カールスナウトがアイラの相棒となってから一ヵ月という時間が流れた。

彼女は手に入れたその日から恒例となっている魔導師としての特訓を重ね続けている。

エティーナを師事して訓練し、デバイスが不調になったらその都度ジェドに見てもらう。

そんな魔導師訓練の環境としてはまあまあな良い状況の中で、彼女は着実に腕を伸ばしていっていた。

そして今日も――――

 

 

「じゃあ、早速始めよっか♪」

 

「おう!」

 

――研究所前の中庭にて、訓練を行うべく二人は対峙していた。

 

 

すでにアイラは準備万端とばかりに朱色の法衣という防護服を纏い、手には戦斧が握られている。

反対にエティーナはまだデバイスすら展開しておらず、言葉の後にようやくそれらしきものを取り出す。

取り出したのは二つの蒼色の珠。アイラのカールスナウトのように装飾があるわけでもない、ただの二つの珠。

それを彼女は手の平に乗せたまま目の前に掲げ、ゆっくり目を閉じると展開のための言葉を紡ぎ始める。

 

「我、蒼天の空に輝く一陣の光。普く漂う群れの中にて存在せしも、ただ一つの存在と成りえる者なり。不滅なる守護の想いは二つの器と共に聖空の輝きを纏いて天の軌跡をただ辿る。蒼天の力を我が手に……オリウス、アリウス、セットアップ!」

 

紡いだ言葉に二つの珠は応じ、蒼の光を放ってエティーナの身体を包み込む。

そして光が黙散したそこには先ほどまでとは違い、アイラの防護服と似た蒼の法衣を纏う彼女がいた。

手に持つ物も先ほどまでの珠とは大きく違い、右手に剣、左手に杖の形を取ったデバイスを握っていた。

 

「……毎度思ってたんだけど、アリウスはともかくオリウスは変わってるよな。インテリジェントなのに剣だなんてさ」

 

「ふふふ……確かにそうかもね。インテリジェントデバイスを持つ人は魔法を使うって思考上、杖として顕現する人が多いから」

 

たまではあるが飽きもせず言ってくる一言にエティーナは律儀に答える。

そして杖を持つ左手を若干下げ、右手の剣を軽く二、三度振った後、静かにそれを構える。

対してアイラもそれに応じるように戦斧を構え、少しばかり睨むような目で彼女を見据える。

 

「それじゃあ……いつも通り全力で、ね♪」

 

睨むような目のまま頷き、彼女は戦斧を構えたまま駆け出す。

反してエティーナは最初の立ち位置から一歩も動かず、構えた剣をゆっくりと下ろす。

同時に左手の杖の先端をアイラが突撃してくる方面に掲げ――――

 

 

 

――彼女が戦斧を力一杯振るうのに対して、障壁を展開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはB.N

 

【第二章】第三話 師事する者、剣と盾の元主

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別段、障壁で防がなくとも彼女なら避けるなり応戦するなり出来た。

しかしそれをしなかったのは、これがアイラの魔導師としての訓練であるが故。

この一ヶ月で基礎的な事を全て叩き込まれた彼女が今必要とするのは実戦に関する経験。

魔法を使って相手を戦う事で立ち回りや魔法の使い道を学ぶ事。それが彼女には必要だった。

だからエティーナは基礎を叩き込んだ後、自分が訓練の相手をすることでそれを教えようとしている。

それが現在の状況であり、エティーナが無闇に反撃をしないという理由に繋がる。

 

「おらおらおらぁ!!」

 

だが、反撃しないにしてもアイラとエティーナではやはり腕に差がありすぎる。

それはこの光景でも明らか。何度も何度も力一杯斧を振るうも、障壁を突き破れないのだ。

加えてアイラの攻撃を受け続ける彼女の表情も、先ほどから一向に変わらず笑顔のまま。

自分を舐めているわけではないとは分かっているが、それでも彼女は苛立ちを隠せなかった。

 

「くそ! カールスナウト、カートリッジ――」

 

