この話はSS【八神の家】の幕間ではなく、もしも(IF)の話です。

ですのでSS本編がもしStSまで進めば、必ず相違点が出る代物です。

ですから二次創作のIFを了承できる剛の者以外の方は読まれない方が賢明です。

 

注1)リインフォースが空に還らず闇の書の闇はどうにかなっています。

注2)階級に関しては自衛隊で使用されているものを流用していますが、将官の階級は原作通り第二次世界大戦時の日本軍の階級名に倣っています。また作中階級が明記されていない面面の階級については作者の捏造設定です。

注3)速人の外見年齢はリインフォースと同じかちょっと幼いぐらいです。(髪の長さはリインフォースとフェイトの中間程度で、ストレートです)

 

 

 

 

 

 

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魔法少女リリカルなのはAS二次創作

【八神の家】

とある可能性編 二つめ:其の参

 

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  ――― とある訓練場 ―――

 

 

 

  模擬戦開始までの残り時間、速人たちはリインフォースの命によりその場で待機していた。

  しかし待機命令を下したリインフォースと多種多様な雰囲気を物ともしない速人以外は、宛ら自分達が査問されている様な錯覚に陥るこの場の雰囲気に大小差は在れど気疲れしていた。

 

  特にほぼこのような状況に耐性が無いフォワード陣と、稀有な才能の為持て囃されてきたのと上官があまり厳格でなかった為このような状況に耐性が無いなのはとフェイトは、僅かな時間で凄まじく気疲れしていた。

  逆にシグナムとヴィータは騎士の礼節の一環ということで、自然体で居られるとまではいかぬものの然して苦になっておらず、両者とも今後こういった雰囲気に慣れる訓練でもフォワード陣にしようと考えられる程度の余裕はあった。(シグナムは提案するだけのつもりだが)

 

 

 

  そしてそんな厳格な雰囲気でも当然時間は経過し、模擬戦開始まで残り180秒まで後1分足らずになった時、スッと一本の腕が挙げあれた。

 

「何だ、ランスター二士。

  疑問が在るならば言ってみるがいい。発言を許可する」

「……はい。

  ………あの……天神さん……等陸士がなのは隊長にどういうつもりでアンナ事言ったのかを……確認したい……のですが………駄目でしょうか?」

 

  まるで査問されていると錯覚する様な雰囲気にも何とか耐えつつ、ティアナは恐る恐るリインフォースに意見する。

  が、ティアナの質問に答えたのはリインフォースではなく―――

 

「あ、あのねティア、今は模擬戦前だから余計な事は考えず集中した方がいいと思うな」

 

―――と、言いながら会話に割り込んだのは、探られると痛い腹を持つなのはだった。

  しかし機動六課でなら兎も角、この場でそのような事を言えば―――

 

「断りもなく発言するだけでは飽き足らず、私が処理すべく問題を断りも無く処理しようとするとは…………どうやらその口は戯言を紡がずにはいられんようだな………」

 

―――と、このようにリインフォースから軍人思考と軍人口調の言葉が叩きつけられるだけだった。

 

「高町教導官、……教導隊に帰還したいが為に規律を乱して送還紛いの方法で帰還しようとしているのならば、望み通り本日中に機動六課を追放して教導隊に突き返してやろう。

  異論が在るならば即座に答えろ。発言を許可する」

「え?いや、そう言うわけじゃないよ。

  ただ模擬戦前にそんな事を聞いて―――」

「―――もういい、黙れ。それ以上我等が部隊に恥を掻かせるな。

 

  ………両分隊隊長及び両分隊副隊長は予定より早いが直ちに指定された観戦場所に移動せよ」

「「了解しました」」「り、了解しました」

「え?あの―――」

「―――両分隊副隊長、そこの機動六課の恥曝しを直ちに観戦場所に移送せよ」

 

  公私のケジメが微塵も付けられないなのはの対応に苛立ちよりも呆れが先に立ったリインフォースは、先程よりは刺刺しい雰囲気よりも呆れと疲れが多分に混じった雰囲気を放ちつつ、シグナムとヴィータになのはを即座にこの場から引き剥がすよう命令を下した。

  そしてその命を受けたシグナムとヴィータは、リインフォースが機動六課の評判を下げないよう細心の注意を払っていたのをなのはが悉く台無しにしているのを不憫に思い、視線で励ましながらも凛とした表情で返事をする。

 

「「了解しました」」

 

  敬礼の後直ぐにシグナムとヴィータはバリアジャケットを展開し、それぞれなのはの片腕を確保してそのまま空輸していった。無論余計な事を口走らない様にシグナムがなのはの口を塞ぎながら。(ヴィータでは腕が短いので体勢が崩れしまうので、自然とシグナムになった)

  そしてシグナム達が飛び立った後、フェイトは少しの間オロオロしていたが、リインフォースに半眼で見られたので慌ててバリアジャケットを展開してシグナム達の後を追っていった。尚、敬礼をしなかったことでリインフォース内のフェイト株が又下がったことをフェイトは気付いていなかった。

 

「で、ランスター二士、先程の件だが、私がこの場を離れた後且つ本人が承諾する場合に置いてのみ認めよう。

  それと先んじてナカジマ二士及びモンディアル三士並びにルシエ三士にも同様の許可を出そう。

  但し、くれぐれも軽率且つ軽薄な立ち振る舞いは控えるように」

「了解しました」

「「「わ…分かり……じゃなくて、了解しました」」」

 

  言い間違えたスバル達を咎めたりする気も最早起きないのか、リインフォースはそのことは流し、更にティアナに話しかける。

 

「それとこれは忠告ではなくただの助言だが、この模擬戦は訓練ではなく可能な限り実戦へと近づけたモノであり、この模擬戦が原因で後の勤務に支障が出ようがそれはお前達の責任ではなくこの模擬戦を提唱した者及び承認した者達の責任であり、お前達の責任はこの模擬戦に全力で挑むことのみだ。

  又、模擬戦中はどのような言動も立ち居振る舞いも黙認されるので意識の切り替えを怠らないことだ。

  尤も、機密情報の流布を目的とした外部への通信、更には対戦者以外及び模擬戦領域外への殺傷並びに破壊を目的とした行動はその限りでは無いが」

「………御配意下さり有難う御座います」

 

  ティアナの返礼を受けた後、リインフォースは軽く全員を一瞥して他に質問が無い事を確認し、バリアジャケットを纏わずに観戦場所へと飛翔していった。

  そしてそれを敬礼で送る速人とティアナを見、慌ててスバル達も敬礼をした。

 

 

 

  そしてリインフォースの姿が見えなくなって敬礼を解いた時(速人は見えていたが、一般的な判断に倣って解いた)、直ぐにティアナが速人に話しかけてきた。

 

「それで天神………先輩……で……いいですか?」

「御自由に呼称なさって下さい」

 

  簡潔な速人の返答を聞き、ティアナは内心で呼称を省いて会話に突入するべきだったと思い顔を顰めたが、スバル達が余計なツッコミを入れないように急いで気を取り直して質問をすることにした。

 

「……分かりました。

  で、質問ですが、なの………失礼、高町教導官がこの模擬戦を提唱するような会話をしたようですけど、どの様な会話をしたのか仰ってくれませんか?」

 

  上下のけじめをつけることの難しさを痛感しながら何とか質問するティアナ。

  しかし―――

 

「申し訳御座いませんが、私はその質問に答えられる立場では在りませんので、御答え仕兼ねます」

 

―――と、局員として完璧と言える返答を即座に淀みなく言われた。

 

「……え……と………理由を言ってくれませんか?」

「三等陸士が一等空尉の意向を推測して二等陸士に語るべきではないからです」

 

  回答拒否された上に質問自体に駄目出しされ、いきなりどうしていいか途方に暮れるティアナ。

  しかし迂闊にも途方に暮れるという隙を見せてしまった為スバルの暴走発言を許してしまう。

 

「大丈夫だよ。

  別に文句を言うわけじゃないんだから、なのはさんだ―――」

「―――お願いだから黙ってて!後空気読んで!?

  ていうかリインフォース一尉が居なくなったからっていつものノリで喋るんじゃないわよ!」

「えー?

  堅苦しい空気だと本番で力が出ないってリイン一尉が気を遣って離れてくれたんじゃないの?」

「ナニその超解釈!?

  あと、階級が離れすぎてる上に大して親しくないのに馴れ馴れしい発言は控えなさいよ!」

「だってリイン一尉の方が言いやすいだもん。

  あと馴れ馴れしいんじゃなくて親しみを込めて言ってるから大丈夫だよ!」

「よし、もうアンタは喋るな。

  エリオ、キャロ、暫くスバルの口を塞いでて!」

「「え?…………えと…………」」

「これ以上喋らせとくと後でリインフォース一尉に怒られるだけじゃなくて、部隊長に部下の教育責任の追及っていう迷惑がどんどんかかるわよ!?」

「大丈夫だって。

  あたし達の教育はなのはさんとヴィータ副隊長だから、部隊長の責任じゃないって」

「もう空気読まないでいいからアホの子的な発言はやめて!?

  ああもう、これ以上問答すると傷口広げるだけね。

  エリオ!キャロ!直ぐに黙らせるわよっ!!」

「「は、はいぃっ!」」

 

  凄まじい剣幕で命令されて思わず了承してしまったが、直ぐに言われた通りにしないと色んな人に迷惑が掛かりすぎてしまうと理解した二人は直ぐにスバルの口を塞ぐことにした。

 

 

 

 

 

「…………で、どうして手を貸さなかったのか訊きたいんですけど?」

 

  何とかスバルを落ち着かせて(黙らせて)からティアナは胡乱な目になりそうなのを必死に堪えて速人に尋ねる。

 

「私とあなた達とでは所属が違いますので」

「……(同じ六課に所属するからって言ったら墓穴掘りそうね)……分かったわ。

  ……で、別の質問だけど、あの日高町教導官でなくて個人としてのなのはさんにどんな事を言ったのか教えてくれるかしら?」

「第三部隊長補佐として口外するべきでないと判断した事以外でしたら、概略でならば御答えしますが、それで宜しいですか?」

「それで構わないので答えて下さい」

 

 

 

―――

 

  速人は役職上同じ部隊長補佐のリインフォースとツヴァイ、更には副部隊長のグリフィスとほぼ同列の機動六課の第二位であり、更には特殊資格保持の為三佐相当権限持ちであり、ティアナにとっては雲の上レベルの差なのだが、ややこしい事に速人の階級は三等陸士なのでどう対応していいのか今一ティアナは判断仕兼ねていた。

  だが、今までの速人の対応から【役職や権限は上だが、指揮下ではなく且つ階級は自分より下だから自分と同列として接すればいい】と結論を出し、それに相応しいと思う対応に切り替えた。

  そしてティアナは自分の対応に速人が特に言及していないのでこれで問題ないと思うことにし、以後速人とは基本はこの接し方にする事にした。

 

―――

 

 

 

「分かりました。

 

  私個人が高町なのは個人へと語った事は、砂上の楼閣の如き人材を輩出するような教導方法は度し難い愚行、と述べました」

 

  その言葉を聞き、スバルは細かい言葉の意味までは理解出来なかったが自分が尊敬するなのはが馬鹿にされていると感じ取り、即座に速人に食って掛かろうとしたがティアナがエリオとキャロに黙らせろ目配せするほうが早く、スバルは口を塞がれて喋る事が出来なかった。

