第46話「スタンバイ・レディ」






 
「やはり、破損は致命的な部分まで至っていた。防御プログラムは停止したが歪められた基礎構造はそのままだ」
 はやては、ベットで眠っている。
「私は、夜天の魔導書本体は、遠からず新たな防衛プログラムを生成し、また暴走を開始するだろう……」
「やはりか」
「修復は出来ないの?」
「無理だ! 官制プログラムである私の中からも夜天の書本来の姿は消されてしまっている」
「元の姿が分からなければ戻しようがないというわけか」
「そう言うことだ! 主はやては、大丈夫なのか?」
「何も問題ない。私からの侵食も完全に止まっているしリンカー・コアも正常作動している。不自由な足も時を置けば自然に完治するだろう……」
「そう。じゃあ、それならまぁ良しとしましょうか」
「あぁ、心残りではあるが」
「防御プログラムがない今、夜天の書の完全破壊は簡単だ! 破壊してしまえば暴走することは二度とない。変わりに私らも消滅するけど……」
「すまないな、ヴィータ」
「なん謝るんだよ。いいよ、別に! こうなる可能性がある位、皆知ってたじゃんか」
「いいや違う」
「「「「!?」」」」
「お前達は、残る。逝くのは私だけだ!!」
「いいえ。誰も逝きません」
 聞いたことのない女性の声。
「誰だ!?」
「私ですか? 私は『創世の書』の管制者、アンゼロットです」
 現れた女性は『創世の書』の管制者だった。
「『創世の書』の管制者が何のようだ!」
「そんな事を言っていいのですか? 折角壊れた『夜天の書』を直して差し上げようというのにそんな事を言っていいのですか?」
「本当に直るのか?」
 直るのかと聞くヴィータ。
「これから私のする質問に『はい』か『イエス』でお答えください」
「おいっ。拒否権はあるのか?」
「あると思っていたのですか?」
 拒否権はないようだ。
「では、質問です。『夜天の書』を直して欲しいですか? 『はい』か『イエス』でお返事を……」
 返事を待つアンゼロット。
「確認するが、本当に直せるのか?」
「私は全ての魔道書の原典、『創世の書』です。修復方法はマイスターが見つけてくれました」
「直せるんなら直してくれ!!」
 直してくれというヴィータ。
「他の方はどうなのですか?」
「直るのなら直してくれ」
「私も……」
「我もだ」
 ヴォルケンリッターたちは、修復を望む。



「『夜天の書』の破壊?」
「どうして? 防御プログラムは、もう破壊したはずじゃ」
「『闇の書』……『夜天の書』の管制プログラムからの進言だ!」
「管制プログラムって、なのはたちが戦っていた!?」
「あぁ」
「防御プログラムは無事破壊できたけど、『夜天の書』本体は直ぐにプログラムを再生しちゃうんだって」
「……………………」
「今度は、はやてちゃんも侵食される可能性が高い。『夜天の書』が存在する限りどうしても危険が消えないんだ」
「だから『闇の書』は、防御プログラムが消えている今のうちに自らを破壊するよう申し出た」
「そんなぁ」
「それじゃシグナム達も」
 フェイトが立ち上がる。

「いや、私たちは残る」
「シグナム!?」
「防御プログラムと共に我々守護騎士プログラムも本体から解放したそうだ」
「それで、話はまとまった?」
 検査を受けていたプレシアが聞く。
「プレシア・テスタロッサ……!!」
「そう、身構えなくてもいいわ」
 何もするつもりがないプレシア。
「折角、修復方法と機会がそろっているのに、みすみす手放すの?」
 すずかが聞く。
 大破した美姫ブリュンヒルトを修理に出してきたようだ。
「『創世の書』」
 すずかの手に『創世の書』が現れる。
「それは?」
「聞いたことがない? すべての魔導書の原典を……」
「全ての魔導書の原典?」
「この『創世の書』の基本構造を複写すれば治せるよ」
 すずかがプレシアの方を見る。
「私なら治せるわ」
「犯罪者が何を言う!?」
 クロノは、プレシアを犯罪者呼ばわりする。
「マイスター、『夜天の書』の修復依頼されました」
「ご苦労様、アンゼロット」
「じゃあ、早速作業に取り掛かりましょう……。防衛プログラムが再生される前に作業を完了させたいから……」
 『夜天の書』の修復作業に入るプレシア。



