恭也とギーゼルベルトが戦闘を行う最中、そこからかなり離れた位置でフェイトはシグナムと対峙する。
しかしフェイトの手には依然としてデバイスは持たれておらず、あくまで話し合いを行おうとする意思が見えた。
対するシグナムはフェイトとは異なり、デバイスを構えて警戒態勢を取り、射抜くような視線を向ける。
「どうしても話し合いに応じる気はないの、シグナム?」
「くどいぞ、テスタロッサ。お前は管理局の魔導師、私は闇の書の守護騎士……分かり合えることなど、断じてない」
闇の書が起こすことはいつも時空管理局にとって犯罪と断定されること。
故にその守護騎士である者たちが管理局と手を取り合えることなど絶対にない。
そう言ってシグナムはフェイトの言葉を切捨て、デバイスよりカートリッジの装填音を響かせる。
途端、デバイスの刃に炎が纏い始め、それと同時に放していたもう片手を添えて構えを変える。
「それでも尚、お前がその意思を貫こうとするのならば、烈火の将たる私にその意思の強さを示してみせろ」
「つまり、戦って貴方を倒せば、話し合いに応じてくれるってこと?」
「ふ……私を倒せたのならばな」
その流れは話し合いで解決という事からは逸脱してしまうものでもある。
しかし、そうしなければならないのであれば、フェイトとてその手段を受け入れるしか方法はない。
それ故に今まで持たなかったデバイスを右手に顕現し、その柄を両の手で握って僅かに腰を低く構える。
「なら……私は貴方を倒します。戦いたいわけじゃないけど、そうしないといけないのなら……」
「やってみせろ、テスタロッサ!!」
炎を纏いし剣を後ろ右斜め下段へと下ろした構えでシグナムは駆け出す。
それとほぼ同時にフェイトも腰を低くした構えのまま迎え撃つべく空を駆け出した。
魔法少女リリカルなのはB.N
【第一章】第二十話 戦火は再び…… 中編
「紫電――」
シグナムの持ちうる剣技にして魔法の一つ、紫電一閃。
以前、カートリッジシステムを導入する前にそれを受け、柄を真っ二つにされたことがある。
インテリジェントといえど外装はそれなりの硬さがあるのにも関わらずだ。
それ故に威力が非常に高いことが分かる。システムが導入された今としても正面から受けるのは得策ではない。
「一閃!!」
《Blitz Rush》
だからこそ、その脅威の一撃が放たれる瞬間にフェイトは加速魔法を掛けた。
自身の速度が魔法によって上昇されると同時に移動を行い、死角となる背後へと回り込む。
それは相手からしたら目の前から消えたようにも見える動き。しかし、僅かな驚きだけでシグナムに焦りはない。
死角に移動されたとしても位置は気配である程度分かる。故に背後に回ったこともすぐに判明する。
そして判明と同時に背後へと瞬時に振り向き、振り向きざまに炎の消えた剣を勢いに任せて振るう。
「っ……!」
振るわれた剣は背後から振り下ろされた戦斧を容易に受け止め、尚且つ押し返す。
どちらも両手にて放たれた一撃……押し返されたのはつまり、シグナムとフェイトの力の差だ。
しかし、押し返された状態からフェイトとて何もしないわけではない。そんなことをすれば相手の独壇場になるのは目に見えている。
だから彼女は弾かれた状態から一回り回転をしてもう一撃放ち、それと同時に後ろへと下がる。
放たれた一撃は当然の如く受け止められたが、彼女もそれは想定していた事なだけに焦ることはない。
それどころか、後ろに下がったと同時に追撃を放つべく、瞬時に環状の陣を纏った雷弾を自身の周りに生成する。
「プラズマランサー、ファイア!!」
デバイスを前に掲げて告げられた発射の宣言に応じ、雷弾は槍へと形状を変えてシグナムへと飛来する。
後ろへ下がった際にある程度距離を置いた故か、速度ありしも飛来した槍の到達までには僅かな時間がある。
その間でシグナムは再びカートリッジの装填音を響かせ、左手を離して右上へと振り被る。
「はっ!!」
気合の篭る声と共に振り上げた剣を横一閃に振るい、そこから凄まじい衝撃波が生まれる。
