『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』




11話 「The opening of the thing―過去T―」










5年前 ドイツ 某市近郊 月村家別邸




「違う、そこは踏み込みを強く……今度は上半身が下半身の動きに付いて行っていない…………そうだ、その感じだ」




恭也の言葉に少女は嬉しそうに笑顔を浮かべる。

恭也の目の前には小さな少女――雫が体の大きさに合わせて特注された小太刀を懸命に振るっていた。

そんな二人を、少し離れた所で二人の女性がその様子を見つめていた。

一人は庭に備え付けられた椅子に腰掛け、もう一人はその横に静かに佇み控えていた。




「奥様、紅茶のお代わりは如何いたしましょう」

「ありがとう、ノエル。もう一杯もらえるかな」

「かしこまりました」

「しかし、二人ともよく続けるわね」

「うれしいのではないのですか、旦那様は。美由希様とは別に御自身を継げる方が出来たのですから……それに仰られていました。

 まだ体がついて行っていないが、旦那様と奥様の血を引かれているので旦那様以上の剣士になるだろう、と」

「恭也が御神に拘るのは知ってるけど、私としては工学の方も継いで欲しいな……やっとノエル達のメンテも手伝える位になってき

 たし。でも、本人が好きならどちらの道でも、それ以外の道でも構わないけどね。まぁ、どちらにしろ幸せに過ごしてくれればい

 いわ。私や恭也みたいに『波乱な人生』なんて無い方がいいんだから」

「忍様……」




忍は自身と恭也がとても平穏とは言えない人生を歩んできた事を思い出す。せめて、娘だけはそんな目にあって欲しくない、と常々

思っている。その為、本音を言えば刀なんて持って欲しくはない。しかし、言った通り強制する気はなく、本人が望むようにすれば

いい、と思っている。

そんな中二人の会話に一人のメイドが入ってくる。

海鳴に居る忍の妹である『すずか』付きの『ファリン』に良く似ていた。

そのメイドは一礼すると主人である忍に報告する。




「失礼いたします。奥様、エリザ様が後ほどお見えになられるそうです。後……旦那様にお電話が繋がっておりますが如何いたしま

 しょうか」

「何で私に、ってあれじゃ言い辛いか……いいわ、誰から?」




メイドの言葉に恭也を見ると、二人は未だに修行の真っ最中で声を掛けるのは一介のメイドにとっては大それたことだった。




「旦那様の御母堂様からです」

「お義母様から……何かしら」




忍は、孫がいるとは思えない喫茶店の店長を思い出す。

大方、日本へ何時帰ってくるのか催促だろう。そういえば長い間帰っていないな……最後に会ったのは雫が生まれて、暫く向こうで

1年程過ごした時だったか。近いうちに恭也に休みを取ってもらって帰るのも良いだろう、そう思いながら娘と夫を見つめると、恭

也を呼ぶ。




「二人とも、そろそろ休憩したら。それにエリザがもう少ししたら来るみたいだし……それから恭也、桃子さんから電話が繋がって

 るみたいよ……いってらっしゃい」

「母さんが……何だろう」

「多分、たまには帰って顔を見せろ、って所じゃないかな」

「あぁ、そうか。そうだな今度の連休でも取って帰るか」




あぁ、やっぱりこの人とは気が合う、そう恭也と同じ事を考えていた事に笑みをこぼすとそうね、と言いながら恭也を急かした。

恭也はついでに今日の鍛錬はここまでにしよう、と雫に修行の一環としての道具の手入と片づけを言いつけようと振り向く。




「わかったよ。雫! 今日は少し早いが終わりにしよう。手入と片付け頼んだぞ」

「はい、師範。……あっ、お父さん! 今度の日曜に遊園地に連れて行ってくれるって約束、覚えてるよね」

「あぁ、心配しなくても覚えてるよ」

「ほら、雫もお茶にしましょ、手を洗ってきたらあっちの陰で飲みましょう」




すぐに鍛錬中と日常との態度を切り替えられる雫に、笑みをこぼしながら恭也は答える。

自分に似ず器用だな、そう思いながら恭也はメイドに促され電話の置いてある部屋へと移動する。







 




