「今日からこの学園に在籍する事になりました、不破 恭伽です。 皆さん、よろしくお願いします」

教卓の隣で、皆が見えて、皆に見られる位置で内心顔を引きつかせながら、恭伽は言った。

目線を前にすると、瑞穂と今朝方自己紹介してもらった紫苑がいた。

瑞穂は苦笑していて、紫苑は小さめに恭伽に向かって手を振っていた。

「恭伽さんの席は……そうね、瑞穂さんの隣でいいかしら?」

「はい、判りました」

担任である緋紗子に言われ、恭伽はそのまま瑞穂の隣の席へと移動する。

「よろしくね、恭伽さん」

「こちらこそ……瑞穂さん」

とりあえず瑞穂に挨拶をして、席に着く。

その瞬間、あたりにざわめきが起こる。

「?」

そのざわめきを理解できていない、瑞穂と恭伽。

「あら、恭伽さんは瑞穂さんのお知り合い?」

多分皆が思っているであろう事を緋紗子が代表して尋ねる。

「はい、父が瑞穂さんのお父様の知人でして、その縁で私も瑞穂さんと知り合ったんです」

恭伽の答えに納得して、皆は静かになる。

「では、このまま一時間目の授業……じゃなくて、恭伽さんに質問する時間にしましょうか」

緋紗子の提案に、教室の女子達(しかいないが)が賛成する。

その光景を見て、恭伽はひそかにため息をついていた……

 

 

 

 

 

 

乙女はお姉様達に恋してる

もう一人のお姉様!?

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、恭伽さんの家族構成は?」

まずはじめに、緋紗子が恭伽にたずねる。

「母と兄が一人、妹が二人、後は姉のような人が一人と妹のような子が二人ですわ」

その言葉に“父”という単語が出てこなかった事に、何人かが気付く。

「そんな顔をしないでください、父がいないのは事実ですしそれで寂しいですけど、家族がいますから大丈夫です」

そんな表情に気付いたのか、恭伽は苦笑しながら答える。

「じゃあ、恭伽さんの趣味は?」

話題を変えるために、一人の生徒が恭伽に尋ねる。

「ぼ…、園芸です。 妹と一緒に花を育てたりしてるんです」

盆栽、といいかけて慌てて園芸と言いなおす。

「ガーデニングをする恭伽さんか〜、なんだかお似合いですね」

その声に周りにいた生徒が何人か頷く。

「それじゃ、恭伽さんに彼氏っているの!?」

「かっ、彼氏ですか!?」

女生徒の質問に、恭伽は声を上擦りながら言い返す。

その瞬間、恭伽の顔は真っ赤に染まったと言う。

 

((((((かっ、可愛い……))))))

 

