スレイヤーズクエスト〜時空流離〜
2 滅びの虚光
*
それはあたしとユイナとガウリィが三人で村の食堂でご飯を食べていたときのことだった。
「さて、じょうちゃんたち。おごってやるから好きなのを頼みな」
太っ腹なことを言うガウリィに、気を良くしたあたしはメニューの一番上から15番目あたりまでを全部注文した。
「んじゃ、俺はこれとこれとこれをそれぞれ三人前ずつ」
「さ、三人前……。それに、これ全部って……」
あたしとガウリィの注文を聞いて呆然としている店員の兄ちゃんの顔を見ながら、ユイナはにこにこと柔らかい微笑を浮かべている。
そうして運ばれてきた料理を食べていると、この村の村長と名乗るじいさんがあたしに声を掛けてきた。
「もし、あなたさまはあの有名な魔道師のリナ=インバース殿ではありませんか?」
「そうだけど」
あたしの返事を聞いて、なぜかガウリィが驚いたように声を上げた。
「何ぃ、おまえさん魔道師だったのか!?」
「この格好見れば分かるでしょ。あんた、何だと思ってたのよ」
「いや〜、俺はてっきり魚屋さんかウェイトレスだとばかり」
心底意外だという顔でボケたことを言うガウリィに、あたしは思わず飲んでいたスープに顔を突っ込んだ。
「あ、あの……、お話を続けさせていただいてもよろしいでしょうか」
ヒステリックに叫ぶあたしに、村長が遠慮がちにそう声を掛けてくる。
村長の話しによると、最近この近くに盗賊団が現れて悪さをしているらしい。
ちょうど思い当たる節のあったあたしが何の気なしに聞いてみると、案の定。
その盗賊団、ドラゴンの牙というのは昨夜あたしがアジトを襲った連中だった。
あたしはそれならもう壊滅させたと言ったんだけど……。
「おお、さすがは音に聞こえしリナ=インバース殿。あのブラックドラゴンを倒すとは!」
感激した様子でそんなことを言う村長に、ガウリィがあたしを見て聞いた。
「おまえ、ドラゴンなんて倒したのか?」
「ううん、知んないよ」
あたしが何のことだか分からないって顔でそう返したときだった。
不意に遠くで爆音が聞こえたかと思うと、村の警備に当たっていたらしい若者がドラゴンの襲来を知らせてきた。
「どういうことだ。ドラゴンを倒したんじゃなかったのか!?」
「ううん。あたしはドラゴンの牙を倒したって言ったの」
血相を変えて掴みかかってくる村長に、あたしはこともなげにそう答える。
「あのドラゴンを倒さずにドラゴンの牙を倒したことになるものか!」
「そんなの知らないもん」
「そ、そんな……」
がっくりとうなだれる村長。その間にも村はドラゴンによって破壊されていく。
「ねえ、幾ら出す?」
「は?」
「ドラゴンを倒してあげるって言ってんのよ。でも、タダじゃねぇ」
「……金貨15」
「うーん、30」
「た、高い……」
「ほら、このままだと村が壊滅しちゃうわよ」
「……金貨25!」
「よっしゃっ!」
*
「なかなか悪党ですね、リナさん」
あたしと村長との商談を聞いていたらしいユイナが、あたしに向かって笑顔でそう言った。
「何言ってんのよ。ドラゴンっていえば並みの剣士や魔道師じゃ歯が立たない危険極まりない相手なのよ。それをタダで退治するなんて割りに合わないじゃない」
そう言うと、あたしはガウリィと一緒に食堂の外へと飛び出した。
そこにはあたしの想像を超えたドラゴンの黒い巨体。
「うひゃぁ、おっきい〜」
「本当、これはすごいですね〜」
驚きに声を上げるあたしの隣で、似たような反応を示すユイナ。
「って、あんた。何でここにいるのよ。危ないからどっか隠れてなさい!」
「いいえ。わたしも戦います。あんなの相手にリナさんだけじゃ大変でしょうから」
「ゴブリン相手に悲鳴上げてたのはどこの誰よ。いいから下がってなさい」
そう言って無理やり下がらせようとするあたしに、剣を抜いたガウリィが叫んだ。
「もめてる場合じゃないぜ。来るぞ!」
「ったく、どうなっても知らないからね」
やけくそ気味にそう叫ぶと、あたしは腰のショートソードを抜いてガウリィの後を追った。
実際、ドラゴン、それもブラックドラゴンを相手にしては、あたしといえど気は抜けない。
ガウリィの剣は強固な鱗に弾かれ、試しに放ったあたしの呪文でも傷一つ付けられなかった。
こうなったらあの呪文、黒魔術最強の威力を誇る竜破斬――ドラグ・スレイブ――しかない。
そう思ったあたしがガウリィに時間稼ぎを頼んで呪文の詠唱を始めたときだった。
*
――時空の狭間にたゆたいし、白き滅びのひとかけよ。
我が命に従い、ここに一つの終焉をもたらさん。
*
……風が吹きぬけ、世界が止まる。
そっと目を閉じて、力ある言葉を紡ぐ唇。
胸の前で手を組んだその姿はせつない祈りを捧げる乙女のようで……。
気づけば、
圧倒的な存在感を持って迫る白が世界を埋め尽くす様をあたしは確かにこの目で見ていた。
*
ドラゴンの脅威は白い闇の中に消え去り、あたしとガウリィは村長に会うことなくその村を後にした。
そして、破滅の光を生み出した張本人は今もあたしたちと一緒に街道を歩いているのだった。
「ねえ」
耐えられなくなって、あたしは彼女に声を掛けていた。
「あなた、一体何物?」
* つづく *
ユイナの力って凄いな。
美姫 「果たして、彼女は何者なのか!?」
そして、あの呪文らしきものは。
美姫 「次回になれば、その辺りが明らかにされるのかしら?」
それはまだ分からないが、とりあえず次回も面白くなりそうだな。
美姫 「本当よね」
う〜ん、次回も待ち遠しいな。
美姫 「うんうん♪ 次回を送ってくれるまで、暴れちゃうぞ〜♪」
って、本当に暴れるな!