物心ついたときから、私の家族はたくさんいたのだと言ってもいい。

お父さんや姉代わりのアイラ、双子の妹のシェリスや他の研究員の人たち。

皆優しい人たちで、私の毎日はドタバタ気味だったけどそれでも楽しかったんだと思う。

だけど一つだけ私が得られなかったものがあった。それは――――

 

 

――母親の存在というもの。

 

 

もちろん、物心ついたときからいるその場所には母親代わりと思える人も一杯いた。

でも、歳を重ねて本当の母親が自分にはいない事を認識したら、少しだけ寂しくもなった。

そんなとき、シェリスがアイラに尋ねているのを偶然聞いてしまった。

 

 

――パパもお姉ちゃんもいるのに、なんでママはいないの?

 

 

あの子にとっては寂しさからのものじゃなく、たぶん純粋に疑問に思っただけなんだと思う。

その証拠にあの子がアイラにそう尋ねたときの視線には、そんな感情が一切なかったから。

だけどシェリスと違って母のいない寂しさを持ってた私は、答えが気になって気づかれないように自然と聞き耳と立ててた。

そして聞いてしまった。私やシェリスにお母さんがいない理由を……

 

 

――お前たちのお母さんは、管理局に殺されたんだよ。

 

 

シェリスはその当時、時空管理局って存在を知らなかったから首を傾げてた。

でも私は知っていた。お父さんの部屋に遊びに行ってたとき、お父さんから聞いたのだから。

だからお父さんと聞いた話とアイラの言った事実が噛み合わなくて、ちょっとだけ悩んだのを今も覚えてる。

だけどまた歳を重ねるに連れて私はその悩みも、感じていた寂しさも次第に忘れていっていた。

お父さんの役に立ちたくてデバイス作りの真似事をしたり、アイラの訓練でいつも泣いてしまうシェリスを慰めたり。

そんな中でもお姉ちゃん、お姉ちゃんと懐いてくるシェリスの面倒を見るのが忙しくて、寂しさなんて忘れていった。

 

 

 

 

――だけど、今にして思えば

 

 

 

 

 

――あの頃の私はまだ、幸せの中にいたんだろうなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはB.N

 

【第二章】第十二話 彼女たちの素性と目的の一端

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルラによって案内された部屋は、彼女と会った位置からさほど離れておらず、故に程なくして辿り着いた。

だけど彼女はすぐに扉を開ける事はせず、扉を前に深呼吸したり手を伸ばしては引っ込めたりしている。

リースとしては彼と早く再会したいのは事実だが、様子からして躊躇いはやはり持ってしまうようだ。

そうでなくても今までとは自分とは姿が変わりすぎている。だから、下手に押し入って誰だとか言われたら悲しいのだ。

しかし、ただ躊躇ってばかりでも問題は解決しない。それはちゃんと理解しているからか、リースは意を決して扉に手を伸ばす。

そして扉のパネルに手が触れた事で横にスライドし、開かれた扉の奥へと彼女は入っていった。

 

「……ん?」

 

入った部屋のちょうど中央には、目的としていた人物――恭也の姿があった。

だが、リースの不安など吹き飛ばしてしまかのような異様と言える体勢で彼は出迎えた。

 

「な、何やってるわけ、恭也?」

 

「何って……見ての通り、腕立てだが?」

 

この人は今の状況を理解してるのだろうか、と思えるような返答が返ってくる。

そして事実として、目の前の彼の姿勢とは腕立てをしてますと言わんばかりの姿勢。

それにはもうリースも不安など消え去り、呆れを通り越して何を言っていいのか分からない状態に陥る。

それは強引に引っ張られて部屋に引き込まれたカルラとて同様で、彼女も呆然とした様子で立ち尽くしていた。

だが、数秒の沈黙を置いて我に返ったリースは途端にワナワナと身体を震わせ、彼へと近づく。

そしてどうしたのかと頭に疑問符を浮かべている恭也の傍に歩み寄ると、右手を大きく振り上げ――――

 

 

 

 

 

「ア、アホかーーーーっ!!」

 

