事から時間が流れ、一夜明けた翌日の昼。

月村邸から帰宅したはやてを加え、守護騎士たちは珍しく全員集結していた。

本来なら誰かしら蒐集へと赴くか別の場所の理由で外出しているため、こうやって昼間に全員で集まっていることは少ない。

それ故かそうして皆が集まっていることがはやては嬉しいのか、笑みが耐えることがほとんどなかった。

だけどそんな彼女と表面上は笑顔で会話を交わしつつも、一同の頭にあるのは夕べの一件について。

先日はやてと知り合って友達となり、守護騎士の誰もと容易に打ち解けることが出来た一人の少女のこと。

 

《管理局の人間じゃないって言ってたけど……本当に何者なのかしら、あの子》

 

《後に残ったのを考えると局員じゃないってのも怪しくなるな。もしかしたら、私たちと主の関わりを報告するためにというのも考えられるのだから》

 

《だとしたら友達だっていうのも近づくための嘘ってことかよ。だとしたら絶対に許せねえ……》

 

はやてには聞かれないように念話にて彼女たちはシェリスについて話し合う。

そもそもおかしな部分が彼女には多かった。教えてもないのに八神家の所在を知っていたり、魔導師であることを隠していたり。

シェリスの様子からすると彼女たちが魔導師であることが知っていたのは確実……だとしたら、なぜ自分は話さなかったのか。

そしてシグナムが告げたとおり、彼女たちを逃がした後にその場に残ったのも怪しいと言えば怪しく感じてしまう。

つまりところ疑念などというものは浮かび始めればキリがない。そして浮かび始めたら良い方向には考え辛い。

シグナムやヴィータの言動からしてもそれが手に取るように分かり、シャマルももしかしたらそうかもと思い始める。

 

「でな、そのときのすずかちゃんいうたら……って、皆どないしたん? そんな難しい顔して」

 

「いえ……なんでもありませんよ、主はやて」

 

「そんな風には見えへんけど……」

 

「な、何でも無いって! それよりほら、話の続き続き!」

 

明らかに何かありますというような様子なのだが、それ以上はやては追求をしなかった。

話してくれないのは少しだけ悲しいが、誰でも秘密にしておきたいことぐらいあるものだと思うから。

だからはやては何も言わずに元の話へと戻り、それを聞きながらも一同は内心でホッとする。

自分たちがはやての意思に背いて蒐集行為をしていること。友達であるシェリスが目的のためにはやてへと近づいたこと。

そのどちらもがはやてを悲しませることに変わりない事実であるため、彼女に知られるわけにはいかない。

たとえそれではやてが悲しんでも……それ以上の悲しみを彼女に背負わせないために。

 

 

――ピーンポーン

 

 

はやてが話に戻ってから数分、来客を告げるベルが家内に響き渡った。

それによりはやては再び話を中断し、来客を出迎えるべく車椅子を動かして玄関へと赴こうとする。

しかし、はやてに手間を取らせまいとシャマルがそれを制し、自分が出ると告げて駆けていった。

そしてリビングから玄関ゆえにほぼ時間も掛からず辿り着き、シャマルはドアノブに手を掛けて扉を開けた。

 

「どちらさ――っ!」

 

発せられようとした言葉は最後まで放たれず、来客を見た瞬間に固まってしまう。

なぜなら目に映ったその人物は、先ほどまで他の守護騎士の面子と話し合っていた人物だったから。

無邪気に浮かべる笑みと綺麗な蒼い髪、私服の黒いドレスのような服が特徴的な少女――

 

 

 

 

 

「こんにちは、シャマルお姉ちゃん♪」

 

――シェリス・アグエイアス、その人だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはB.N

 

【第一章】第十六話 信用を得るための方法

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しぇ、シェリスちゃん……」

 

ようやく我に返ったシャマル。だけど現状で口に出来たのはそれが精一杯。

それもそうだろう……まさか、自身らが疑念を抱き始めている人物がこうも都合よく現れたのだから。

 

「にゃ……どうしたの、シャマルお姉ちゃん?」

 

疑念を抱かれているとは露知らないような、無邪気な顔で彼女は尋ねてくる。

これを見るとシャマルは先ほどまで話していたことが嘘じゃないかと思えてならなかった。

無垢といえる少女があんな作意的な行動をするだろうか。友達を裏切り騙すような行動をするだろうか。

答えは、ノー……いくら考えても彼女がそんなことをするような子には到底思えない。

 

