「あれ、どうかしたの?」

 

「こら、アルクェイド、失礼だろ!」

 

あまりに予想外な事態に一瞬硬直してしまった耕介はアルクェイドの不思議そうな声とそれをたしなめる男の声で正気を取り戻した。見ると彼女の後ろには見知らぬ男と女が一人ずついる。そしてその内の一人が気配からおそらくは死徒である事に気付いた。

 

「すいません、確かアルクェイドさんでしたよね。今日はどんな用で?それから後ろの二人は?」

 

耕介はとりあえず平静を装い相手の出方を伺った。昼間とはいえ、真祖と死徒、そして一見、一般人に見えるが他のメンバーを考えればおそらくはそうでない少年。この3人に対して戦闘になれば、今、現在丸腰である耕介はかなり分が悪い。幸い相手からは殺気は感じなかったが、だからといって油断は出来なかった。

 

「後ろの二人?ああ、志貴とシオンの事ね。志貴は殺人鬼で、シオンは死徒で錬金術師だよ。ところで、耕介って神咲一灯流の剣士でこの辺の退魔関係取り仕切ってるんだよね?」

 

そんな耕介の緊張とは裏腹にアルクェイドは軽い感じで二人を紹介する。もっとも内容はかなり物騒だったが。殺人鬼扱いされた男、志貴が反論する。

 

「おい、こら!!アルクェイド!!人聞きの悪い事言うな!!」

 

連れを殺人鬼と死徒と公言する相手に対し、耕介はどうリアクションをとっていいのかわからなくなるが、とりあえず、それを無視して話を続けることにした。

 

「まあ、取り仕切っているといえば一応そうだね。」

 

実際はその役割を担うのは神咲の正式な一門である那美なのだが、そういえば彼女に危害が及ぶかもしれないと考えそう答える。最も、さざなみにいる限り耕介は那美の後見人のような立場に立ち、危険度の高い事に関しては耕介が優先的に対処に当たっているので全くの嘘という訳でもないのだが。

 

「そうですか、あの、ちょっと話して置きたいことと、それからお聞きしたい事があるんですが・・・・。」

耕介の答えを聞いて志貴が口を開く。それに対して耕介が少し考えて答える。

 

「・・・・・・この街で起こっている吸血鬼事件についてかな?」

 

状況からして一番可能性の高そうな事象を述べ、それに志貴が頷いた。

 

「はい、それで、このあたりの退魔関係は神咲の方が取り仕切っていると聞いて一応挨拶に伺おうってことになりまして。」

 

「・・・・・・わかった。立ち話もなんだから、部屋に入ってもらえるかな?」

 

志貴の答えに耕介は少し思案した後、そう答え、3人を恭也のいる居間に招き入れようとする。そしてちょうどその時、リスティが2階から降りてきた。

 

「耕介、何、お客さ・・・・・。」

 

お客さん?と言おうとしてリスティが固まる。そして耕介にテレパシーを送り、耕介もそれを使って答える。

 

『耕介!!あの金髪の女何者なんだい!?普通じゃなさすぎる!!』

 

『真祖。吸血鬼の王様みたいなもんだ。何か話があるらしい。とりあえず、こっちに敵意は無いみたいだけど、万が一の時の為にいつでも御架月を俺のもとに転送できるよう準備しといてくれ。』

 

『わかった。気をつけて。』

 

リスティの了解を得ると耕介は改めて3人を居間に招きいれた。アルクェイドの姿を見た恭也が驚愕の表情を浮かべ叫ぶ。

 

「貴方は!!」

 

「あ、恭也だったよね。久しぶり。って、昨日あったばかりだとおかしいのかな。」

 

驚く、恭也に対し、それを見てはしゃぐアルクェイド。そして耕介は恭也に軽く事情説明をすると、3人をソファに座らせ茶菓子と紅茶を差し出した。

 

 

 

 

 

 

(この人が本当に退魔士なのか?)