「はい、隙あり♪」

 

戦斧による猛攻を止めて弾丸を装填しようとするも、その隙を彼女の突かれる。

障壁を瞬時に消して彼女が言い終わるよりも早く右手の剣を振るい、峰の部分をトンと首に当てる。

それにより告げようとした言葉は止まり、悔しそうな顔をしながらピョンと後ろに飛び退く。

 

「カートリッジを使うなら相手の隙をついてか、ある程度距離を置いてのほうがいいね。確かにカートリッジ使用による爆発的な魔力向上からの一撃は強力だけど、装填には僅かなラグが出ちゃうから」

 

「……分かった」

 

「うん、素直でよろしい♪ じゃあ、今度はこっちから行くから、頑張って防いでね?」

 

訓練は基本的に攻撃と防御を交互で行うことにしている。

故に次は防御訓練。これは魔導師としてだけなら障壁魔法が上手く張れるかを見るもの。

だが、彼女の扱うのはアームドデバイスである故、障壁だけでなく近接技術も養わなければならない。

そのためこの防御の訓練で行うのは障壁での防御と、デバイス本体での近接防御と回避の三つだ。

 

「はい、右下防御!」

 

「ぐっ……」

 

「続けて左上回避、後に三歩下がって障壁展開!」

 

エティーナの指示を聞き取ってその通りに行動し続けるアイラ。

存外に上手く動けてるせいか、エティーナの笑みもより嬉しそうなものへと変わる。

そして先ほどの指示で後ろに下がり障壁を展開したと同時に彼女は手の先端をその方向へ向ける。

 

「グリムゲルデ!!」

 

Fire!》

 

向けた先端から彼女の言葉に応じて蒼の光が一筋の閃光となって発射される。

それは高速で障壁へと迫り、僅かな間もなくぶつかって凄まじいほどの音と火花を散らせていた。

威力そのものは防ぎきれるようある程度は落しているが、それでも今のアイラにはキツイのも事実。

掲げる手は少しばかり震えが目立ち、表情も僅かながら辛さに耐えるようなものとなっている。

これがアイラと彼女との差。攻撃面にしても防御面にしても、彼女がいくら足掻いても現状で勝てはしない。

だからこそせめて多少なりと彼女を驚かせていやりたい。そう思うからこそ、辛さに耐えて障壁を維持し続ける。

そうしてその思いが届いたのか、障壁を破壊される事なく加わっていた力の圧力が収まりを見せた。

それに防ぎきった事への実感から嬉しそうな笑みを浮かべ、エティーナへと目を向けようとする。

 

 

 

――だが、向けた先にはすでに彼女の姿はなかった。

 

 

 

笑みは一転して驚きへと変わり、どこに行ったのかを探そうと周りに視線を彷徨わせる。

しかし視線を巡らせ始めて数秒と経たず、後ろから彼女の首筋に再度刃が静かに当てられた。

 

「防ぎきったのはお見事。だけどちょっと油断し過ぎだったね、アイラ」

 

「うぅ……卑怯くせぇ」

 

悔しさから文句を呟くアイラ。それに対して彼女は剣を退けて微笑を浮かべる。

確かにエティーナの言ったことは正論ではあるが、アイラの文句もある意味では正しい事。

防御訓練に於いての前提は彼女の指示通りに防ぐ事なため、指示がなければアイラは動けない。

だから油断以前に指示をしなかった部分では彼女に非がある。だからアイラの呟きに反論したりはしなかった。

 

「それじゃ次の攻撃訓練だけど……そうだね、カートリッジを装填して別のモードを使ってみよっか」

 

「別のモード? これ以外に何かあんのか?」

 

「うん。確かフラクチャーモードとショットモードの二つがあったかな。前者が打撃を主に置いた形態で、後者が中距離射撃を主としてたはずだよ」

 

「ふ〜ん……で、どうやってそのモードにするんだ? 普通にカートリッジを使えばいいのか?」

 

