第十六話「現実X」






 
 《SIDEムーンタイズ》
「ふぁあぁぁあっ!!」
「きゃ……きゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!!」
 悲鳴を上げる桜。
「……桜っ!!」

 ……なっ!? これが……桜が言っていたストーカーッ!?

「あ……あぁ! いやぁぁ!! せんぱ……助け……!!」
「……ァ……ガ……ウゴク……ナ……」

 ……くそ……なんてタイミングだ……こんな時に……!!
 確かに……目が赤い……それに……脳に感じる不快感……間違いない……こいつ……吸血鬼だ……。

「う……ぐぐ……苦し……助け……て……」
「やめろっ!! その手を放せっ!!」
「……う……ウゥ……ウゴ……クナ……ウゴケば……コノおんなのハラをナグッテ……コロス……」
「……手を放せ……」
「……ウグ……」
「……聞こえなかったのか……? その手を放せ……」
 ストーカーに命じる潤。
「……ガ……ぐっ……ウゴクナ……」
「……くそ……」

 駄目か……久住の時みたいに……目の力だけで服従させることが出来るかと思ったのに……。
 久住の時とは違うのか……? ……この吸血鬼……ロゥムか……! 頭が悪すぎて、俺の命令が理解できないのか!?

「……グ……ググ……テアシヲ……カケロ……」
「……手錠……?」
「ハヤク……シロ……カケタら……おんなハ……カイホウする……」
「……待て……オマエの目的は俺なのか……? 桜ではなく……」
「ハヤク……シロ……おんなハ……カイホウする……」
「……うぅ……せんぱ……い……」
「……………………」

 ……この吸血鬼の目的は……桜じゃない……? 目的は……俺か……!?

「……誰に命令された……? それぐらい教えろよ……」 
「……ウゥ……ハヤク……シロ……」

 ……駄目か……単純な思考しか出来ないみたいだな……。
 どうする……? 動きも鈍そうだし……一気に間合いを詰めて桜を救出するか……。
 でも……相手は馬鹿吸血鬼……なにを考えているかわからない……。
 下手に襲い掛かって……桜を傷つけられたら……くそ……。

「……ハヤクシロ……ッ!!」
「ぁ……が……はっ!! あ……ぐっ!! が……ぁ……!!」
「桜っ!! わかった!! 手錠を掛ける!! 桜を放せっ!!」

 ……仕方ない……ここは大人しく言うことを聞く振りをして……隙をうかがうしかないか……。

「……これでいいのか……?」
「アシモ……ハヤク……カケろ」
「……………………」 

 ……マズイな……腕だけならまだ対処のしようもあるけど……足を封じられたら、立って歩くこともままならない……。
 どうする……?

「……ハヤク……カケろ……ッ!!」
「……くそっ……こんな時……ベルチェが居てくれれば……」
「……気に入らないわね……私じゃ役に立たないってこと……?」
「…………っ!? ……リカさんっ!?」
「妾たちの事も忘れるでない!!」
「……………………」 
 アルトルージュ達が現れた。
「情けないわね……こんな雑魚相手に、なにをそんなに手間取ってるのよ……」
「が……グガガ……ア……!」
「あ……ぐっ!! 先輩っ!! がはっ!! げはっ!!」
「やめろっ!!!」
「……フン……」
「ダメだリカ! 殺すなっ!!」
 無視して銃を撃つリカ。
「……ガッ……!!!」
 また銃を撃つ。
「ガァァァァァアアァァァァアァァァッ!!!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
「やめろリカッ!! 撃つなっ!!」
「はいはい、もう終わったわよ……」
「オマエなぁ!!」
「心配しなくても、桜には1発も当ててないわよ……」
「なっ……!?」
「あ……ぅ……え……ぇぅ……」
「桜っ!! 無事かっ!?」
「あぅぅぅ……こ、こわ……こわ……こわ……」
「落ち着け! 怪我は!? どこか痛いところはっ!?」
「だーから、1発も当ててないって言っているでしょ? 平気よ」
「リカさんには聞いてない!!」
「あらそう! そいつぁ失礼しましたっ!! なによ! 助けてもらっておいてその態度!」
「大体! リカさん今までどこに居たのさっ!?」
「文句ならソコのお嬢ちゃんに言いなさいなっ!! 私、その子にトイレに閉じ込められたんだからっ!」
「なんだってぇっ!?」
「……ご、ごめ……ゴメンナサイっ!! だ……だって! こんな……こんなことになるなんて!! 思わなかったからっ……!!」
「これぐらいでピーピー泣くんじゃないわよ! 鬱陶しいっ!!」
「……と、とにかく……怪我はないんだな!?」
「うっぐ……ひっぐ……うぐ……」
「聞かれたことに返事しなさいよ!! そんで泣き止め!! ケツ蹴っ飛ばすわよっ!?」
「うわぁぁぁん!!」
「脅すなっ!!」
「……ちぇ……いつだって男は泣き虫女の味方なんだ……」
「襲ってきた男は……? どうなった?」
「そこにぶっ倒れているわよ……」
「……アガ……ガ……がはっ……!」
「……まだ息がある……」
「殺すなって言ったの、貴方じゃない。殺さなかったわよ……コレでいいんでしょう……?」
「うん……!」

 まず、ナイフを持っていた右手を撃って……続けて両肩に1発ずつ……両肘に1発ずつ……そして両膝にも1発ずつ……。
 これだけ撃たれりゃ……身動き取れないか……。
 それにしても……男は桜を盾にして、身体の大半を隠していたのに……この命中精度……。
 ……これってやっぱり、リカさんの特殊能力のおかげか……?

