(注)これは、魔法少女リリカルなのはA’sの後日談(A’s第12話時点)という条件で書いてますので…あと、キャラの性格がかなり違うので…それを踏まえてお読みください。

恭也の年齢は20歳で大学一回生で、A’s本編の一年後という時間軸です。

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはAs

第X話 それは激しい恋のバトルなの

 

 

 

 

 

12月24日:クリスマス・イブ………ここ海鳴でも街をクリスマスムードが覆い、煌びやかな様相を醸し出している。

それはここ……翠屋でも同じであった。

店先に飾られた小振りなツリーとクリスマスのイルミネーション……だが、普段はまだ営業時間であるはずが、ドアの前には『本日貸切』という札がかけられている。

今日は高町家の面々とそこへ招待された八神家の面々がクリスマスパーティーの準備に勤しんでいた。

厨房では、クリスマスのために腕を振るう翠屋の店長にしてチーフパティシエの桃子がボールを片手に鼻歌混じりに掻き混ぜている。

「あ、はやてちゃん…卵を取ってくれない」

「あ、はい……」

桃子の呼び掛けに応じる車椅子の少女:八神はやては車椅子だというのに器用に厨房内を移動して、卵を取り、それを割ってボールに入れると桃子に手渡す。

「どうぞ」

「ありがと…ホント手際いいわね……うちに欲しいぐらいだわ」

「いえ…桃子さんにそう言ってもらえると照れますがな………」

元々一人暮らしの長かったはやてにしてみれば生活に必要なものとして身に付けた技能だ…そこまで褒められるとなにか気恥ずかしい。

嬉しそうに頬を染めて照れるはやてに桃子は一瞬抱き締めたい衝動にかられるも、なんとか抑え込む。

「あら、桃子さん本気よ……そこまでできるんだから、すぐ即戦力よ」

「ありがとうございます」

「主よ……間もなく焼け終えます」

談笑を交わす桃子とはやてに掛かる声…そちらに振り向くと、銀髪の女性がオーブンの前で佇んでいた。

「あ、リインフォース…解かったわ」

はやてはその女性:リインフォースに近づく……そして、オーブンを覗き込む彼女と並ぶように中を覗き込む。

「うん、OKや…桃子さーん、もうすぐスポンジ焼けますよー」

「ええ、じゃ早いとこクリーム作り終えないとね。はやてちゃん、悪いんだけどフルーツのカットお願いしていい?」

「はいです。リインフォース、手伝ってぇな」

「はい」

二人は揃って用意されていた盛り付け用のフルーツの準備に取り掛かる……黙々と準備を進めるなか…厨房の奥から喧騒が響いてくる。

「なに言ってんのや! 味付けはうちがやるんやで!」

「何言ってんのはそっちだろうが! 亀の味付けなんかで食えるかよ!」

「なんやて!!」

料理担当班のレンと晶が言い争い、思わず手が止まる。

「主よ……アレは放っておいていいのでしょうか?」

「うーん……ええんとちゃう。桃子さんもさっきそう言ってたし」

ニコニコ笑顔でそう答えた桃子の言葉を思い出し、二人はそのまま作業を再開し始めた。

「あっちの方の準備、皆ちゃんとやってるかな……?」

はやては厨房の前……会場の方の準備を手伝ってる面々を思い、思わず首を傾げた。

 

 

