をする速人。

『一度目は警告で十分だと思うのだけれど?』

  演技臭さが顔面から垂れ流れているような不思議顔で訊ねるリンディ。

「事前に説明は行った」

  普通ならば演技と分かっていても可愛いと思うリンディの表情を、まるで縁日で安売りしている仮面を見ているように気にせず返事をする速人。

『それでもいきなり殺人はやりすぎじゃないかしら?』

  年増が少女の真似をして媚びる時独特の不自然さを発しながらそう言うリンディ。

  だがこれ以上この件について話す事は無いとばかりに、速人は返答する。

 

「人でないならば殺害しても殺人ではない」

 

『「……………………」』

  呆然とするリンディとフェイトに対して速人は更に言葉を続ける。

「其方の認識が如何かは知らぬが、少なくとも俺は殺人とは生物学的なヒトを殺害した場合にのみ適用される言葉だと解釈している」

「っ………アルフは私の家族です!

  人間の様に笑ったり怒ったりしますし、優しさも持ってます!

  それを人間じゃないってだけで殺そうとしないで下さい!!」

「他に事情聴取するべきことや交渉は在るか?」

  フェイトの発言を微塵も気に留めずにリンディに問う速人。

  当然無視されて黙っていられないフェイトは食って掛かった。

「っっ!!無視しないで―――」

「お前と交渉はしていない」

「―――下さ…………………………っっぅぅぅぅぅっっ!!」

  だが、速人はフェイトの発言を皆まで聞かずにあっさり切り捨てた。

 

  迂闊に反論しようものならアルフが無事では済まないと理解したフェイトは、叫び出しそうになる口を唇ごと噛み締めて懸命に反論を飲み込んだ。

  そしてその時、そんなフェイトを見兼ねたリンディが割って入った。

『なら私から訊ねるわね。

  見た目も行動も思考も人と同じような者は人間と同じに扱うべきじゃないかしら?』

「ならば何故守護騎士ヴォルケンリッター…以降守護騎士と呼称する…達をそのように扱わない?

  守護騎士達は先の発言の枠を外れていない筈だが?」

『プログラムと生物を一緒にしないでちょうだい。

  守護騎士はその行動がどれだけ人に近くても、最終的にはその全ては闇の書の完成に繋がるものよ。

  アルフのように自由意志は持っていないわ』

「…成る程」

 

  一瞬軽く眼を瞑り、短くそう漏らした速人にリンディが更に告げだす。

『納得してく―――』

「こういうのを、耳が腐り落ちそうな大層な御高説、と言うのだな。

  成る程、実に言い得て妙だな」

『―――れた……か………し…………ら……………』

「演技ではない常軌を逸する程に連続で並外れた低能さと害悪さが表れる声を聞き続けると、其処まで低能且つ害悪な者は常識的に考えて居る筈が無いので自身の聴覚が機能障害を起こしたと理性が誤認するわけか。

  希少だが貴重と言う体験ではないが…人間社会の廃棄物と思っていた者にも、此の程度は利用出来る可能性が存在すると分かったのは収穫だな」

 

  虚仮にするわけでもなく、ただ淡淡と自分が思った事を述べる速人。

  しかしそれ故に、先の発言で速人がリンディを発言通りに判断していると、速人の話を聞いていた皆が理解した。

 

  そして悪意は感じられないと謂えども、そんな判断を下されたリンディは流石に顔を顰めながら速人に話しかけた。

『………ソコまで馬鹿にされるほどおかしな事を言ったかしら?』

「馬鹿になどしていない。

  唯思った事を翻訳して言葉にし、そして其方がどの様な反応をするか確認したかっただけだ」

『……何を確認したかったのかしら?』

「要約になるが外部刺激に対する反応だ。

  質問される前に答えるが、反応を観察した結果、其方の判断基準や行動理念の解析は終了した。

  そして結論として、其方が保有している知識を此方は全て保有しているわけではないので完全な思考予測は不可能。但し思考方針は予測可能。

  以上だ」

『……………まあ………人を完全に理解出来るなんて思っている子供特有の傲慢に目くじらは立てないわ。

  ……話を戻すけれど、私の発言のドコにあなたにそう思われる要素があったのかしら?』

「肉体という物質ではなく思考や事象という概念を判断基準にしているにも拘らず、その本質を僅かにも理解せずに概念の何たるかを語る様が、低能且つ害悪と評したのだ」

『……………どういう意味かしら?』

「推測だが守護騎士達は人工的にプログラムされた存在と見て相違ないだろう。そして大多数の生物は天然的な存在と見て相違ないだろう。

  推測だが守護騎士達が書の為に行動するよう定められているのも相違ないだろう。だが大多数の生物も自己保存と種の保存の為に行動するよう定められているのも相違ないだろう。

  つまり守護騎士達と大多数の生物達の相違点は、人工存在か天然存在か、そして行動方針が書に因るか自己保存と種の保存に因るか、この二点だ。

  仮に人工存在が天然存在に劣るのならば、生命工学を用いて生まれた人工存在は全て天然存在に対して劣るということになり、人工存在は家畜と同列と見做され、クローン技術やその派生系より発生したモノ、更には使い魔を自身達と同列に見做していることに矛盾が生じる。

  次いで自由意思についてだが、定められた機構を超える意志を自由意志と呼称するならば、定められた機構が書に因るか自己保存と種の保存に因るかは問題では無い。仮に行動方針として自己保存と種の保存である事を至上とするならば、それは畜生で在れと言っているのと同義であり、次元世界に身勝手な平和を強制する時空管理局の行動理念と相反する」

 

  話の最中にアルフの蒐集が終わったらしく、程無くしてシグナムより蒐集完了まで残り極極僅かという知らせが左腕の腕時計兼用携帯端末に送られ、速人は特定の電流が携帯端末より発せられたことでその旨を知った。

 

  そして後ははやてが懐いているであろう疑問に対する答えを述べられるようリンディ達を今迄通り誘導し、その後はやてが選択する時間を稼ぎ、その後仮にこの場所に来る選択をした際捕獲されずに生きている迄が、この作戦で自分が最低限成し遂げるべき役割だと再認識しつつ、見た目上は特に変化無く速人は更に話す。

 

「つまり其方の発言は破綻しているにも拘らず、自らが唱える説が一分の隙も無く完成され且つ常世(とこよ)現世(うつしよ)に通ずる真理の如き発言を指して本質を僅かにも理解していないと言ったのだ。

  そしてそれを微塵も自覚していない様が、低能且つ害悪だと言ったのだ。

  …クロノ・ハラオウンもそうだった事から推測するに、時空管理局とは大方魔法資質の格付けで要職に据えているのだろうな。仮にそうでなないならば、粗悪な人工知能の様な応答しか出来ぬ者が要職に就ける理由は精精防波堤にする為ぐらいだろう」

  常人ならば宙に映し出されたリンディの背後に怒りの炎を幻視して竦むところだが、速人はまるで気にせず質問の回答以外にリンディにとっては余計な感想を付け足して悠悠と話し終えた。

 

  速人の返答がとりあえず終わった判断したリンディは、内心少なからず怒りが渦巻いていたが何とか顔に笑顔を貼り付けたまま疑問を発した。

『………あなたの言いたいことは理解したわ。そしてそれが筋の通っているという事も認めるわ。

  けれど………それなら守護騎士達と同じく自由意思を持っているアルフに対する扱いはおかしいんじゃないかしら?

  私はあなたが普段守護騎士達とどの様に接しているかは知らないけれど、少なくともアルフのようには接していないのでしょう?』

「勘違いを指摘するが、俺はアルフに自由意思は無いと判断している。

  自身の存在意義と思考原理と行動理念を全て他者に委ねる者を、俺は自由意思及び意志が在るとは認識する気は微塵も無い」

『………使い魔とはそういうモノなのよ。

  主に絶対服従で、そもそも主に叛意を持つことなどまず在り得ない存在なのよ………』

「それがどうした?

  守護騎士達も書の完成を最優先しつつも主に絶対服従という定められた枠が在ったが、書の完成を望まぬ主の言葉を受け入れ書の完成を放棄した。そして今現在、その主の言葉をも無視して自身達の求める結末の為に守護騎士達は動いている。

  大方使い魔と言うだけの理由で他者に隷属及び依存する姿を、他者を大事にしている貴き姿とでも勘違いしたのだろうが、それはフェイト・テスタロッサの身体と命と言う俗物的なモノのみを優先しているだけだ。そしてそんな量産型消耗品のアルフと守護騎士達を同列にするなど、痴呆症患者の発言としか思えんな。

  警告しておくが痴呆症患者の相手をさせて時間を稼ごうとしているのならば、フェイト・テスタロッサが精神崩壊に陥る様な死体を作成するぞ」

『私は痴呆症患者でもないし、時間稼ぎをしているつもりもないから、そんな真似はしないでちょうだい』

「交渉や事情聴取が滞りなく進むのならばその程度の要求は呑もう」

『………その程度の要求って………あなた…命を何だと思っているのかしら?』

「理解不能だが有り触れたモノだと判断している。

  それと最終警告だが、話の本筋との関連性が著しく低いと判断される質問は其方の要件の後にする様に」

  そう言いながら速人はアルフをうつ伏せに蹴り転がし、それからアルフの重心付近にアルフの両腕を重ねるように蹴り飛ばし、重心点に重ねた両腕を踏み付けた。

 

  その光景を見たフェイトがそれを阻止しようとしたが、デバイスを取り落としてしまっている今の自分ではまずアルフを助けられないと判断し、唇を噛み締め、両手を力いっぱい握り締めて耐えていた。

  そしてそんなフェイトとアルフを気の毒そうに見ながらリンディは返事をした。

『……………分かったわ。

  以後私とあなたの要件が済むまでは脇道に逸れないわ。

  …………それで話を戻すけれど…………私はあなたの条件を呑んで司法取引をする気は無いし、そもそも私の権限では司法取引など出来ないし、それが可能な者に取り次いでも司法取引はまず不可能と判断しているわ。

  それに………取り次ぐまでの間、まさか何もせずにずっと待ってはいないでしょう?だから私はあなたの条件を呑む気は無いわ』

「其方の言い分は理解した

  次は其方が聴取なり勧告なりをするといい」

『ええ、そうさせてもらうわ。

  ……それじゃあ…………これから訊ねることが一番訊ねたかった事なのだけれど………………………もし闇の書が完成したら…………闇の書とはやてさんは………どうなると思っているのかしら?』

 

 

 

―――

 

  形式上訊ねてはいるが、リンディとしては確認や尋問のつもりだった。

 

  クロノがグレアムより聞いた話に依れば、話の中の軍師は間違い無く速人であり、そして速人は書が完成したらどうなるか正確に把握しているとリンディは思っていた。

  だが書が完成すればどうなるかを正確に把握しているならば、何故管理局に協力を仰がないのかがリンディには分からなかった。

 

  故にリンディはこの場で速人達が何をしようとしているかを訊き出し、場合によっては協力してこれ以上怪我人を出させず、そして出来るだけ法廷ではやてと速人の二人が有利になるよう終わらせるつもりだった。

 

―――

 

 

 

  譲れぬ確固たる目的を胸に秘め、真剣な表情で速人に問いかけるリンディ。

  しかし速人にしては容易に予測が出来るリンディの目的は背景が透けてしまいそうなほど浮薄に思え、リンディの表情に対し速人は自分が真剣になる為の自己暗示と解釈しており、先程からリンディの評価を予想通り下方修正し続けていた。

  そしてリンディが知ったら酷く不機嫌になりそうな評価を胸の裡でしつつも、即座に質問に答える速人。

 

「蒐集が完了し書が満たされれば八神はやては侵食から解放される」

 

  その言葉を聞いた時、まだ速人が喋っている途中だったがフェイトがその言葉を否定しようと口を開いた。だが―――

 

『黙って聞いててちょうだい』

 

―――と、若干冷たく硬い声をリンディがそれを制し、フェイトは発言を封じられてしまった。

  それから直ぐにリンディは目で速人に詫びつつ先を促し、それを見た速人は特に何も言及せず話を再開する。

 

「そしてほぼ間違い無く、書の機能により暴走状態に陥る。

  このように判断している」

 

 まるで遠い国で誰かが明日死ぬかもしれないと言う様に、極平然とそう話す速人。

  それを聞いたリンディは、予想はしていたが理解が出来ないと言わんばかりに苦虫を噛み締めた様な表情で問う。

 

『……ならあなたは何故蒐集行為に手を貸すのかしら?

  ……………そこまで知っているならば言うまでも無いかもしれないけれど、蒐集完了後の暴走とは一時的なものではなくて、消滅させられるまで続くのよ?

  にも拘らず蒐集を止めないなんて………………あなたははやてさんを死なせる気なの?』

「制御若しくは沈静化不可能と判断した場合は死なせるつもりだ。

  それと勘違いを正すが、暴走と死は同義ではない。

  死ではなく暴走ならば制御若しくは沈静化、又は暴走に至る構造的欠陥を修正すれば問題は無い」

『制御って…………そんなことが出来ると思っているの?

  闇の書は地球の科学の遥か先の科学の結晶なのよ?