「……少しやり過ぎの気もするけど……うん……助かったよリカさん……ありがとう……」
「どういたしまして……」
「……うぅっ……!!」
「……桜?」
「おぇっ……!! ゲフッ……ごほっ!! げほっ!! おぇぇぇぇえっ!!」
 桜は吐いた。
「桜っ!! 大丈夫っ!?」
「……う……うぅ……!! 気持ぢ悪い……頭が……痛い……」
「……桜には……刺激が強すぎたか……」
「うっ……ぐす……桜……怖い……帰りたい……帰りたいよぉ〜……」
「ん……わかった……公園の外まで行こう、タクシー拾ってあげるから……」
「……ちょっとぉ……そこに転がっている化け物どうするのよ?」
「ちょっと見張ってくれる? 桜を車に乗せたら、すぐ戻るから……」
「ま……良いけどね……コイツが復活して起き上がってきたら、今度は頭吹き飛ばすからね?」
「すぐ戻るよ、殺さないで」
「わかったわよ……急ぎなさい……」
「……桜……歩ける……?」
「……は……い……」
「……………………」
 ため息を吐くリカ。
「まったく……私だって……頭痛いってのよ……くそっ……」
 リカは、頭が痛いらしい。
「なら、妾達が見張ってやろう? プライミッツ!!」
 白い大きな犬が、ストーカー吸血鬼の上に圧し掛かる。
「うがぁぁぁっ!」
 プライミッツの重みに苦しみの声をあげる。
「……大体……こんな雑魚生かしておいたって仕方ないじゃない……吸血鬼とは言え、所詮はロゥム……何を聞いてたってマトモな返事なんか返ってこないわよ……」
「……ア゛……ガァ゛……」
「うるさいわよ、声を出すな!」
 蹴りを入れるリカ。
「ゲウッ……!!」
「ゲウじゃないわよ! いい? アンタはもう人間じゃないのよ。つまり、人権なんてないのよ! 化け物相手に、人道に則る必要はないの、OK?」
「なら、そなたは如何なのだ? そなたも吸血鬼であろう?」
「私はいいのよ! あんた達にも人権なってないんだからね」
 アルトルージュとさつきに人権はないと言うリカ。
「言っておらんかったか? 妾は生来の吸血鬼……そして、さつきは妾の血縁……」
「そんなの知ったことじゃないわ。第一、吸血鬼に人権なんって初めから有りはしないんだから!」
「戦うというのなら相手になるぞ?」
 軽く殺気を放つアルトルージュ。
「妾がどう言う存在か知らぬわけでもあるまい。妾に攻撃すれば、その方の所属する組織を潰す」
 さつきも空気を読んで戦闘態勢に入る。
「ブリュンスタッドを相手にする気があるのなら、その引き金を引くが良い」
「……………………」
 アルトルージュの威圧に矛を収めるリカ。
「ア……アァァ……」
「アンタが救われる道は……もう……死の中しかないのよ……」
 一変して、ストーカー吸血鬼には強気になるリカ。
「でも、アンタなんかまだマシよ? こうして……殺してくれる人間がいるんだからさ……」
「……ウゥ……ウゥゥウゥゥゥゥ……」
「苦しい……? まぁ、苦しいよね……。祈りを込めたシルヴァチップをこうも叩き込まれりゃ……それに犬の化け物に乗っかられてりゃ……って……あれ……? おかしいわね……どうしてアンタ……これだけブチ込まれて平気で居る訳……?」
 疑問に思うリカ。
「リカさん」
「……あの子は?」
「うん……とりあえず……軽くもどしてたから、思いっきり腹を殴って全部吐かせて……少し落ち着いたみたいだから、タクシーに乗せたよ……」
「あんなゲロ臭い子、よく乗せてくれたわね……って、お腹を殴ったの? 思いっきり……」
「うん。思い切り殴った。手首までめり込ませた。その後、そこの水道でうがいさせたし……服は汚れてなかったから平気だよ……。それよりどう?」
「……どうって? 別に変化ないわ……そこの女が犬の化け物で押さえつけさせた以外……」
「……財布とか、名刺入れとか持っていなかった?」
「あ……そっか……そういうの調べてなかった……」
「……リカさんって、そういう所アメリカ人だよね……」
「力押ししか考えていないパワー馬鹿だって言いたい訳……?」
「大雑把だって、言ってるだけだよ……どれどれ……」
「気をつけなさいよ……? そいつ……虫の息とは言え……まだ生きているんだから……」
「わかってるよ……それに……噛み付かれた所で、俺は既に吸血鬼だからね……」
「風邪をひいている奴はこれ以上風邪をひかないって言ってるようなもんだわ……それこそ大雑把過ぎよ……」
「……大丈夫、いざとなったら、俺にはリカさんがいる……」
「……は?」
「リカ、俺が危なくなった助けて、命令」
「……それぐらい……命令されなくたって……」
「復唱して」
「……リカ・ペンブルトンは、荻島潤の危機に対して全力でそれを阻止します、サー……」
「信頼してるよ」
「言ってなさいよ……」
「いざとなれば、妾達も力を貸してやろう……」
 潤はストーカーの所持品を漁る。
「駄目だね……やっぱり身元がわかるような物はなにも持ってない……財布どころか、コンビニのレシート一枚持ってないよ……」
「そんなのは……多分ダイラス・リーンに問い合わせればわかると思うわ……」
「うん……その辺りは、プロに任せた方が良さそうだね……」
「とりあえず、弱っているけど、命に別状はなさそうだし……このままダイラス・リーンに引き渡して……」
「……そう、それなんだけど、ちょっと引っかかることがあるのよね……」
「……引っかかること……?」
「見て……? 私が撃った銃創……」
「うん? よくわからないな……なにが言いたいの?」
「私がこの男に向けて使用したのは、特別に作らせた聖なる加護を受けたシルヴァメタルチップ……つまり、純銀でジャケットされた弾だったんだけど……この男の傷口を見て……おかしいでしょ?」
「……いや……よくわからないな……銃創なんて見る機会ないし……普通じゃないの?」
「普通ね?」
「吸血鬼に対して、祈りを込めた弾丸を撃ち込むとVウイルスが発するパルスと反応して、焼きゴテのように真っ赤に加熱して、焼け爛れるのよ……でも……この男の傷は、焦げてもいなければ煙すら出ていない……通常、相手が吸血鬼なら、どんなに感染率が低くても、弾丸が体内に飛び込めば発熱するのに……」
