設定は、とらはの方はAllエンドで恭也は誰とも付き合っていません。
With Youの方は、乃絵美は拓也に振られています。

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とらいあんぐるハート3×With You(伊藤 乃絵美)

ずっと二人で・・・

第ニ章 かわっていく、想い 第三話
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恭也が伊藤家にお世話になりだしてから、早くも一週間が過ぎようとしていた。
恭也は高町家にいるときと変わらずにバイトと鍛錬と学校生活(睡眠をむさぼるだけの学校)を普通にこなしていた。

学校の授業はというと、最初の三日間は寝ずに受けていたが、四日目を過ぎた辺りから、風校と同じように
睡眠をむさぼるようになっていた。

そして、高町恭也の名は二学期が始まって二日間で学校中に知れ渡ったのは言うまでも無い。
かっこいい転校生がいるとか、なんとか。
風校と同じく、ファンクラブまで設立されていた。言うまでも無く、恭也のクラスの女子は菜織を除く全員、入っていた。
さらに、教職員までもがファンクラブに加入していた者までいたという。


そして、伊藤家にお世話になって最初の日曜日。

****恭也Side

伊藤家のリビング。
鍛錬をいつもどおり終え、いつもどおり朝食を取り、時間に余裕があるのか、ゆったりとしている恭也。


恭也は前日に忠志さんと貴美恵さんから言われたことを思い出していた。

「お疲れ。恭也くん、乃絵美」

「今日も、お疲れ様。恭也くん、乃絵美」

「お疲れ様です。貴美恵さん、忠志さん」

「お疲れ様。お父さん、お母さん」

「恭也くん。一週間、働いてみてどうだった?」

「翠屋とは、違った雰囲気なので新鮮でした。忙しさについては、翠屋と変わりませんでした」

「へぇ〜。さすがは桃子さん。お店のジャンルが違うけど、地元でも人気なのね」

「ええ。ラッシュ時はすごいですよ。翠屋は」

「ところで、恭也くん、明日は日曜日なので恭也くんと乃絵美に休みを取ってもらいます」

「日曜日は正樹と菜織ちゃんががんばってくれるからな」

忠志が追加する。

「そうなんですか?」

「はい、そうですよ。恭也さん」

「わかりました。・・・・・急に休みと言われても何もすることがないですね」

「恭也くん?」

「はい。なんでしょうか?貴美恵さん」

「乃絵美と横浜にでも行って来たら、どう?」

「ちょっと、お母さん?」

乃絵美は嬉しそうな顔をして貴美恵さんに疑問を投げていた。
恭也はなにやら、難しい顔をして考え込んでいた。

(む・・・・・・。やはり、嬉しいのか?)
(乃絵美とデート・・・・・。む・・・・)

恭也は自分の心境の変化に戸惑いを感じつつも、平常心を保っていた。

「そうですね。いいですね。乃絵美は嫌か?」

「嫌どころか、嬉しいです。恭也さんから、デートに誘ってもらえるなんて・・・」

「む。そう言われれば、デートだな・・・・」

「恭也くん、乃絵美。明日は楽しんできてね」

と貴美恵に言われたのを思い出す。

そろそろ、時間なので、乃絵美を呼びに二階に上がる。


****乃絵美Side

朝食後、乃絵美は部屋に戻っていた。

恭也さんと初めてのデート。
乃絵美は嬉しかった。拓也との初めてのデートの時とは別の喜びを感じていた。
乃絵美にとっての初恋の相手は伊藤正樹ではない。柴崎拓也でもない。幼い時に病気がちだった私を笑わせてくれた人。
それは高町恭也であった。
だからなのか、乃絵美の心は嬉しさと期待で満ちていた。

「恭也さんはどんな服が好みだろう」

「髪型はどんな髪形がいいのだろう」

など、色々なことを考えながら、服装や髪型、リボンを選んでいく。

そして、いつもどおりの大人しい服装といつもどおりの髪型に定着する。
リボンは白いリボン。



****クロスSide

コンコン

「乃絵美」

「はい。恭也さん」

「そろそろ、時間だが出られるか?」

「もう、そんな時間なんだ。後5分ほどで下に降りますので、リビングで待っていてください」

「わかった。急がなくてもいいからな。乃絵美」

「はい」

恭也はリビングに戻って、乃絵美を待つ。


5分後

時間きっちりに乃絵美がリビングに降りてくる。

「お待たせしました。恭也さん」

「待っていないよ。乃絵美」

「ありがとうございます。恭也さんの心遣いに感謝します」

「あっ、いや。そんなつもりじゃないよ。乃絵美」

「ところで、恭也さん?」

「ん?」

乃絵美に見つめられて、何かを期待するような目。
だが、乃絵美の心とは裏腹に恭也の頭の中には?マークが敷き詰められていた。
やはり、恭也は鈍感で朴念仁だったのだ。
桃子に鍛えられて少しはマシになったかと思っていたが、やはり、恭也は恭也のままだった。

