『ネギまちっく・ハート〜Love and War〜』






     第四帖『決着、スピードの向こう側で』



「な、なんとぉー!!!姫神眞莉慧だけでなく、高町恭也、長瀬楓までもが宙を舞ったー!!!!」

 実況の和美もありえない光景に半ば興奮気味に実況を続ける。しかし、驚いているのは、興奮しているのは和美だけではない。

そこにいた観客が、この中継を見ている誰もが驚き、興奮しているのだから。ありえない走りを次々に披露する挑戦者眞莉慧。

そして、それに刺激されるかのように限界を超えに超えていく恭也と楓。まだまだ面白い走りを、限界を超えた暴走りを見せてくれるはず。

誰もが、瞬きを忘れるほどに3人を注視した。





 長いストレートを何度も宙に舞い、眞莉慧と恭也と楓は離れず離されず、並走を続けた。しかし、眞莉慧は宙に舞うことを楽しみながらしているものの、

恭也たちにとっては依然としてたまったものではないままだ。飛ぶたびにボディバランスを調整して着地に備え、

着地は着地ですさまじい衝撃に耐えなければならず、その際少しでもハンドルがぶれれば、転倒は免れない。

その上、ハンドルがぶれるならまだしも、着地の衝撃で車体、特にフロントがバラバラになる可能性もある。

前者なら自分の力を信じればいいものの、後者は自分の力ではどうにもならない。

どちらにせよそのどちらかが起きれば転倒、楓の場合、恭也とは違い最悪死んでもおかしくない事故になる。

楽しむどころか、正しくワンミスが死に繋がる息の詰まる緊張感に包まれたまま暴走っているのだ。

 そんな極限状態の走りのなか、ストレートも終盤に差し掛かるにつれて次の市街地コースについて恭也と楓は思考し始めた。

市街地コース。長い『四天王勝負』用のコースの中で最も短いこの部分は、はっきり言ってしまえば何の変哲も無い、なんの捻りもないただの市街地コースである。

しかし、何の変哲も無い、なんの捻りもないコースだからこそ正しくライダーのドラテクに左右されるのだ。

(ドラテクだけなら・・・・・どう考えても眞莉慧にはかなわないな・・・・。)

 恭也の思考はしかし、消極的なものではなかった。ここまでの走りから見てどう考えてもテクニックだけなら間違いなく眞莉慧は一つ抜きん出ている。

恭也はそれを事実として受け止め、その上でどうやって勝つか思考した。

(まともに張り合っても間違いなく勝てないよな・・・・排気量も、馬力も、テクニックも向こうが上なんだから。)

 恭也はもう飛ぶことが無いことを確認するとちらりとアクセルの隣につけられた、本来あるはずの無い、赤いボタンを一瞥する。

(だとしたら、勝負は最後の弾丸ストレート・・・・。これを使えば・・・・間違いなく・・・・・勝てる・・・・!!)

 恭也の目にあきらめは無かった。それどころか、恭也には見えていた。間違いなく、チェッカーフラッグを一番に受けるのは、自分であるということが。

(ふむ・・・・なるほど、そういうことでござるか・・・・・。)

 楓は先を走る恭也と眞莉慧の背を見て何かを悟ったように二、三度頷いた。

(だとすると、最後に笑うのは眞莉慧殿達でござるな・・・・。)

 と、突然楓は何を思ったかギアを一速落とし、トップ集団から距離をとった。

(やはり主役はこの二人・・・・。だったら、拙者が邪魔していいものではござらん。そうでござろう?眞莉紗殿・・・・。)

 楓はあきらめたのではなかった。二人の背を見て、そして何より眞莉慧の背を見て気がついたのだ。

眞莉慧は、正確には眞莉紗はこの勝負を通して恭也に気付かせようとしていることに。人間をやめたものがどこまでのことができるのかということを。

そして、まだまだ恭也が吸血鬼として、化物として2流だという事を。

(いやー、ごめんね、カエちゃん。せっかくの真剣勝負なのに、こんなことしちゃって。)

 そんな楓の頭に眞莉紗の声が届いた。楓は特段驚くことも無く、そして、なれているのか自身もそんな眞莉紗の声にこたえる。

(頭を下げるには及ばぬでござるよ。拙者や刹那殿、真名殿、古菲殿同様、いずれ高町殿もとおらねばならぬ道。

彼は人外ゆえに、いきなり眞莉紗殿が拙者たちのときのようにねじ伏せでもしたら、同じ人外として、最悪自信を無くしかねないでござるしな。)