それにより飛来した雷の槍はその全てが到達する前に砕け散り、粒子となって宙へと散らばりゆく。
これによって結果的に振り出しに戻る形、しかしフェイトは次の手をすでに準備し始めていた。
「ハーケン――」
ハーケンフォームへと変化させ、鎌の如く金の刃を顕現したデバイスを振り被る。
そしてシグナムを視線の内に捉え、柄を持つ手に力を込めて大きく振り切る。
「セイバー!!」
振り切られる途中で刃はデバイスから離れ、高速の回転運動を行いながら飛来する。
速いには速いのだが距離的に避けられぬものではない。だが、シグナムからは避ける様子は見られない。
「レヴァンティン!!」
《Schlangeform》
振り切った方向とは逆の方向へと今一度振るい、剣の形状を鞭状へと変化させる。
そこから更に操作して凄まじい長さの鞭を振り回し、飛来する刃は一瞬にして無へと返す。
だが、それだけでは終わらず、更なる操作を加えて鞭は予測困難な軌道を描き、フェイトを襲う。
「くっ!」
迫りくるそれに移動せざるを得なくされ、フェイトは立っていた場所から瞬時に動き出す。
鞭は避けようとするフェイトを追いかけ、その逃げ道さえも塞ごうとする。
しかし速度を武器とする彼女とて捕まるわけにはいかない。故に迫る鞭の間を縫って避け続ける。
だが――――
「ふっ!」
「っ――――あぐっ!!」
いつの間に目の前に移動したのかは分からない。それは迫る鞭に気を取られすぎていたから。
それこそがシグナムの狙い……鞭の攻めに気を取らせ、加えて一定位置へと誘導を促す。
そして気づかれぬほどの僅かな移動で間合いを瞬時に詰め、彼女が放つ蹴りは見事フェイトの横腹に直撃した。
蹴りということで致命的な怪我は負わないが、それでも威力故にフェイトは地面へと叩き落される。
《Schwertform》
砂煙が上がる中でシグナムはデバイスを元の剣状へと戻す。
形状を戻したデバイスの柄を両の手で握り、追撃を掛けるべくフェイトの落ちた地点へと急降下していく。
その地点が目前へと迫ると同時に握った剣を振り上げ、到達と共に力強く振り下ろそうとする。
――しかし、砂煙の晴れたとこにフェイトの姿はなかった。
「っ!?」
振り下ろす寸でにて剣を止め、地面へと降り立つと同時にその気配に気づく。
それはまたしても死角……自身の背後から感じた気配。誰のものであるかは考えなくとも分かる。
しかし今度は意表を付かれ過ぎたために受けるには遅く、前へと瞬時に飛び退くことで避け、追撃を免れるために距離を取る。
だが、それでも追撃を行ってくるものだと思って警戒していたにも関わらず、フェイトが攻めてくる様子が無い。
そのことに僅かながら疑問を抱くシグナムだったが、その疑問は高まる魔力の流れで解かれることとなった。
「プラズマ――」
デバイスから放した左手にて顕現した紫電を帯びる雷弾。
感じた魔力の流れの正体がこれであることは明確であり、すぐさまシグナムも迎撃体勢に入る。
かといって今から攻め入っても距離を置いてしまった故、近接に持ち込む前に放たれてしまう。
ならばどうするか……その答えは、たった一つしかない。
「飛竜――」
近づいて阻止することが出来ないのなら、遠距離から同等の技をぶつけてやればいい。
自身の持ちうるその技ならば相殺はもちろん、あわよくばダメージを与えられると踏んでの決断。
それをしたシグナムはその体勢へと移るべく、顕現した鞘に剣を納め、自身の上部にて構えて弾丸を装填する。
そして――――
「スマッシャー!!!」
「一閃!!!」
――――ほぼ同時に、互いの技を放った。
真正面に掲げた左手の前に顕現する魔法陣、その先から放たれる金色の魔力波。
迎え撃つは剣を再び鞭へと変え、凄まじい魔力を帯びつつ地面を一直線に這う刃。
到達速度はどちらも速く、放たれてから僅かの時間で中央にて激突。途端、凄まじい衝撃を互いに齎す。
それにお互い顔を僅かに歪めつつ、それでも押し切ろうと全力でそれを放ち続ける。