――怒声と共に右手を振り下ろし、彼の頭を引っ叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

感動とは程遠い再会を果たしたリースは、とりあえず事情の全てを説明した。

自分がオリウスの中にいたリースであるという事。今の自分は以前とは異なった体になった事。

そしてこの場所が一体どこなのかという事、その全てを僅かな時間を掛けて順々に話した。

だけど話された内容に対して恭也はなぜか驚きもせず、リースをジッと見詰めると口を開いた。

 

「オリウスとは分離して個別の身体を得たと言ったが、そうすると俺はお前をなんと呼べばいい? 以前と同じように、オリウスのほうがいいか?」

 

「……ううん。別々になった今、あの子の名前を取るわけにはいかないから、ちょっと抵抗があるけど私はリースって名乗る事にする」

 

「ふむ……ということは、少なからず自分の事を受け入れたというだな」

 

「そういう事。ここまで滅茶苦茶されてもう意地も張ってらんないしね」

 

そう言って彼女はニコッと笑顔を見せる。それは事実上、初めて見せる自身の笑顔。

元の身体と同じようにと作られた故か、やはりその笑顔はシェリスととてもよく似ている。

だけど彼女の無邪気な笑みとは違い、それは少し大人びた印象が見られる静かな笑み。

それこそが彼女がリースであるという象徴にも見え、恭也も自然と笑みを浮かべる事で返していた。

 

《あ、あの〜……》

 

そんな雰囲気の中、ただ一人置いてけぼりを食らっているカルラはおずおずと声を掛ける。

念話であるためかそれは二人の頭によく響き、それと同時に二人はカルラの存在があったことを思い出した。

そして放置したままだった事を僅かな謝罪をした後、向かい合うようにして共に地面へと腰掛ける。

 

「確か君は、カルラだったか? ありがとう、リースを連れてきてくれて」

 

《あ、いえ、そんな大した事ではないので……》

 

「そうそう。まだ一番大事な用が残ってるもんね〜♪」

 

《あう……》

 

その言葉で先ほどの事を彼女が覚えていたのだと知り、声を掛けずに逃げれば良かったと後悔する。

反してリースの隣に座る恭也はリースの言葉の意味が分からず、何のことだと彼女に尋ねる。

するとリースは喜々とした様子で先ほどの内容を教え、そして再び彼女へと向き直って満面の笑みを向ける。

その笑みに対してカルラはビクビクとしつつ、咄嗟に浮かんだ妥協案となる事を告げた。

 

《て、転送装置とかのパスワードは無理だけど、それ以外の事だったら何でも答える……それじゃあ、駄目?》

 

「私はパスワードのほうが知りたむぐっ!?」

 

「じゃあ、俺からいくつか質問させてもらってもいいか?」

 

これ以上無理を言うと彼女の怯えが増すだけ。そう判断した恭也はリースの口を塞いでそう聞いた。

その彼の意図を読み取ったカルラはホッと息をついて頷き、その途端になぜかリースが暴れ出した。

だが、暴れだした彼女に恭也が自身の意図を念話で伝えると暴れは収まり、同時に念話にて分かったと返ってくる。

それを聞いた恭也は彼女の口から手を離し、顔をカルラへと向け直して質問を口にした。

 

「まず、君の事について教えてもらえないか?」

 

《それは、私の素性に関してという事ですか?》

 

問いに対して返された問いに恭也が頷くと、カルラは少し悩むような仕草を見せる。

だがしばししてから了承とばかりに頷き、自身らの事に関してを話し始めた。

 

《私は『蒼き夜』という名前の組織に属するメンバーの一人です……組織といっても、七人しかいないんですけど》

 

「ふむ……俺たちと戦った二人も、その組織に?」

 

《アルとギーゼの事ですね……はい、この組織に属してますよ》

 

「ま、予想通りの答えだね。で、残りの四人はどんな奴なわけなの?」

 

急かすようにリースがそう尋ねると、カルラは一人ずつ順を追って説明するからを返す。

そして一息だけ間を置き、残る四人の事について語りだした。

 