  地球の科学より遥かに進んでいる私達でさえ翻弄されているというのに………』

「76.384371%で可能と判断している」

『…………………………その数字の根拠はなにかしら?』

「時空管理局が管理しているインテリジェントデバイスを、其方の魔法の構築理論や機械言語も知らぬ状態で11.2秒以内に掌握完了したのが主な根拠だ」

『!?まさかレイジ…………ッッ!!………いえ、一先ず後回しね。

  ………仮に闇の書の変更が可能なだけの知識や情報が有るとしても、主以外が闇の書のシステムに干渉できると思っているのかしら?』

「その点は既に解決済みだ。

  書への干渉権限を保有している守護騎士を介してならば干渉可能だ。

  但し管制人格が未だ完全に起動しておらず、書の改変を行う際に管制人格より十全の補佐を受ける為には、書の頁を蒐集により全て埋めなければならない。これは管制人格の完全起動の条件が書の666頁が全て埋まっている事と主の承認が必要な為だ。

  故に俺は蒐集活動を止めるよう言うつもりは微塵も無い」

 

  僅か数時間ではあるが、速人以外ではシグナムと魔導書の管制人格しか知りえなかった事を淡淡と明かす速人。

  対してリンディは速人のあまりの出鱈目さに暫し驚愕の表情で固まっていた。

 

 

 

―――

 

  リンディが驚愕したのも当然のことで、モノにも依るが完全に未知の技術に対して理解若しくは結論を下すまでの最短時間は、最高の設備を用いて超優秀と評される10人以上から成る頭脳者集団が全力で行っても半月は掛かるとされている。

  だがそれを恐らく一人で、しかも僅か12秒未満で同等の結果を成したのならば、速人の知識や処理能力は既に破格を通り越して人間の範疇を明らかに逸脱した領域にあるということになる。

 

  しかも速人の指すインテリジェントデバイスに心当たりがある為に唯の駄法螺と断ずること出来ず、しかもクロノ曰く軍師と呼ばれていた者は明らかに常軌を逸した知能を持っているらしく、信じ難いことだがリンディは速人が管理局と同等以上のプログラム改変能力が有ると認めた。

 

―――

 

 

 

  だが、驚いたからといって何時までも呆然としているわけにもいかないリンディは直ぐに我を取り戻し、そして改めて速人に訊ねる。

 

『それで………もし闇の書の暴走を食い止めたのなら………その後どうするつもりなのかしら?

  管理局に投降して罪を償うのかしら?それともそのまま雲隠れして逃亡生活でもするのかしら?』

「大まかな選択肢だが、管理局と和睦するか、隠遁するか、時空管理局の存在を魔法ごと知らしめて対立組織を発足するか、これまで通りに暮らすか、これらの何れかだろう。

  尚、可能性は大まかだが1:1:3:4で、その他が合計で1だ」

 

  大まかにだが話が終わったと判断したリンディは、これまで得た情報を基に考えを巡らしていた。

 

  が、直ぐに考えるまでも無く結論は出ていると思い考察を打ち切り、リンディは速人に告げる。

 

『取り敢えず伝えるべきことは伝えたし、訊くべき事は訊いたわ。

  ………まだ伝えたい事も訊きたいこともあるけれど、取り敢えず当初の要件は果たしたから、今度そっちが話すなり訊ねるなりして構わないわ』

「分かった。

  ならば先ずはリンディ・ハラオウンとの個人取引から行う」

『………なにかしら?』

 

  司法取引ではなく個人取引と聞いて怪訝に呟くリンディの言葉に対し、速人は特に焦らしもせずにアッサリと答える。

 

「アースラへの民間協力者の高町なのは及び前途の者の親類への国家反逆罪を解除する代償に、今回の連続魔導師襲撃事件の全責任を俺へと収斂させる事だ」

 

  その発言にフェイトや空間モニターに映る全て者の顔が驚愕に染まる。

  そしてしばし驚愕していたリンディだったが、少少浮き足立った様な心境を自覚しながらも速人の提案に答える。

 

『………そんな取引はとても応じられないわ。

  ………第一あなた一人に罪を被せるだけで、一体どうやって一連の事件にカタを付けろと言うのかしら?』

「一つ、守護騎士の基本行動方針は常に俺が提唱した案件に沿っている。

  二つ、守護騎士達にフェイト・テスタロッサ及び其の他の者達に関する情報の提供、並びに質量兵器の一時譲渡を行なったのも俺だ。

  三つ、守護騎士達の主が蒐集行為に気付かぬよう行動操作し続けたのも俺だ。

  四つ、暴走後制御若しくは沈静化不可能と判断された状況に備え、現在も八神はやてを即時熱処理可能な場所に留めている。

  以上四つの項目内の三つめの項目以外の証拠品は十分に存在するので、俺を一連の事件の首謀者として全責任を収斂させるに足ると判断している」

『…………一番肝心なはやてさんが蒐集行為を知らなかったという証拠が無いのが痛いのだけれど、何故無いのか理由を聞かせてもらえるかしら?』

「知り得ていなかった事を証明するのは極めて困難だ。

  仮に知らされる事が無かったという証拠を提示しようと、推測して理解に至ったという可能性は否定出来ないからだ」

 

  その言葉を聞きリンディは軽く眼を閉じて思案し、それから疑問が湧いて出たので、速人に訊ねても構わないか先ず確認を取ることにした。

 

『………後二つ答えてもらわないと返答できないから訊ねるけれど………いいかしら?』

「構わない」

『じゃあ一つめだけれど………守護騎士達は自分の意志で闇の書の主の為に蒐集を行ったみたいな言い振りだったけれど、さっきのあなたの言い振りだとまるであなたがそうするように仕向けたように聞こえたのだけれど………そう解釈して間違いないのかしら?』

 

  疑惑や不信や侮蔑を眼差しや言葉に乗せてそう問いかけるリンディ。

  だがそんなリンディの視線や言葉をまるで意に介さず、自身の推測通りの対応を返しているリンディの評価を更に予想通り下方修正しながら速人は答えた。

 

「その解釈は間違いだ。

  俺は事態が俺にとって都合の良い状態に()()()()()干渉しただけだ。

  お前が言う様に守護騎士達が俺にとって都合の良い行動を()()()()()は操作していない」

 

  速人の言葉を聞きリンディは疑問顔になり、少しの間逡巡したが理解できなかったらしく、

『…………差が分からないのだけれど?』

若干態度を軟化させながらリンディは速人に訊ねる

 

「つまり俺は守護騎士達の自由意思を掌握して傀儡になどしておらず、一連の件における守護騎士達の行動は全て自身の自由意思に因るものだということだ

  だが守護騎士達の行動の結果に関しては、俺は自分が都合の良い状態に成るように干渉していると言った。

  詳しく言うならば、俺は守護騎士達が自由意思で選択した事柄が俺自身にとって都合の良い状態に成るよう、行動時期等に干渉しているということだ」

『………………』

 

  速人の話を聞き終え、どの様に返事をするべきかとリンディは少しの間悩んだが、結局当初に決めていた通りの答えを返すことにした。

 

『………残念だけどその要求は呑めないわ。

  ………今の話が本当なら……多分あなたの言う通り、あなたに殆どの罪を被せることが出来るんでしょうけど……………年端も行かない子供にそんな事をする気なんて私には無いわ。

  ……第一、仮にあなたに罪を被せたとしても、闇の書が今まで犯してきた罪状は消えないのだから、あなたのその行為は無駄なことだし、何より、人間の様に振舞う唯のプログラムに人間の………しかも幼いあなたがその人生を棒に振るなんて事、大人として見過ごすわけにはいかないわ』

「法人でもなく、唯の器物と見做しているモノに罪科は問えぬ筈だ。

  過去に幾度暴走を繰り返すような基礎構造に欠損の在るモノだろうが、現在其れ等が解消されているのならば破壊する理由は存在しない」

『………………罪科には問えなくても危険物であったのは間違いないのだから、管理局が安全の為に厳重に封印を施すのだから、結局あなた達に二度と逢えないことに違いは無いわ』

「時空管理局が組織運営に必要なモノを全て欠落させていない限りは其の選択は在り得ないと推測している。

  はやてと守護騎士達が夜天の魔導書の徴発等の決定を不服として抗うのは明らかであり、ならば貴重な人材を罪人へと転じさせて入手放棄するよりも、司法取引に依って時空管理局に所属させる代わりに夜天の魔導書の所有権を認めさせる方を採るだろう」

『……………それは闇の書の闇と言われる所以を消し去れた場合に限る話よ。

  第一、闇の書と呼ばれる所以を本当にどうにか出来るか分からない以上、失敗して暴走してしまう可能性を見過ごすわけにはいかないわ。

  ………改めて言う必要も無いかもしれないけれど………闇の書が暴走したらこの星は滅びるのよ?

  出来るかもしれないと言うだけでそんな危険なことは許可出来ないわ』

「別に其方の許可を貰う必要など微塵も無い。俺達は時空管理局如きに属してはいないのだからな。

  そも、此の惑星を第97管理外世界と設定しているにも拘わらず、この星に住まう者に其方の都合と法を押し付けるのは傲慢を通り越して理屈が全く通っていない。

  自身達を絶対者と思い違いをしていて基礎的な事が欠落している様なので告げるが、どれだけ軍事力や組織力に開きが在ろうとも、国交が無い以上は対等な立場だ。

  そしてそれが不服ならば武力行使や洗脳話術等で自身達の主張を通すべきだ」

『…………………』

 

  人倫や倫理等を前面に押し出して話すリンディだったが、速人はリンディとは真逆に理論や法令を前面に押し出して話しており、端から見るとまるでリンディが駄駄を捏ねる犯罪者の様な構図が出来ていた。

 

  そしてその事は当事者であるリンディも痛感しており、リンディは改めて自分達の現状を鑑み、漸く自分達の言葉に対する説得力が非常に薄いと気付いて内心歯噛みしたが、表情には何ら表さずに会話を続けた。

 

『………確かに……私達があなた達に私達の法を押し付けたり、あなた達の未来を決定するのは傲慢なんでしょうけど…………この世界の命運を握る判断を秘密裏に下すあなたも傲慢なんじゃないかしら?』

「其の発言自体が傲慢だと認識していないようなので指摘するが、人の世の破滅が世界の破滅と同義ではなく、又星の崩壊が世界の破滅と同義でもない。

  人も星も空間も時間も、世界を構成する一つの要素に過ぎない。

  此の星の現行人類や時空管理局が出来るのは精精星を崩壊させること止まりであり、仮に人為的に時空震を引き起こそうが時間や空間自体は崩壊せず、世界を滅ぼすことは現在では不可能だ。

  人間の存続を世界の存続と同義にするのは、身の程と分際を弁えぬ傲慢且つ無知な言動だ」

『…………………なら世界という言葉を人の世と言い代えるけれど…………あなたとはやてさんの二人の為だけにこの星の人間全ての命を天秤にかけるというのは……酷く傲慢なんじゃないかしら?』

「思い違いをしているようだが、俺ははやての命をこの星の人間の命と秤に載せた事は一度も無い。

  俺が秤の片側に常に載せるモノは、俺の利、だ」

『……………………あなたは無関係な人を危険に晒してなんとも思わないのかしら?』

「無関係に属すると判断したならば、其れ等がどうなろうと無関係なのだから構わない。

  尤も此の事を其方に糾弾される謂われは微塵も無い。

  魔導書が暴走した際、現地民に一切避難勧告も事情説明もせずに殲滅兵器の使用を目論んでいるのだからな」

『ッゥ!!?

  だ……だったらっ……っっぅ!……………、あなたなら闇の書が暴走した時に、私達よりも安全に対処できるというのかしら?』

 

  話せば話すほど虚仮にされた挙句自分達が掲げる正義や法の後ろ盾を理論的に否定され、自制はしているので激昂はしていないが、それでも苛立ちが強く混じった声で速人に問いかけるリンディ。

 

  だが速人はそれにいつも通り淡淡と―――

 

「凡そ100%の確率で可能だ」

 

―――と、完全にリンディの想定外の返事をした。

 

  リンディとしては揚げ足を取るつもりだった問い掛けだったらしく、まさかその様な答えが返ってくるとは思っていなかったようで、呆気にとられた表情を晒していた。

 

  そして速人はリンディの表情を見て説明が必要だろうと判断し、淡淡と説明を始めた。

 

「此の施設の最深部に大規模の爆発物実験場が存在し、其処には水素爆弾を設置している。

  そして其処で魔導書の復元作業を行い、仮に暴走により復元作業が失敗と判断した場合、即座に水素爆弾を起爆し、摂氏4億度で熱滅却する。

  此の対処法は魔導書の管制人格も、暴走体が常時展開する魔力と物理に対する複合障壁及び更に別個に展開するであろう複合障壁全て破壊し且つ暴走体を消し去るには過剰な程のエネルギーだと認めている。

  尚、水素爆弾を起爆させた際、爆発物実験場のみならず此の施設も大破若しくは半壊するが近隣への人的被害は限り無くゼロに近く、又此の施設の大破若しくは半壊した理由も既に用意しているので、俺の生死に拘わらず各国への混乱は小規模に留められる。

  以上だ」

 

  速人の発言をリンディは俄かには信じられなかったが、今までに分かった速人の性格から嘘は言わないだろうと判断し、更には先程の常識外れの放電機構を鑑みた結果、速人の発言を真実だとリンディは認識した。

 

『…………迂闊に証拠の提示を求めたらどんな兵器を起動させられるか分からないし、嘘を言っている様にも思えないから…………あなたが私達以上に暴走した闇の書に対処できるというのは認めるわ。

  ………話を戻すけれど、あなたがどれだけ備えをしていても闇の書を夜天の魔導書へ復元する作業を看過するわけにはいかないわ。

  ………たとえ限り無く100%の確率で暴走体を殲滅できるとしてもそれは絶対(100%)ではないし、想定通り殲滅できたとしてもはやてさんの命は確実に失われる。

  僅かでも危険が存在するなら、管理局員としても一人の大人としてもそんな事を―――』

「脳の記憶領域や寿命は有限なので無駄に使用する気は微塵もないので、この件に関してそれ以上話さないでいい。

  そして最早音声通信は不要だ。映像も其方の言い分を文書で表示するだけに留めてくれ」

『―――認め…………………………』

 

  言外に【表示された映像や放たれる音をお前の顔や声と認識する、その程度のことにすら時間を割く気は無く、更にはそんな無駄な事を記憶する気は微塵も無い】と述べられ、速人の言い様にリンディは僅かな間だが鼻白む。

  そんな鼻白むリンディを速人は無視しつつ、予想通りリンディの評価を時空管理局の職員としての立場に付属する事柄以外には有機化合物としての物質的価値以外無しと結論付けた。

  そしてこの後直ぐにリンディから発せられるであろう、何故その様な発言をしたのかという浅薄な発言を封じる為に速人はリンディに先んじて言葉を発す。

 

「俺がリンディ・ハラオウン個人と交渉する事は最早無い。

  そして其方も同様と判断したので、最後に俺に対して疑問や主張を投げかけたい素振りを見せているフェイト・テスタロッサと交渉若しくは意見交換を行うつもりだが、双方異論は無いか?」

『………………………』

 

  言外に交渉以外に話には付き合わないと述べられ、最早自分との会話に価値を見出していないだろう速人とこれ以上の会話は不可能とリンディは判断し、フェイトに視線で言いたい事や訊きたい事があるならば存分に話す様眼で促した。

 

  そして位置的にリンディの映像が見え難かったが、何とか雰囲気で自分に会話の機会を譲ってくれた事を理解したフェイトは、痛む身体を引き摺って速人の前に立って話そうとした。

  だが―――

 

「近づくな。そして遠ざかるな。

  用向きはその場で述べろ」

 

―――銃口をアルフに向けられ、フェイトは一歩も歩けなかった。

  そして立ち竦んでいるフェイトに速人は淡淡と声を投げ掛ける。

 

「驚きや戸惑いで時間を稼ぐな。

  俺にはお前の驚きや戸惑い、更には喜怒哀楽に付き合って時間を浪費するつもりは微塵も無い」

「っっ!…………………分か………ったよ」

 

  色色と反論したいことは在ったが、折角の会話の機会を捨てるわけにもいかず、フェイトは何とか憤りを飲み込んだ。

  そして先程からどうしても訊きたかった事を言葉にして訊ねた。

 

「……速人は…………さっきから守護騎士達を人と同じように扱ってるけれど………………人じゃない……唯のプログラムなのに…………………どうして人と同じように接せるの?