しかし、魔法を撃ち終えて僅かに上がった砂煙が晴れたそこには、相殺で終わった故に無事な姿をした互いが映った。
「「…………」」
互いが無事な姿をしていることに驚きは浮かべず、やはりと言う様な目で見やる。
そして次の攻め手へと映るべく、各々のデバイスを再び構え直した。
(以前よりも速度が増している、か……加えて一撃一撃に迷いが感じられない。何かしらの心境の変化があったのか、あるいは……)
(さすがに、強い。今は速さと手数で誤魔化してるけど、押され始めたら……負ける)
僅かに荒い息をつきながら、お互いを賞賛するようなことを内心では思う。
しかし言葉には出さない。そんなことを口にしても、この状況下で意味を成すわけではないから。
故に賞賛するような思いもそこで断ち切り、如何にして相手を倒すかという手段を考える。
(シュツルムファルケン……当てられるか)
(ソニックフォーム……使うしかないかな)
それは互いの持ちうる切り札と言ってもいいもの。しかし、それはどちらも現状では難点が存在する。
だからこそ使うことに迷いがあるのだが、そうでもしないと戦況が変わらないという思いは互いに同じ。
その迷いと思いがあるからこそ、二人はまだ少し様子見とでもいうかのように切り札を使わず駆け出した。
あと数合いで本当に変わらないようならば、迷いを払って使う……お互い、そういう考えを抱きながら。
――しかし、その数合いという刃の交えが行われることはなかった。
ズブリという生々しい音を僅かに立て、フェイトの胸から腕が生える。
その一瞬、シグナムも本人たるフェイトも何が起こったというのかが理解できなかった。
だが僅か数秒という時間を置くことで脳が事態を把握する。そして把握した瞬間、フェイトの絶叫が響き渡った。
響く叫びと共に胸から生えた腕が持つ光の玉、リンカーコアが光を放ち、それが収まると同時に彼女は意識を失った。
「っ……貴様っ!」
シグナムはその光景にて我に返り、フェイトの後ろに経つ仮面の男に怒りの目を向ける。
いつの間に現れたのか、なぜ自分がそいつの出現に気づくことが出来なかったのか。そんなことはどうでもいい。
ただ胸に抱くのは、フェイトと自分の戦いをその男に汚された。その事実による怒りのみだった。
しかし、その怒りの視線をぶつけられても男は臆する事もなく、フェイトを貫いたまま手に持つそれを差し出す。
「さあ、奪え……」
その瞬間、男が何をしてそんな行動を起こしたのかの理由が分かった。
仮面の男がしたかったこと……それは、魔力の蒐集を行うシグナムの手助けに他ならない。
正々堂々の戦いを汚されたことへの怒りはある。だが、主のために蒐集を行わなければならないのも事実。
それ故にシグナムは悔しさに歯を食いしばりながらも、ゆっくりと仮面の男へと歩み寄っていった。
反対方向の遥か先でそのようなことが起こる少し前。
砂漠の地の上空にて同じく剣と剣、魔法と魔法をぶつけ合う激闘が繰り広げられていた。
大剣を振るっては氷塊を生み出し、幾多もに形状を変えて飛ばしながらも接近戦を仕掛けるギーゼルベルト。
対して迫り来る氷塊を紙一重に避けながらも応戦する恭也、避けきれないものを防いでは反撃するオリウス。
実力は見た感じ均衡しているようにも見える。だがしかし、よく見ればそうでないということが分かる。
防ぐことがありしも攻めのほうが多いギーゼルベルトに比べて、システムを起動したにも関わらず防戦一方になっているのだ。
その様子からは実質的に二対一であるはうなのに押されていると取っても不思議ではなかった。
「オルフェウス、カートリッジロード!!」
《Ghiaccio bordo》
弾丸の装填音と同時に刀身から鍔に至るまでを絶対零度の冷気が渦を巻く。
冷気を纏った大剣を彼は大きく右へ振り上げ、凄まじい速度で恭也との距離を詰める。
それ以前に飛ばされた氷塊を捌いた瞬間故か、意表をつく形となったそれを避ける手段は少ない。