皆の思いが一つになった瞬間であった……

「あのっ、そういう人はいないです……」

ちょっとうつむきながら答える恭伽。

このあたりに、桃子達の“恭也女性化指導”の一端が垣間見える……

「恭伽さんぐらい綺麗でスタイルもいい人に彼氏いないなんて意外ね」

「私みたいな無愛想な女を好きになってくれる人なんていませんよ」

ちょっと苦笑して、恭伽は言う。

「あら、恭伽さんは十分人が好きになりそうな要素をお持ちですのに」

そこに、少し笑いながら紫苑が言う。

「十条さん、ご冗談を」

「紫苑で構いませんわ、恭伽さん」

恭伽に対してニッコリと笑って紫苑は言って、それを見た恭伽は頷く。

「私なんかより、紫苑さんのほうが人に好かれる要素をお持ちのように見えますけど?」

少しばかりの仕返しとばかりに恭伽は言い返す。

「いいえ、私なんかより瑞穂さんのほうがそうですわ」

「わっ、私ですか?」

急に矛先が向いて、瑞穂は少し驚きながらたずね返す。

「そうですね、瑞穂さんはどなたにでも好かれそうですものね」

「ええ、そうですわ」

瑞穂を見て、紫苑と恭伽は小さく笑いあいながら言う。

それを見て瑞穂もちょっと困ったような表情で笑う。

傍から見ればものすごく綺麗な3人である。

そして、この雰囲気……唯のおしゃべりなのに、どこか神聖ささえ感じさせる。

「恭伽さんって、お姉様と紫苑様と見比べても謙遜しないね」

一人の女子生徒が、恭伽に言う。

「あっ、それは私も思った」

近くにいた女子生徒も、その意見に賛成する。

「あっ、あの恭伽さん!!」

そんな中、一人の生徒が恭伽に話しかける。

「どうかしましたか?」

ふわりと、恭伽の髪の毛が揺らぐ。

「私、今から恭伽さんのこと恭伽お姉様って呼ばせてもらっていいですか!?」

カチンコチンに緊張しながら、その生徒は恭伽に言う。

そして、恭伽と紫苑、瑞穂以外の生徒が驚きでその生徒を見る。

この学園では下の学年の生徒が上の学年の生徒を名前の後ろにお姉様をつけて呼ぶ事がある。

そして、エルダーシスターになると、全ての生徒からお姉様とよばれるのである。

だから、同学年でお姉様と呼ばれるような生徒は今まで一人もいない。

前年度エルダーの紫苑も紫苑様と呼ばれているのにである。

「ええ、構いませんよ」

笑って、恭伽は言う。

当然、そこに込められた意味などを理解しているわけではない……

「あっ、ありがとうございます!!」

その生徒は感激で表情を彩り、恭伽に言う。

「わっ、私もいいですか!?」

それを皮切りにあれよあれよと何人もの生徒が同じ事を言う。

恭伽は驚きながらも、全員にいいですよと答える。

「では、私も呼ばせていただきましょうか?」

クスクスと笑いながら、紫苑が恭伽に言う。

「紫苑さんまで……」

ちょっと涙目になって恭伽は紫苑に言う。

「恭伽お・ね・え・さ・ま♪」

ふっと、恭伽の耳に息を吹きかけながら言う紫苑。

「ひゃっ」

いきなりの事で、恭伽は後ろに体をのけぞる。

そして、そのまま後ろにいた瑞穂に寄りかかってしまう。

ポフ、っと、恭伽の体が瑞穂の腕の中にすっぽりと納まってしまう。

「あっ、瑞穂さん、ごめんなさい」

慌ててそこから立ち上がる恭伽。

「いいえ、私もそんなに重くはありませんでしたから」

苦笑して、瑞穂が言う。

そして、その言葉に恭伽少し恥ずかしそうにうつむき、それを見た生徒達は一斉にため息をつく。

勿論、その仕草に見惚れて出たため息だが……

「そういえば、今日2年生の方にも転入生が来たって聞いたんですけど、なにかご存知ですか?」

そこに、一人の生徒が恭伽に尋ねる。

「たぶん、私の妹ですわ」

ふんわりと、優しそうな表情で言う恭伽。

それは正しく、妹を思う姉の表情に見えなくもなかった。

そして、その2年生に転入してきたという生徒は勿論小鳥である。

小鳥は恭伽と同じ3年生を主張したが、リスティの恭伽の世話を知らない子に獲られるという言葉に、渋々2年生で納得していた。

そして、戸籍上は姉妹、不破 恭伽と不破 小鳥という名前で転入してきたのだ。

ちなみに、先ほど恭伽が答えた妹二人とは今はなのはと小鳥の事である。

哀れ、美由希は現状では妹でもなんでもなくなっていたのである……

小鳥の制裁の効果が見て取れる……

「へ〜、恭伽お姉様の妹さんだったんだ」

納得したのか、生徒は頷いていた。

「ところで、恭伽さんはどこにお住まいに?」

恭伽の隣に座っていた紫苑が尋ねる。

「えっと、学生寮です。 妹と一緒に」

「では瑞穂さんと一緒ですわね」

紫苑の言葉に、恭伽は頷く。

まぁ、元からそういう風に考えて寮住まいとなったわけだが……

「恭伽お姉様って、どこから来たんですか?」

先ほど恭伽の事をお姉様と呼んで良いか尋ねてきた生徒が恭伽に言う。

「海鳴市という街なんですけど、ご存知ですか?」

恭伽の答えに、生徒は頷く。

「あそこの喫茶店に翠屋って言うお店があるんですけど、ご存知ですか?」

「ええ、はっ……知り合いのお母様がやっていらっしゃるので何度か行かせてもらいましたわ」

危うく母といいかけて、恭伽は慌てて知り合いの母と答える。

そこで、一時間目終了のチャイムが鳴り響く。

「は〜い、今日の授業はここまでね」

緋紗子の言葉に生徒がみんな席に戻り立ち上がる。

そして礼をして、思い思いの時間になる。

といっても、先ほどの続きになるのだが……

 

 

 