「んと、そこから形状を変化させるイメージを頭に描かないと駄目かな。詳しい形は口では説明し難いから、デバイスから直接受け取ってね」

 

エティーナの指示に頷き、アイラはカールスナウトを水平に構える。

そして先ほどは出来なかったカートリッジ装填の言葉を告げ、彼女に言われた通り頭の中でイメージを浮かべる。

斧が違う何かに変形するイメージ。どんなものか知らない故におぼろげになってしまう。

だけどデバイスにはしっかり届いたのか、正確なイメージが返ってきた事でイメージは鮮明な物となる。

 

Fractureform!》

 

イメージが鮮明になるとデバイスは変形の指示に応じ、弾丸装填と共に形状を変化させる。

斧の両面が左右に開き、刃のあった部分に鋸状の刃が出現。途端、カートリッジの魔力を推進力として回転し始める。

変形し終えると同時に鋸の回転音によるけたたましい音が響き、アイラは片手で片耳を塞ぐ羽目となる。

だがそれで音が完全に遮断出来るわけもなく、少し顔を顰めて回転する刃をじっと見詰める。

 

「斧が電動鋸になった……」

 

「それがフラクチャーモードだよ。カートリッジの魔力を動力にして刃を回転させ、ぶつける事で如何なるものも斬り砕く……確か魔法の名前は、フラクチャーインパルスだったかな」

 

「フラクチャーインパルス、かぁ……何か強そうな名前だな」

 

ようやく騒がしい回転音に耳が慣れたのか、耳を塞いでいた手を再び柄に添える。

そしてもうしばし回転する刃を見た後、適当にぶつかられるものがないかキョロキョロと探し出す。

その後少し探して少し後ろの方に大きめの岩を見つけ、あれでいっかと呟いて近づき、斧を振り下ろした。

すると、回転する斧の刃が岩にぶつかった瞬間――――

 

 

――岩は凄まじい音を立てて砕け散った。

 

 

魔力などの防御がないただの岩とはいえ、当たっただけで砕け散るとは思わなかった。

故にアイラは砕けた岩の破片を呆然と見詰め、我に返るとすぐさまエティーナへと駆け寄った。

そして若干の興奮を帯びて彼女へと言葉を紡ぐが、興奮が強くて若干言葉になっていなかった。

だけど彼女が何を言いたいのかは伝わったためか、エティーナは杖を持ったまま左手で頭を撫でる。

 

「使ってみて分かったと思うけど、それはちょっと強い魔法。やろうと思えば簡単に人を傷つけられるし、下手をしたら殺してしまう事だってある。だけど使い方を間違えなければとても強い力にもなる。だからね、アイラ……それを使うときはちゃんと考えて使うんだよ? 本当にそこで必要となる力なのかって事を、ね」

 

「う、うん、わかった……」

 

アイラはエティーナの言葉に素直に頷きながら、先の言葉に対してある事を思う。

それは突然彼女が別モードにしようと言った事に関して、もしかしたらそれが言いたかったからじゃないかという事。

強い力を持つ上での危険性。それを言いたかったが故にフラクチャーモードを使わせたのではないか。

聞きこそはしないが何となくそう思え、再度彼女の言葉を胸に刻むべく深く頷いた。

それにエティーナは満足したように頷き返し、訓練を再開しようと告げて若干の距離を置いた。

そしてそこからしばしの後、再び対峙した彼女らは先ほどまでと同様に訓練へと明け暮れていくのだった。

 

 

 

 

 

魔導師訓練を始めてから二時間弱、ようやく彼女らは訓練を終えた。

訓練を始めて一ヶ月な上にまだ子供なアイラにとって、二時間に渡る訓練は少しキツイ。

故にか訓練が終わった途端、地面に大の字で倒れ、大きく息をしながら空を見上げる。

そんな彼女の様子に少し苦笑しつつ、エティーナもゆっくりと彼女の横に近づいて腰を下ろした。

 

「お疲れ様。大丈夫、アイラ?」

 

「だ、大丈夫だよ……これくらい」

 