ならば受ければいい……そういう判断へと持ち込んだ恭也はすぐさま受けの体勢へと入る。
「烈氷――」
しかし、それに対して受けに入ることは大きな間違いと言えた。
それ故にギーゼルベルトは受けに入った瞬間に僅かな笑みを浮かべ、同時に振り上げた大剣の柄に力を込める。
その浮かべられた笑みにいち早く何かに気づいたオリウスはすぐさま斬撃の進路に障壁を張る。
「一閃!!」
張られた障壁に冷気を纏った刃がぶつかる。その瞬間、凄まじい音が辺りに響き渡る。
しかし強い一撃ではあるものの、その障壁で防ぎきれないものではない。故にオリウスは安著しかける。
だが、安著しようとしたその瞬間、驚くべき光景が二人の目の前に広がった。
「なっ……!」
《障壁が、凍る……!?》
受けるのが剣であろうと魔法であろうと、その一撃に対しては何も変わらない。
纏った冷気は触れるもの全てを凍らせ、そして打ち砕く性質を持つ故。
そして魔法の障壁であろうとそれは変わらず、凍りついた障壁は本来の強度を大幅に失ってしまう。
「くっ……」
《Gullinbursti》
強度を失った盾が崩壊するのは時間の問題。それ故に恭也は即座に加速魔法を行使する。
障壁を展開している際は本来術者が別の魔法を行使しようとすると自ずと弱くなるか消えてしまう。
しかし、それは『二重術式処理機能』というシステムを保有するオリウスには該当しない。
なぜならその機能を用いて障壁展開に全力を注いでいるのはオリウス。あくまで恭也は何一つしていない。
故にその間で別の魔法を行使しても決して障壁が弱くなったり消えたりするようなことは一切ないのだ。
その特性を利用して恭也は加速魔法を掛け、ギーゼルベルトから大きく距離を取る。
「む……」
距離を取られた途端に障壁は砕け、刃を纏っていた冷気も消えてしまう。
消えてしまった冷気を目で視認することもなく、彼は大剣を軽く右下へと振り下ろして右手の平を前に出す。
すると薄青の魔法陣が手の先に浮かび上がり、同時に先ほどとは一回りほど小さい氷柱が彼の周りに顕現する。
しかしその量は先ほどのものとは激しく異なり、倍でも利かないほどの数が浮遊していた。
《Ice aiguille》
デバイスの音声と共に浮遊していた氷柱は放たれ、速度を増しつつ後ろへ下がった恭也を襲う。
数も多ければ比例して範囲も大きい故、下がった体勢からに加えて連続しての加速魔法行使は難しい。
それ故に避けることは本来ならば出来ない。しかし、それは戦っているのが恭也だけならばの話。
《エウリュトス!!》
それは恭也の苦手とする中距離魔法。だが、オリウスにとっては得意分野の一つ。
術式構成はギーゼルベルトが氷柱を顕現したところで瞬時に行い、放たれると同時に迎え撃つ。
同等近い数の蒼き刃の全てを操作し、凄まじい音を立てて迫り来る氷柱を全て撃ち落してしまう。
その光景に彼は驚きの表情を一瞬浮かべ、続けて感嘆の息を漏らすと共に口を開いた。
「魔法の操作能力もさることながら、術者への的確なフォロー……実に見事だ。互いに信頼し合い、戦っているというのも強ち嘘ではないようだな」
《……きっちり分析しながら戦ってる辺り、ずいぶんな余裕だね》
「そういうわけではないのだが……まあ、感に触ったのであれば謝罪しよう」
そう口にした後、彼は左手に持つ大剣を左横の斜め上に上げる形で構える。
そして空いた右手の平を前に掲げ、先ほどと同じように薄青の魔法陣を展開する。
だが、魔法陣の展開に応じて顕現したのは先ほどのものとは違い、彼の上半身を隠すほどの氷塊であった。
《Proliferation glace》
声を合図に形成した巨大な氷塊へと大剣を叩きつけ、粉々と言えるくらいにまで叩き割る。
砕かれた氷塊は大剣が叩きつけられた進路上正面……恭也の立っている方面へと加速して迫る。
だが速度的には氷柱のときと同等くらいなため、それらも撃ち落そうと思えば出来ないことはない。
