砂漠での戦闘から数日が経った。
その間でフェイトのリンカーコアも元に戻り、今では学校へ登校出来るほどに回復している。
彼女が復帰すると同時に彼女らの中で一つ、大きな事と言える事態が起こっていた。
それはすずかの友達が入院したという事態。そしてそれはフェイトが復帰する一日前の事であった。
復帰してからの初登校でそのことを知らされ、なのはもフェイトもすずかと同じくその子の事が心配になる。
だからすずかにお見舞いに行こうと提案し、その友達の親族と思われる人から携帯で了承を取ることで決定した。
――そして放課後、彼女たちはすずかの友達が入院する病院へとやってきた。
薬などが発する独特の匂いが僅かばかり漂う中、彼女たちは手ぶらで通路を進む。
本当ならお見舞いということで何かを持っていきたかったが、心配故にその手間すら惜しかった。
だから申し訳なくも手ぶらの状態で訪れ、彼女たちは件の友達がいる病室を探しながら歩く。
すると探し続けて数分、目的の人物の名前が書かれた表札のある病室を発見する。
「……うん、ここみたいだね」
「そうね。じゃあ、入りましょう」
すずかが確認した後に告げ、それにアリサが頷いて扉をノックする。
その間、二人の後ろにいるなのはとフェイトは少し緊張があるのか、黙ったまま返事を待っていた。
そしてノックしてから僅かに遅れ、部屋の中から声が聞こえてきた。
聞こえた声は自分の知る人物の者だと再度確認し、すずかを先頭に四人は病室へと入った。
「いらっしゃいや、すずかちゃん。後ろの子たちは、お友達?」
「うん。紹介するね――」
茶色のショートヘアーをした少女は病人とは思えない明るい笑顔で出迎える。
それにすずかも笑みで返し、彼女が尋ねてきた三人について順番に紹介していく。
まずは隣にいるアリサ、そして後ろのなのは、フェイトという順に紹介していき、紹介される側は応じて多種多様に挨拶する。
そして全員の紹介が終わると少女はまた先ほどの笑顔を浮かべ、自身の名前を口にした。
「うちは八神はやてや。よろしくな♪」
そのときの笑顔は先ほども挙げたとおり、本当に病人などには見えないもの。
だからこそ四人は一様に内心で安著を浮かべ、はやての近くへと歩み寄っていった。
魔法少女リリカルなのはB.N
【第一章】第二十四話 言葉の真偽、求める心
はやての友達であるすずか。彼女の友達になのはとフェイトがいると知ったとき、シャマルは大いに驚いた。
こんな偶然があるものなのかと……しかもこれは良いほうの偶然ではなく、悪い方向の偶然。
だからシャマルははやてが闇の書の主だとバレぬ為、出来うる限りの手を尽くした。
シャマルが現在茶色のコートにサングラスという滅茶苦茶怪しい格好で病室を覗いているのもその一つである。
ないとは思うが、なのはとフェイトが気づく可能性も全くないとは言えない。だからこその監視なのだ、これは。
「んん! んんん!!」
加えて現在、シェリスが口を塞がれながら抱き寄せられているのもその一つと言える。
はやてが入院したのは昨日の事。それをなぜか知ったシェリスは真っ先にお見舞いへとやってきた。
そして一日経った今日もまたお見舞いへとやってきたのだが、如何せんタイミングが悪すぎた。
シェリスはなのはやフェイトと交戦経験がある上、はやてと知り合いだと知られればバレる可能性が高い。
だから彼女が入る寸でで抱きとめ、とりあえず騒がれないように口を塞いでいるというわけだ。
「んんんーーー!!!」
しかし、口を塞いでもここまで騒げるのだから、逆に状況としては宜しくないだろう。
そこにようやく気がついたシャマルは彼女の口から手を退け、すぐさま静かにしてもらうよう頼む。
その際に先ほどのことを謝るのも忘れない。下手に機嫌を損ねると何をするか分からないからだ。
するとその二つの行動にシェリスは驚くほど素直に頷き、それ以後は一切騒がなくなった。
