第83話「海鳴大血戦」






 ミッドチルダ……
「閣下!! ホームズが前線指揮に出てきました」
「そうか、ついに奴がな……」
 ホームズが動くことに喜びを感じるロイエンタール。
「閣下、嬉しそうですね」
「あぁ、嬉しいさ。直接対決が出来るのだからな」
「ホームズが指揮を執るのはわかりましたが、実働部隊は……」
「間違いなく実働部隊は、『65年マフィア』だろう」
「あの『白い悪魔』も……」
「必ず出てくる。 それからベルカの騎士達もな」
「ベルカの騎士、どれくらいの戦闘力があるんでしょうか?」
「我らと互角に渡り合えるだけの力はあるだろう……。しかも単騎でだ」
「それじゃ、死者は」
「何もすることが出来ずに打倒される」
「それから最近、動きを活発にさせている者たちがいるようです」
「その事なら聞いている。『赤い悪魔』達だろう?」
「閣下、『赤い悪魔』は?」
「ベルゲングリュン、先にどっちを相手にするべきと思う?」
「兵法から言うと『赤い悪魔』でしょう」
「普通は、『赤い悪魔』と言いたいところだが戦力が不明だ」
「斥候の情報によりますと『赤い悪魔』達は、三人とのことです」
「三人!? それは、本当なのか?」
「間違いありません。三人で管理局員をなぎ倒していました。それに我らと同じ臭いがしたと」
「同じ臭いか……。ならば、我らと同じ吸血鬼とみてよかろう」
「それから『赤い悪魔』たち、どう言う訳か指名手配されております」
「指名手配か……。方針は決したぞ」
「閣下、『赤い悪魔』と……」
「手を組む。使者を向かわせろ!!」
 『赤い悪魔』達と手を組むことにしたロイエンタール。




 海鳴市月村邸
「何時まで死んでおるつもりか?」
 シエルは、死んでいる。
「早く起きないとカレー禁止期間を伸ばしますよ」
「そ、それは……」
 シエルは、起きた。
「これからする私のお願いに“はい”か“イエス”でお答えください」
「断る!」
「私の言う事を聞きなさいシエル」
「断る!」
「妾のいう事を聞くがよい」
「断る!」
「この我のものとなれシエル」
「断る!」
「ポルカミゼーリア」
「殺す!」
「ポルカミゼーリア」
「ぶっ殺す!」
 アルクェイドにキレるシエル。
「ポルカミゼーリア」
「どうやら消し炭になりたいようですね、真祖」
「我の命令を聞けポルカミゼーリア」
「断る!」
「そんなこと言っていいんですか? ポルカミゼーリア」
「黙れ!」
「ポルカミゼーリアに発言を許可した覚えはありませんよ」
「神は、貴女達に呼吸をする許可を与えていません」
「カレーを食べないと制約せよ、ポルカミゼーリア」
「断る!」
「我の命令を聞くがよいシエル」
「断る!」
「喫茶翠屋、特製カレーパン……」
「命令を聞きます」
 カレーパンに釣られたシエル。
「シエルって、カレーに弱すぎ。向こうに帰ったら、カレーを出しに扱き使ってやろう」
「真祖、串焼きにしてあげましょうか?」
「すずかちゃん、シエルが反抗的な態度なんだけど」
「喫茶翠屋のカレーパン……」
「それだけは、止めてください!!」
 すずかに土下座するシエル。
「それから、アルクェイドさん!?」
「なに?」
「ニンニク一杯のプールに入りたいですか?」
「ニンニクだけはいや」
 すずかの人心掌握術……。
「シエルさん、喫茶翠屋のカレーパンが食べたいですか?」
 シエルは、釣られかけている。
「食べたかったら、お仕事、頑張ってくださいね」
「わかりました。今すぐにでも……」
 余程、カレーパンが食べたいようだ。
「その前に吸血鬼退治です」
 まずは、海鳴山に逃げ込んだ吸血鬼の退治である。



「閣下、何時までここに籠るのですか?」
「酒に女には、不自由しないんだ、籠るぞ!!」
「城の拡張は現在も死者どもに進めさせております」
「そ、そうか。ワシの玉室は、いつ完成する?」
「夜通しの作業を続けても一月は掛かります」
「よし。死者の作業員を増やせ!!」
 作業員を増やすように命じるブラウンシュヴァイク。
「領土の統治はどうなっておる?」
「ご命令通り、領民には閣下に服従せよとふれておきました」
「無能な選民は?」
「城の建設に従事させております。一部の者が閣下への服従を拒んでおります」
「ワシの恐ろしさがわかっておらんようだな」
「無能な分、理解できないのかと」
「公開処刑の仕方が温かったのではあるまいな?」
「ギロチンでの斬首です。効果はあったはずです」
 事実、公開処刑後にブラウンシュヴァイクに服従した者もいた。
 貢物をもっての形で……。
「ワシに服従せん奴らには制裁が必要だ! オフレサー!!」
「何でしょう? 閣下!!」
「ワシに服従せん者どもの首を盗ってまいれ! 刃向うようなら殺しても構わん!!」
「わかりました。ミンチにしても宜しいですか?」
「構わん!!」
「では、閣下に従わない選民共を殺してまいります」
 ミンチメーカー、オフレッサーが動き出す。