厨房の外…翠屋の店内では、調理班以外の面々が飾り付けを行なっていた。

店内の端には、天井まで届くほどのツリーが飾られ、それに対し飾り付けを行なっている。

「はい、ヴィータちゃん」

「う、うん」

なのはの親友である月村すずかの手渡す飾りをおずおずと受け取った少女:ヴィータはツリーに飾り付けていく。

「ちょっと、それってもう少しこっちにしないと…少し固まりすぎよ」

やや棘のある口調にカチンときたのか、ヴィータは眼を吊り上げる。

「うるさいっ! どこに飾ろうと私の勝手だろっ」

「なんですって!」

ヴィータに突っ掛かるのは同じくなのはの親友のアリサ=バニングス。ともに勝気な性格の二人……睨み合う二人の間に仲裁に入る。

「ま、まあまあ…アリサちゃんもヴィーダちゃんも落ち着いて…ね。ほら、ヴィータちゃん…これ最後だよ」

引き攣った笑みを浮かべながら仲裁するすずか……そして、最後の飾りである星型の装飾品を手渡す。

「これは?」

「お星様だよ…ツリーのてっぺんに付けるの」

「てっぺん……」

ツリーを見上げる……天井に届くほどの高さを誇るこのツリーの頂上は、台に乗っていてもヴィータには果てしない高さに見えた。

「あんたの身長じゃ、無理よね……」

「アリサちゃん!」

なおも余計なことを口走るアリサにさらにカチンとなり、ヴィータは台の上でピョンピョン跳ねて付けようとするが、足元が危ない。

「ちょっとあんた、危ないわよ」

流石にその様子には焦ったのか、止めに入ろうとするもヴィータは聞かない…その時、ヴィータの身体が持ち上げられた。

「え……?」

ヴィータが驚いて振り向くと、そこには一人の男性が身体を持ち上げていた。

「あ、恭也さん」

すずかが安心したように呟くと、ヴィータを持ち上げる青年:高町恭也は笑みを浮かべた。

「ほら、危ないぞ……」

小柄とはいえ、ヴィータの身体を悠々と持ち上げ、肩車して台の上に乗る。

「これで届くだろ」

「う、うん……」

やや小さい声で頷くと、ヴィータは腕を伸ばして星をツリーの頂点につける。

それを確認すると、恭也は台から降り、ヴィータを降ろす。そして、電飾のスイッチを押すと、ツリーに飾られた電飾が煌びやかに光り、ヴィータの眼は先程自分でつけた星に向けられ、眼を輝かせていた。

「お兄ちゃん、こっち手伝って」

その様子を見詰めていた恭也を呼ぶ声に応じ、振り向くとその恭也の手が引かれ…振り返ると、ヴィータが掴んでいた。

「あ、あのさ…その……ありがとう」

やや眼を逸らして気恥ずかしそうに礼を述べると、恭也はヴィータの頭を撫で、呼ばれた方向へ歩いていく。

残されたヴィータはそれを見詰めていたが、すぐさまアリサやすずかにからかわれ…二人に手を引かれ、別の場所へと連れていかれていった。

 

 

恭也が手伝いに向かった先は、料理を並べるテーブルの準備に勤しんでいた。

「あ、お兄ちゃん…悪いんだけど、シグナムさんと一緒にテーブルのセッティングお願い」

「ああ、解かった」

なのはの申し出に頷き、恭也がテーブルを準備している長身の女性:シグナムに近づく。

「手伝います」

「そうか、すまない」

言葉少なく了解を取ると、テーブルの端と端を持ち、それを合わせていく。

そのまま恭也がテーブルクロスを取り、片方を投げるとシグナムがそれをキャッチし、拡げてテーブルにかけていく。

流れるような作業になのはや周辺の飾り付けをしていたフェイトは思わず作業を止めて見詰めていた。

「なんか、恭也さんとシグナム…随分息が合ってるというか……」

「雰囲気似てるもんね……」

互いに言葉が少なく、寡黙なところと家族を大切にする…おまけに互いに剣の達人というほど共通点の多い二人……なにか、そう考えるとなのはとフェイトの表情が不機嫌なものに変わる。

「ちょっとなのは〜手を止めてないで早くしてよ〜〜」

そんななのはに向かって声を掛ける一応の姉である美由希……年齢的に年上のはずが、性格的なものはなのはとフェイトの方がしっかりしていると以前恭也に言われ、へこんだことがあった。

「ああ、ごめんごめん」

慌てて作業を再開し、内装の飾り付けをしていく……その作業を行いながら、美由希が大仰に溜め息をついた。

「? どうしたの、お姉ちゃん?」

「だって……恭ちゃん、準備中は私に厨房に入るなって言ったんだよ〜〜ううっ、そこまで言わなくても……」

準備するに当たって、恭也は美由希に厨房への立ち入りを固く禁じていた……曰く…せっかく招待した方々にお前の毒料理を食わせるわけにはいかないと……美由希がガーンというショックを受けたのも当然かもしれないが……

「あ、あははは……」

実際に美由希の料理の腕を知っているだけになのはには乾いた笑みしか浮かべられない…事実、美由希が作るよりもなのはやフェイトの方が料理が美味いのだ。美由希の落ち込みも半端ではない……