そして、今日最後の授業が終わって、恭伽は伸びをする。

高校の時、殆ど授業中は寝ていたので、恭伽にしてみればかなり苦痛でもあった。

「恭伽さん、そろそろ行きましょうか」

隣の席の瑞穂が恭伽に言う。

「えぇ、参りましょう」

言って、恭伽もカバンを持つ。

「では皆さん、さようなら」

「さようなら」

「さようなら、お姉様、恭伽お姉様」

瑞穂と恭伽の挨拶に殆どの生徒が声をそろえて返した。

そして、二人はちょっと苦笑しつつ教室を出る。

「おっ、いたいた。 瑞穂ちゃーん」

そこに、声がかかる。

「あっ、まりや」

その人物に気づいた瑞穂が、その人物の名を呼ぶ。

「瑞穂ちゃん、今から帰るんでしょ。 ご一緒しようと思ってね」

にははははと、笑うまりや。

「で、こっちが噂の転校生ね」

恭伽のほうを見て、まりやが言う。

「始めまして。 私、御門 まりや。 瑞穂ちゃんと同じ寮にするんでる」

そう言ってまりやは手を差し出す。

「こちらこそ始めまして、不破 恭伽です。 妹と一緒に今日からそちらの寮にお世話になります」

軽く笑みを浮かべながら、恭伽はそのまりやの手を握る。

「これはこれは、噂どおりで。 こっちこそよろしくね」

まりやは軽く笑って、握り返す。

「まりや、噂って何?」

まりやの口から出た言葉に、瑞穂が尋ねる。

「なんでも3年生にきた転校生は瑞穂ちゃんや紫苑様並の凄く美人名人だって聞いてたからね」

しげしげと恭伽を見るまりや。

「こらまりや、そういうのは相手に失礼よ」

その仕草に瑞穂がまりやを咎める。

「はいはい、私が悪かったわよ」

対して悪びれずに、まりやは言う。

「んじゃま、寮に帰りましょっか」

「あっ、先に2年生の教室に行きたいんですけど、よろしいですか?」

歩き出すまりやに恭伽が言う。

「どうかしたんですか?」

「いえ、妹を迎えに行こうと思いまして……妹は結構な人見知りですから」

恭伽の答えに納得して、まりやは頷く。

「そういえば、2年の転入生も可愛くて結構な噂になってたわね」

教室へ向かう途中、まりやが言う。

「そうね……身内びいきかもしれないけど、あの娘は可愛いから」

ちょっと苦笑しながら言う恭伽。

「まぁ、両方とも美形だって話だから、期待はしとくわね」

対するまりやもちょっと笑って歩き出す。

そして、2年生の教室のある廊下にたどり着くと、そこは人であふれかえっていた。

「うわっ、なにこれ……」

めんどくさそうに、まりやが呟く。

「なにかあったのかしら……」

瑞穂も不思議に思い、首を傾げる。

「あっ、あの……通してください」

そこから、小さくて、少し困ったような声が聞こえてくる。

「小鳥っ!」

その声が聞こえたのか、恭伽が少し大きな声を出す。

その声に驚いたのか、みんな声のしたほうへと振り向く。

「あっ、恭伽お姉ちゃん!」

その声に、安心したような声を出す……小鳥。

そして、トテトテと小鳥は恭伽の元へと走っていく。

「小鳥、この騒ぎはなんなの?」

少し真剣な表情になって、恭伽は小鳥に尋ねる。

何かあったのではないか、という心配が恭伽の胸に宿る。

「えっとね、急に人だかりが出来ちゃって……私も困ってたんだけど」

ちょっと苦笑して、小鳥が答える。

「なるほど、これはこれでなかなかに目立つね」

その小鳥の仕草を見たまりやが言う。

「そうね、紫苑さんがもしここにいたら、あの娘を抱きしめていたかもしれないわね」

