都合よく道を通り縋った二人―恭也と美由希に拾われたアイラと蒼色の石。

拾われた後に高町家へと赴いたこの二人?は、現在恭也の部屋のちょうど中央にて待機していた。

本来、母である桃子が飲食店を経営している都合上、動物を家の中に入れるのはあまりよろしいことではない。

だが、発見時のアイラの衰弱様を見ると外で待たせるというのも気が引け、仕方ないということで自分の部屋に入れたというわけだ。

 

《はあ〜、捨てる神あれば拾う神あり……いい人っていうのはいるもんだねぇ》

 

《だね〜。 まあ、正直この時間に外出して一体何をしてたのかっていうのは激しく疑問だけどねぇ》

 

《まあね……でも、悪い人には見えなかったからいいんじゃない?》

 

《というか、あれだけのことをやる奴らを見てきた身からしたら、大抵のことは悪い風に見えないと思うな》

 

実際に声を出しているわけではないが、石と向かい合って対話する猫という光景は結構シュールだった。

とまあ、そんな様子で話し合い(念話で)をしていると、数分前程度前に部屋を出た恭也が部屋へと帰ってきた。

そして帰ってきた恭也はアイラの前へと歩み寄り、手に持っている一枚の皿を前へと置いた。

 

《……ミルク?》

 

《何ゆえ、ミルク?》

 

アイラと石は頭に疑問符を浮かべつつ言い合い、皿と恭也を交互に見る。

 

「むぅ……腹を空かせているわけではないのか?」

 

《いや、確かにお腹は空いてるけど……なんでミルクだけなのかなってさ》

 

「ふむ、子猫にはミルクだと思ったからだが……違うのか?」

 

《全く違うとは言えないけど、今は普通に食べるものが欲しいかなぁ……って》

 

そこまで言ってアイラはようやくおかしなところがあることに気づいた。

念話で言葉を発しているはずの自分が、現在誰と話をしているのかということに。

そしてそれは早い段階から気づいていた石のほうも、驚きのため言葉を失っていた。

が、それも僅か数秒……すぐさま我に返った二人は、声を揃えて(念話だが)驚きを言葉にした。

 

《《なんで私(あたし)たちの言葉が聞こえてるの!?》》

 

「いや、なんでと聞かれてもなぁ……」

 

二人の信じられないというような驚きの言葉は、困ったような苦笑と共に返されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはB.N

 

【序章】第一話 魔法剣士、始めます!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

驚き後にしばし話し合った二人は、とりあえず念話が聞こえることに一つの結論を出した。

それは、恭也に魔導師としての素質があるという、普通と言えば至って普通の結論。

しかしまあ、それでも拾ってくれた人が魔導師の素質ありなどという事実は、結論を出した今でも驚きであった。

 

《ん〜……もしかして、恭ちゃんって魔導師だったりする?》

 

「いや、至って普通の人間だが……というか、その恭ちゃんというのは?」

 

《ん? 一緒にいた人がそう呼んでたからそういう名前だと思ったんだけど……違うのかい?》

 

「むぅ、完全に間違いというわけではないが……まあ、とりあえずちゃんとした自己紹介をしておこう。 俺は恭也……高町恭也だ」

 

《高町恭也……じゃあ、恭也って呼ばせてもらおうかな。 あ、あたしはアイラね……で、恭也の足元に転がってる石ころが》

 

《オリウスだよ〜。 よろしくね、恭也♪》

 

足元に転がる石―オリウスの言葉に恭也は頷くことで返す。

そして、少しだけ後ろに下がってオリウスへと視線を向け、顎に手を当てて呟く。

 

「ふむ……猫が話せるというのもだが、石が喋るのは正直驚いたな」

 

《そうかな? ストレージならともかく、デバイスが喋るのは結構普通だと思うんだけど》

 

《というかさ、魔導師じゃないんならデバイス自体知らないんじゃない?》

 

《……そうなの?》

 

「む、確かに初めて聞く単語ではあるな……」

 

《そっか〜……じゃあ、驚くのも無理ないねぇ。 じゃあこうして助けてもらったわけだから、お礼に私が手取り足取り教えちゃおっかな♪》

 

《手も足も無いくせに……》

 

《じゃ、まずデバイスってのが何なのかってところからだけど〜》

 

ボソッと呟かれたアイラのツッコミを華麗に無視し、オリウスはデバイスについての説明を開始する。

それに口を開くことなく聞き入る恭也を横目で見つつ、アイラは空腹に耐えられず、待つ間にミルクを飲むことにした。

そして説明を始めること三十分弱、デバイスに関する初歩的な説明を終えたオリウスは…

 

