第50話「混迷する一族会議」






 
 12月30日 AM9:00
 海鳴市
「すずか、家に居ないみたいだけど……」
「すずかちゃん、親戚一同がドイツに集まるって言ってたよ」
「ドイツに?」
「年明け3日には戻るって」
「そうなんだ」
「すずかと模擬戦したい」
「アリシアちゃんは、相変わらずすずかちゃんLOVEだね」
 アリシアは、相変わらずのようだ。
「私だけいけないというの? なのはだってフィイトLOVEじゃない。毎日二人でベタベタして」
 事件後もなのはとフェイトは、毎日ベタベタしていた。



 同日 AM10:00
 時空管理局本局
「今日で仕事納めだ! 溜まった仕事を少しでも減らさないと……」
 サナダの仕事はまだまだ山のように残っている。
 減らせど新しい仕事が舞い込んでくる。
 その最たるものが『夜天の書』と『美姫ブリュンヒルト』の修理と改造だった。
 『夜天の書』の修復は終わったけど『美姫ブリュンヒルト』の修理が残っているのだ。
「来年の早い時期までに修理と改造を終えないと……」
 サナダは手を動かす。
 超高出力にも耐えられる基盤の開発に力を注ぐ。
 出力制御部品も美姫ブリュンヒルトに合う超高出力に耐えられる部品の開発が必要なのだ。
 AIを除く部品すべてが新規開発したものに取り換えられるのだ。
 それに合わせてフレームなどの強化もされる。
 後に明らかになるのだが、一連の作業に掛かった費用は普通の汎用デバイス数千万本分にのぼるらしい。



 同日 AM9:00
 ドイツ
「昨日は、新しい部族長を決めたが今日は新しい一族の指導者を決める」
 いよいよ会議の本番が始まる。
「では、候補者の推薦を許す」
 手を挙げる。
「わては、ヒルデスハイム家のマルガレータ嬢を推しまっせ」
「わしもマルガレータを推す」
「わしもだ!!」
「私も」
「最早、推薦する必要もないであろう。女王は妾で決まりじゃ」
 既に決定と言うマルガレータ。
「いや。決定ではない」
「何故じゃ!! 何故、妾に決まらぬ」
「昨夜、ホームズ氏と相談したんじゃが、投票権を全員に与えようと思う」
「全員に投票権を与えなくてもいいではないか! それ以前にマルガレータ嬢に決まっているではないか」
「そうだ! 投票をする意味を認めず」

「くくっくっくっ。後一寸や! 後一寸でわての悲願がかなう」
 安二郎のつぶやきをホームズは聞き逃さなかった。
「票を買収したかいがありましたわ」
「一寸お尋ねします。票を如何したのかお聞かせ頂けますか?」
「何もしてまへん」
「聞き間違いでなければ、票を買収したと聞こえましたが」
 問い詰めるホームズ。
「どうなんじゃ? 安二郎!」
「わては、何もしてまへんって」
「真偽を確認するため一時休会する」
 急きょ安二郎の聴取をすることになった。


「さて、詳しく聞かせてくれるかな? 安二郎くん」
「何のことかわて、わかりまへん」
 しらをきる安二郎。
「資金の流れを調べれば直ぐにわかりますよ」
 ホームズは、名探偵なのだ。
「それから、モリアーティ教授を焚き付けて月村家を襲わせたのも貴方ですね」
「わてそんな奴知りまへん」
「しらを切っても無駄です。既に裏付けは取れています」
 安二郎包囲陣はホームズにより敷かれている。
 不用意な言動が命取りとなるのだ。


 こいつ、わてが犯人やとわかっているんやろうか?
 何も知らんで時間を稼ぎまひょう。


「時間稼ぎをしようとしても無駄ですよ。私が何もせずにいたと思いますか?」
 ホームズは、独自の調査で大方事件の根幹を抑えていた。
「一族の長老達を殺害したのは貴方ですね。そしてその罪を無実の月村姉妹に着せようとした」
「わて、今、初めて知りましたわ」
 ここでも知らないふりをする。
「安二郎くん、既にわかっているんだよ」
 既にわかっているというエルフリード。
「君が色々と汚いことをしているということも……」
「わては、汚いことなどしてまへん」
「残念じゃがホームズくんは真相を突き止めておる。これ以上、名を貶める事はやめるんじゃ」
「名を貶めたのは月村姉妹や! わては、阻止したんやで!?」
「貴方が持っていた起爆スイッチで爆破されたことは明らかです」
「君の悪事を一族の前で公表する。念のために自由を奪わせていただく」



