第36話「いまは遠き夜天の光(前編)」






 
 それはきっと、いつもと同じ、いつも通りの朝。
 お友達の家にお泊りさせてもろうて、送ってもろうて帰ってきた自分の家。

「はぁっ。おちついたぁ」
 ため息を吐くはやて。
「お疲れ様でした。主はやて!」
「あははっ。遊びにいっといてお疲れというのもあれやけど……」
「……………………」
「シグナム!? 夕べとかなにか不自由なかったか?」
「いえ。何一つ……。夕食も美味しく頂きました」
「ほんならよかった」
「ノエルさん、無事お見送りしてきましたよ」
「おおきにな、シャマル!」
 不在者が居ることに気付くはやて。
「ヴィータとザフィーラは?」
「一緒に町内会の集まりに行っていま。夕方には戻ると……」
「そうか」
「ヴィータちゃん、町内会のおじいちゃん、おばあちゃんの人気者ですから」
「あははははははっ」

 それは、なんでもない日常……。
 
「あれ? 『闇の書』が……」
「どうしたの? 急に現れたりして」
「起動はしていませんね。待機状態のままです」
「う〜ん、一晩家を空けたのは久々やから、若しかして寂しかったのかな? おいで『闇の書』!」
 はやてに擦り寄る『闇の書』。
「えぇこや! よしよしっ!!」
「なんだか、前にもまして、はやてちゃんに懐いていますね」
「他のマスターの時は、こんなんなかったん?」
「えぇ。我々の記憶の限りでは……」
「うふふふっ。くすぐったいっ!」
「まぁ、仲良くできることはいいことですよね?」
「ほんまや! なでなで……よぉしよ〜し♪」

 私、八神はやては、ごくごく普通の小学三年生相当の女の子。
 人と少し違うんは、ちょっとした病気で車椅子生活だということ。
 そのへんの事情とかあって、学校は休学していること。
 それから、このこ……異世界の古代遺産『夜天の魔道書』……通称『闇の書』の所有者であること。

「ごめんな『闇の書』、一人にしてしもうて……連れてってあげたらよかったんやけど、すずかちゃんが来てくれた時、『闇の書』、本棚におらんかったから…… 『闇の書』もあまりふらふら出歩いたらあかんよ?」

 『闇の書』は、様々な魔導師の魔力を記録して、頁として蒐集することで力を発揮する収集蓄積型の巨大ストレージ。
 蒐集方法がちょい荒っぽいので、私は許可を出していない。
 そやから、このこは今は白紙の唯の本。
 まぁ、浮いたり、飛んだり、摺りよってきたりするけど……。

「あはははっ! ひゃはっ! 悪戯したらあかんって……もぉぉっ」
「なんだか、もうすっかりペット扱いね」
「だが、まぁ、あれも満更ではなさそうだ!」

 そして、『闇の書』の守護者であり、その所有者の臣下として働く騎士がここに居るこのこたち。
 剣の騎士、烈火の将シグナムと湖の騎士、風の癒し手シャマル。
 後は、お出かけしている二人……紅の鉄騎ヴィータと蒼き狼ザフィーラ……。

「ふあぁぁぁっ。あぁっ」
 あくびをするはやて。
「あら?」
「はっはっ! あかん、夕べは話し込んでもうて、ちょうい睡眠時間が足りてない」
「あらら?」
「すずかちゃん家のベッド、ごっつフカフカでなんや緊張したし」
「そうですか。では、少しお休みになられますか?」
「うぅ〜ん。ごはんの支度時に皆がお腹を空かせたらあかんし……ちょい、休ませて貰うな!」
「ベットまでお連れしましょう……よいしょ」
「ありがとう」
 メニューを考えるはやて。
「ひき肉は買ってあるし、今日はハンバーグやで」
「いいですね。ヴィータが特に喜びます」
「はい。シグナム! 気おつけてね」
「あぁ」
「ほんなら、ベッドまでしゅっぱ〜つっ!!」

