剣士の想い人
〜御神美沙斗編〜
「よし…美沙斗さんの所に行こう」
恭也は携帯を取り出し、美沙斗の携帯へと電話を掛けた。
それから時間が経ち…追っ手の追撃をなんとかかわした恭也は飛行機に乗り込み、無事…美沙斗が所属している香港国際警防隊の本拠がある香港を訪れていた。
「あ、美沙斗さん」
ゲートから出てきた恭也を美沙斗が出迎えた。
「恭也…いったいどうしたんだい?いきなり私のところに来たいなんて……?」
恭也から連絡を受けた美沙斗は、事情を着いてから話すと聞かされ、心配していた。
「あ、できれば…静かなところで……」
「…解かった。じゃあ、私の部屋に行こう」
言葉を濁す恭也の事情を察した美沙斗は優しげに微笑み、二人は連れ立って空港を後にした。
「散らかってるけど…我慢してくれ」
恭也を部屋にあげた美沙斗は、キッチンへと向かう。
「リビングでくつろいでてくれ…コーヒーでいいかい?」
「あ、はい」
頷き返すと、恭也はリビングに入り、ソファーに腰掛ける。
書類が多少、テーブルの上にのっている程度で、さほど散らかっているとは思えない。
「お待たせ」
数分後、二人分のコーヒーを持って美沙斗がリビングに入ってきた。
差し出されたカップを受け取り、恭也はコーヒーを一口啜る。
恭也の好みの苦さが出ていた。
「どうかな…?」
「あ、はい…美味しいです」
「よかった」
嬉しそうに笑う美沙斗に恭也もつられて笑い返す。
「で……いったいどうして私のところに来たんだい?」
落ち着いたようなので、美沙斗が本題を切り出す。
「実は……」
恭也はここに来ることになったいきさつを話した。
「そうだったのか…大変だね、恭也も」
微かに苦笑を見せる美沙斗に恭也は溜め息をついた。
「皆…どうして俺なんかがいいんでしょうね?」
「恭也は…その……本当に好きな人とかいないのかい?」
「え……?」
「あ、ほら…恭也に好きな人がいると解かれば、皆も納得するんじゃないかってね」
恭也は黙り込み、考え込む。
「………好きな人は…います」
間をあけた後…小さい声で言った。
「あ…そ、そうなのかい……」
ややショックを受けた美沙斗だが、その動揺を押し隠して言葉を紡ぐ。
「そうか…恭也にも好きな人がいたんだね」
「……でも、俺は多分…いえ、一生……その人に想いは告げないと思います」
「どうしてだい?」
恭也は少し、視線を逸らす。
「その人には…大切な人がいました……でも、彼女を残して逝ってしまった……ですから、彼女の心の中には今でもその人がいます…ですから、俺の想いを告げて…迷惑を掛けたくないんです」
辛そうに語る恭也に…美沙斗は柔らかな視線を浮かべる。
「でも…好きなんだろう……その人が?」
美沙斗の問い掛けに頷く。
「だったら…せめて想いだけでも伝えておくべきだよ。やって後悔するより…やらずに後悔した方があとで苦しみも大きいと私は思う」
「そうでしょうか……?」
「ああ…だけど、恭也がそこまで想ってる人って、誰だい?」
「………美沙斗さん、です」
「え……?」
恭也の口からでた言葉に…美沙斗は呆然となる。
一瞬、聞き間違いかと思ったが………
「俺は……美沙斗さんが好きです」
真剣な表情でもう一度、自分の名前を口にされ、美沙斗は顔を真っ赤にする。
「きょ、恭也…私をからかってるのか」
「違います…俺、美沙斗さんが好きです……美沙斗さんの中に、静馬さんがいるのは解かってます……でも俺は…」
美沙斗は顔を真っ赤にしたまま俯く。
恭也はその様子から溜め息をつく。
「すみません…やっぱり、迷惑ですよね」
「……私で、いいのかい?」
掠れたような…小さい声が聞こえる。
「恭也……本当に、私でいいのかい?」
不安げな表情を浮かべ、震える口調で問い掛ける美沙斗。
そんな不安を取り除きたいと思い…恭也は美沙斗を抱き締める。
「美沙斗さんじゃなきゃ……俺は嫌なんです」
耳元で、小さく囁く。
「恭也……ありがとう…私も…君が好きだよ」
美沙斗も恭也に抱き返す。
「美沙斗さん……」
「ふふ…もう一度、言ってくれるかい?」
笑顔を浮かべる美沙斗を見詰め、もう一度…囁く。
「愛している……美沙斗」
恭也と美沙斗はそのまま顔を近づけていく………
そして……二人はキスをかわす……
数年後……
警防隊を抜けた美沙斗は高町家に世話になっていた。
今は…高町美沙斗として……
美沙斗は縁側から庭を見詰めている。
そこには、美沙斗と入れ替わりに警防隊へと入隊し、多忙を極める夫の恭也と、恭也と美沙斗の娘である美沙がいた。
美沙斗似の可愛い女の子だ。
「うう〜恭ちゃんがお養父さんなんて……こうなったら、義理の娘という位置を利用して……」
何やら不吉なことを呟く美由希は背後から凄まじい殺気を感じ、身を竦める。
恐る恐る振り返ると……そこには、笑顔を浮かべた美沙斗が……
「美由希……お養父さんに変な真似はしないでくれよ」
ニコリと笑みを浮かべているが…もう、溢れんばかりの殺気を感じる。
「は、はい……!!」
(お母さん…眼が笑ってないよ〜〜)
そそくさとその場から離れていく。
「ん……美沙斗、どうかしたのか?」
「お母さん……?」
恭也と美沙が近づいてきたので、美沙斗は殺気を消して微笑む。
「何もないよ……」
「お母さんもおいでよ〜〜」
美沙に呼ばれ、美沙斗は立ち上がり、二人に近づいていく。
愛する夫と娘の元へと………
〜FIN〜
【後書き】
エンディング1…美沙斗編でした。
『3』本編では、クリアできないだけに…凄く気に入ってしまったキャラです。
性格が変わっているかもしれませんが……(汗