ちょっと笑いながら、今はここにいない自分の親友の行動を思い浮かべる瑞穂。

要するに、ここに集まっている人たちはこの小鳥の愛くるしいような小動物系の魅力に魅せられて群がっていたのである。

「小鳥さん、その方は?」

そこへ、小鳥に群がっていた生徒の一人が恭伽を見ながら尋ねる。

「申し遅れました、私は不破 恭伽。 この娘の姉ですわ」

それに対し、恭伽は無意識にだが、優雅に答える。

「貴方が噂の……」

どうやらその生徒の耳にも恭伽の噂は入っていたらしく、少し恐縮してしまう。

「恭伽お姉ちゃん、噂って?」

何も知らない小鳥が恭伽に尋ねる。

「私も聞いた話だけど、美形の転校生がきたって言う……小鳥はともかく、私はそんなに綺麗じゃないのにね」

ちょっと笑いながら恭伽は言う。

(はぁ、恭くん……女の子になってもこういう所は変わってないんだね……)

内心呆れ気味に、小鳥は小さくため息をつく。

「恭伽さん、そろそろ行きませんか?」

そんなやり取りを後ろから見ていた瑞穂が恭伽に言う。

「あっ、判りました。 じゃあ、行くわよ小鳥」

「うん、恭伽お姉ちゃん」

恭伽はそう言って小鳥の手を握って、瑞穂達と一緒に歩いていった。

その後ろで小鳥に群がっていた生徒は微妙に黄昏ていたが……

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

久しぶりのオトボクSS!!

フィーア「というか、随分久しぶりね」

確かに……自分でもそう思うくらいに久しぶりな気が……

フィーア「私はてっきりもう書かないかと思ったわ」

いやぁ、ネタが思い浮かばなくってさぁ。

フィーア「ヘタレね」

うぐぅ!!

フィーア「恭也、じゃなくて恭伽……凄い人気ね」

まぁ浩さんの書いてるとら見てを参考にさせてもらってるからね。

フィーア「それに恭伽までお姉様とは」

これでタイトルどおり、お姉様達になったわけだよ。

フィーア「紫苑様と合わせて3人って意味もあるわね」

それも考えてたけどね……まぁ、この話では恭也は小鳥と付き合ってるのでオトボクのキャラとの恋愛はないよ。

フィーア「瑞穂はどうするの?」

う〜ん、考えてない。

フィーア「そうだろうと思ったわよ」

まぁ良いじゃないか、そういうことにしておこう。

フィーア「やれやれ……では、皆さんまた次回で」

ではでは〜〜〜





恭伽と小鳥の姉妹設定。
美姫 「小鳥は未だに現役女子高生で通じるところが怖いわね」
うんうん。違和感があまりないというか。
美姫 「恭伽と小鳥のラブラブなお話があるのか、ないのか」
その辺りも楽しみだ〜。
うーん、何かとらみてを書きたくなってきたかも。
美姫 「じゃあ、さっさと書きましょう」
ぐ〜ZZ
美姫 「って、寝るな!」
あ、あははは〜。
美姫 「笑うな!」
アハトさん、面白かったですよ。
美姫 「感想を言うな! って、それは良いのよ」
…良いのに、何で殴る? というか、殴られ損?
美姫 「次回が非常に楽しみね〜」
おーい。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
……いや、まあ、いつもの事と言えば、いつもの事なんだけれどね。
美姫 「それじゃあ、またね〜」
ではでは。



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