「あぁ、分かってるよ………………そう、多分その辺りに休みをとって帰るよ…………………………当たり前だ、ちゃんと雫も連れ

 て帰るよ。この家に置いて行けるわけないだろう…………………………善処する……あぁ、今度はこちらから電話するから……で

 はまた……」




受話器を置くと丁度、忍の親戚であるエリザがやってきた。日本では同じ親戚である、さくらには世話になったがドイツにきてから

は、お互い住んでいる場所が近いためか、自然と良く会うようになり、今日みたいに急にやってくることも少なくはなかった。

恭也は未だにエリザが何を生業にしているのか分からなかった。忍曰く、占い師、魔法使い、錬金術師……他にも聞いたがまともな

のは占い師ぐらいしかなかった。しかし、恭也はこの親戚が自分達の事をとても大切にしてくれているのを知っておりとても感謝し

ていた。




「こんにちは、恭也……また一段と男前になって」

「お久しぶりです……ご冗談を」

「あら、初めて会った頃は照れて可愛かったのに……」

「会うたびに言われれば慣れますよ」

「でも、男前っていうのは本当の事よ。素直に受け取っておきなさいな」

「ありがとうございます」

「それで、愛しい奥さんと可愛い娘は何処にいるのかしら」

「案内しますよ、こちらです」













「そう、今度日本へ行くのね」

「ええ、母がたまには帰ってこい、ってうるさいもので……それに、雫も連れて行きたいですし。こっちに来る前は小さすぎて、あ

 んまり憶えてはいないみたいですし。まぁ、今でも十分小さいですけどね」




恭也はエリザを案内しながら先ほどの電話の事を話す。

エリザも恭也達がドイツへ来てから殆ど日本へ帰っていない事を知っていた。




「さくらから聞いてるわよ、大変ユニークな方だそうね、貴方のお母さんは」

「……否定はしません」

「それに――」

「奥様!! 雫お嬢様!!」




エリザが話を続けようとしたその時、庭からノエルの声が大きく飛び込んでくる。普段から冷静な彼女の声を考えると、尋常な事態

ではないと容易に想像できた。

エリザは恭也に確認しようと横を向くがそこにはいなかった。先ほどまで自分の横を歩いて話をしていたというのに、ふと、前を見

ると恭也の小さくなる背中が確認できた。慌ててエリザも恭也の背中を追いかけるが、徐々に離されていった。








恭也の背中に追いついた時、エリザは自らの目を疑った。

氷柱があった。その氷柱の横に雫が立っていた。そして、氷柱の向こうには泣きそうな顔をしている忍の姿があった。

雫の表情は確認できなかったが左手に赤い大きな宝石、右手に小太刀が握り締められたままだった。ただ、小太刀の柄の先端の意匠

が特徴的だった。六角形の各頂点から柱が伸びていた……それはまるで雪の結晶のようだった。

もう一度、忍を見、ふと違和感を覚える。

先ほどの姿から微塵も動いていなかった。まさか、と思い目を凝らして見てみると自分の間違いに気づく。




「しの、ぶ…………ちょっ、恭也! 何があったの!? 何で忍が氷の中にいるの!」

「……」




エリザは恭也の肩を激しくゆするが、ゆすられた当人は呆然と佇んでいた。

埒があかない、とノエルを探すがいつも忍の傍に居たはずの彼女が見当たらなかった。軽く見回すと、庭に備えられていたテーブル

や椅子、ティーカップ等が遠くまで散乱しており、ノエルも少し離れた所で横たわり、今立ち上がろうとしているところだった。

よく見ると忍の辺りを中心にして周辺の物を弾き飛ばしていた。

エリザの脳裏に考えたくも無い事がよぎる。

弾き飛ばした力の中心は忍のいる辺り、その忍は氷柱の中に、そしてその横には無傷の雫……これではまるで雫が原因ではないか。

しかし、恭也の次の言葉がエリザの考えを肯定する。




「雫……今、のは……お前が…………やった、のか」




恭也の問いかけに雫は顔を動かしただけだった。隙間からのぞく目は虚ろで焦点が合っていなかった。

恭也は見ていた。その場に着いた瞬間、目の前で忍が氷柱へ閉じ込められる所だった。

閉じ込められる瞬間、忍が自分の名を呼んだ。声は届いてこなかったが口の動きで読唇した。

娘の様子がおかしい、と誰が見ても明らかな事を思い、警戒しながら、そして刺激しなようにゆっくりと近づく。

それまで緩慢な動きしかしていなかった雫の体が素早く動く。右手の小太刀をそのまま地面へと突き立てる。

すると、突き立てた部分から恭也に向かって扇状に大地と芝生が凍りついていく。

恭也は、近づく氷の波に驚くも近くの木の枝の上へ飛び乗ると雫を見やる。

牽制のつもりだったのか、恭也が雫から遠のいたのを確認すると、素早く小太刀を抜き取りその場から去ろうとする。

恭也は木の上から飛針を数本飛ばし足止めを試みるがことごとく避けられてしまう。

だが、恭也は飛針を飛ばした後に鋼糸を放っていた。飛針はあくまで牽制、本命は鋼糸での拘束、それが恭也の狙いだった。

鋼糸が飛針の陰に隠れ、雫を捕らえようと迫る。

しかし、その鋼糸も間を縫って抜け出されてしまう。恭也は知らず知らずのうちに加減をしており、普段なら避けれないものを簡単

に避けられてしまった。

恭也は苦し紛れに再度飛針を放つ。

避けた雫はそのまま外へ飛び出そうと、決して低くない塀の上へと軽く飛び乗る。その飛び乗った瞬間、僅かだが動きが止まる。

単純に筋肉の収縮による為だったが、その止まった瞬間、雫の左手に抱えられていた宝石へ飛針が直撃する。その衝撃で雫は宝石を

落とす。雫はその落ちた宝石を一瞥したがそのまま振り向き外へと飛び出していった。

恭也は雫がいた塀まで近寄ると、近くの宝石を拾い上げる。その宝石は炎のように赤く、血のような紅い色をしていた。









恭也達にとってそれがレリックとの出会いであり、事件の発端であった。













続く




詳しい事が語られていく。
美姫 「平穏だった日常がある日突然……」
しかも、忍は氷の中に。
美姫 「この後、どうなったのかしら」
とっても気になるな。
美姫 「次回も楽しみにしてます」
待っています。



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