それは相手にとってもそれはわかっているはず……なのに、敢えてそうしてくるのには何かしらの理由がある。
だとすればここは先ほど同様に相殺するよりも、避けるという方面で動くほうがいいと二人は考え、動いた。
「はっ!」
「っ!?」
しかし、ギーゼルベルトからしたら恭也とオリウスがそう思うであろうことを予測しての行動。
それ故、恭也の避ける進路を先読みして動き、間合いを詰めて気合の声と共に大剣を左手一本で大きく振るう。
警戒していたとはいえ体勢は避けた後、加えて斬撃の速度が速いため安易に下がって避けることも出来ない。
そのため恭也は受けの構えを取るがのだが、今持っているもののみでは当然受けきれるものではない。
だからこそ、本当はまだ取っておきたかったという思いを振り切り、背中に忍ばせるもう一刀を瞬時に抜き、クロスさせることで受けた。
「やはり、手持ちはそのデバイスのみではなかったか」
「やはりということは、気づかれていたか……」
「貴殿の動きを見れば自ずと、な…………上手く隠してはいたが、俺から見れば一刀だけでの動きには見えなかった」
正直なところ、恭也のそれは上手く隠していたというレベルのものではない。
一刀のみでの動きを主体とした戦い方、それに魔法での攻撃等を加えることで綺麗に隠していた。
それをただ動きを見て持ちうる武器が一刀だけではないと読める辺り、彼の洞察力は相当なものだ。
「では改めて……その二刀から生み出す技量、特と見せてもらおう!」
叫ぶような言葉と同時に彼は小太刀にぶつかる大剣に更なる力を込めていく。
その恭也を凌ぐ凄まじい力に両手を使っているにも関わらず押され、僅かに苦悶の表情が浮かぶ。
しかし、このままの状態では押し負けることが分かっている故、恭也も押される力を利用して勢いのまま後ろに下がる。
それと同時に追い討ちを避けるべく懐から飛針を数本取り出し、追おうとする彼に向けて放つ。
《Vajura》
放つと共に魔法を行使し、飛来する飛針に蒼き光を纏わせ加速させる。
放ったときの速度に加えて魔法により増加されたその速度は凄まじいものがあると言える。
しかし、迫るそれに対してギーゼルベルトは避ける仕草も防御する様子すらも一切見せない。
それどころか、恭也が下がったと同時に振り切る形となった体勢から勢いに任せて一度回転し――
「つあっ!!」
――同一の方向に再び大剣を振ることにより、全ての飛針を一閃で叩き落した。
確かに一直線で全て放たれはしたが、複数の飛針をたった一閃で叩き落すのはかなり困難なこと。
下手をすれば落しきれず、迫る数本の飛針を自身の身に浴びる可能性だってありえる。
それ故、彼の見せたその行動は恭也にとって驚くほかないものであると言えた。
しかし、叩き落してすぐに攻め入ってくる彼を前にすると驚いてばかりもいられず、即座に行動へと出る。
「ふっ!」
「はっ!」
攻め入り振るわれた大剣を紙一重で避け、デバイスのほうの小太刀を振るう。
反撃が来ることぐらい相手にも分かっているため、彼も同じくその一閃を容易に避け、大剣を返して斬撃に移ろうとする。
しかしその行動は連続して放たれたもう片方の小太刀により、反撃の大勢から受けの体勢へと変えることを余儀なくされる。
それでもそこで終わるのならば別段脅威ではない……だが、ここで攻めを止めるなど恭也がするわけもない。
それを体現するかのように二刀から連続して斬撃は放たれ続け、ギーゼルベルトは受けから攻撃に移れなくされる。
そもそも、大剣はその大きさ故に破壊力はあるのだが、如何せん斬撃を繰り出す際は大概が大振りな形となる。
彼の繰り出す斬撃の剣速が速いといっても、例に漏れずして振りは大振りなものが多いために小太刀との相性は悪いと言えた。
(一刀ならばまだ反撃の隙もあったが、二刀になってからはそれもほぼなくなった……なるほど、厄介だな)
一刀のみのときでも十分に少なかった隙が二刀になってから更に少なくなった。
加えて先ほども上げたとおりの武器の差もあり、僅かになった隙をつける暇は皆無に近い。