「はやてちゃん、もう寝ちゃった?」
「シャマル! 毛布を」
「うん」

「(シャマル! 主は、本当に唯の寝不足か? 『闇の書』の影響が出ているのじゃないか?)」
「(調べてみたのだけど、何もないみたい。昨日までと何も変わらないわ)」
「(何も!?)」
「(えぇ。『闇の書』は、はやてちゃんの体とリンカーコアを侵食しているの。今はまだ足の麻痺だけで健康は保たれているの)」
「(その侵食は少しずつ進んでいるのか?)」
 なにかを言う『闇の書』。
「あぁ、『闇の書』! 主は大丈夫だ! 気にするな」
「うん」
「(平気だから、心配しないで)」
「お休みの邪魔をしちゃいけないから出ましょう」
「あぁ」
「『闇の書』も……」


「実は、一つ気になることがある」
「え?」
「夕べ、主はやてと電話で話しているときに主は私のことを『烈火の将』と呼ばれた」
「……………………」
「ヴォルケンリッター『烈火の将』ともあろう者が、そんなに落ち込んではいけないっと……」
「……あっ! その二つ名って……」
「私達の間でわざわざ使う名ではない! 私のことをそう呼ぶのは、『闇の書』の管制人格だけだ!」
「まさか……」


「主……我が主!」
 はやてを呼ぶ声がする。
「う〜ん……なんや? ごはん、まだやで」
「昨夜は失礼しました。騎士達が用意したセキリティの範囲外に御出ででしたので、私の備蓄魔力を使用して探知防壁を展開していました。睡眠のお邪魔だったかもしれません」
「……………………。……そんなことないよ! なんや、守られている気がしてた」
「この家の中は安全です。烈火の将と風邪の癒し手もついていますし……私からの精神アクセスを一時解除します。予定の時間までごゆっくりお休みください」
「了解や! おやすみな……」
「はい! 我が主」
 眠るはやて。



「まさか管制人格が起動しているの? だって、まだあのこが起動するのに必要な規定頁数を集めていないのに……はやてやんの起動許可だって」
「無論実体具現化まではいっていないだろう? だが、少なくとも人格の起動はしている。そして、主はやてとの精神アクセスを行っている」
「まぁ、それ自体は悪いこととは思わないのだけど……」
「(シグナム! シャマル! ザフィーラだ)」
「あぁ、ザフィーラ、丁度いい時に……今どこ?」
「(かなり遠くだ! 僅かばかりだがコアを集めたので『闇の書』をうけとりたい)」
「うん。今、『闇の書』に行ってもらうけど……」
「(どうかしたのか?)」
「管制人格が目覚めているらしい。そして、主はやてと精神アクセスを行っている」
「(そうか)」
「対策を考えていたの。貴方の意見は?」
「(管制人格は、我等より上位に配置されたプログラムだ! 彼女の行動について現状で我等が直接干渉することは出来ん)」
「正規起動するまでは、対話も出来ないしな……」
「(彼女も我等も想いは同じはずだ! アクセスだけなら害はないだろう……。そして、意識の底で出会えたなら、我等が主は彼女のこともいたわってくれるはずだ)」
「現状維持がザフィーラの結論?」
「(無用な不安を与えない為、ヴィータには伏せておくことを提案する)」
「そうね、私も同意見……っと言うか、それしか出来ないんだけど」
「『闇の書』が転移準備をはじめた。時期にそちらへ到着する。ザフィーラ、引き続きよろしく頼む」
「(心得ている)」
 転移していく『闇の書』。
「何も出来ないのは、心苦しくて不安ね」
「そうだな。だが、何も出来ないなら良い方に考えよう。あのことのアクセスで主の病の進みが少しでも遅くなってくれるよなことがあれば……」
「……うん。そう考えましょう」
「そう言えば、おまえが『闇の書』に施した仕掛けの方はまだ大丈夫か?」
「あぁっ! 偽装スキンのこと? 大丈夫よ! 私達、4人以外が開いたときは頁は白紙に見えるし、普通に調べたぐらいじゃ魔力反応はでない。完成までは、はやてちゃんが私達の蒐集に気付くことはないわ」
「主はやてに真実を偽るのは、心苦しいがな……」
「言い出したのは私だし、やったのも私。貴女が気に病むことじゃないわ」
 その時、電話が鳴る。
「ん?」
「あら?」
 電話に出るシャマル。
「はい。八神です」
『もしもし海鳴大学病院の石田です。シャマルさんですか?』
「はい」
『明日の来院のご確認なんですが、午前11時からということで大丈夫ですよね』
「はい。大丈夫です。カレンダーに丸をつけてあります」
『だったら良かったです。予約が必要な検査機器を使用しますので、お時間間違えないように御来院くださいね! っというご連絡です』
「はい。遅れないように伺います」
『えっと、はやてちゃんは?』
「すみません。夕べ少し夜更かししてたみたいで、今お休み中です」
『そうですか。それでは、また明日と言うことで……』
「はいっ。失礼します」
 電話を切るシャマル。
「石田先生か?」
「うん! 明日の予約の確認だって! 明日は、私が付き添うから……」
「できればヴィータも連れて行ってくれ! 少し休ませないといけない」
「了解!」
 明日は、ヴィータもシャマルと行動するようだ。
「さてぇ。今日は、いいお天気でお洗濯日和ね♪ 洗濯物出してある?」
「あぁ」
「私は、お洗濯をしちゃうから……貴女も少しは休んでおいてね」
「あぁ……そうだな」

