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 「でも・・・どうして祐巳さまは、そんなに瞳子の事をスールにしたいのですか?」
 
 「どうして?」
 
 祐巳さまは、どうして瞳子がそんな質問をしたのか分らないような表情をしていた。
 
 「だって祐巳さまは、近頃可南子さんと仲良くしてらっしゃるでは有りませんか」
 
 「それで?」
 
 「だから、可南子さんをスールに・・・」
 
 「う〜ん、確かにここ最近可南子ちゃんとは仲良くなったし良い関係だとは私自身そう感じてるけど、妹にするつもりは無いの・・・って言うか、可南子ちゃん本当に妹になるつもりは無いみたい」
 
 「どうしてですか?」
 
 「これは内緒なんだけど、可南子ちゃん好きなお姉さまが出来たみたいなの」
 
 「そうなのですか?」
 
 「うん、私も聞いたばかりだからね」
 
 楽しそうに答える祐巳さまの事を見詰めながら、瞳子はそれまで色んな意味でざわついていた気持ちが落ち着いてきたのを感じ始めて来たのだ。
 
 祐巳さまは、暫らく自身のロザリオを見詰めると、「瞳子ちゃんはロザリオの意味を考えた事って有る?」と聞いてきた。
 
 「えっ、あの、姉妹になる為には必要な・・・でも」

 瞳子は、どう答えて良いのか分らず慌ててしまっていた。
 
 「瞳子ちゃんの考えてる事は有ってると思うよ、でも私はそれだけじゃないと思うの」
 
 「それだけじゃ・・・ない?」
 
 祐巳さまは、ぎゅっとロザリオを握りしめた。 「うん、実はね、前にお姉さまから同じ質問された事があるんだ」
 
 「同じ質問ですか?」
 
 「ええ」
 
 「それで、祐巳さまは何て答えたんですか?」
 
 興味津々、瞳子が矢継ぎ早に聞いていた。
 
 「同じよ」
 
 「同じ・・・」
 
 「そう、私もどう答えて良いか分らず同じ事を言ったの」
 
 祐巳さまは、当時の事を思い出していたかのように笑っていた。
 
 「それで、祥子お姉さまは何て答えて下さったんですか?」
 
 「それがね、答えて下さらなかったの」
 
 「え?」
 
 祐巳さまはクスクス笑うと、握り締めていたロザリオを離し見詰めていた。

 「『それは祐巳自身が考えて答えを出しなさい』・・・ってね」
 
 祐巳さまは、祥子お姉さまの口真似をしながら話してくれた。

 「さてと、話を戻しましょうか」

 素早く瞳子の目の前にロザリオを突き付ける様に手を持ってくると、「受け取って」と強い口調で言ってきたのだ。

 「でも」

 「『でも』じゃないの」

 何だか祥子お姉さまを相手にしているような気分に瞳子はなっていた。

 「・・・祐巳さまらしくありません」

 「私らしく、ない?」

 「はい、何だか祥子お姉さまみたいで祐巳さまじゃ無いみたいです」

 一瞬その恰好のまま固まっていた祐巳さまだったが、「はぁ」と溜息を付くと情け無い表情を浮かべていた。

 「あ〜あ、やっぱり私には無理かぁ」

 がっくり肩を落としながらも、瞳子に笑いかけてきた。

 「でも、どうして祥子お姉さまの真似をしたんです?」

 「う〜ん、今までと違ったアプローチをしたら、瞳子ちゃん思わず受け取ってくれるかなぁ・・・て思ったんだけど、浅はかだったか」

 そう言いながらも祐巳さまは、ロザリオを戻す事は無かった。

 「祐巳さま」

 「えっ」

 「それにしても、今日の夕焼けは綺麗ですね」

 瞳子が祐巳さまの背後にある沈み行く太陽を見詰めるながら話すと、祐巳さまも降り返って同じように見詰めていた。

 そんな祐巳さまの姿を見ていた瞳子は、「こんなお姉さまも良いかなぁ」と思っていた。

 祐巳さまは夕焼けを魅入っていると、瞳子が笑ってるのに気付き「なに笑ってるの」と降り返った祐巳は驚いた表情を浮かべていた。

 「瞳子ちゃん」

 瞳子は真っ直ぐ祐巳さまを見詰めると、ゆっくり瞳を閉じた。

 「祐巳さま、ロザリオお受けします」