  ………………知らないなら分かるけれど……………人じゃないって………普通じゃないって分かってて………………どうして人と同じように………普通に接せるの?」

 

  フェイトの発言を聞き、事情を知るアースラのブリッジに居る面面は沈痛な面持ちでフェイトの話を聞いていた。

 

 

 

―――

  自身が他人とは違う(普通ではない)事に対して負い目を持っているフェイトは、使い魔なので出逢い方や関係が特殊なアルフや、なのはやリンディ達の様に優しさを持った人達でもない、冷酷で人以外を実験動物の様に見ていると思った速人が何故守護騎士達を人と同じ様に接しているかが酷く気になった。

 

  もしも冷酷な速人が人でないモノに対しても人と同じ様に接す理由が利害関係を抜きにしたものだったのならば、誰よりも冷酷そうな速人が人でないモノを差別しないならば、案外世間は自分に対して否定的ではないのかもしれないと思い、フェイトは速人にこれからの人生を占うような気持ちで訊ねた。

―――

 

 

 

  余程人の機微に疎くない限り、フェイトがその答えに何かしらの期待を切に込めているのがありありと見て取れる問いだったが、速人は其れを十分承知した上で気にせず普段通り淡淡と言葉を返した。

 

「最初に根本的な誤解を指摘するが、俺は守護騎士達をヒトとして接した事は初対面の時も含めて一度も無い。

  次に俺はヒトという存在を特別な位置に置いておらず、ヒトというだけでの存在価値は獣や魚や虫や石と然したる差は無く、ヒトと同列に扱うことは何ら特別なことでは無い。

  因って前提を間違えたその質問にはこれ以上答えることは出来ない」

「………………」

 

  あまりの予想外な言葉にしばしフェイトは呆然としていたが、まだ自身の望む答えの希望が絶たれたわけではないので、気を取り直して速人に改めて尋ねた。

 

「…………言い方を変えるよ……………………速人は………普通じゃない…………作られたモノを………どうして大事に出来るの?」

「先に誤解を指摘するが、俺は普通じゃない若しくは作られたモノ全てを大事にするわけではない。

  話を戻して質問に答えるが、俺は唯あらゆる存在に対し主観で価値が在ると判断したモノを、その価値に応じて優先度を決定する。そして俺はその価値や優先度の判断の際、普通や常識という概念を介在させずに行う。

  因って俺は作られたモノというだけで価値の判断や対応を切り替える理由が無い。

  そしてもう一つの理由だが、守護騎士が人に作られた存在であるようだが、それは人も変わらない。

  人が交合でヒトを作り出すのと、人工授精に依りヒトを作り出すのと、何かしらの技術に依りヒト以外を作り出すのも、人が作り出したということに措いては何も変わらない。

  尤も交合の場合は意図して作り出すわけでなく、性行為の副産物として意図されずに作られるので、後の二つと違い、製作理由が存在しない場合が多いという違いはあるが」

「…………………」

 

  明らかに自分の望んだモノとは違う答えを返され、更にはその答えの内容にしばし呆然とするフェイト。

  そしてそんな呆然とするフェイトに速人は構わず言葉を投げ付ける。

 

「仮にはやてがお前達と絶縁していない時の為に言って置くが、自己を確立させられないならば早早に自害して果てるといいだろう。

  自我は在れども己の立ち居地を定めず且つ意志が無い存在は容易に暗示や洗脳が可能な為、遠くない日に傀儡として立ち塞がるだろう事は容易に予測がつくからな」

「っっ、わ………私は……………もう誰かの言いなりになったりなんかしない。

  必死に名前を呼んでくれて…………手を差し伸べ続けてくれて…………………友達に成ってくれたなのはの為にも……………私は道を間違えたりなんかしない」

 

  震えながら、そして瞳に涙を湛えながらもハッキリと言い返すフェイト。

  しかしそんなフェイトの主張も速人にとっては勘違いした発言としか認識されず、即座に凄まじい切り返しの言葉をかけられる。

 

「道以前に人間性を見る眼と現状の認識すら間違えているぞ。

  フェイト・テスタロッサと高町なのはの関係は断じて友と分類されるものではない」

「なっ!!??

  ち、違う!私となのはは友達です!

  だいたい友達の居ない速人にそんな事を言う資格なんて無いっ!!」

「俺の友の有無については言及しないが、フェイト・テスタロッサと高町なのはが友と言う関係については再度否定しよう。

  理由を述べるが、そも友とは精神的に対等な関係だ。が、極度に片方が依存及び隷属しているならば、その関係は主従関係と呼ぶ。

  それと即刻高町なのはと絶縁して確固たる自己を確立する事を勧告する」

「っっっぅぅっ!!

  わ……私となのは対等な関係だよ!」

「自覚はしたようなので俺からこの件で話すことは無い。

  他に訊ねる事はあるか?」

 

  散散引っ掻き回しておきながら言いたい事を言ったら後は一切取り合わない姿勢を見せる速人だったが、無論それでフェイトは納得出来ず食い下がってきた。

 

「さ…さっきも言いましたけど……私となのはは対等な友達です!

  ですからさっきの言葉は取り消してください!」

 

  必死の形相で速人に語りかけるフェイト。

  しかし速人は相変わらずいつも通り何も無い空間を見る眼でフェイトを見つつ返事をする。

 

「その話に付き合う対価に此方の問いに答えるならば、その話に付き合おう」

「それくらい構わないよ。

  だから早くさっきの言葉を取り消して」

 

  特に考えもせずアッサリと速人の言い分を呑み、苛立ちとワケの分からない不安を敵意で覆い隠したような声で答えるフェイト。

  そしてフェイトの拙い敵意を浴びている速人は、フェイトが速人の言葉を特に深く考えもせずに承諾したのを承知していたが、回答を拒否する程の問いをする気が無かった為態態指摘せずとも構わないだろうと特に指摘せず、直ぐにフェイトの話に付き合うことにした。

 

「俺の要求を呑んだので話しに付き合おう。

  そして先の発言を取り消す要求についてだが、俺の判断が誤りだと示せたならば侘びるので、理論を述べるといい」

「っっ、そ…そんなの言う必要なんか無いよ。

  私となのはは友達。そこには理論も何も無い。

  寧ろどうして速人が私となのはが友達じゃないって言うかを説明するべき」

 

  自分では速人を納得させることは出来ないとフェイトは思い、それならば逆に速人に自分を説得させれば良いとフェイトは考え、頭から否定する気満満で速人に自分を説得するよう仕向けた。ただ、それ以外にも自分では直視したくない部分がある事を何と無く自覚し、そこから眼を逸らしているという理由も在った。

  そしてフェイトの思惑や内情は見越した上で速人は簡単に承諾した。

 

「ならば其方の主張通り指摘しよう。

  フェイト・テスタロッサは高町なのはの意志には決して抗わないからだ。

  尊重するわけでも強制されたわけでもなく、相手を不快にして自身から離れていかぬように隷属し追従する。

  隷属し追従する者とされる関係を友とは呼ばない」

 

  まるで機械音声から愛想を省いたかの様に淡淡と告げる速人。

  そして譲れぬ琴線に触れたのか、フェイトが猛然と反論しようとしたが、それより僅かに早く速人が言葉を投げかけて反論を封じた。

 

「仮に、理由を理解する以前に理解する余裕も無い状況下で、高町なのはと時空管理局所属武装局員が戦闘をしていたら、どの様な行動を採る?」

「……なのはを助ける」

 

  一瞬速人の言葉を無視して先の言葉に対して反論しようかとしたフェイトだったが、自分でも良く分からない理由で律儀に速人の問いに答える。

 

「ならば助勢をした後に事の顛末を聞き、高町なのはが法に反し且つ社会的に悪と断じられる場合、それでも助勢を続けるか?」

「そ………それは…………………」

「出頭をしても無期懲役以上が確定している場合に置いても助勢を続けるか?それとも出頭を勧める若しくは干渉を断つのか?」

「………………………」

「もしその場で高町なのはから協力要請があった場合、自身と高町なのは以外の全てを敵に回し且つ自身の周囲の者達に多大な不利益を被らせると承知の上で尚その要請を受けるか?」

「………………………………………」

 

  質問や尋問と言うよりは確認事項の様に告げる速人。

  対して速人から告げられるフェイトは、速人が言った通りの状況になれば如何動くか明確に理解してしまい、何も反論できずに俯いてしまった。

 

「自覚したようだな。

  フェイト・テスタロッサにとって高町なのはは、他のあらゆる事に優先される。そしてその優先する理由は自身の空隙を埋める存在を喪失することへの恐怖であり、友情と言う概念は存在しない。

  尤もフェイト・テスタロッサの述べる通り、遭遇初期の頃は確かに友と呼べる関係であったのだろう。だが精神支配及び汚染されて自己を掌握されている現在では、幾度も繰り返して述べるが友と呼称される関係ではない」

 

  まるでフェイトとなのはの此れまでを見てきたかのような言い振りで話す速人。

  しかし―――

 

『いい加減にしてください!!

  あなたにフェイトちゃんの何が分かるっていうんですか!!?』

 

―――速人がフェイトの事を碌に知らないと思っているなのはが、リンディを押し退けて話しに乱入してきた。

  瞳に凄まじい敵意を燃やしながら、速人の足元のアルフの事など完全に失念したなのはが速人を睨んでいた。

  そして更に文句を言おうと口を開きかけたなのはだったが―――

 

「Project  F」

 

―――ギリギリ内容を伏せられた部類に入るその一言で言葉を失ってしまった。

 

「それともP.T事件の詳細と述べた方が理解し易いか?

  其れ等を知っている故に高町なのはとユーノ・スクライアがどれだけ思慮の浅い行いをしたのかも、そして時空管理局がどれだけ杜撰な対応や管理をしていたのかも俺は知っている。

  俺が何を分かっているかと言ったが、逆に俺が何を知らないかとは考えもしなかったようだな。

  他者を擁護するには随分と浅薄だな」

『っっ!………こ……言葉にしなきゃ………話をしなきゃ相手には伝わらないんだから、何も自分の事を話さないあなたの事を私が知らないのはしょうがないです!

  だからこうしてあなたとお話しようとしてるんです!!』

「逐一話をしなければ伝わらない程度の者に、自身の全貌知らせる事は間接的な利用価値が無い限り俺は行わない。

  そも俺と話すより、自身が痴がましくも友とアリサと月村すずかを呼ぶならば、今からフェイト(--友--)はやて(--友--)と相対することになるとでも伝えてはどうだ?

  事が終わってはやてが姿を消した時に沈黙や虚偽をしないならばな」

『「!?」』

 

  痛い所を突かれたと黙り込むなのはとフェイト。

  そしてそんな二人を全く気にせず速人はフェイトに話しかける。

 

「さて、フェイト・テスタロッサ。俺は先程話しに付き合った。故に対価に俺の問いに答えてもらう」

「………………………なに?」

「仮に自身が戦闘不能になり蒐集された場合、はやてへ害意を向けるか否か。

  先程の対価は此の問い一つだ」

「…………………はやてが蒐集する事を嫌がってるんなら………………………私は恨まないよ………………」

 

  眼前のアルフ、他にも破損したバルディッシュやクロノにユーノを想いながらも、フェイトは控えめながらも強く言い切った。

  そんなフェイトが葛藤の末答えを出した事をまるで気にも留めずに速人は言葉を投げかける。

 

「他に訊くべき事や話すべき事が在るならば速やかに行うがいい」

「…………それじゃあな―――」

『ごめんフェイトちゃん!ちょっとあたしにも質問させて!』

「―――んで………………なのは………………。

  えと……私は構わないんだけど……」

 

  そう言ってチラリと速人を見、勝手になのはに発言させても構わないかと逡巡した時、速人がそれに対する答えを述べた。

 

「高町なのはの発言は認めない。

  傲慢な癇癪にこれ以上付き合わせるのならば、先に述べた様にアリサと月村すずかに事情説明を行うのだな。

  事態がはやて達の一定期間の軟禁処置のみ等で済んだ場合、解放後はやては其方を気遣い、不本意な虚言を吐かねばならぬ状況に成りかねないのでな」

『……ま…魔法の事をこの世界の人には話せないんですから、そんな事は出来ません………』

「偽り、欺き、其れを是とする、か。

  しかも大層徒労が好みの様だな」

 

  馬鹿にはしていないが、なのはからしてみれば馬鹿にされたとしか思えない言葉を述べる速人。

  当然そんな事を言われたなのは猛然と反論する。

 

『っっぅ!た…たしかに嘘を言ってるし騙してもいますけど!……それが良い事なんて思ってません!!』

「ならば即座に改善するがいい。

  稚拙で粗雑な虚言や謀略で欺ける程アリサと月村すずかは愚鈍ではないからな」

『〜〜〜ぅぅっっ!!それが出来たらとっくにしてます!!