「……それって……つまり……この男は……Vウイルスには感染していない……ってこと……?」
「……その可能性が高いってこと……」
「でもそれ……その銃……いつも使っているのとは違うんでしょう?」
「弾は口径が違うだけで、同じ加工がしてあるわ……ほら、舌を出してみなさいよ」
「……舌……?」
「……はい、弾頭の銀色の部分、ペロッてしてみなさい?」
「……え?」
「ほら早く! 大丈夫よ!」
「……うん……」
 弾丸を舐める潤。
「……熱っつう!! うはっ……!! 熱いっ!!」
「へへ……ビックリした? 私もね、弾を込める時、いつものクセで弾頭をキスしてビックリした!」
「知っててやらせたな!? ひどいよリカさん!!」
「大丈夫だって、ちょっと舌が痺れるだけだから」
「俺はキミのご主人様だぞ? ご主人様をからかうと、後が怖いぞ?」
「……う……わかったわよ……」
「うむ、よろしい……彼女達にも試してみたら?」
「妾に銀は効かぬぞ? 試すなら、さつきで試すがよい」
「そう……キミ、この弾頭を舐めてみてよ」
「えぇ? 私が舐めるんですか?」
「早く舐めるがよい」
 アルトルージュに命じられて、恐る恐る弾頭を舐めるさつき。
「あれ? なんともありません」
「なんともない!? 荻島くん、もう一度舐めてみて」
「嫌だよ。熱いの……
「いいから、も一度……」
 リカに頼まれて弾頭を舐める潤。
「……熱っう!!」
「って、この子、銀が平気ってこと?」
 さつきは、銀が平気なようだ。
「私や荻島くんも銀に触れただけ焼けどしたのに、貴女は平気なわけ?」
「急に言われても、私にもどうしてか……」
 さつきにも、祈りを込めた銀に平気なのかわからない。
「貴女、本当に吸血鬼なの?」
「さつきは、紛れもなく吸血鬼だ! 普通の吸血鬼ではないがな……」
 さつきは、二十七祖クラスの吸血鬼なのだ。
 アルクェイドが銀が平気なのかはわからない。
「……そんなことより……」
「ことより?」
「もしコイツが吸血鬼じゃないとしたら……いったい何なんだろう?」
「うーん……なにかの薬物中毒……? でも……この男からは、吸血鬼の反応が出ているのよね……ホラ……」
「……本当だ……微妙だけど……吸血鬼の反応が出ている……」
「私、あの子にトイレに閉じ込められた後、トイレのドアを粉微塵に吹き飛ばして、このレーダーを頼りにここまで来たんだもの……」
「なるほど……よくこんな微弱な反応を拾えたね……」
「うん……まぁ……ここへ来る前は、もう少し反応も強かった気がするし……それに……」
「それに……?」
「……なんでもないわよ……気のせいかもしれないし……」
「なんでもないってことなんだろ? なんなの?」
「大したことじゃないわよ、きにしないで……」
「気になるよ。この手の吸血鬼関係で、隠し事はなしにしようよ」
「……………………」
「……なに……?」
「……貴方が……呼んでいる気がしたのよ……ただそれだけ……」
「……俺が……?」
「……だから! そんな気がしただけ!! 気のせいよ! 気のせい!!」
 気のせいと言うリカ。
「リカ……」
「……呼び捨てにするな……」
「ありがとう……たすかったよ……」
「う、うん……」
「ウガッ……!! ガ、ガガッ!! ガハッ!!」
「……うわっ!? な、なんだ!? 急に苦しみだして……!!」
「潤っ!! 離れて!!」
「ガッ……ガガガッ!! フガッ……!! ガガッガガガガガ……ッ!!」
「!!? なんだ!? てんかん? 引き付けを起こしている!!」
「ウウゥゥゥーーーーーーーッ!!! ウゥゥゥゥーーーーーッ!!!」
「マズいわ!! 舌を噛んでいる!! このままじゃ呼吸が止まって死ぬわよ!?」
「な、なにか口に突っ込んで! 舌を噛まないようにしないと!!」
「待って! てんかん発作の場合、あわてて口に物を詰め込んじゃ駄目よ! ソレが原因で呼吸が停止することの方が多いんだから!」
「でも! 舌を噛んでいるよ!?」
「……これは……てんかんの発作じゃないわ……前に似たようなケースを見たことがある……」
「なんなの……?」
「……強制アポトーシス……この男……役目を終えたら自殺するように仕組まれていたのね……」
「……細胞に組み込まれたプログラムで、自殺をするってこと……?」
「そう……そういうプログラムを組み込まれたVウイルスを、あらかじめ脳内に着床させておくってパターンね……」
「ダイラス・リーンでは、爆弾って呼んでいるわ……おそらくは、この男が吸血鬼としての反応が弱かったのも……爆弾を正確に作動させるために、機能を限定したウイルスを仕込まれてたからね……」
「なんの為に……?」
「証拠を残さないためよ……この男は、任務に成功しようと失敗しようと、必ず死ぬ運命だったのね……」
「Vウイルスに……そんな使い方があるなんて……」
「経験の深い真祖クラスの吸血鬼とか……もしくは、そういった特殊能力に秀でた吸血鬼がよく使う手ね……やられたわ……こんな爆弾を何体も作られたら…… 洒落にならない……」
「この男を爆弾にした吸血鬼がいて……そいつの目的は……俺だってことか……」
「そういうこと……」
「まさか……それが謎の女……?」
「可能性は……高いわね……」
「……くそ……こんなやり方されたんじゃ……被害者の増大は防ぎようがないじゃないか……」
「自分は表に出ない……いやらしくて……賢いやり方だわ……証拠も残らない……」
「……この男……もう……死んじゃった……?」
「そうね……爆弾化されて、爆死したロゥムは朝日を待たずに灰になるわ……後15分もすれば……みんな風に飛ばされてしまう……」
「一応……男の顔や背格好は覚えているから……失踪者の資料と照らしさわせれば、身元はわかるかもね……」
「……それは……後でわたしがUSCJに資料を請求してみるわ……」
「……この男の身元がわかったところで……謎の女につながるようなヒントになるとも思えないけどね……」
「……そうね……」
「用が済んだのなら妾たちのほうにも付き合ってもらうぞ!?」