 外には、奴隷となった近隣の住人が土砂を運び出していた。
 その様子をすずかの吸血猫軍団が監視していた。
 海鳴山のあっちこっちに散って出入り口を探っていた。
「おらぁ、働け!!」
 死徒が、奴隷を鞭でぶつ。
「貴様らはブラウンシュヴァイク公の所有物だ! 殺されたくなかったら休むな」
 死徒は、奴隷を休む間なく働かせる。
 土砂を捨てた奴隷は、穴の中に入っていく。
 働きアリの如く奴隷が大量の土砂を入れた籠を背負って出てくる。
 奴隷は、休みなく出たり入ったりを繰り返す。
 捨てられた土砂は、うず高く積まれている。
 それは、出入り口の場所を教えるようなものだ。



「そう」
 すずかは、使い魔の吸血猫から報告を受ける。
「吸血鬼の城の出入り口はわかりましたか?」
「今、すずかちゃんの使い魔の報告で判ったところよ」
「実働部隊は、私と真祖3名で十分です」
「では、私たちは司令室でお茶でも飲みながら指示を出させていただきます」
 アンゼロットは、司令室に残るようだ。
「私たちも、ここに残ります」
「そうね、貴女達はここに残ったほうがいいかもね」
 グリューエルとグリュンヒルデの残留決定である。
「既に、地図には城の出入り口を示してあります」
 司令室のスクリーンには地図が映し出されている。
 スクリーンの地図には、吸血猫が発見した出入り口が点滅していた。
 地図上で点滅している場所が城の出入り口だ。
「じゃあ、私たちは吸血鬼退治にしゅっぱ〜つ♪」
 吸血鬼退治に出ていった。


 ミンチメーカー、オフレッサーが海鳴山の地下に造られた城から出ようとしていた。
 手にはトマホークが握られている。
「異常はないか?」
「ありません」
 異常なしと報告する死徒。
「貴様の目は節穴か!?」
「節穴?」
「視線を感じんのか!!」
「では、この入口は……」
 この出入り口の存在は知られていた。

「態々出迎えとは探す手間が省けたわ」
「ブラウンシュヴァイク公に詫びを入れ来たか」
「貴方を串刺しにして差し上げます」
「出来るのか? 攻撃すればこいつらは死ぬぞ」
 住人を盾にするオフレッサーと死徒。
「そんなの関係ありません。串刺しにしてあげます」
 串刺しにすると言うシエル。
「そいつら、死者だよ」
「では、遠慮なく殺らせていただきます」
「死者を刈り尽くせシエル」
「了解!」
 すずかの命令を受けて死者に黒鍵を投げつけるシエル。
 黒鍵が刺さった死者が爆発する。
 それを見て逃げようとする死者たち。
 だが、それを許すオフレッサーではない。
 逃げるそぶりを見せた死者を背後からトマホークで切り裂く。
「逃げるやつは後ろから切る。誰のおかげで生きていられるかわかっているな!?」
 それは、身を挺してみ出入り口を死守せよと言っているようなものだった。
 死者たちは、逃げることは出来ない。
 背後は、オフレッサー。
 前面は侵入者たちだ。
 前面の虎、後門の狼である。
「死者共、そいつらを痛めつけろ!!」
 命じるオフレッサー。
 だが、死者が代行者に敵うはずもない。
 黒鍵によって灰になる。
「シエル、最初から飛ばすと後でバテルわよ」
「戦闘中です。話しかけないでください」
 シエルは、黒鍵を死者に刺す。
 黒鍵によって燃える死者。
 シエル、一人によって倒されていく死者たち。
 すずか、アルクェイド、アルトルージュは観戦中だ。
 死者達は為す統べなく倒されていく。
「ゼロ!」
 またも死者が燃える。
 存在そのものが消失する。
 シエルによって数十もの死者が倒されている。