 感がえることは、多くて少ない。
 今は唯、『闇の書』の完成を目指すのみ。
 シャマルを追い詰めたこくはんしょくの少年……。
 ヴィータと戦った白い魔導師。
 ヴィータを一撃で戦闘不能にした赤い目の女。
 そして、テスタロッサ姉妹。 
 誰が相手でも戦って切り抜けるのみだ!


「はぁ、改めて視るとやっぱり管理局本局の中ってすっごぉい!」
「本当だね、なのはちゃん」
 すずかも本局に来ていた。
「なのは、すずか、アリシアお待たせ!」
「うん! フェイトちゃん」
「嘱託関連の手続き全部済んだ?」
「うん! 書類を何枚か書くだけだったから……なのはは、ユーノとは会えた?」
「うん♪ 差し入れもちゃんと渡せたよ。ユーノくんも無限書庫で調べ物をする為のいろんな手続きとかあるから、一度中央センターに行くって言ってたけど」
「残念。それじゃ、入れ違いだ!」
「あっ! そっかぁ」
「後で時間があったら、また様子を見に行こうか?」
「うん♪」
「あらまぁ」
「なのは、フェイト、アリシア!」
「リーゼ・ロッテさん、リーゼ・アリアさん」
「こんにちわ」
「こんにちわ」
「はじめまして、月村すずかです」
「この娘、キミ達の友達?」
「はい」
「ふぅ〜ん」
 すずかを観察するリーゼたち。



「丁度いい時に来た。迎えに行こうと思ってたところなんだよ?」
「「「「……………………」」」」
「クロノに頼まれていたんだよ。時間があるようなら、本局内部を案内してやってくれってさぁ」
「……………………」
「いいんですかぁ?」
「フェイトちゃんもB-3区画以降は入ったことないでしょう?」
「はい」
「すずかちゃんだっけ?」
「はい」
「すずかちゃんは、ここにくるの初めてなんでしょ」
「はい。はじめてです」
「一般人が見てそんなに面白いもんじゃないけど、いけている魔導師の君達なら結構楽しいと思うよ!?」
「どう? 行ってみる?」
「はいっ!」
「「おねがいします」」
「お願いします」

「この区画がB-3……武装局員達が働いている区画ね」
「皆さん、普通のスーツ姿なんですね」
「普段はデスクワークもあんからねぇ」
「でぇ、向こうが訓練所!」
「今、丁度トレーニングしているはずだよ」

 トレーニングしている武装局員。

「わぁ、すごい!」
「皆さん、頑張っていますね」
「こういう実戦形式の訓練は、周に3回から4回! 基礎訓練だともっと多いかな?」
「えっと、リーゼ・ロッテさんとリーゼ・アリアさん……」
「あぁぁぁっ! 待った、待った!! 長々と呼ぶの面倒くさいからリーゼの部分は省略OK! ロッテとアリアでいいよ」
「えぇっ! 二人まとめて呼ぶ時はリーゼ! 皆そう呼ぶから……」
「はい。リーゼさん達は、武装局員の教育担当だとか?」
「ふん! そうだよ」
「戦技教導隊のアシスタントが最近一番多い仕事かな?」
「戦技……教導隊!?」
「武装局員に特別な戦闘技術を教えて導く地位ね」
「武装局員になるのも狭き門なんだけどね……」
「その中でも、更に上のスキルを教える立場だから、まぁ、トップエリートだわね! 正にエースの中のエース……エース・オブ・エースの集団」
「はぁ……」
「本局に本隊があって、支局に4つ……合計5つの教導隊があるけど、全部あわせても100人弱ぐらいじゃないかな?」
「そんなに少ないんですか?」
「私達みたいな非常勤のアシスタントを合わせたら、もっと大分多いと思うけどね」
「武装局員の数に比べて腕のいい教導官が少なすぎなんだよね」
「だぁから、武装局のガキ共が今一強くならないんだ!」
「うん」
「休憩かな? 折角見に来たのに……」
「まぁ、この4人はアレでしょう。見るよりヤリたいだろうからちょうどいいよ」
「なぁ?」