 楓の言葉に眞莉紗はよくわかったねーと感心した声が楓に届く。

(ともかく、そういうことなら、拙者がここで無理に並走して台無しにするわけには行かぬでござる。)

 楓はそしてはっきりと自らの意思を告げた。ここで、トップ争いから下りるということを。

(ありがとね、カエちゃん。この埋め合わせはちゃんとするから。)

 楓は眞莉紗の言葉に気にしないでもいいでござると返事をしてもう一度恭也と眞莉慧の背を見た。

(高町殿の可能性はまだまだ引き出せるものでござるしな。どこまで上ることができるか、見ものでござる。)

 楓は期待していた。同じく武の道に身を置くものとして、恭也が一体どこまで上ることができるのか、

自分達人間では到底上ることのできない甍へ上り詰めたとき、その武がいかなるものになるのかを。

それが決して眞莉慧や眞莉紗には及ばないものであるとわかっていながらも、その武がどんなものなのか、楓は見てみたいのだ。

恭也の、極めた、『武』というものを。

 恭也は楓のニンジャがはなれていったことを、気配、そして排気音から感じ取っていた。しかし、その理由を知る由も無い。

恭也はマシントラブルだろうと思い込み、そのまま走り続けている。峠道も終わりを告げ、ここからは市街地コース。

純粋に運転技術のみが要求される、最後の、そして雌雄を決する最後の7キロが幕を開ける。





「泣いても笑ってもこれが最後の市街地コース!!!純粋に運転技術が問われるここで、最後まで残ったのは高町恭也と姫神眞莉慧の二人!!

勝つのはたった一人、雌雄を決する直接対決です!!」

 和美の興奮じみたうまい解説を聞くよしもなく、恭也と眞莉慧は市街地を駆け抜けていた。しかし、運転技術だけならまだしも、

排気量までも、恭也のカミナリマッパは眞莉慧のケーツーに負けている。当然のことだが、差は縮まるどころかじわりじわりと開き続けるはずであった。

そう、はずだった。だが、現実は異なる。なんと、差はほとんど無いのだ。いや、併走しているといってもいい。

傍目からするといい勝負と見えるのだろうが、恭也からしてみるとその事実自体が信じられなかった。

何せ、運転技術もマシン性能自体も自分のほうが劣っていると思っていたから当然である。恭也は眞莉慧が手を抜いているのではないのかと思いもしたが、

その暴走りから見て手を抜いているとは考えられない。ではなぜ。恭也は気付いていなかった。自分が人間としての感覚ではなく、吸血鬼としての、

その人間のものとは比べ物にならないほどの鋭い感覚を持ってしてバイクを操っていることに。そう、正しく、眞莉紗の思っている通りに、

恭也は無意識ながら、その力を引き出しつつある。そして、眞莉紗の思惑通り、恭也は化物としての階段を一歩ずつ登ろうとしていた。

(ほえー・・・・こんなに早く開花していくものとはねぇ・・・・。ね、眞莉慧、ラスト、私に代わってくんない?)

 そんな恭也をみて眞莉紗は眞莉慧に提案した。眞莉慧は意図するところがわからず、眞莉紗に説明を求めた。

(眞莉慧はだんだんと恭也くんが吸血鬼としての感覚を引き出してきてるのはわかってるでしょ?

だからさ、最後はきちっと締めないといけないじゃない。私の力で。)

 そんな眞莉紗の説明に眞莉慧はなるほどと頷いてそれじゃあと最後の弾丸ストレートを眞莉紗に任せることを伝えた。

(負けちゃダメだからね。絶対、勝ってよ。)

 眞莉慧は最後にそういい残した。眞莉紗はもちろん。始めっから負ける気なんて無いよとからから笑いながら返事を返す。

そんなやり取りを知る由も無く、恭也は眞莉慧と暴走りあう。市街地コースはほぼ互角。負けられないという想いで走り続ける恭也と、

恭也に化物とはいかなるものなのかを教えようとしている眞莉紗。お膳立てとはいえないが、ただ走ることを楽しんだ眞莉慧。

さまざまな思いが交錯する中、決着は最終ストレート、『麻帆良弾丸ストレート』に託された。





「さあ、遂に一位集団が市街地コースを抜けて弾丸ストレートを残すのみ!!!全長2キロとはいえ、この速度ではものの一分程度の最後の直線!!!