「そう……今日はゆっくり休みなさい。私も明日には帰るから」
 リンディは、電話を切る。
「フェイトちゃんから!?」
「うん。プレシア女史が魔導書の修復作業に入ったって」
「そう」
 廊下を話しながら歩く。
「プレシア女史って、例の事件で逮捕したけど病死したはずよね?」
「逮捕して、検査している最中にね」
「死んだ人が生き返らないのは貴女も知っているわよね」
「えぇ」
「その時、アリシアちゃん生き返っただったわよね?」
「さつきさんとすずかさんが……」
「彼女たち、何者なの? 正確な数値が計れないなんて」
「吸血鬼なんだって」
「吸血鬼!? あのお伽噺に出てくる」
「そう。彼女たちは普通の吸血鬼じゃないの」
「普通じゃない?」
「吸血鬼の王族って言えばわかる? 簡単に言うと真祖と呼ばれる吸血鬼らしいの」
「その二人、私にくれない?」
「ダメ。見つけたのは私なんだから……でも、局入りしたら醜い争奪戦は避けられないかもしれないわ」
 醜い争奪戦を危惧するリンディ。
 リンディが第97管理外世界で発掘した人材は、後に花の66年組……66年マフィアと呼ばれることになる。
「それで、『夜天の書』の修復は、どのくらいかかるの?」
「分からないわ。『創世の書』を壊さないように『夜天の書』を治さないといけないから……」
「でも、よくあったわね。すべての魔導書の原典が……」
「月村さんの家にあったんですって」
「あの世界……ジュエルシード、『闇の書』、『創世の書』、さらには異世界の吸血鬼と魔法絡みの出来事が絶えないわね。この感じだとまた起こるんじゃない?」
「そうなのよね。管理外世界だから局員を常駐させるわけにもいかないし」
「リンディ。貴女、向こうで暮らすんでしょ? フェイトちゃんとアリシアちゃんを学校に通わせるために……」
「うん。プレシア女史も一緒に暮らすかしら?」
 リンディは、プレシアも向こうに住まわすようだ。
「プレシアの戸籍、末梢さているんでしょ。親権はどうするの?」
「わたしが、二人とも面倒を見るわ。それぐらいの経済力はあるから」


 リンディとレティは、エレベーターに乗り込む。
「グレアム提督の件は提督の辞職って事で手打ちみたいよ。故郷に帰るそうよ」
「まぁ具体的なのはクラッキングと捜査妨害ぐらいだし、それくらいだよね。はやてさんのことはどうなるのかしら?」
 はやてのことを気にするリンディ。
「今までどおりに援助を続けるって……。あの子が一人で羽ばたける年になったら真実を告げることになるだろうって」
「そう」
「貴女も、これでご主人への報告に行けるよね? いつ行くの?」
「来週。クロノとフェイトさんとアリシアさんと4人で」
「なんて報告する予定? フェイトちゃんとアリシアちゃんの母親、生き返ったのよね?」
「そうね。多分いつもと同じよ。相変わらずの慌ただしい日々だけど元気にやっていますよって」
「そっか」



「事件、終了かな?」
「うん」
 なのは、フェイト、アリシアは雪の夜道を歩いている。
「でも、うれしいかな?」
 なのはの手を握るフェイト。
「嬉しい?」
「リインフォースさんが消えずにすんだこと」
 リイーンフォースが消えずにすんだことが嬉しいようだ。
「はやてちゃん。喜ぶかな? リインフォースさんが消えずに済んだこと」
「きっと喜ぶよ」
「うん」
「すずか、デバイス壊れたけど如何するのかな?」
「修理に出していたけど、直るのかな?」
 フェイトに聞くなのは?
「シリンダーとか派手に壊れたから……」
「うん。すずかちゃん、魔力が大きすぎるもんね」
「巨大魔力にカートリッジの魔力一斉開放だから」
 すずかのデバイスの心配をするなのは、フェイト、アリシア。
「フェイトちゃんは、今後如何するの?」
「私、局の仕事続けようと思うんだ。執務官になりたいから……」
 執務官になりたいと言うフェイト。
「フェイトが執務官になるのなら私も執務官になろうかな?」
 アリシアも執務官になりたいらしい。
「なのはは!?」
「ん?」
「なのはは、何か考えている? これからのこと」
「私は、執務官は無理だろうけど、方向はフェイトちゃんとアリシアちゃんと一緒」
 なのはも局入りの方向のようだ。
「ちゃんと使いたいんだ。自分の魔法……」

