護る者、そして・・

 

第一話 始まり

 

護は意を決して校門をくぐった。

(この感じは・・)

学園の中に入っただけでまるで外の世界と違う感じがした。

今まで護のいた世界と空気からして違うのだ。

(なんか落ち着かない感じだ、あ、そういえば・・)

護は思い出したかのように懐から眼鏡ケースを取り出し、今かけているメガネとその中に入っていたメガネと交換した。

新しくかけたメガネは分厚いビンゾコのようなグルグルメガネでつけると護の顔半分を覆い隠すようだった。

もともと護は目は悪くなくメガネをつけるのは強すぎる力を抑え、この世のものではないものを見ないようにするためのものだ。

普段つけているもの神眼封じの眼鏡も十分その役割を果たしているがここに来る前、課長にこの眼鏡をかけるようにいわれた。

この眼鏡も効果は同じなのだが、レンズが白抜きで分厚く素顔が見えないようになっている。

なぜこれをかけないといけないのか聞くと『護衛が目立っちゃいかんだろ』と課長に言われた。

意味がよくわからなかったが素直に聞くことにした。

 

『何をやっている、さっさっと行かんか』

護が肩にかけているバットをしまうようなケースから声がした。

実際護にしか聞こえないのだが。

「ちょっと黙っててよ、天狼牙」

ケースの中にあるのは魔剣と呼ばれた刀、天狼牙である。

『緊張しておるのか、今や名前を聞いただけで裏社会の罪人や魔のものが震え上がるような男がたがが女子(おなご)の私塾におびえておるのか』

「それとこれとは話は別だから」

(いかん、これじゃあただの独り言を言っている危ないやつだ、誰か来る前にさっさと理事長室へいこう)

護はあわててその場を後にした。

 

理事長室の前に着くと護はドアをノックした。

「はい」

「永田護と申します、入ってよろしいでしょうか」

「ええ、どうぞ」

「失礼します」

部屋に入る際、丁寧お辞儀をして入った。

そこにいたのは品のいい感じの老齢の女性だった。

護はびしっと額に手を当て最敬礼し

「はじめまして、私冥京大学教育学部および国土危機管理局より参りました永田護です」

女性はくすくす笑いながら

「永田さん、敬礼はいいですよ」

はっと気づいた護はあわてて手を戻し

「失礼しました、すいません、つい癖で・・」

「いえ、私のほうこそ笑ったりしてすいません、自己紹介がまだでしたね、私当学園の理事長を勤めさせてもらっている、上村と申します」

「よろしくお願いします」

「先ほどから見て、永田さんは大変礼儀正しい方ですね」

「いえ、私は無作法者でして、せめて体裁だけでも整えようとしているだけです」

「まあ、謙虚な方でもあるんですね、どうぞこちらへ」

上村に促されて護はソファーに座った。

「あの、失礼ですが、徳田さんからはどの程度まで聞いていますか・・」

護が心配なのは理事長がどの程度まで知っているかということだった。

実際護が国管にいること自体秘密なのだ。

「徳田さんからは貴方が学生でもあり部下でもあるということと詳しい仕事内容はお教えすることはできないが今回のようなことでは大変頼もしい力になれる方だと聞いております」

それを聞いて護はほっとした。

まさか化け物相手に戦っていますなんていうわけにはいかない。

特生の存在自体国家機密に相当するのだ。

「それで今回の件なんですが・・・」

「はい、まずはこちらをご覧ください・・」

渡されたのは黒い封筒に入っていた便箋だった。

「これが・・」

「はい、最近は毎日のように届けられまして・・」

その内容は脅迫めいた言葉が書かれていたが威圧的に脅すわけではなく季節の挨拶から始まるようなシンプルな言葉がワープロ文章でプリントされていた。

「一番最近の物はこれなんですが・・」

『リリアンが誇るバラ達をいずれ頂きに参ります』

(バラ?)

人を喰ったような中傷的かつ妙に丁寧な犯行予告に護は少しの疑問と憤りを感じた。

(確かにこの文章じゃあ脅迫行為と立証するのは難しいだろうな、そこも犯人の狙いかもしれない、でもなぜ生徒をバラに例えてるんだ?)