運命の一瞬が刻、一刻と近づいています!!!」

 和美の実況に会場に集まった誰もが興奮した。今回の常軌を逸した暴走り、興奮しないほうがおかしい。

そして最速をかけた戦いに残ったのは四天王最速の恭也と常軌を逸した暴走を見せ付け続けた眞莉慧の二人。

どちらが勝つのか。最後まで目の離せない最後の直線が今、始まった。

(全長2キロ・・・・量はもつが・・・・車体がもつか否か・・・・。)

 恭也はしかし、迷わなかった。勝てる。そう信じて。早期に勝負をかけるのは何をしてくるかわからない眞莉慧に対する牽制でもある。

眞莉慧のことだ。おそらく、動揺はしないだろう。しかし、一瞬でいい。それで勝負が決まる。恭也の意は決した。何の迷い無く。

車体がもつことを信じて。アクセルのとなりにある、赤いスイッチを。エンジンに、それをくべるそのスイッチを。恭也は押した。

次の瞬間、ありえないGが恭也を襲う。吸血鬼の恭也をしても、姿勢維持が精一杯。ありへない領域への加速。

ドラッグレース用の車しか乗せることのないといってもいいそれ。


                      恭也は、エンジンに、ニトロをくべた。


(それじゃ、交代だね。)