 なのは達のバトルを見て自信をなくした局員が居たとか……。
 特にすずかの次元違いの強さに恐怖した局員が多数居たらしい。
 すずかにとっては、慣らし運転のつもりだったようだ。
 だが、トランジッションモードは起動させていない。



「えぇっと、クロノくんも武装局員のメニューでトレーニングしたんですかぁ?」
「ノンノンッ! クロ助の時は、私とアリアがみっちりくっついて、それぞれの科目で個人授業!」
 夜の授業のことは語らないリーゼたち。
「あのこが5歳の時から教えていたけど、アレは、なかなか教えがいのある生徒だった」
「はぁ」
「こんな事を言うのはなんだけど、クロノはそんなに才能がある子じゃなかったからね」
「そうなんですか?」
「まぁね。魔力量は両親譲りでそこそこある方だったけど、魔力の遠隔操作は苦手だわ、出力制御はてんで出来ないわ、フィジカルはヨワヨワだわ……」
「想像できない!」
「同じく」
「あの子は、ガンコ者だったからね」
「覚えが悪かったけど、一度覚えたことは絶対に忘れないし」
「バカみたいに一途だからさ、一つのことを永遠と練習し続けても文句を言わずについてきた」
「それは、なんとなく想像できます」
「うん」
「滅多に笑わない子だったけどね」
「それがちょっと寂しかったけ?」
「士官学校でエイミィと出合って仲良くなってからかな? よく笑うようになったのは……」
「うん。あの子のおかげは大きいね」
「今じゃ、局内でわりと有名だもんね。ハラオウン執務官とリミエッタ執務官補佐の名コンビは……」
「へぇ〜」
「なんとなく判ります」
「迷コンビじゃないの?」
 迷コンビと言うアリシア。
「あっ、そう言えばフェイト!」
「はい」
「フェイトはやっぱり、アレ? 正式に局入りするの?」
「えっと、まだその辺りはちゃんと決めてなくて」
「9歳で使い魔持ちのAAAクラスの魔導師って言ったら局でも民間でもどこでも選びたい放題だから、急いで決めることはないからね」
「色々と考えてます」
「アリシアもフェイトと同じAAAの使い魔持ちだったよね?」
「はい」
「なのはの方は、どうだ?」
「えっと、私は管理外世界の住人ですし、管理局の仕事も実は良く把握していなくて……」
「私も漠然としか」
「私も……」
「漠然と? どんな風に?」
「んっと……」
「次元世界を纏めて管理する警察と裁判所が一緒になったようなところ?」
「あとは、各世界の文化管理とか、災害救助とか……」
「あぁぁぁっ! そんだけ判ってたら上等上等っ!!」 
「他に細かい仕事は色々あるけど、大筋はそこだから」
「なるほど」
「フェイトとアリシアは、父様やクロノみたいに執務官か、そうでなきゃ指揮官向きだね。精神的にも能力的にもクロノとタイプ近いし」
「「そうですか?」」
「うん。能力的には実の兄妹と言っても問題ナッシングだぁ」
「「ありがとうございます」」
「うれしです」
 嬉しいと言うフェイト。
「ただし! 執務官になるとしたら半年に一度しかない執務官試験はむづかしいぞぉ? クロノだって一回落ちているんだから」
「「「「えぇぇぇっ!?」」」」
「筆記も実技もそれぞれ合格率15%以下だからねぇ」
「責任重大だし、指揮官能力と個人スキル両方必要だし」
「「……………………」」
「大変だぁ」
「フェイトとアリシアは、アレだよ。捜査官っう手もあるぞ!?」
「う〜ん……なんか、似合いそうで似合わない。捜査官は、どっちかと言うと腕っ節の体育会系なイメージが……」
「インテリ形も居るけどな……って言うか」
「でも、フェイトちゃんとアリシアちゃんは、執務官似合いそうだね?」
「「そうかな?」」
「目指すとしたら、色々大変そうだけど……なのはは、局の仕事をするとしたら何を……」
「「武装局員!」」
「ふぇぇぇえぇぇぇっ!!」
「うん」
「データ見る限りでは、それ以外にありえない。戦闘派手だし」
「……………………」
「よかったなぁ。なのは、将来が決まったぞ!?」
「喜んでいいんでしょうか?」
「まぁ、その辺の冗談はさて置いても武装隊入りは悪くないと思うよ」
「はぁ……」
「君のスキルを考えたら、多分候補生から入って士官直行コースだろうし……ニ年位で中隊長になって、その間に教官訓練受けて、4〜5年後には教導隊入り…… なんってコースも夢じゃないかもね」
「……………………」
「すずかは、局に入るの?」
「私?」
「すずかねぇ……」
「資料見たけど、戦闘力高いね」
「高いを通り越して高すぎ! 更に、複数の使い魔まで持っている。その使い魔もの内ニ体はSSSクラス……」
「えっ?」
「使い魔って『吸血猫軍団』だけじゃないの?」
「うん」
 すずかの使い魔は、『吸血猫軍団』だけじゃないようだ。
「このカードの守護者なの」
「何!? このカード……」
「私の家にあったの。本かなと思って手に取ったら、本から……」
 すずかの後ろに人型と獣が現れる。
「お呼びですか? 主!」
「このこ達が出てきたの。私、このこ達の主になったみたいなの」
「我等のの主は、すずかだ!」
「誰がなにを言おうと変わることはない」
「カードに名前をちゃんとかかれましたか?」
「書いたよ」
 カードに名前を書いたのを見せるすずか。
「このカードって誰でも使えるの?」
「魔力を持つ者なら誰でも使える。だが、並みの魔術師では我等とカードの両方を維持することは出来ない」
「幸い、我等の主は申し分のない魔力を持っている」
「ちゃんと説明してよ、すずかちゃん」
「紹介するね。長い銀髪の人がレッド・ムーン。金色の獣がケルヴェロス」
 使い魔を紹介するすずか。
「そのカードって、誰が創ったの?」
 聞くなのは。
「我等とカードを創ったのは『クロウ・リード』だ」
「元は、クロウカードだったが今はもう『すずかカード』だ」 
 すずかは、すでにカードを造り替えていたようだ。
「すずかとの差がますます開いていく」
「うん」