  そしてスバルの暴走を食い止めたティアナは、なのはを馬鹿にした発言よりも自分達を砂上の楼閣呼ばわりした事に腹を立てながらも表面は落ち着いた様に装いながら速人に質問をする。

 

「…………砂上の楼閣とはどういった意味でしょうか?」

「外見は立派であるが基礎が不確かな為長く維持できない、という物事の喩えです」

「…………………言葉の意味ではなく、何を指してそう言う発言をしたのかと訊いているんです」

「現段階で私個人が個人に向けて述べた意見の詳細を公人へと説明する義務は無く、又詳細を私が語っても納得はせぬと容易に予測できますので、其れは教導官並びに教導に立ち会っている分隊隊長及び両分隊副隊長が述べるべきことでしょう。

  因ってその質問への回答は拒否させて頂きます」

 

  不和の芽をばら撒いておきながら追求を理路整然と断る速人。

  しかし理性では納得できても感情的には納得できないティアナは、見苦しいと自覚しながら食い下がることにした。

 

 

 

――― とある訓練場 ――― 

 

 

 

 

 

 

  ――― とある観戦場 ―――

 

 

 

「………………もう模擬戦始まってますけど……………全員……気付いてないみたいですけど?」

 

  模擬戦領域内のとある一角で速人達の様子を空間モニターで見ていたフェイトはポツリと呟いた。

  そしてその言葉にリインフォースが嘆息交じりに応える。

 

「天神三士はほぼ確実に気付いているぞ。

  所属が異なるが階級が上にも拘らず、態態ランスター達を砂上の楼閣と指して発言するなど、通常はまずしない」

「で……でも、いつもなら始まった瞬間に行動を起して不意打ちすると思………不意打ちをすると思いますけど………」

 

  慌てて丁寧語に言い直すフェイトを冷めた眼で見つつリインフォースは答える。

 

「いきなり行動を起すよりも会話で更に気を逸らして不意を付くつもりなのだろう」

「でもそれって……スバル達が途中で気付いて攻撃しちゃうかもしれないから危険なんじゃないのかな?」

 

  いつも通りフランクに話すなのはにフェイトが慌てた表情でリインフォースを見るが、リインフォースの眼は呆れと疲れが多分に混じった冷めた眼で二人を見ながら告げた。

 

「………この模擬戦は後方に控えている私達も限定的にとはいえ実戦と同等の対応が許可されている。

  つまり情報伝達や意見交換の速度を可能な限り高める為、敬礼や口調の簡略化等の戦時特例的なモノも適応される。

  故に応対の仕方を咎めたりはしない。

  無論明らかに上官侮辱並びに反逆と判断されるならば話は別だが……」

 

  それを聞いたなのはとフェイト安堵の息を吐いた。

  当然その緩みきった態度にリインフォース内では二人の評価が更に急低下していたが、リインフォースはそれを然して気にせず話を進める。

 

「話を戻すが、ランスター二士達が模擬戦が開始していることに気付いて攻撃を仕掛ける可能性は確かに存在するだろう。

  だが天神三士は気付かれて尚不意を打てると判断しているのだろう。

  要するにランスター二士達の欠点を正確に把握しているということだ」

「なるほどな……あいつら全員搦め手に極端に弱いだろうからな。

  ……多分会話で隙だらけにされて一気に攻められるだろうから、いきなり二〜三人は脱落するだろうな」

「しかも最初に狙われるのは空戦可能なキャロ、次に限定空戦が可能なスバルだな」

「ふむ……ならばナカジマ二士打倒後、天神三士はどのような行動を起すと予測する?」

 

  なのはとフェイトを完全に無視してヴィータとシグナムと戦況の予測をするリインフォース。

 

「アタシとしては飛び道具使いのティアナに張り付いてエリオへの盾にしながら速攻で沈めるか、若しくは気絶させたキャロを盾にしながらその場から離脱する、って考えてる」

「私としてはエリオに近接戦闘(イン・ファイト)を仕掛けて間合いを制しつつ且つティアナの援護射撃が困難な状況を作りながら打倒するか、やはり体重の軽いキャロを盾にしつつその場から離脱するかのどちらかだな」

「……やはり打倒したルシエ三士が敗北と認定されて強制回収されるまでが勝負の分かれ目になりそうだな」

「だが、そこを切り抜ければ十分勝ちの芽はあるだろう」

「ま、切り抜けられなくても勝ちの芽があるような気がするけどな」

「……勝率はどれほどあると考えている?」

「7:3ってとこか?」

「私は6:4と予想している。

  尤も、分けまで考慮するならば99:1になるだろうが」

「あ、それアタシも同意見だ」

 

  和気藹藹とまではいかないがかなり砕けた感じで、だがさり気無く周囲を警戒しながら話し合う三名。

  対して会話に混じれず聞き役に徹していたなのはとフェイトは、自分達の教え子全員の評価が速人一人より圧倒的に低いことに酷く不満であり、抗議の声を上げた。緩みきって周囲を警戒せず隙だらけに。

 

「ちょっとみんな、スバル達は厳しい訓練を毎日してきたし、チームワークも完成してきているんだよ?

  なのにその評価は酷いよ」

「なのはの言う通りだよ。

  油断せずに焦らず対処すればエリオ達が絶対優勢だよ」

 

  二人の不満と怒りが篭った言葉を聞いたヴィータとシグナムはどう答えたものかと悩んだが、両名が答えるより先にリインフォースが言葉を返した。

 

「訓練した時間が一定の比率で必ず強さに直結する程世の理が温いならば、世には既に魔人や化生と呼ばれる者が溢れているだろう。

  第一チームワークを崩しに掛かる相手を想定した訓練、他にも周囲を広く警戒し続ける訓練、更には緊急時に冷静に対処する訓練など一度も行ったことが無いにも拘らず何を言っている。

 

  ………まあこれ以上御託を並べる必要も無いだろう。

  そろそろ状況が一変する頃合だからな。

  ……両分隊隊長は緊急時に備え遠隔防御と強制回収の備えをしておけ。そして両分隊副隊長は各分隊隊長の補佐に備えよ」

 

  そう述べてリインフォースは空間モニターではなく直接速人達が居る場所を見やった。

 

 

 

――― とある観戦場 ――― 

 

 

 

 

 

 

  ――― とある訓練場 ―――

 

 

 

「納得出来る出来ないは私が判断するので、私の質問に答えてもらいたいんですが?」

 

  先程からティアナは速人が自分の神経を意図的に逆撫でしている様にしか感じられず、何と無く口調が荒くなりながらも何とか失礼になっていないと判断出来なくもない程度の口調で話すティアナ。

  しかし速人から返ってくる言葉は又もやティアナの神経を逆撫でするものだった。

 

「相手が納得するか否か、そして語る語らないを判断するのも又私の自由です。

  それでも尚私に語らせようとするならば、正当な権限の許に事情聴取等を行うことです。

  尤もあなたにその権限は御座いませんし、仮に私が事情聴取を受けたとしてもその場にあなたが立ち会われることは無く且つ聴取内容を知ることも無いと思われますが」

「…………………二等陸士が三等陸士に質問しているんですけど答えないんですか?」

 

  答えが返ってくるとは思っていなかったが、三等陸士の速人に権限云云を言われて少少頭に血が上ったのか、態態自爆するような発言をしてしまうティアナ。

  当然それに対する速人の答えは―――

 

「階級が上であろうと自身の命令系統の上位に存在しない方に命令される謂われは、戦時特例でもない限り存在しませんので、先の理由の通り回答を拒否します。

 

  それと失念されているようなので告げておきますが、機動六課に置いて第三部隊長補佐の私に命令可能な者は直属の上司たる部隊長のみであり、例外的に部隊長の代行権限を有した場合の第一及び第二部隊長補佐のみであり、副部隊長ですら私に命令する権限はありません。

  無論緊急時の指揮権継承及び委譲等により変化する場合は在りますが、仮にそれが起きたとしてもあなたが私に命令可能になる事は現状ではまず在り得ません。

 

  忠告ですが、分を弁えぬ滑稽な発言をされない為にも、直ちに自身の立ち位置を正確に把握される事を勧めます」

 

―――という皮肉と嫌味にしか聞こえぬ発言で構成された正論だった。

 

  暗に【下っ端が無い知恵翳して六課の四席(実際は五席だが)に口出ししてんじゃねえよ】と言われ、ティアナは怒りで肩を震わせつつ睨み殺さんばかりの視線を速人に叩きつける。

  だが、速人は気にした素振りすら見せず平然とティアナに話しかける。

 

「逆に此方から質問しますが、何故高町なのは戦技教導官が語った内容の真偽を確かめようとしているのですか?

  私個人があなた達を称えようと罵ろうと、それがあなた達に関係する比率は考慮外とも言える拡大解釈を繰り返さない限り存在しない筈ですが?」

「………………自分の決意の下の努力を侮られたり罵られて平気と思われるのは、失礼ですが少々良識に欠ける発言だと思うんですが?」

「成すべき事を決めたのならば、それを成す為の対価を払う事は当然の事であり、それを努力と思い違いして美化して表現するのは理解できないのですが?

  そも、あなたの目的は他者から称えられる事では無いと判断していたのですが、それは私の思い違いだったのでしょうか?」

「…………ええ、それは盛大な思い違いです。

  私はとある故人が役立たずなどでないと証明する為にも周りの人物に認められ、そしてその故人の力を認めさせる事が目的です。

  なら………その為にも私は称えられる程の存在でないといけない………」

「思い違いをされていますが、あなたが称えられてもその評価はあなたが言う故人には直接は関係しないでしょう。

  仮にその故人が評価されるとしても、あなたのその行動では【称えられるあなたの関係者】というようにしか見られないでしょう。

  その故人を称えてほしいならば、その故人の賞賛するべき点を世に公表されるべきでしょう。

 

  そして仮にそれを理解されて尚今の様な行動を採られているのならば、あなたはその故人の失態や恥部を自身の栄誉で覆い隠そうとしている、若しくは名声欲や名誉欲の為の行動に対して自己美化を兼ねた自己弁護行っている、と解釈しますが、相違ないですか?」

 

  極限まで好意的に解釈すれば相手の間違いを客観的に指摘し且つ相手への認識に間違いが無いかを確認していると受け取れるが、普通に解釈すれば喧嘩を売ってるとしか思えない言い方であり、実際普通に解釈したティアナは慇懃に馬鹿にされていると即座に判断し、先の怒りの状態に眉尻を吊り上げることと荒い口調を追加して言葉を返した。

 

「それはそれは御指摘下さってアリガトウゴザイマスアマガミサントウリクシ」

「礼に及びません。

  それともう一つ失念されているようなので告げておきますが、既に模擬戦は開始されているとお気づきですか?