「シャマルお姉ちゃん……?」

 

「え、あ、ごめんなさい、シェリスちゃん。少し、ぼうっとしてたみたい」

 

「にゃ〜、お身体悪いの? だったら大人しく寝てないと駄目だよ?」

 

心配そうに告げてくるシェリスに大丈夫と笑みを浮かべ、頭を二、三度撫でてあげる。

撫でられる心地に心配そうだった彼女の表情は一変し、目を細めて気持ち良さそうにしていた。

そんな彼女にもう一度だけ笑みを浮かべるとシャマルは腕を下ろし、中へと招こうとする。

しかしその行動は途中で止まった……シェリスへの疑念は何も自分だけが思っていたわけではないという事実を思い出して。

確かに自分はもう彼女に対しての疑念をほぼ拭うことは出来たが、他の面々もそうであるとは限らない。

もしかしたらシェリスのこの行動ですら自分たちを油断させるという計算によるものだと言ってくるかもしれない。

 

(なら、シェリスちゃんの事を思うならここは帰ってもらうほうが……ううん、それも――)

 

帰ってもらうという手も正直なところ難しいと言えるだろう。

はやてたちには言い訳が出来ることだが、この方法はシェリスに対して問題が出てくる。

もし彼女の勘が良ければ気づくかもしれないし、そうでなくとも何かしらの不快感を与えることにはなる。

ようするに八方塞り……だからこそ、シャマルはどうすることが最善かを考え続けていた。

 

「シャマル〜、お客さん誰やったん……って、シェリスちゃんやん!」

 

「あ、はやてお姉ちゃん、こんにちは〜♪」

 

しかし、シャマルの思考はあっさりと無意味化されてしまうことになった。

来客の出迎えに出たシャマルが遅いのを心配してやってきた、はやてによって。

 

「なんや、お客さんがシェリスちゃんなら上がってもらえばええのに」

 

「あ、いえ、その……少し、話が盛り上がってしまって」

 

「そかそか。じゃあ話も区切りがついたみたいやし、立ち話もなんやから上がってや♪」

 

実際区切りをつけたのは話していた本人たちではないのだが、そこは気にはしない。

そんなわけではやてが言うのだからシャマルがどうこう言えるわけもなく、結局シェリスは家に上がることになった。

 

 

玄関で靴を脱ぎ、家へと上がったシェリスははやてについていく形でリビングへ。

そしてその後ろをやはり不安そうな面持ちで歩くシャマル。これから成されることを考えるとそうなるのも仕方が無い。

ザフィーラは会話に加わっていなかった故によく分からないが、シグナムとヴィータは確実に良い印象を持っていない。

出会った当初こそは彼女の明るさが際立ってある程度は良かったのだが、それもこれも昨夜の一件が原因。

魔導師だったシェリスの疑念しか浮かばない奇妙な行動……彼女への疑念は全てここに集約される。

場合によっては完全に二人はシェリスを敵視することにもなりかねない。全ては主であるはやてのため故に。

 

(はぁ……どうしたらいいのかしらね)

 

結局のところ、シャマルがいくら考えてもどうにかなる問題ではない。

こればかりは実際に会ってからシェリスがどういった言動、行動に出るかが鍵となってくるのだから。

それ故か考えることは半ば諦め気味でついて歩き、三人は程なくしてリビングへと入った。

 

「シグナムお姉ちゃんにヴィータお姉ちゃん、それにお犬さん、こんにちは〜♪」

 

「「…………」」

 

予想通りというか、シェリスの来訪にはシグナムもヴィータも唖然とするしかなかった。

ちなみにザフィーラは頭を動かすことで挨拶は返したが、こちらも内心は二人とほぼ同様。

しかし、唖然としていた面々の中でいち早く我に返ったヴィータはズンズンと足音がしそうなほどの足踏みでシェリスへと近づく。

 

「ちょっと来い……」

 

「にゃ? にゃにゃにゃ?」

 

そしてシェリスの近場まで歩み寄るとその手を取り、玄関方面へと逆戻り。

いきなりのヴィータの行動にシェリスは疑問符を頭に浮かべながら連れられていった。

それに今度ははやてとシャマルが呆然とし、そんな中をシグナムは付き添いで出ると一言言って続いて行った。

 

「……なあ、シャマル。二人とも、一体どないしたん?」

 

「さ、さあ……私にも良く分かりませんけど」

 