意地を張るような言葉で返すが、息遣いが荒い事から説得力がない。

だけど可愛い意地であるために苦笑するだけで、それ以上追及する事はなかった。

そうして休憩も兼ね、しばらくの時間をそのまま過ごした後、彼女はアイラの頭を軽く撫でながら口を開いた。

 

「風邪も引いちゃうし、そろそろ戻ろっか。お客さんのお持て成しの準備もしなくちゃいけないしね」

 

「お客さん? 誰かここに来んのか?」

 

「うん、私の友達とジェドさんの友達が来る予定になってるの。言ってた時間からして、もうそろそろ来る頃かな」

 

返ってきた言葉にアイラは納得したが興味はないというような声を出し、倒れていた状態から起き上がる。

そしてエティーナが立ち上がる手助けとばかりに小さな手を伸ばし、彼女は微笑を浮かべてその手を取り立ち上がった。

彼女が立ち上がったのを確認した後、アイラは手を離すとちょっと恥ずかしげに目線を逸らし、頬を掻きながら告げる。

 

「じゃあさ……ア、アタシもその準備、手伝ってやるよ。ほら、時間が迫ってるなら人手がいるだろ?」

 

「ふふ、そうだね。じゃあ、お願いしちゃおうかな」

 

照れながらも言ってくる彼女にエティーナは少しばかり苦笑しつつ、頷きながら返す。

するとまだ恥ずかしそうながらも任せろと告げ、再び彼女の手を取って歩き出した。

その様子を微笑ましく思いながら、エティーナは彼女に手を引かれたまま共に施設へと戻っていった。

 

 

 

 

 

施設内に戻ってから、二人はまず食堂へと向かった。

この施設に住み込みで研究を行う者は多く、それ故に少し広めに作った食堂。

しかし食堂はあっても料理人は雇っておらず、基本的に料理を作って振舞うのはエティーナだ。

テスターとしてこの施設にいる彼女はジェドの手伝いを時折するぐらいで、それ以外では特にすることがない。

故に料理はそこそこ得意という事でその任を請け負い、半ば料理人として働いてもいる。

そんなわけで彼女は厨房の事には詳しく、持て成し用のお茶請けがある場所もしっかり熟知している。

 

「これと、これと……あ、そっちの棚に砂糖があるから取ってくれるかな」

 

「ん。砂糖、砂糖っと……お、あった」

 

彼女の身長より少し高めなためか、若干背伸び気味で棚に手を伸ばす。

そしてそこから一番下の段にあった砂糖の瓶を取り、エティーナの所に持っていく。

受け渡されたそれを彼女は受け取るとお茶請けのお菓子を載せた盆に乗せ、ありがとうと頭を撫でる。

それにちょっと照れながらもアイラは嬉しそうな顔を浮かべ、少し調子付いたのか自分が持つと言い出す。

しかし乗ってる物も多く、砂糖の入っている瓶は割れ物故、さすがに危ないからとやんわりと遠慮を口にする。

だけどアイラは自分が持つと言って聞かず、困った末に小さな盆を取り出して少しだけ乗せ、それを持たせる事にした。

 

「それじゃあ、とりあえず外でお茶をする事になってるから、そっちに持っていこっか」

 

「外っていうと、入り口の横にあるテーブルか?」

 