《まず一人目ですけど、名前はライムント・リドレヴィクツと言います。性別は男で、私たちの中ではアルに一番近い性格をしてますね。ただちょっと、困った一面があったりするんですけど、そこはまあ会えば分かると思いますので置いておきますね。それで二人目はラーレ・バルテルス、性別は女です。ラーレに関しては貴方たちも以前会った事があるはずなんですけど……》

 

「会った事がある? ……ああ、砂漠で突然現れたあの非常にムカつく馬鹿女ね」

 

リースのその言葉に対して、カルラは苦笑で返すしかなかった。

何でも彼女の話によると、ラーレという少女は人を見下す傾向がかなりあるらしいのだ。

例外はカルラを含む『蒼き夜』のメンバーだけ。それ以外は自分より劣った者だと常に認識しているとの事。

だから言動の端々にもそれがはっきりと現れてしまい、相手から反感を買うことが多々ある。

ただ本人は反感を買おうがなんだろうがそれを直す気が一切なく、誰かが止めなければ永遠と罵り続けるような子であるらしい。

 

《まあ、少し言い過ぎる事が多いですけどラーレも悪い人ではないですから、そこの辺りは大目に見てくれると助かります》

 

「あれは大目に見るの限度を明らかに超えてるんだけど?」

 

以前会ったときの事に関して、リースが今でも根に持っているのはそれで分かる。

だがカルラとしてもそれには再び苦笑するだけで、彼女を弁護するという事はもうしなかった。

別に彼女の事をどうでもいいと思っているわけではなく、ただ弁護しても話が平行線になるだけだと思ったから。

だからリースとラーレはソリが合わないという風に解釈する事にして、彼女は話の続きを再開する。

 

《三人目ですけど、名前はヒルデブルク・バリッシュと言います。性別は同じく女で、私たちの中では一番のトラブルメーカーですね。あと根本的にラーレとソリが合わないみたいで、いつも喧嘩する犬猿の仲だったりします》

 

「それは、そのラーレという子の言動にいつも突っかかっているという事か?」

 

《いえ、どちらかと言えば逆です。ヒルデはシェリスと似たような性格で誰にでも全く人見知りをしない明るい人なんですけど、ちょっと度を超えた悪戯をすることがよくありますから、それでいつもラーレを怒らせるんです》

 

その説明を聞くと恭也はともかく、リースは非常に納得できた。

シェリスは悪戯をするという事はないが、行動の端々で人を困らせる事が以前から多々あった。

その性格に加えて悪戯するという部分まで加われば、我慢強い人でもない限りは困るを超えて怒りもするだろう。

まあ要するに先も言った通りトラブルを多々引き起こす人であり、彼女に関しても会う事があれば分かると話を締めた。

 

《それで最後のメンバーに関してなんですけど、この人については私もよくは分からないんです。直接会った事もそんなに多くないですから、アルでさえも逆らえない人で、『マザー』という呼び名で呼ばれているという事ぐらいしか彼女については分かりません》

 

「アドルファでも逆らえないって、なんかそれだけで凄そうな人っぽい」

 

《事実、私たちの司令塔みたいな人らしいから。基本的に困った事があったときは、アルがその人に連絡を取って指示を仰いでるみたい》

 

「ということは、普段は共に行動をしていないという事か?」

 

《そうなります。まあ、この人に関しては私以外の誰か、アルかギーゼ辺りにでも聞くほうがいいと思います》

 

アドルファかギーゼルベルトに聞けと言うが、正直聞いたところで無駄な気がした。

聞いたところでアドルファの場合は適当な事並べ立ててはぐらかされそうだし、ギーゼルベルトはそもそも話そうとすらしなさそう。

要するにどちらに尋ねてもまともに答えるとは思えないというわけだが、今はそれで納得しておくしかなかった。

しかし先ほどの話の中、『マザー』に関する部分ではカルラも一つだけ知っていても言っていない事がある。

それは別段口止めされている事ではないのだが、話したら話したで無用な混乱を招くであろう事実。

故にそれに関しては自己判断で内密にしておく事にし、『マザー』に関してはそれ以外の部分だけを話したというわけである。

彼女が隠し事をしているなど知りもしない二人はそれで納得した後、次の疑問となる部分を彼女へと尋ねた。

 