 

志貴は耕介を見て思う。昨日シオンの話を聞いたあと、まずは一度“神咲”の人間に会ってみようと言う事になった。もし、“神殺し”の秘術を使えるのならば、それは相手にするには厄介すぎるし、そうでなくても無駄な争いを避ける為に一度ちゃんと会って事情は説明しておくべきだと判断したのである。それにもしかしたらシエルに関する情報を何か知っているかもしれないというのもあった。しかし、会ってみて最初に思ったのが予想外だった。昨日シオンから聞いた話から漠然と凄いイメージを抱いていたが目の前の耕介はとても強いようには見えなかったのである。と、言うか一般人にしか見えなかった。

 

(ま、それは俺も同じか。)

 

思案している途中、自分も人から見ればそうである事に思い当たり苦笑する。そこで、紅茶を口にし、その瞬間思わず呟く。

 

「お、上手い。」

 

最近、家でよく飲むせいか志貴は紅茶に対しそれなりに舌が肥えてきているが、耕介のだした紅茶は家出琥珀が入れてくれるものにも劣らぬ味であった。また、同等でありながら、微妙な味の違いが新鮮に感じられる。

 

「この味はダージリンですね。湯の温度、入れ方、共に完璧に近い。お茶の葉も高級品ではありませんが、質のいいものを使っている。」

 

『薬物は混入されていないようですね。しかし、真祖はともかく志貴は無防備すぎます。』

←分割思考

 

シオンもそう評価する。その裏で分割思考を使って安全性を確認もしているようだが。

 

「それで、この街で起きている吸血鬼事件に関してと言う事だったけど・・・・」

 

そして一息ついたタイミングで耕介が本題を切り出してきた。志貴が気を引き締め、話しだす。

 

「はい、まず、俺達はこの事件に関しては無関係です。俺達は知り合いの代行者の人がこの街の吸血鬼を追って消息を立ったんです。シエルって言うんですが、何か心当たりはありませんか?」

 

「シエル?もしかして、埋葬機関第七位の!?」

 

「何か知ってるんですか!?」

 

驚愕の表情を浮かべる耕介に志貴は期待を込めて言う。その勢いに思わず後ずさってしまう耕介。

 

「い、いや、彼女の名前は有名だから聞いたことはあるけど見たり会ったりしたことはない。そもそも埋葬機関と退魔士ってのは敵対関係とまではいかないけど、かなり仲が悪いんで、例え会ったとしても大抵はすぐ別れちゃうしね。」

 

「え、そうなんですか?」

 

耕介の答えに意外そうな顔をする志貴。そこでシオンが説明をいれた。

 

「埋葬機関と退魔士は3つの理由から対立しています。まず、一つは宗教上の問題。教会の人間の中には異教徒を蔑視する人間も少なくありません。次にお互いの守るべき領域の制定、簡単にいえば縄張り争いが両者の間で行なわれているからです。歴史上キリスト教はその力を持って魔を退ける事で支持を得、勢力圏を広げてきました。しかし、日本にキリスト教が伝来した際、既に日本には退魔士という存在があった為、日本ではキリスト教は広まる事が無かったのです。そして三つ目に思想の違いがあります。知っての通り教会の人間は吸血鬼を不浄のモノとし、彼等に協力する一部の者を除けば無条件に処断しようとし、その他の魔に対しても冷酷です。しかし、日本の退魔士は現在では魔との共存を推し進め、出来る限り対立を出来る限り抑えようとしています。そう言った理由から二つの組織は相容れないのです。」

 

「へえ。」

 

シオンの話に志貴は感心し、耕介が頷き、そして話を続けた。

 

「そういうことなんだ。ただ、・・・・・・・まったく心当たりが無いわけじゃない。いまから、ちょうど一週間前、この街で交戦の気配を感じた。その内の一つがアルフレッドだとすると、もう一人は多分、そのシオンさんだと思う。」

 