魔導師同士の戦いにて武器のみで戦うなど……と思われるような戦い方ではあるが、魔法を使わせる暇を与えないなら実に効果的。
現に隙をつける暇がなくなってから防戦一方となるギーゼルベルトも、同時に魔法を使う暇さえもない。
下手に違うところへ意識を向けたらこちらに隙が生まれる。そうなれば二刀から斬撃がその隙を逃すとは思えない。
だからこそ、ただ受け続けるのみ。大剣という武器で二刀の素早い斬撃を受けることに集中しながら、相手の隙を窺うことに専念する。
(だが、妙だな……先ほどから手先の攻撃ばかりで、一切魔法行使が成されない。高町恭也は剣での攻撃に専念しているからというのは分かるが、リース嬢なら使えぬことはないはず……)
隙を窺い、反撃のチャンスを見極めようとする中で気づいた不可思議な事実。
剣での戦闘に集中している恭也ならともかく、オリウスでさえも先ほどから一切魔法を行使しない。
これが普通のデバイスならおかしなことはない。だが、オリウスは普通とは違う故に当てはまらない。
ならばなぜ、魔法を使用することが一切ないのか……そのことに疑問を浮かべた途端――
――ほんの一瞬、恭也の放つ斬撃の波に切れ目が生じた。
それは反撃のチャンスとも言える隙。だが、ギーゼルベルトはそれに移れなかった。
明らかに攻撃を誘っているとしか考えられないほど、その生じた切れ目は不自然すぎるものだから。
そして彼の感じたその考えが正しかったことは、後に見せた恭也の行動にて証明されることとなった。
《Vajura》
「はあぁぁぁ!!」
デバイスの音声、そして恭也の気合の声。二つを響かせながら彼は二刀をクロスさせ、ギーゼルベルトへと放つ。
先ほど見せた斬撃の切れ目……それはこの技を放つために出来たもの。そして同時に相手の攻撃を誘うもの。
この技と迎え撃つように相手が斬撃を放てば、元々高威力のこれに加えて相対的な力が加わってしまう。
そうなればどうなるかということぐらい、彼にも容易に予測が出来た。それ故、攻撃という手段は取らず、防御の姿勢を取る。
先ほどまで放していたもう片方の手を柄に加えて取られた防御に、クロスさせた二刀が凄まじい音を立ててぶつかる。
「ぐぅ!!」
同時に大剣を通じて激しい衝撃が伝わり、威力故に防御の姿勢のまま後ろに吹き飛ばされる。
しかし吹き飛ばされた彼はすぐに体勢を立て直し、僅かな手の痺れを押し殺して斬りかかろうとする。
《ナイス、恭也! リース、ナグルファル展開!!》
《Yes, oriusu!》
だが、その行動も止めることを余儀なくされる。彼の周りに顕現した蒼色の壁によって。
前後上下左右、全ての逃げ道を塞ぐように展開された壁。それは彼を取り囲み、捕獲する。
しかし、そんな壁程度では彼を捕獲しておくことなど出来ない。そんなことはオリウスだって承知しているはずだ。
なのになぜこんな無意味なことをするのか……その答えも、次の一瞬で判明することになる。
「っ!?」
捕獲した壁の外、その周りを更に取り囲むようにして顕現された無数の蒼き刃。
彼を壁の内側に捕獲したのは、この刃の嵐から逃げることが出来ないようにするためのもの。
その意図が分かった瞬間、ギーゼルベルトは驚きを納め、僅かな笑みを口元に浮かべる。
「見事だ……」
笑みを浮かべると共に呟かれた言葉。それは彼らの策を賞賛する言葉。
その言葉が聞こえるか聞こえないかの声量で口にされたのを合図に、彼を取り囲む刃は放たれる。
放たれた刃を加速して彼を取り囲む壁を用意に貫き破壊し、その勢いのまま迫る。
壁がなければ迫る前に合間を縫って避けられた。だが、壁によって捕獲されたことで刃が至近まで迫るのを許してしまった。
だからこそ逃げ道などありはしない。加えて先ほどのように弾き飛ばすにも数が多く、刃を振るだけの時間が無い。
万事休す……本人を含めた全員がそう思う状況。それ故に放った本人は自身らの勝利を確信する。
――しかし、状況は本人たちの予測を大きく裏切る結果となった。