 ドサッ。

「……リカさんっ!?」
「……ぐ……」
「リカさん! どうしたのっ!?」
「……さっき……力使いすぎた……頭が……痛い……」
「……大丈夫……? 俺の血……飲む……?」
「……嫌……」
「……頭……痛いんでしょう……?」
「……割れそう……っていうか、割れるとしか思えない痛さ……ぐぅ!!」
 それを見かねてアルトルージュがいう。
「その方、それでもこの者の主か? 早く血を飲ませねば手遅れになるぞ!」
「……リカ……口を開けろ……」
「嫌……だ……」
「大丈夫……血は飲ませないよ……。とりあえず……キスで我慢して……?」
 リカにキスをする潤。
「…………ン…………」
「……ふはっ……どう……?」
「……ん……ちょっと……楽になった……」
「どう? 立って歩けそう……?」
「もう少し……休めば……多分……」
「いいや、じゃあ、俺が背負っていくよ」
「……いい……じぶんで歩く……」
「どうして……?」
「……………………」
「……リカ……答えて……」
「……は……恥ずかしい……」
「可愛い♪」
「……嘘つき……嫌いだよ、アンタなんて……」
「ほら、おいで……俺の背中に乗るんだ、命令だよ」
「……また命令か……卑怯者……」
「なんとでも言いなさい? よいしょっと……!」
 リカを背中におぶる潤。
「……うぁ……重っ……」
「……だから……嫌だって言ったじゃない……」
「いや……リカさんだけなら軽いんだけどね……ちょっと……このカバン……前より重くなっていない? なにが入っているの?」
「……いろいろよ……女のカバンは、重いのが当たり前なのよ……」
「リカさんにとって大切なものが入っているなら……いいさ、頑張って運ぶよ……」
「……………………」
「……ん? なに……?」
「……道具よ……私が貴方を守るために必要な……ね……」
「そっか……」
「捨てたら……許さないんだから……」
「捨てないよ……リカさんが必要としているものなら……それはきっと大切な物だ……俺は、リカさんごと背負っていくさ……」
「……ずっと……?」
「ん……とりあえず家までかな……?」
「……そういう意味じゃ…………まぁ、いいわ……」
「なに?」
「なんでもない。ほら、とっとと歩きなさいよ……」
「うん、じゃあ、帰ろうか……俺たちの家へ……」
「……うん……」
「……あのさ……リカさん……」
「……ん?」
「……俺、こうしてると改めて思うんだけどさ……」
「……なによ……?」
「……やっぱりリカさんって……おっぱい結構大きいよね……帰ったら揉んでもいい?」
「今すぐ私を下ろせ……この野郎……」
「それだけ元気があるのなら、ネロ退治に着いてまいれ!」
 アルトルージュにネロ退治に連行されていく潤とリカの姿があった。


『……あン……サッちゃん?』
「サッちゃんって言わないで……確かにサッちゃんだけど……」
『貴女……まぁた失敗したのね……?』
「なんのこと……?」
『やぁねぇ、とぼけちゃって……サッちゃんの大ぁい好きなセ・ン・パ・イ、どうなっているのかなぁ〜って、ね?』
「……言われなくても……わかってるわよ……今回は……ちょっと……予想外の邪魔が入っただけだもん……」
『お願いよぉ? サッちゃんが頑張るって言うから、任せているのよぅ?』
「わかっているわよっ!! そんなことでいちいち連絡してこないでっ!!」
『やぁン……イラついてるのね。頭、痛い?』
「……お薬……ちょうだいよ……」
『気軽に言ってくれるのね、高いのよ? あのお薬……』
「だって、このままじゃなにも出来ないよ! 頭痛いっ! 死んじゃうっ!! お薬っ!!」
『はいはい、大きな声出さないの、ちゃんと聞こえてるしい〜』
「お薬! いつくれるの!?」
『貴女のお家のポストの中に、鍵を入れておいたわ。いつもの八坂駅のコインロッカーの鍵。北口のロッカー、一番奥の480番……』
「お薬が入っているの!?」
『そういうこと。いい? 今度は無駄遣いしちゃダメよ? 貴女ってば渡せば渡しただけ使っちゃうんだから……』
「わかってる!」
『やぁねぇ……なんだか頭の悪い娘にお小遣いをあげるお母さんみたいね、私……』
「用がないなら、もう切るよ?」
『あぁ、じゃあ最後に一言だけね?』
「なに……?」
『この次失敗したら、貴女、もう要らないから』
「……え……?」
『お薬が欲しかったら、頑張って? じゃあね?』
「あ! 待ってっ!!」
『なぁに?』
「……上手く……行ったら……ちゃんと約束……守ってくれる……?」
『えぇ、もちろんよ。心配しなくても、愛しいセンパイは、サッちゃんの物よン?』
「……嘘ついたら……許さないから……」
『嫌だわ、貴女がそれを言う? フフ……。とにかく、頑張って? 期待しているわよぉ?』