 

  模擬戦の規定に開始後速やかに武力行使を行えとは記されておりませんが、模擬戦が既に開始されていると気付きもしないのは局員以前に戦闘に携わる者としての資質や基礎を疑われますよ?」

「ッゥゥッッッ!!?」「「「あーーーーっっっっ!!!???」」」

「やはり気付かれていなかったようですね。

  そんな有様ですから飯事部隊という風評が立つのでしょうね。

 

  …第三部隊長補佐として述べますが、その風評が原因で業務が不必要に困難になる事が多多在るので、直ちに改善するように。

  尚此れは命令です」

「……失礼ですが私達はあなたの命令に従う義務は無い筈です。

  先程あなたが仰った通り所属が違いますので。

  もう先程の発言をお忘れになられたのですか?第三部隊長ホサ?」

「その浅知恵を披露する様は他者に笑いを誘う程滑稽に映り、且つ機動六課の程度を低く見られるので控えるように。

 

  それと機動六課内の各役職の権限を理解していない様なので告げるが、第一部隊長補佐が出向や外部との応対を主とし、第二部隊長補佐が書類関係の事務を主とし、第三部隊長補佐は先の二つ以外のモノを主とする。

  そして各部隊長補佐は主とする業務内容に限り独自に限定的に部隊長権限を代行することが許されている。

  つまり部隊長より直接命令を受けている、若しく部隊長より完全代行権限を受けた者に命令されていない限り、この件でお前達が拒否することは許されていない。

  それが理解できたならば直ちに返事をしろ」

「「「「なっっっ!!??」」」」

 

  知らなかった驚愕の事実を言われ、思わず返事が遅れるティアナ達だったが、そこに直ぐ様速人が言葉を叩き付ける。

 

「その様な発言など認めていない。

  お前達に許された発言は了承の意を示す言葉のみだ。

  それをその緩みきった思考に即座に刻み付けて返事をするがいい。

  それすら出来ぬのならばお前達を時空管理局に在籍させ続ける価値など無いので、即座に離職して何所へとでも行くがいい。

 

  さて、それを踏まえた上で先の命令に対する返事を速やかに答えよ」

 

  突如速人の態度が急変してティアナ達は驚いたが、ティアナは正式な権限ならば仕方ないと悔しさに唇を噛み締めながらも返事をしようとした。が―――

 

「ちょっと待って下さい!そんな言い方ってないじゃないですか!?

  ただ返事をしないだけで価値が無いなんてあんまりな言い方です!」

 

―――と、スバルの発言内容と話の前提を理解していない台詞が遮った。

  それを聞いたティアナは相棒の空気と話を読まなさ加減に頭痛と眩暈を覚え、エリオとキャロに黙らすように目配せしようとしたが、そちらも言葉にこそ出していないがスバルと全く同意見なのが一目で分かり、ティアナはこの模擬戦後ヴィータかシグナムに局員としての規律を自分も含めてスバル達に厳しく指導してもらうよう固く心に決めた(その際先の光景を思い返しなのは達には頼むまいとも固く心に決めた)。

  そしてもう言い訳や庇う気も湧かなくなったティアナは、将来自分が部下を持った時にどう言い返せばいいのかを後学の為に知っておこうと、無抵抗に速人の言葉を聞くことにした。

 

「人権問題を主張されると面倒なので先に述べておくが、価値が無いのは組織人としてはであり、一個体として価値が無いとは発言しておらず又それを示唆する発言もしていない。

 

  話を戻すが、お前達は返事をしない事を軽視しすぎだ。

  組織に属すならば正式な発令若しくは正当な権限の下の命令遵守は当然のことだが、それ以外に命令復唱や受諾確認を上司より求められれば平時に置いては是非も無く行わなければならない。

  尤も、この理由について説明を行ったとしても、軍人としての基礎教育が必要にも拘らずなされていないお前達には無駄なので説明は行わない。

 

  尚、建前上時空管理局は軍でないとされているが、自治領以外に武力干渉を行う以上は軍人としての立ち居振る舞い求められると覚えておけ。

  特に防衛隊や航行隊や武装隊並びに要職の佐官以上の者達は軍人としての基礎教育の修了、若しくはそれと同等以上の意思と分別能力の保持を絶対条件として求められる。

  そしてそれを持たぬ者は左官以上になろうと要職に就けぬは当然だが、それ以前に滅多な事では昇進すら出来ん。

  高町なのは戦技教導官が良い例だ」

「っっぅ!なのはさんを悪く言わないで下さい!

  だいたい三等陸士の天神さんがそんなこと言ってもひがみにしか聞こえません!!」

「客観的に見て僻む要素は微塵も無い。

  健忘のお前に再度聞かせるが、私は特殊監査資格保持者であり、三佐相当権限を保有しているので一尉より上の権限を保有している。

  又先の資格とは別に師団指揮資格を有しているので一佐相当権限を保有しており、更には機動六課部隊長が負傷等に因り指揮不能状態に陥った際にはこの資格により副部隊長よりも部隊長の継承権が優先され、他には二佐以下の軍団指揮資格を保有していない者の軍事及び戦闘指揮並びに避難勧告の拒否権も保有している。

  そも、私は役職上高町なのは戦技教導官よりも同等以上の立場だ。

 

  尚、私は高町なのは戦技教導官に関しては客観的な評価を述べただけであり、悪意的な発言などしていない。無論好意的に述べてもいないが。

  それと高町なのは戦技教導官を尊敬や崇拝や盲信しているのならば、下らないので直ちに止めておけと忠告しよう。

  教導隊に所属する身でありながら満足な教導を行なっておらず、結果部下は訓練中に暴走、そして部下の暴走を激情に任せて粛清という越権行為をし、しかもそれらの自覚が一切無く、挙句現在に至るまで暴走した部下に謝罪どころか満足な対話すらしていない。

  組織人として最低に位置する者を見本にして行動されれば余計な仕事が増え、業務に支障を来たす可能性が在る」

「………そ……………その事に関してはそうかもしれませんけど…………他に立派で凄い所だってあります!

  駄目な所ばっかり見ないで良い所も見てください!」

「組織人としての前提すらなしていない者が築く功績を組織は認めない。

  無論例外は存在し、時空管理局の広告塔の役割を持つ等の付加価値が在る場合はその限りではないが。

 

  尚、功績を重視するよう述べているが、組織とは称えるよりも叱責が優先され、命令違反や任務失敗や過失には相応の責を課せられるのが基本だ。

  それを不服とするならば自らの意に沿う組織を作り上げる事だ」

「褒めるよりも叱る方が優先されるなんておかしいです!

  たとえ命令違反してでも目的を…………苦しんでる人を助けることの方が大事なはずです!」

「直情径行及び視野狭窄、並びに猪突猛進及び短絡思考という事は普段の言動及び行動から窺えるので、今回はその発言を参酌しよう。

  それと機動六課に所属中にその様な算段を行動に移したならば、分限免職か論旨免職は免れぬと覚えておけ。

 

  尤も、戦う者としても守る者としても救う者としても、何れに置いても全く基礎が構築されていないお前は後5回現場(げんじょう)に赴く間に死亡若しくは再起不能になるだろうがな」

「いぃっ……いい加減な事ばかり言わないで下さい!

  たとえあたしが弱くてもティア達と助け合えばそんな事はありません!」

「その助け合いとは、名誉欲や自尊心を優先して背後より銃撃された事か?それとも意義と危険度が釣り合わぬ訓練に付き合うことか?

 

  それと思い違いしているが、お前を含む他の面面は弱いのではなく、単純に基礎が構築されていないのでそれ以前の問題だということだ。

  要約するならば、[身の程を痴れ]、という事だ」

 

  馬鹿にされるを通り越して評価に値しないとまで言外に言われ、更になのはを散散扱き下ろされた挙句、その上親友のティアナの失点を自分との会話の為に使用されたスバルは既に怒り心頭状態であった。

  更にスバル以外にエリオにキャロも自分達がまるで評価されていないどころか馬鹿にされていると思い憤っていた。

  そして自分の失点をスバルを馬鹿にする為に蒸し返されとた思ったティアナは、一気に怒りと羞恥で思考が塗り潰され、敵意に近い批判の視線を速人に向けつつ文句を言おうとしたが、又もやスバルに言葉を遮られた。

 

「いい加減にしてくださいっっ!!

  さっきから聞いていればどうしてそんなあたし達を馬鹿にしたことばっかり言うんですかっ!?

  たしかにあたし達は偉そうなこと言えるほど強くもないし凄いこともしてないけど………だけど………馬鹿にされるほど弱くもないし変なこともしてません!

 

  これ以上あたし達の努力や夢を馬鹿にするなら許しませんから、ただで済むと思わないで下さい!!」

「論破も弁明も叶わぬならば武力で己が主張を通す事を正当性が在るように述べるとは、高町なのは戦技教導官と同じで底が浅いな。

 

  重ねて言うが底が浅い。

  私の発言が気に障るのならば、既に模擬戦が始まっているのを理由に有無を言わさず武力行使をすれば良いものを。

  自身の置かれている現状を常に俯瞰出来ぬとは、全く以って底が浅いとしか言えん。

  それとも不意打ちや強襲は卑怯などと囀る気か?そうならば底が浅い以前に愚かとしか言えんな。

 

  違法でも違反でもないにも拘らず手段を選ぶなど、その目的が然して重要でないと吐露しているのと同義だ。

  そしてその然して重要で無い目的をさも自身にとって譲れぬ事の様に語るその様、道化の枠にすら収まりきらぬ滑稽さと罵られる様だろう」

 

  スバルの言い分を正面から悉く完全に論破し、しかも毎回言わずとも構わない正論で神経を逆撫でし、そして熱くなって現状を忘れていた時に馬鹿にしているとしか思えない発言で現状を再認識させて我を忘れていたことの羞恥を煽る、という三段構えでアッサリ冷静な判断力を失うスバル。

  そしてそれはスバルに自分達の意見を代弁してもらっていたエリオとキャロも一緒だったらしく、両名とも頭に血が上っているのが一目で分かる形相をしていた。

  無論三名とも演技でなければという但し書きが存在するが、演技が出来る程の腹芸が可能ならば既に不意打ちなり強襲を既に行われている筈であり、その可能性は限り無くゼロに近いと速人は判断していた。

 

  そして怒りや羞恥は胸の裡に渦巻いているが、全く理性的な判断が出来ない程ではないティアナは、速人の行動を警戒しつつ長い間気になっている事を尋ねた。口調に精一杯の嫌味を籠めながら。

 

「……御忠告ドウモアリガトウゴザイマス。

  エエ、タシカニモウ模擬戦ガ始マッテマスノデソウシタ方ガイイデスネ。

 

  ………ですけど………まさか魔導師でないあなた一人で魔導師に………しかも私達全員と相手になると本気で思ってるんですか?

  ………それともリインフォース一尉のように、公式魔導師ランクと実際の魔導師ランクに大幅なズレでもあるんですか?

  もしそうなら話は別でしょうけど、聞いた話じゃあなたの潜在魔力ランクは簡易検査結果らしいですけどFランクに届くかどうかギリギリって話ですからそれも無いでしょうけど」

「戯けが。

  高高魔力を持っているだけで何を超越種気取りしている。

  仮に空戦SSSランクの者であろうと、条件さえ揃えば基本的に新生児であろうと殺害可能である以上、高ランク魔導師と雖も上位種止まりの存在だ。

  況してお前達など扱い方も使用後の結果を知ろうともせずに得意気に銃を発砲する、平和呆けした幼児程度の存在だ。

 

  今のお前達など脅威に値せず、脅威に値するのはお前達のデバイスだ。

  分かり易く言うならばお前達は唯の魔力貯蔵庫兼魔力生成器官であり、デバイスの一部品に過ぎぬということだ。

  そして理解に至ったならば、部品は部品らしく黙してデバイスに魔力を供給し続けていろ。

 

  それと価値も無ければ役にも立たぬ自由意思など、軍隊教育でも受けて即座に上書き消去しろ。

  さすれば低能が無能になるのを防げ、更には並程度の存在に成ることすら出来る可能性が在るのだからな」

「っっっぅぅぅぅぅっっ!!??