乃絵美は苦笑いを浮かべて聞いた。

「恭也さん。どうですか?」

と、乃絵美は恭也の前でクルリと回った。

「・・・・・・・?」

「恭也さん?」

「ああ。そういうことか。よく似合っている。かわいいよ。乃絵美」

乃絵美はこれまで誰にも見せたことのないとびっきりの笑顔を見せて、答える。

「ありがとうございます。恭也さんも、かっこいいですよ」

「乃絵美。ありがとう」

しばらく、見つめあう二人。
そして、恭也が我に返る。

「乃絵美?」

「・・・・・・・・はひ?」

「そろそろ出ようか」

「わかりました」


桜美町から横浜までは電車で10分。

「ほぉ〜、こんなに近いのか。大都会の横浜は」

と、恭也が驚いていた。

恭也自身、父士郎とともに日本全国を修行の旅と題した旅で、いろいろなところに行っている。
だが、桜美町から横浜がこんなに近いとは知らなかったのであった。

そんな様子を見ていた乃絵美はただただ、苦笑を浮かべていた。

「ところで、恭也さん?」

「なんだ?乃絵美」

「今日はどこに行くのですか?」

「ふむ・・・・・・・・。何も考えていなかった。どこがいい?乃絵美」

「私は恭也さんとなら、どこでもいいよ」

乃絵美にそんなことを言われたためか、恭也は困ったような、はたまた、うれしそうな顔をしていた。

「むぅぅぅぅぅぅぅ。買い物だな。服と生活用品かな」

「三島デパートかな?」

「ああ。そこでいい。乃絵美は買うものはないのか?」

「私は・・・・・・」

「乃絵美?」

「恭也さん?」

「どうした?」

「ただ二つだけ、欲しい物があるのです」

「・・・・・・?」

「一つは恭也さんが選んだリボン。昔、恭也さんからもらった黒いリボンがそろそろ、使えなくなってきているんです」

「わかった。もう一つは?」

「恭也さんが着たYシャツを一枚ください。もう、着れない分でいいですから」

「む・・・・・・・」

「だめですか?」

乃絵美は少し、曇った顔で不安そうにこちらを見ている。

「わかった」

「ありがとうございます。では、行きましょうか」

と言って、恭也の手を握る乃絵美。
いつもの恭也なら、手を握られそうになると相手にわからないようにかわすところだが・・・・。


そして、恭也の買い物が終わり、今は乃絵美のリボンを選んでいる。

そう言えば、少し前にもこんな恥ずかしい思いをしたことがある。
恭也は思い出した。

あれは忍と一緒に那美さんの誕生日プレゼントを選びに行った時の事。
あのときも、忍と一緒とはいっても、ファンシーショップに男一人と言うことで、かなり恥ずかしい思いをした。

「・・・・・・・・・・・・・」

不思議だ。
少し前までは、忍や他のみんなのことを考えると、ひどく心がざらついていたのに。
いまでは、微かな痛みしか感じない。
かわりに感じるのは・・・・・何故か、小さな後ろめたさだけ。

「乃絵美。こっちの黒いリボンと白いリボンを選んでみたがどうだ?」

「それでいいです。恭也さんの選んだものなら」

「む・・・。じゃあ、お金は・・・・・・。5千円で足りるか?」

「はい。足りると思います」

「じゃあ、俺は店の外に出て待ってる」

「はい。わかりました」

そう言って、乃絵美はレジの方へと向かった。

「ふう・・・・・」

恭也は軽く溜息をつく。

周りは女性ばかりで疲れたのか、それとも、恥ずかしさで疲れたのか、両方のような感じだった。
恭也が店の外に出てくるのと同時にある女性が声をかける。

「あら?恭也君じゃない。偶然ねえ」

聞き覚えのある声・・・・というか、学校で嫌と言うほど聞かされた声だ。

「天都先生・・・・?こんにちわ」

学校ではそれなりに硬い格好をしている天都先生も、こういう所で会うと大抵ラフな格好をしている。

「こんにちわ。恭也君はこんなところで何をしているの?」

天都先生は腰に手を当てて、にこやかな表情で恭也のほうを見ている。

「む・・・・・・。買い物ですが何か?」

「まさか・・・・」

周りを一度見まわした天都先生の表情が、先ほどとは打って変わって、厳しい表情でにらんでくる。

「ファンシーショップのリボンコーナー辺りから出てきたじゃない。・・・リボンで誰かを縛るつもり?」

天都先生はとんでもないことをさらりと言ってのける。
それを聞いた恭也は、おもわず、自分の荷物を落としそうになる。が、なんとか、持ちこたえた。

「・・・ま、まさか・・・・か、買い物に付き合ってるだけですよ・・・」

いつもの恭也からしてみれば、かなり動揺しまくっているみたいだった。
天都先生は『こんな恭也君ははじめてみた』と思った。
だから、天都先生はさらに焦らすために周りを見ながら、一言。