ギーゼルベルトへと迫る刃は彼に到達することなく、彼を覆った球体型の障壁に遮られる。
彼本人があの土壇場で障壁を展開したのか……そういう考えも浮かぶが、彼の表情を見るとすぐに否定された。
自身を覆った障壁に対して今まで以上の驚きを見せ、更には僅かに不機嫌そうな様子さえも見せる。
それが第三者の存在が出現したということへの思いを強め、それと同時に聞こえた声で確信へと変わる。
「ギーゼを追い込んだのは見事ですけれど……まだまだ詰めが甘いようですわね」
それは女のものと思えると共に若干の幼さが垣間見える、そんな高めの声。
それが聞こえてきたのはギーゼルベルトの立つ位置の上、僅かにずれているものの真上と言える位置。
聞こえた位置に恭也が視線を向けると、そこに立っていたのは先端が十字の形をした杖を持つ少女。
砂漠に僅かと流れる風に腰元までのウエーブの掛かった茶髪を靡かせ、青色の瞳で恭也を見下ろす少女。
いつの間にその場所に現れたのか……それが分からぬ恭也は視線を向けてくる少女に驚きで返す他なかった。
そんな彼の視線を受けながら少女はゆっくりと下へと降りていき、ギーゼルベルトの隣にて停止した。
隣に立った彼女に彼は驚きを納め、不機嫌さだけを残した表情で視線を向け、口を開いた。
「何をしに来た? 今回の戦は俺のみに任されたもの……お前の出る幕などないぞ」
「助けてあげたのにずいぶんな言い草ですわね。あと勘違いされているようですけど、今回のは戦うことが目的ではありませんわよ?」
相手の不機嫌そうな言い草と発せられた言動に少女は額に手を置き、呆れの息をつきながら訂正する。
それにより本来の派遣された理由を思い出し、少女が現れたことに納得した彼の顔からは不機嫌さが消える。
「理解していただけたようですわね……では、アルからの指示をお伝えしますわ。目的は達成、直ちに戦闘を終了し帰還せよ……とのことです」
「むぅ……しかし、まだ決着が」
「我侭を言わないで欲しいですわね。先ほども言ったとおり、今回の目的はあくまで守護騎士の支援……『蒼天の継承者』との決着ではありませんわ」
呆れの次はジト目を向けられ、惜しむ気持ちはあっても彼は反論できずに剣を納める。
そんな様子を驚いていた故に黙ってみているしかなかった恭也は口を開く。
「逃げる気か……?」
「いや、俺としては――」
「そのとおりですわ、『蒼天の継承者』」
ギーゼルベルトの言葉を遮り、挑発とも取れる言葉を少女は意にも返さず答える。
逃げるということを認める……それは自尊心が強い者なら決して出来ないことである。
故に少女にそれがないのかと尋ねられれば、答えは否。少女にも決して自尊心がないわけではない。
だというのに彼女が素直にそう返したのは、要するにその程度で自尊心が傷つけられることはないということだった。
「私たちは忙しい身……いつまでも貴方たち如きに構ってなどいられませんの。ですので、これにて失礼させていただく所存ですわ」
《……そんなに忙しいならそもそも出てこなきゃいいじゃない。それなのに出てきてる辺り、頭が足りてないんじゃないの?》
「失礼なお子様ですわね。これは私共の意思ではなく、博士の意思故の行動……その程度も分からない貴方こそ、少し知能が幼稚なのではないかしら?」
知能という部分で頭をコツコツと指差しながら示す事で、相手を酷く挑発する。
恭也ならばそのくらいの挑発に乗ることはないのだが、オリウスに至ってはそうもいかなかった。
その証拠に、少女の言葉と行動で湧き上がってきた怒りを表すように彼ら二人の周りに刃を顕現する。
しかし、自身らの周りを取り囲んだ刃の群れに少女は焦るでもなく、ただ呆れの溜息をつく。
「言葉で返せなくなったら行動で……本当に幼稚な頭のようですわね」
溜息と共に少女はそう呟き、杖を軽く振るって自身らの足元に魔法陣を展開する。
それが何を使用するためのものか……それを数秒遅れて理解したオリウスは迷うことなく刃を一斉に放つ。