テーブルクロスを引き終えた恭也とシグナムの傍に歩み寄る優しげな女性:シャマルが両手に沢山の皿を抱えている。

「あ、シャマルさん手伝います」

「あ、すいません」

恭也がシャマルから皿を半分持ち、それを並べていく。

「え、と……」

「あ、それはこっちに……」

置く場所を思案していたところに恭也が声を掛け、皿の上で思わず手が重なり、互いに引っ込める。

「あ、その…すいません……」

「い、いえ…お気になさらず」

シャマルが照れたように小さく謝罪すると、恭也も僅かに照れたように頭を下げる。

その様子になのはとフェイトはまたしても表情をムッとさせるが…同じ表情を浮かべているのは二人だけではなかった。

「あ、恭也さん…あと皆さんのフォークとナイフも手伝ってもらえますか?」

「ええ、構いませんよ」

ニコニコと笑顔で頼むシャマルに恭也も応じると…横から声が掛かる。

「シャマル、私も手伝おう」

微かに吊り上がった眉を浮かべ、憮然とした表情でシグナムが声を掛けるも、シャマルは笑顔を浮かべたまま答える。

「あ、シグナムははやてちゃんの方に行ってください。もうすぐケーキが焼き上がるそうなので……ここは私と恭也さんでやりますので」

笑顔で制するシャマルにシグナムは言葉を詰まらせる……流石にはやてを引き合いに出されてはシグナムは断れない。

憮然としたまま、身を翻し…厨房に向かっていく………

「…シャマルさん、なかなか策士ね」

「そうだね……」

その手際のよさにフェイトとなのははヒソヒソと言葉を交わす……それに、おっとり系の美人だ……強敵と二人が作業そっちのけで会話し…美由希が思わず漏らした。

「二人とも〜いい加減手伝ってよ〜〜」

微かに泣きが入った眼でそう呟く美由希の言葉は力なく消えていく………

そんなドタバタを動物モードで見詰める二匹…いや、二人………青い大型犬と赤い小型犬……フェイトの使い魔であるアルフとはやての守護騎士であるザフィーラだ。ともに人間形態に多少問題があり、事情を知らない高町家の面々の前ではこうして動物形態を取らざるをえない。

「やれやれ……あいつらも苦労するね〜〜」

何気にボソッと漏らすアルフにザフィーラは無言のままであった……

 

 

それから数分後……大きなケーキを抱えたシグナムが厨房から姿を見せ、それにはやてが同行している。

「あ、シャマル…もうじき料理できるそうやから運ぶの手伝ってぇな」

「あ、はーい」

はやてから呼び掛けにシャマルが小走りに厨房内に向かっていく。全員の食器分配を終えた恭也は一息つくと、声を掛けられた。

「お兄ちゃん、お疲れ」

「お、そっちは終わったのか」

「あ、はい……」

声を掛けてきたなのはとフェイトに応じる……もっとも、二人はほとんど作業を美由希に任せていたのだが………

「ねぇお兄ちゃん……なんか、不思議だね…こうして皆でいられるって」

何気に発せられた言葉に恭也が耳を傾ける。

「ん? 何がだ?」

「だって、前はそうじゃなかったし……」

「そうだよね…アレからもう一年だもんね……」

フェイトが相槌を打ち、恭也もどこか懐かしむように記憶に思いを馳せる……一年前……あの『闇の書事件』からそれだけの月日が経っている。

フェイトが関わった『ジュエルシード事件』の裁判が終わりに近づいた頃に突然起こった謎の襲撃……闇の書の主となったはやてとその守護騎士達との譲れぬ願いとすれ違いの戦い……なのはやフェイト、そして恭也も苦悩しながらも戦い……過去から続く闇の書の因縁に決着をつけるため……はやてが闇の書の防衛プログラムを切り離し、協力して消滅させた事件……アレほどの大きな戦闘はなのはや恭也達にとっては滅多にないものだった。

その後の様々な経緯を経て、今日に至る……守護騎士達の行いは酌量の余地があるのと闇の書の事件解決に尽力したということでリンディらが動いてくれ、こうして彼らは今も静かに…そして今度こそ望んだなかで生きている。