 PM8:00
 海鳴市
「フェイトちゃん、リンディさんは?」
「リンディ提督とクロノ、今日中には帰って来るって」
「そっか。賑やかな年末だね」
「うん。今年はアリシア姉さんとリニスも居るから」
「それにアースラスタッフも居るよね」
「今年の年末は大宴会だ」
 大宴会だというアルフ。
「肉! 肉出るかな」
「アルフ! 肉ばかりは体に悪いですよ」
「わたしは、狼だからいいの」
 そう言って骨付き肉を食べるアルフ。
「リニス!? アルフを苛めちゃだめ!!」
「しかし、アリシア……」
「一度消えた貴女の魂を見つけて蘇らせてあげたの誰!?」
 アリシアには逆らえないリニス。
「アルフ、好きなだけ肉を食べていいよ」
「いいの!?」
「どうせ、クロノのポケットからだから」
「じゃあ、遠慮なく」
 肉にかぶりつく。
 哀れクロノ。
 今年は肉体的にも懐が痛い年となった。
「ただいま……」
 噂の当人が帰ってきた。
「今年は、いつもの年以上に疲れた」
「クロノ、お疲れさま」
「クロノくん、お邪魔しています」
「あぁ、なのはか……」
「クロノ、休暇もらえたの?」
「一週間ほどな」
「クロノくん、今年ほど死に掛けた年はないよね」
「エイミィ!!」
「エイミィさん、こんばんは」
「おっ、なのはちゃん! 待った!?」
「いいえ」
「無視するな!!」
 吠えるクロノ
「はいはい。来年は今年みたいに何度も死に掛けないでね」
 この年、クロノは何度も死に掛けた。
 その数、数え切れず。
「なのはちゃん。リンディ艦長から夕食の誘い聞いているでしょ」
「はい」
「艦長、もう少ししたら帰ってくるからね。あっ勿論クロノくんのおごりだからお腹一杯食べてね」
「エイミィ! 僕が奢るなんて聞いてないぞ」
「クロノくん、お金出すのとO・HA・NA・SHされるのとどっちがいい!?」
「O・HA・NA・SHだけは勘弁してくれ! 命が幾つあっても足りない」


 同日 PM1:00
 ドイツ
「では、会議を再開する」
 昼食をはさんで会議が再開される。
「マルガレータ以外に推薦はないか!?」
「わたしは、すずかを推薦するわ」
 すずかを推すエリザベート。
「マルガレータとすずか以外に推薦はないか!? ないのであれば締め切るぞ」
 締め切りまでの猶予を与える。
「他に居ないようなので、この二名による後継者指名選挙を行う」
「監視員は、私ホームズが務めさせていただきます。推薦者は、既に投票したものとみなします」
 安二郎とエリザベートには、投票権がないようだ。
「ご両者には投票に立ち会っていただきます」
「何故、わてが立ち会わねばならないんや」
「規則を知らないの?」
「規則ってなんや!?」
「事前に案内状と共に配られなかった!?」
「わての案内状には入ってへんかったで」
「私の所にはちゃんと入っていたわよ」
 安二郎の所には規則が入っていなかったようだ。
「それに昨日も説明したはずじゃぞ」
「わて、聞いてまへんで」
「そうじゃろう……。お前さん、まったく聞いておらんかったからな」
 その時、安二郎は自分の世界に入っていて聞いていなかった。

「と、言う訳で君には投票権がない」
 話を進めるエルフリード。
「わてが、推す人が負けては困るんや……イレイン!」
 イレインを呼ぶ安二郎。
「禁断の自動人形……」
「わての言うとおりにしないと死んでもらいますっせ」
 安二郎が呼んだイレインの数500体余り……。
 一人につき2体のイレインがつく計算だ。
 安二郎は、イレインで参加者の命を盾に脅迫する。
「一人でも裏切れば、議長の命はありまへん。全員がマルガレータ嬢に入れたら解放してあげまっせ!!」
「投票したら解放するんだな?」
「わては、嘘は言いまへん。約束は守りまっせ」
 静かに投票が始まる。
 投票中もイレインの監視がつく。
 そして最後に安二郎のチェックまで入る。
「指示とは違う名前です」
「至急訂正しなさい」
 書き間違えるとイレインが修正をしろと言ってくるのだ。
 イレイン怖さに安二郎の言いなりになるしかい。
 それが唯一助かる方法だったのだから……。
 一人ずつ投票するから時間がかかる。



