時は214日。

年に一度のその日は……恋する乙女を強くする魔法の日といわれている。

好きな相手に自分の思いを込めたチョコレートを渡すのが、まぁ定番である。

当然、ここにおわす方々も、恋する乙女な訳で。

黒髪の眼鏡をかけた少女や、金髪の触覚を持った外人さんや和食全般が得意な青髪の空手少女や中国拳法を使う関西弁の緑の髪の少女。

それに加え、怪しい発明大好きの紫の髪の少女や近所の神社で巫女さんをやっている少女や病院に勤めている銀髪の女性とか。

そんな個性が豊か過ぎる女性達に好意を抱かれているのが、毎度お馴染みの我らの主人公高町 恭也である。

恭也はすでに病院に勤めている銀髪の女性、フィリスと恋仲なのだが、他の彼女達は一向に諦めていない。

一年前、恭也が失踪してから再び戻ってくるまでに、様々な事があったのだがそれは私の短編【斜陽】をご覧ください。

そして、戻ってきてからの恭也とフィリスは見ているこっちが恥ずかしいほどの熱々カップルになっていたのだが。

他の女性達は恭也の気を引こうと……いろいろな策略を練っていた。

そして、今日214日……

運命の日である……

 

 

 

 

戦え乙女達

 

 

 

 

「恭也〜、朝食を持ってきましたよ」

少し幼い声が、恭也の病室に響く。

「ああ、フィリス……いつもすまない」

ベッドに寝ていた恭也は体を持ち上げ、礼を言う。

持ってきたのは恭也の恋人であるフィリス・矢沢。

近々フィリス・高町に名前が変わる予定である。

「ああ、そのままでいて」

そう言って、備え付けの台に持ってきた食事を置いて、フィリスは恭也を寝かす。

「取りあえず……食べる前に、ちょっとした問診ね」

一緒に持ってきていたのであろうカルテを持って、フィリスは恭也に色々聞いていく。

「足の具合は……どう?」

思い出すように……包帯を巻きつけられた足に触って、フィリスは言う。

「大分良くなってきていると思う……足に、少しばかり痛みも戻ってきている」

骨が中で砕けて、神経や皮膚に多大なダメージを与えたのだ。

手術する時はかなりの麻酔を使ったし、痛み止めも使った。

普通の人なら絶対に治らない……もう車椅子生活を余儀なくされるところだった。

だが、鍛えていたおかげか……恭也は1年ほどきちんと治療に専念すれば、歩く所まで回復するそうなのである。

以前の状態でもちゃんとフィリスの整体を受けていれば、治ったかも知れなかったからである。

「ただ……もうあの刹那には踏み込めないし……剣を握っても、以前のようにはいかないだろうな」

ベッドの隣の机においてある……黒い装飾が施された小太刀を見て、恭也は言う。

一本は愛刀 八景。

もう一本は……

「恭慈さんの剣……持ってきたんですね」

フィリスがその小太刀を見て、言う。

「ああ……あの人には、色々な事を教えてもらった……気付かせてもらった……そんな人の刀だから……」

感慨深く、恭也は小太刀を眺めながら話す。

「でも、足が治ったからって、以前みたいな事はしないでくださいね」

少し笑って、フィリスが言う。

「8時間なんて、貴方からしてみれば普通でも、私達から見たら異常なんですから」

はじめて恭也がフィリスの整体を受けたとき。

炎症が酷いのでフィリスは恭也にどれだけ鍛錬したのかをたずねたところ。

「いきなりノンストップで8時間戦闘をしていました、ですからね」

くすくすと笑いながら、思い出して、フィリスは話す。

「別段おかしいとは思わなかったですけど」

少しばつが悪いように、恭也は言い返す。

こういう場面を見ていると、フィリスの方が年上という実感がある。

最も、こういった表情の多彩さはほぼフィリスだけに見せているのだが……

「そろそろ2度目の手術ですね……」

恭也の足は何度かの手術と、過酷なリハビリによって治る。

それほどまでに、酷いものだったのである。

「ああ……」

自分で自分の足を触って、恭也は目を瞑る。

「後悔は……していない……する理由もない……フィリスを護る為に負った傷なら……俺には、正しいって言うとおかしいがそんな傷だから」

「恭也……」

優しい声で、語る恭也にフィリスは少しもたれる。

「朝……おはようのキス」

フィリスはそう言って、目を閉じる。

「フィリス……」

フィリスの肩を掴んで、恭也も顔を近づける。

そして……唇が触れ合うまで後一歩……

 