「じゃあ次は私から質問だけど、アンタたちの目的って一体何なわけ?」

 

《えっと、それは私の目的? それとも私たち全体の?》

 

「個々と全体で目的としている事が違うのか?」

 

《はい。大概は個々の目的が全体の目的に繋がるんですけど、何人かは全体のと全く無関係な目的を持ってたりします》

 

「ふ〜ん……じゃあ、どっちも聞かせてよ。カルラの目的としてる事と、全体で目的としてる事の両方!」

 

そう言いながらなぜかずいっと顔を僅かに近づけてくるリース。

それにカルラは反射的に仰け反りつつ、彼女の質問について言ってもいいものかを考える。

確かに大概の事に関しては答えると言いはしたが、個人はともかく全体の目的に関しては自己で判断し辛い。

故にか少し考えた後、全体のに関しては自分からは話せないと言い、当然それにはリースも滅茶苦茶不満気な声を上げる。

だが、話せないと言った事に関しては頑なに話そうとしないという事を先ので知ってるため、カルラの個人の目的だけでしぶしぶ納得した。

それに対してカルラは若干安著の息をつき、少しだけ間を空けてから自身の目的としている事を語りだした。

 

《皆が何事もなく、平穏な毎日を過ごせていける事……そんな日々を掴み取りたいというのが私の目的です》

 

「「…………」」

 

《あ、あの……おかしい、ですか? 私みたいなのが、こんな目的を持ってるのは》

 

「いや、おかしくはない……むしろ、立派な事だとは思うんだが」

 

「何ていうか、凄く意外だよね……アンタたちの事だから、もっと不穏な目的を持ってると思ってたのに」

 

そう思われてても不思議ではないと認識しているためか、カルラはそれに苦笑で返した。

だけどちょっとだけ嬉しくもあった。この目的を話すことで、二人に馬鹿にされるのではないかと思っていたから。

しかし実際は意外と言われこそしたが、立派な事だと言ってくれた。それが彼女にとっては嬉しかった。

 

「それで、アンタ個人としてはその目的を重視して動いてるってわけなんだね?」

 

《あ、うん……もっとも、一番重要性が高いのは全体としての目的のほうだから、私のこれは願いという面が強いんだけどね》

 

そう言われると無性に全体の目的が聞きたいところである。

だが、先も言ったとおり聞いても無駄だと分かっているため、恭也もリースも聞きはしなかった。

そしてこの答えにてリースのした質問も締められ、二人はしばし考える仕草を見せた後、互いに目で合図しあう。

一体それが何を意味しての事なのかカルラには分からず、不思議そうに小首を傾げる。

そうして彼女がその仕草を不思議に思う中、二人は交わらせた視線を今一度彼女へと戻し、口を開いた。

 

「最後に、君の事で一つ聞きたいんだが……」

 

《あ、はい。なんですか?》

 

「えっとね、さっきから凄く気になってたんだけどさ……」

 

 

 

 

 

「何でアンタ、さっきからずっと念話で話してるの?」

 

 

 

 

 

《っ……》

 

二人がしてきたその質問。それは最もと言えば最もなものであった。

普通ならば面と向かって話をするときは、口で喋るというのが当たり前であると言える。

なのに彼女は先ほどからずっと念話での発言。これをおかしくないと思うほうが無理な話である。

だがこの当然の疑問に対して、カルラは先ほどまでから一転して表情に陰りを見せて僅かに俯く。

そして沈んだ表情で俯いたまま、彼女は彼らの疑問の答えとなる言葉をポツリと呟いた。

 

《私……喋れないから》

 

喋れない……それは取り方によれば、声を出して話すのが恥ずかしいからとも取れる。

だが、おそらくはそうではない。彼女の言う喋れないというのは、様子から見て声が出ないというものだろう。

口で喋ろうとしても声が出ず、喋る事そのものが出来ない。これが普通の人ならば、声の代わりに手話などで話す。

しかし魔導師には基本的に念話という対話の手段がある。だから、口で喋れないから念話で話す事にしているというわけだ。

 

「それって、昔からそうだったの?」

 

《ううん……昔は、ちゃんと喋れた。でも、少し前から急に声が出なくなって……》

 