 PM6:00
「お嬢様、結果が出ました」
「して、どうじゃった!?」
「はい。万票でお嬢様が次期女王に決定しました」
「さっきまで騒がしかったが何かあったのか?」
「安二郎殿がイレインを持ち出して投票者を脅したようです」
「あの者の助け等なくとも妾の仁徳で票は集められる」
「しかし……」
「あのホームズが居たのならこの票数は異常じゃ! 安二郎が一族の者たちを脅して妾に入れさせたに違いあるまい」
「お嬢様! どちらへ!?」
「あの者を問いただしてまいる」
 安二郎を問いただしに行くマルガレータ。
 しかし、それを阻むものが現れる。
「此処からお出しするわけにはいきません」
「そこをどけ!!」
「いいえできません」
「後継者に選ばれた妾の命令も聞けぬと言うのか!?」
「マスターの命令が無い限りできません」
「明日の式典までこのまま大人しくしていてください」
「人形風情が妾に指図するな!!」
「大人しくしていてくれまへんか?」
「これは、お前の仕業か!?」
「貴女に、月村姉妹を追放してもらわんとわてがこまるんです」
 自らの犯行を暴露する安二郎。
「そこの人形どもを退かせろ!! 妾は議長に話がある」
「ここで、大人しくしてくれまへんと、痛い目におうて貰いまっせ」
「大人しくするのは貴方ですよ」
「!? ホームズ、貴様たちは処刑まで閉じ込めておいたはずや」
 安二郎は、ホームズたちを監禁していたようだ。
「あの程度で私たちを閉じ込めることは出来ないよ」
「イレインは、何をしていたんや」
 どうやって出て来たのかすらわからない安二郎。
「お前は、一族でも血が薄いから気付いておらんだろう……」
「イレインは、わての命令に従ってまっせ」
 イレインが自分に従っていると思い込んでいる。
「イレイン! その小娘を血祭りに上げろ!!」
「出来ません」
「マスターに逆らうのか!?」
「もう、貴方はマスターではありません」
「何言ってまんねん。マスターはわいやで」
「くすくすっ」
「何がおかしいんや!!」
「500体のイレインから逃げ切れる?」
「逃げ切れる!?」
「ピーピッ! ターゲット発見!! 拘束シマス」
「一寸待ってや」
 安二郎とイレインの鬼ごっこが始まる。
「ターゲット逃走!!」




「一体何時まで俺たちを閉じ込めておく気だ!!」
 だが、返事はない。
 一人の男が席を立ってドアを開けて外を見る。
「おいっ!! 見張りのイレインが居ないぞ」
 部屋の外には、見張りのイレインが居なかった。
 いつの間にか、何処かへ行ったようだ。
「さて、安二郎君が居らん今の内に協議をするとしよう」
 安二郎が居ない隙に協議をするようだ。
「今日の投票は無効にしようと思うがどうかな?」
「だが、確定したものを無効には……」
「妾は、投票のやり直しを要求する」
「折角、後継者に決まったのを手放すというのか!?」
「穢れた票で選ばれては喜べぬ」
「安二郎君は?」
「今頃、イレインに囲まれておるじゃろう」



「わて、トイレにいきたいんやけど……」
「ダメです」
「マスターの命令で行かせる事は出来ません」
 安二郎は、イレインに取り囲まれていた。
 逃げ切れずに捕らえられたようだ。



「今日の投票は無効で宜しいかな?」
 異議は無いようだ。
「本日の投票は無効とし、明日改めて投票する」
「明日は、今年最後の日なんだぞ!!」
「明日投票する時間は無いんだぞ」
「仕方ない。夕食後、会議を再開する。再開は、9時で宜しいかな?」
 皆が頷く。
「では、再開は9時とする。食事を摂ってくれ!!」
 会議は中断し食事休憩に入った。



