アイラが目を覚ました後、昼食を食べてから恭也たちは揃って出掛けた。
普段の鍛錬でも人目がつかない場所を極力選んでやっているため、魔法の訓練に関しても同様。
そうして選ばれた場所が、夜の鍛錬として使っている神社の裏山の奥だった。
《じゃ、早速デバイスを展開してみよ〜♪》
《ふぁぁ〜……》
妙にハイテンションなデバイス―オリウスに反して、アイラは寝起きであるため激しく眠そうだった。
そんな相反する様子の二人に恭也は若干の苦笑を見せながらも、手に持つオリウスの軽く目元まで持ってくる。
「で、展開というのはどうすればいいんだ?」
《んっと、まずは私が展開のための呪文を言うから、恭也はそれをなぞって言ってね〜》
「ふむ、わかった……」
《オッホン……じゃ、いっくよ〜》
咳払いをしたにも関わらず、口からは出るのは言葉はどこかおちゃらけた感じをさせる。
だが、魔法という未知の力を手にするということに少なからず不安がある恭也からしたら、オリウスのそれは少しだけ助かったと言えた。
しかしまあ、オリウスは恭也が自分の言動で緊張を解すことができたなどと知るわけもなく、変わらぬ様子で呪文を口にする。
《我、蒼天の空に輝く一陣の光。 普く漂う群れの中にて存在せしも、ただ一つの存在と成りえる者なり》
「我、蒼天の空に輝く一陣の光。 普く漂う群れの中にて存在せしも、ただ一つの存在と成りえる者なり」
先ほどまでとは打って変わって真面目な声色で紡がれる言葉を、恭也は言われたとおりになぞっていく。
そして、次々と紡がれる言葉をなぞり続け、最後となる一言は先ほどまでより力を込めて紡いだ。
「胸に抱きしは聖空の輝き、掲げし剣には不滅の魂を。 守護の力を我が手に……オリウス、セットアップ!」
《Stand by ready. set up》
オリウスの言葉通りに呪文を口にすると、オリウスとは違う声でそう聞こえてくる。
それと同時に、膨大といえるほどの眩い光が放たれ、光は恭也を包み込んだ。
《と……じゃあ次に恭也が望む防護服と武器をイメージしてみて》
「む……」
光に包まれながらも、オリウスのその一言で恭也は防護服を頭でイメージする。
すると頭に浮かべた防護服と武器のイメージがデバイスへと伝わり、恭也の服に変化が現れる。
といっても変化は簡単なもので、いつもと変わらぬ上下真っ黒な服に黒いコートを纏うといった一見変質者スタイルだった。
そして服が変化すると同時に手にしたデバイスも変化し、ビー玉サイズの石が普段使う小太刀サイズの剣へと変化する。
《は〜……確かに恭也が望む武器とは言ったけど、まさか剣に変化させるなんてねぇ〜》
「むぅ……駄目だったか?」
《ううん、別に駄目じゃないよ。 世の中には近接魔導師なんていうのもいるにはいるし、デバイス自身も役に立てる形状のほうがいいだろうしね》
《exactly,master》
「あ〜……一つ聞くが、この声は一体誰なんだ?」
周りにアイラ以外誰もいないのに聞こえてくる声に、恭也はかなり不思議そうな顔をする。
それにオリウスは悪戯が成功したというような笑いを上げ、その声と揃って答えを告げた。
《《簡単なことだよ……私とこの子、二人でオリウスってだけだから♪(It is easy.......She and I, oriusu means two people.)》》
魔法少女リリカルなのはB.N
【序章】第二話 二つの意思を持つデバイス
ストレージデバイス、インテリジェントデバイス、アームドデバイス……。
デバイスには様々な種類のものがあり、その中で意思を持つデバイスは数多く存在する。
しかし、意思を持つデバイスは存在しても、それが二つあるというデバイスは今のところ確認されてはいない。
故にオリウスというデバイスはとても珍しい存在と言えるだろう。
だがまあ、恭也は魔法のこともデバイスのことも昨夜初めて知ったため、そうか程度しか思わないのもしょうがないだろう。
そしてオリウス自身もそのことが元々分かっているからか、それとも稀少だから特別と思っていないからかは分からないが気にした様子はなかった。
《さ〜て、展開も完了したし、次は何か魔法を使ってみよっか?》
《well》
オリウスの言葉に対してデバイスはそう返してくる。
その二人の会話に置いてけぼりを受けている恭也はというと、頭に響く二つの声に困惑していた。