残されたはやては同じく残されたシャマルに尋ねるが、シャマルは分からないと返す。

それにより彼女は小さく頷いて自身で考え始めるのだが、実際のところシャマルにはヴィータの行動が分からないわけではない。

疑念を持っているのだからそれが真実かどうかを確かめ、本当だとしたら実力ででも排除しようとする。

そしてそんなヴィータの歯止め役兼自身も真実を確かめるためにシグナムは二人に続いて出て行ったということだ。

確かめるだけならば家の中で念話にてやればいいとも考えるが、これは下手にボロを出すとはやてに知られる可能性がある。

だからシェリスを引き連れて外で話すという形を取ったというわけである。

 

(ヴィータちゃんもシグナムも……下手なことしなきゃいいのだけど)

 

そのために歯止め役のシグナムがいる。だけど、彼女が必ずしも止めるとは限らない。

必要であるのなら人知れぬ場所に連れて行ってでも……そう考えるということだって可能性はある。

己の信念故にシグナムはそういったことを好まないだろうが、これがはやてに関係してくるのならまた別。

そう思うと不安感は非常に高くなってしまい、だけど何も出来ないためにただ良い方向に転ぶよう祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

「お前の狙いは、一体何なんだよ……」

 

シェリスを引き連れて赴いた場所は、海鳴臨海公園。

昼時少し過ぎた辺りなだけにそれなりに人気がある。だけど、それ故に怒鳴りでもしなければ目立たない。

そんな場所の一角、それでもなるべく人目を避けた場所に行きついたヴィータは手を話してそう問いかける。

 

「狙い? シェリスに狙いなんてないよ?」

 

「嘘つけよ……アタシらが魔導師だってことを知ってたのに自分のことは隠して、昨日も助けた振りして自分だけ残って管理局の連中と何かやってたんだろ。それで狙いがないなんて言うほうがアタシには信じられねえ」

 

ヴィータの中では全部が決定事項。故に全てを決め付けるような言い方。

管理局の者たちとつるみ、魔導師であることを隠して友達としてはやてや守護騎士たちへと近づいた。

彼女の考えはこれから揺らぐことが無く、だとすればシェリスの目的とは何かを聞きだそうとする。

昨日の結界破壊時のときに局員やなのはたちが浮かべた予想外というような表情を見る限り、局員でないというのは信憑性がある。

だけど、ならば手を組んだ管理局の意向を無視してでも成したことの狙いは一体何か……それが気になるところ。

 

「むぅ〜、本当に何もないもん。ただ、お姉ちゃんたちを助けようと思っただけだもん」

 

「なら、なぜ私たちを助けた? 管理局の策を無視してまで助けた理由はなんだ?」

 

そう聞いてきたのはシグナム。しかし言動が違うだけで言葉の意味は同じ。

ヴィータのように決め付けてはいないが、シグナムとしてもそうではないかと疑っている。

だから敢えて管理局と手を組んでいるということを前提で聞くことで、シェリスの反応を窺っているのだ。

 

「シェリスはあの人たちの仲間じゃないから策なんて知らないよ……だから本当にお姉ちゃんたちを助けたいと思ってやっただけだもん」

 

こちらも言動そのものは先ほどとほぼ変わってはいないが、一つだけ違う部分がある。

それは管理局と手を組んではいないと明確に告げたこと。それだけでシグナムの思惑は意味を成した。

言葉自体嘘であるという可能性も考えられるが、それは告げた本人の目を見れば分かること。

それ故にシェリスの目を確認しても、彼女が嘘をついているようには到底思えない。

自分たちを助けるために結界を破壊した……シェリスの言動や目を見る限りではこれは間違いないと言ってもいい。

 

「だから、そんなの信用できないってさっきから言ってんだろ。もし自分の言うことが本当だって言うなら、それを証明する証拠を見せろよ」

 

しかし、先の質問の意図に気づけないヴィータは未だシェリスの言葉を信用しない。

シグナムと違ってすでに管理局の仲間と決定してしまっているから、だから言葉では信用しない。

だけどそれを言葉以外で示せというのも難しい話だ。当日その場ならともかく、事が終わった後では。

証拠を見せようにもそれを身の潔白を定義するものなどなく、後日の行動で表そうにもそれは許さないだろう。

そうでなくともこの年頃の少女だ……信用を得るための証拠など多く浮かぶなど考えられない。

ヴィータの発言からそう考えたシグナムは落ち着かせるために声を掛けようとする。

 