《とまあ、これが魔導師なら誰でも知ってる基礎知識なんだけど……何か質問あるかな?》

 

「ふむ、そうだな……では一つだけ。 その魔法というのはデバイスを持っていれば誰でも使えるものなのか?」

 

《ん〜、そういうわけでもないかな。 素質やある程度の魔力もやっぱり必要だし、魔導師としての訓練も必要になってくるしね》

 

その返しに恭也は納得したように小さく頷く。

そしてその後も質問はないかと聞いてくるオリウスにないと答え、ちょうど飲み終わって空になった皿を持って立ち上がる。

 

《お代わり持ってきてくれるの?》

 

「いや、お代わりが欲しいなら持ってくるが……そもそもミルクでは腹が満たされないと言ってなかったか?」

 

《ん〜、でも無いよりはマシだし、持ってきてくれるなら大歓迎さね》

 

そう言いながらも目が食べるものを強請っているように見え、恭也は苦笑しつつ台所へと向かう。

夜ということもあって台所には誰もいない……かと思われたが、そこには美由希の姿があった。

予想しなかったわけではない……そもそも、美由希は鍛錬帰りで先ほどまで風呂に入っていたのだから、風呂上りで台所にいてもおかしくはない。

だが、予想しなかったわけではないのだが、それでも美由希と鉢合わせしてしまったことに困らないわけではない。

アイラが見た目子猫というのを美由希も見ているため、下手な食べ物を持っていこうものなら怪しまれる可能性がある。

次いで、怪しまれたならば正直に話せばいいだろうという考えもあるが、言ったところで信じてくれるかも疑わしい上に、信じたとしてもまた失礼な言葉が飛んでくるのは目に見えている。

故に、恭也はなるべく子猫が食べてもおかしくないようなものを用意すべく、美由希の前を通って台所へと立った。

 

「? 何してるの、恭ちゃん?」

 

「見て分からんか? 猫の餌を作ってるんだ」

 

「……子猫っていったらミルクじゃないの?」

 

「いや、ミルクをやってみたんだが全然足りないみたいでな……」

 

「ふ〜ん……でも、猫の餌を作るっていうのはわかったけど、白飯に鰹節と醤油っていうのはどうかと思うよ?」

 

「……なら、お前なら猫飯をどう作るんだ?」

 

「子猫なんだし、白飯にミルクかけるとか……あとは」

 

「いや、もういい……聞いた俺が馬鹿だった」

 

呆れ交じりの溜め息をつかれてムッとした顔をする美由希の前を再び通り、完成品を持って台所を出て行く。

その際に美由希から、お風呂空いたからという言葉を聞き、軽い返事で返しつつ恭也は自室へと戻っていった。

そして自室に戻ってから更に十分程度、運ばれた茶碗に盛られる猫飯をアイラは凄い勢いで平らげた。

その後、中身のなくなった茶碗をペロペロと舐めつつ、念話にて恭也にお礼の言葉を口にする。

 

《ありがと、恭也。 見た目はあれだけど、意外に美味しかったよ》

 

「そうか……それなら何よりだ」

 

満足そうなその一言に、恭也は微笑を浮かべつつ返してその場に腰掛ける。

 

「それで、二人ともこれからどうするんだ?」

 

《どうするって?》

 

「いや、今日はもう遅いし、ここに泊まっていけばいいんだが、あんなところにいたところを見ると行く当てはないんだろう? だったら明日からどうするんだろう、とな……」

 

《ん〜……確かに行く当てはないねぇ。 でも、恭也に迷惑を掛けるわけにもいかないし……ま、なるようになれとしか言えないかな》

 

《え〜……折角なんだし、ここで厄介になればいいじゃん! いいでしょ、恭也?》

 

「むぅ……それは、俺だけでは判断できんな。 だがまあ、確かにこのまま二人を路頭に迷わせるというのも気が引けるし、明日辺りにでも母さんに聞いてみるとしよう」

 

遠慮のないオリウスをアイラが嗜めるよりも早く恭也がそう答えたため、アイラは口を閉ざして申し訳なさそうにする。

それを読み取った恭也は気にするなというように苦笑し、アイラの頭を優しく撫でる。

頭を撫でられたことにアイラはピクリと反応して頭を上げ、恭也の微笑をその目で捉えながら気持ち良さそうに細めるのだった。

そしてその後、風呂へと入り戻ってきた恭也と共にオリウスを銜えながらアイラは布団へと潜り込み、静かに眠りへと落ちていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、アイラとオリウスを起こさないように布団から出て、恭也は美由希と共に鍛錬へと向かった。