 弾丸ストレートに突入する寸前、眞莉慧はそういってからだの支配権を眞莉紗に譲った。眞莉紗はありがとねと眞莉慧に一言言ってその体を、

眞莉亜の体を支配する。それと同時に、支配権が変わったことを示す、体の変化が生じた。髪が蒼青から金色へ、瞳が黒からやはり金色へ。

そして何より、二本の大きな、ガゼルのような角。『白夜の霊姫』から『幻想の鬼姫』へ。そして、2キロの舞台へ最強の鬼姫が躍り上がる。

恭也にみせる為に。化物の力の何たるかを。恭也に伝えんがために。吸血鬼としてもっと上があるという事を。

「そんじゃ一丁、行きますか!!!」

 眞莉紗の心底楽しそうな声がコースに響く。そして、誰もが目を丸くした。当然だ。突然眞莉慧が眞莉紗に変わったのだから。

とりあえず魔法使いは世界的にその存在を認められたものの、自らそれであると名乗りを上げるものは当然だが少ない。

しかし、眞莉紗はそれを特別気にしないかのようにやったのだ。眞莉慧が眞莉亜であり、眞莉紗でもあるということを知らない生徒達は驚いて当然だ。

そして、その声から間髪いれずに、恭也がありえない加速をやってのけた。そんなこともあり、観客達は開いた口がふさがらない状態になっている。

「へぇ、ニトロ積んでるんだ。ま、それでも足りないかな。」

 目の前でありえない、いや、眞莉紗にしてみればまだまだ物足りない加速を見せ付けられた眞莉亜はあろうことかハンドルから手を離し、

目を覚ましたばかりのように体を伸ばした。250キロ近い速度で両手放し。やってることがめちゃくちゃである。

見ているほうはそっちに気をとられているが、アクセルを離しているのだ。減速するはずであるがしかし、その気配も一向にない。

「おっけー!それじゃ、追いかけるよー♪」

 そうして眞莉紗はあろうことかバイクの上に立ち上がった。どこまでも常識外の行為にそれを見ている誰もが目を点にした。

この状況、楽しんでいるのは眞莉紗のみ。見ている方は驚きといつ転んでもおかしくない手前、楽しむことすら出来ない。

「な、なんとぉー!!!!ひ、姫神眞莉慧・・・・いや、姫神眞莉紗、何を思ったか、バ、バイクの上に立ち上がったー!!!!」

 自殺行為とも言える行為に和美が声を上げた。しかし、和美も眞莉紗たちが人間でないことは百も承知である。

まぁ、だからこそこの状況に驚きもあるが実況を続けられるのだ。だが、そうこういっているうちに既にもう残りは1キロを切っている。

このまま行けば恭也の一位は間違いない。とんでもないことをし続けている眞莉紗に気をとられて入るものの、

それだけは変えようの無い事実である。しかし、それすらも、眞莉紗は裏切った。

「そこのけ、そこのけ鬼姫が通るぞー!!!」

 眞莉紗が再び声を上げた。次は何事かとモニターも眞莉紗を捕らえる。モニターに映された眞莉紗はテールのほうに体を向け、両手を振り上げていた。

と、その手に何かが見える。『何か』では無い。手が燃えているのだ。さすがに誰もが目を点にした。一般生徒は手が燃えていることに驚いて。

わかるものにはこんなところで魔法を使うのかと驚いて。しかし、後者の見解は外れていた。眞莉紗は魔法使いではない。

いや、そもそも、眞莉紗は魔力というものを一切もっていない。この焔は固有能力。幻想の鬼姫として眞莉紗が持つ力なのだ。

眞莉紗はただでさえ無理な体勢なのに、そこから両腕を、上体をかがませながら振り下ろした。手からは焔。

その焔はまるでガスでも充満していたかのように一気に燃え広がり、近隣の住宅はおろか、眞莉紗のバイクすらも包み込んだ。

あまりに一瞬の出来事。あまりに常識外の出来事。一度も見たことのない出来事に、ほとんどすべての生徒が目を点にすることも出来ず、

何があったのかもわからずモニターを見ていた。と、燃え広がったその炎の中から超高速で火の玉が一つ飛び出してきた。

それを見ていた生徒たちはそれが何かわからなかった。しかし、わかるものにはわかっていた。それが、眞莉紗であるということが。

あろうことか、眞莉紗は自分の後ろで爆発を起こし、爆発による衝撃波で自らのバイクごと弾き飛ばしたのだ。

飛び出した火の玉は炎を散らしながら、やがてその火の玉から眞莉紗がケーツーにまたがって姿を現した。

生徒達はその姿を視認するも、何がなんだかもうわけがわからない状況に陥っている。それどころか、実況である和美とさよさえも、

あまりの破天荒ぶりについていけていない。そうこうしているうちに眞莉紗のまたがるケーツーはどんどん恭也のカミナリマッパに近づいていく。



                              そして。


                             そして遂に。


                         恭也のカミナリマッパと並び、


                            そして抜き去った。

(・・・・は・・・・?)

 目前に見える浮いたケーツーに、恭也はさすがに目を疑った。メーターは当の昔に振り切って速度としては340キロ以上出ている。

それを上回る速度で、しかもケーツーが飛んでいるのだ。信じられないのも当然だ。ここまで来ると既にまともなレースとはいえない。

眞莉紗がとったのは、勝つための手段。勝つために自分が出来る方法をとっただけなのだ。ただ、それがまともに走るというものではなかっただけの話。

鬼姫として『勝つ』ためにとった手段がこれだったのだ。

「そんな風に『まとも』にこだわってちゃダメだよ、恭也くん。せっかく吸血鬼になったんだからちゃんと力は使わないと♪」

 恭也には聞こえた。眞莉紗の声がはっきりと。そして気付いた。いつの間にか、眞莉慧から眞莉紗に変わっていることに。

いつ変わったのかもわからない。どうやって飛んだのかもわからない。そんな恭也を尻目に、眞莉紗は恭也をおいて、ゴールに向かって、疾走した。

追いつけない。どうやっても追いつけない。恭也は、負けたことを自覚できないうちに、負けた。









「・・・・・・ゴ、ゴォォォォォォル!!!!!!!!!!!い、一位は姫神眞莉紗のケーツー!!!!

とと、とんでもない方法で、とんでもない暴走りで強引に一位をもぎとったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 実況の和美もラスト2キロの『麻帆良弾丸ストレート』にはいってから、実況を忘れるほど、驚いていた。驚いていたというより、