だが、数秒というラグが致命的だったのか、刃が少女とギーゼルベルトに届くよりも早く――
――二人の姿が、向けられる視界の先から消えた。
要するに展開された魔法陣は転送魔法を使用するためのもの。
しかし、数秒というラグがあったにしても、本来ならば刃の速さも考えて逃げられるということはなかった。
それなのに逃がしてしまったのは、展開から転送があまりにも速すぎるという事実故。
その事実は驚きを招くと同時に、彼女の魔導師としての力量がそれほどのものかを物語っていた。
《くぅ〜、あと少しだったのにぃ!!》
「まあ、逃げられてしまったものは仕方ない。それだけ相手の実力が高かったということだ」
《馬鹿にされるだけされて逃げられたんだから、そんなのじゃ納得出来ないよ!!》
逃げられたという事実よりも、馬鹿にされたことで非常に苛立っているオリウス。
その彼女を言葉で窘めつつ、恭也は両手に持つ二刀を鞘に納め、来た道へと急いで戻っていく。
それは先ほど彼らが口にしていた言葉、目的は達成されたという言葉故の行動。
守護騎士の支援と言っていたのだから、当然それは魔力蒐集の手伝いであると容易に想像できる。
それが達成されたとなれば、離れて戦闘を行っている間にどちらかが蒐集された可能性が必然的に高くなる。
だけど可能性は高くとも内心では無事であることを祈りつつ、恭也は砂漠の上空を急ぎ駆けていった。
あとがき
謎の少女が再び出現。加えて、まんまと二人に逃げられる羽目に。
【咲】 本当に転送魔法の展開から転送が速すぎるわね。
ていうかぶっちゃけると、オリウスが気づかなかっただけで魔法の構成は陣を展開する前に出来てたんだけどね。
【咲】 つまり、実力以前に相手のほうが一枚上手だったってこと?
ま、それも含めて彼女の実力なんだけどね。
【咲】 まあ、それはねぇ。ところで、ギーゼが負けかけてたけど、彼ってそんなに強くないの?
んにゃ、ただ武器の条件が悪かったのと、場所が悪すぎたから本来の力が出せなかった。
【咲】 武器は分かるけど、場所が悪すぎたって……砂漠は平坦な地だから、条件悪くないでしょうに。
いや、砂漠っていうのがそもそも悪かったのだよ。彼、氷使いな上に……おっと、ここからは内緒ですな。
【咲】 また気になる部分で切るわねぇ……ま、いいけど。で、話を変えて……今回の戦いでフェイトが魔力を取られちゃったわね。
奇しくも原作通り……一体この後、どうなっていくのだろうね。
【咲】 ここまでいくと原作通りに話が進むんじゃないの?
そうとも限らないだろ? そもそも謎の集団はともかく、この事件にシェリスは深く関わってるから。
【咲】 あの子が今後介入して話が変わるっていうのもあり得るってことね?
そういうこと。ま、その辺は今後をお楽しみにだけどな。
【咲】 ふぅん……で、今回中編ってことだけど、なんで中編なわけ?
いや、砂漠世界でのほうは終わったけど、まだ一つだけ終わってない箇所があるだろ?
【咲】 終わってない箇所? ……ああ、なのは側のことね。
そうそう。あちらにはなのはに加えて、アイラも出向く。
【咲】 それに何か意味があるわけ?
以前はちゃんと見てないからあれだけど、仮面の男を真っ向から見たらアイラは何を思うかな?
【咲】 ああ、そういうことね……。
ま、気づくかどうかは次回をお楽しみに!! では、今回はこの辺にて!!
【咲】 また次回も見てくださいね♪
では〜ノシ
恭也、フェイト組みの方はフェイトがリンカーコアを取られてしまった。
美姫 「うーん、やっぱり不意打ちはずるいわね」
まあ、戦いにずるいも何もないけれどな。
美姫 「またそういう捻くれた事を」
恭也の方は引き分けという所かな。
美姫 「みたいね。あと一歩って所で逃がしたわね」
これが後々どうなるのか。いやー、なのはサイドも楽しみです。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。