「私どもの学園には比較的裕福な家庭の生徒が多いため、このようなことが起こらないように気を配っていたのですが・・・」

理事長が残念そうに首を下げる。

「上村理事長、悪いのはこういうことをする犯罪者なんです、もしものことがあったら私が命に変えても皆さんを護ります!こんなことをする輩のために何の罪もない人たちが不幸になるなんて決してあってはならないんです!!」

叫ぶような護の言葉に理事長は一瞬驚く。

護もはっとなり恥ずかしそうに顔を背けた。

「すいません、つい熱くなってしまって・・・」

「いえ、少々驚きましたが・・でも良かった、来てくれたのがあなたのような方で・・」

「え?」

「正直言いますと若い方だと聞いて少し不安もあったんです、でも永田さんのような方でしたら今回のこともお任せできます」

「そうですか、ありがとうございます」

理事長の言葉に護も微笑みながら感謝の言葉を口にした。

「あの、それで、今回狙われている生徒は特定できているのでしょうか・・」

いくら護でもリリアンすべての生徒を守るのは不可能に近い。

「ええ、おそらく犯人の狙いは生徒会のメンバーだと思われます、この資料に詳細が書かれているので目を通しといてください」

渡された封筒に入っていたリストを読む。

福沢祐巳

島津由乃

藤堂志摩子

小笠原祥子

支倉令

水野蓉子

鳥居江利子

佐藤聖

リストにはこれらの名前が書かれていた。

(学年もクラスも違うのか、厄介だな、詳しいことは後で確認しよう)

「そろそろ時間ですので、私はこれで」

護衛の件も重要だがあくまで護はこの学園に実習に来ているのだ。

時間に遅れるわけにはいかない。

この後、担当の教師と会わないといけないのだ。

あわただしく理事長室をあとにしようとしたがふと護の頭に当初からあった疑問がよぎった。

「あの理事長ひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」

「はい、私が答えられることでしたらなんでも・・・」

「護衛の件は別として・・私を実習生としてなぜリリアン女学園に受け入れてくれたのですか?」

「それはどういう意味ですか?」

「いや、その・・私はもちろんこの学園の卒業生というわけでもありませんし、この学園に縁があるような家の出身というわけでもありません。実習に来ながらこういう言い方は何なんですが・・その・・女子高に若い男性が入るというのはその・・・」

いいにくそうな護の言葉に理事長は微笑みながら答えた。

「ふふ・・本当に永田さんってまじめな方なんですね。徳田さんからも冥京大の上田教授からも品性・人格・教養、すべてにおいて問題なしとお墨付きをもらっています」

「教授からですか」

あのめったに人をほめることがない自分の担当教授がそう評価してくれたのには驚いた。

「ええ、それにあなたが実習生としてこの学園にいることがあなたにとってもリリアンにとっても良いことだともいってましたわ」

(僕にとってもリリアンにとっても?)

正直この言葉に意味がこのとき護はわからなかった。

「先ほどもいいましたが正直お会いするまで少し不安がありました、でも永田さんにあって徳田さんや上田教授の言っていたことが間違いではないと確信しました」

「いや、その・・恐縮です」

めったにほめられない護はそこまでほめられて戸惑っていた。

「ご期待に沿えるかどうかわかりませんが、永田護、実習・護衛に全力で当たらさせてももらいます。それでは失礼します」

今度こそ理事長室を出ようとするが

「すいません、こちらからも質問よろしいですか?」

「あ、はい、何ですか?」

護は立ち止まって聞いた。

「事件とは関係なのですが、なぜその眼鏡をかけているのですか」

先に送られた資料では目が悪いとは書いていなかった。

「あ、これですか、徳田さんが護衛が目立たないようにとくれたんです。よかったらはずしときましょうか」

そういって護はメガネをはずした。

大きな眼鏡で隠されていた護の素顔は端正な顔立ちで絶世の美男子というわけでは無いが、人柄がにじみ出てる様な優しい雰囲気があった。

近頃流行の韓流スターのようである。

「ああ、なるほど、いえ、眼鏡は掛けたままで結構です」

理事長は納得したようにうなずいた。

「?」

護はなぜ理事長が納得したのかわからず首を傾げたがいわれたとおりに再び眼鏡を掛けた。

「それでは、今度こそ失礼します」

護は礼儀多々しくお辞儀をして理事長室を後にした。

「確かにあれでは目立ってしまいますね」

護が出て行った後、上村はポツリと呟き席を立った。

窓を見ながら今回のことを徳田にお願いしたときのことを思い出した。

護がどんな方だと聞いたとき徳田はこう答えた。

『一言で言うのは難しいがあえて言うなら今の時代に数少ないサムライの一人と申しましょうか』

其の時は大げさにも感じたが護の雰囲気をみて決して徳田が言ったことが過言では無いということがとわかった。

乙女の園に来たサムライ

なんともミスマッチではないか、しかし今そのサムライの肩にリリアンの将来がかかっているのだ。

「頼みましたよ、永田さん」

 

 

 

 

 

 


あとがき

うーん予想以上に長くなった。

次回ようやく彼女たちと・・・

     

     





譲と学園長の面会も終了〜。
美姫 「次回はいよいよ彼女たちの登場ね」
一体、どんな風に出会うのか。
美姫 「そして、どうなっていくのか」
次回も楽しみに待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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