目を点にしていた。我に返ったのは眞莉紗がゴールし、恭也もゴールしてからだった。そして、和美の声を皮切りに生徒達も我に返り始めたのか、

徐々に声を上げ始め、遂には麻帆良学園が大歓声に包まれた。

「二位は高町恭也のカミナリマッパ!!!最後の超加速も姫神眞莉慧には及びませんでした!!!」

 和美の実況をよそに生徒達の歓声は天井知らずに上がっていく。こんなレース、一生に一度見ることができるか否かのものである。

こうなるのも不思議ではない。グラウンドは、教室は地獄の釜のふたを開けたかのような騒ぎになっている。

そんな中、実行委員のスタッフはスタッフで表彰式の準備に大忙し。右へ走り左へ走りとこっちはこっちで大騒ぎになっている。

本来ならレース中に準備はされるのだが、言わずもがななレース展開。誰もがモニターに見入っていて準備なんか出来ているわけがないのだ。

さまざまな事情でゴールラインを切った直後から麻帆良学園は大騒ぎになってしまった。





「うーん、やっぱり勝った後は気分がいいや。」

 眞莉紗はかなりオーバーランをしたバイクを止めてその上に立ち上がり、雲ひとつ無い青空に伸びをしていった。

すがすがしく、本当にのびのびとした、ついさっきまであんなことをしていたとは微塵も思わせないような雰囲気で。

「眞莉紗!!」

 完全にリラックスモードで一人和んでいる眞莉紗の後ろからあやかの声が届いた。どうやら司会席から走ってきたようだ。

声からして少し怒っている感もある。しかし、眞莉紗はそんなことぜんぜん気にしていないのか、

「やほ、あやか♪約束どおり、ちゃんと優勝したよ♪」

 と、バイクからふわりとあやかの前に飛び降りた。そして眞莉紗は笑顔であやかに抱きつく。角があるから眞莉紗のほうが大きく見えるが、

実はあやかのほうが5センチほど身長が高かったりする。そのため、眞莉紗は少し背伸びをして抱きついている状態だ。

「全く、何を考えていますの?こんな衆目がある中であんなことして。」

 あやかはまるで悪気が無い眞莉紗の笑顔で抱きつかれたため、毒気を抜かれ、あきれた口調でそういった。眞莉紗はあたし何か悪いことしたっけ?