 祐巳さまは何も言わずボートが揺れないように近づくと、ロザリオのチェーンを瞳子の首にかけたのだ。

 その時、祐巳さまの息が瞳子の首筋にかかり思わず頬が赤く染まってしまった事は、祐巳さまには内緒にしておこうと思った瞳子であった。

 「はい、瞳子ちゃん目を開けて良いよ」

 ゆっくり瞳を開けると、瞳子の胸元にロザリオが輝いていた。 翌日のリリアン女学園は大騒ぎであった。
 あの紅薔薇のつぼみさまにスールが出来たと、リリアンかわら版の記事に堂々写真付きで載っていたのだ。
 夕焼けの湖にたった一隻だけ浮かぶボートで、祐巳さまが瞳子にロザリオをかけている姿が幻想的に写って・・・

 「誰がこんな」

 瞳子は驚いたが、記事の最後に写真撮影「武嶋蔦子」、記事「山口真美」と書いてあったのに気付いた時には、お二人が瞳子の背後に立っていたのだ。

 「どう、良く撮れてたでしょ」

 「私の記事も傑作だと思うんだけど」

 お二人は、瞳子に話しかけながら近づき両腕を掴み逃げられないように拘束すると、「さぁ、細かい話しは新聞部で聞きましょうか」と言って瞳子を引きずって歩いて行った。

 後で聞いた話なのだが、後から来た祐巳お姉さまが写真を見て、「蔦子さんから写真貰えるかしら」と言って今にもスキップしそうな勢いで去って行ったと聞いて、「確かにあの写真は綺麗だったなぁ」と思った瞳子であった。







 第二章 第四話 お贈りしました〜♪
 そう言え前回の後書きで「第三話」と書かなくちゃいけない所を「第三部」と書いてしまった愚か者卯月です(汗
 章タイトルはちゃんと「第三話」となっていたので助かりました〜。(ありがと〜浩さん♪
 とうとうこれにて瞳子編が終了です、皆さんどう感じたでしょうか?
 ロザリオの意味・・・祥子さまが「『それは祐巳自身が考えて答えを出しなさい』・・・ってね」と言ったとおり結局祐巳も答えを出さずに話しを終えてます。
 これは祐巳が瞳子に出した最初で最後の・・・とても大切な質問だと理解して下さい。(皆さんも考えてくれると嬉しいかなぁ)
 卯月は今、第三章第一話を何とか書き上げ第二話を書いている途中なんですが、筆遅いです〜(汗汗
 今回の章は何だか長くなりそうな気が・・・『千鶴』の苦悩とかも描けると良いんですが・・・長々と後書きを書いてしまいましたが、第三章『千鶴』楽しみに待っていて下さい。



遂に瞳子が妹になりましたね。良かった、良かった。
そして、次の第三章からは、ちーちゃんが!ばんざーい、ばんざーい。

美姫 「所で、ロザリオの意味は?」

えっと、一言で言うなら、『絆』かな?
うーん、ロザリオを渡す事で姉妹となって、普通の先輩と後輩ではなくなる訳だろう。
そこに姉妹としての絆が生まれる。それを目に見える形として現しているのがロザリオ。
勿論、それだけじゃなく、信仰の対象であるロザリオ。
個人が持っているこれは、とても大事なモノなんだよね。敬虔なクリスチャンにとったら、それこそ命よりもね。
それを相手に渡す。つまり、それぐらい相手を想い、信頼し、自分の全てを捧げて導くみたいな。
同時に受け取る方も、それを理解して、自分の全てを持ってそれに応える。
そういったモノを全部含めて、二人のつながりを目に見える形としてロザリオがあると。
これがあれば、お互いに離れていても心は繋がっていますという感じかな?

美姫 「それで、絆ね」

そういう事。で、美姫の解釈は。

美姫 「私?私は……。ロザリオの形をした短剣とか」

うわ〜、脈略ない話の上に、物騒だな。
折角、綺麗に纏まっていたのに。

美姫 「…諦めなさい。浩にシリアスは無理無理」

わ〜、そんなにはっきりと。

美姫 「まあまあ。とりあえず、三章も楽しみだわ」

誤魔化した……。まあ、いい。
三章を楽しみに待ってますので。ちーちゃ〜ん。






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