二つの意思があると説明されて頷きはしたが、理解はしても困ることが出てきてしまうのだ。
それはまあいろいろあるのだが、その中で一番の困り事というのは……自分はどちらをオリウスと呼んでどちらを何と呼べばいいかだった。
両方ともオリウスと呼べば二人が困るのは目に見えているし、かといって片方をそう呼ぼうとすれば片方の呼び名に困る。
よって結論は出るはずもなく、しょうがないかということで恭也は今だ楽しげに何の魔法を使おうか考えている二人に声を掛けた。
「なあ、一つ聞きたいんだが……」
《ふぇ? なに、恭也?》
「いや、二人で一つのデバイス……オリウスなのだということは分かったが、俺はどっちをオリウスと呼べばいいんだ?」
《ああ、確かにどっちも同じ名前だと困るよね〜……じゃあ私をオリウス、この子をリースって呼ぶといいよ》
《Or it can be reversed.master decede》
「むぅ……」
揃って二人にそう言われ、恭也はデバイスを持っていない手を顎に当てて考える。
そして考えること数秒、すぐに結論を出してそれを口にした。
「じゃあ、展開前からある声をオリウス、展開後に出てきた声をリースと呼ぶことにしよう」
《オッケー。 じゃあ、呼び方も決まったところで聞くけど、恭也はまずどんな魔法が使ってみたい?》
「ふむ、どんな魔法が……か。 難しいな……」
《そんなに難しいことかなぁ? 空を飛びたいだとか遠距離魔法を使ってみたいだとか……考えればいろいろ出てくるんじゃないの?》
《ふぁ〜……ていうかさ、そもそも恭也は魔法自体知らなかったんだから、どんな魔法がいいかって答えるのは難しいと思うよ》
オリウスの言葉に再び困り顔を浮かべる恭也に、欠伸混じりにアイラが助け舟を出す。
それにオリウスは失念していたというようにああと呟き、乾いた笑いと共に恭也へと再び口を開いた。
《あはは〜、ごめんごめん。 恭也が魔法を全然知らなかったってことすっかり忘れてたよ》
《......It is whether you think?》
リースにまでそう言われ、オリウスはおちゃらけた感じで見せながらも内心で凹む。
しかしまあ、凹んでいる自分を見せるのはポリシーに反するのか、なるべく悟られないようにして告げる。
《オッホン……じゃあ改めて聞くけど、恭也の中で魔法ってどんなものなの?》
「どんな、か。 ふむ……世にも珍しい不思議な力、だな」
《……いや、そういうこと言ってるんじゃなくてね? ほら、こう……あるでしょ? 炎がドバーッって吹くところだとか、風がズバズバッて相手を切り裂くところだとかさぁ》
「ほう……そんなことができるのか、魔法というのは」
《まあね……って違うの! 今求めてるのはそんな感心の言葉じゃなくて、恭也の中での魔法の概念なの!》
ずれた答えばかりを述べる恭也に若干怒気の含んだノリツッコミをするオリウス。
それを先ほどから黙っているリースは小声で、恭也に魔法について聞くことが間違い、と述べるが小声故に聞き取られず。
そしてそれがこの後しばらく続く中、リースよりも以前から黙り込んでしまっているアイラはというと……
《……zzZ》
陽気故の眠気に負け、地面に身を丸めて眠り込んでいるのだった。
《フー、フー……じゃ、じゃあ、まずは初歩中の初歩ってことで念話をやってみることにしよっか》
「むぅ……わかった」
怒涛の勢いによる興奮冷めやらぬ様子で告げられ、恭也は特に反論せずに頷いた。
恭也が頷いた後数分、オリウスは息を整えることで興奮を収め、今からすることについて語りだす。
まあ、語ることといっても単純で、念話の使用に関する用途や方法といったことを恭也でも分かるくらい丁寧に説明するだけのこと。
だがたったそれだけのことであっても、恭也に魔法というものを教えるのには途方もなく苦労するのは先ほどのことで分かるだろう。
魔法という存在を知って間もないというのは分かるが、それにしても普通の人より教えるのが苦労するのはどうしたものだろうか。
《Master of magic and the art of handling it is totally different from………because of that there's not?》
といって再び苛立ち始めているオリウスを宥めるが、効果はイマイチだった。
とまあそんなわけで、口でいくら説明しても恭也が理解してくれない故に、オリウスは強硬手段へと出ることを決める。