 私は……もう……子供じゃない……。
 泣いたり喚いたりしても……欲しいものは手に入らない……。
 ……だったら……自分の力で手に入れるしかない……。
 その為の力は……手に入れた……。

「…………センパイは……桜の……モノになる……絶対に……」



 《SIDE月姫》
 その頃、三咲町では……。
「終わりよネロ・カオス」
 アルクェイドは、ネロ・カオスと戦っていた。
 アルクェイドの爪によって引き裂かれるネロ・カオス。


 た……倒した!?
 圧倒的じゃないか!
 「二人で戦えば―――」?
 これなら俺がここに意味なんてはじめから……。             

 その時、アルクェイドの膝がガクンと折れる。
「はー―――っ。はー―――っ」
 肩で息をするアルクェイド。
「まさか……な。それほどの衰弱をしてなおその戦闘能力か。さすがは真祖達が用意した処刑人……曰く―――『白い吸血姫にはかかわるな』か。同胞達の忠告は正しかったとみえる」
「情けない姿じゃなアルクェイド」
 アルクェイドに声を掛けるアルトルージュ。
「アルトルージュ! なんで、アンタが日本に……」
「ほぅ! 『蛇の娘』とブランドルの王子も一緒か!? どう言う風の吹き回しだ!」
「そなたには、関係ないことよ!」
 アルクェイドを無視してアルトルージュと話すネロ・カオス。
「そうなっても生きているなんてね。だけど……あなたが使役する程度の使い魔では何匹だろうとわたしを殺せないわ。ましてやそんな状態でわたしに勝てるなんて思ってはないでしょうね」
「……使い魔? 今の貴様にはそのようにしか見えないのか。貴様の相手をしたのはあくまで私自身だ」
「?」
「本来の貴様なら一目で気が付いたはずだ。その金色の眼を凝らしてよく視るがいい。視えるであろう我が体内に内包された六百六十六素のケモノ達の混沌が――― 『蛇の娘』も視えておるぞ」
「『蛇の娘』!?」
 混沌が動く。
「アルクェイド!!」
「っ!?」
 混沌に囚わるアルクェイド。
「うっ」
 次々絡みつく混沌。
「くっ……う……」
「我が体内の混沌は気に入ったか真祖の姫よ。たとえ貴様が万全であったとしてもそれを破壊する事は叶わぬ」
「くっ」
「我が分身のうち五百もの結束で練り上げた『創生の土』をな……」
 半分の体で話すネロ。
「貴様が現世に受肉されて以来、幾人の同胞が葬られ幾人の先達が貴様を葬ろうとし、その逆の運命を打ち付けられたか……だがそれも今宵終わる。何人も成し得なかった偉業……このネロ・カオスが成しとげる」
「う……!? ネロ、あなたそんな体でこの力……」
「私において形骸の欠損など意味のない問題だ。私は六百六十六の『獣』の因子と同数の命の混濁に過ぎない。すなわち……」
 自らの頭を砕くネロ。
「!?」
「半身を断とうがこの首を潰そうが意味はない。もとよりカタチのないモノ達だ。殺されたところで私の中に戻れば再び混濁の一つとして蘇生する」
「ああぁっ!」
「私は一にして六六六……滅ぼすつもりであるならば一瞬にして六百六十六の命を滅ぼすつもりでなくてはな」


 このままじゃ全員―――。
 だけどどうする?
 こいつが消えない限り……。

「くそっ」

 線―――!?
 こんなものにまで線は視えるのか。
 これなら……。

 ナイフを強く握る志貴。


「不可能だわ! 何の着色もしていない存在概念をヒトの器に大量に内包すれば間違いなくあなた自身が消失する!」
「いかにも。我々はもはや個にあらず群体に近い。いずれは『ネロ』という名も無意味な知性のない塊に成り下がろう……。だが……それでかまわん」

 今……私の中には『何になるか解からないモノ』が渦巻いている。
 これはまさに原初の秩序……。
 その先に一体何が待つのか、私は『私』が尽きる前にそれを知りたい―――。

「それだけを追い求めてきたのだ」

 アルクェイドを捕らえている混沌から何かが出てくる。  

「貴様ほどの意識体を取り込むのは骨が折れそうだが、それも喜悦の一つだ。このまま『私』の一部になってもらうぞ」

 アルクェイドを助けようとする志貴。
「くっだめか……」


「助けなきゃ……」
「そなたは、その女を背負ったまま戦うつもりか?」
 リカを背負ったまま戦うのかと聞くアルトルージュ。
「その女は、戦えぬのであろう……だったらどこかに置くがよかろう」
「地面に置いたら、その変なのにリカさんが……」
「しかたない……プライミッツ!」
 プライミッツが潤の前で座る。
 如何やら乗せろということらしい。  
 プライミッツの背にリカを乗せる潤。
「そなたは、ネロと戦えるか?」
「戦えるかと言われても、あんな化け物に通じる能力はないし……」
「剣は使えるか?」
「えっ?」
「剣は使えるのか? っと訊いておる」
「使えないことは、ないけど……」
「さつき!」
「はっはい!」
 アルトルージュに言われて武器を出すさつき。
「あっ、剣がいいですか? それとも槍がいいですか?」
「槍?」
「魔槍はどうです?」
「これは?」
「アイルランドの『光の御子』が使ってた武器よ」
「むっ! 貴様、それは……」
 さつきが、潤の耳元で囁く。
「え〜っと……『刺し穿つ死棘の槍ゲイ・ボルク』!」
 槍が、ネロの胸に突き刺さる。
 槍は、心臓がある部分に突き刺さっている。
「効かぬぞ! 例え呪いの槍であろうと我を倒すことは出来ぬ」
 刺し穿つ死棘の槍ゲイ・ボルクは効いていないようだ。
「その槍……貴様、誰に借りた!?」
「誰って、其の娘からだけど……」
「『蛇の娘』の能力か……」
 まだ、能力があるか確認するネロ。
「『蛇の娘』! まだ、隠している能力があるだろう?」
「えっ!? 解かったんですか?」
「アルトルージュと一緒に居るだけでわかる。隠しておっても我は倒せんぞ!」
「如何しましょうか!? アルトルージュさん」
「相手は、二十七祖の十位! 隠しとおせるわけなかろう?」
「でも……」
「やむえまい、妹の前だが使用するが良い」
「は、はいっ!」
「見せる気になったか!? 『蛇の娘』よ」
「後悔しても知らないよ?」
 さつきの気配が一変する。
「固有結界『赤黒い三日月クレセント・ムーン』!」
 仮初の『仮初の赤い月』に変身する。