  だけど………魔法を知らない人には話してやれないんですから、そんなこと出来ません!』

「其れが自身の主張ならば其れで納得するといい。

  自身の意思で痴がましくも友と呼ぶ者を時空管理局の言い分に従い、偽り又欺く事を選んだのだからな」

『好きで騙してるんじゃありません!

  話せるならとっくに話してます!!』

「なら話すといい。

  そも、時空管理局に所属していない者が時空管理局の言い分に従う理由など無いのだからな」

『だ………だとしても言えません。

  魔法に関わったら危険なメに逢うかもしれない……………そうなったら力が無いアリサちゃんやすずかちゃんは大変な事になっちゃう……………』

「そう判断しているのならば即座に縁を切るのだな。

  高町なのはを支配下に置こうとしたならば、アリサと月村すずかの存在は極めて有効だ。

  理解していないようだが、話す事が関わることではなく、知っている者の傍に居る事が関わるという事だ。無論関わり方の度合いは違うが」

 

  速人の言っている事は正論だが、正論とは大抵言われた側は容易に受け入れられぬばかりか神経を逆撫でられるモノであった。そしてなのはもその例に漏れず速人の言い分が正論だと理解はしていたが受入れられず、正論で指摘された怒りに加え速人の冷淡とも取れる平淡な物言いに怒りを覚え、結果感情任せになのはは反論を始めた。

 

『あたしはあなたと違ってそれが一番だからって友達を切り捨てたりなんて出来ません!

  それにもしアリサちゃんやすずかちゃんが狙われたなら管理局の人が手伝ってくれる筈です!

  だいたい魔法が使えないアリサちゃんやすずかちゃんは魔法の事を知っても何も出来ないんですから知らずに暮らしていた方が良いに決まってます!!』

 

  捲し立てる様に文句を言うなのは。

  だがそれに対する速人は、なのはのみならずフェイトやリンディにとってすら完全に予想外の言葉を述べた。

 

「先も述べたが、大層徒労が好みのようだな。

  アリサと月村すずかからの連絡を確認していないようなので知らぬだろうが、二人は現在はやてと共に居る。そして現在の状況を説明された二人は、フェイト・テスタロッサ達3名がこの場に現れた時より現在に至るまでの状況を通信により見聞きしている筈だ。

  因って先程からの会話は既にアリサと月村すずかの知るところだろう」

『……………………………………』

 

  速人の言葉を聞いたなのはは愕然としつつも急いで携帯電話を取り出して電源を入れてメールを確認した。

  そして速人の言う通り二人がはやてと共に居る事を告げるメールが確かに存在し、更にはつい今し方送られた伝言が存在し、震える指で再生ボタンを押した。

  僅かなノイズがスピーカーから流れた後保存されたアリサの声が再生され、それは高性能な集音能力を有すアースラの集音機がその音を拾い、空間スピーカーからフェイトにもその内容を伝える。

 

<………あたしの友達同士が戦うってのに蚊帳の外にする気なんて………………フザケンじゃないわよ……………。

  あと自惚れ過ぎよ。何様のつもりよ。

  ……………………………終わった後に説明しないようなら本当に絶交よ>

 

  静かな声に怒りや憤りや蔑みの他に感慨深い諦めの様な感情を乗せた声が辺りに響いた。

  それを聞き、なのはとフェイトはアリサが本気で絶縁半歩手前になるほど怒っていると理解し更に呆然としていたが伝言は未だ終わらず、更にすずかの声を再生し始めた。

 

<………せめて……付き合いの長いなのはちゃんからは……説明が欲しかったな……。

  …………………………それと…………終わったら私も説明が欲しいよ…………。

  あと………終わった後でも友達同士が敵対したことへの説明をなのはちゃん達から聞けなからったら…………私…前みたいになのはちゃんと一緒に居る自信な>

 

  伝言時間が終わったらしく、すずかの台詞が急に途切れ、その後伝言された時間を機械音声が場違いな明るい声で告げた。

  放心状態のなのはの手から携帯電話が滑り落ちるのと同時に、速人は微塵も空気を気にせず告げた。

 

「逆探知を防ぐ偽装工作が終了する1039秒後までははやて達へ電話でのは連絡は不可能だ。

  尤もアリサと月村すずかが八神家から一定以上離れれば即座に連絡は着くが、先の話から察するに暫くは八神家で此方の状況を把握すると予測されるので、偽装工作終了までは連絡不可能だろうがな」

 

  二人に釈明の電話しようとしていたなのはに釈明はほぼ不可能と平淡な声で告げる速人。

  それを聞き、なのはは釈明もできないと知って俯いたまま黙ってしまったが、フェイトはなのはと違ってアリサやすずかの存在はそこまで重大ではなかったのでなのは程衝撃を受けておらず、未だ冷静な思考で一つ疑問に思った事を速人に訊ねた。

 

「……速人………アリサやすずか達がここの様子を知れるって事は………少なくてもここで話せば通じはする……んだよね?」

「此方の様子を確認しているのであればその通りだ。

  だが此方側に残された時間は少なく、その様な時間稼ぎに転用される行動は認めない。

  因って主張があるならば交渉終了後高確率で突入するだろう戦闘時にでも行え。

  尚、異論を一度唱える度に此処に倒れ伏しているものの四肢が一つ以上欠けていくと思うことだな、高町なのは」

 

  速人のその台詞の直後、フェイトは自らが出せる最高速度で空間モニター(なのは)を見やった。

  そして目に映ったのは案の定怒りの表情を浮かべたなのはだった。が、空間モニターは正常に機能しているようだが、空間スピーカーからは一切音が出なくなっていた。

  空間モニターに映し出されるなのはの剣幕から速人に何かを叫んでいるようだったが、寸での所でエイミイが音声送信を停止させたのでなのはの後先考えない反論は速人に届かず、そのことにフェイトは深く安堵すると同時に音声送信を停止させたと思われるエイミイかリンディに内心で深く感謝し、先程なのはが会話に乱入してきて訊きそびれた事を速人に改めて訊ねた。

 

「えと………さっき訊きそびれた事を聞くけど……………………何で私の質問に答えたの?

  …………私の質問に答えたって速人は何も得しないのに………」

 

  他にも訊きたい事があるフェイトだったが、途中から自分の疑問に答える速人を不自然に思い、最後に訊く筈だった事を繰り上げて訊ねてしまった。

  そしてフェイトが多分答えないだろうと思って発した問いだったが―――

 

「意志と意識の誘導、これらが可能ならば問いに答える価値は在る。

  無論其れをするに値する価値が在る場合に限るが」

 

―――速人は極平然と答えを返した。

  言外にフェイト自身とその問いには然したる価値は無いと籠めて。

 

「…………………じゃ………じゃあ……………今までの話は……全部デタラメだったの?」

「少なくとも俺にとっては出鱈目では無い。

  尤も、俺の発言が戯言か否か。戯言でなければそれは自身にとって聴く価値が在る言か否か。そして聴く価値が在る言ならば其れが自身の真実か否か。其れ等は全て自身が決めることだ」

「……………………………」

 

  自分で決めろと言われたフェイトだったが、自我も自己も希薄で行動理念や判断基準の殆どがなのはに依存しているフェイトには到底決められる筈も無く―――

 

「…………速人を捕まえてから決める。

  今はとりあえず聞きたい事を全部聞く。」

 

―――と、後回しにする事にした。

  そしてフェイトのその言葉を微塵も気にしていない速人は、沈黙でフェイトに質問を促し、フェイトは質問を続ける。

 

「………質問に戻るけど……さっき血をたくさん吐いてたけど……………病気なの?

  ………………それとも……………もしかして最初………私がぶつかった……せい?」

「フェイト・テスタロッサとの衝突で負傷はしたが、其れは吐血の主な要因ではない。

  吐血の主な要因は長期間に渡り薬物服用した事に因る副作用と過労による衰弱だ。

  尚、病気についての問いだが、病と仮定するならば精神病に分類されるが、病と判断するかは個個人に依り異なるので、その問いに関しては解答しない」

「………………じゃあ薬って何なの?

  そんな血を吐くほど危ない薬を飲んでたの?」

「服用していたのは主に麻薬に分類される物だ。

  尚、薬物の服用だけでは吐血に至らないが、約半年の間服用していた事に加え度重なる負傷と睡眠不足の要因も合わさり、既に衰弱死寸前の状態で先の様な運動を行った事が吐血に至った原因だ」

「…………え?…………」

 

  幾つか聞き捨てなら無い単語が在ったが、とりあえずフェイトは順に確認することにした。

 

「………あの………麻薬って………痛み止めとか……の?」

「其の用法も在るが、俺が使用していた物は凡そ快感を得る為の物だ」

「……えと……………あ…新しい薬の実験台……とか……だった………の?」

「使用目的の殆どは快感を認識する為だ。

  尚、使用した薬物の殆どは臨床実験が終了していたので、臨床実験を目的として使用した薬物は殆ど無い」

「…………………………………」

 

  速人の言葉に衝撃を受けたフェイトは暫く黙り込んでいたが、何とか気を取り直して質問を口にした。

 

「な……なんで薬なんかに手を出したの?

  速人には大切に想ってくれてるはやてが…………家族が居るのに……………。

  薬なんて自分どころか自分の大切な人も傷つけるのに…………」

「先も述べたが使用目的は快感を認識する為だ。

  それと思い違いをしている様なので告げておくが、医師及び学者としての判断で薬物を服用しており、治療若しくは矯正、又は補助として薬物を使用していた」

「えと………それじゃあ何で薬を使ったの?」

「再三述べるが快感を認識する為だ」

 

  見当外れの答えが返って来て少少苛立ったフェイトだったが、直ぐに質問の仕方が間違っている事に気付き、質問をし直す。

 

「じゃあなんで……か………かい……………えと……………気持ち良………じゃなくて……その………………えと………………」

 

  質問し直そうとしたフェイトだったが、聞く分にはサラリと流せたが、言おうと想うと存外に恥ずかしくて快感と言えず、赤面しながらしどろもどろになってしまった。

  そしてそんなフェイトを見た速人は、予定以上に話の進行が遅いのでフェイトの言葉を待たずに話し始めた。

 

「何故薬物により快感を認識しようとしたかについてだが、俺は肉体及び精神的刺激で快感を認識した事が一度も無い事が起因する。

  故に薬物を用いて快感を認識し、精神の変化を目的とした」

「?……………えと…………………あの…………ごめん………速人……良く分からないんだけど…………」

「要約すれば俺は完成された単体、若しくは完全なる単体に成る為、精神を人工変化させる過程で薬物を補助に用いたという事だ」

「…………………………………ごめん…………やっぱりよく分からない………。

  そもそもなんで精神を変える時に薬が必要なのかが分からないし………」

「先も述べたが精神の人工変化の際に薬物を併用した理由は、俺は肉体及び精神的刺激で快感を一度も認識した事がないからだ。

  故に薬物を用いて快感を認識し、其れを基に快と不快を設定し、更に其れを基にして擬似人格を作成し、最終的には擬似人格を纏って社会から弾かれぬ事を目的とした。

  限界まで要約すれば生きる為に行ったという事だ」

「…………………………………ごめん……………………まだ分からない。

  ……そもそも生きるだけなら……私はよく分からないけど速人はお金を一杯持ってるから…………はやてと…………家族と不自由なく一生暮らせるはずだよね?」

 

  余程自分の価値観から速人が外れている為か、未だ速人の言わんとしている事が理解できずに困惑しているフェイト。

  そして予測通りの反応を示すフェイトを見つつ、速人ははやて達家族との関係に一石を投じる言葉で以ってフェイトの疑問に答えた。

 

「金銭は目的を達成する一手段でしかなく、はやて達と家族であるのも目的を達成する一手段でしかない。

  俺は自らが発生してから今に至るまで常に求め続けているのは、単体として完成若しくは完全なる単体になることだ」

「っっっ!?!?」

 

  微塵も躊躇せずにはやて達との関係を手段と言い切る速人。

  そしてその言葉を聞き絶句してしまうフェイト。

  だがそんなフェイトに一切構わず速人は話を続ける。

 

「人間という群体が繁栄し続ける事を目的としているように、俺は自身を永久機関にして永遠に存続し続ける事を目的にしている。

  だが現在この星での最大勢力は人間であり、少なくとも現状では人間という群体は秩序の為に異端を決して容認しない。

  故に自らの肉体を永久機関にするまでの間、人間より殺処理されぬ為に利用価値を提示して存続をしていた。が、非効率的と判断を下し、現行案の代案に処世術の一環としての人心掌握術の精度を高める為、俺ははやてと一時的に家族関係を構築すると事にした。

  因って俺ははやて達と暮らしを存続させることだけが目的ではない」

「……………………………………」

 

  予想外過ぎる速人の台詞に呆然とするフェイト。

  そしてそんなフェイトを速人は見、これ以上の会話の誘導は非効率的と判断を下し、現状を確認しているだろうはやて達に向けて話しだす。

 

「アリサが高町なのはに先の様な伝言を行うとは、推定実行確率の低さから対策を放棄していたが、…此方の思惑に沿わぬとは流石はアリサと言うべきか。

  若しくは俺が度し難い程に未熟なだけか」

 

  突然独り言の様に語りだす速人にフェイトは呆然としながらも怪訝に思ったが、速人は構わず語り続ける。

 

「交渉の基本の一つに相手から尋ねさせるというモノが在るが、事此処に至れば其方から尋ねさせる様に話を誘導するのも時間の浪費だな。

  故に其方が疑問に思ったであろうことを此方が推測して告げよう」

 