「死者ども、死ぬ気で掛かれ!! 逃げる奴は斬る」
 脅すオフレッサー。
「いや、ブラウンシュヴァイク公の前で処刑だ」
 死者達にとっては、ブラウンシュヴァイクは絶対者だ。
 死者でしかない彼らは絶対上位者である死徒に逆らうことが出来ない。
「その女を素っ裸にしろ!!」
 シエルを裸にしろと命じるオフレッサー。
「どうやら死にたいようですね」
 オフレッサーの間合いに飛び込むシエル。
「バカ目、自ら殺されに来るか」
 シエルの首を掴んで地面に叩きつける。
 シエルは、背中から激しく地面に叩きつけられる。
 そのシエルの腹を踏みつけるオフレッサー。
 腹を踏みつけられたシエルの口からカレーが発射される。
 直前に大量のカレーを食べていたようだ。
 一度だけではない。
 何度もシエルの腹を踏みつける。
 シエルの腹の中で内臓が暴れまわる。
 法衣の上からでも腹の潰れ方がわかる。
 オフレッサーに腹を踏みつけられる度にカレーを吐く。
 どこに溜まっているのか分からない。
「ほう。踏み応えが良いな、女!」
 そう言うとシエルの腹を踏みつく続ける。
 終には、カレーではなく血を吐き始めた。
「さっきまでの勢いは如何した!?」
「がふっ」
 また腹を踏みつけられるシエル。
「ごぶっ」
 シエルの口から溢れる血。
 それでもオフレッサーの執拗な攻撃は続く。
 シエルの腹を踏みつけ続ける。
 既にシエルの口から溢れるのは血である。
「如何した!? もうグロッキーか?」
「この程度では、私は死にません」
 腹を踏み潰されても死なないと言うシエル。
「ならば、このトマホークでミンチにしてやるまで……」
 オフレッサーは、トマホークを何度もシエルに振り下ろす。
 辺りに肉と骨が砕ける音がする。
 シエルがオフレッサーによってミンチにされていく。
 内臓はぶちまけられ通路を血で赤く染めていく。
「如何した!? 助けないのか?」
「これは、シエルの戦いだから……」
「その通りです。真祖」
 腹を踏み潰され、全身をミンチにされたシエルが再生される。
「貴様、何故生き返る? 腹を踏み潰してやったんだぞ!」
「私、死神さんに嫌われていますから」
「死神など存在しない。存在するは『大神オーディン』のみだ」
 彼らの奉ずる神は『大神オーディン』らしい。
「ならば、一緒に葬って差し上げます」
「『大神オーディン』を葬るだと!? 寝言は寝て言え!! 選民が軽々しく『大神オーディン』の名を口にするなど許されると思っているのか?」
「串刺しになりなさい!!」
 黒鍵を連続で投擲するシエル。
 だが、オフレッサーには通じない。
「その程度か? その程度の攻撃、俺には通用せんぞ!!」
「なら、串刺しになるまで続けるまでです」
「無駄だ! そんな物では俺は倒せんぞ!!」
 オフレッサーは、シエルを木に串刺しする。
 木に串刺しになったシエル。


「次は、誰だ!?」
 シエルを倒したオフレッサー。
 シエルは、木に串刺しになったままだ。
 串刺しになった木から血が流れ落ちる。
「次にミンチになりたいやつは誰だ!? それともブラウンシュヴァイク公に詫びる気になったか?」
「詫びる? 詫びるのはその方たちだ!」
「小娘、犯してやろうか?」
「その方ら、私の土地から出て行くが良い」
「出て行くのは、貴様たちだ!! ここは、ブラウンシュヴァイク公の領地だ。今すぐにブラウンシュヴァイク公に詫びて立ち去れ!! さもなくば……」
「さもなくば、何だと言うの?」
 すずかは、黄金の眼に変えオフレッサーに聞く。
 完全に先頭モードに逝っている。
「貴様も、あの女のように殺してやる」
「貴方は、私に触れることすらできないよ。それより貴方にはO・HA・NA・SHしてもらわないといけないから」
「お話!? 貴様と話すことなどないわ。貴様が生き残る方法は奴隷として服従することだけだ」
 O・HA・NA・SHの本当の意味を知らないオフレッサー。
 O・HA・NA・SHの本当の意味を知った時、彼の存在はこの世に残っていないのである。
「その体にO・HA・NA・SHを教えてやろう」
 オフレッサーの眼からすずかの姿が消える。

 不意にオフレッサーの肉体にクレーターができる。
 眼にも映らない速度で攻撃を繰り出すすずか。
 オフレッサーの体が裂け血しぶきが飛ぶ。
 オフレッサーの体が中に浮いた状態で攻撃を受ける。
 顔の骨が砕け顔の形が歪む。
 真祖の力を解放しているすずかによる攻撃だ。
「ぎゃぁぁっ」
 オフレッサーの部下と思われる死徒が灰になる。
 普通の死徒では、真祖の攻撃には耐えられない。
 肉体を維持することも出来ない。
 復元呪詛の能力を超えるダメージを受ければ当然である。