  …………………………………………言われる事はたしかに一々御尤もでしょうね。

  ですけど………散々扱き下ろしてますけど、魔力は最低ランクで指揮する部下も居なければ質量兵器を持っているわけでもない今のあなたは無能でないとでも?

 

  ………何の取り得も無い非戦闘員が半人前未満とはいえ、B及びCランク4名から成る混成陣に勝てると思ってませんよね?

  まさかこれだけ扱き下ろして負けたら見っとも無いを通り越して自殺級の恥だって分かってますよね?」

「先の発言を扱き下ろされていると感じる程自身を買い被っているとは、最早弁護の余地は微塵も無いな。

  教導している高町なのは戦技教導官に似て、自身にとって望ましくない発言は全て不当と判断するようになるとはな。

  やはり中身の伴わない広告塔代わりの者などに教導を任せるべきではなかったな。

 

  高町なのは戦技教導官の教導を受け続けさせたことでお前達が低能になったのは、出向と事務処理関係以外の全ての補佐を任されている第三部隊長補佐としての私の責任であり、お前達が低能になったのは其の性能を引き出せる環境を整えられなかった私に多大な責任があるだろう。

  故に其の件に関して詫びよう。

 

  低能になるような環境で過ごさせてしまい、すまなかった」

 

  謝っているようには聞こえるが、少し考えるとティアナ達に環境を撥ね退ける力が微塵も無いと丸分かりの発言をする速人。

  そして言外の意味に気付いたティアナは胸の裡では怒りの炎が猛り狂っていたが、何とか我を忘れない程度に存在するなけなしの自制を働かせて速人に話す。

 

「わざわざ謝罪して下さってアリガトウゴザイマス天神サントウリクシ。

 

  ですけどこれから低能な私達に叩きのめされてくれるんですから、わざわざ謝罪してくださらなくて結構ですよ?

  寧ろ私達に謝罪する暇があるならば、今のうちに労災病院などの手配準備の連絡をなされた方が宜しいですよ?」

「その件については既に対処済みだ。

  この模擬戦を始めるに当たり、模擬戦参加者の全員が死亡する事態も想定して人材補充等の手配も終らせている。

 

  故に後の事は一切気にせず全力を尽くしてこの模擬戦に当たれ。

  所詮私達は容易に代用が利く雑多な存在であり、私達が居ようと居まいと時空管理局の運営には認識が不可能な程のも影響しか及ぼさず、仮に全員死亡しようと時空管理局にとっては有益な情報が得られるので問題は無い。

 

  因って死ぬ時は残念無く死ぬといい」

「……殺せば反則負けだったと思うんですが、もしかして規約を読まれてないんですか?

  なら読み終わるまでは既に知っている低能な私達はわざわざ待っていてさしあげますから、どうぞお気になさらず規約を読んで下さい。

  低能な部下が知っている事を上司が知らないと、無能な上司ということになりかねませんからね」

「殺害は反則負けだが、死亡は反則負けにはならない。

  依って、即死させずに即刻治療が必要と判断される怪我ならば即座に判定負けが下されて回収されるので、即死させるに至らなければ極めて高い確率で反則負けにはならないということだ。

 

  此の程度の事すら文面から読み取ることも出来んようだな」

 

  そういいながら速人は少し屈み、両足の向か脛(むかはぎ)に添え木の様に固定していた合金の撥を奇術の如く淀み無く引き抜き、両手に握った撥を顔の前で軽く打ち合わせて金属音を鳴らしながら話を続ける。

 

「それとこの双撥は私の護身具であり、今回の模擬戦での主武装とも呼べる物であり、見た目では解らんかもしれんが、唯の合成金属塊だ。

  当然デバイスではないこれには非殺傷設定という、自他に平和惚けを促す機能など搭載されていない。

  故にこの撥で頭蓋を殴打されれば搬送後に死亡するという事態は十分起こりえる」

「………言いたい事がよく分からないんですが?

  確かにその棒で頭を殴られれば死ぬかもしれませんが、バリアジャケットを纏えばそんな物何の問題も無いと解ってないんですか?

 

  バリアジャケットを纏った者に非魔導師が勝利を収めるには、質量兵器が必須だとまさか知らないんですか?」

「随分と自惚れた発言だな。

  バリアジャケット如きで生身での攻撃が全て無効化されたりはしない。

 

  それとバリアジャケットで防げるというならば何故それを実行に移さない?

  生身でこの撥による攻撃を受けて平気ならば兎も角、そうでないならば私がこの撥の説明をしている間にバリアジャケットを展開するべきだ。

 

  そも、本来ならば模擬戦開始直後から即座にバリアジャケットを展開して戦闘態勢に移行するべきにも拘らず、今に至るまでその兆候は一切無い。

  この点だけを見ても、お前達が半人前未満の証左としては十分だ。

 

  それが解ったならば、己の未熟さを猛省しながら即座にバリアジャケットを展開するがいい」

「………たしかに仰る事は御尤もです。

  ですがそれはあなたも同じことでは?

 

  たしかにあなたはバリアジャケットを纏う必要が無い………ああ、すみません、あなたは魔法を使えないから必要無いじゃなくて無理が正しいですね。

  で、たとえバリアジャケットを纏えなくても、模擬戦後直ぐに警戒して構えをとる程度はするべきだったんじゃないですか?

  そもそも模擬戦があると分かっているのに、そんな動き難い事務員の服装で来るなんてあなたも十分半人前未満だと思うんですけど?」

「機動六課に配属されて今までこの服装の何を見ていた?

  この服は多種の耐性を付加させた特別製であり、機動性も運動着と同等以上だ。

 

  それと模擬戦に対して備えをするべきと取れる発言をしていたが、常に実戦を想定して備えや行動をしている私が何故模擬戦の為にそれを覆さなければならない?」

「………非戦闘員で、しかも非魔導師が質量兵器も用意していない備えなんて、実戦では何の役にも立たないんですから止めたらどうですか?

  それにいくら着ている物が凄くても、所詮一般人が着ているんじゃ大した役には立ちませんよ?

 

  偉そうな尤もらしい事を言う前に、兎に角仕事には全力を以って当たるのが筋だと思うんですが?」

「実戦を経験したことも、況してや実戦を知ろうともせぬ者が実戦を語るな。

 

  それと業務や任務に全力を以って当たるのではなく、事を成せるだけの必要最低限以外の力は全て残しておいて非常時に備えるのが組織人として在るべき姿だろう。

  力が不足すれば事は成せぬが、力が過ぎれば不足した時と同じくやはり事は成せず、故にあらゆる物事には必要な力とその配分を正確に行う知識と技能が不可欠だ。

 

  全力を以って事に当たるのが筋などという発言は学び舎でなら評価される可能性もあるが、組織の一員として考慮すればそれは美徳ではなく欠点だ。

  更に言えば戦闘に携わる者としては失格だ。

  全力を以って事に当たれば余力が無いのは自明であり、満足に不意打ちに対処するなど不可能だからな」

「何ですか、その考えは?

  ここは戦場ではなく平和なミッドですよ?

  時代錯誤の考えは止めてもらえませんか?

  それに仮に犯人と抗争中であっても、不意打ちはバックスが注意を入れるのでわざわざ自分の力を小出しにするのは怠慢じゃないですか?」

「度し難過ぎる愚かな発言だな。

  治安維持に類する組織の者が平和だからと警戒を怠るなどそれこそ怠慢だ。

  仮に人死にが出た時、遺族に[平和だから警戒しなくていいと思い、警戒していませんでした]とでも述べるのか?

  緊急時に混乱したり竦んだりするだけなら未だしも、緊急時の想定が甘い以前に不必要と断ずるなど、知的障害者としか思えんな。

 

  それと、緊急時に喚かれると要らぬ苦情が多数寄せられると予測されるので、この模擬戦で一定以上の価値が在ると示せないならば、肉の壁として全員何処かに転属させよう。

  転属したのなら遠慮せず暴走して囮となって殉職するがいい。

  亡き者の汚名を雪ぐ為に殉職したならば、少しは口の端に上り名声を得られるぞ」

 

  どの様に解釈してもティアナ達を怒らせる為の発言としか思えない事を次次とその口から紡ぐ速人。

  そしてとうとう我慢の限界が来たらしいスバルが、今までティアナが静止の意味で突き出していた腕を無視してティアナの傍を通って速人に詰め寄りだした。

 

  が―――

 

「放り投げるぞ」

 

―――と、唯それだけを述べて速人は詰め寄りだしたスバルを阻止する様に、右手に持っていた撥をスバルの鼻先を掠めかねない軌跡を描かせるよう軽軽とティアナに向けて放り投げた。

 

  殆ど言葉と同時にティアナに放り投げられた撥だったが、投げ付けられたわけでもなく、又ティアナが軽く手を差しだせば届く位置に投げられた為、ティアナは余裕を持って撥を手に受けることが出来た。

  が―――

 

「なぁっ!?」

 

―――驚愕の声を上げながら撥を取り落としてしまった。

  当然取り落とされた撥はそのままアスファルトの地面に落ち、長く軽い金属音ではなく鈍く短い破砕音を発生させた。

 

  そして破砕音とティアナの驚愕の声が気になったスバルはその場で足を止めてエリオやキャロのように音源地を見、舗装された地面の撥が落ちて当たったであろう箇所が僅かとはいえ罅割れているのが見てとれ、放り投げた撥が落ちただけでそうなった事に驚いていた。

  だが、その光景を見たティアナ達が驚いてい最中にも拘らず、速人は気にせずティアナに告げつつ他の面面にも聞かせる。

 

「その撥の金属はチタニウムの約555%の比重で、撥の重量は約6.9キログラムだ。

 

  以前ティアナ・ランスターとスバル・ナカジマ両二等陸士が、時速約80キロメートルで疾走していたが、停止を考慮せずにいた為ツヴァイ陸曹長が衝撃を吸収しつつ停止させなければ骨折程度はしていたという報告があった。

  そのことから両名のバリアジャケットは、装備込みの重量が50キログラムと仮定して単純に考えれば約1万2345ジュールを受ければ骨折程度はする強度という事になる。

  そしてこの撥は6.9キログラムなので、秒速約59.7メートル、つまり時速約215キロメートルの速度でこれに殴打されればバリアジャケット越しにでもお前達の骨を折る事が可能ということだ。

  つまり頭蓋にそのエネルギーの一撃を受ければお前達でも死亡する可能性は十分存在するということだ。

  尤も、接触面積の関係でその半分のエネルギーでも十分だろうが。

 

  故に質量兵器を用いない非魔導師に怪我を負わせられることがないという傲慢な考えは直ちに改めることだな。

  それが分かったならば直ちにバリアジャケットを展開することだ。

 

  反則負けは兎も角、厳重注意や査問を受けて平気な程私の業務は少ないわけではないのでな」

 

  速人の最後の言葉にスバルは反論がのど下まで出かかったが、ティアナから黙れという意味が篭った凄まじい視線を叩きつけられ、スバルは渋渋反論を飲み込んだ。

  対してエリオとキャロは、流石に速人の持っている撥の危険性に気付いたのか、直ぐにバリアジャケットを展開しようとしたが、ティアナがそんな素振りを微塵も見せないため、果たして自分達だけが勝手に展開して良いものか迷ってしまい、結果エリオとキャロはティアナに視線を注ぎながらその発言に耳を傾けた。

 

「大層な忠告感謝します。

  ですがその忠告はあなたが秒速約60メートル以上でその撥を振ることができる場合のみ役に立つことです。

 

  失礼ですが人間が生身でそんな速度で武器を振り回せると思ってるのですか?