  未だ呆然としているフェイトにこれから矢継ぎ早に話していくと告げる速人。

  そしてそのことにより、呆然としたフェイトが告げられる情報を処理出来なくなる可能性を十分速人は承知していたが、八神家に居る者達が理解すれば其れで構わないと判断して一方的に告げ始める。

 

「何故目的を異にする俺が守護騎士達と行動を共にしているのかという点だが、守護騎士達には家族の存続を第一にしていると話しているからだ。

  尚、その時の言葉は虚言ではなく、家族としての自己が出した紛れも無い事実だ」

 

  そう述べた時呆然としているフェイトの近くの空間モニターに映っているリンディが疑問の眼差しを速人に投げかけた。(音声はなのはが未だ暴走しているので切られている)

  そしてリンディの視線を受けた速人はリンディが疑問に思う事を予測していたので、アッサリとリンディの疑問の答えを告げた。

 

「俺は約半年前より殆どを家族として設定した自己で思考及び決定及び行動をしている。

  だが先程フェイト・テスタロッサに告げた目的は、【家族としての自己】以前より存在する【単体としての自己】のモノだ。

  そして同一の肉体に異なる多数の自己を内包する事を解離性同一性障害の一種と定義するならば、単体としての自己の発言は家族としての自己が発した発言に何一つ責任を負う事は無い。

 

  概略は省くが、多くの解離性同一性障害とは異なり、俺は相互の自己が互いを認識している。

  そして最大の相違点だが、俺は家族としての自己を意図して作成した。

  尤も、初期設定に不備が存在した為、現在単体としての自己と家族としての自己が互いを排除せんとしているが」

 

  再び眼で疑問を問いかけるリンディ。

  其れを又眼で問われるまでも無く告げるつもりだった速人はリンディの方を見もせず、既に蒐集が終わって無力化されているアルフの傍から離れ、バルディッシュとフェイトを底辺にした二等辺三角形を形作るような位置に移動しつつ話す。(無論フェイト達や空間モニターから閃光が放たれないかを警戒したままで)

 

「初期設定の不備とは二つ。

  一つめは単体としての自己と同列に家族としての自己を作成した事。

  二つめは家族としての自己に家族増加を禁止しなかった事」

 

  理解が追いついていないフェイトやリンディに構わず速人は構わず告げる。

 

「単体としての自己が目的の為に家族としての自己を作り上げたにも拘らず、同列の存在に設定してしまったことに因り主張が異なる場合、互いの自己が妥協点を模索するまでの間、状況に因っては生命維持に必要な行動以外は行動不能状態に陥る事態も存在した。

  これは単体としての自己と家族としての自己、双方の肉体の制御権が同等の為起こる現象だ。

 

  そして家族増加を禁止せずに自身を家族という総体の一部として希釈する事を防がなかった事に因り、はやてと二名の時ならば最終的に自身を優先しても問題が無かったが、総体の一部と成った事に因り自身を優先させる事が不可能になり、結果単体としての自己と頻繁に対立することになってしまった。

  これは二名の時ならば自身とはやての価値が同等ならばどちらを優先しようと問題が無いと判断し、且つ既にはやてに親族が存在しないと知っていた為に起きた不備だ」

 

  完全にリンディやフェイトを置き去りにして告げ続ける速人。

  尚、速人は移動先の情報をある程度(一般的には凄まじい情報量)調べて赴くのが普通であり、その際未成年の一人暮らしの者という事で顔こそは確認していなかったが稀少なので事前に調べていただけであるが、特に話す必要も無いだろうと速人は其れを告げなかった。(海鳴で有名な翠屋関連も既にこの時に調べてあった)

  そして空間モニターに僅かに映るエイミイの唇からレイジングハートの最終調整終了が800〜1200秒と読み取り、残っている時間が少なくなってきたので速人はリンディ達にではなくこれを見ているであろうはやて達に向けて話す。

 

「単体としての自己の最終妥協点は、【自身の死亡を前提としたモノ以外であること】、であり、家族としての自己の最終妥協点は、【総体の維持に絶対的に必要では無い事】、であり、この二つを両立させるには家族の総数を以前と同等の2名に戻すことだ。

  だが当然その様な案を家族としての自己は決して容認しない。

 

  そして家族増加より半月もせず単体としての自己は主張対立時に肉体が一時制御不能状態に陥る事を危惧し、最終妥協点を侵さぬ限りは家族としての自己の行動に基本的に干渉せぬようにした。

  しかし蒐集行為開始以降、時空管理局の情報を得る度に、事態終結後司法取引等で俺を含めた家族が時空管理局に所属した際、何れ自身の死を前提とした仕事を凡そ100%の確率で時空管理局が下すと判断した。

  そしてその際家族としての自己が総体維持の為にそれを了承する事は明白であり、結果双方の自己が対立し行動不能に陥った段階で詰みに成ってしまう。

  故に現在、家族としての自己と対立する事無く家族を抜ける為、今此の場に居る」

 

  リンディ達の驚きを全く取り合わず、速人は更に八神家に居るだろうはやて達に話しかける。

 

「詳細は時間と戦略の関係上述べぬが、家族の維持の為に俺を処分するのが最善な状況への誘導が最も被害が少ないと判断している。

  そして此の案を家族としての自己は総体維持の為に最善と判断し、単体としての自己は極めて高い確率で死亡するが死亡が前提とされていないので容認した」

 

  速人は八神家に居る面面がどの様な反応をするか事前に予測していたがそれを微塵も想像せず、更に八神家の面面に向け話しかけた。

 

「理解出来ぬだろうし出来ぬのが当然だ。

  既に俺の思考は、他殺の域の自殺思考だ。更に統合失調症と診断も可能な状態だ。

  自身で自身の発言や思考の不合理性や矛盾点が自覚可能な程、今の俺は極めて不安定だ」

 

  そして今度は八神家に居る面面にではなく、理解が殆ど追いついていないリンディ達に速人は告げる。

 

「因って時空管理局の者及び縁の者に告げておく。

  仮に魔導書の侵食を停止させ且つ守護騎士達が存在し続ける案をこの期に及んで若しくは敗北濃厚及び必至の時に提示しようと、最早俺は其れでは止まらない。

  時空管理局は兎も角、リンディ・ハラオウン達が自身達に属さぬ存在にどの様な対応を行うかは凡そ予知の領域での予測が可能だからだ。

 

  そも、魔導書が完全に覚醒すれば俺を完全に凌駕する存在…第五の守護騎士とも言うべきモノが顕現するのだ。

  家族としての自己ならば、自身を超える存在が自身の役割とそれ以外すらも受け持つのならば拒否する理由は無い。単体としての自己は言わずもがなだ」

 

  長い話が漸く一段落したとリンディは認識し、ツッコミ所が満載な話を聞いた為に多量のツッコミを入れたかったが既に自分との交渉は終わっており、現在交渉権を持っているフェイトに色色と訊ねる様目配せした。

  そしてリンディに目配せされたフェイトは速人の言った事の半分も理解出来ていなかったが、それでも訊ねるべき事だけははっきりしていたので視線で速人に質問してもよいかを訊ね、特に拒否されなかったので早速訊ねた。

 

「速人……………正直私は今の話の半分も分からない。

  だけど……………この二つだけは訊ねなきゃいけない…………」

 

  自失や動揺気味ながらも決意を瞳に籠めたつもりで話したフェイトだったが、速人は浮薄な自己暗示としか受け取らず、特に気にする事無く視線で先を促す。

  そして自分の決意に速人が全く揺れない事に若干苛立ちながらも、フェイトは速人に訊ねる。

 

「速人ははやてが…………………自分を大切に想ってくれる家族が大事なんじゃなかったの?

  なのにどうしてそんな簡単に自分から手放そうとするの?

 

  それに………罪を償う為に管理局に入ったとしても、管理局は死ぬ為の仕事なんて出さないよ?

  第一、もしそんな仕事が出たとしても、みんなで抗議すればそんなのきっと中止になるよっ」

 

  大声こそ出していないが、次第に語気が荒くなっていったフェイトの言葉に時空管理局の歪みを八神家に居る面面に知らせるのに好都合な箇所が存在したので、速人は八神家の面面に聞かせる意図を多分に含めてフェイトの問いに答える。

 

「思い違いをしているが手放すのではなく、はやて達に絶縁させようとしているのだ。

  総体の意思に逆らえぬ以上、自身の存在が総体に害成すと判断したならば、自ら総体より分離する若しくは総体より排斥される様にするのは当然の事だ。

 

  そして時空管理局が死ぬ為の仕事を出さないと言っているが、死ぬ為の仕事ではなく死亡を前提とした仕事を出すと俺は言った。

  具体例を挙げるが、最も高確率なのは現在までの魔導書の関係者の溜飲を下げる為、俺を魔導書の主と偽装させて死地に送り出すことだろう」

 

  フェイトは直ぐ様「そんなことは無い!」と声を出そうとしたが、それより早く速人が告げる。

 

「それをせねば現在までの魔導書の関係者が暴走するのは自明の理だ。

  魔導書が暴走した際に巻き添えになる者を切り捨ててアルカンシェルを放つ程度の判断力と実行力の在る組織が、管理外世界の非魔導師一体を生贄に使用しない道理など無い。

 

  さて、他に訊く事は在るか?」

 

  然して価値が無いフェイトの二つの質問に関する問答を一方的に打ち切り、速人はフェイトに尋ねる。

  だが速人はフェイトの言葉を待たず―――

 

「320秒後に再度尋ねるので思案するのだな」

 

―――と告げ、フェイトの反応を待たず、この状況を見聞きしているだろうはやてに話しかける。

 

「さて、はやて、現在までに得た情報を基にどの様な判断を下すかを選択する時だ。

  降伏するか、逃亡するか、和睦するか、無視するか、敵対するか、それとも其れ等以外を選ぶか。

  だが、どのような選択をしようと俺は止まるつもりは無く、俺を止めるつもりならば俺が考えた以上の案を用意することだ。尤も、半分とはいえ、家族の為でなく自身の目的の為に行動する俺を止めようとはしないだろうが。

  そして選択を行ったならば、迷いや躊躇いをも利用して成し遂げるよう心掛けるといい。覚悟をすれば精神の安定を得られる代償に思考の柔軟さを損ない易いからな。

 

  それと忠告だが、【自身の稀少且つ貴重な能力や資質を活かす為】等という選択肢はせぬ事だ。

  自身を構成する一要素に過ぎない能力や資質の為に自身の行く末を決める必要は無い。仮令その結果多くの者が死傷しようともその原因ははやてではなく、死傷した者達自身の力不足とその者達を守る位置に存在する組織の力不足が原因だ。

  選択を決する際、善悪で選択を決してしまえば高町なのはの如く主体性の無い存在になり、誰かの為と選択を決してしまえばフェイト・テスタロッサの如く他者に依存した存在になる。

  ゆめそれを忘れず選択することだ。

 

  後、途中で俺が死んだ場合に備えて更に忠告するが、時空管理局の言を決して鵜呑みにせぬ事だ。

  時空管理局は正義や平和の為と嘯きながらも、自身に属していない者を拉致して自身達への従属か能力封印かを強い、戦闘や戦争への耐性訓練を施さずに戦場に幾つかの能力が高いだけの未成熟な存在…即ち子供をを投入し、自身達の落ち度で他所の地を危険に晒そうと現地民へ現状の危機を通告せぬ以前に自身達の存在ごと事件を隠す。

  仮令どれだけ尤もらしく聞こえる言葉を連ねようと、時空管理局の本質は自身達が悪若しくは邪魔と判断したモノを処分し続けるだけの組織であり、平和を敷く事が目的ではなく、自身達が繁栄する事が目的の組織だ。

  故に其の言葉の細部に至るまで常に思考する事を止めぬ事だ。明確な悪が存在せぬにも拘らず正義を謡う組織は絶えず敵を作り上げ続けねばならぬという歪みを内包しているので、警戒を怠れば即座に組織維持の生贄にされるだろう」

 

  そこで速人は一旦言葉を切り、少し間を置いてから再度話し出した。

 

「判断を下す際にはアリサに意見を尋ねると良い。

  意見こそ主観的だが思考は客観的なモノの筈であり、類推された情報の精度も高精度だろう。

 

  最後に二つ忠告するが、自身の潜在している能力を覚醒させるのならば、覚醒した瞬間にはやてが友と呼ぶ者の自身を見る眼が変わると思うことだ。

 

  一般人と呼ばれる者が届かず触れえない領域を魔法が行使可能な者は届き触れえる事が可能であり、それは足が地より離れて空を駆け、手の届かぬ範囲外の物を壊す事が出来る存在ということであり、その様な存在を一般人という括りで纏める程アリサも月村すずかも愚かではない。

  誰が何と言おうと魔法を行使する者はこの地の大多数の存在とは明確に異なる存在なのだ。それを見当外れ甚だしい博愛精神や思い違いした余裕で一般人と然して変わらぬなどと嘯くのは、高町なのはやフェイト・テスタロッサといった傲慢な視野狭窄者程度だ。

  故に判断を下す際にその事を留意するように。

 

  そして覚醒させる選択をした際、後日仮に魔法を行使可能な事が知れ渡れば、その時は自身のみならずアリサや月村すずか、更にはアリサや月村すずかの血縁者や友人や想い人をも巻き込む可能性もある。

  故に覚醒した際には最早この地に居場所が無いと自覚する事だ。尤も、巻き込むのを承知で居続けるならばその限りではないが」

 

  それでとりあえずは言うべき事を言い終えた速人は、他は事態終息後に語っても構わないと思い、改めてフェイトに質問の有無を尋ねることにした。

 

「さて、改めて尋ねるが、何か尋ねる事や主張する事は有るか?」

「………………事件には関係の無いことだけど……………どうして速人は一人で何でもしようとするの?

  一人で何でも出来るわけじゃないし、一人で何でも出来るようになる必要なんてどこにも無いよ?