「あの……シャマル、さん?」
「え?」
かなりの戸惑いが窺える声を掛けられ、シャマルはそちらへと振り向いた。
振り向いたそこにはかなり引き攣った笑みを浮かべながらシャマルを見る、はやての主治医である石田医師。
彼女のそんな笑みにシャマルはそこで初めて自分の服装の異質さに気づき、とりあえず乾いた笑いを浮かべながらサングラスを外す。
そして互いにぎこちなく笑うという微妙な空気が漂うこと数秒、気を取り直した石田医師が口を開いた。
「ちょうど良かったです……シャマルさん、少しお時間の方いいでしょうか?」
「え……い、今、ですか?」
「はい。はやてちゃんの事で、ちょっと……」
その一言が告げられると同時にシャマルの顔つきが一変する。
いつものような穏やかさは一切無く、あるのは切迫したような余裕のない表情。
それもこれも石田医師の告げるはやての話題が基本的に悪い方向のものだという事実故である。
無論、彼女にそうしたいという意図はさらさらなく、本当ならば良い知らせを伝えたいとも思っている。
だけどはやての容態は最近になって深刻極まるものばかり故、そういうわけにもいかないのが痛いところであった。
「わかりました……じゃあシェリスちゃん、お姉ちゃんちょっと向こうで大事なお話をしてくるから、いい子で待っててね?」
「にゃ、わかった〜」
いつも通り空気を読まない明るい笑顔で頷き返事するシェリスを彼女は苦笑しながら一撫でする。
それに彼女がくすぐったそうに目を細めるのを見てもう一撫でした後、シャマルは石田医師と共に病室前を離れていった。
だがここで彼女は一つの間違いを犯した。それは些細な間違いであると同時に、非常に致命的な間違い。
「にゃ〜……」
その間違いとは、何で引き止めたか説明せずにシェリスを病室前にて一人置いてしまった事。
せめて説明をしていたなら良かった。石田医師との話に連れて行けば尚良かったのだろう。
しかしどちらもしなかった現在では後の祭り。シェリスの性格をちゃんと把握していなかったシャマルのミスである。
まあ詰まるところこのミスが何に繋がるかというと――――
「はやてお姉ちゃん、こんにちは〜♪」
――シェリスがこうする最高の条件へと繋がるのだ。
最初に止められた理由など考えず、ただ良し悪しをそっちのけで自分がしたいようにする。
それがシェリスの大まかな性格であるため、説明無しで置いていけばこうなることは簡単に予想できたはずだ。
だが結果的にそれが成されず彼女は病室へと入り、真っ先にベッドの上にいるはやてへと駆け寄る。
彼女の突然の来訪にはやては嬉しそうな笑みを浮かべるが、残る四人は驚き呆然とするしかない。
その中でも特になのはとフェイトの驚きようは半端なく、共に口をパクパクさせながら内心はかなり動揺していた。
《こ、この子って……シェリスちゃん、だよね?》
《ど、どうしてここに……ううん、そ、それよりもクロノたちに連絡を――》
《だ、駄目だよフェイトちゃん! 今そんな事したら不信に思われちゃう》
突然現れた指名手配中の少女。だけど今すぐ連絡を入れることが出来ない状況。
なぜならほとんどの者がアースラにいるため、連絡を入れるとなると長距離ということで通信機を出さなければならない。
まあ通信機といっても携帯電話なのだが、それでもここでいきなり掛けようものならかなり不信だろう。
電話だとでも言って病室外に出て掛けるという手段もあるが、シェリスと面識がある故に気づかれる可能性はかなりある。
だから連絡が取りたくても取れず、未だ自分たちに気づいていない彼女を見ているしか出来なかった。
「あ、シェリスちゃん、ちょうどええから紹介するな。後ろの子たちがうちの友達の――」
「うにゅ……?」
はやてに撫でられ目を細めていたシェリスは紹介という言葉に反応し、後ろを振り向く。