その説明だと声が出なくなったのには二つの可能性が考えられる。

一つ目は何かしらの病気に掛かったからというもの。そして二つ目は、精神的な事によるもの。

前者ならば医者に掛かれば治る可能性とてあるかもしれない。だが、問題なのは後者だったときの場合だ。

過度の精神的苦痛を味わい、それが元で声を失ったのならば、医者に掛かったとしても治る見込みが薄い。

なぜならそれはあくまで精神的な事であるから。だから治療の施しようもないため、医術ではどうにもならない。

治る可能性があるのだとすれば、その苦痛を味わったときのトラウマを拭い去る事。それが可能性の一番高い方法だろう。

だけどそれも簡単に拭えるものならば初めから声を失ったりはしない。要するに、その方法を取るとしても楽ではないのだ。

結局のところ、どちらの場合かは分からないが、どっちにしても声を失ったという事実は彼女にとってショックだったはず。

しかしここで下手に慰めるというのも憚られる。なぜなら慰めは取る人が取れば、同情しているという風に見られかねない。

同情を誘うために話したなら別だが、今の彼女の様子を見る限りではそうであるとは到底思えなかった。

 

「治る見込みはあるわけなの、それ?」

 

《え……あ、うん。アルは、そう言ってたかな》

 

「そっか。じゃあ、早く治るといいね」

 

だから、慰めの言葉を並べ立てたりなどせず、リースはその一言だけを口にした。

それに同意するように恭也もそうだなと呟き、そしてこの話題はその言葉を最後に打ち切られる。

二人のその対応に対してカルラは驚き、呆然としてしまう。それは、予想していたものと大きく異なっていたから。

一つの組織として様々な活動を行う以上、メンバー以外の他者との関わりは今までにもある程度あった。

けど今まで関わってきた誰もがカルラのこの事実を聞くと過度に慰めるか、もしくは悲しそうな目で見てくる。

彼女はそれが嫌だった。確かに自分でも声が出せないのは辛い事だと思っているのは事実だ。

しかし彼女が欲しかったのは同情などではなく、これを聞いても普通に接し続けてくれる人だった。

だけどそんな人は今までに一人とていなかった。だから仲間の皆以外とは関わりを持つことが彼女は怖くなっていた。

組織としての活動時は平静を装えたけど、それ以外ではいつもビクビクと怯えるような態度を見せていた。

同情されるのが嫌で、だから声の事を聞かれる事にいつも怯えて……今までずっと、そうして過ごしてきた。

 

 

 

――でも目の前の二人は、そんな人たちとは違っていた。

 

 

 

慰めに該当する言葉もたった一言だけ。それだけで同情なんか一切してこない。

話題が打ち切られた今も最初と全く態度が変わらない。それは彼女が求めた、事実を知っても普通に接してくれる人。

求めていた人たちが目の前にいる事、それは本来喜ぶ事。でも、喜ぶという感情よりも驚きが先立ってしまう。

願いこそしても、そんな人がいるわけがないと思っていたから。これを聞けば誰もが少なからず、同情すると思っていたから。

 

「……ルラ……カルラってば!!」

 

《……え? あ、えっと、何かな?》

 

「何かな、じゃないよ。行くよって言ってるのに返事もせずボーっとして……」

 

《ご、ごめん。それで、行くってどこに行くの?》

 

いつの間にか立ち上がってる二人を見ると自分がそれなりな時間、呆然としていたのが分かる。

それ故にその間で話し合っていたのだろう行き先も、確認し直さないと分からない。

聞かれた事にリースは呆れたように溜息を一つつくも、律儀に彼女が呆然としていた間の話の流れを説明した。

 

「とりあえずどんな行動に出るとしても、艦全体の把握くらいしといたほうがいいんじゃないかって話してたんだけど、そもそも私は今いるこの第二区画しか出歩いて事がないからそれ以外は知らないの。だ・か・ら、この中で一番艦の事を知ってそうなカルラに案内を頼もうかって事になったってわけ……オッケー?」

 

《えっと、要するに『スキルブラズニル』の各区画の案内を私にして欲しいって事だよね? うん、それくらいならいいよ》

 