  それに自分一人じゃ出来ないことでもみんなで力を合わせれば出来るようになるんだから………。

 

  私も前一人で抱え込んでたから分かるけど……………一人でやれることには限界があるよ。

  だからそんな時に手を差し伸べてくれる人が居るってのがどれだけ大事で大切なことかも分かる。

  だから………………………今の速人みたいに差し伸べてくれてる手を振り払って一人でやろうとしてる事が間違いだって分かる…………。

 

  だから………………お願いだからこんなことやめて。

  …………今色んな人の手を振り払ったら…………後で凄く後悔しちゃうよ?」

 

  他にも訊くべき事は有るが、差し出されている手を振り払って何かを成さんとする姿に過去の自分を重ねたのか、フェイトは過去の自分を非難するように速人を非難した。

  が、そのフェイトの言葉に返ってきた言葉はいつも通りの平淡な声ながら強烈な内容だった。

 

「個個の力が加算や乗算がされる可能性が在るならば、逆に減算や除算される可能性も在る

  意識統一や連携訓練をしていない者達が力を合わせようと試みても高確率で失敗に終わる。又、単純な作業ならば成功はするだろうが、その場合は他で代替は容易に可能だ。

  第一、力を合わせた結果、説得に失敗した挙句ポッドの中の者共共虚数空間に落下したのだから、集団や組織での限界が必ずしも個体や単体の限界を超えているわけではない。

  理解していない様なので告げるが、恐らくフェイト・テスタロッサが単身で説得に赴けば迎撃はされたろうが、ポッドの中の者が覚醒した後に僅かばかりは労うつもりで彼の地へと連れて行く気は存在しただろう。尤も高町なのは程度の情報保有量から演算した予測なので精度に欠けるだろうが、それでも説得を成功させる事が目的ならば集団や組織の力を行使した事は最悪手だろう。

 

  それと個人での能力や行動に限界が在る事など十分承知している。無論集団や組織にも限界は在るが。

  だが、限界だから諦めろと?

  他者に心労かけるから諦めろと?

  お前は先の俺の話の何を聞いていたのだ?

  俺は単体としての自己及び家族としての自己の双方とも設定された事を成すだけの存在だ。

  諦めるなどという思考は俺には存在しない。

  繰り返すが、俺は定め設けられた事柄を思考して行動するだけの存在だ。

  俺は守護騎士達の様に設定された事柄を放棄可能な自由意思は持ち合わせていない。俺の知能若しくは精神と呼ばれるモノは、この地の現代の人工知能と然して変わらない程度のモノだ。

 

  後、差し伸べられる手が大事で大切と言っているが、そんなモノはNGOや坊主や神父や修道女や他諸諸が大量に差し伸べていて珍しくもないぞ。

  そんなモノを大切などと言っていては程度が知れる。

  それと何故差し出された手を掴まなければならない?

  差し出す事が自由ならば掴む事も自由である筈だ。

  他者の善意を無制限に受け取れと言っているようだが、それは騙されて死ねと言っているのと同義だぞ」

 

  サラリと母親が説得出来ずアリシアと一緒に虚数空間に落ちた事を指摘され、更には説得の方法が間違いだったと指摘され、フェイトは唇を強く噛み締め、そして両手を握り締めて俯いた。

  だが速人はそんなフェイトに興味は無いとばかりに告げ始めた。

 

「残り約400秒から約600秒でレイジングハートエクセリオンの調整も済むと予測しているので、質問や主張に付き合うのは次で最後だ。

  質問や主張がが有るならば60秒以内に発言し終えるように」

 

  ほぼ正確に調整終了までの時間を言い当てられリンディやエイミイは驚き、何所からかアースラにクラッキングをかけているのかと懸念したが、まさか単純な事前予測とエイミイの唇から読み取ったのが原因とは思いもしていなかった。

  対してフェイトは最後の質問や主張ということで何を言おうか迷っていたが、主張ならば戦闘中でも出来ると思い質問をすることにした。(リンディに視線で指示を仰ぐことはかなり前より忘れている)

 

「…………本当は他にも色々訊きたい事があるけれど……最後だってことだからこの質問にするよ。

  …………どうして………………アルフ達を殺さなかったの?

 

  …………さっきリンディさんに答えたのはが理由の全部じゃないよね?

  もしはやてやアリサとの約束の為だけだとしたら、速人は約束の穴を突いたりそもそも約束しないようにしようとするよね?」

 

  その言葉にリンディ達も速人に視線を合わせて言葉を待った。

 

 

 

―――

  長長と話しているせいで緊張感が薄らいでしまっていたが、クロノやアルフ達と相対した際の速人の苛烈とも言える行動と異常とも言える的確且つ素早い判断を見る限り、蒐集を行う為や約束を守る為だけに殺さなかったとはどうしてもフェイトには思えなかった。

  そもそも速人が単独で殺さずに無力化出来る可能性を考慮したならば、蒐集は不可能になるが確実に殺害して危険因子を排除する方に利が有るのは間違い無く、更に約束を守る為ならばその難易度と危険度からそもそも戦闘を行わないのが一番であり、はやての為に何かをするならば単独で行うよりもシグナムなどと共に行動をしていた方がどちらの面から見ても理に適っているとフェイトは思った。

  ので、速人のその理に反した行動には何か自分達が知らない重大な思惑等が隠れていて、もしかしたら気付かぬ間にアルフ達に何かをしたのではないかという警戒心も働いてフェイトは質問をした。

―――

 

 

 

  そしてフェイトやリンディの疑問を予測していた速人は淡淡と答えを返した。

 

「殺さぬ理由は事態終結後に拿捕乃至捕縛された際に、はやてが法廷で有利で在る為だ。

  またその労力を惜しめば事態終結後に守護騎士達に粛清されると判断したので、保身の意味合いも在る。

 

  それと先に告げておくが、この件ではやてが友と呼び且つアリサとの約が在るフェイト・テスタロッサと高町なのはの殺害は、俺にとっては禁則事項なので安心して俺を殺しにかかるといい。

  又、高町なのは及び親類にかけられた国家安全保障条約違反や、俺が特定機器に長期間情報双方向回線で送受信しなければ流布される魔法の証拠等は気にすることもないだろう。その様な事柄は時空管理局の管轄なのだから。

  その事を踏まえて過剰な力で持って俺の捕殺乃至捕縛を行うといい。

  非殺傷設定を行える魔導師が俺を傷つけ、更には死に追いやる行動をするほどに法廷で此方が有利に立ち回れる。そして仮に俺を殺害したならば、其の場合は其方の立場が著しく悪化し、相対的にはやて達の立場は飛躍的に安全になる」

 

  フェイトやなのはを嗾けている様で攻撃意欲を殺ぐという、両者に馴染みの無い搦め手を使う速人。(尤も搦め手とも言えない程愚直な唯の精神攻撃だが)

  そしてそれに反応したフェイトが何か言葉を返そうとするが、それより早く速人が喋りだす。

 

「さて、之で其方の質疑への応答は終了した。

  本来ならば即座に交渉を終了し戦闘へ移行するのだが、その前に此方の都合に幾つか付き合ってもらう」

 

  即座に戦闘に移行せずに独り言とも言える主張を述べるという速人を怪訝な眼で見るフェイト達。

  そして自身に集まる視線を一切気にせず、速人は他人事の様に淡淡と語りだした。

 

「既に単体としての自己と家族としての自己が混在しており、行動や目的が単一化されておらず幾つもの矛盾や非合理性を孕んでいるが、それでも尚変わらぬ認識を告げる。

 

  半端な混乱と半端な災禍を撒き散らす時空管理局は、創造理念や行動理念自体が俺の双方の自己と悉く異なるモノだと判断した。

  仮令降伏しようと洗脳を施されて異なる精神構造の物に作り変えられてしまう。故に降伏は死亡と同義だ。

  因って俺は誰が何と言おうと時空管理局に降伏などは行わない。

  俺の自己や家族の意思は各のモノであり時空管理局のモノではなく、又、それは各以外が持つモノではない。

  仮にそれを明け渡す事に因り更に生き長らえる事が出来るとしても、俺は生かされるのではなく生きていく事を選ぶ。

 

  故に、時空管理局の意の下で動く者達に告げる。

  邪魔だ。

  存在が、行動が、意図が、理念が、其の全てが邪魔だ」

 

  主義主張等と呼ばれる表層的な利害関係の不一致に因る対立ではなく、在り方を成す根幹の対立に因る利害関係の不一致という、相手の存在そのもの以前に存在理由や存在方法とも言うべきモノと相容れぬと言う速人。

  そしてそれは宣戦布告というよりは、後戻りが出来ない明確な決別の言葉だった。

 

  少なくともリンディは速人の言葉を聞き、自身達の言葉では決して止まらず、司法取引を行おうにも自分達の信用度はゼロ同然なので、最早武力行使に依ってしか止められないと確信した。

  だがフェイトやなのはは自分達なりに誠心誠意で話せば必ず止められると思っていた。仮令話を聞く気が無くとも、戦闘中に自身の主義思想を全力で告げ、そして想いの丈を攻撃に乗せれば必ず止められると(死傷して止まるということや自身が死傷して止まるとは両者微塵も考えてはいない)、

 

  しかし相変わらずそんな其其の考えを無視して速人は更に告げる。

 

「最後に交渉終了へ移行する前にフェイト・テスタロッサに警告する。

  デバイスを取り落としている現在の状況での勝率は凡そ0%だ。

 

  交渉終了後0.1秒以内に放電可能なクロノ・ハラオウンへ浴びせた電撃や、先程発砲した銃弾等をその身に受けたならば即座に戦闘不能となる。

  そしてそれを承知で降伏を行わないつもりならば、脳以外を破壊してでも戦闘不能化しよう。

  無論致死率が高いので可能な限り五体満足での戦闘不能化を行うが、それが行えずに脳以外が著しく破損して戦闘不能化にした場合、後程破損した身体より複製体を作成し、複製体完成後は複製体完成まで冷凍保存していた脳を解凍してその複製体に搭載し、日常生活に支障無き様対処はする。

 

  さて、これらを踏まえてフェイト・テスタロッサに降伏するかの否諾を問う」

 

  いきなり命の決断とも呼べるモノを迫られるフェイト。

  咄嗟に降伏を否定する言葉が口を突いて出かかったが、迂闊な事を言えば間違い無く最悪は脳髄摘出コースを辿る事になると理解した為、辛うじてその言葉を飲み込んで急ぎ思考しようとするフェイト。

  だが又しても速人はフェイトを無視して言葉を発する。

  しかも完全にフェイトにとって予想外の言葉を。

 

「尤も、降伏しないと言うのならばデバイスの回収程度は妨害しない」

 

  その言葉を聞き、言葉の意味は理解出来たが真意が全く理解出来ず呆然とするフェイト。

  そしてそんなフェイトと、更には似たような感じのリンディ達に向けて速人は告げる。

 

「最大の理由は其方にこの星の人類が扱う質量兵器とそれを繰る者の性能を知らしめる為だ。

  ソレを成さねば此方が仕掛けておいた幾つもの布石や保険は効果を発揮せず、この選択は当然の措置だ。

 

  容易に量産可能な質量兵器とそれを繰る凡人、対してほぼ偶発的に発生する稀少な天才。

  双方の能力が均衡しているのならば、どちらに分が有るかなど語るまでも無い。

 

  故に痛感させねばならない。

  強大な魔法を使えるだけで戦闘に関する知識や判断能力が皆無なのモノは、戦闘に関する知識と判断能力を有した凡人と其の者が繰る質量兵器に拮抗若しくは敗北する、と」

 

  まるでフェイト達を質量兵器の広告塔に使うかの様な台詞を述べる速人。

  そして相変わらずフェイト達の反応を無視して速人は更に述べる。

 

「因って交渉終了の合図後10秒間はデバイスを回収する時間を認める。

  更にデバイス確保後1秒後迄は準備時間として、此方はフェイト・テスタロッサに対して攻撃行動を起こさない。

  但し11秒の時間を認めているのではなく、10秒以内にデバイスを回収すれば残時間は消滅し、そこに1秒追加されるだけだ。

  其の事を考慮して行動を起こすのだな」

 

  そこまで述べて速人はフェイトを視界の中央に据え且つ焦点を合わせながら告げる。

 

「其方が此方に対して主張していないことや問い質したい事は多量に在るのだろうが、一度双方が示威行為若しくは武力行使の後に行わなければ双方とも妥協も譲歩もせずに平行線だろう。

  因って唯今を以って交渉を終了する」

 

  そう言って合図として肩の高さまで上げた右手を軽く振るう速人。

  そしてほぼ同時に苦虫を噛み潰したような顔をしたリンディや喚いている様ななのはを映した空間モニターは消失した。

  それから2秒近く遅れはしたが、気持ちを切り替えたフェイトは、自身が相棒と思っているバルディッシュに向かい全力で駆け出した。

 

 

 

  ―――Side  天神 速人―――

 

 

 

 

 

 

  Interlude

  ――― ?????? ――――

 

 

 

  憤慨と自責、二つの感情が綯い交ぜになった感情が烈火の将から伝わって来る。

  未成熟で本来騎士として守るべき者を、しかも家族を死地になるだろう場所に一人置き去りにして来たのだ。

  それが最善の判断だとしても、それを選択せざるをえない自身の力不足と、そして家族全体の為に家族の一員を見捨てたこと、この二つが烈火の将を苛んでいるのが痛い程に解る。

  そして直に守護騎士の各各とこの感覚を共有するかと思うと、心が圧し潰されてしまいそうで…………正直怖い。

  だが、私の心が壊れるよりもこの事を主が知った時、どれだけ悲しまれるかを思うと、其方の方が遥かに辛い。

 

  全てを語る事は無かったが、少なくとも家族を大事に思っているのと同じ程に家族を…いや……自身が家族である事を疎ましく思っているのを感じられた。

  提案された案の節節に家族を抜けんとする明確な意思を感じられた。

  だがそれでも家族を大事に思っているのが明確に感じられた。

  そして双方の妥協点として、自身の死亡率を上げる事で双方の目的を成し遂げようとしていると感じられた。

 