そこで注視したのが前に立つすずかとアリサではなく、後ろのなのはとフェイト。
そしてしばらくジーっと見続けていることに言葉を中断してはやてはすずかやアリサと共に首を傾げる。
だが、三人が静寂の中見詰めあうことしばし、突如彼女は閉じていた口を開いた。
「あ……ああああああああああっ!!!」
開いた口から響かせる叫び声と突然の指差しになのはとフェイトも含めてビクッと驚く。
そんな彼女らに対して声を上げた本人たるシェリスは指を差したまま、何かを口にしようとする。
それが何となく予想できた二人は予想するや否や、口にされる前に凄まじい速度で駆け寄って口を塞いだ。
「んんんーーーっ!!」
口をまたも塞がれ、加えて相手が敵対してる人故にシェリスは先ほど以上にジタバタと暴れだす。
しかしそこは二人掛かりで何とか抑え、ちょっとごめんねと言った矢先に彼女を連れて二人は病室を出た。
そして後に残された三名はなのはとフェイトのいきなりな行動に呆然とした様子で佇むしかなかった。
連れ出してから数分後、シェリスは先ほどまでと打って変わって上機嫌だった。
それはなぜかというのは非常に簡単……ただ、ジュースを一本買ってあげたら機嫌が良くなったというだけ。
良くも悪くもそれは単純であると言えるのだが、人気の多いそのフロアで叫ばれないのだからいいだろう。
というわけで現在、三人は病院の自販機が置かれるフロアの長椅子にシェリスを挟むようにして腰掛けていた。
ただ、シェリスを連れ出してここまで来たはいいが、ここから何を話していいものかが全く分からない。
そもそも連れ出した理由も魔導師とか敵対してるとか、そんな話題を彼女たちの前でしたくなかったからだ。
だから話題が見つからず顔を見合わせて困り果てていたのだが、ふと沈黙を裂くようにシェリスが口を開いた。
「お姉ちゃんたち、お名前なんて言うの?」
「「え?」」
突然の質問に二人とも少し間の抜けた声で返してしまう。
しかしよくよく考えればその質問は最もな事。戦ったことがあるというだけで名前などシェリスが知るわけもないのだから。
故に二人がその考えに行き着くと同時に慌てて自身らの名前を口にすると、彼女はいつもの笑顔を浮かべる。
「シェリスはね、シェリスって言うの。よろしくね、なのはお姉ちゃん、フェイトお姉ちゃん♪」
敵対してるというのに笑顔でよろしくとなど言ってくる彼女は、普通に見たら変な子と思うだろう。
だけどオリウスから聞いているシェリスの人となりを思い浮かべるとそういう風には二人も思わなかった。
どちらかと言えばその様子と言動を見るとオリウスの言っていたことが正しいと再確認してしまう。
纏う空気や言葉の端々に一切の邪気がなく、自分のやっている事が如何ほどのものかを理解していない。
しかし、だからこそ聞きたいことを聞けば話してくれる可能性を秘めていると言え、質問をするにはもってこいである。
「ねえ、シェリスちゃん……ちょっと聞きたいんだけど、シェリスちゃんはシェリスちゃんのお父さんがしてることが何か知ってるのかな?」
「にゃ、知ってるよ? 人の心をデバイスに移して、えっと……何とかってシステムをちゃんと動かそうとしてるんでしょ?」
「そこまで知ってて、リースが……シェリスのお姉さんがデバイスに移し変えられたのにシェリスは何とも思わないの?」
なのはの質問への答えを聞き、フェイトが自身の気になった疑問をシェリスへとぶつけた。
リースはシェリスにとって実の姉。なのにたった一人の姉がそんな目にあって彼女は何とも思わないのか。
姉を連れ戻そうとする行動から慕っているのが分かるからこそ、それには怒りを抱くべきではないかと思ってしまう。
しかし――――
「? シェリスはそこで何かを思わないといけないの?」
――返されたその一言で、リースの言っていたもう一つの事を思い出す。