「ん、じゃあ了解も得たところでいざ、しゅっぱ〜つ♪」

 

微妙にテンション高めな言動で言いつつ、リースは扉へと歩いていく。

それに恭也は少しばかり苦笑を浮かべながら、まだ座ったままであったカルラに手を差し出した。

差し出された手にカルラはキョトンとした顔を浮かべ、手の平と彼の顔を何度か交互に視線を向ける。

そして手を差し出されてから僅かして長い袖故に袖越しではあるが、自身の手を彼の手と重ねてゆっくりと立ち上がった。

 

「それじゃあ、行こうか。早く追いかけないとリースに置いていかれてしまうからな」

 

《はい》

 

気づけばすでに扉から出てしまっているリースに恭也はまたも苦笑しつつ言う。

その言葉に返事しつつカルラも同じく苦笑を浮かべ、重ねた手を離して恭也と並び、彼女を追って部屋を後にした。

 

 


あとがき

 

 

恭也と合流して、次回は艦内の探検だな。

【咲】 スキルブラズニルって名前の艦なのよね? そんなに中は広いわけ?

まあ、一応艦というだけあって広いね。アースラ並みか、それ以上くらい。

【咲】 ふ〜ん……で、区画分けしてあるみたいだけど、第何区画まであるの?

第四までだな。ちなみに今いる第二区画は研究&開発、それと居住を主とする区画だ。

【咲】 ブリッジとかリースが行ってた転送装置のある場所とかは第何区画になるの?

ブリッジは艦の先端部、第一区画だな。転送装置とか通信室は第三区画にある。

【咲】 なるほどねぇ……で、次回はそれをほぼ全部回るわけ?

ん〜、次回というか、艦内の案内話は少し長くなるから次回と次々回の前後編になると思う。

【咲】 それが終わったらまたなのはたち側のお話?

たぶんな。

【咲】 そう。ところで、以前の登場時と今回でカルラの様子が違うのってこういうわけだったのね。

まあな。大人しくて気弱っていうのが普段の性格というのもあるが、怯えた様子すらも見せるのはこういうわけだ。

【咲】 声の事を聞かれ、事実を話して同情されるのが嫌だった。だから怖かったのね、それを聞かれる事が。

ふむ。でもまあ、二人とも事実を聞きこそしたが、結果は彼女の想像とは異なってた。

【咲】 特にリースは自分の境遇に同情をされる事の辛さを知ってるからなのかもしれないわね。

だな。というわけでまあ、カルラの二人に対する態度もすぐにではないにしろ、少しは変わってくるかもな。

【咲】 でもさ、結局二人とカルラは敵同士なのに変わりはないんだから、下手に仲良くなると後が辛くなるんじゃない?

どうだろうね……まあ、それは今後を見てみれば分かる事だよ。

【咲】 まあねぇ。で、今回で組織の全体図がはっきりしたわね。

構成メンバーは七人。内一人は名前のみで大半の事は不明な謎の人物。

【咲】 でもさ、その人物って以前の話で少しだけだけど出てたわよね?

ふむ、アドルファと通信で連絡取ってたからな。でも、結局謎が多いのに変わりはない。

【咲】 まあ、確かにね。

まあ、そんなこんなで謎の組織『蒼き夜』の事が僅かに判明したお話でした。

【咲】 次回は上でも話したとおり、艦内の案内話よね?

うむ、その過程でいろいろと騒動があったりするかもしれんが、それは次回のお楽しみに!!

【咲】 じゃ、今回はこの辺でね♪

また次回会いましょう!!

【咲】 ばいば〜い♪




無事に恭也たちも再会できた所で。
美姫 「脱出〜、とはいかないのよね」
まあな。そう簡単に脱出できるのなら、捕まったりもしないだろうし。
ともあれ、自分の居る場所の正確な地図を把握するのは大事だからな。
美姫 「カルラとも少しだけ仲良くなったみたいだけれど、これからどうなるかしら」
とりあえず、すぐに戦うなんて事にはならないだろうし、次回の案内を楽しみにしよう。
美姫 「そうね。次回も待ってますね〜」
待ってます。



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