「弓塚さん? なんで、弓塚さんがここに……それにあの娘は?」 


「まさか、『赤い月』とはな……姫君の血が濃かったのか?」
「覚悟はいい? おじさん! とりあえず何匹か、消してあ・げ・る」
 そう言って爪を振るう。
 その一振りで混沌数十匹が蒸発する。
「真祖の姫君でも消せなかった我が混沌の一部を消し去るか……流石は『姫君の孫』と言った所か」
 賞賛するネロ。
「だが、私を消すには力が足りぬ」
「まだ、私の攻撃は終わっていないよ?」
 まだ攻撃は終わっていないと言うさつき。
王の財宝ゲート・オブ・バビロン!!」
 さつきの背後に無数の宝具が現れる。
 そして、手をネロに振り下ろす。
 無数の宝具が発射される。
 それだけで、また混沌が消される。
「おのれ、許さんぞ! 一度ならずニ度も我が一部を……」
 怒るネロ。
 満月でないためタイムリミットが来る。
「やっぱり、満月じゃないから4分が限度みたいです」

「好都合だ、ブリュンスタッド姉妹に、『姫君の孫』、ブランドルの王子……体を裂かれたばかり……養分が足りてないのでな」
 その場に居るものへ混沌を放つネロ。
「妾に歯向かうか? 余興だ、戯れてやろう」
 黒いドレスを翻し混沌を切り刻む。
 引き裂かれた混沌が消滅する。


「こ……のぉ―――」
 鳥の首が落ちる。

 アルトルージュとさつきは、難なく混沌を引き裂く。
 潤はと言うと槍で応戦するも混沌に腕を噛み付かれる。

「放せよ……」
 志貴は、傷を負っている。
「おまえの相手はこの……俺だ」
「…………人間が私の相手をすると…………?」
「……そうだ。だから……だからアルクェイドを放せって言ってるんだ!!
 ネロに突進していく志貴。
「私に刃向かうその思い上がり……興が削がれた責任を取ってもらうぞ……人間」
「くっ」

 あんな奴、敵うわけがない。
 だけど……あいつは俺に殺せないモノはないって言った。
 だったら、せめてあいつぐらいは助けないと。
 俺がここにいる意味がない―――!!

「くっ」
 次々、襲い掛かる混沌。
「ぐっ!!」
 足に噛み付かれる。
「くそっ」
 足に噛み付いた獣の首を刎ねる。


 まともに行ったらダメだ。
 最短で―――。
 たどり着く!!

 ザキュ……。

 鋭い角の獣に腹を貫かれる。


 ゴホッと血を吐く志貴。

「契約しよう。貴様は、生きたまま少しずつ熔かすように咀嚼すると」

 空中に放り投げられる志貴。


 アル……クェイド……。

 地面に叩きつけられる志貴。


「助けなきゃ……」

 でも、どうやって?
 相手は、死徒二十七祖とか言われる吸血鬼……。
 俺のムーンタイズでどうにか出来る相手じゃない。
 強力な武器が要る。
 この槍よりもっと強力な武器が……。
 あるのか?
 そんな武器が……。
 あった!
 俺が知っている唯一の武器。
 アーサー王の剣が……。


「ねぇ、キミ! この槍よりもっと強力な武器……アーサー王の剣出して!」
「アーサー王の剣!? 若しかしてエクスカリバー?」
「エクスカリバーか解からないけど貸して! お願い」
「貸してあげるけど、真名は解かる?」
「真名が何かはわからないけど、頼むよ」
 潤に頼まれて、エクスカリバーを出すさつき。
 エクスカリバーで混沌を斬る潤。

「貴様に、その宝具の真名を唱えさえん!! 我が血肉となれ!」
 混沌を潤に差し向ける。
「エクス……」
 最後まで言う前に巨大な顎を持つ化け物に腹を噛み裂かれる。
「がふっ」
 口から血を吐く潤。
 噛み裂かれた腹から腸がはみ出ている。
「ごふっ! 腹がイテェ……」
 エクスカリバーを杖代わりにする。
 腹からは、血があふれ続ける。
「やべぇ……このままじゃ、死んじゃうかも」




 そして志貴は……。

 ここは……。
 身体があつい……。
 ……そうか、あいつを助けられなかった……。
 殺される。
 殺されていく……。
 また殺されるつもりか?
 一度殺サレタッテイウノニ―――。
 8年前ノ、アノ広場デ……。
 怖イトカ、痛イトカ、ソンナ余分ナ事ナンテ無カッタグライニ……憎カッタ。
 タダ……殺シタヤツガ憎カッタ。
 何ヲ耐エル事ガアル?
 何故コラエル?
 コノママ喰ワレテ、殺される?
 そんなのはイヤだ。
 こんなに痛いのはイヤだ。
 こんなに怖いのはイヤだ。
 意識があるのに食われるのはイヤだ。
 生きたまま死ぬなんてイヤだ。
 このまま殺されるなんてイヤだ。
 それでも俺はここで殺される。
 ……コロサレル。



「……は。はは……強情だな。壊れてしまえば楽になるものを」



 壊れる……。
 壊れている。

「は……」

 とっくの昔に目にはこんなモノしか見えない。
 こんなモノしか―――。
 殺される。
 殺される。
 きっと間違いなく殺される。
 他の誰にでもなく、他の何でもなくオマエは俺に殺される!!