  なにやら運動エネルギーの計算式を覚えておいでのようですが、それよりも格闘技の常識を覚えられたほうが宜しいのでは?」

「私の出身地には、魔法の補佐無しに刀剣類の切っ先を音速以上で振るうことが出来る者が確固として存在する。

  私の技量がどの程度かは明言せぬが、秒速340メートルの約20%程度なら再現可能とだけは言っておく。

 

  尚、音速で刀剣の切っ先が振られた際の刀の運動エネルギーは約11万1千ジュールだ。

  これはお前達が高度約17メートルから落下した際の運動エネルギーとほぼ同等だ。

 

  さて、最後の通告だが、バリアジャケットを直ちに展開しろ。

  尤も…」

 

  そこで速人は一旦言葉を切り、足を広く開き且つ腰を深く落とし、左手に持っていた撥を軽く右肩に担ぐ動作をした後、袈裟斬り気味に撥を地面に叩き付けた。

 

  そしてその結果、撥が叩き付けられた舗装された地面を見たティアナ達は―――

 

「「「「え……と………えっ?……………えーーーーーーーっっっ?!?!?」」」」

 

―――と、速人が今し方成した事の異常さに対して一斉に驚愕の声を張り上げた。

 

  驚愕の表情浮かべているティアナ達を無視するかのように、速人は手の近くの所まで地面にめり込んだ撥を引き抜きながらティアナ達全員に告げた。

 

「この光景を見て尚生身の者を侮り且つ魔法を妄信するならば、バリアジャケットを展開せずとも良い。

  その様な判断を下す者は、このまま生き延びるよりも模擬戦中の事故で死亡するべきだろう」

 

  そう言ってティアナ達を順に睥睨する様に速人は見た。

  そしてティアナは漸く事此処に至ってバリアジャケットを纏う必要性を感じ、自分を見ていたスバル達に悔しげに目でバリアジャケットを展開しても構わないと告げ、そして自分もバリアジャケットを展開した。

 

  一瞬ティアナはバリアジャケットを展開している隙を突いた攻撃があるかと思ったが、速人はまるで攻撃を仕掛ける素振りも無く、又実際に攻撃を仕掛けはしなかった。

  そしてその事にティアナは不信感を抱きはしたが、会話が一旦中断した為、会話に費やしていた集中が切れてしまい少少呆となっており、あまり深く考える事が出来なかった為答えが出せなかった。

 

  そんな少し呆けたティアナを速人は気に留めず、今度はエリオとキャロを見ながら告げた。

 

「受けるならば一歩前に出ろ」

 

  そう言って直ぐに速人は残ったもう片方の撥をエリオとキャロの方に放り投げた。

  それを見たティアナは、何故態態自分から武器を手放すのか疑問に思ったが、速人が放り投げると同時に奇襲するような素振りはやはり微塵も無く、ティアナは疑問に思いながらも取り敢えずは先程足元に落としてしまった撥を拾い上げる為に視線を速人から撥に移して屈みこんだ。

 

  そして屈みこんだと同時にエリオとキャロの方から重く短い破砕音が聞こえ、それに僅か遅れてからスバルがティアナと同じく屈みながら何気無く言った。

 

「いいよティア。

  重そうだからあたしが持つよ」

「………あ」

 

  スバルから話しかけられて1秒もせずにティアナは唐突に速人が何故態態撥を二つも放り投げたのかという一つの考えに至った。

 

 

 

―――

 

  ティアナは現在の状況が、スバルはティアナ(自分)と撥を覗き込み、そして自分は撥を拾い上げる為に撥を見ている、という今の状態とほぼ同じ事がエリオとキャロの方でも行われていると気付いた。

  そしてその瞬間は一時的にとはいえ、意識も視線も完全に速人から外れてしまっていることにも。

  更には近いとは言っても一息で詰められる距離でない程には、ティアナ(自分)とスバルはエリオとキャロから離れていることにも。

 

  つまり今ティアナは自分達を俯瞰してみる者が自分達の中には誰一人として居らず、且つ意識も視線も相対している者から完全に切ってしまい、更には分割した組のどちらにも近接攻撃の対処能力が低い者がいるので奇襲時の近接戦闘に限れば事実上対処出来る者は一人という状態であり、おまけに接近されればもう片方からの援護攻撃は難しい上に近接戦闘者が援護に駆けつけるにしても一息以上の時間がかかる距離である、という事だった。

  要するに不意を突くならば絶好の機会という状態だった。

 

―――

 

 

 

  そしてその一つの考えに至ったティアナは、急いで速人が今まで立っていた場所を仰ぎ見やった。

  が、そこに速人の姿は無く、ティアナは慌ててエリオ達の方に視線を移した。

 

  そして振り返り気味に見た視界の中には、何も気付かず撥を拾い上げている最中のエリオと、同じく何も気付かずエリオとその手の中の撥を覗き込んでいるキャロと、何時の間にか音も無くキャロの傍に存在していた速人がキャロに掌底を放っている光景だった。

 

 

 

――― とある訓練場 ――― 

 

 

 

 

 

 

  ――― とある観戦場 ―――

 

 

 

「うぅーわぁー、相変わらず神経逆撫でする話し方が得意だよな」

「全くだな。

  しかも一々正論であり、その上トラウマを暴走しない程度に突付くから無視すら難しいな」

「だよな。

  ……だけど隙を突く為に話をしてるにしちゃ、なんか話の仕方が変じゃねえか?」

「………うーむ、場の流れを見る限り、たしかに何かしらの状況に誘導されているようには感じられるが、どうも単純にティアナ達を打倒するのが目的ではないようだな」

「って事は………ティアナ達を倒す以上の目的が在るって事か………」

 

  そう言ってヴィータとシグナムは考え込んだが、先程から会話に参加していないリインフォースに気付き、ほぼ同時に両者とも答えを出していた。

 

「………あ〜………これが言わぬが花ってヤツか?」

「いや、親の心子知らずではないか?」

 

  思い至ったことに両者感想を述べたが、どうにも上手く表現出来ずに首を傾げていたところにリインフォースが口を挟んだ。

 

「まあどちらが正しく捉えているかと言えば、それこそ言わぬが花なので言わぬが、………花と気付く者は多くないだろうな」

「…………相変わらず損なことばっかしてんなぁ」

「全くだ。

  よくもこの盛大な貧乏籤を自分から引いたものだ」

 

  速人の思惑が分かったヴィータとシグナムは呆れ気味の様に言いながらも、その声には少しの心苦しさと多分な誇らしさが籠められていた。

  だが話しに全く着いて行けていないなのはは、フェイトの疑問を代弁する容でヴィータ達に疑問を投げ掛けた。

 

「どういうこと?

  さっきの後で文句を言わなきゃいけないような話って、何か意味であるのっ?」

 

  少し鼻息荒くヴィータ達に近寄って問うなのはだったが、それに対してリインフォースが答えではなく全く別の言葉をなのはに叩き付けた。

 

「黙れ。

  次に健忘か痴呆かを疑う発言をすれば即刻拘束して教導隊に突き返すぞ。

 

  ………両分隊副隊長、この馬鹿と馬鹿の予備の見張りに就け(二人に最低限の解説をするように)

  尚、その間の模擬戦者への緊急対処は私が受け持つ」

 

  それだけ言ってリインフォースはその場から顔を顰めながらシグナム達の声が聞き取り難い距離まで移動し、そこで緊急回収と遠隔防御の術式を発動寸前状態にしつつ、模擬戦の様子を黙って窺いだした。

 

 

 

  そしてその場から離れたリインフォースを見送った後、ヴィータとシグナムが溜息を吐きながらなのはに話しかける。

 

「はあぁぁっ…………少しは気い遣ってやれよ。

  さっきから見ててかわいそすぎるぞ」

「はあぁっ………全くだ。

  少しは立場と気苦労を考えてやれ」

 

  そんな言葉と共にヴィータとシグナムから胡乱気な眼でなのはは見られ、何のことか分からず困惑気味に言葉を返す。

 

「え?えっ?

  ………えっと………一体何のことかな?

  ………フェイトちゃんは……分かる?」

「えっと…………多分なのはがリインフォースが六課の評判を落とさないように頑張っているのをちょっと台無しにしてること…………じゃないかな?」

「え!?

  わ…わたし何かリインフォースの気に障ることしたかな?!」

「………向こうから不機嫌なオーラが痛いほど漂ってくるな。

  ……………正直怖いというよりかわいそすぎて涙が出てきそうだぜ……」

「………頼むからこれ以上今までの苦労を踏み躙ったり気苦労を増やすような発言は止めてやってくれ。

  というか、もう必要なこと以外は模擬戦が終るまで喋らないでくれ」

 

  疲れ果てたような感じでなのはの発言に言葉を返すヴィータとシグナム。(当然万が一に備え周囲は警戒している)

  しかし何の事を言われているのか理解しきれていないなのはは疑問の声を上げた。

 

「え?わたしそんな酷いことしてないよ?」

「…………なんだか不機嫌オーラから呆れ混じりの哀愁オーラに変わった感じがするな………」

「………銀髪が白髪に見えるほど疲れが漂って見えるな。

 

  あと、何をしたかについてだが、時間ナドの関係で詳細には述べぬが、組織の者として………いや…部下を預かる上司としての発言がなってない事を指して言っているのだ。

  要するに自分で規約を認めたにも拘らず、規約に反していない者に文句や注意を行おうとする行為がそうだと言っているのだ」

「で、でも違反してないからってあんな酷い事を言うのはやっぱり認められないよ」

「なら始めっから規約に文句言えよ。

  後からやっぱり認められないって言うのは、約束破ってるのと同じだぜ?」

「私もヴィータと同じかな。

  文句は言いたいところだけど、私の考え方が甘かったってのもあるから………。

 

  ただ……後でフォローするようにお願いはするつもりだけど………」

「まず無駄だろうな。

  局員としての規律を重視するなら、規約に違反していない者が不用意に頭を下げれば規約を軽んじる風潮が蔓延しかねん。

  そして私人としてならば聞く耳すらないだろう」

「だよね………」

 

  そう言って肩を落とすフェイト。

  だがその時、空間スピーカーから速人がなのはを時空管理局の広告塔発言をしていることが流れた。

 

  そしてその言葉を聞いたヴィータとシグナムは表現し難い表情になり、フェイトは露骨に表情を歪めながらなのはを恐る恐る見、なのはは貼り付けた笑顔で怒りの表情を隠そうと足掻いていた。(尚、離れた位置のリインフォースはなのは達に見えぬ様に爽快な表情をしながら拳を握りつつ、内心で速人の発言を絶賛していた)

 

「あははー、何か凄く馬鹿にされてるみたいだけど、わたしってそんなに役に立ってないかなー?」

「な…なのは?」

「あははははー、私の教える事ってそんなに間違ってるのかなー」

「え……えっと………」

「アハハハハハー、タシカニティアトハキチントオ話シテナカッタナー」

「ヒッ!?」

 

  なのははティアナを粛清した際の思慮の浅さが仄見える虚ろな眼をしつつ、怯えた声を上げたフェイトを無視しながら独り言を続ける。

 

「アハハハハハハハハハハー、オカシイナー。ワタシ寝ル間モ惜シンデダメナコトバッカリ考エテタンダネー」

「………あ〜、べつになのはの考えてた事は駄目なことじゃねえと思うぞ?」

「ああ。

  そこに関しては特に否定はしていないようだしな」

「アハハハハハハハハハハハハハハハー、ソレジャア教エテルコトガダメナンジャナクテ、教エ方ガダメダッテコトニナッチャウネ?