「ちょっと恭ちゃんになのは〜なにボウッとしてるのよ」

なにか、随分浸っていたらしく…美由希に声を掛けられてようやく気づいた。

「あ、いや…なんでもないぞ」

「そ、そうだよ」

慌てて言い繕う……闇の書事件に関しては高町家の面々は知らない…敢えて話すこともないと思った……美由希は特に気にした様子もなく、首を傾げた。

「そう? まあ、いくら恭ちゃんが枯れてるからって流石に痴呆症はまだ早いよね、ははは……」

無意識に出た言葉に……恭也は躊躇うことなく美由希の頭に脳天チョップを…しかも割と本気で叩き込んだ。

「ふぎゃっ…い、痛いよ恭ちゃん〜〜」

「黙れ、馬鹿弟子」

涙眼で抗議する美由希に恭也は冷たく一瞥し、なのはとフェイトは美由希の言に納得しつつも口に出した自業自得だと思い、乾いた笑みを浮かべていた。

 

 

十分後…準備が整い、全員がテーブルを囲むように集合する。中央に大きなクリスマスケーキと周囲に並べられた数々の料理……

「はぁーい、皆…グラスは持った?」

音頭を取る桃子に全員がグラスを片手に持つ。

「それじゃ、メリークリスマス!」

桃子の音頭に続いて皆が口々に叫び、グラスの乾杯を交わす。

「今日は桃子さんの驕りだから、遠慮しないでどんどん召し上がってね」

気前よく笑う桃子……そして、皆が思い思いに料理を手に取る。

「はやて、これ美味いぞ」

サンタクロース装束に着替えたヴィータがケーキを頬張りながらはやてに呟き、それにはやても笑みを浮かべる。

「うちの自信作やで…そういってくれると作った甲斐あったわ。もっと食べてぇな」

「うん!」

またもやケーキに手を出すヴィータ……リインフォースがはやてのために料理を取り、差し出す。

「主よ、これでいいですか?」

「ありがとうやで……悪いなぁ」

「いえ」

思い思いに談笑を交わすなか、アリサやすずか達と話していたなのはとフェイトであったが……その時、視界の端に恭也がシグナムに話し掛けているのに気づいた。

「あまりケーキ類に手を出していないが…お気に召さなかったか?」

「いや…主のケーキは美味しいのだが、私はあまり甘いものが得意ではなくてな……」

はやての作ったケーキはいいのだが、やはり甘いものに不慣れな分、桃子の作ったケーキ類にはほとんど手を出していない。

「そうか…俺もあまり甘いものは苦手でな……なら、こいつはどうだ。抹茶ケーキだ…甘さは控えてあるから、いけるぞ」

「そうか……ではいただく」

取られた抹茶色のケーキを受け取り、フォークで切り分けて口に運ぶ。無言のまま味を噛み締め、呑み込む。

「……成る程。私に合っている」

「そうか、それはよかった……」

笑顔を浮かべる恭也にシグナムは微かに照れたように視線を逸らす。訝しむ恭也に向かって声が掛かる。

「きょ、恭也さん…あの、このお菓子どうですか…美味しいですよ」

隣を見ると、フェイトが笑顔を浮かべてクッキーの入ったバスケットを差し出していた。

「ああ、すまない…いただくよ」

一つまみし、クッキーを口に放り込むと細かく砕く音が聞こえる……そして、フェイトに向かって軽く笑みを浮かべると、屈み込んで呟く。

「ありがとう、フェイト…遠慮せずにどんどん食べてくれよ」

「あ、はい…あの、その……少し、いいですか?」

「ん、何だ?」

「その……ま、また稽古つけてくださいね、剣の」

ややたどたどしい言葉でそう言い放つ……そう…フェイトは恭也に剣の教えを受けていた。どちらかという近接戦を主軸とするフェイト……そして、恭也に剣の教えを乞うたのが一年前の事件の最中……勿論、恭也は御神流ではなく通常の剣の基礎を教えていたのだが…これが意外に筋がよく、美由希よりも教え甲斐があると漏らし、一番弟子は黄昏ていたが………

「別に構わないが……」

「ほう? なら、私も加わってもよいかな?」

その話に割り込んでくる声……抹茶ケーキに舌鼓を打っていたシグナムがやや低い声で話し掛けてきた。その声に恭也ではなく…フェイトの方がどこか顰まった表情で振り向いた。

「私も剣には多少自信がある……それを試させてもらいたい……」

「それは構わないが……」

フェイトがそもそもの剣の教えを受けたのも剣を得意とするシグナムとの戦いにおいて互角に戦うためだった……短期間で互角に渡り合うほどに腕を上げたフェイトと、実際に刃を交わした恭也……戦士としてのシグナムの感覚も騒ぐも、それには微妙な心持ちが絡んでいるが……