リースの事を如何に慕っていても、同等以上に父親のことをシェリスは慕っている。
その父親がリースをそんな目に合わせたのはリースの事を思ってだと固く信じている。
だからこそ悲しみや怒りなどという感情がそこで浮かばない。信頼してるからこそ浮かべることなどない。
彼女が返してきた言葉からそれを再確認し、なのはもフェイトも二の句を繋げる事が出来なかった。
そして再び静寂が訪れ、シェリスは言葉を返さず黙ってしまった二人に首を傾げながらも缶に口をつける。
その後、コクコクと小さく喉を鳴らして飲み干すと口から放し、空き缶を弄びながら口を開いた。
「お姉ちゃん達って、どうして管理局を手伝ってるの?」
それはまた唐突な質問であったが、彼女自身は質問に深い意味を持たせてなどいない。
ただ純粋に疑問として思っただけの事。どうして管理局のために戦ったり出来るのかと。
しかし純粋故に真っ直ぐな疑問は非常に答え辛いものがあり、二人はすぐに返答を返すことが出来なかった。
「管理局って、えっと……シリシヨクのために人を殺したりするんでしょ? そんな人たちの手伝いなんてよくする気になるね〜」
「そ、そんなことしない! 確かに犯罪者を捕まえる場合で武力行使をすることもあるけど、殺したりなんて絶対――っ!」
「え〜……でもアイラお姉ちゃんが前に言ってたよ? 管理局の欲望がシェリスのお母さんを殺したんだって」
周りに人がいるということを忘れ、フェイトはシェリスの認識を改めさせようとする。
だが、言葉の途中で不思議がりながら口にされた一言で、フェイトは言葉を繋げることが出来なくなった。
そしてそれはなのはも同様で驚きを浮かべたまま声を発せず、絶句しているしかなかった。
リースとシェリスの母親の死には管理局が関係してるとは確かに聞いている。だけど、そんな事は一切聞いていない。
こういうのは害者の家族が被害妄想しているというのも考えられるが、真相を聞くにも今は無理だろう。
アイラに聞いたということはシェリスも詳しく知らないのだろうし、場所が場所故に関係者が今はいないから。
だから語られた事の真偽が分からず、ただ二人は何も言えずに押し黙るしかなかった。
「にゃ〜……ま、いいや。管理局の事なんてシェリスは興味がないしね〜」
相手に多大な思慮を要求する話題を振りながら、それを勝手に中断してしまうシェリス。
非常に勝手な感じではあるが、良くも悪くもマイペースなのだということがよく分かる。
そしてそんなマイペースを貫くように彼女は立ち上がり、空き缶をゴミ箱に捨てて二人の前に立つ。
「じゃ、シェリスはもう帰るね。お姉ちゃん達と話せて、シェリスも一杯楽しめたよ♪」
最初に浮かべたのと同等の笑みを浮かべ、シェリスは二人に背を向け歩き出す。
しかし自分たちの前から彼女が去ろうというのに二人は動けずいた。本来なら捕まえるべき相手なのに。
それはシェリスの残した数々の言葉が頭に残るから。それを思考することで精一杯だから。
だからなのはもフェイトも椅子から立ち上がることもせず、彼女がいなくなってもただ残された事実の事を考え続けていた。
「――というわけなんですけど……」
「……アホなのか、君は?」
とある場所の一室にて、博士ことジェドは珍しい来客と言えるヒルデと向き合っていた。
そして真正面で向き合いながらも彼が浮かべるのは、これ以上にないほどの呆れ顔である。
一体何が彼にそんな感情を抱かせたのか。それは続けて発せられたヒルデの言葉で判明する。
「アホとは失礼ですね……ただちょっと脳を弄くって洗脳して欲しい子がいるって言っただけじゃないですか」
「それがアホだと言うんだ……いいか? 私が専門とするのはデバイスであって人体ではない。というより、デバイス以外の事ははっきり言って素人も同然なのだよ……だから、君が言うような事は断じて出来ない」