「じゃあ……」

 

だがそれよりも早くシェリスに口を開かれ、シグナムは開こうとした口を噤む。

そして内心では僅かな驚きを抱く。戸惑うと思っていた彼女が口を開き、証拠を提示しようとしていることに。

だけど、どちらかと言えばこれは止めておいたほうがいいかとも考える。

なぜなら生半可な証拠を提示すれば下手を打つとヴィータの気を逆撫ですることになりかねないからだ。

そうなれば話が更に混沌とした方向へと傾き、最悪どう足掻いてもシェリスが信用されることがなくなるかもしれない。

本当に潔白の身ならばそうなるのはさすがに宜しくない。だから、さすがに止めたほうがいいかと考えた。

 

しかし――――

 

 

 

 

「シェリスの魔力をあげる……そうすれば、信用してくれるよね?」

 

――発せられたその一言で、思考は完全に停止した。

 

 

 

 

 

シグナムも、先ほどまで睨むような目をしていたヴィータも絶句する。

それも当然である……教えていないはずのことをシェリスが証拠として提示したのだから。

闇の書を完全にするための魔力蒐集行為。この言葉は明らかにそのことを意味していると取れる。

だが同時に疑問以外にも浮かぶことがある。それは、その言葉が何を意味するか分かっているのかということ。

魔力を蒐集するだけならば肉体的には無傷で済むが、それでも多大な苦痛が伴うのは確実。

なのに信用されるためにそれをしてくださいと言えるのは、知っているとしたら相当な覚悟があるということだ。

逆にそのことを知らないで口にしたのならば、安易な決断と言われても過言ではないことでもある。

 

「……いいだろう」

 

だが、どちらにしてもこの選択は守護騎士一同にとっては願ったり叶ったりなこと。

本当であっても嘘であっても、彼女たちが目的とする魔力集めの糧に出来るのだから。

だからシグナムはいち早く思考停止から脱し、了承するという意味の言葉と共に頷いた。

それによりシェリスは嬉しそうな笑顔を見せるが、逆にヴィータはどこか不満そうな顔を浮かべている。

実際それは仕方の無いこと……そもそも知ろうと知るまいと、この約束を取り付けて行為を行えば信用しなければならない。

もし知らぬまま偽りを口にしていて蒐集を行われ、耐えでもしたら今までと状況はなんら変わらない。

どの道蒐集できるという点では利点だが、それ以外では明らかにこれは意味を成さないということなのだ。

だから自分たちの将が了承してしまったことに不満を抱く。しかし、続けて放たれた言葉でそれは解消されることになった。

 

「ただしもう一つ、蒐集を終えたらお前が知っていることを全て話してもらうというのも約束してもらう。私たちについてどこまで知っているかということも、そしてお前の背後についている者についても……」

 

「にゃ? 前のは分かったけど、後のはパパのことについても教えるってこと?」

 

「それが先のに該当するのなら、そういうことになるな。この約束が出来ないと言うのであれば、やはり私たちはお前を信用することは出来ない」

 

「うにゅ……ちょっと待ってね。言っていいのかどうか、パパに聞いてみるから」

 

少し悩んでからそう言うとシェリスは懐から小さな通信機を取り出し、通信を掛け始める。

通信が始まってから二人は何も発することなく黙り、しばらくシェリスが何やら喋っている声だけを聞く。

そしてしばしの後、通信を終えた彼女は機械を懐に仕舞い、今一度二人のほうを見て口を開いた。

 

「うんっとね、パパが後で皆に直接説明するって。シェリスじゃ、上手に説明出来ないだろうからって」

 

「ふむ、了解した。なら早速約束の一つである蒐集を行おうと思うのだが、さすがにここでは人目に付きすぎる……別の場所へ移動しよう」

 

「わかった〜♪」

 

背を向けて歩き始めるシグナムに連れられるように、笑みを浮かべてシェリスは歩き出す。

この様子を見るとやはり蒐集という行為が齎す苦痛について分かっていないという風にしか見えない。

しかし約束は約束……知っていようがいまいが、信用するための条件なのだから仕方が無い。

主の友であるこの無邪気な少女にこれから行うことへの僅かな罪悪感をそういう考えで抑え込む。

そうしてシグナムはヴィータに闇の書を取りに戻るよう目で合図し、頷いた彼女とは別のほうへとシェリスを連れて公園を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、時空管理局の通路には見慣れた四名の歩く姿が見受けられた。