  正直、主や守護騎士達の許を離れんとする事は許し難いものだ。

  だが、家族の為と迷わず躊躇わず自身の命を賭し、そして今までどれだけ家族の為にと腐心してきたかを思うと、家族の許に居るよう説得してこれまで通り家族の為に身を削らせ続ける様な真似はしたくなかった。

  たとえ主や守護騎士が何と言おうと、家族である限り常時自身の命を削り続けて維持しようとするのは明らかなのだから。

  特に呪いから開放されて管理局の追跡を受けているならば、間違い無く自身の命を用いて管理局の追跡を振り切るような案を実行するだろう。

  それも主や守護騎士達に真意を知らせず。

 

  そう考えると今が別れの時なのかもしれないと、何所か納得が出来た。

  家族である限り自身に特別な価値は無いと消耗品として扱い続け、遠くない日に周囲の者の心に大きな傷痕を残した挙句自滅するのならば、家族という絆が切れるという悲哀の念はあるが、恐らくこれが双方にとって最も傷付かずに済む妥当な事であると納得していた。

 

  ただ………双方が相手に深い傷を与え続けると承知で共に在り続けられたなら………………いつかは互いを傷つける事無く共に在れるかもしれないと夢想した。

  双方深く傷付いた挙句結局別れを選択しなければならないかもしれないが、………傷付き、裏切り、諦観に塗れて終わりかねぬと受け入れ………、それでも尚不確かな都合の良い未来の為に全てを賭け続けられるなら………………、それは結果に拘わらず素晴らしい事だと思えた。

 

 

 

――――??????――――

Interlude out

 

 

 

 

 

 

  ―――Side  天神 速人―――

 

 

 

  交渉終了後若干遅れてだが行動を開始したフェイトは、速人が指定した時間内にバルディッシュを無事確保する事に成功した。

  そしてバルディッシュを確保したフェイトは即座に宝石部分に亀裂が入ったバルディッシュに無事かどうかを確認しようとした。が―――

 

Defensor Plus!≫

 

―――それよりも速く、バルディッシュはフェイトが使用可能な魔法で最も防御力の有る魔法を自動で展開させた。

  まるでそれがフェイトの問いかけようとする事に対する答えだと言わんばかりに。

 

  防御魔法が発動して効果が現れて0.2秒も経っていないが、既にフェイトがバルディッシュを確保して1秒経過しており、猶予の時間は終わったとばかりに速人は魔導師殺しの通常弾(.700NE弾)をフェイト目掛けて発砲した。

 

  膜状のバリアの様なモノが.700NE弾を防ぐのではなく逸らそうと効果を発揮する。

  が、一点での貫通性能はヴィータのラケーテンハンマーをも越える.700NE弾を完全に逸らすことは叶わず、軌道角度を2度も逸らせずに終わった。

  尤も、速人は初めからフェイトでは無くバルディッシュに照準を合わせており、伸ばした腕の先にバルディッシュが存在した為、フェイトは全くの無傷であり、バルディッシュは僅かに軌道が逸れたのでコアと思しき宝石部分ではなくその周囲の部分を抉られるだけで済んでいた。

  そしてバルディッシュを握って2秒もせずにフェイトは自分がどれだけ甘い思考だったのかを痛感した。

 

  フェイトは速人のような高速思考は不可能だが、それでも漠然とだがバルディッシュを心配するという事に意識を割く余裕すら無く、況してや自身の思いの丈を告げる為に妥当な言葉を考えるなど自滅行為でしかないと理解した。

 

  しかし戦闘の最中に自身の甘さを認識するなど甘いと言わんばかりに速人は再び魔導師殺しをフェイトに向けた。

 

「っっぅ?!」

 

  速人に銃を向けられたフェイトは息を呑み、射線上から外れる為に全力で横に移動した。

  が、銃口は全くフェイトから逸れず、そして移動中のフェイト目掛けて一発発砲された。

 

  発射された.700NE弾は狙い違わずフェイトの右足のアキレス腱に命中して抉り散らし、更に周囲の骨や筋肉だけではなくバリアジャケットの装甲をも抉り散らし、右足首の関節を破壊する。

  だが魔導師殺しより発射された.700NE弾は関節やバリアジャケットの装甲を破壊しただけに効果は止まらず、フェイトは右足首に瞬間的に多大な圧力が加わった為に右足首を払われたように宙で半回転し、フェイトは高速移動中に肩を床に叩きつけてしまい、その結果.700NE弾はフェイトに怪我を負わせただけでなく派手に転倒もさせた。

 

  そしてフェイトが転倒している最中、速人は即座に魔導師殺しの弾倉の固定を解除して弾倉を振り出し、奇術師顔負けの手先の器用さで信じられない速度を以って排莢と装填を行った。

  本来ならば通常弾とはいえ速人の未成熟な体ではリーゼアリアに発砲した1回でダメージ許容量が既に限界ギリギリで、2回目からは反動で既に手首から肩の間接を痛めてしまうので、今行った史上屈指とも言える排莢と装填速度の実現は痛みにより普通は不可能なのだが、両手持ちで且つ発射の反動を大幅に軽減できるよう故意に発砲後銃を固定せず、まるで素人が銃を撃って転倒する様に発砲の反動で上半身を逸らせて床より足を離し、しかし転倒せぬ為にその場で一回転するという曲芸で反動を大幅に抑えていた。

  尤も、転倒時に比べて隙は少ないが、約0.6秒の隙が出来るので、精精相手に対応される2〜3回が限度の一発芸に近いモノなので、最早速人はおいそれとこの射撃法を行う気は無かった。

 

  そして装填を済ませた速人はフェイトとバルディッシュの一連の行動から、バルディッシュの自己判断を失えばフェイトは然して脅威では無いと結論付け、フェイトよりもバルディッシュの撃破を優先することにし、再びディフェンサープラスの干渉で弾道がどのように逸れるかを計算し、計算が終了して発砲しようとした時―――

 

Jacket Purge!≫

 

―――バルディッシュが又も独断で行動を起こしていた。

  転倒しているフェイトが未だ体勢を立て直せず、防御魔法で逸らそうにも逸らされた先が目標であるよう誤差修正されて発射されると瞬時に判断したバルディッシュは、無防備になるのを承知でフェイトのソニックフォームを強制的に瞬間開放し、その反動でフェイトを床から弾き飛ばし、何とか速人の射線上から外れることに成功した。

 

  そして床から弾かれたフェイトが着地するまでの間、バルディッシュはバリアジャケットを防御能力の高いライトニングフォームで再構築しようかと逡巡したが、速人の攻撃の前では防御力は期待出来ないと判断し、それならば速度が上昇するソニックフォームがマシであると判断し、即座にバリアジャケットをソニックフォームで再構築し始める。

  尤も、如何に速度が上がっても注視された状態で視線から外れることが可能な程の速度ではなく、速度任せの移動しか出来ないフェイトでは速人の射線から逃れる事は困難であり、ソニックフォーム使用の上にブリッツアクションを使って漸く射線から外れられる可能性が有る程度だった。

  はっきり言って移動技術をまるで習得しておらず且つ速度任せにするにしては絶対的には程遠い速度しか出せないフェイトでは、並外れた行動予測が可能且つヒトの限界とされる領域の眼の性能を保有している速人との相性は、この閉鎖された空間内では最悪と言えた。

 

  だが、そんな事は言われるまでも無く既にバルディッシュは理解しており、このまま後手に回り続ければ後10秒もせずに自身が破壊され、その後即座に主が無残な姿で敗北してしまうとも十分理解していた。

  そして状況打破の為には危険度が高かろうと強引にでも攻勢に転じなければならないとも理解しており、ディフェンサープラスやラウンドシールドの展開を放棄して又もや独断でバルディッシュは行動を起こした。

 

Plasma Smasher!≫

 

  フェイトから勝手に魔力を引き出して起動させているのでかなり威力は減っていたが、その代わり発射速度や数を可能な限り本来の状態を維持してバルディッシュは起動させた。

  だが、速人は迫り来るプラズマスマッシャーを前に一歩も動かず、外套で体を覆い、サーチャーから手と口元を隠しながら―――

 

   

 

―――と、手の中の遠隔操縦機に呟いた。

  そしてその一瞬の後に速人に殺到するプラズマスマッシャー。

 

  その結果に迎撃後必斃や必壊の反撃が来ると思っていたバルディッシュは驚いた。

  如何に威力が激減しているとはいえ雷撃を伴っている為、アレだけの数を生身で瞬時に受ければ非殺傷設定であろうと感電死してしまいかねず、一瞬やりすぎてしまったかとバルディッシュは思った。

  そしてそれは今までまるで状況についていけなかったフェイトも同様であり、まさか死なせてしまったかと思い、急いで速人の許に飛行しだした。(右足首粉砕の激痛は、虐待経験時に培われた無自覚の拙い痛覚遮断で何とか堪えている)

  が、弾幕で張られた煙の中に佇む人影の存在を確認した時、バルディッシュは自らの迂闊さを痛感しながらも、フェイトの飛行方向を独断で転換させた。

 

  突如自身の意思とはまるで違う方向に飛行して驚いたフェイトだったが、それとほぼ同時に先程自分が居た場所に先程の弾丸と思しき物が放たれたと、発砲音と近くで風を切る物体が通過した感覚で理解した。

 

  壁に弾丸が着弾した為鳴り響く轟音の中、再び飛行制御が自身に戻ったフェイトは急いで空中で体勢を立て直した。

  そしてその最中フェイトが眼にしたのは、煙を掃う様に外套を片腕で翻し、もう片腕で自分に向けて銃を向けている速人だった。

 

 

 

  ―――Side  天神 速人―――

 

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  第十九話:熱の無いオモイ――――了

 

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【後書】

 

 

 

  え〜、色色とツッコミ所はありますが、今回の話は見ての通り速人の内面についての話です。

  今まで家族最優先で実は身内には優しいタイプと思われた速人を気に入って下さっておられた方、御覧の通り速人は実は初期に定めた機構に従っていただけという事が暴露されましたが、受入れてもらえましたでしょうか?

  あとドコゾの名探偵の様に麻薬服用していた過去があったりと、もう健全な主人公とは対極の位置に居ると暴露されたりと、今回の話しで速人の株は大暴落でしょう。(麻薬の後遺症のせいで身体機能低下って、………本当に主人公なんでしょうかね………)

 

  と言うかそれ以上に速人の支離滅裂具合への反応にビクビクしています。

  一応意図して支離滅裂にしたのですが、どうにも上手くいかず、手を加えれば加える程速人の言動ではなく話が支離滅裂になっていってしまいました。

 

  それとリンディ達へのツッコミは事態終結後か他のキャラに任せることにしました。

  正直、そこまで速人単独で話は引っ張れないというのを痛感しました。

  少なくても速人の周囲に理解者が居ないと、もう話が進まない以前にそもそも話を全くしないので盛り上がらない事この上ないです。

 

 

  IF二つめの後書の時点で三つに分けようかとか悩んでいましたが、結局あまりに雑然とした部分を削って改変し直して二つに分けることにしました。(まだかなり雑然としてますが………)

  という事なので速人の対物質量兵器を用いた戦闘は次回に持ち越されました。楽しみにされていた方、本当に申し訳ありません。

  一応少し戦闘描写を捻じ込みましたが殆どおまけの領域です。

  ですので次回は持ち越された速人が対物兵装を使用している戦闘と、はやて達との合流が見せ場になる予定です。

  ………というか、IF二つめの続きでの戦闘描写が先になりそうです。

 

 

 

  毎回誤字修正版も多数投稿して御手を煩わせた上感想を頂ける管理人様と御読み下さった方に沢山の感謝を。

 

  それと管理人様の御感想や掲示板での御感想は本当に嬉しいです。

  一感想毎に気合が入り、その度に少しずつですが文章が出来上がっていきます。

  自身以外での視点の感想や意見は本当に貴重なので、もう批判だろうと歓迎です。後、要望はもっと歓迎です。

 

  それでは改めて御読み下さった方に沢山の感謝を………。

 

 

 

                                     

 

 

 

【作中補足】

(読まなくても問題ありません。

  寧ろ18話と19話に名前が挙がっただけで使用されていない物の詳細も有る為、ある意味20話のネタバレになる可能性もあります。

  尚、特に説明する必要も無いだろうと思った物は独断で省いてあります)

 

 

 

                                     

 

 

 

(本当に読まずとも問題は無く、兵器の薀蓄が好きでない方は読み飛ばされる事を強くお奨めします)

 

 

 

                                     

 

 

【地下研究所の概要】(ほぼネタの領域です)

 

 

  日本の領土に有りながら、国連認定の治外法権領域。(一般人には知られていません)

  又、如何なる理由で在ろうと速人に許可無く進入したならば、侵入者に対し無条件であらゆる対処が認められている超危険領域。

 

  内部は一世代先(複葉機とジェット機並みの世代差)に限定的に手が届く程の科学水準で、国連に大量の技術や理論提供が可能な造りになっています。

  また並外れた発電量を誇り、磁気単極子(モノポール)を使用した発電所3機により、3機全力運転で日本の総発電量の約80%を発電可能です。

 

  尚、モノポールはヴィータが蒐集作業中偶然発見して(偶偶ポケットに紛れ込んでいた)持ち帰り、5つに分割されて3つが実験を兼ねて発電設備に充てられ、残り二つの内の一つを国連(というかアメリカ)に渡し、残り一つを予備として速人が持っています。(核融合炉ではないので発電所はかなり小型です)

 

 

                                     

 

 

【荷電粒子砲】

 

 

  砲弾と為る荷電粒子を粒子加速器によって加速させて発射させる兵器です。

  勘違いされがちですが、光学兵器ではなく運動エネルギー兵器に属しており、弾速は光速ではありません。

  又、発射時には多大な反動が発生します。(極端な話、熱された砂粒を高速で打ち出している感じです)

 