「うぅ〜……あの子をヒルデ専用にする良い案だと思いましたのに」
提案した案も続けて放たれた悔しげな一言も、非常に危ないものだと言える。
そんな彼女にジェドは呆れ顔のまま溜息をつき、椅子を反転させて多数の機器が置かれる机のほうへと向く。
だが、そこで何かを思い出したかのように僅かな声を上げ、机の上の何かを手に持ち再び振り返る。
そしてヒルデと若干距離が空いている故、投げるようにして手に持ったそれを投げ渡した。
「わっ、と……あれ、グンラウグ? もう調整が終わったんですか、博士?」
「ああ、一応な。しかし調整してみて思ったが、ずいぶんと珍しいデバイスだな。短剣型や大剣型……他の奴らが持つ物の形状は大概そんなものだったが、君のはそれとはかなり異なった形状。かといってインテリジェントやストレージではなく、武器としての性能を重視したアームド……そして最も驚くべきが――――」
「あちゃ〜、例のスイッチが入っちゃいましたね〜……」
デバイスの事になると非常に話が長くなる。それはヒルデだけでなく他の者たちも知る事実。
現に調整が終わったのかと聞いただけで彼はヒルデのデバイスについて勝手に語り始めている。
こうなると話が終わるまでこちらの言葉には反応すらしなくなる。非常に難儀な性質と言う他ないであろう。
それ故か大概の者はジェドがこのモードに入ると彼を放置して離れる。ヒルデにとしてもそれは例外ではなく、ひっそりと部屋を退室した。
「はぁ〜……博士のアレにも困ったものです」
《C'est vrai il n'est rien de plus》
廊下を歩きながら呟かれる一言に手に持ったソレ――グンラウグが同意を返す。
デバイスながら同意にどことなく力が篭っている所を見ると彼の語りを長々聞かされたのだと分かる。
だからかヒルデは僅かに苦笑を浮かべつつ、慰めるような言葉を掛けたりしながら歩き続けていた。
そんな中、歩き続ける通路の真正面から奇妙なものが近づいてきた。
一見してダンボールが歩いているようにしか見えない、そんな奇妙と言うしかない物体が。
「おっと……あれ、ヒルデじゃないっスか」
目の前の気配を感じ取ったのか立ち止まり声を掛けてくるダンボール。
その声は非常に聞きなれたものであり、このダンボールが何かというのがヒルデにも一瞬で分かった。
「アルだったんですか……どうしたんです? そんな大量のダンボールを抱えて」
「ああ、博士に頼まれたんスよ。倉庫のほうにある機材やら何やらをありったけこっちの持ってきてくれって」
返ってきた答えにヒルデは納得するよう頷き、同時に彼女に対しての疑問が浮かぶ。
目の前から見たところ三段くらい積み重ねられたダンボール。彼女が言うには中身は数々の機材。
機材というのだからデバイス製作に関係する機器等なのだろうが、それにしてはアドルファが重そうにしてる様子はない。
加えて三段も積み重なっていて目の前の視界が遮られているのにダンボールには一切に凹みが窺えない。
それは要するに壁などにぶつからず、人にぶつかって落としもせずということ……この二点だけで明らかに不可解だ。
しかしまあ、仲間内では誰も一つくらい不可解な点は持っている故、ヒルデはそこが彼女の不可解な点なのだと納得してしまった。
「それにしても、相変わらず博士の使い走りと化してるんですね〜……ラーレが見たら嘆かわしいとか言いそうです」
「あははは……」
想像が出来るのか、顔は隠れているものの声で苦笑しているのが分かる。
実際問題、ジェドの言いなりになっているのは彼女らの中でも非常に限られた一部の者のみ、
先ほどヒルデが口にしたラーレという人物もそうだが、ギーゼルベルトやライムントも何でも聞くというわけではない。
まあ、かく言うヒルデも気まぐれな性格があるため、ジェドの頼みを聞くときと聞かないときがあったりする。