 

 

「「「「恭也(ちゃん)!! お見舞いに来たよ(ました)!!!」」」」

 

 

 

バン! と、病室の扉が開かれる。

フィリスと恭也は、とっさに離れて何もなかったようにする。

「みっ、皆さん……お早いですね……」

内心ものすごくドキドキした状態で、フィリスが尋ねる。

ドキドキしているのは何も驚いたからだけではないのだが……

 

(後もう少しだったのに〜〜〜)

 

残念の気持ちが多いようである。

今までも何回もしてるくせに……

「お前ら、時間を弁えろ……」

はぁ、と溜息をついて、恭也は言う。

こんな朝早い時間に恭也の病室を訪れたのは美由希・忍・晶・レンの4人である。

「そっ、そんなことより!!」

恥ずかしかったのか、美由希が少し声を大きくして言い出す。

「美由希ちゃん、病院ですよ」

「あうぅぅぅ……」

話題を変えようとして逆に怒られて、美由希はしょげる。

「そんな事言わないでさー、せっかく来て上げたんだから……ね」

笑いながら忍が言う。

「来るなとは言わないが……時間を考えろ……俺はまだ朝食も食べてない」

目の前の机に置かれた食事を指差し、恭也が言う。

「じゃあ、忍ちゃんが食べさせてあげる」

そう言って箸を持ち、料理を恭也の口元に持っていく。

「はい、恭也 あ〜ん」

「やめい」

恭也はそう言って忍から箸を取り返す。

「あ〜ん、恭也の恥ずかしがりや〜」

「どこをどう聞き違えればそんな答えが出る」

溜息をまた一つついて、恭也は料理に箸を伸ばす。

「あっ、おししょう〜そんな病院食より、うちの作った中華粥でも」

そう言ってもってきていたのだろうカバンの中からタッパに入ったお粥が出てくる。

「そうか、本音を言うと病院食も食べ飽きてきたところだったんだ」

レンに礼を言い、恭也はタッパを受け取る。

「師匠!! そんな亀が作ったやつより俺が作ったお粥の方が良いですよ!!」

そう言って晶もタッパを差し出す。

「カツオで出汁をとった梅粥です。 日本人ならこれでしょう」

「ふん、おサルの考えそうな事やなー」

晶の言葉を聞いて、レンは明らかに鼻で笑った。

「中華粥は栄養も満点やしその上美味しいんや。 多彩な具もあって見栄えもええからうちのほうが良いに決まってる」

「お前こそ判ってないな。 日本人には、そんなコテコテしたお粥よりも、あっさりしたお粥の方があうんだよ!!」

病室という事を忘れ、二人は言い合いをし、ついには構える。

「ふん、また吹っ飛ばされたいよーやな」

「へっ、そっちこそまだ吹き飛びたいみたいだな」

まさに一触即発……

そして、こんなときに頼りのなのははまだ家にて食事中である。

「二人とも!!」

そんな二人を見かねたフィリスが叫ぶ。

「良いですか!!? ここは病院なんですよ!? いくら個室だからって、騒いだら他の患者さんの迷惑でしょう!!」

くどくどくどとフィリスのお説教が二人に降り注ぐ。

「フィリス先生があんなに叫んでたら本末転倒なんじゃ……」

「言うな…………」

美由希の呟きに、恭也も溜息をついた。

最近わかった事なのだが、フィリスはとても欲深いというか。

怒った時は、とてつもなく怖い。

かといって、泣き虫で、寂しがりやな一面もある。

目の前のしゅんとしている晶とレンに説教しているフィリスを見ると思いつかないが。

「あ〜、フィリス……そろそろ食事の回収の時間だろう……」

まだ説教するつもりのフィリスに向かって、恭也が進言する。

「まだ言い足りないんですが……時間ですしね」

フィリスはそう返事をして、晶とレンに再び釘をさす。

さすがにまだ逆らおうとする気力はなかったのだろう、晶とレンは首を縦に振った。

「忘れる前に、恭也〜はいこれ」

忍はそう言って恭也に綺麗にラッピングされた小さな箱を渡す。

