2倍に引き伸ばされた時間の中、耕介の刀が振るわれる。いままで互角だった勝負で、純粋に片方の行動速度が2倍になったのならば、相手に対処の仕様は無い筈だった。

 

ガキィィィン

 

だが、耕介の刃は突如、虚空に現われた黒い刃によって阻まれた。“デジャビュ”これと同じような光景は昼に見たばかり、だが、それが何かを結びつける前に次の行動に移らねばならなかった。

 

「円月!!」

 

予想外な事態に対するほんの一瞬の硬直。もし、螺旋が時間を引き延ばす技ではなく、単に速度を上げる技であったのならば耕介はここで死んでいただろう。硬直から溶けたその瞬間、耕介は無尽流の技の一つである全身を半球上に覆う攻防一体の結界を張っていった。

 

ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ

 

無数に生み出された黒い刃によって結界は切り刻まれていく。それは魔術ではなかった。相手は呪文を唱えていない。力の溜めすらない。何より、その刃は完全に“実体化”している。そう、それは。

 

ブッシュウウウウウウ

 

耕介の胸から血が噴出す。それを為した刃の存在のあり方は・・・・・・アルクェイドの“空想具現化”そのものだった。

 

 

 

 

 

 

スッ ズシャ グサッ スッ ビシュ         

 

かわしきれない黒鍵を最低限の数だけ死線をひき、“殺す”。そして、その瞬間、彼の眼に見えた。シエルにかかる“支配”が。そしてその次の瞬間、志貴は駆けた。怪我をした足から血が噴出し、激しい激痛が走るがそんなものは無視する。

 

ビュッツ ビュッツ ビュッツ

 

シエルは次々と黒鍵を投げ、接近を阻もうとする志貴はそれを殺す、かわす、全てを防げる訳ではなく全身血だらけになるが、それでもとまらない。

 

(“殺す”ものさえわかっていればそれでいい。殺しあいなら俺は誰にも負けない。)

 

“殺す”対象がはっきりと視えた事で、志貴の意識は“遠野志貴”から“殺人貴”へと移っていた。そこで、シエルが今までとは違い、唯の黒鍵ではなく、火葬式典を投げてくる。これを一撃でも喰らえば即、死につながるだろう。志貴は意識を集中し、線ではなく点を“視て”それを完全に殺す。

 

「教えてやる。これが、モノを殺すって事だ。」

 

そして、手の届く範囲へとたどり着いた。滑らかな動作でシエルの“支配”をついた。

 

 

 

 

 

「何故だ!?何故あたらない!?」

 

アルフレッドは驚愕していた。戦いはアルフレッドの圧倒的有利ですすんでいた“筈だった”。だが、気がついた時には、そうではなくなっていた。アルフレッドの攻撃が一撃も当たらない。魔術、空間転移、接近しての攻撃、彼の持つありとあらゆる手札を用いているにも関らず、その全てがかわされてしまう。

 

「貴様は・・・・貴様はなにものだ!?」

 

叫ぶアルフレッド。

 

 

・・・・・・高町恭也には足りないものが多すぎた。

 

師が足りなかった。―――――幼い頃、父を残し、残されたノートのみを頼りに剣を学ぶその道はあまりに困難だった。

 

 

時間が足りなかった。―――――成長期、本来自身が最も強くなれる時期に彼は弟子である美由希の成長にその労力の半分を費やした。

 

 

健康な身体が足りなかった。―――――壊れた膝は武を極めようとするにはあまりに大きすぎるハンデだった。

 

 

ライバルが足りなかった。―――――自分と技を競い、高めあい、また経験を得るための、好敵手足りえる相手が少なすぎた。

 

 

経験がたりなかった。―――――本当の意味での修羅場というものを経験していなかった。

 

 

欲が足りなかった。―――――自身が強くなりたい。頂点を極めたい、その意思が彼には足りなすぎた。その夢を諦めてしまっていた。彼自身が昔、言ったように自分にできないと思っていることが出来よう筈も無かった。

 

 

 

だが、彼にはそれを補って余りうるものが二つあった。それは彼自身が無いと思い込んでいた“才能”と、誰にも負けぬ強き“信念”。そして彼は足りないものを全て手に入れた。

 

 

美沙斗という同門の先達との再会。膝の完治への近づき。

 

耕介、薫、志貴などの同格の技量の持ち主との出会い、戦い。美沙斗、久遠、イレイン等との死闘。

 

そして、それらによって高みに近づいた事によって取り戻した夢。

 

 

彼は頂点へと近づきつつあった。それは“剣聖”への道でも“覇王”への道でもない。

 

剣士の“強さ”と暗殺者の“怖さ”を兼ねそろえた存在への道。

 

そこにたどり着いた者はいない。それを評する言葉も今だ無い。

 

彼ほどの才能を持ってしてそこにたどり着ける可能性は万に一つもない。億に一つすらない。

 

だが、もし、そこにたどり着けたなら、彼は人の身でありながら、魔術や霊力の使い方を覚えることもなく、真祖や魔法使いにすら匹敵する存在になるだろう。そして、これはその第一歩。

 

 

―――――――――御神流・斬式奥義の極み・閃――――――――――――

 

 


(後書き)

次回はいよいよ一部最終回です。後書き座談会はまたもお休みです。



おおー。こ、ここで終るなんて。
そんな殺生な〜。
美姫 「確かにかなり気になる終わり方ね」
早く、次回を〜〜〜。
美姫 「とりあえず、少し静かにしてなさい!」
ぐえぇっ!
美姫 「さて、馬鹿は黙らせましたので、次回へ向けて頑張って下さいね。ではでは」



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