その強硬手段とはとても単純なことで…単に口で駄目なら実地で身につけようという、まあなんとも強引な方法である。
そのためさすがにリースも呆れを隠せない様子だったのだが、これを始めてみると思わぬ結果が出ることとなった。
《あ、あ……これでいいのか?》
《え……えええええええっ!?》
実地にした途端、もう今までの苦労は何だったんだろうと思えるほどにあっさりとやってのける恭也。
それには実地にしようと言った本人であるオリウスも大いに驚き、リースに至っては言葉を失っていた。
《な、なんでなの!? なんであれだけ説明して欠片も理解してくれなかったにも関わらず、いとも簡単に念話出来てるの!?》
《いや、何でと言われても……ただやってみたら出来ただけなんだが、不味かったのか?》
《ま、不味くはないけど……むぅ〜》
納得いかなそうに唸るオリウス……表情が見れるならきっと頬を膨らませているのだろう。
まあ、あれだけ魔法に関してやらの説明をしたのに結果的に感覚で使えたなどと言われれば誰でも納得いかないだろう。
しかし、だからといって不貞腐れてばかりでは時間の無駄になるため、オリウスは無理矢理納得することにして次へと進む。
《じゃあ、念話の件でも分かったけど、恭也は説明するよりも実地でしたほうが飲み込み早いみたいだから……魔法込みの軽い模擬戦をしてみよっか》
《むぅ……それは、まだ少し早いのではないか? それに模擬戦といっても相手がいないだろう?》
《大丈夫大丈夫♪ あくまで恭也が使う魔法メインでの模擬戦だけど、ある程度なら私がサポートするし。 それと、相手ならちゃんと用意してるよん♪》
前者のものにはまあ納得はしたが、後者のものにはさすがに首を傾げる。
相手を用意しているとは言ったが、この場には自分とデバイスであるオリウスとリース、そして子猫のアイラしかいない。
そのため模擬戦の相手と成りえる者が見当たらず、恭也が不思議に思ってしまうのも無理はなかった。
だが、恭也が不思議がることを見越していったのか、オリウスはしたやったりというように含み笑いをする。
そして一頻り笑った後、恭也の疑問に思っていることの答えとなるべき言葉を告げた。
《アイラ〜! 出番だよ〜!》
楽しげな様子で口にされた言葉に恭也は驚きを浮かべ、即座に近場で丸くなっているアイラに視線を移す。
しかし、アイラはオリウスの言葉にまるで答えることなく、恭也の視線にも気づくことなく、ただひたすら眠り続けていた。
そのためオリウスは楽しげな様子から一転して怒りを耐えているような空気を纏い、もう一度だけアイラの名を呼んだ。
だがまあ、最初のでも起きる気配を見せなかったアイラが同じように呼ばれて目覚めるわけもなく、それ故にオリウスの怒りは頂点へと達した。
《……リース、やっちゃって》
《Okay》
リース自身もアイラのそれはどうかと思ったのか、特に異論なくオリウスに従う。
瞬間、恭也の持つデバイスから放出される魔力で飛針ほどの大きさをした一本の針が顕現する。
そしてその針は顕現すると同時に、丸まっているアイラの横腹を射抜かんとするかの如く高速で飛来した。
しかし、高速で迫り来る針に何かを感じ取ったのか、アイラは寸でで目を覚まして即座に回避行動を取った。
《あ、あぶないじゃないか!?》
《うっさい! こっちが必死こいて恭也の指導をしてるのに眠りこけるってどういう了見よ!》
《仕方ないだろ! この陽気で眠い上にやることなくて暇だったんだから!!》
起こす手段が手段ゆえに、アイラも寝てたのは悪いと思いながらも言い合いは引かず。
そして自分の起こす手段が間違っていると全く思っていないオリウスは尚のこと引くことはない。
故に二人の言い合いはこの後数分程度続き、ようやく終わったときには二人とも息遣いがどことなく荒かった。
《……じゃあ、起きたならさっさと用意してよ。 今から模擬戦するんだからさ》
《はいはい、わかってるよ》
互いにどこかまだ怒りを引きずっている感じで言い合い、アイラはトコトコと恭也の数歩手前まで歩み寄る。
そしてその位置まで歩み寄り足を止めると、魔法の光らしきものを放って子猫の姿から女性の姿へと変化する。
赤というより朱という色をした肩ほどまでの髪、髪の色に合わせたかのような朱色の法衣、そして右耳には橙色の石のピアス。