「なんだ、これは?」

不思議そうに恭也は忍に尋ねる。

「忍ちゃんからの、愛のバレンタインチョコレート」

語尾にハートマークが5つくらいつきそうな声で、忍は答えた。

あっ、フィリスの眉が少しつり上がった……

「師匠、おれも」

「うちもー」

それに続いて晶・レンも綺麗にラッピングされたチョコレートを渡す。

「そうか、三人ともすまないな……義理でも嬉しい」

その言葉に忍たち3人は呆れの溜息を、フィリスは安堵の溜息をついた。

恭也にとって浮気というのは論外の行為であり、ましてやこの4人を含む残りの人が自分に好意を寄せてくれているなどとは微塵にも思っていない。

せいぜい、態のいい玩具だと思っているぐらいである。

「恭ちゃん、私からも」

「っ!!?」

美由希がそう言ってチョコレートを出すと、恭也は驚きの表情になる。

「まさか………お前が作ったのか……?」

恐る恐るといった感じで恭也は尋ねる。

「ううん、そうしたかったんだけど失敗しちゃって……」

てへと笑う美由希に恭也は安堵の溜息をついた。

美由希の料理は最早料理というのはおこがましい……食べたらお花畑が見えるシロモノだ。

自殺願望者や、特殊な趣味な者にしかお勧めできない品である。

「なら……受け取ろう」

美由希のチョコレートを受け取り、恭也は礼を言う。

「じゃね〜恭也〜〜」

「おししょーお大事にー」

「師匠、早く治してくださいね」

「恭ちゃん、ばいばい〜〜」

そう言って四人は病室から出て行った。

「随分ともてますね、恭也」

やっと二人っきりに戻った病室で、フィリスが恭也に言う。

「そうか? 皆俺が誰にも貰えないと思って気を利かせてくれたんだろう」

「ふ〜ん、誰にも?」

ちょっと悪戯っ子のような表情をして、フィリスは恭也に尋ねる。

この辺は、リスティに似ているであろう。

「恋人の私も、あげないと思ってるの?

ちょっと悲しそうな顔をして、フィリスは言う。

「あっ、いや……そう言う訳じゃ……」

珍しくしもどろになる恭也。

「じゃあどういう訳? 私って、もしかして恭也の恋人じゃないの?」

ここまでくれば、アカデミー賞並みの演技である。

目薬などを使わずに、フィリスの目には涙が溢れている。

「フィリス!!」

そんなフィリスの顔を見た瞬間、恭也はフィリスを抱き寄せる。

「そんな事は無い……フィリスは俺の……大切な人だ……一生、護ってあげたい人なんだ」

凄く真剣な声で、恭也は言う。

抱き合っているから、お互いの顔は見れないのだが、フィリスには恭也が凄い真剣な表情をしている事がわかった。

「あの時……フィリスが来てくれて嬉しかった……受け入れてもらえた時、言葉に出来ないほどだった」

抱き締める腕に、力がこもる。

「フィリスが俺を嫌いになっても……俺はフィリスを嫌いにはならない……」

「恭也……」

語る恭也の腕が、少し震えていた。

だから、そっとフィリスは抱き締め返す。

「御免なさい、試す様な事言って……私も、恭也の事が好きだし、あの時言った言葉に嘘なんてないもの」

少しはなれて、フィリスは恭也の顔を見る。

「少しね、不安だったの……皆可愛いから、恭也が私を置いて違う娘の所に行っちゃうんじゃないか、って」

「そんな事っ!」

「判ってる……恭也は、そんな人じゃないって判ってる……でもね、女の子は愛してる人がたとえ、恭也から見れば友人や、兄妹でも不安になるんですよ」

最初はちょっとした悪戯だったのに、考えれば大きな不安になっていた。

だから、余計に悲しかったのかもしれない。

「フィリス……」

だから、恭也は安心させようと、フィリスにキスをした。

甘いキス……恋人がするようなキス。

「恭也……愛してます」

「俺も、生涯をかけてあなたを愛する」

そして、もう一度キス。

 