 傘を差したユーノがアルフとリニスをつれてやってくる。
 フェイトとアリシアは、ユーノからアルフとリニスを受け取るとマンションに入っていった。

「ユーノくん、折角戻ってきてくれたのに殆ど一緒に居られなかったね」
「あはははっ。ずっと調べ物だったからね」
「ユーノ君、この後は?」
「うん。局の人から無限書庫の司書をしないかって誘われているんだ! 本局に寮も用意してもらえるみたいだし、発掘も続けて良いって話だから……決めちゃおうかなって」
「本局だとミッドチルダより近いから、私は嬉しいかな!?」
「本当?」
「うん!!」


「じゃあ、僕はここで……」
「!?」
「仕事が決まるまでアースラに居て良いって話だから」
「そうなんだぁ」
「うん」
「ユーノくん。年末とかお正月とか時間あるようなら一緒に居ようね」
 年末年始を誘うなのは。
「話したいこと、たぁくさんあるから……」
「うん」
「うふ」


 明日、一寸時間あるかな?
 はやてちゃんのお見舞いに行って、それからうちでクリスマス会をしようと思います。
 フェイトちゃんとアリシアちゃんも誘っています。
 来てくれると嬉しいな。


 メールを見たなのは。


「はやて、病院に戻ったんだ」
「そう言えば、入院中に抜け出しちゃったんだもんね」
 なのはとフェイトとアリシアは、バスではやてのお見舞いに向かう。

「「「おはようございます」」」
「あっ、おはよう。なのはちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃん」
「あれ? 如何したの」
「もう、退院?」
 シグナムに抱きかかえられるはやて。
「もう暫くは、入院患者さんなんよ」
「そうなんだ……」
「まぁ、もうすっかり元気やし、すずかちゃんたちのお見舞いはお断りしたよ。クリスマス会直行や!」
 クリスマス会直行というはやて。
「そう」
「昨日は色々あったけど、最初から最後までほんまありがとう」
「うぅ〜んん」
「気にしないで」
「今回のことで、私とシグナムたちは管理局から保護観察受けることになった……」
「そうなの?」
「まぁな」
「管理局任務への従事という形での罪の償いも含んでいます」
「クロノ執務官がそう取り計らってくれた。その当の本人はリンディ提督にキツイお灸を据えられていたがな」
「任期は結構長いのですが、はやてちゃんとはなれずに居られる唯一の方法だって……」
「そうですか」
「それにすずかちゃんのおかげでリインフォースも消えずに済みましたし」
「『夜天の書』直るんですか?」
「年内には直るってプレシアって言う女が言ってた」
「こら、ヴィータ! 直してくる人を呼び捨てにするな」
「リインフォースさんもですか?」
「『夜天の書』が直れば、私も従事することになるだろう」
 リインフォースも従事する予定だしい。
「私は嘱託扱いやから、なのはちゃんたちの後輩やね」
「「「うふ」」」


「はやてちゃん!? 今日は、ちゃんと帰ってきてね」
 アップで言う石田医師。
「約束よ?」
「はい。約束です」
 はやてが、石田医師と約束する。
「夕べとか、今朝凄く大変だった?」
「あぁ。無断外泊だったから、シグナムとシャマルがめちゃくちゃ怒られてた」
「怖い先生なんだ」
「でも……いい先生だ」
「そうみたいだね」