その際に一緒に二人を発見した美由希はその後が気になったのか尋ねてきたが、全部は語らず所々端折って説明しておいた。

そして更に時間が流れ、鍛錬を終えた恭也と美由希が家へと戻ると、家の前には驚くことにアイラがオリウスを銜えて佇んでいた。

まあ恭也からしたらその驚きも多少程度ではあったが、まるで二人の帰りを待っていたかのように佇むその姿に美由希は大いに驚いた。

犬なら…まあそれでも驚くことには驚くが、拾ったばかりの子猫がすでに懐きましたというような行動を起こしていることには驚かざるを得ない。

とまあそんなわけでしばし驚きを見せた二人だったが、すぐに我へと返るとアイラと共に家の中へと入り、美由希と分かれた後に例の件を話すべく桃子を捜し始める。

そして捜し始めてほぼ間もなく、洗面所からリビングへと向かっている桃子と遭遇し、ちょうどいいとばかりにその件を切り出した。

 

「母さん、この猫なんだが……この家で飼っては駄目か?」

 

「……へ?」

 

自分の後ろにいる子猫を指してそう言うと、桃子はなんとも間抜けな声を上げて呆然とする。

だが、それも数秒…すぐに復活した桃子は、まるで信じられないというかのように恭也を見つつ口を開いた。

 

「め、珍しいわね……恭也がお願いなんて。 というか、初めてのことじゃない?」

 

「む、そうだったか?」

 

「そうよ……と、その子をうちで飼ってもいいかだったわね? う〜ん……初めての恭也のお願いだから了承してあげたいところだけど、さすがに飲食店を経営してる身からしたら了承しかねるわねぇ」

 

食べ物を扱う店を経営している身では、生き物を飼うことはさすがに賛成しかねる。

だが、折角の恭也の頼みごとを叶えてあげたいというのもあり、桃子は困ったような悩み顔を浮かべる。

そんな中、恭也の後ろで成り行きを見守っていたアイラは、何を思ったのか桃子の足元へと移動し始める。

そして足元までやってくると、まるでアイラ自身もお願いするようにジッと桃子を見上げた後、その足へと擦り寄る。

野良猫は人にすぐには懐かないというのがあるのを知っているため、その行動に桃子は少しだけ驚きを浮かべることとなった。

だが同時に、この子猫は普通と比べて賢いのかもしれないという考えが頭に浮かび、結果として…

 

「ま、まあ、この猫ちゃんは結構賢そうだし、台所に入らないようにしてくれるならいいんじゃないかしら?」

 

あっさりと陥落し、アイラを家に置くことは了承されるのだった。

そしてそれに対して恭也がお礼を告げたことに、良いことをしたというように鼻歌交じりに桃子は台所へと去っていった。

その後姿が見えなくなるまで見続ける恭也の前、桃子の経っていた場所にてお願いの対象となったアイラは……

 

《ふ……ちょろいね》

 

桃子の後姿を見つつ、してやったりというようにそう呟くのだった。

その呟きを恭也は聞こえてはいたが聞こえない振りをし、アイラと共にリビングへと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

リビングにて全員が集まり、アイラの紹介をした後に皆は朝食を取り始めた。

ちなみにアイラのご飯はというと、晶とレンが喧嘩の果てに合作という手段をとり、猫が食すにしては豪勢すぎるものが用意された。

とまあ、そんなこともあって食事を取る一同の今朝の話題となるのは、もちろん今日付けで高町家のペット二号となったアイラのこと。

どういう経緯で飼うことになったのか、そもそもなんでアイラを飼おうなどと思ったのか……様々な疑問が恭也へと飛び交う。

だが、それらには答えられるものと答えられないものが存在したため、恭也は悪いと思いながらも曖昧に疑問に答えていった。

その後、質問の嵐が吹き荒れる朝食を終え、恭也は各自学校へと向かっていく一同を見送った後にアイラを連れて自室へと戻った。

 

《あ、お帰り〜。 で、どうだった?》

 

《うまくいったよ。 ほんと、こういったことだけはさすがだね、オリウス》

 

部屋へと入るなり机の上に置かれているオリウスから放たれた言葉にアイラはそう返す。

そして恭也の横からオリウスのいる机の前の座布団へと移動し、小さく欠伸をしてその身を丸める。

 

「ふむ……眠いのか?」

 