右から順にクロノ、エイミィ、ユーノ、そしてアイラという、見慣れてはいるが珍しい構成の面子。

クロノとエイミィは別段珍しくは無い。かといってユーノがいることが珍しいわけでもない。

一番珍しいのは、アイラがなぜかこの一同に混じってついてきているということであった。

 

「というかほんと、なんでついてきてるんですか、あなたは……」

 

「いや、あっちにいてもいつもと同じでマッタリするぐらいしかないしねぇ……だったら、目新しい場所を見ていたほうが有意義だろ?」

 

「要するに暇つぶしってことですか……」

 

「ま、簡単に言えばそうだわな」

 

理由が理由だけに非常に呆れるもの。しかし、だからといってクロノは下手な文句も言えない。

そもそも協力体制を取っているのだから局内を局員と同伴で歩く分にはなんら問題は発生しない。

加えて以前の一件でのこともあり、彼は少しばかりアイラに対して苦手意識を植え付けられていた。

この二つの理由があって文句は一切言えない状況であるため、彼女がついてくるのを黙って了承するしかなかったのだ。

 

「にしても前は見る暇がほとんどなかったからあまり感じなかったけど、結構人気が少ないもんだねぇ」

 

「それはそうですよ。闇の書に関する一件はアースラスタッフに一任されてますけど、ジェド・アグエイアスの一件は別にここで対応されていますから」

 

「そんな大きい事件にされているのかい、アイツの起こした事っていうのは?」

 

「死傷者が局員と民間合わせて五十を超えてますからね。さすがに管理局としても本腰を入れて彼を捕まえないといけないって判断されたんですよ」

 

ふ〜ん、と聞いた本人であるのに聞く気があるのかないのか分からない返事をそれに返す。

実際問題この一件は彼女にも大きく無関係ではない故、その返事はどうかというのは一同誰もが思うこと。

しかしそれを口にして出すことが出来ない。なぜなら、下手に口を出してキレられでもしたら事だからだ。

穏便で抑えられるならそのほうがいい……だから、アイラだけに関してはあまり口出ししたりはしなかった。

 

「って、さっきから思ってたけど……なんでユーノは会話に入ってこないんだい?」

 

「え、あ、いや、だって入れる話題じゃないですし……」

 

「そこはどうにかして入ってこないと、後々影のうっす〜い奴になっちゃうよ? 今でも十分薄いけどな」

 

「お、大きなお世話ですよっ!」

 

矛先がユーノに向いたことでおよそ二名が安心。本人はかなりタジタジ気味。

元々正体を知らない時期から追い掛け回されてクロノとは別の苦手意識が芽生えている。

加えて正体を知った最近でも本当に食われるのではないかというほどギラついた目で追い立てられるのだ。

それにより苦手意識は更に強まり、普通に反論するにしても僅かに腰が引け気味になってしまう。

しかしそれを見てもクロノはもちろん、エイミィも助けようとはしない。なぜなら、自分に矛先が向いて欲しくないから。

 

「ん〜、その怯え具合が非常にそそるねぇ……じゅる」

 

「ひぃ!?」

 

涎を飲み込む音に思わずユーノは悲鳴を上げ、僅かに距離を取ってしまう。

だけどその行動にさえもアイラはニヤニヤとした目を向け、どこかウズウズしているような仕草を取る。

ここが局内でなければ、絶対と言っていい程の確率でユーノに飛び掛っているだろう。

 

「っと……到着だ」

 

そんな中でも一同は歩き続け、ようやく目的となる一室前へと辿り着いた。

それによりユーノはこの恐怖から逃れれると思い、ホッと息をつきつつクロノの僅か後ろへと逃げるように並ぶ。

彼の行動に本気でチッと舌打ちをしている辺り、非常に怖いことだと言えるだろう。

しかしまあ、目的がそもそもそこにて話があるということだったので、アイラも諦めてエイミィの後ろへと並んだ。

その後に扉が音を立てて開かれ、四人は通路を歩いていたときと同じ歩調で入室した。

 

「待たせて済まない、二人とも」

 

入室したと同時に内部のソファーの腰掛けていた二名の女性へとクロノは声を掛ける。

するとその内の一人、少しばかり髪の短いほう人物が姿を確認するや否や、目を輝かせて飛び掛ってくる。

それに対して予想はしていたのかものの、やはり僅かばかり身構えるような様子を見せるクロノ。

だがしかし、ここからが彼の予想から大きく外れることになった。

 