「あ……はははっ。ハハハハハハハハハハッ」

 志貴が壊れた。


「あのヒト、壊れたか? がはっ」
 エクスカリバーを杖にした潤が言う。


「貴様……」
「……くくっ。俺を殺したいんだな化け物」

 ならば俺達は似たモノ同士……。

「……いいだろう。さあ、殺しあおう。ネロ・カオス」


 流れるような動きで獣を解体する。
 鋭い牙の獣の点を突く。
 それだけで灰に変わる。

「え? 化け物が灰に……」
 原因がまったく判らない潤。


「……貴様。何をした……」 
 何をされたかわからないネロ。
「よかろう。貴様を我が障害として認識する」


「これは……むせるほどの血のにおい……。遠くは……ない!」
 ビルの屋上からジャンプするシエル。

 公園―――!?

 そこは、ネロとの血戦場だった。


 ネロ・カオス!!

 黒鍵を投擲する構えを取るシエル。


 あれは!?
 遠野……志貴!



 志貴は、化け物を解体していく。



 姫君ですら滅ぼす事が出来なかった私達がことごとく消滅していく。
 何故だ―――。
 何故だ。
 何故だ。
 何故だ!?
 何故私達が密度を高めなければならぬ!?
 何故人間に対して渾身で行かねばならぬ!?

「待っていろ。奴をくびり殺したら今度こそ貴様を取り込む」
「……そう。期待しないで待っているわ」


 そして、さつきは……。
「えいっ!!」
 混沌を殴り飛ばした。
 すると決してありえないことが起こった。
 さつきが、殴った混沌が黄金に変わってしまったのだ。
「面白い、『王の財宝ゲート・オブ・バビロン』のみならず『ミダス』もつかえるか」
 アルトルージュは、笑う。
「妾の目に狂いはなかった!」


「えっ!? 化け物が黄金に…… ごふっ」

 黄金……?
 確か、触れた物を黄金に変えるって話があったような?
 帰ってからベルチェに聞いてみようと。
 その前に……。


 傷ついた身体でエクスカリバーを振り回す潤。
 腹からは、いまだに血が出続けている。

「やべぇ。暴れたから血を余計に流しちゃった……」


 バターンと倒れる潤。
 倒れた潤を中心に血の海が広がる。



「殺す!! 我が内なる系統樹には貴様らの域を凌駕した生命があると知れ―――」


 ネロに突撃する志貴。

 眼がアツイ。
 アツイ……。
 一秒でも早く敵を殺せと命令してくる!!
 今ならわかる。
 この『線』を束ねているように視える『点』こそが……。
 『死』―――そのもの! 


 爆発する化け物。


 は……。
 はははは。
 セカイに死が満ちている。


「何?」
 腕を切り落とされるネロ・カオス。
「何なのだこれは。何故再生しない!?」

 アレは……魔術師でもなければ埋葬者でもないというのに何故切られただけで私が滅びなければならん!


 志貴に怯えるネロ。
「後退!? この私が人間に対して後退するだと!?」
 ネロも壊れる。
「ク……フハハハハハハハハハハ」

 有り得ぬ!!
 有り得ぬ!!
 有り得ぬ!!
 私を殺すか人間―――!!


「苦しませてから殺そうとするからそういう目に遭うのよネロ。志貴は私を一度殺してるんだから」



 ネロは、化け物に変身している。


 我が名はネロ。
 朽ちず蠢く吸血種の中においてなお不死身と称された混沌!
 死などとうの昔に超越した。
 だが貴様は何だ?
 何なんだ!?









「く……ぉ」


 オマエに何百という命があろうが関係ない。
 俺が殺すのは、ネオ・カオスという『存在』そのもの―――。
 その世界を抹殺する!!


「……まさか、な。―――おまえが。おまえが私の『死』か……」


 ネロ・カオスは消滅した。


 志貴は、地面にすわる。
「はぁ……はぁ……はぁ……くぅっ」
 頭痛を志貴を襲う。
「…………っ」
 ポケットから眼鏡を取る出す。
「う……」
 眼鏡をかけ、地面に仰向けに倒れる。


 終わった……。


 志貴の身体から血が流れれる。
「つか……れたな」

 さむくて……ねむい……。

 ビンタを食らわすアルクェイド。
「う……」
「だめお志貴。そんな傷で眠ったらもう起きれないわよ」
「あ……アル……クェイド……。生きて……たのか」
「おかげ様でね」
「そ……うか、よかった……。『点』って……やつが……視えたよ」
「そう、やっぱり視えていたのね。それじゃ志貴は―――」
 志貴は眠った。
「志貴……?」
 志貴は、起きない。
「志貴くん、死んじゃダメぇっ!!」
「えっ!?」 
 次の瞬間、志貴の腹にさつきのパンチが叩き込まれた。
「がはっ!」
 盛大に血を吐く志貴。
「ちょっと貴女、志貴を殺すつもり!?」
「え?」
 さつきに腹を殴られた志貴を中心にクレーターが出来ていた。
「う゛ぅぅぅぅ」
「せめてその傷を治しなさい。そのまま寝たら死んじゃうわよ」
「…………」
 志貴は、腹を抱えて苦しんでいる。
「かふっ」
 再び血を吐く志貴。
 志貴は、指で来い来いする。
「ん……何? どうしたの志貴?」
 また指で来い来いする。
「…………あんま……り……無茶言うなこのばか女―――っ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
 耳を塞ぐアルクェイド。
「いきなり何するのよ!? ……志貴?」
 再び眠る志貴。
「あれ……志貴? 起きなさい。傷を塞がないと本当に死んじゃうのよ?」
「……治癒……なんか……できるか。できるもん……なら好きにしてくれ今ので……限界だ……」
「え、いいの。わたしが治しちゃって? そういうコトなら早く言ってくれればよかったのに。人の使い魔を受け入れるのはイヤだけど……。……っとこれならわたしが少し後押しするだけで……よっ……と。どう? ネロの残骸は方向性のない命の種だから志貴の体にもすんなり寄生してくれるでしょ?」