「気をつけてね」
「はぁい」
 シャマルがはやての車椅子を押す。
「お待たせ」
「うぅんん」
 フェイトとアリシアは、シグナムを見る。
「テスタロッサ姉妹!」
「「はい!」」
「シグナム」
「預けた勝負、いずれ決着をつけるとしよう……」
「はい! 正々堂々……これから何度でも」
「二対一ではなく一対一で……」
 フェイトとアリシアの頭を撫でるシグナム。


「ふぁ〜ぁ。おはよう」
 眠い眼を擦る美由紀。
「早いことあるか! もう、昼過ぎだぞ」
「うん……」
 ソファーに座り込む。
「……!? 何見ているの?」
「なのはからの手紙」
「何々……」
 なのはからの手紙を見る。

「お父さんとお母さん、お兄ちゃんとお姉ちゃんへ。今夜ちょっと大事なお話しがあります。デンディさんとフェイトちゃんとアリシアちゃん、すずかちゃんと忍さん、アリサちゃんとさつきさんと一緒に来てくれるので晩御飯の前にお話しを聞いてください。なのは」
 手紙を見た美由紀。
「恭ちゃん良かったね。忍さんも来るって」
「忍、昨日途中で抜けてたからな……」
「大事なお話し? なんだろうね。大事なお話しって」
「そうだなぁ……たぶん、将来の話とかじゃないか」


「なのはとフェイトとアリシア、もう直ぐはやてと一緒に到着だって」
 月村家には馬鹿でかいクリスマスツリーが飾ってある。
「クリスマス会の後は、なのはちゃんの家で秘密の暴露だね」
 
 はやて達が到着後クリスマス会が開かれた。
 飲めや魔法談義で盛り上がったらしい。


「そうか……キミも本局勤めか」
 クロノとユーノが話しながら歩いている。
「うん。なのはも嘱託を続けるそうだし……なんだか皆、局勤めになっちゃったな」
「頼もしい限りだよ。なのはには、戦技教官をしないかって話も出ている」
「ふ〜ん」
「キミの司書としての活躍もちょっぴりだが期待している」
 クロノは、扱き使うつもりのようだ。
「それは、どうもありがとう……」
 作り笑顔をする。
「すずかちゃんたちは?」
「彼女達も局の仕事に興味を示している。それに、戦技教官、執務官、特別捜査官など話が出ている」
「ランクがランクだからね」
 欲しがっている職場が多数あるようだ。
「クロノ、死に掛けたもんね」
「人の傷を突くなフェレット!!」
「そういえば、O・HA・NA・SHはどうなったの?」
 クロノには、悪夢のO・HA・NA・SHが待っているのだった。
「逃げようかな……」



「いや。実際、この姿だと外に出るにも物騒じゃないし燃費も良いから快適で便利だぞ」
「そうなのか?」
 確認するザフィーラ。



 クリスマス会の後、なのは、フェイト、アリシア、すずか、アリサ、さつき、忍はリンディと合流し高町家で秘密の暴露が行われた。
 つまり魔法のことだ。





 こうして『闇の書』事件は全て終わりました。









「いよいよ、月村の財産を手に入れる機会が巡ってきたで」
 月村家の財産を狙うなぞの男。
「今度の一族会議で追放に追い込んでやるで! わてらが押すお人が後継者に指名されるよう工作のほう頼みますせ、氷村はん」
「わかっている。あの女どもに復習せんと気がすまん!」
「そうでないと、脱獄させた意味がありまへんからな」


 『闇の書』事件終了もつかの間、月村家に新たな危機が迫っていた。


 次回予告

 なのは「『闇の書』事件が終結して一休みの私達」
 フェイト「平穏な年末を打ち破る一通の書簡」
 アリシア「その書簡がもたらすものとは?」
 なのは「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第47話「一族会議への招待状」」
 なのは、フェイト、アリシア「ドライブ・イグニッション!!」


どうにか闇の書事件は終了みたいだな。
美姫 「みたいね。とは言え、月村絡みで何か起こるみたいだけれど」
さてさて、どうなるのかな。
美姫 「それではこの辺で
ではでは。



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