「りゃぁっ、凄いな!」
「武装隊、執務官なんでも選びたい放題だよ」
「どうしよう……」
「すずかは、私と一緒に執務官になるの」
「武装隊だよ」
「執務官!」
「武装隊!」
 なのはとアリシアがすずかの取り合いをする。
「これは、争奪戦が起きるかも……」
 すずか争奪戦の勃発を危惧するアリア。
「なのはちゃん達、ここに居たんだ」
「さつきさんも来たんですか?」
「ちょっとね……」
「ちょっとって……?」
「あぁ、それね。正式なランクを測ろうと思って来てもらったんだけど……ね」
「ねぇ」
「あまりにも強すぎて計測できなかったんですか」
「うん。私達が見た感じでもSSSを軽く上回っていたわね」
「一体何者なの? 軽くSSSランクをオーバーしてるって……」
「私ですか?」
「そう!」
「教えてくれない?」
「教えても言いですけ、誰にも言いませんか?」
「うん。誰にも言わない」
「だから教えてくれない?」
 教えようか迷うさつき。
「誰に言わないから、教えてよ」
「私……」
 リーゼ達の耳元で囁くさつき。
 さつきの言葉を聞いたリーゼ達は、納得した。
「なるほど、吸血鬼の真祖かぁ」
「計測できなくて当然か」
「確か、なのはたちも吸血鬼だっけ?」
「一応は……」
「すずかちゃんも真祖……それも王族だとか……」
「王族って、なのはちゃんの世界の?」
「はい」
「吸血鬼って言うぐらいだから、表の世界じゃないよね」
 すずかは、『夜の一族』の王族だ。
「若しかして、戦闘訓練の相手居ないんじゃ……」
「はい。いません」
「誰が、すずかの相手をしているわけ?」
「さつきさんです」
「相手になるの?」
 リーゼ達は知らない。
 さつきとすずかの戦闘は次元違いのものなのだ。
 武装局員でも恐怖する激しさだ。
 手加減なしの本気の腹パンチまである。
 さつきとすずかの戦闘映像を見たリーゼ達は、武装局のガキには見せられないと判断したぐらいだ。
 二人が死なないのは、吸血鬼の真祖だからだった。
 普通の人間だったら胴体が上下に『さよなら』している。
「貴女達、お腹を本気で殴りあって……内臓破裂したんじゃないのか?」
 さつきもすずかも実際に何度も内臓が破裂し血を吐いている。
 それでも死ななかったのはずば抜けた再生ができるだけの魔力があるからだ。
 それ以外にも二人が真祖だったのも幸いしていた。