  現在(2010年01月現在)では不可能ではないというだけの兵器で、莫大な電力を必要とするので事実上兵器としての運用はありえません。(最低でも約1万MW(メガワット)は必要な為)

  更に他にも実用化されない障害としては、大気圏内での飛程距離(荷電粒子の発射から停止までの距離)が遠距離兵器にしては短すぎるという問題が在り、【ヱヴァンゲリヲ●新劇場版:序】の【ラミエ●】や【陽電●砲】並に莫大なエネルギー源を確保しない限り長距離戦では事実上使用不可能です。

  尤も、それに見合った威力はあり、恐らく運動エネルギー兵器としては最高の威力を誇ります(行き着く先は発射時に大気中の原子と衝突しての核融合です)。

 

  尚、速人の地下研究所にある荷電粒子砲は、砲身限界を考慮せずに発射すれば、範囲は狭いですが3秒程は新劇場版ラミエ●の零号機が被弾したモノ級の威力は撃てます。(尤も、放熱に因り近くに居る速人が焼死する可能性が高いですが)

 

 

                                     

 

 

【不可視帯域コヒーレント光】

 

 

  一言で言えば可視光域外の光を収束したレーザーです。

 

  要するに見えないレーザーです。

  又、荷電粒子砲や放電と違い、光ですので速度は文字通り光速です。

 

  尚、レーザーについての説明は有名ですので詳細は割愛します。

 

 

                                     

 

 

【粒子加速器】

 

 

  荷電粒子砲にも使用されていますが、これは荷電粒子砲の一部品ではなく、これは自爆兵器として独立しています。

 

  この粒子加速器は重イオンコライダーと言い、新しい物質の生成に使われる物ですが、加速する粒子が非常に重い為、空気中に発射すると空気中の原子と衝突して核融合を引き起こし、簡易核爆弾に速変わりする超危険自爆兵器です。(荷電粒子砲の粒子加速器は、レプトンコライダーと言う電子や陽電子等の軽い粒子を加速させるので、余程の出力に成らない限り気体と反応して核爆発は起こりません)

 

 

                                     

 

 

【水素爆弾】

 

 

  概略ですが、原子力爆弾を起爆させ、その高温と爆圧を以って水素(最近は重水素)に負荷を与えて核反応を起こさせる爆弾です。

  尚、太陽も水素に圧力を加えて核反応を起こしていますが、太陽は自身の重力で水素を圧縮して核反応を起こしています。

 

  原理的に太陽と同じですが、太陽が重力による集束と爆発による飛散の関係で水素が燻る様にしか核反応していないのに対し、水素爆弾は一瞬で核反応し尽すので、発生する熱等は太陽を凌駕します。(太陽の中心温度は推定約1500万度で水素爆弾の瞬間最大温度は現在摂氏約4億度です)

  尤も、瞬間的な熱量等は太陽を越えていますが、規模や持続時間は全く比較になりません。

 

  現在人類が保有している中で間違い無く最大級の火力を誇る兵器であり、物に因っては衝撃波が地球を三周しても尚観測される程の威力があり、起爆場所を選び且つ数さえ揃えば本当に地球を破壊する事が可能な兵器です。

 

 

  余談ですが、これで闇の書の闇を消滅させられないのならば、質量兵器を禁止する意味が時空管理局には無い筈です。

  仮に結界が在ったとしても、術式を解読しての解除以外に一定以上の魔力での単純攻撃で結界破壊が可能ならば、質量兵器でも破壊可能でないと理屈が通らないと思いますし。

  それに物理干渉無効化とか、何処かの型月界の様な真似が出来るならば、取り締まるほど質量兵器は危険ではなくなり、レジアスがとっととアインヘリアルを実用化させていたと思います。

 

 

                                     

 

 

機械言語(マシンヴォイス)

 

 

  一語に約1万文字前後の情報を内包した、コンピューターの圧縮言語の音声版。

 

  本来人間が基本的に発声不可能とされる音域を用いた、遠隔高速精密操作を行う為の速人の切り札の一つです。

 

  尚、発声音域は象〜蝙蝠程で、別の使い方をすれば一部の盲目者の様に音波の反射で物体認識が可能となっています(一部の一般の盲目者より高精度です)。

 

 

                                     

 

 

 

  尚、一見すると速人が最強っぽく見えてきていますが、それは研究所という陣地(というか処刑場)の中で戦闘をしているからです。

  仮に野外戦でなのはに勝利するならば、極超音速のミサイルによる瞬殺か、物量攻撃による鏖殺か、核による滅殺か、日常生活時での暗殺か、何れかの四択しか有りません。荷電粒子砲やレーザーカッターは出力の問題上有効範囲がかなり狭いですし。

  というか、なのはのような遠距離攻撃主体は質量兵器にとって相性が悪い部類に入ります。特にはやてのような超長距離攻撃主体は相性が最悪の部類です。そして全距離対応が可能なリインフォースは最早天敵です。

 

 

 

                                     

 

 

 

【おまけ】(とある日常の風景)

 

 

 

(…………背中にゴキブリが100匹這いずり回るような嫌な予感がして慌てて帰ってみたら…………原因はアレかよ………)

 

  乾いた笑みに死んだ魚の様な目をしたヴィータは台所での奇怪な行動を繰り返すシャマルを見ていた。

 

(……………ニンジンにジャガイモにタマネギ…………あとイカに………よく分かんねえけど魚か……………。

  う〜ん、シーフードカレーか?もしそうならなかなかイイチョイスだな)

 

  カレーならば少少どころか多多の失敗もルーと一緒に煮込めば大体隠されてソコソコ食べられる代物になると思い、ヴィータはほっと一息吐いた。

 

(………っておいおい!野菜は包丁で切れよ!なにミキサーで粉砕してんだよ!

  っつうか何でセロリとかネギとかも入れてんだよ!青汁作る気かよ!)

 

  ネギ系特有の刺激臭とセロリの独特の臭いが辺りに充満してヴィータは鼻を摘みながら更に様子を窺う。

 

(おいおいおい!何で水入れてない鍋にイカを突っ込んでんだよ!?

  って、しかもイカ生きてんじゃねえか!)

 

  墨を吹きながら火に掛けられた鍋から慌てて離れようとするイカ。

  しかし鍋からはみ出した足を蓋で押し潰し退路を塞ぐシャマル。

 

(アイツ………イカになんか恨みでもあんのか?

  なんでイカが鍋の中でもがいて暴れてるって知ってて、あんなさわやかな笑顔出来んだよ…………。

  イカ……すまねえ。絶対美味い料理に成らなくて無駄死にになっちまったけど、後でアタシが供養してやっからシャマル以外は祟んねえでくれよ)

 

  胸中で料理に成らず炭になるであろうイカに詫びるヴィータ。

  そしてそんなヴィータとは関係なくシャマルは次の行動に移った。

 

(…………なんでカレールーの100倍以上チョコが在んだよ…………そんだけ有ったら味が隠れねえだろうが!っつか、そもそも別の料理に成るだろが!

  てか、チョコは湯で温めたガラスの器で溶かすんだよ!火にかけて溶かそうとしたら焦げるに決まってるだろが!!しかも失敗したって分かってんのに更にそこにルー突っ込むなよ!!?)

 

  ネギ系やセロリの臭い以外にイカの生臭さにチョコの甘い匂い、更に焦げたイカとチョコの臭いが合わさり、悪臭と呼ぶべきモノに成っていた。

  その悪臭の只中に居るヴィータは、身体に纏わり付いた臭いを感じ、後で絶対に風呂に入ろうと心に固く決めながら更に様子を見た。

 

(おいおいおい!なんで米を洗剤で洗ってんだよ!?

  しかもなんでそれで普通に炊こうとすんだよ!?)

 

  既に調理実習と理科の実験がごちゃ混ぜになった様な混沌とした状況になっていく台所。

 

(おいおいおいおい!何で茹で卵作ろうとして失敗するんだよ!?

  鍋の底に置けばいいのに、何で鍋の上から落として入れるんだよ!?

  割れるの当たり前だろ!)

 

  清清しいまでに料理以前に調理の基本が存在しないシャマルを見、ヴィータはそろそろ止めようかと思ったが、迂闊に踏み込めば味見という名でいつかのザフィーラの様に毒殺されかけてしまう可能性を考えて踏み込むのを止めた。

 

(…………騎士は敵と戦って主や仲間を守るんだ。だから仲間と戦うことはねえよな。

  ………うん………戦ってねえからには、アタシは逃げてねえよな)

 

  理論武装というよりは自己弁護をしながらヴィータは、素人が黒魔術の儀式をしているようなたどたどしい怪しさを醸し出すシャマルを更に観察する。

 

(……………魚の内臓を楽に取り出す裏技は口から割り箸二本入れて回転させて引き抜くだろうがよ………。

  口から刺身包丁入れて回転させてどうするよ…………。

  しかも失敗して腹を切り裂いて内臓撒き散らしてるし………。

  生きてたらエグ過ぎだな)

 

  供養するリストに種類も分からない魚を追加しつつ、更にシャマルを観察するヴィータ。

 

 

 

 

 

  その後紆余曲折あったが、シャマルが用意した食材は見るも無残な加工を施されてカレールーとも言えない物の中に姿を消した。

  しかもそのルーは多量の味が隠れない焦げたチョコだけでなく、水分追加の為に色が似ているということでコーラと醤油を加えられた闇鍋状態の物だった。

  特にミキサーにかけた野菜の強烈な臭いと揮発した洗剤が眼に痛く、食材を無駄にしただけの物だった

 

(…………福神漬けとピクルスが良い味ですって…………それ作ったのははやてとハヤトだぞ……)

 

  カレー以外の端休めやオヤツ代わりにも大活躍しているはやて作の福神漬けと速人作のピクルスが食えない物の中に消えていき、内心涙ながらに見届けるヴィータ。

  そして一応の終結を迎えたらしいシャマルの謎物体作成儀式。

 

(……………………この前はやてと速人が石鹸作ってた時の方が料理している様に見えたり美味そうな匂いしてたのって………どうことなんだ…………)

 

  つい先日自家製石鹸作成の為食用可能なオリーブ油を基本に、他にも牛乳に卵に菠薐草に蜂蜜にパプリカに其の他諸諸を使用しており、正直苛性ソーダの存在を含めてもケーキ作りと言ってしまえば納得出来てしまいそうな光景であった。(実際買い物から帰ってきたシャマルがケーキと誤解して石鹸を一切れ摘み食いしている)

  しかし今ヴィータの目の前に広がる光景は、子供が泥団子を誰かに食べさせる為に作っているのを極限まで悪意的に拡大解釈して再現した様な光景だった。

  だが、どう見てもそうとしか見えなくとも、シャマルには食べた人に喜んでもらったり見返そうという気持ちしかなかった。(特にはやて)

  そしてそれが解っているだけにヴィータは表情を曇らせた。

 

(……………悪意が無くて一生懸命なのがタチ(わり)ぃ。

  これで面白半分でやってたらぶん殴って止めんだけどな………)

 

  流石に一生懸命やっている者を下手だからと………それも常識外れに下手なせいで人災レベルに発展しそうだからと止めるのは、流石にヴィータには出来なかった。

  特にまだ料理を始めて今回で4回めなのだ。

  回を重ねる毎に爆発的に悪化している感がしないでもないが、ヴィータは初心者の失敗と広い心を意識してそう納得することにした。

  だがそれでも一つの決意をヴィータはした。

 

(とりあえずアレは現場を見たアタシが責任をもってはやて達の口に入らないようにしよう。

  シャマルには悪ぃけど…………体が弱いはやての命を守る為にも、全力でアレが入った鍋をひっくり返させてもらうぜ)

 

  そう決めたヴィータは怪奇物体が入った鍋の中を何故か麺棒で攪拌しているシャマルに突撃して行った。

 

「シャーマルー、なんかオヤツ―――」

「―――あら?お帰―――」

 

  攪拌中にヴィータの声が聞こえて振り返るシャマル。

  しかし体ごと振り返った為、麺棒が腕と一緒に麺棒も体の正中線上に移動した。

  結果、

 

「「―――……あ゛」」

 

ヴィータの目論見通り鍋の中の怪奇物体は宙にばら撒かれることになった。

  但しシャマル向かって突撃しているヴィータに向かって。

  そして自分に向かって、まるで意志を持っているかの如く不気味な粘性触手を広げた様に襲い掛かってくる人造怪生命体モドキを見ながらヴィータはふと思った。

 

(沸騰した粘っこいヤツを浴びたら大火傷だな。

  ……ていうか口は開けたままだし、アレが口から腹に入ったら多分死ぬな。

  ……………すまねえ、はやて。

  多分ココでアタシ死んじまうぜ。

  ……………まあ、シグナム達も居るし、速人も居るから心配ないか。

  ……………………だけど…………最後にはやてや速人を見たかったなぁ……)

 

  冗談2・本気8の比率でそんな事を思いながらヴィータは闇の洗礼とも言うべき汚濁をその身に浴びて意識を失った。

 

 

 

  後日、闇の洗礼モドキを受けたヴィータは火傷も酷かったが、胃に流れ込んだ汚濁が原因で3日間水も満足に飲めない状態になった。

  更に髪にこびり付いた汚濁がシャンプーでは殆ど落ちず、醜態を晒す上に悪臭を放ち続ける事に耐え切れず、速人が成分分析して中和剤を作成する5日めまで部屋に篭りこんでいた。

 

 

 

                                     



今回は速人とリンディの交渉がメインって感じかな。
美姫 「流石は速人と言うか、相手が誰でも変わりなく」
いやー、もう清々しいまでにやってくれてますな。
美姫 「さしものリンディもちょっとお怒りモードっぽかったしね」
まあ、当初の予想通りに交渉は決裂と。
美姫 「共に時間を稼ぐ意味合いもあったけれど、速人側の方がちょっとばかり有利かしらね」
色々と速人に関しても分かってきたし、次回がどうなるのか。
美姫 「とっても楽しみよね」
うんうん、次回も待ってます。
美姫 「待ってますね〜」



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