「それとも、私はお邪魔かな……」

どこか挑発的な視線を浮かべるシグナムにフェイトの表情がやや厳しくなる……出逢った当初からのライバルは……新たな意味合いでライバルになってしまったようだ。

なにか不穏な空気が漂う両者を見比べ、頭を捻る恭也……この男には、一生掛かっても理解できない感情かもしれないが……その時、裾を引っ張られ恭也が振り向くと、そこにはヴィータがいた。

「ん? どうしたんだ?」

屈み込んだまま……ヴィータに話し掛ける恭也…フェイトとシグナムは完全に相手に対しまるで睨み合っているので気づいていない。

ヴィータややムッとした表情のまま、持っていた皿を突き出した。

「これっ、はやてが作ったんだ……美味いから食え」

やや喧嘩越しに近い言葉だったが、そっぽを向きながらも差し出すヴィータに恭也は微笑ましくなり、ケーキを受け取る代わりにポケットからハンカチを取り出した。

「ケーキはいただくよ…その前に、少しジッとしてろ」

「うわっ、なにする……」

恭也の手が肩に置かれ、ヴィータが慌てる前に右手のハンカチでヴィータの口周りについたクリームを拭っていく。

「ホッペにつきっぱなしだぞ……彼女の作ったケーキが美味しいのは解かるが、気をつけないと汚れてしまうぞ」

言いながら口周りのクリームを大方取り、恭也がよしっとばかりに立ち上がると…ヴィータが俯いたまま呟いた。

「……ありがと」

照れを隠すようなその様子に恭也はヴィーダの頭を撫でる。

「こっちこそ、ケーキありがとうな……その格好、似合ってて可愛いぞ」

不意打ちに近いその言葉にヴィータの頬がますます赤くなって俯く……なにか、見てて微笑ましい光景だが……ケーキを食べる恭也にコーヒーが差し出された。

「あ、あの…恭也さんはコーヒーブラックでよろしかったですよね?」

「ええ、どうもすいません」

コーヒーを差し出すシャマルに礼を述べると、ケーキを食べ終え、コーヒーを一口口に含む。ブラックだけあってなかなかいい苦みだが……そのなかに微かな甘みがある。

「これは、ブラックじゃないですね……少し甘みが………これは…チョコですね……微かにその甘みがします」

「あ、解かっちゃいましたか」

「これでもパティシエの息子ですので」

よく桃子の作るお菓子をメニューに加える際、恭也は味見をする…そのために味覚が鍛えられ、特に菓子材料に関してはかなりの味覚が備わっている。

「ええ、前にはやてちゃんに疲れてるときは甘いものがいいと言われて…それで、砂糖よりもチョコレートを少し砕いて入れてみました」

「成る程……いい味を出してますよ」

なかなか恭也の好みに合っている……褒められ、シャマルは笑顔で頭を掻く。だが、その雰囲気にムッとする人物が下にいた。

ヴィータは恭也の手をぐいっと引き、コーヒーを零さないように顔を下に向けると、ヴィータがせがむように呟いた。

「私も飲みたい……それ欲しい」

「これか?」

唐突な言葉にカップを差すと、コクリと頷く。

「え? ヴィータちゃんコーヒー嫌いなんじゃ……」

家でもあまりコーヒー類を飲まないヴィータ……戸惑うシャマルを横になおも飲みたいとせがむ。

「解かったよ…ケーキ持ってきてもらったしな。飲みかけで悪いが……」

その言葉に今度はシャマルの方が固まる…そんなシャマルを横に恭也から受け取ったヴィータは嬉しそうにコーヒーを啜るも……いくらチョコが入っているとはいえ、それは微量……やはり苦味の方が勝り、ヴィータはカップを恭也に渡して脱兎のごとくその場を離れ、テーブルのケーキ類に走っていく。

その後姿に苦笑を浮かべていたが、今度は別に腕を引っ張られ……その場から連れ出されていった………

 