と首をかしげている。どうやら眞莉紗にとってあまりに当たり前のことで自分が何をしたかわかっていないようだ。

「第一、あんなに炎出して周りの家は大丈夫ですの?」

 あやかは抱きついた眞莉紗を引き剥がして聞く。確かに、最後に眞莉紗が炎を使ったとき、かなりの住宅も巻き込んだ。

モニターでは映されなかったし、煙も見えないので火事も起きている気配はない。一見すると巻き込んではいないようだが、

眞莉紗のことだ。何をしているかわかったものではない。

「家?大丈夫なわけ無いって。ウン億℃の炎だよ?延焼なんかろくすっぽせずに焼け落ちたと思うけど。」

 眞莉紗のその言葉にあやかはさすがにあきれるを通り越して思考停止に陥った。

「え?じゃあ、あの近辺に住んでた人は・・・?」

 最悪のことを考えつつもそうでないことを願って眞莉紗に尋ねるあやか。

「最近全部引っ越したよ。あのあたり、宝くじ当たってウハウハだって言ってたから。」

 どうやら、最悪の事態は無いらしい。しかし、あの炎が包んだ範囲は相当なものだ。そのすべてが宝くじに当たっているなど確率的にありえない。

しかし、眞莉紗がそう言うという事は。

「始めからこのつもりでしたのね?」

 あやかはこんなレースのためにと肩を落としてつぶやいた。眞莉紗はもちろんだよと笑顔で答える。

「さすがに巻き込むわけには行かないからね。さてと、このまま学園のほうに行ったらみっちもさっちもいか無くなりそうだから別のとこ行こっか。

ほら、後ろに乗って。」

 眞莉紗はそういうとあやかの手を引っ張ってバイクのほうに連れて行き、後部座席をぽんぽんとたたく。

眞莉紗は『勝つ』ということにこだわりはするものの、その後のことは一切興味がないのだ。

鬼らしいといえば鬼らしいのだが、実行委員や関係者にとってはいい迷惑である。

「ゆっくり運転してくださいね。あんなふうに運転されると、こっちがもちませんわ。」

 あやかはしかし、あっさりと眞莉紗の後部座席に乗り込んだ。当然のことだがヘルメットはない。

眞莉紗はあやかが乗ったのを確認してバイクを極普通の速さで発進させる。

「それで?どこに行きますの?」

 あやかは流れる景色を見ながら眞莉紗にどこに行くのか尋ねた。眞莉紗は適当に流していいとこあったら落ち着こうよと特別目的地がないことを告げる。

「それなら海に行きません?なんとなく、そんな気分ですわ。」

 あやかが行きたいといったのはなんと海。麻帆良からは結構はなれている。しかし、まだ時間は8時にもなっていない。

この状況では学校は休校だろう。だったら海に行くのも別に問題にはならない。とはいえ、麻帆良から一番近い海といっても、東京湾ぐらいだ。

だが、あやかもコンクリで固められた海を見たいと思っているわけではないだろう。

だとすると麻帆良からいける海といえば横浜、湘南ぐらいしかない。そうなるとさすがにノーヘルはまずい。

というか、眞莉紗の頭には二本の角。ヘルメット自体かぶれないのだ。

「途中で買うしかないよね。」

 眞莉紗はとほほと頭を落としバイクを走らせた。目的地は横浜、湘南。時期的にも人はまばらだろう。平日だからなおさらだ。

二人を乗せたバイクはいつもの休日を楽しむ為に、海に向かって走り出す。

「それじゃちょっと遠出だから、少し飛ばすよー♪」

 眞莉紗はそういってアクセルを一気に前回まで持っていく。急激な加速に振り落とされそうになるあやか。

「ちょ!!飛ばさなくてもよろしいですわ!!!」

 あやかの声は届くわけもなく。しかし、あやかも怒るでもなく笑いながら。みているだけでおなかいっぱいの二人はそのまま、

残された生徒達のことを考えることもなく、春の海へと姿を消した。



 一方、恭也のほうはニトロを使ったこともあり、いくらブレーキをかけても止まることができず、静止までに2キロほどかかった。

しかし、完全に静止したとはいえ、まだ体のほうは落ち着きを取り戻していない。さすがの恭也もかなり疲弊しているようだ。

恭也は頭を振って気を取り戻しながらバイクから降りた。ふと気付くとエンジンから煙が出ている。

どうやら、最後の加速で限界を迎えたようだ。本来そんな使用になってないバイクでニトロを使ったのだ。当然といってもいい。

というよりも、よくここまでバイク自体の強度が持ったものである。最悪、バイク自体がバラバラになってもおかしくなかった。

「かなり無茶をさせたな・・・・。」

 恭也はそんな自分の愛車を見てすまなそうに声をかけた。走らせるには完全なオーバーホールが必要だろう。

恭也はそんな愛車を押しながらともかく学園に戻ろうと足を進め始めた。

(しかし、姫神も相当な無茶をする・・・・。)