  ウワー、ワタシ存在全否定ダネー」

 

  喋りながらレイジングハートをバスターモードにして目標補足(ロック・オン)しだすなのは。

  当然対象は言わずと知れた速人であり、それが分かっているだけに慌ててヴィータ達はなのはを止めにかかる。

 

「落ち着け!

  たしかに教導する事はお前の夢だろうから、あんだけ言われて流すのは難しいかも知んねえけど、ここでいきなり砲撃ぶっ放したら命中しようがしまいがよくて謹慎、悪けりゃ教導免許剥奪されっぞ?」

「ヴィータの言う通りだ。

  そもそもあそこから強烈な睨みを効かせている視線を感じないのか?

  もしそんな事を実行しようものなら即座に攻撃は迎撃され、その後瞬間的に拘束されて闇に沈められるぞ?」

「そうだよ、落ち着いてなのは!

  たしかに酷いこと言ってるけど、速人は別になのはのこと全部知っててあんなこと言ってるわけじゃないんだろうから、やることをやってるのを見せ付けて見返せばいいんだよ!

 

  たしかに速人はどんな酷い事でも平気に躊躇い無く言ったりしたりするし、その事に文句言っても大抵は謝るどころか聞きもしないっていう凄まじくイヤ過ぎて付き合いたくないとこが在るけれど、それでも誰であろうとやったことの評価は好き嫌いに関係なくきちんとするんだから」

「オイ。……その言い方じゃ唯の我侭なイヤな奴にしか聞こえねえぞ?」

 

  さり気無く無自覚に毒を吐くフェイトにツッコミを入れるヴィータ。

  しかし初めから返事は期待していなかったらしく、流されて話が進みだしても特に文句を言ったりはしなかった。

 

「AHAHAー、ワタシノヤッテルコトヲ知ラナイッテイノハナイト思ウナー。

  ワタシガ六課に来る前に、絶対徹底的ニ経歴ヲ洗ッテル筈ダヨー」

「………何故その思考を普段や先程に活かせないんだ………」

「だ、だから落ち着いて、なのは!

  そもそもここで砲撃を撃っちゃ折角の模擬戦が台無しだよ!?

  はやて達部隊長陣とグリフィス達ロングアーチが何日も徹夜してやっと模擬戦までこぎつけたんだから、そんなことして台無しにしたら駄目だよ!?」

「AHAHAHAHAHAー、ダイジョブダイジョブ。

  実戦ジャ何所カラトモナク流レ弾ガ来ルコトモ十分アルンダカラ」

「オイオイ!?

  少なくともソレは流れ弾じゃなくて狙い定めた弾だろが!?」

「………限界だな。

  隊長、高町隊長の頭が冷めるまで拘束しましょう」

「えぇっ!?いや…でも……」

 

  シグナムの提案にしどろもどろになるフェイト。

  しかしその後直ぐにヴィータがリインフォースの方を見ながら言った。

 

「多分アタシ達が取り押さえなかったら、バインドして頭以外氷付けにしてから闇に沈めると思うから、取り押さえないなら巻き添え食わないように離れた方が良いと思うぜ?

 

  ……っつうか何時の間にか少し上に展開されてるフリジットダガーが()えぇな………」

「………ざっと100か。

  あれだけあれば高町隊長が防御魔法を展開しても余裕だな………」

「ほ、ほらなのは!?

  リインフォースも本気で怒ってるみたいだし、落ち着こうよ?ね?

  リミッターがかかってる今のなのはじゃ絶対リインフォースには勝てないし、ね?」

「ウゥゥゥゥッッ………」

「オイ、取り押さえるかどうかとっとと決めようぜ!?

  こっちに歩いてきたぞ!」

「……背後と言わず周囲に闇が滲み出てる感じが恐ろしいな」

「ほ、ほら!?このままじゃまた3日は悪夢に魘されるよ!?

  リインフォースは速人と違って怒る時は怒るし、怒ったら凄く怖いんだから、これ以上怒らせる前に落ち着こうよ?ね!?」

「ウウウゥゥゥゥゥゥッッッッ!」

 

  唸りながら葛藤していたなのはだったが、このままでは本当に捕縛されてから氷漬にされた挙句闇に沈められてしまうので、渋渋バスターモードを解除し、同時に砲撃魔法の術式も起動中止した。

  そしてその直後、宛ら闇よりの使者の如き威圧感を漂わせたリインフォースがなのはの前に悠然と立ちながら言葉を放った。(但し空間モニターは眼前に展開している様が若干珍妙だったが)

 

「レイジングハート…………所持者が危険な状況に陥らぬよう確りと手綱を握っておけ」

<………Sorry. It notes it thereafter.>(………すみません。以後気をつけます)

「………今回はお前に免じる。

 

  ……ライトニング分隊隊長並びに両分隊副隊長、高町教導官から半径15メートルは離れていろ。

  緊急時には弾幕を浴びせて無力化するので、先に述べた範囲内に存在すれば巻き込まれるぞ。

 

  それと模擬戦者の緊急時の対応は先の三名に任せる。

  高町教導官の事は気にするな」

 

  そう言って眼前の空間モニターで模擬戦の内容を見ながらもなのはを監視するリインフォース。

 

 

 

  そして言われるままなのはから距離を取ったヴィータ達は苦笑いしながら話し出した。

 

「あ〜あ、ありゃ後で説教もんだな」

「いや、説教よりもまず仕事付けにされるのが先だと思うが………」

「…………今回は流石になのはも悪いからちょっと庇えないなぁ………。

  まぁ……はやてにフォローしてくれるよう頼むけど………」

「いや………今回ばかりは八神部隊長もフォローせぬと思うがな………」

「だな。

  いくらなんでも今回のことにフォローを入れれる要素は()えよ」

「………やっぱり規則が緩くなるから………だよね?」

「そうだ。

  弁護の余地が在るなら兎も角、無い時に庇ってしまえば馴れ合いになってしまう。

  他にも、その明らかに公正を欠いた行動は部隊内の不和の種になり、部隊内に要らぬ派閥を生む切欠にもなる」

「んで、そうなったら六課は最悪空中分解だ。

  …………大げさに思えるかもしれねえけど、こればっかりは絶対に譲っちゃいけないコトだ」

 

  神妙な顔つきでそう述べるシグナムとヴィータを見、フェイトも神妙な顔をして言葉を返す。

 

「…………うん。……そうだよね。

  そして……私も庇っちゃいけないんだよね?」

「そういうことだ」

「納得してくれて助かったぜ。

  駄々こねられたら凄まじく面倒なことになっただろうからなー」

「…………本音を言えば駄々を…………って!?」

 

  フェイトがポツリと本音を漏らしている最中、空間モニターに映っている速人が地面に撥をめり込ませているのを見、フェイトが驚きの声を上げた。

  そしてその事にヴィータとシグナムが思い思いに感想を独り言のように述べだす。

 

「うわぁ、地面に罅すら入れないで綺麗にめり込んでるな………。

  どうやったらああなんだ?」

「たしか衝撃を接触面から拡散させずに対象に伝播させれば出来ると言っていたが………」

「………それって力学や物理学上では出来るってだけで、実際人間は出来ない気がするんだけど………」

「いや、地球にいた頃私が剛の者と戦いたいと言った際、様々な国の者達に引き合わせてくれたが、その中にはアレが出来る者もかなりいたぞ?」

「あー、たしかなのはの兄ちゃんも似た様な事は出来るとか言ってたな」

「……………もしかして地球の人って…………対魔導師とかを想定しての訓練でも積んでるのかな?」

 

  速人が特別でなく、地球人が割と普通にその境地にたどり着けるような気がしたフェイトは、地球の非魔導師の評価を密かに上方修正した。

 

  そしてそれから直ぐに空間モニターに映ったティアナ達がバリアジャケットを纏った。

 

「………目的を考えればもう動き出すな………」

「ああ。

  ………隊長、間も無く武力攻撃に移るはずです」

「うん……分かった」

 

  そうフェイトがシグナムに返した直後、速人が殆ど音も立てずにキャロの背後に移動し、てキャロの後頭部に掌底を放ち、一撃の下にキャロを沈めた。

 

 

 

  その後の速人の行動を見たヴィータとシグナムは、手加減しているのだろうが相変わらずのえげつない戦い方に苦虫を噛み潰した表情と苦笑の中間の表情をし、フェイトは暴走しかかる思考を辛うじて抑え込んで事の推移を見守っていた。

 

  そしてフェイトは拳を握り締めながらソニックフォームにバリアジャケットを換装し、限界と判断すれば直ぐ様駆けつけられるようにしつつ、離れた場所でリインフォースに文句を言っているなのはの声を聞きながら、

 

(………私もなのはのように組織の事なんか関係なく怒りたいな……。

  ……………あんまり聞き分け良く納得する自分って………好きじゃないな………)

 

と、思っていた。

 

 

 

――― とある観戦場 ――― 

 

 

 

 

 

 

  ――― とある訓練場 ―――

 

 

 

  速人は二本目の撥を放った後、ティアナ達の視線と意識が自分から切れるとほぼ同時に殆ど音も立てず、そして当然気付かれもせずにキャロの背後に移動した。

  そしてバリアジャケットが展開されている為対衝撃性が在る事を考慮し、速人は頭蓋骨を掌底で押し上げる様な浸透勁の一撃をキャロに食らわせた。

 

  いきなり無防備に後頭部からバリアジャケットを殆ど素通りした衝撃を受けたキャロは、一応手加減されての攻撃だった為、当然眼孔から眼球や脳漿が飛び散る事態にはならず、ただ中枢神経系に強烈な衝撃を与えられて意識を失っただけだった。

  それを速人がキャロに浸透勁の掌底を放っている最中から見ていたティアナが急いで他の面面に注意を呼びかける前に、速人は倒れこんでいる最中のキャロをエリオの方に蹴り飛ばした。

 

  そしてそれとほぼ同時に―――

 

「―――みんな気をつけてっ!!―――」

「―――うわぁつ!?ど、どうしたのキャ………ロ?―――」

 

―――ティアナの注意を呼びかける声とエリオの呆けた声が発せられた。

 

  ティアナの声にスバルは何事かと急いで周囲を見渡し、エリオに倒れこんでいるキャロとそこに立っている速人を捉え、少なくとも自分達に攻撃してきたのであろうから敵だと認識し、急いでエリオ達の許にマッハキャリバーを用いて移動しだした。

 

  だが、スバルがティアナの言葉を聞いて状況を認識し、それから静止状態から急に回転したローラーが地面と噛み合うまでには、戦闘中に関して言えば決して短くない時間が経過しており、その間に速人は事を成していた。

 

 

 

―――

 