「誰も居ないじゃない・・・怪しいわね」

ここまで言われて、やっと、恭也はいつもの恭也に戻って、遊ばれていた事に気づく。
天都先生の顔は厳しいが、目が笑っている。

「天都先生。ひょっとして・・・・俺をからかってませんか?」

そう指摘すると、天都先生はぷっ、と吹きだした。

「ご、ゴメンゴメン。さっきから気が付いてたんだけど、恭也君と乃絵美ちゃんとずいぶん楽しそうにお買い物してたから、邪魔するのもどうかな〜って思っちゃって。
で、乃絵美ちゃんは?」

「さっきまで選んでいたリボンの支払いをしているはずですけど・・・」

そう言って、レジのほうを見る。
しばらくすると、うれしそうな顔をした乃絵美がこっちに歩いてくる。

「恭也さん・・・」

小さく俺を呼ぶ声。

「ありがとうございます」

お礼を言う乃絵美。

「・・・・・・・・・・」

恭也は思わず言葉に詰まった。

その姿は、まるで、絵画から飛び出してきた妖精みたいで、ただひとつのアクセントが、その胸元で揺れる、神秘的な光を放つ青い首飾り。
俺は、表現する言葉を失って、沈黙してしまった。

「恭也さん・・・・・?」

「・・・・・・。すまん。見とれてしまった」

なんとか、再起動した恭也。
何か、とんでもないことを口走っていた気がする。

「乃絵美ちゃん。よかったわね」

「あっ、みちる先生・・・・」

乃絵美も、天都先生の存在にやっと気が付いたようだ。

「あら、お邪魔しちゃったかしら。それにしても、恭也君と乃絵美ちゃんは仲がいいわね」

「あ、天都先生・・・からかわないでください。俺と仲がいいなんて・・・・・。乃絵美に失礼でしょ」

「恭也君。もうすこし、自分の事を知ろうね。乃絵美ちゃんも他の人も、恭也君がこの調子だと苦労するわね」

耳元でからかうような声。

「む・・・・。天都先生、からかわないでくださいって言ったばかりじゃないですか!俺のことを好きになってくれる女性なんていないですよ」

「ゴメンゴメン、恭也君の反応が面白くってさあ」

乃絵美がかばんの中にリボンを直しているときに、天都先生がふとまじめな表情をする。

「ところで・・・・一つ気になってたんだけど・・・・・乃絵美ちゃんの首飾りって・・・・・」

天都先生が恭也に聞く。
が、恭也は知らないとばかりに首を横に振るだけ。

「乃絵美ちゃん?」

「はい。何でしょうか?みちる先生」

「その首飾りは・・・・、一年前に真奈美ちゃんがつけていた物だよね?」

「はい。そうですが・・・・。真奈美ちゃんの見送りに行ったときに、ぜひ私にって真奈美ちゃんがくれたんですが・・・・」

「ああ。あの時ね・・・・、そう言えば、あれから、もう一年が経つんだね・・・・」

得心したように頷く。そして、なぜか天都先生はそのまま黙り込んでしまった。
なんだか話し掛けづらい雰囲気は、恭也は黙って待っていた。

「さて、これからどうしたものか・・・・」

恭也がつぶやく。
買い物を済ませたが、まだ時間は早い。せっかく電車賃を払って横浜に来たのだから、そのまま帰るのはもったない・・・と考えていると、
天都先生が口を開く。

「二人とも、少し時間を貰っていい?」

「え・・・ええ、構いませんが・・・・」

これから、特に予定もなかったのでそう答えた。

「いいか?乃絵美」

「うん。恭也さん、私はいいよ」

乃絵美も異論はないらしい。

「じゃあ、二人ともついてきてもらえるかしら。大丈夫。そんなに時間は取らせないから」


『関係者以外立ち入り禁止』

エレベータを出たところで、いきなりそんな言葉の書いてある立て看板と対面する。
しかし、天都先生は躊躇することもなくその中へ入っていく。

「天都先生?ここは・・・・・。む・・・・・」

恭也には見覚えがあった。
ちょうど、半年ぐらい前にティオレさんに頼み込まれて、一日だけ、ミャンマー展示会の会場のSPとして来ていたのだ。
懐かしく思い出される。
そう昔の話ではないのに、ひどく遠く感じるのは何故だろう。