エティーナがそれに頷くと彼女も頷き返し、少し駆け足気味で来た道を戻っていく。

その後ろ姿に向けて気をつけてねと告げ、元気のいい返事が返ってくると彼女は苦笑を浮かべる。

そして置いていかれないよう自身も彼女に続いて来た道を戻っていき、施設の入り口を出て目的のテーブル前にやってくる。

するとアイラはすでに盆に載ったお茶請けをテーブルに置いており、テーブルの周りにある椅子の一つに座っていた。

彼女のそんな様子にエティーナは再度苦笑を浮かべつつ、自身の持ってきた物を各位置に置き始める。

そして全部を置き終え、椅子の数が来客と自分たち合わせてギリギリの数という事もあってか、アイラを一度持ち上げる。

その後、アイラの座っていた椅子に腰掛けると膝の上に彼女を下ろし、手伝いのお礼を言いながらまた頭を撫でる。

撫でるという行為が多い故か少し子ども扱いされてると思い、彼女は嬉しそうながらも少しばかり抵抗を試みる。

だけど抵抗が弱い上に元々マイペースの彼女にはどこ吹く風。故に抵抗は空しく、結局は撫でられ続けているのだった。

そんな非常に和やかな雰囲気の中、彼女たちが潜ってきた扉が再び開き、ここに加わるべきもう一人が顔を出した。

 

「む、もう用意出来ているのか……相変わらず早いな」

 

「アイラが手伝ってくれましたから。ジェドさんこそ、今日はちょっと遅かったんじゃないですか?」

 

「ああ、例のプログラム構成に熱が入りすぎてな……危うく彼らが来る事自体、忘れる所だった」

 

「もう、ジェドさんったら……研究に没頭するのもいいですけど、少しはそういう所にも気を配ってくださいね?」

 

「……善処する」

 

もう、と今一度呆れるような声を上げるも、別に責める気はないためかそれ以上は何も言わなかった。

その一頻りの問答の後、ジェドはエティーナの隣へと腰掛け、お茶の入っているポットに手を伸ばす。

だが、まだ来客も来ていない故に駄目だとエティーナに止められ、しぶしぶ気味に手を引っ込めた。

そうしてしばらく待ち続ける事、数分後。人の物らしき足音が木々の並ぶ道の先から聞こえてくる。

その数は二人。それだけで誰が近づいて来ているのかが分かったのか、エティーナはアイラを下ろして立ち上がる。

そして彼女から僅か遅れてジェドも立ち上がったのとほぼ同時に、道の先から足音の主の姿が見えてきた。

一人は灰色の髪で顎鬚が少し目立つ男性。そしてその隣を歩くのは一、二歳程度の子供を抱いた緑髪をポニーテールに纏めた女性。

見た目の年齢的にも少し対照的故か少し目立つその二人は、ジェドたちの姿を捉えると歩調を緩めず近づいてきた。

 

「待たせてしまってごめんなさい、エティーナ。もう少し早く来ようと思ったのだけど……」

 

「いいのよ、気にしてないから。それより、その子がこの前言ってた?」

 

「ええ、息子のクロノよ」

 

「そう……ふふ、可愛い。それに、クライドさんに良く似てるね♪」

 

彼女の抱く子供――クロノの頭を撫でながら、エティーナはその子に対する感想を述べる。

それに緑髪の女性はありがとうと小さく微笑み、彼女の招かれて対面の椅子に腰掛ける。

対してもう一人の男性はすでにその隣にジェドと向かい合って腰掛けていた。

 

「なるほど……となるとやはり魔力と術式処理能力の不足がそこで問題となってくるわけか」

 

「そうだな。術式を二つ同時に処理するのは現状でも出来なくはないが、下手をすると暴発の危険性が出てくる。魔力に関してもカートリッジシステムが詰めれば一番手っ取り早いんだが、その分処理の範囲を大きくする故に前者を考えると付けないほうがいい……まあ、問題は他にもあるが、大きくは君の言ったその二点になるな」

 

「ふむ……現状で自律意志の処理能力を上げる事は出来ないのか? もしそれが出来るなら問題はどちらも解決するだろう?」

 

「目下検討中だが……出来る可能性は極めて低いだろうな。処理能力を上げればその分、自律意志を入れる上での容量が大きくなる。そうなれば術式の記憶能力が低下して、記憶できる魔法も少なくなってしまう。これはデバイスを使って魔法を行使する魔導師には致命的だろう?」

 

「確かにな……」

 