 バイクを押しながら恭也は弾丸ストレートの最後の正しく一瞬のことを思っていた。勝ったと思ったことが油断だったかといえばそういうわけではない。

眞莉紗のやったことは既に暴走りではない。勝つための方法だ。勝つために自分のできることを何の忌憚もなくすることができる。

そういった面からすれば、恭也も変わりはない。しかし、眞莉紗はそれを凌いでいた。恭也は眞莉亜と仲はいいが、

その実、眞莉紗の鬼としてのことについて全く知らない。恭也は今回、眞莉紗の力の一片を垣間見た気がしていた。

しかし、なぜ最後だけ眞莉紗がでてきたのかがわからない。自分がバイクにニトロを積んでいることがばれていたのだろうか。

いや、これはエヴァさえも知らない、まさに秘密兵器だったのだ。それを眞莉紗が知っているとは思えない。ではなぜ。

恭也には思い当たる節がない。はじめから最後だけ眞莉紗に変わるように決めていたのかもしれない。

というか、それが可能性としては一番高い。だが、ただそれだけのために出てくる理由があるだろうか。いくら考えても答えは出ない。

「その調子だと、負けたことよりもなんで最後に眞莉紗のほうが出てきたのかがわからないという顔だな恭也。」

 考えながら歩いていた恭也にエヴァが突然声をかけた。突然というよりも考え込んでいていつの間にか隣にいたが、

気づかなかったといったほうがいい。それだけ考え込んでいたということでもある。

「あまり深く考えないほうがいいですよ。眞莉紗さんの行動に深い意味はないと思います。おそらく、自分はこんなこともできるということを、

単にアピールしたかっただけなのではないでしょうか。」

 エヴァの隣にいた茶々丸のその言葉に恭也ははっと気がついた。そう。眞莉紗はそれが目的で出てきたのだと。

だが、ただアピールしたかったのではない。それは、自分に対するアピールだったのだ。恭也はそれに気づき、笑みをこぼした。

「なるほど。姫神はあんなことまでできるのか。だとしたら、俺にもまだまだ上があるかもしれないな。」

 恭也は眞莉紗の思惑通り気がついた。眞莉紗はこんなことができる。じゃあ、恭也はどんなことができるのか。という問いかけに。

それで笑みがこぼれてしまった。確かに自分は吸血鬼になり、期せずして人としては決して登ることのできない甍に登ることとなった。

しかし、吸血鬼としての感覚というものに関して恭也は全くといっていいほどに実感がわかなかったのも事実。

たしかに、吸血鬼になったことで『瞬』の発動時間は驚くほどに延びたし、普通に戦闘する際も常に『神速』状態でいられることも出来る。

だが、それは人間の出来ることを吸血鬼になったことで時間が延びたということに過ぎない。

吸血鬼ならば、その力を持ってすれば、もっと速く、もっともっと速く動けるのではないだろうか。

また、恭也は吸血鬼としての能力を持っていないわけではない。確かに恭也の能力は吸血鬼としては利便性に富むものではある。

が、それは眞莉紗のような反則的なものでもなければ、自らの能力に左右されるひどく不安定なものなのだ。

しかし、今回の眞莉紗を見てまだ上があるのではないかと、刀だけにこだわらない、その次の領域が。恭也はエヴァと契約している。

その結果、恭也にも少しながら、いやその実相当の魔力を有している。しかし、今までそれを重点的に鍛えようとは思わなかった。

別に興味がないわけではない。しかし、剣の腕もまだまだなのに、平行して魔法の稽古が出来るとは考えていなかった。

しかし、出来る出来ないではない。強くなるにはするしかない。眞莉慧が、眞莉紗がみせたもの。恭也は眞莉紗の思惑通り、それに気付いた。

自分も眞莉紗たちと同じ人にあらざるもの。『瞬』を超える速さに到達する資格を自分が有しているということに。

刀のみにこだわらない、その次の領域の強さに到達する資格を自分が有しているということに。

「エヴァ、茶々丸。俺はまだまだ強くなれるだろうか。」

 恭也はわかりきった答えを、それでも二人に、エヴァと茶々丸に尋ねた。

「はい。恭也はまだまだ強くなれます。それこそ、遙高みに上ることができるでしょう。」

 茶々丸は恭也に、恭也の思っていた通りの答えを返す。

「無論だ。おまえは私の旦那様だろう。もっと強くなってみせろ。私を超えるくらいにな。」

 エヴァも恭也に笑みを浮かべて答えてくれた。

「ああ。姫神が示してくれた可能性、その甍に俺も登ってみせる。」

 恭也はそういって再びバイクを押して歩き始めた。エヴァと茶々丸もそれにあわせて歩き出す。

愛車はおそらくエンジンを積み替えなければ二度と動くことはないだろう。しかし、このレースで、恭也は垣間見た。

人ならざるものが出来ることを。そして、まだまだ強くなれるということを。最強にこだわるわけではない。

しかし、自分がどこまでやれるのか、想像もできないそれを、自ら確かめたいのだ。

            
             かくして恭也は『吸血鬼』としてのスタートラインに立つことになった。





 さて、それからどうなったかは想像するに難くない。充実感に満たされた恭也たちが学園に帰ってきたときにはもう既にどうにもならない状況になっていた。

当然のことだが学校は休校になり、生徒達は生徒達で好き勝手に騒いでいるといった状態だ。

恭也たちはさすがにこの中に入るのはと踵を返して立ち去ろうとしたが、運悪くというか、和美とさよに見つかってしまった。

そのまま恭也たちはずるずるとメイン会場のグラウンドに引っ張られていった。

エヴァと茶々丸はさよのきてくれますよね?の無言の圧力のこもった笑顔に断ることも出来ずに仕方なく恭也の後をついていく。

グラウンドの特設ステージについて眞莉紗たちがまだ来ていないことを告げられ、恭也は繰り上げ一位ということになってしまった。

最終的に四天王の入れ替えは起きず、いつもの4人が壇上に上がることになった。

しかし、質としては過去最高の四天王勝負だったといっても過言ではないだろう。