そんなわけでジェドのほぼ言いなりと化しているのはアドルファやカルラぐらいなものであるわけだ。
「まあ、これはしょうがないことっスよ……ウチらの目的や――の意志のためには、博士の言うことを聞いておくしかないわけスから」
「ていうかですね……ぶっちゃけ、『剣』と『盾』ぐらいなら私たちだけでも作れるんじゃないかと最近思うヒルデなのですよ」
「それが出来たら元から博士に頼んだりしてないっスよ。そうでなくとも最近の――とのやり取りで訳の分からないものまで足されたんスから、正直言いなりだろうとなんだろうとやっておかなければならない状況なんスよね、今は」
アドルファの言うことがよく理解出来ないのか、ヒルデはそこで首を傾げる。
それは彼女にとって分かりきった反応だったため、少しばかり溜息をついて詳しく分かりやすく説明をした。
するとそれによりヒルデはようやく納得したように頷き、もう二、三言話してから脇を通って再び歩き出そうとする。
しかし、ヒルデが彼女の真後ろにちょうど立ったとき、アドルファは思い出したかのように呼び止めた。
「ちょっと気になったんスけど、ヒルデはあの子のどこが良かったんスか? 『剣』や『盾』の主に成りえる存在でもない、資質が高めなだけのただの女の子……なのに、どうして気に入ったんスか?」
顔半分だけ向けて尋ねられた言葉には、すぐに答えが返ってくることはなかった。
しかしそれは別に答えが見つからないというわけではなく、ただ彼女が再度思いを馳せていたから。
なぜその子を好きになったのか、実質自分たちと敵対してる彼女のことをどうして好きになったのか。
その理由を思い浮かべて思いを馳せ、自然と満面の笑みを浮かべて振り向き告げる。
「在り方、ですね……私が彼女に惹かれたのは」
「在り方、スか?」
「はい、在り方です。あんな境遇を抱えていても、強くいられる彼女の心が私を惹きつけました……だってあれは、本当に――」
「私たちとそっくり、なんですもの……」
あとがき
ヒルデがフェイトを好む理由が要するにこれだ。
【咲】 ん〜……ていうかさ、見たのは二度目の戦いからよね?
ふむ、ヒルデたちが見てたのはそこからだな。当然、三度目も見てたが。
【咲】 じゃあ、三度目の戦いを見て好意を持ったってこと?
うにゃ、二度目からすでに好意はあったね。
【咲】 だとすれば疑問なのよねぇ……二度目って言ったら、まだ心情的に危ういときじゃない。
それでもフェイトは不安を表に出さなかっただろ? それを彼女は強さと見たんだよ。
【咲】 すでに吹っ切ってるって勘違いしちゃったわけ?
そう捉えてもおかしくはないな。まあ、実質三度目では吹っ切ってるから問題ないんだが。
【咲】 ふ〜ん……でさ、最後にヒルデが口にした一言って、どういう意味?
あれは物語の核心に近い箇所……アドルファたちが動く目的の一つが部分だな。
【咲】 彼女たちの目的に関係してる一言ってわけね?
そういうこと。まあ、詳しく明かされるのは大分先のほうになるがな。
【咲】 ふぅん。じゃあ、そこまで予想しながら待ちましょう。
そうしてくれ。まあ、目的まではいかなくとも彼女たちの存在がどういうものなのかぐらいは分かるかもな。
【咲】 選択枠がいろいろあるけどね〜。
ま、どれが当てはまるのかは各々で想像してくれ。では、今回はこの辺にて!!
【咲】 また次回会いましょうね〜♪
では〜ノシ
いやー、なのはたちがシェリスと会ってしまったな。
美姫 「まあ、シェリスと会っただけなら、まだはやてと闇の書の主は結びつかないんじゃないかしら」
それは分からんよ。さてさて、今回の出会いが今後にどんな影響を与えることになるかな。
美姫 「シェリスの口から聞かされた話をなのはたちがどう思うかしらね」
それじゃあ、次回を待ってます。
美姫 「待ってますね〜」