 

「恭也〜……って」

間が悪いのだろうか。

それとも、公共の場である病院の、個室とはいえ院内でこのような行為をしているからであろうか。

恭也とフィリスがキスしたところに桃子がやってくる。

「かっ、かあさん!!?」

さしもの恭也も驚きの声を上げる。

「お邪魔だったみたいね〜〜〜」

楽しそうな顔をして、桃子は言う。

「フィリス先生、こんな息子ですけどよろしくお願いしますね」

桃子は笑顔で、フィリスに言う。

「はい!」

それに、フィリスも笑顔で答えた。

「じゃあ今日はもう帰るわね」

桃子はそういって、病室を出て行った。

「何をしに来たんだ……かあさんは……」

「ふふふ、そうですね」

溜息をつく恭也に、フィリスは少し笑って言う。

「そうだ……恭也、これ」

フィリスはそう言って白衣のポケットから、綺麗にラッピングされた箱を取り出す。

Happy Valentine

ちょっと顔を赤くして、フィリスはそれを恭也に渡した。

「ありがとう……フィリス」

恭也も、笑顔になって答えた。

 

 

 

 

214日は念に一度の魔法の日。

恋する乙女を強くする大事な一日である。

だから、今日もどこかで、誰かの思いが実っていますように……

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

ふぅ……期日までに仕上がった……

フィーア「遅れてたら生きてなかったけどね」

・・・・・そういう物騒な事は言わないでほしいな。

フィーア「で、今回は【斜陽】の続きって設定なわけね」

誰にしようか迷ってたんだけど、斜陽の続きだったらかけそうかなってことで。

フィーア「今回は最初から結構あまかったわね」

それを狙ってたんだが、最後はなんか少しシリアスに……

フィーア「あれをシリアスといっていいのかしらねぇ」

最初の構想ではこの後フィアッセも来て一頓着ある予定だったんだ。

フィーア「でも、何で抜いたの?」

正直、そこまで話がつながらなかった……

フィーア「あんたの未熟さが招いた事態って訳ね」

責めないでくれ……ボクはまだまだ駆け出しなんだ。

フィーア「そうやってかっこよく決めてれば許してもらえるなんて思った?」

滅相もございません(瞬間)

フィーア「宜しい……ってことで、逝ってきなさい」

あ〜〜……漢字が違うようなぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜………………キラーン。

フィーア「ふぅ、浩さんにもハッピーバレンタインがありますように。お姉さまには私のチョコを送りますからね〜〜〜。

ではでは〜〜〜」

 




…………なあ、美姫。
美姫 「どうかしたの?」
いや、SSと一緒にこれがあったんだけど。
美姫 「良かったじゃない、フィーアちゃんからチョコを貰えて」
何か、裏があったりとか。
美姫 「疑り深いわね〜」
って、何を食べてるんだ。
美姫 「ん? フィーアちゃんから貰ったフォンダショコラよ。浩は生チョコみたいね」
ああ。それじゃあ、ありがたく貰っておこう。
美姫 「そうしなさい。後で、私からもあげるから」
……毒?
美姫 「失礼ね! ちゃんと業務用のを買ってきて上げたのに」
業務用かよ! どうしろと言うんだ、それを!
美姫 「食べる以外に何かあるの?」
……シクシク。恭也と違う意味で、辛い日になりそうだよ〜。
美姫 「はいはい、泣かない、泣かない」
くっ。泣いてなんかないやい。
美姫 「はいはい。と、アハトさん、投稿ありがとうございますね」
そうだった。ありがと〜。
ヴァレンタインデーだけに、甘々〜。
美姫 「とてもいい感じの二人よね」
うんうん。本当に、投稿ありがとうございました。
美姫 「さて、それじゃあ、これにて」
ではでは〜。



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