 同日 PM9:00
「それでは、会議を再開する」
 安二郎の一件で会議の日程は大幅に狂っていた。
 その為、夜通しで会議をすることになってしまった。
「今日の会議は、徹夜を覚悟してほしい」
「月村安二郎はどうしたのだ!?」
「心配ない。安二郎と氷村はイレインが取り囲んで見張っている」
「もう、脅迫される心配は……」
「ない。むしろ手足をもがれた達磨だ」
 袋のネズミの安二郎達は何もできない。
「次期主導者の審査を開始する。先ずはマルガレータ・フォン・ヒルデスハイムからじゃ」
 資格保有者の審査が始まる。
「マルガレータは、一族でも最大級の発言力を有する大貴族ヒルデスハイム家の令嬢」
「家柄は文句のつけようがない」
 家柄は文句のつけようがなかった。
「家柄だけでは長にする訳にはいかんぞい」
「指導者にするには、何かが足りんと思わんか!?」
「足りんもの?」
「己が力で他者を屈服させることだ」
「確かに温室育ちのマルガレータ嬢には無理かもしれんな」
「今まで、金の力で守られていたに過ぎんし」
 マルガレータの胸に目に見えない言葉の刃が突き刺さる。
「今、この場に彼女に引き付けられる者が何人いるかな?」
「念のため確認してみるがマルガレータ嬢に引き付けられたものは手を挙げてみてくれ」
 挙手する者が数名……。
 大半の者が、引き付ける力が足りないと見たようだ。
 それでも、候補者に選ばれる……いや、彼女の場合は担ぎ上げられたと言っていいだろう。
 マルガレータは、安二郎に利用されただけだ。
 本人は、後継者になる意思はあったようである。
「ふむ。少しは王気を放っておるよじゃな。皆を引き付けるには弱い」
 審査に時間をかける。
「マルガレータの審査もいいが、月村の審査はどうする!? 月村の審査をせんと比較することも出来んぞい」
「それもそうだな……比較するために月村の審査を行う」
 すずかの審査が始まる。
「月村すずか……家はともかく血は申し分ないのでは?」
「吸血鬼の真祖である点では血は文句のつけようが無い!」
「本当に真祖かどうかも怪しいのではないか?」
「血の証明はエリザベートくんがしてたでは無いのか!?」
「斬りおとした腕も瞬時に再生していた点から見ても血は本物なのだろう……それにブリュンスタッドが後ろに居る」
「ブリュンスタッド……」
「無駄な話は、会議の後でしてくれ! 時間を浪費するわけにはいかん」
「議長!」
「なんじゃな!?」
「子供達を隣室で休ませては?」
「そうじゃな。そろそろ日付が変わる時間か……」
 時計は深夜零時を指そうとしていた。
 子供達は、テーブルに伏して夢の世界だ。
「いや、タオルだけ掛けてやれ」
 テーブルに伏して寝る子供にタオルを掛ける。
「さて、月村すずかが指導者の資質を持っているかじゃ」
「マルガレータ同様に持っていないのではないのか?」
「持っているかも疑わしい」
「持っているのなら見せて欲しいな!!」
「わっはっはっはっ」
 同調者が笑う。
「これっ、大声を出して笑うな! せっかく寝た子供を起こしてしまうだろうが」
 議長が注意する。
 流石に声が大きかったのか、笑うボリュームを下げる。

「笑っていられるのも今の内だけだよ」
「コイツ、頭おかしいんじゃないのか!?」
「自分が推薦したから通したいだけだろうよ」
 この馬鹿たちは全く気づいていない。
「証拠が見たいの?」
「見せることも出来ないのに嘘を言うなよ」
「(来い!! 我が騎士たちよ)」
 すずかが念話で騎士たちを呼ぶ。
『(王よ! オレを呼んだか!?)』
「(呼んだよ。直ぐにこっちに来て)」
「何を一人でぶつぶつ言っているんだ!?」
 其処へベルカ式魔方陣が5つ現れる。
「おいっ。コツら何者なんだ!? 説明しろ」
「雑種!! 誰に向かって口を聞いている!?」
 シェーンコップは、サラマンドルを馬鹿の首に突きつける。
「シェーンコップ! 殺してはいけませんよ」
「命拾いしたな雑種!!」
 サラマンドルを納める。
「君たちは何者なんだ!?」
「我らはローゼンリッター……『創世の王』に仕えし騎士だ!!」
「『創世の王』?」
「貴方方の目の前に居ますわよ」
「目の前!? まさか……」
「そのまさかですわ」
 アンゼロット、シェーンッコプ、リンッ、ブルームハルト、ヴァーンシャッフェがすずかに跪く。
「王よ! 貴女の命あれば騎士たちは動きます」
「いやいいよ。傍に控えていて」
「仰せのままに……」
 すずかの後ろに控えるアンゼロットとローゼンリッター。

「諸君、王気は問題なしでよいかな?」
「目の前で見せつけられてはな……」
 王気に関しては認めるしかないようだ。
「認めざるを得んだろう……」
「あのイレインですら従っているのだかな」
「だが、まだ決まったわけではない! 今は、まだ両者の比較段階だ!」
 まだ、比較資料が出そろったに過ぎない。


 どちらが新女王に選ばれるか?
 運命の夜は、まだ半分残っている。


 次回予告

 忍「夜通しで続く一族会議」
 さつき「両者の資格は互角」
 さつき「そして、決定の時……」
 シェーンコップ「我らが王が新たな王となる」
 さつき「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第51話『後継者決定!』」


安二郎、まだ参加できたんだ。
美姫 「身柄を押さえられたと思ったんだけれどね」
しかし、イレイン500体も秘蔵していたとは。
美姫 「もっと上手く使えば良かったのにね」
だよな。それじゃあ、この辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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