  速人はキャロをエリオに蹴り飛ばすと同時にエリオの傍に移動し、急に体にぶつかったキャロが気絶し且つ耳孔から血を垂れ流している事にと気づいて一瞬とはいえ呆然として脱力しているエリオに奇術かスリ並の手際を用い、デバイスのストラーダを奪い取っていた。

 

  そして速人がストラーダを奪って直ぐにエリオは我を取り戻し、キャロが死んだわけではなく気絶して自分に倒れこんだだけであったことに気付き、混乱と絶望気味だった意識を緊張と警戒に切り替えたがたが、その直後にまだ出会って短いとはいえ自分の相棒たるデバイスが奪い取られた事に気付き、瞬間的に胸の内に耐え難い焦燥感と喪失感が湧き上がり、その感覚に抗えずまともな思考が出来なくなっていた。

 

―――

 

 

 

  スバルがエリオ達を助ける為か速人を攻撃する為のどちらか、はたまた両方の為に突撃している最中、一瞬にしてまともな思考が出来なくなってしまったエリオは胸を占める焦燥感と喪失感を消す為、何も考えず我武者羅にストラーダを取り戻そうと速人に襲い掛かった。

  だが、拳を構えて一直線に突進するスバルは隙だらけであり、更にエリオに関してはキャロを抱きかかえ且つ碌に扱えぬ速人の撥を武器代わりに握っており、どちらも速人にとっては然して脅威ではなかった。

 

 

 

―――

 

  速人にとってティアナ達に選択してほしくない事は、速人の攻撃が届かない高度へフリードリヒやウイングロードを用いて移動し、そこから遠距離攻撃を延延と浴びせられることであり、 故に一番対処し難いフリードリヒを無力化する為に使役者のキャロを速人は真っ先に攻撃したのだった。

 

  又逆に言えば、フリードリヒやウイングロードを活用せぬならば、空戦能力が無く且つ広域殲滅系や超長距離系の攻撃手段を持たないティアナ達は十分打倒可能だと判断していた。

 

―――

 

 

 

  速人は愚直に突き進んで来るスバルの背後のティアナを焦ってはいるが然して混乱はしていないと判断し、それによりスバルのウイングロードを使って高所から攻撃することに気付くまでの時間があまり残っていないとも判断したので、突撃してくるスバルを直ちに戦闘不能化することに決めた。

  だが、それより早くキャロに敗北判定を付け、怒りの形相で巨大化しかけているフリードリヒを無力化せねばならなかった。

  当然それは気絶後60秒経過の敗北判定などを悠長に待っておれず、本来ならば殺せる一撃を放てたという事を隊長陣三名以上に承認させての敗北判定にする為、速人はキャロの襟を掴みながらエリオをスバルの進行方向に蹴り飛ばして自身の防波堤代わりにしつつ、襟を掴んだエリオから蹴り剥がしたキャロを地面に叩き付けつつストラーダの穂先をキャロの右眉毛に触れるか触れないかで止め、更に隊長陣が敗北判定を出すまでの間フリードリヒに対して人質としている事を示してフリードリヒの行動を止めた。

 

  そして速人がフリードリヒの行動を止めたのとほぼ同じ頃、スバルは突如自身の前方に蹴りだされたエリオに気付いて急停止をしたが止まりきれず、結果エリオを巻き込んで速人の直ぐ横を転がって行ってしまい、これにより速人とティアナを遮る壁が無くってしまい、ティアナから複数のシュートバレットが放たれた。

  が、速人はティアナがシュートバレットを撃つ寸前に倒れたキャロを右足で自身の胸元まで蹴り上げ、シュートバレットの盾として構えた。(当然フリードリヒを牽制する為、右目に依然ストラーダの穂先を突きつけている)

  当然ただ直進するだけのシュートバレットはその射線上に存在するキャロに全て着弾し、速人は全くの無傷だった。

 

  ティアナのシュートバレットを速人が防ぎきった直後、速人がキャロをティアナへの盾にしながらエリオを巻き込んで転がって行ったスバルを打倒する為駆け出した時、突如場にリインフォースの声が響いた。

 

『キャロ・ル・ルシエ三等陸士、隊長陣三名以上の判断に因り敗北』

 

  その言葉と同時にフリードリヒはリインフォースからロングレンジバインドを受け、更にクリスタルケージも遠隔展開された為一瞬にして行動不能に陥り、速人はそれを確認した瞬間に掴んでいたキャロを即座に離して乱雑に地面に落とした。

 

  そしてキャロを手放して身軽にはなったが盾を失った速人は、新たな盾となるエリオまではまだ距離があり、その距離を駆け抜ける間にティアナに撃たれてしまうか起き上がったスバルに邪魔されてしまうと判断した為、速人はエリオが自分から速人の盾になるよう仕向ける為、ストラーダを自分の背後に投げ刺してエリオを誘き寄せることにした。

  無論エリオでなくスバルが回収に当たる可能性も在ったが、その場合はスバルをティアナからの攻撃の盾に使いつつ先にエリオを盾として確保すれば済む事であった。

 

  そして速人の目論見通り、起き上がったエリオはストラーダ目掛けて一直線に駆け出した。

  しかも速人に迫ろうと動きだしていたスバルを邪魔しつつ、更には速人の撥を握って運んでくるという愚挙まで犯しながら。

 

 

 

―――

 

  戦闘中に単純にデバイスがその手から離れただけならば、半人前なエリオと雖もここまで冷静さを欠く事は無かった。

 

  しかし一瞬前には普段通りだったキャロが眼を逸らしている間に気絶して自分に倒れ込み、しかも耳孔から血を流しいたことで一気に冷静さを奪われた。

  そして何故キャロが倒れているかも碌に分からなかったが、兎に角自分が守ろうと思った直後、自分の力を支えている根幹とも言えるデバイスを失ってしまった。

 

  突如自身の相棒とも呼べるデバイスを失ったことへの喪失感と、気絶して耳孔から血を流すキャロを守らねばならぬと思いつつも力の源泉を目の前の速人に握られていることへの恐怖が入り混じった焦燥感で胸の内が溢れかえった。

  当然そのような事態になったこともなければ想定したこともないエリオは、喪失感と焦燥感に振り回されて錯乱状態になってしまい、冷静な判断が全く出来なくなっていた。

 

―――

 

 

 

  速人はエリオがスバルの前に割り込みながら自分の後方のストラーダ目掛けて駆けて来るのを見、ティアナの盾にするべくエリオ目掛けて疾走した。

 

  それを見たティアナは、シュートバレットを撃てば回避されてエリオに直撃してしまい、シュートバレット・バレットFを使って熱源探知式自動誘導に切り替えてもあそこまで接近されてしまえば魔力弾が旋回する途中でやはりエリオに命中してしまい、今の状況下では自分がエリオの援護は出来ぬと直ぐに判断した。

  だが、援護が出来ぬと判断したからといって、それに納得が出来るわけではなかった。

  そして何か良い方法は無いかと考えたティアナは、頭の片隅に[エリオの援護を諦めてスバルを自分の許に呼び戻して作戦を練るべき]という、いつかヴィータに教えられた暴走した部下の対処法が浮かんだ。

  が、しかし、仲間を見捨てる若しくは放置するということを簡単には決断出来ず、実行には移せなかった。

 

  そしてティアナが葛藤している間に速人とエリオは接触寸前まで近づいていた。

 

  その直後、ティアナもスバルも速人がエリオを打撃で沈めるものとばかり思っていたが、速人はエリオが右手で殴りつけてきた撥を左手で衝撃を吸収しつつ受け止め、そこを支点にし且つ応力を調整しながら右手をエリオの右腕に叩き付けてエリオの右肩をアッサリと外した。

  しかも右手を叩き付けた反動を利用して速人は、空中で前転する様にしながらエリオを飛び越えており、更に左手にはエリオの右手から抜き取った撥が握られていた。

 

  そしてエリオを飛び越えた速人は、エリオを回り込んで速人を攻撃しようと体勢を変えていたスバルに少しでも速く肉薄する為、エリオの背中を地面代わりに蹴り踏んでエリオを地面に叩きつけつつスバルに肉薄した。

 

  突如自分の左側面に肉薄されたスバルは、急いで右腕のリボルバーナックルで殴り飛ばそうとしたが、当然そのままの体勢で拳を振るっても自身の左側面の速人にその拳が届くことはないので、急いで体の向きを変えてから拳を放った。

  が、体の向きを変えるという動作を挟んだその拳はあっさりと速人に屈まれて回避された。

 

  そして自分の膝辺りに屈まれて避けられたと知ったスバルは、直ぐに蹴りを放とうとした。

  だが―――

 

「?」

 

―――今まで一度も感じたことのない衝撃が体を駆け巡る方が先だった。

  そして次の瞬間スバルは突如その両足で自重を支える事が出来なくなり、速人に向かって倒れだした。

 

  倒れる最中、自分の膝が両方とも本来ならば曲がる事のない方向に曲がっているのを見て自分の両膝が砕けているのだと気付き、それで漸く先程の衝撃は自分が速人に攻撃を受けたモノだと気付いた。

 

  自分の足が砕けていると認識した瞬間、スバルの思考は痛みと分からない程の衝撃で瞬時に塗り潰され、呆気なく気絶してしまった。

 

 

 

――― とある訓練場 ――― 

 

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  とある可能性編  二つめ:とある騒動 其の参――――了

 

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【後書】

 

 

 

  A‘S編の本編の八神家側が思うように進まず、又もや息抜きで書いたIF編が出来上がってしまいました。(現在話を収束させることの難しさを痛感しております)

  しかもIF編を書くと本編の速人の調子が崩れるので益益本編の執筆速度が遅くなると最近気付き、息抜きでなくて足を引っ張ってると漸く気付いて少し自分のアホさ加減に呆れたりしました。

 

  それと今回地の分を減らしてサクサク話を進める練習という意味を兼ねて作成したのですが、上手くいかないどころか矢鱈と話が長引きました。

  …………しかも260KB越えって………本編級の長さですよ………。

 

 

  前回のIF2―2で、殆どオリジナルキャラ状態でリインフォースがデビューしたのですが、意外と大人気で安心しながらも驚きました。

  特に墓穴掘っているシーンが非常に好評だったらしく、こんなに好評なら、今度グリフィスから墓穴掘ってた内容が六課に漏れた出来事でも書いてみようかなー、と思いました。

 

 

 

                                    

 

 

 

【作中補足】

 

 

 

                                     

 

 

【部隊長補佐と副部隊長の違い】

 

 

  部隊長補佐は副部隊長と同じく部隊長直属の部下ですが、部隊長補佐の下には部下が存在しないので部隊長が気兼ね無く自由に使える私兵という立場に近いです(部下が就くとしても、その部下も部隊ではなく部隊長の私兵に近い扱いの為に変化は然してしませんが)。

  又、主とされる業務に関しては部隊長の代行権限が無くとも部隊長の命に反しない限りは自由に命令を行えます。

  尚、部隊長補佐同士で命令が重複した場合は、数の若い番号が優先されます。

 

  対して副部隊長は部隊長の部下というよりも、部隊長の予備と言った感じです。

  又、主とされる業務は、部隊長の承認や意見が必要かどうかの選別と部下への仕事の振り分けという部隊の統括です。(部隊長のはやては六課の運営が仕事です)

 

  要するに部隊の方向性に関する仕事が部隊長補佐の仕事で、部隊の維持に関する仕事が副部隊長の仕事です。

  尤も、人員不足問題の対処の一環として、速人が六課の様様な所で仕事をしているので、六課内では高性能な便利屋の印象が強く、本来の認識とはかなりズレが生じています。

 