「!!!それで、先輩は!?」

 

それを聞いて志貴は思わず体を乗り出す。

 

「・・・・いや、俺がそこにたどりつく前に気配は消えてしまったんだ。ただ、少なくともその場で殺されてしまったと言う事はないと思う。俺達、霊能力者は死には敏感だから。」

 

霊能力者は死を感じとる能力に関してはかなりの精度を誇る。霊力が消えた時、それがただ消えたのか、その人物が死んだのかある程度判別がつくのだ。

 

「そうですか・・・・。」

 

耕介の答えに対し、失望と安堵が半分ずつ混じった答えを返す志貴。

 

「すまない、対して役に立てなくて。」

 

申し訳なさそうに頭を下げる耕介に対し、志貴はそれを推しとどめた。そして真剣な顔になって聞く。

 

「いえ、あ、それから聞いておきたい事があります。先ほどの話で日本の退魔士は魔に対して穏健と聞きましたが貴方もそうですか?」

 

「ああ、俺は争いは出来る限り裂けたいと思っている。」

 

その答えを聞いて志貴はその言葉に偽りが無い事を感じ、そして一つの提案をだした。

 

「そうですか、だったら協力して行動しませんか?耕介さん達は今後もこの事件に関して追うつもりなんでしょう?俺達もそうです。だったら、協力しあった方が効率的に動けますし。」

 

「ああ、そういうことなら歓迎するよ。むしろこちらからお願いしたいくらいだ。真祖が味方になってくれるなんてこれ以上頼もしい事はないしね、ここまで話して君たちの事は信用できると思ったしね。恭也君もそれでいいかい?」

 

「ええ、俺もこの人は信用できると思いますのでかまいません。」

 

耕介と恭也は志貴の言葉が信用できると判断し、快諾した。それを聞いて志貴はほっとしたような表情になる。

 

「そうですか。それじゃあ、お願いします。」

 

「よろしくね。」

 

「こちらこそ。」

 

そして志貴と耕介が握手し、アルクェイドが笑顔で手を振る。その時、シオンが口を開き、一つのことを申し出た。

 

「早速ですが、槙原さん、一つ、お願いがあります。これから先、共闘するにあたって味方の戦力を把握しておく事は戦術上重要です。あなたの技を見せてもらえませんか?」

 

「え、シオン。」

 

少々ぶしつけな提案をしたシオンに驚く志貴、だが、耕介は特に気にもしてないようだった。

 

「ああ、かまわないよ。その代わり君たちの力も見せてくれ。あ、そうだ、こちらからも提案があるんだが、いっそ模擬戦をしてみないか?その方がお互いの実力が良くわかると思うしね。」

 

「そうですね。確かにそれは効果的です。」

 

耕介はその申し出を受けると、逆に提案する。シオンがそれに納得し、他のメンバーも同意する。そして耕介は部屋に戻り御架月を取ってくると、5人で寮の森を少し進み、開けた空き地へと移動した。

 

 


(後書き)

志貴の口調がちょっと変な気がするんですがどうでしょう?実際、こういうシチュエーションだと彼はどんな感じで話しますかね。後、霊能力者に関してとか一部オリジナル設定を用いています。

 

次回はとらハキャラVS月姫キャラの模擬戦です!!


模擬戦、一体どんな事になるのやら。
美姫 「本気をだしたアルクェイドの前に全員が一瞬で倒されるとか」
それじゃあ、戦力把握にならないし。
美姫 「…えーい。そんな事、私の知ったことじゃないわ」
開き直りかよ!って、何故俺を殴る。
美姫 「別に。たまたま、そこに、丁度いいのがあっただけよ」
そんな理由で殴られて堪るか!
美姫 「五月蝿いわよ、浩のくせに」
シクシク。
美姫 「とりあえず、次回が待ち遠しいわね」
それは確かに。それじゃあ、次回を楽しみに待つとしますか。
美姫 「そうしましょう」
ではでは。





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