「・・・・・・・・・・・」

「恭也くん。あなた、半年前のミャンマー展示会の最終日のSPとして来ていたわね?」

「・・・・・・・・・・」

「恭也さん?」

「あのときは確か、不破恭也と名乗っていたはず・・・・・」

天都先生は記憶を探る。

「む・・・・・・。人違いですよ」

「まぁ、いいわ。それより、二人とも何してるの?ついてきなさい」

「で、でも・・・」

乃絵美が立て看板を指差す。

「ああ、大丈夫よ。だって私は『関係者』なんだから。さ、こっちこっち」

「・・・・・・・・・」

恭也は、見覚えがあるらしく、沈黙を貫いていた。

半ば天都先生の強引さに押されるように、乃絵美はおずおずと中に入る。
殆ど人の居ない会場。
ひどく居心地が悪かった。
天都先生は目的の場所があるらしく、時々すれ違う関係者らしい人達と、軽い会釈を交わしながらも、足を止めない。
そして、恭也は見覚えのある陳列ケースの前に天都先生と乃絵美の三人で立つ。
そこには、不思議な色をした宝玉・・・・・・『縁切りの宝玉』が置いてあった。

「その宝玉は・・・・?」

「実はね、この宝玉は私の父親の形見でね・・・・・」

天都先生の言葉を簡潔にまとめると、縁切りの宝玉は、考古学者であった父親がミャンマーで発見し、研究対象のひとつとしていたものであるらしい。
そして、天都先生はその研究を引き継ぐため、いろいろ手を回して父親の文献を回収し、少しずつ解析している最中だという。

「最近見つけた父の文献の中に、興味深いものを発見してね・・・・・実はこの縁切りの宝玉には対になったもうひとつの装身具があるらしいの」

天都先生は、ゆっくりと振り返りながらそう言う。
手には、展示ケースから取り出した宝玉を持っていた。

「『それは、空のように澄み渡った色を持つ宝玉なり。首飾りの形をなし、絆を守護せんとする』っていうのが民間伝承に残っていたらしいわ・・・何か、気が付かない?」

そういうと天都先生の視線は、乃絵美のほうに向かっていた。
いや、正確には乃絵美のつけた首飾りに向く。

「まさか・・・・・乃絵美のしている首飾りがそうだと言うんですか?」

乃絵美は戸惑った表情を浮かべたまま、自分の首に掛けられた首飾りを、そっと手に取る。

「確かに、偶然としてはあまりに出来すぎているけど、でも、何かこう、ね」

そう言って天都先生は少しおどけたような表情で自分の頭を指差す。

「乙女のカンがね、『ただの偶然じゃないぞ』って告げるのよ」

恭也は呆れた口調で天都先生に言う。

「はぁ、『乙女のカン』ですか・・・・・」

「何か文句でも?」

「い、いえ・・・で、でも短絡的すぎませんか?」

俺がそう言うと、天都先生も少し難しい顔をする。

「うーん、確かにちょっと短絡的だな、とは思ったんだけど、さっき、ここで恭也君達を見かけたときに、なんとなく・・・・確信したって程じゃないんだけど、
試す価値はあるかな・・・ってね」

ちろり、と舌を出す。
そのしぐさはうちの母と同じだった。
天都先生は美人というよりは可愛い女性という感じだった。

はぁ・・・・・・ここにも居たうちの母と同類が・・・・。
うちの母は三十路なのにまだ、二十代前半でも通用するだろう。
目の前の天都先生もうちの母と同じくらいだろうと思ってしまった。