  因みに第二補佐のツヴァイは六課の面面との関係は良好で、第一補佐のリインフォースは畏敬と尊敬の中間の対象ですが関係は悪くないです。(双方とも仕事の領分が明確なのも一役買っています)

  しかし第三補佐の速人は仕事の領分が非情に曖昧且つ広く、いきなり仕事に割り込んで凄まじい速さで仕事を終らせて去っていくので意外と反感を買っており、フォワード陣からはいつも六課をフラフラしている気難しい人という好意的でない評価であり、本来責任者のはやてに集束するはずの不満を単身で解決(問題の先送り)している代償に機動六課の不満を一身に背負っています。

  尚、第三補佐の裏の役割は、【部隊長の支持を維持若しくは高める】であり、その為に部隊内の不満を一身に浴びる生贄になる事が仕事とも言えます。(六課で知っているのははやてとリインフォースとツヴァイだけです)

 

  当然副部隊長の仕事に関しては作者の捏造設定であり、これによりグリフィスの役職も交替部隊責任者と部隊長補佐から交替部隊責任者と部隊維持責任者に変更しています。

 

 

                                     

 

 

【魔導師ランクについての作者の解釈】

 

 

  自分的には魔導師ランクは試験で取得する類と、任務の働き具合などにより強制的に押し付けられる類の二種類が在ると解釈しています。

  基本的には試験で取得しなければ魔導師ランクは上昇しないのでしょうけれど、Sランク以上の実力が在ると判断されると戦力集中を防ぐ為や引き抜きが出来るように強制的に押し付けられる場合があると思っています。

 

  そしてリインフォースが最低でも推定SSランク級にも拘らず空戦Aしか保有していないのは、記録上は最大でも空戦A程の実力しか振るっていないことになっており、若しくは今回の模擬戦の様に非公式の場に置いてしか実力を振るっていないからです。

  尚、書類上は完璧にリインフォースの実力を隠蔽していますが、闇の書事件の詳細を知っている者はその実力の程を在る程度知っているので、強引にでも高い魔導師ランクを押し付けて引き抜こうとしてますが、その辺は全部速人が防いでいます。(その事に関してははやてとリインフォースとツヴァイは知っており、そして深く感謝しています)

 

  以上の経緯によりリインフォースは空戦Aランクであり、又リミッター解除申請をせずとも何時でも切れる切り札の一枚になっています。(しかも上手に切れば元の鞘に納まることも可能です)

 

 

 

                                     

 

 

 

【作中補足終了】

(バリアジャケット関係は次回速人かヴィータ達に作中で説明させる予定です)

 

 

 

                                     

 

 

 

  最近色色な方から感想を頂いており、本当に感謝の言葉で一杯です。

  重ねて申しますが、感想を頂ける事に対して本当に感謝しております。

 

  毎回やりたい放題し放題に暴走しているSSを掲載して感想を頂ける管理人様と御読み下さった方に沢山の感謝を。

 

 

 

                                     

 

 

 

【IF編2―2のグリフィスの奇声の元ネタ】(長くて鬱陶しいので読まれない事を御奨めします)

 

 

 

 [スヲミンツ ホケレイロ タミエヌ]は、ワイワイコナミワールドでの最強状態になるパスワードで(口コミで恐るべき速さで日本中に知れ渡りました)、

 

[↑↑↓↓←→←→BA]は、グラディウス等で最強装備状態になるコマンドで(後に色んな機種で自爆コマンドになったりしましたが)、

 

[こがねもち]は、くにおくんシリーズで最強状態になる名前で(2Pは自動でつるまるになります)、

 

[2Pコントローラーのマイクにドラえもん]は、ドラえもんでの雑魚敵一掃で(ジャイアンが居る必要ありますが)、

 

[2Pコントローラー左押し]は、ロックマン3で超大ジャンプ可能及び穴に落ちても平気になるバグ技です(条件を満たせば針や溶岩やプレス等以外に無敵にもなれます)。

 

  ここまでがファミコンのネタです。

 

[カカロカカカカカカカカカカロットォォォ]は、ドラゴンボールで特殊コマンドを連続で入力すると聞けるお笑いネタで、

 

[戦闘開始前から丸押し続け]は、ファイナルファンタジーWの死の宣告無効化のバグ技です(これもすごい勢いで全国に広まりました)。

 

[メタル斬りより魔神斬り]は、ドラゴンクエストYのメタル斬りへのツッコミネタです。(メタルキング等が現れた際、魔神斬りは約50%で中り且つ中れば一撃で倒せますけど、メタル斬りだと7回以上中てる必要があります)

 

  ここまでがスーパーファミコンのネタです。

 

[第三話勝利 名前漢字使用不可能]は、ディスガイア2で第三話登場のエトナを倒してクリアしてしまうと2週目以降暗黒議会に名前に漢字を使用するが出現しなくなることで(自分はアイテム神を倒す程やり込んでからその事を知り愕然としました)、

 

[2RCB2次1RCB5即2RCB3CD                                        0.9    かかか神……神ぃ………神キターーーーァ!!]は、CRギャラクシーエンジェルの裏コマンド入力方法とカウントダウンボイスです。

 

  そしてこれがPS2のネタです。

 

  ………話に全部着いていけた方いますかね?

 

 

 

                                     

 

 

 

【おまけ】(ある日の108部隊長室)

 

 

 

                                     

 

 

 

「まあ、てな訳で近日中に機動六課に出向してもらうのが確定したわけだが…………メチャクチャ嬉しそうだな」

「え?そ、そう?」

「ああ、もう闘気じゃなくて喜気が立ち上ってるぞ」

「そりゃ嬉しいよ。

  久しぶりにジン君達に会えるし、他にもスバルやフェイトさんも居るんだから」

「………言った順番にお前の中の優先度が透けて見えるな………。

  ていうか、お前未だに名前で呼んでねえのかよ?

  いつまで初対面で読み間違えた天神(てんじん)からの愛称で呼んでんだよ?」

「いいの。もうこの呼び方で慣れちゃったんだし、今更変える必要も無いでしょ?」

「………はあぁぁ………そんな色気の無え呼び方してっから、いつまで経ってもお前らの関係は変化が無えんだよ」

「変化って………少なくとも私にとってジン君との関係は最高の友人だって思ってるから、ここで打ち止めだと思うんだけど?」

「………今のうちに自覚しとかねえと後で泣くことになるぞ?

  後で恋だったと気付いても、既に相手が結ばれてましたじゃ、凹むというより鬱になるぞ?」

「だ、だからっ、私は別にそういう眼でジン君を見てないって!

  だいたいジン君にはリインさんっていうお似合いの相手が居るんだから、態々負けると分かってる勝負を嗾けないでよっ」

「…………その台詞、八神の前で言うなよ?

  本人もそう思ってるから酷く落ち込むぞ?」

「あ、う、うん」

「ま、話戻すが、お似合い云々言うならお前も負けてねえと思うんだがな。

  なにせ名前弄くって呼ばせているのってお前だけだろ?

  それだけ見ても天神の中のお前の位置が高いって分かるぞ?」

「もうっ、しつこいよ父さん」

「っておい、一応仕事中だぞ?」

「だったら娘としてじゃなくて局員として対応してよ」

「むっ……」

「それで話戻すけど、別に私だけじゃなくてツヴァイさんもジン君を名前で呼んでないじゃない?」

「まあそうだけどよ、全然名前で読んでないのがツヴァイの嬢ちゃんだけで、名前弄らせて呼ばせてるのがお前だけで、んでそもそも仕事以外じゃ名前も呼んでないのがお前の恋敵だけだろ?

  ほら………そう考えるとお前の立ち位置ってメチャクチャ高いだろが?」

「そう言われてみると……………ってっ!誰が誰の恋敵なの!?っていうか何度も言うけど私はジン君をそんな眼で見てないって!」

「……まあこれ以上突付いても暴走しそうだからこの話この辺にしとくとして、…………結局六課に出向することに関してお前は異論あるか?

  一応上からの辞令じゃなくて他の部隊からの要請だから断ることも出来るぞ?

  そこんとこ考えてお前の意見を聞かせてくれ」

「………………108部隊の隊員としては反対です。

  この不穏な時期に態々自隊の戦力を減少させてまで余所の部隊とのコネ作りなんてやるべきではありません」

「……ま、正論だな。

  で、それが答えか?」

「いえ、たしかに108部隊の隊員としては反対ですが、108部隊の隊員ではなく時空管理局の局員としては判断しかねます。

  私は108部隊と機動六課のどちらが時空管理局にとって利があるのか判断が付かず、又、判断を求められた際にも私より事情に精通しているであろう上司に判断を委ねるしかありません」

「…………ま、それもまた正論だな。

  じゃあ俺が決定を下すってことでお前はいいのか?」

「部下として上司の決定に是非もありません」

「局員として満点な回答だな。見事だぜ」

「お褒めに預かり光栄です」

「で、これは個人的な質問なんだが…………お前個人としては行きたいか行きたくないかのどっちだ?」

「行きたいです是非とも行きたいです寧ろ行きたいというより行きます勝手に行きます這ってでも行きます直ぐにでも行きますというか邪魔する者は殴り倒してでも行きますし行けなければ縄で引っ張って向こうをこっちに引きずり込んででも―――」

「―――あー落ち着け落ち着け、お前が行きたいのはよぉぉぉく分かった。

  俺もお前と同じで六課の目的なんて対外的にしか知らないし、局員として利が在る選択肢が分からん以上は、そこまで行きたがってる奴の気持ちを無視してまで108部隊(ここに)残したりしねえよ―――」

「―――を敵にしても…………って本当ですかっ!!!?」

「ああ。

  出向させなかったらテンションが落ちて平均的な捜査官の能力まで下がるのが丸分かりだからな。

  だったら部隊長として余所に貸しを作る方が得だろが」

「ありがとう父さん!ありがとう御座います部隊長!

  不詳このギンガ ナカジマ 陸曹!謹んで六課出向の任に就かせて頂きます!!」

「あ、ああ。

  じゃあ出向は明後日と急だから、今日はもう残りの業務は休みにしてやるから準備に当たれ」

「はい!

  それでは失礼します!」

 

 

 

 

 

「……………凄い迫力だったな。

  ………さっきの遣り取りだけ見ても恋愛感情持ってるのが丸分かりなんだが…………なんで本人は気付けんのか………本当に謎だな…………。

 

  ………さってとっ、それじゃ可愛い娘の為に出向手続きでもするか。

  ……………出来たら孫の報告と結婚式の報告と一緒に戻ってきてほしいもんだが…………無理そうだな。

  ……ま、その辺はあの世のクイントに夢枕に立ってもらっての説得に期待するかね………。

 

  ………頼むぜ、クイント。

  ………女盛りの10代で恋愛しなかった女は大体生涯独身だからな………」

 

 

 

【終わる】




途中でなのはが遂に壊れた。
美姫 「でも、壊れた時の方が判断とか思考が上のような気がするんだけれど」
あ、あははは。まあ、ある意味、こっちはらしいと言えばらしい感じだったかな。
美姫 「スバルたちの方は……」
これまた見事に。
美姫 「スバルなんか重症かもね」
だな。今回も楽しませてもらいました。
美姫 「また次回も待っています」



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