 リーゼ達は、後ろを向いてコソコソ話し合う。
「これは、何がなんでも勧誘しなくては……」
「もう、武装隊でしょう?」
「でも、武装隊のガキが自信をなくして大量に辞められても困るし」
 さつきとすずかの配置予想に迷うリーゼ達。
「二人は、『武装執務官』かな!?」
「うん。戦闘力は問題ないし、執務官試験に受かれば『武装執務官』でやっていけるよ」
「あの、『武装執務官』って……」
 なのはが、聞く。
「あぁ。簡単に言うと強力な武装をした執務官ってことさ」
「実際に『武装執務官』として働いている局員は居ないけど……」
 まだ『武装執務官』として働いている局員は居ないようだ。
 この数年後、さつきとすずかは、『武装執務官』として活躍することになる。
 そして、犯罪者からは『黄金の眼の最凶の悪魔』と恐れられるのだ。
 後の『白い悪魔』と『双金の死神』以上に畏怖されることになる。




「あっ、知った顔発見! おぉ〜い!!」
「ちょっとここで待ってて。奥のほうの見学許可貰ってくるから」
「「「「はぁい♪」」」」

「はぁ、管理局もいろいろだね?」
「本当だね」
「でも、フェイトちゃんとアリシアちゃんは執務官が似合いそうかな?」
「「ありがとう」」
「でも、私は如何なのかな?」
「如何……って?」
「将来のこと、なんだかあまり考えられてなくって……」
「私も……」
「今は、いろいろ忙しいしね」
「うん」
「吸血鬼事件のこともあるし」
 さつきとすずかは、吸血鬼事件を担当している。
 配置換えでアリシアも吸血鬼事件の担当となっている。
「でも、一つだけいい?」
「……………………」
「武装隊が、なのはにとって良いか如何か判らないけど……なのはは、自分の道を究めるのも、誰かに何かを教えたり導いてあげたりするお仕事もきっとどっちも似合うと思うよ」
「うん…………。そうかな?」
「うん! きっと……」
「……今は、まだ教えられてばっかりだし、そんな風になれるのは何時になるのか良くわからないけど……」
「それは、私も……。私も将来のことなんて全然判らないよ」
「……………………」
「いろんな事をしながら、いろんな事と真っ直ぐ向き合いながら考えていこう」
「そうだね」
「うん」
「フェイトちゃんと一緒なら、ちゃんと考えられる気がする」
「私は、なのはが一緒だから……」
「私は、すずかが一緒だから……」
「一緒だからだね」
「うん」

「はぁい! 四人ともカモ〜ン!!」
「見学できるよ!」
「「「「はぁい♪」」」」


 次回予告

 はやて「病院で検査を受けるうち」
 はやて「夢の中で出会う女性……」 
 ???「主……我が主」
 はやて「うちのことを呼ぶのは誰?」
 はやて「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第37話『いまは遠き夜天の光(中編)』」
 はやて「ドライブ・イグニッション!」


すずかにまたしても新たな力が。
美姫 「さつきも居る事を考えたら、闇の書事件に関しては問題ないような気もしてきたわ」
まあ、二人は主に吸血鬼を追っているからな。
美姫 「どうなるかは分からないわね」
それではこの辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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