「試すって・・・・具体的には?」

「うーん、そこなんだけど・・・・まぁ、単純にくっつけてみるとか・・・・ねえ、時間はとらせないからさぁ」

手を合わせる天都先生。
乃絵美のほうを見ると、乃絵美は少し笑っていた。

「私はいいよ?恭也さん」

「乃絵美はいいって言ってますけど、危険はないのですね?」

「ええ。多分、大丈夫だと思うけど・・・」

「わかりました。乃絵美の意思を尊重します」

「ありがとう。恭也くん、乃絵美ちゃん」

「ありがとう。恭也さん」

「じゃあ、乃絵美ちゃん、少し、こちらに寄ってくれるかしら?」

「はい」

そう言って、乃絵美の首に掛けたまま、その首飾りの装飾部分を手に取る。

「うーん、特に取り付ける部分とかも無いみたいだし・・・・やっぱり違うのかな?」

そう言いながら、天都先生が何気なく縁切りの宝玉を軽く触れさせた瞬間。

激しい音と共に、閃光が走った。
閃光が収まると、そこには驚いた表情の乃絵美と、天都先生の姿があった。
縁切りの宝玉は、床に落ちている。

「乃絵美!!!大丈夫か?」

恭也が慌てて駆け寄る。

「うん。私は大丈夫だよ。恭也さん、少しびっくりしたけど・・・」

乃絵美に外傷は無く、恭也はほっとした。

「天都先生も大丈夫ですか?」

「大丈夫よ・・・。それにしても驚いたわね・・・・。静電気・・・・じゃないわよね・・・」

そう言いながらこわごわ宝玉を拾い上げる。
宝玉は何事も無かったかのように、碧色に輝いている。

「うーん・・・・一体なんだったのかしら・・・もう一度、試してみていいかしら?」

恭也はダメだ、と言いそうになるが、乃絵美が嫌がっていないように見えるので言うのをやめる。
そして、天都先生はもう一度宝玉を首飾りの装飾部分に近づけようとすると・・・・

「あ、あら?」

ぽとり、と宝玉が床に落ちた。

「何をやっているのですか?天都先生」

「なぜかしら、宝玉を近づけようとすると、宝玉が逃げるように落ちるの」

そう聞きながら、今度は恭也が拾い上げ、乃絵美の首飾りと組み合わせようとした。

ぽとり。

宝玉は、三度、床に転がった。
なんの手応えも無く。
まるで掌をすり抜けたかのように。

「や、やっぱり・・・・何かあるのかしら・・・・」

天都先生の声も震えている。

俺は無言で宝玉を拾い上げる。
掌の中で、宝玉が身じろぎをしたような・・・・そんな気がした。

(バ、馬鹿な・・・・。この宝玉は生きているのか?)

「二人とも、ありがとうね。これ以上、やっても無駄みたいなので・・・」

「・・・・・・・・。天都先生、宝玉をお返しします」

「はい。ありがとう。恭也くん」

「それでは、天都先生、行きますね」

「二人とも気をつけてね」


二人は、天都先生と別れてから、公園に来ていた。

公園の芝生に座りながら、二人はしゃべっていた。

乃絵美が何を思ったのか、こんなことを言い出した。

「恭也さん・・・?」

「・・・・・ん。なんだい?乃絵美」

乃絵美はすこし、もじもじしながら、口を開く。

「膝枕・・・・してあげるね」

「・・・・・・・・・・・・」

恭也は思考が停止し、身動きが取れなくなる。
乃絵美は固まっている恭也の頭を膝の上におろした。

「・・・・・・・・・・・・・む」

恭也は、何とか、再起動したもののまた、固まってしまった。

「・・・・・・・・・・・・・・」

芝生の上に膝枕されて寝ている恭也と膝枕している乃絵美。
照れくさそうに乃絵美を見る恭也とうれしそうに微笑みかける乃絵美。
二人にとってこの時間は、本当に穏やかな時間。
これまで乃絵美の身に起きた出来事が嘘のようにこの瞬間だけは消えていた。
この穏やかな時間が、永遠に続けばいいのにと二人は願わずにはいられなかった・・・・・・。
そんな、とりとめもない想いを、僅かに感じながら。
いつもとはほんの少しだけ違う一日が、ただ過ぎていった。


次の話に続きます。「第三章 静かな一日 第一話」へ



あとがき

ふむ。
今回のお話はちょっと難産でした。
小鈴「・・・・・・。京梧、いつの間に帰ってきたのかしら?」
む・・・・・。
いつだろうね。
小鈴「まぁ、いいわ。今回は約束どおりのものになっているじゃない」
元々、こういうものを書く予定だったし。
最後の膝枕は譲れない・・・・・。というか、俺も乃絵美に膝枕されてみたい。
小鈴「と、京梧の暴走は置いといて。京梧はあまり、甘いお話も得意じゃなかったみたいです。私から、謝っておきますね」
小鈴ちゃん。
今日はやけにやさしいね。
小鈴「たまにはいいでしょ?」
うん。いいね。
小鈴「今回はこの辺りで」
感想は掲示板にてお願いします。
小鈴「またね」



ほのぼのとした感お出掛け編。
美姫 「何事もない日常のようだけど」
宝玉がちょっと気になるな。
美姫 「よね。このまま何事もなく済むのかしら」
一体どうなるのやら。
美姫 「次回をお待ちしてますね」
待っています。



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