そしてそのままなし崩し的に解散となり、学園に残って騒ぐ者、町に繰り出して遊ぶ者と千差万別。

いつもの四天王勝負の後と全く変わらない。こうして四天王勝負も幕を下ろす。そして次の日にはいつもと違う、そしていつもと違う日常に戻っていく。





 そんなビックイベントがあった翌日、それ以上に大きな出来事が起きた。3−Cの面々は放課後、女子寮の大食堂に集められた。

全員というわけではない。そこに集まった面子は当然のように女子だけで、なかには3−C以外の生徒も混じっている。

しかし、そこに集められた女の子の共通点は、中学のとき2−Aに在籍していたという点だ。呼び出したのは眞莉亜。

何で呼び出されたのかは誰一人として、眞莉亜が隠し事を一切しないあやかにさえ伝えられていない。

部屋に帰ると午後8時に大食堂に集合するようにというメモがドアに挟まっていたのだ。

眞莉亜の呼び出しに応じて集まったものの、肝心の眞莉亜がいない。

とりあえずまとうということで銘々話をしたりトランプをしたりと時間を潰している。

「よし、みんな集まってくれたみたいだ。」

 ドアの隙間から大食堂の様子を伺っていた眞莉亜はそれではとドアを音を立てずに閉めてその後ろに立つ影に話しかけた。

「さて。舞台は整った。ここからは全部そっちしだい。」

 眞莉亜が話しかけた女性は黒いショートカットの女性。高校の制服に身を包んでいるところからみて転校生だろうか。

「大丈夫かな・・・・。」

 その女性は眞莉亜に背を押されてドアノブに手をかけて少し止まってしまった。

「大丈夫。みんな友達なんだ。忘れてなんかないよ。」

 そんな女性に眞莉亜はそういってもう一度言葉でその背を押す。

「うん・・・。みんな、私の自慢の友達だから・・・。」

 その女性はそういって、眞莉亜に誇るように、そして自分に言い聞かせるようにつぶやいてドアを開けて大食堂に入った。


                              そこにいる、


                               大切な、


                               そして、


                            かけがえのない友達と、


                             再び逢うために。







あとがき


かなり間が空きましたが、やっと四天王勝負も決着、そして次回へ続く終わりと始まりを併せ持つ第四帖、いかがだったでしょうか?

(フィーネ)かなりって・・・一月近くあいてるじゃない。

すまん・・・・実家に帰っても書くつもりだったんだが、モンスター・ハンターPにはまってろくに書けなかった・・・・。

(フィーラ)既にプレイ時間150時間越えてるもんねぇ。

というか、冬休みの間モンスター・ハンターPしかしてない気がする・・・。

(フィーリア)みたいだね。そうでもしなきゃ150時間も出来ないし。

さて、気を取り直して第四帖。

(フィーネ)あんたの書くSSはどれもそうなんだけど、主人公は本当に反則上等の最強キャラねぇ・・・。

よく言われるけど、それが俺の作風だから。いや、成長していくのが嫌いだとか言うんじゃないけど・・・・。

(フィーラ)パワーインフレ起こすのがイヤなのよね。

うん。ドラ○ン○ールみたいなのも嫌いじゃないんだけど、そうすると果てしなく強くなってくし・・・。

(フィーリア)って、そこまで長く続かないんじゃない?

そうだけど、俺はそれよりバス○ードみたいな主人公最強!!みたいなほうが好みなの。

(フィーネ)ま、それは個人的な問題ね。で?最後に出てきた女性って・・・・?

わかってるくせにぃ。

(フィーラ)彼女でいいんだよね?

うん。

(フィーリア)黒歴史をよく使う気になったねぇ・・・。

世間様の評判は黒歴史扱いでも俺は結構悪くなかったと思うからね。というか、ネギまだったらなんでもよし。

(フィーネ)たいがいな雑食ね。

好き嫌いがないといってくれ。

(フィーラ)でも、そっちをもって来ないとあやかちゃんをヒロインにできなかったんでしょ?

そうそう。

(フィーリア)とりあえず、面白いSSであれば文句ないからね。

痛い・・・・その言葉痛いよ・・・・。と、とりあえず次回予告を・・・・。

(フィーネ)はいはい。それでは。旧2−Aメンバーの前に現れた女性。

(フィーラ)いるはずのない彼女。二度と会えるはずのなかった彼女。

(フィーリア)再びあえたこと。それが伝える、純粋な想い。

(フィーネ)次回、ネギまちっく・ハート第五帖『生きるということ』。

な、なんか妙にしっとりとした次回予告だな・・・・。

(フィーラ)雰囲気大事でしょ?

いやまぁそうなんだが・・・・そこまで暗い話じゃないし・・・。というか、そこまで考えさせる話にはなんないと思うんだが・・・。

(フィーリア)そこは腕の見せ所でしょ?

無茶言わないでくれよ・・・・後期のテストとかレポートとかあるのに・・・。

(フィーネ)ともかく目標は来週中には更新すること。

わかりました・・・・。がんばります・・・・。

(フィーラ)さて、それじゃ、きちんと終わらせましょう。

(フィーリア)そうだね。

(フィーネ&フィーラ&フィーリア)次回も乞う御期待!!!



おお、このレースの裏にはそんな意図が。
美姫 「まさに手に汗握る展開のレースだったわね」
うんうん。さて、新たに自分の可能性に気付いた恭也。
美姫 「そして、かつて2−Aだった面々の前に姿を見せる一人の…」
果たして、彼女は何者なのか!?
美姫 「ますます目が離せません」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってるわね〜」



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