黒の月と白の月外伝    

魔術師殺しと神殺しの技を継ぐもの出会い

                                     前編

 

 

――――斬

 

怨念となって理性を失った霊を耕介の持った御架月が切り捨てる。それで、あたりに気配は無くなった。

 

『お疲れ様です。いつもながら見事な手合いですね。』

 

「ああ、けど“斬る”ってのはいつまでたっても慣れないものだな。」

 

一息つき御架月に答える。ここは海鳴市の隣町。耕介は警察から依頼を受けて霊障の徐霊にきていた。その霊障を引き起こしたものは下級のもので徐霊事態は簡単だったが、その行為、霊や魔を切り払う行為はいつも後味の悪さが残る。

 

『耕介様はそれでいいのだと思います。それは耕介様には確かに辛い事かもしれません。しかし、その昔、僕を、霊剣御架月を扱ったものの中にはそれに苦痛を覚えなかったもの、覚えなくなったものがいました。僕は耕介様にはそのようになって欲しくない。今の様な耕介様だからこそ、皆が耕介様を慕い、僕もまた心から仕えているのです。』

 

御架月が真剣な表情で語るその言葉を聞き、耕介はしばらく沈黙した後、照れたように返した。

 

「・・・・そうだな。ありがとう御架月。おれはいつもお前に助けられてばかりだな。」

 

『いえ、耕介様にはそれ以上に助けられましたよ。』

 

そんな耕介に御架月も笑顔で返す。そんなその少年の霊を見て、姿は変わらずとも彼もまた成長しているのだと気付き、何となくうれしくなった。

 

「じゃあ、寮に帰ろう・・・。」

 

その時、耕介は強大な魔力を感じ取った。それも一つ二つではない。全部で5つ。

 

『耕介様!!』

 

「わかってる!!行くぞ!!」

 

 

 

 

 

「・・・・・はあ、・・・・・はあ。」

 

「もう、おわりかしら?」

 

夜道に浮かぶ影。逃げる女と追う女。そのどちらもがこの世のものとは思えぬほどの美貌の持ち主で、一人は黒い服をもう一人は赤い服を身に纏い、全身傷だらけであった。そして、立ち止まった赤い服をきた女に対し黒い服を着た女が余裕の言葉を投げかける。

 

「諦めろ。お前に勝ち目などない。逃げることもできない。」

 

黒い服を着た女性の方の傍らに立った男が黒い剣を構え、赤い服を着た女に勧告する。そして2人の美女とその男の他にこの場には黒い服を来た女を挟んで男と反対方向にもう一人男が立ち、そして一頭の獣が赤い服の女の逃げ道を塞ぐように立っていた。その獣を何も知らぬ者達が複数見たのならその姿がそれぞれまるで違って見えることを不思議に思っただろう。

 

「エリザ・ローレンシュタイン、世界中の魔術師や死徒から狙われている貴方が一人で出歩くなんて迂闊だったわね。それともまさか、自分一人でどんな危険でも退けられるとでも思っていたの?」

 

微笑を浮かべて言った黒い服を着た女の言葉に赤い服を着た女、エリザが答える。

 

「アルトージュ・ブリュンスタッド、まさか貴方が動くなんてね。しかも、黒騎士と白騎士、プライミッツ・マーダーまで連れて。夜の一族と前面戦争でもする気?」

 

黒い服を着た女、アルトージュは死徒の長。そしてエリザは夜の一族の長。この両者の争いはそのまま、死徒と夜の一族の全面戦争を引き起こす危険性を含んでいる。だが、アルートジュはその微笑を崩さなかった。

 

「そんな事にはならないわ。夜の一族は一枚岩じゃない。貴方が死んだところで動くのは一部の派閥のみでしょう。あなたが欠けた状態のそんな者達など相手にすらならない。」

 

「くっ。」

 

エリザが歯噛みをする。アルトージュの言う事は正しかった。エリザが死ねば、その後はアルトージュの言う通りの結果になるだろう。

 

「それじゃあ、話は終わるわ。」

 

アルトージュがそう宣言した瞬間、二人の騎士とプライミッツ・マーダーが同時にエリザに向かって飛び掛ろうとする。せめて、一人でも道連れをとエリザが覚悟を決めたときだった。

 

「ちょっと待った!!」

 

あさっての方向から突然、静止の叫びが放たれた。予想外のその事態に、その場の全員がその声の先を見る。そこには一人の男立っていた。

 

 

 

 

 

裏世界において有名すぎる程有名な5者の視線を現在集めている男、槙原耕介は内心の動揺を隠しながら平静を装った。

 

「・・・・・あなた何者?」

 

アルトージュが耕介を睨みつける。そのプレッシャーにびびりつつも耕介はその同様を隠し、平然と語る。

 

「ここら一体の管理をしている退魔士だよ。正確にはその代理人だけどね。不穏な気配を感じたんで様子を身にきてみたんだけど、まさかこれほどの有名どころがそろってるとは驚いたよ。ま、それはともかく、ここら辺で揉め事を起こされるのは困るから俺の顔を立ててお互い引いてくれないかな?」

 

 

「何故、私が人間の顔を立てないといけないのかしら?」

 

耕介の申し出にその目をさらに冷たくして睨むアルトージュ。

 

「ま、そういうだろうと思ったよ。だったら、力づくで。っと、言いたい所だけど、流石にそれは無理だろうから、そちらの誰か一人と俺が戦って、俺が勝ったら大人しくひいてもらうってのはどうかな?」

 

以下に耕介でも、上位二十七祖4人を同時に相手にして勝つなど不可能である。しかし、1対1ならまだ勝ち目もある。耕介はそう考えての提案をし、答えを待った。

 

「ふーん、面白い事言うわね、あなた。いいわ、乗ってあげる。リィゾ、行きなさい。」

 

「わかりました。」

 

そしてその提案にアルトージュは応じた。言葉通り面白いと感じたのか、あるいは下手に耕介が邪魔をしてエリザを逃してはと思ったのか。どちらにせよ彼女は命を下し、その命に従い、黒騎士リィゾが前にでた。そして、白騎士とプライミッツ・マーダーはエリザが逃亡しないように彼女を取り囲む。

 

「黒騎士リィゾ。不死身の死徒か。」

 

「我が主を邪魔した罪、死を持って償え。」

 

そして、不死身の騎士と神すらも殺した技を継ぐものとの戦いが始まった。

 

 

 


(後書き)

他の人のssでアルトージュの話を読んで書きたくなったものです。けど今のところイメージの中で、アルトージュとエリザのキャラが微妙に被ってるなあ(汗)どうしよう。




不死身の騎士と耕介の戦い…。
美姫 「果たして、勝つのはどっちなのかしら」
後編が楽しみ〜〜。



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