「……主よ……なにか、皆の様子が変なのですが………」

それらのやり取りを見ていたリインフォースが思わず呟くも、はやては楽しげに笑う。

「変やないで……みぃんな微笑ましいな………」

「でも、なのはも結構やるわよね……」

「クス、そうだね」

同じ場所にいたアリサやすずかがその楽しい光景に笑みを噛み殺す。そんな様子にはやても相槌を打ちながら、なんとはなしにリインフォースに向かって問い掛ける。

「な、リインフォース」

「はい?」

「今、楽しい?」

唐突に問い掛けられ……一瞬、意表を衝かれるも……リインフォースは無愛想だった表情を微かに緩め、答えた。

「はい……主よ」

かつての闇の囚われていた面影が薄れ…以前は見せなかった柔らかな表情に、はやても笑みを浮かべて応じた。

「ほんなら、うちも幸せや……」

そう……今までのどの瞬間よりも………願わくば…この優しい時間が続くことを………

 

 

 

「お、おいなのは……なんだ?」

「少しぐらい外に出ても大丈夫だよ」

いきなりあの喧騒のなかから連れ出された恭也……なのはに腕を引かれ、翠屋の外に出る。

「しかし、皆を放っておいていいのか……」

「大丈夫だよ……それより、お兄ちゃん……はいっこれ」

恭也に向かって差し出した大きな包み……綺麗にラッピングされている。

「私からのクリスマスプレゼント……まだ手編みはできないから手作りじゃないんだけど……セーターだよ」

「そうか、ありがとうなのは」

精一杯微笑んで感謝を述べる恭也……なのはも嬉しそうに微笑む。

「俺からもなのはにプレゼントがある……」

ゴソゴソとポケットを探り…そして、小さな包みを差し出す。

受け取ると、なのは眼を輝かせて尋ねる。

「ね、開けていい?」

「ああ、構わないぞ」

包みを空け、中身を取り出すと……それは白いリボン………

「お兄ちゃん、これって……」

「新しいリボンが欲しいと前に言ってただろう……迷ったんだが、なのはに合うと思って白にしたんだが……」

「ありがとう、お兄ちゃん!」

満足そうな笑みに恭也もホッとしたように息を吐く……なのはは早速、今髪を纏めているリボンを解き、そのリボンをつけようとするが、鏡がないとやはり纏めにくい。

「貸してみろ」

そんななのはからリボンを受け取り、恭也はなのはの髪を慣れた手つきで纏め、左右にリボンを結ぶ。

その姿を、店のガラスに映す。

「よく似合ってるぞ」

「えへへ…ありがとう」

笑みを交し合うなのはと恭也……そこへ、白い結晶が舞い降りてくる。

「うわ、雪だよ……」

「ああ」

「ホワイトクリスマスだね……」

降り注ぐ白い結晶を、二人は暫し見詰め合う………そして…この幸せな時間がこれからも続くことを祈りながら………

 

 

 

 

 

「……私達、親友だと思ってたけど…やっぱりライバルだね」

「なかなか手強いな…だが、それでこそ不足はない…」

「やぁぁっぱ、お前だけは気に喰わないぃぃぃ」

「……なのはちゃん、少し羨ましい」

店に戻った後……そう責められるなのは………だが、なのは表情を引き攣らせながらも言い返した。

「だ、だって……私だってお兄ちゃんのこと好きなんだもん……」

聖夜は皆の幸福の時間……そして……恋のバトルはまだまだ終わらない………

 

 

 

 

 

 

 


【後書き】

 

まだ終わっていないリリカルなのは’sでのクリスマスSS、どうだったでしょうか?

本編の最後がどうなるか解からないので、あくまで12話時点での状況から判断して書きました……本編後の如何によってはパラレルワールドものと解釈ください。(いい加減だな……汗)

今回は結構時間がなくて…正直クリスマスに間に合うか解かりませんでしたが、なんとか間に合ってホッとしています。

なかなか熱いドラマ展開の’s、流石に第3期はないと思いますが………

毎度の事ながら、キャラの性格が違うかもしれないのと…ネタばれ含んでいるので………ではでは………皆さん、よいクリスマス、よい御年を……





楽しければOK〜。
美姫 「そうそう、折角のクリスマスだしね。クリスマスSS、だしね」
ぐっぬぬぬぬっ。シクシク……。
美姫 「謝りなさいよ」
すいません、すいません(涙)
美姫 「ったく、馬鹿なんだから」
ううぅぅぅぅ。
と、兎に角、素敵なSSをありがとうございました。
美姫 「ありがと〜」



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