「真祖! 何を見ているんですか?」
 串刺し状態のシエルが言う。
「とう!」
 アルクェイドがジャンプする。
「シエル、自力で脱出も出来ないの?」
「出来ればしています。私の状態を見てわかりませんか!?」
「それじゃ、身動き取れないわよね」
「其れよりもあの吸血鬼は強力です。すずかさん一人に戦わせるのは危険です」
 オフレッサーの危険性を説くシエル。
「何言っているの? すずかちゃん、真祖の力の10%も出していないわよ」
「あれで10%だと言うのですか!?」
 シエルには、10%には見えない。
「まぁ、O・HA・NA・SHって言ってたし」
「其れよりも私を助けてください」
「シエル助けたら五月蠅そうだし……」
「処刑してほしいのですか?」
「まぁ、暴れればすずかちゃんに命令し貰うだけだし」
 現在、シエル最大の弱点、『カレー禁止』である。
「私の言う事を聞きなさい、シエル」
「断る!」
「本当に!?」
「断る!」
「だってさ、アンゼロット」
『では、私の言う事に“はい”か“イエス”でお答えください』
 シエルの命運は尽きた。
『仕事が終わった後の食事のカレー禁止にしても良いですか? “はい”か“イエス”でお答えください』
「……………………」
『はやく“はい”か“イエス”でお答えください』
「お願いですから、カレー禁止にしないでください」
 涙目で言うシエル。
『では、シエルさんの1年間のカレー禁止も決まったところで、改めて私のするお願いに“はい”か“イエス”でお答えください』
 アンゼロットによって1年間のカレー禁止になるシエル。
『アルクェイドさんに助けてほしいですか? “はい”か“イエス”でお答えください』
「どうでも良いですから、この状態から早く助けてください」
「早く、そう言えばいいのに」
 シエルを掴むアルクェイド。
 シエルを引きちぎるように引っ張る。
「いだだだだっ」
 アルクェイドによって強引に引きちぎられて助け出されたシエル。
 当のシエルは、グッタリしている。
「真祖、もう少し丁寧に助けてほしかったです。おかげで治療に一杯魔力が居るじゃないですか」
「だってシエル。あいつにお腹壊されてたじゃない。完全に内臓が逝った音何度もしてたわよ」
 シエルは、回復に魔力を充てる。
 はみ出た内臓が勝手にシエルに集まり蠢く。
 肉片と血が勝手にシエルに集まるのだ。
 動かないはずの肉片が動くのである。


 その間もすずかのオフレッサーへO・HA・NA・SHは続いていた。
 骨が砕ける音などが断続的に続いている。
 あまりにも早すぎる攻撃で音が一つのように聞こえるのだ。



「すずかさんは如何したのですか?」
「すずかちゃんなら戦っているわよ。見えない?」
「戦っていますね。ですが、あのスピードは普通じゃありません」
「シエルもあれぐらい出来るんじゃない?」
「出来ないことはないですが、真祖こそ出来ないんじゃないんですか?」
「シエルの体で試させてくれるならやってもいいわよ」
「死にたいようですね、アルクェイド!」
「それよりシエル、体力の回復に専念した方が良いわよ。まだまだ戦いは続くんだから」
「その方には、オフレッサーを処刑したらまた先陣を務めて貰うのだからな、大人しく体力の回復に専念するがよい」
「体力の回復に専念しますよ。後で貴女達も退治しないといけませんから」
「体力、ちゃんと回復させなさいよ。また、ヤラれても助けないから」
「貴女の助け等、必要ありません」
「だってよ」
 トランシーバーで状況を伝えるアルクェイド。
『シエルさん、御給金減らしても良いですか? “はい”か“イエス”でお答えください♪』
 シエルは、大ダメージを受けた。
 シエルの生活経済力が大幅に下がった。
『お返事が無いの私が勝手に決まました。シエルさんの御給金は、ナシにしました♪』
 アンゼロットの会心の一撃。
 シエルは、死んでしまった。


 次回予告

 アルクェイド「アンゼロットの口撃で死んだシエル」
 シエル「わたしは死んでいません」
 すずか「恭也さん、私のお願い聞いてくれますか?」
 恭也「何で俺がこんなことしなければならないんだ!?」
 すずか「お姉ちゃんに血を抜いてもらいますよ」
 恭也「血だけは勘弁してくれ」



 グリューエル「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第84話『海鳴大血戦2』」


 すずか「この我のものとなれ」



すずかたちが派手に暴れているな。
美姫 「まあ、これでこっちは片付きそうね」
で、もう一方の法は凛たちに接触するみたいだけれど。
美姫 「果たしてどうなるかしらね」
どうなるかな。
美姫 「それじゃあ、この辺で」
ではでは。



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