そんな格好、見た目からして美由希くらいの年齢と予想できるその女性は、片手を口元に当てて激しく眠そうに欠伸をしていた。
オリウスやリースからしたら女性の存在は以前より知っているため当然驚くことはないが、恭也からしてもその変化は多少の驚きを呼ぶだけだった。
まあ魔法もそうだが世の中には不思議なことで一杯であることを知っている上に、知り合いにも変化ができる子狐がいるのだからそれも当然だろう。
だがしかし、オリウスからしたら恭也のその反応は不満なのか、む〜と唸りながらそれを恭也へとぶつけた。
《初めてのときもそうだったけど……なんで恭也ってそんなに反応が薄いの? 驚くと思って黙ってたのに、それじゃつまんない〜!》
「つまらないと言われても……似たようなことが出来る者が知り合いにもいるからなぁ」
似たようなことが出来る者、という単語にはアイラを抜いた二人はいろいろと突っ込みたくなったりした。
だがまあ、突っ込んだところで特に意味はないということでそれはせず、不満を持ちながらも訓練を再開することにした。
《じゃ、早速模擬戦をしよっか……ああ、アイラ、分かってると思うけど》
「カートリッジ使用はなし、設定は非殺傷、周囲に対する被害は最小限に……だろ?」
念話ではなく口でそう確認し、アイラはかったるげな様子で頭を掻く。
そして何やらぶつぶつと言いながら右手を前に突き出し、同時にアイラの体が光に包まれる。
その光景は先ほど恭也がデバイスを展開したときと同じであるため、恭也は若干表情を変えて驚きを表した。
その数秒後、光が晴れたそこにいたアイラは格好こそ先ほどとはまるで変わってはいなかった。
だが、唯一つだけ大きく変わっていることがあった……それは、右耳につけていたピアスがなくなっているということ。
そして、突き出しただけで何も持っていなかった右手に、柄の長い戦斧をいつの間にか握っていた。
「ん〜……準備はいいかい、カールスナウト?」
《no problem》
カールスナウトと呼んだ戦斧を持つ右手を下ろし、先ほどから変わらぬ声で問いかける。
その問いに対してとても無機質な声でそう返答が返り、アイラは軽く頷いてカールスナウトの柄に左手も添える。
そして準備完了の意思を伝えるように両手を添えたカールスナウトを構えるアイラ。
それに対して、いろいろなことが一気に起きすぎてやや混乱気味だった恭也は、それをなんとか思考の奥へと追いやってオリウスを構える。
《じゃ、恭也もアイラも準備できたみたいだし……模擬戦開始しま〜す♪》
ようやく元のおちゃらけた様子に戻ったオリウスがそう告げると、恭也とアイラは同時に動き出した。
片方はデバイスの一部たる鞘にオリウスを瞬時に納め、柄に手を掛けたまま駆け出す。
もう片方も、両手で持った戦斧を大きく斜めに振り上げ、同じく駆け出し迎え撃つ。
そして、共に駆け出した二人の影が交わったとき、互いに持つ得物が大きな音を立ててぶつかり合うのだった。
あとがき
さてさて、前回に引き続いて早速二話目をお届けしてみました。
【咲】 あんたにしては珍しいわね。
まあね〜。 ネタがあるうちに書いたほうが後で困らないし〜。
【咲】 いつもそうだと助かるんだけどね……で、今回は恭也の魔法訓練がメインのお話ね。
だな。 あとはオリウスについてとアイラについてのことが若干出たね。
【咲】 まあアイラが本当は人間だってことはなんとなく分かってたけど、デバイス持ちとは思わなかったわね。
まあ、別に変身魔法を使ってるキャラがデバイス持っちゃいけないってことはないしな。
【咲】 まあねぇ……でもさ、デバイスの形状が戦斧ってことは、アイラも近接魔導師なわけ?
そういうことになるな。 ついでに言っちゃえば、戦斧ってことで分かると思うが完全パワータイプの魔導師だ。
【咲】 ふ〜ん……じゃあ、力押しメインってことね。
そゆこと。 まあ、恭也みたいなタイプと戦うにはちと相性が悪いのだが…。
【咲】 どうなるかは次回のお楽しみってわけね?
その通り。 じゃ、今回はこの辺にて!!
【咲】 また次回会いましょうね〜♪
いよいよ魔法の特訓が。
美姫 「しかし、理論よりも実践だなんて」
流石は感覚で魔法を使うなのはの兄だけはあるな。
美姫 「この調子でどんどん魔法を覚えていくのかしらね」
どうかな。まあ、次は実戦みたいだけれど。果たしてどうなるのか。
美姫 「次回も楽しみに待っていますね」
待ってます。