片方の若干和やかな会話とは違い、部外者が聞けば全く分からない事の討論を行う二人。

それには会話を一時中断して耳をそちらに傾けた二人も呆れを浮かべながら少し苦笑していた。

そんな四人とは反して、話題以前に来客の二人が誰なのかすら知らないアイラは会話に入れなかった。

故に椅子に座るエティーナの横で立ち尽くしながら黙っていると、そこでようやくエティーナが彼女の様子に気づく。

そして気づいたと同時に再び彼女を膝の上に座らせ、頭に手を置いて緑髪の女性に紹介しようとする。

だが、意外にもそれより早くジェドと話していた男性がアイラに気づき、視線をそちらへと向けた。

 

「ん? その子は……この間の話にあった子か、ジェド?」

 

「ああ、私とエティーナで引き取ることになった子だな。ほら、アイラ、折角だから挨拶くらいしとけ」

 

「あ、う、は、初めまして。あ、アイラ・アルウェッグ…………です」

 

視線が集中しているせいか珍しく緊張し、本来なら反発するジェドの言葉も素直に聞く。

だが、緊張故か言葉は非常にたどたどしく、慣れない丁寧な言葉まで使っていた。

その様子がちょっとおかしかったのか、来客の二人は苦笑を浮かべつつ――――

 

 

 

 

 

「こちらこそ初めまして、アイラちゃん。ジェドの友人をさせてもらっている、ギル・グレアムだ」

 

「同じくエティーナの友達のリンディ・ハラオウンです。それでこの子は息子のクロノ。よろしくね、アイラちゃん」

 

――彼女に続けて自身らの名を、口にした。

 

 


あとがき

 

 

前半はアイラの訓練風景。後半は新たな出会いの部分だな。

【咲】 訓練っていっても、初めての部分からはしなかったわね。

そこからするとちょいと長いからな。悩んだ末に地文で済ますという形になった。

【咲】 ふ〜ん……で、前回分かる部分があるって言ってたけど、それってオリウスとアリウスの事?

うむ、そうだな。リースの入れられていた器、そしてシェリスの扱うデバイスたるこの二つ。

それは元々エティーナが扱っていたデバイスであったという事だ。

【咲】 でもさ、少し前にリースがデバイスにされる二年前はまだアリウスは未完成だったって言ってなかった?

言ってたね。だけどそれはデバイス自体ではなく、改装する上で未完成だったという意味だよ。

【咲】 ふ〜ん……まあ、以前のシェリスが見てた夢であの子、アリウスを持ってたしね。

ふむ。ちなみに、何でアリウスを改装するのかっていうのは現状ででも十分に分かる事だな。

【咲】 まあねぇ。で、後半はリンディとグレアムとの出会いだけど……若干見えない人がいるわね。

ロッテとアリア、それとこの時期はまだ生きてるクライドだな。まあ、一応過去編で出るには出るけど、まだ出てこない。

つうかさ、リンディとグレアムの休日が合うだけでも珍しいのに、全員の休日が同じになったら管理局大丈夫かよって話になるじゃん?

【咲】 確かにね。てことはさ、その三人が出るときはリンディとグレアムでは出ないわけ?

さあ? ロッテとアリアの場合はグレアム付属かもしれんし、反対にクライドの場合はリンディとクロノ付属かもしれん。

【咲】 どうなるかは後々にならないと分からないってわけね。

そういう事。てなわけで、次回はリンディとグレアムを加えた五人によるお話。

過去編だから一話に於いて時間の流れが激しいため、もしかしたらこれ以外の何かがあるかもしれんが。

【咲】 まあ、一応の予定はこの五人でのお話になるわけね?

うむ。というわけで、今回はこの辺にて!!

【咲】 また次回会いましょうね♪

では〜ノシ




結構、昔に会っていたんだな。
美姫 「みたいね。それにしても、これからどうなるのかしら」
うーん、グレアムやリンディが居て、本編ではあんな感じなんだから何かあったんだろうけれど。
美姫 「大まかな部分は本編で語られているけれど、細かい部分はこれからよね」
多分な。ああ、次回が気になる。
美姫 「次回も待ってますね〜」
ではでは。



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