「情けないのアルクェイド……我が妹よ」
「丁度いいところで会ったわね姉さん! 私から奪った髪を返してもらうわ」
「そんな弱った状態で妾と戦うというのか? その状態では、さつきにも勝てぬぞ!?」
「さつき!? 誰? 私、そんな奴知らないわよ」
「さっきから隣におるぞ!」
「この娘が? 貴女、名前は?」
「弓塚さつきです」
「さつきは、今代の『蛇の娘』じゃ」
「そう……アイツの死徒なら、消さないとね」
 爪を出して戦闘体制をとるアルクェイド。
「やめておいた方が良いですよ?」
「誰に言っているのかおもい知らせてあげるわ!」
 爪を振るうアルクェイド。
 キンと甲高い金属音がする。
「うそっ! 受け止められちゃった」
「アルクェイドさんでしたか? 今私、アルトルージュさんに真祖としての教育を受けているんです」
「じゃあ証拠を見せてくれる?」
「いいですよ」
 簡単に良いというさつき。
「星の息吹よ!!」
 グォーンっと鎖が現れる。
「うっそぉ! 本当だったの!?」
「我が妹アルクェイドよ、さつきに血を与えるつもりはあるか?」
「イヤよ! 血を他人に与えるなんて……」
「過去の過ちを引きずっておるのか? さつきには、一滴あれば事足りる。吸血と同時に死徒化したポテンシャルだ」
「吸血と同時!?」
「はい。血を吸われた瞬間にはこの体でした」
「血を吸われた瞬間って、私がロアを吸血鬼にしちゃった時と同じじゃない!!」
「どうやら、そうみたいなんです」
「さつきは、妾とゼルレッチの庇護下にある!」
「えっ!? じいの?」
「レルレッチは、何れ何処かの位に入れるつもりだ」
「ふ〜ん。貴女、じいのお気に入りなんだ……いいわ! 私の血を飲ませてあげる」
 さつきに血を与えるというアルクェイド。
「私の血を飲んだ昂ぶちゃうけど、耐えられる?」
「さつきは、妾の血を飲んでも暴走などはしなかったぞ」
「それ、本当?」
「本当じゃ! さつきは、ロアより強く『赤い月』の因子が出ておる」
「やはり……。ロアの支配を受けていないから、そうじゃないかなと思ったわ」
「第七司祭の邪魔が入らぬうちに済ませてしまえ」
 アルクェイドは、指を噛んで血を出す。
「さっちん、飲んで」
「は、はい!」
 アルクェイドの指をくわえて血を飲むさつき。
 飲むといっても一口だけだ。
「さっちん! 体に変化は?」
「はい。力が沸いて来る気が……」
 さつきからは力が溢れれる。
「さて、さつきも真祖に成ったことだし引き上げるか……」
「そうね、志貴をつれて帰らないと」
「その前に……」
「どうしたの? 姉さん!」
「ブランドルの治療が必要じゃ」
「ふ〜ん、ブランドルのね」
 アルクェイドは潤の所へ歩む。
「あんたが、ブランドルの王子!?」
「そうですけど。貴女は?」
「私のことを知らないって、それでもブランドルの王子!?」
 潤の腹からは、いまだに血が出続けている。
「まだ、混沌の残骸もあるし、治療してあげる」
 潤を治療をするというアルクェイド。
「いいよ。家に帰ってベルチェにしてもらうから……」
「貴方の家は何処?」
「八坂町です」
「隣町じゃない!」
「隣町です」
「貴方、その娘を背負って帰るつもり!? その怪我で……」
「はい」
「貴方、死ぬわよ?」
「このままじゃ、死んじゃうかも……」
「じゃあ、横になって! 治療するか」
「うん……」
 地面に横になる潤。
「まずは、このはみ出ているモノを適当に押し込んで……」
 混沌の残骸で潤の腹を塞ぐ。
「治療終わりっと。貴方も早く帰って休んだほうがいいわよ?」
「そうします」
 リカを背負って、八坂町へ帰っていく潤。
「妾たちも帰るぞ、さつき!」
「はい」
 アルトルージュとさつきも帰っていった。



 静観してしたシエルが去る。
「さて……っと。……お疲れ様。志貴ありがとね。今夜は志貴のおかげで助かっちゃった。あれ? 志貴、眠っちゃってるの? 志貴の家ってどこだっけ?」


 あとがき

 やっと、ネロとの戦闘を入れることが出来た。
 入れるタイミングがここしかなかった。 
 潤、ネロに手も足も出ず。 
 しかも、腸がはみでた状態で戦わせちゃった。
 そして、さっちん。
 アルクェイドに血を貰って真祖に……。
 まだまだ先だが、ロアとの戦闘終了後、聖杯戦争編へ突入予定。



ネロ戦、特に潤たちの出番もなく終わったな。
美姫 「逆に怪我しちゃったものね」
後は桜を唆している奴がいるという事かな。
美姫 「一体誰が黒幕なのかしらね」
それでは、この辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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