「どりゃぁ!!」

 

「っ!?」

 

あろうことか、若干後ろのほうにいたアイラが前に出ると共に飛び掛ってきた人物へ拳を振るったのだ。

さすがに飛び掛った女性にとっても予想外だったのか驚きを表すが、その体勢から器用に身体を逸らして避ける。

そして着地すると同時に一体何だというような目を向け、続けて先ほど以上の驚きを顔に張り付ける。

 

「おお、誰かと思ったらアイラじゃん。すっごい久しぶりだねぇ♪」

 

「はっ、こっちは会いたくなかったけどね。というか、アンタらと会うって知ってたら絶対来なかったさね」

 

「照れるな照れるな♪ 久しぶりにロッテに会えて感激〜、とか本当は思ってるんじゃないの?」

 

「んなわけないだろ…………たくっ、相変わらず良い性格してるよ、アンタ」

 

自身をロッテと呼んだ女性は皮肉めいたその言葉にも笑って返すのみ。

それを見るとアイラももう文句を言う気力も失せたのか、溜息をついて近場のソファーへと腰掛けた。

 

「ん……久しぶりだね、アイラ」

 

「ああ、久しぶり。アンタも相変わらずだね……ま、ロッテよりは断然マシだけど」

 

「あははは。まあ、あれがロッテの親愛を示す行動だと思って諦めたほうがいいよ」

 

「あんな親愛はお断りだけど……ま、昔っからだし、端から諦めてはいたけどね」

 

ロッテととてもよく似た容姿の女性――アリアともアイラは非常に親しそうに話す。

グレアムと知り合いなのだから、彼の使い魔である彼女らと親しくても本来何ら不思議なことではない。

しかし、いつも手玉に取られているクロノを含め、対等に話す彼女らを見ると誰もが驚いてしまう。

 

「と、そっちで固まってる面子も早く座りなよ。私たちに話があるんだろ?」

 

「あ、ああ……」

 

見たことが無い一面に戸惑いを隠せないながらも、クロノは言われたことに頷いてソファーへと腰掛ける。

そしてそれに続くようにして、残りの二人も同じような様子でソファーへと歩み寄っていった。

 

 


あとがき

 

 

まあ、グレアムと知り合いという時点でこの二人と接点があるのは明らかだわな。

【咲】 そうねぇ……でもさ、二人というか、少なくともロッテはアイラの嫌いそうなタイプじゃない?

ん〜、まあそうなんだが、昔は何度も会っていたからある程度耐性が出来てるんだよ。

【咲】 ロッテ限定の耐性ね。

そういうことだな。ともあれ、無限書庫での探索依頼はここまでで終了だ。

【咲】 頼む場面は書かないわけ?

原作とほとんど変わらんからなぁ……まあ、多少変わったところは後で語られるよ。

【咲】 ん〜……それは恭也たちも交えて話されるってこと?

その辺はまだどうなるのかは分からんがね。ま、次回以降を楽しみにしててくれ。

【咲】 ん。にしても、シェリスも思い切ったことをするわね。

だな。知っているのかいないのか、リンカーコアの蒐集を自ら進んで……。

【咲】 信用されたいっていう思いがそれほど強いってことかしら?

まあそれもあるだろうが、単にそれ以外浮かばなかったというのもあるだろうね。

【咲】 ま、時間を掛けずに信用を得る方法なんてほんと限られてくるしね。

そういうことだ。まあそんなわけで、次回は話が変わってなのはとフェイト側のお話だ。

【咲】 例の質問に対する答えがどうのって部分ね?

そうそう。この答えを出すには、彼女らだけではまず難しい。だから……

【咲】 だから?

助言者を用意した。まあ、助言と言っていいのかは分からんがね。

【咲】 助言者って誰よ? 恭也とか?

んにゃ、もっと別の人物……ちなみに、話には一度だけ出てきた。

【咲】 一度だけ、ねぇ……。

ま、それが誰なのかは次回のお楽しみ。じゃ、今回はこの辺で!!

【咲】 また次回会いましょうね♪

では〜ノシ




はやてサイドでも何らかの進展がありそうだけれど。
美姫 「シェリスたちの計画を素直に話すのかしら」
どうだろうな。で、悩めるフェイトのお話は次回みたいだな。
美姫 「それはとっても気になってたのよね」
その気になる次回は……。
美姫 「この後すぐ!」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る


inserted by FC2 system