《ん〜、ちょっとね〜……さすがに寝床が変わったからすぐに寝付けなくて》

 

《うっそだ〜! ここみたいにまともな寝床じゃなくても図々しく寝るくせに〜!》

 

《うっさいよ、オリウス。 と、そんなわけであたしは寝るね〜……》

 

そう言うや否や目を閉じて眠りにつくアイラに恭也は苦笑しつつ、アイラの眠る座布団の横に腰掛ける。

 

《ねえねえ、恭也。 思ったんだけど、恭也は学校ってとこに行かないの?》

 

「ふむ、先日高校を卒業したばかりだからな……受かった大学が始まるまで行かなくてもいいんだ」

 

《ふ〜ん……じゃあ、今日はその大学っていうのが始まるまで暇ってこと?》

 

「そうなるな」

 

その返答を聞いたオリウスはそこで会話を一旦切り、う〜んと唸りながら何かを考え出す。

一体何を考えているのか……それを恭也は気にならなかったわけではない。

だがまあ、やることもあるのでとりあえず語るのを待つことにし、引き出しから一冊のノートを取り出した。

取り出したノート―美由希の鍛錬表を開き、ペンを取り出してさらさらとノートに内容を書き足していく。

そして恭也がそれを始め、オリウスが何かを考え始めてからしばし経ち、ようやくオリウスは考えが纏まったのか言葉を発した。

 

《じゃあさ、恭也……その暇な時間を利用して、魔法を覚えてみる気ない?》

 

「魔法を? だが、それは簡単に覚えられるものではないと昨日言ってなかったか?」

 

《まあ、才能が乏しいなら難しいだろうけど、恭也の場合は問題ないと思うよ。 念話が聞き取れたんだし、潜在魔力も普通の人よりも結構高いみたいだしさ》

 

「むぅ……しかし、今は美由希にとって大事な時期なのだし、俺が魔法を覚えるのにかまけるというのもなぁ」

 

《大事な時期って……何の?》

 

恭也の一言にあったその部分に疑問を抱いたオリウスは不思議そうな声色で尋ねる。

それに恭也はオリウスに向けて見えるようにノートを傾け、自分たちが行っている鍛錬について語った。

だが、それが語られた後もオリウスはそんなことかと言うような口調で告げる。

 

《だったらさ、その鍛錬っていうのを第一に考えて、おまけで魔法の訓練もすればいいじゃん。 今は暇だって言うんだから時間はあるだろうし、その大学っていうのが始まっても空き時間くらい十分にあるでしょ?》

 

「まあ、確かにあるにはあるだろうが……」

 

《だから〜、一に剣術、二に魔法って感じでやっていけばいいと思うよ。 それに魔法の訓練は恭也の鍛錬にもなるんだし、やる価値はあると思うな》

 

そこまで言われ、恭也はしばし腕を組んで考えた後、わかったという短い言葉で了承を示した。

恭也が了承したことに、なぜかオリウスはやったと嬉しそうに言い、同時に嬉しさを表すように一度だけ蒼く輝いた。

そしてその後、アイラが寝ているということもあって昼過ぎから魔法の訓練を早速開始しようということになるのだった。

 

 


あとがき

 

 

【咲】 題名の割にはまだ魔法の訓練はしないのね。

それは次回だな。 今回はそこに行き着くまでの過程を話してみた。

【咲】 ふ〜ん……そういえばさ、オリウスとアイラって恭也に自分たちのこと全然話してないわね?

話してるじゃん、デバイスだって。

【咲】 いや、そうじゃなくて……自分たちがなんで行く当てなくあそこにいたのかの経緯よ。

ああ、それね。 それはまあ、序章の最後で出る予定だ。

【咲】 なぜに序章の最後?

いや、なんというか……この二人の事情はおいそれと語れることじゃないからだよ。

ついでに言うなら、これを語った後に下手をすると追い出される可能性もあるし。

【咲】 つまり、現状ではそれが嫌だから話してないってこと?

そういうことだね……まあ、勝手と捉えればそれまでだけど。

【咲】 じゃあさ、なんで序章の最後では話すことになるわけ?

それはまあ……そのときになればわかるとしか言えんな、今は。

【咲】 そう……じゃあ、今回はこの辺でね♪

また次回会いましょう。 では〜ノシ




うーん、追われているみたいだったのも気になるところだが。
美姫 「とりあえずは、恭也の魔法特訓ね」
どうやら、恭也には魔法の素質が少しあるみたいだし。
さてさて、どうなりますやら。
美姫 「次回も待っていますね」
待っています。



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