「アースラのときも思ったが、艦というのはずいぶん大きいものなんだな」
《アースラ、というのがどの程度かは詳しく知りませんけど、大きいと言えば確かにそうですね。特のこの『スキルブラズニル』は一般の艦に必要な設備に加えて、研究や開発などを行うための十分なスペースを設けていますから、その分だけ普通よりは大きいんだと思います》
カルラの説明に納得と頷きつつ、恭也は物珍しげに周りを観察しながら歩く。
現在、彼ら三人の歩くここは区画分けされた内の一つ。デバイス等の研究や開発、人の居住などを主とした第二区画。
進み続ける通路の至る所に部屋が見受けられ、その部屋がどんな部屋なのかを表す名が扉に表記されている。
しかし人の居住も兼ねている割には人の姿が余り見受けられない。が、それも仕方ないと言えばそうである。
基本的にここにいる研究員は作業をする事に集中するためあまり出歩かない。故に人の気配はあっても、それは全て部屋の中。
故に通路も当然彼ら以外の人の姿はほとんどないため、非常に静かで少しばかり寂しささえ感じさせる。
「あ、そういえばさ、私はこんなになってるわけだけど……オリウスって、どうなったのかな?」
《たぶん博士の部屋にあるんじゃないかな? リースとオリウスを分離させた後、使えなくなった『二重術式処理機能』の代わりに別の機能を追加するみたいだってアルが言ってたから》
「ふ〜ん……その話って、いつ頃聞いたの?」
《えっと、三日前くらいだったと思う》
「そっか。じゃあアイツの事だからとっくに作業も終わってるだろうし、ちょっと行ってかっぱらってこよう♪」
非常に良い笑みで言ってはいるが、内容は結構大胆なものである。
それにカルラはどう言っていいのか分からず恭也のほうを見るが、彼も首を横に振るだけ。
言い出すと聞かないというのが彼女の性格とこの短い間で察した上で、諦めろと言っているのだろう。
故にカルラもどうとも言えないような笑みを浮かべ、たぶん大丈夫かなと自分を強引に納得させる事にした。
そんなわけで三人の最初の行き先はジェドの研究室となり、テンションの高いリースを先頭として三人はその場所を目指すのだった。
魔法少女リリカルなのはB.N
【第二章】第十三話 波乱に満ちる艦内ツアー 前編
ジェドの研究室というのは要するに目覚めたリースが最初にいた場所。
位置的には三人のいる第二区画のちょうど中心ぐらいにあり、先ほどの部屋からそう離れていない。
故にか部屋から出てそんなに時間も経たずして三人は辿り着き、内の一人であるリースが扉に耳を当てる。
「ん、誰もいないみたいだね……よし、じゃあ早速――」
《や、やっぱり止めといたほうがいいよ……博士の部屋に無断で入るなんて》
内部から音がしない事から無人と悟り、扉を開けようとする彼女の腕を引いて止めるカルラ。
さっきはそれがいい事なのか悪い事なのか分からず、駄目だという事が出来なかった。
だが実際に部屋を前にすると怒られるのではないかという考えが先立ち、今更ながらに止めに入ったのだ。
しかし、今言ったとおり結局のところそれは今更な事。完全にその気になっている彼女はその程度では止まらない。
故に引かれていないほうの手で扉を開け、未だ腕を引くカルラを引きずって部屋へと入っていく。
「すぐ見つけてくるから、恭也は外で待っててね〜」
恭也が続けて入ろうとした矢先、すでに部屋に入ったリースはそういって扉を閉じる。
別段入ってはいけないという事はないのだが、探し物を見つけて戻るだけだから彼まで来る必要はないと考えたのだろう。
そこをその言葉から読み取った恭也はむぅを声を漏らしつつも、追って入る事もなくその場で待つ事にした。
『ん〜、どっこにあるかな〜……ここかな? それともここかな?』
内部から漏れてくるリースの声と共に、ガタンやらドゴンやらと凄まじい音が外まで聞こえる。
おそらくはオリウスを探すために部屋の中を引っ掻き回しているのだろうが、正直いいのかと恭也でも思う。
そしてそれを思うと同時に一緒に引きずられていったカルラが必死に止めようとしている光景も目に浮かぶ。
必死に止めようとして、でも止まってくれなくて仕舞いには涙目になる様子。はっきり言って気の毒としか思えない。
『あ、あったあった♪ と、ついでだからこれと、これも貰ってっちゃえ♪』
声から察するに目的の物は見つけたが、予定外の物まで持ち出そうとしているらしい。
これはもう良心とかそんなもの以前に人としてどうなのだろうかと思わなくもない事であった。
だがまあ、一応父親の部屋から娘が持ち出すのだからいいか、と無理矢理納得する事で考えないようにする。
そんなこんなで待つ事およそ十分弱、再び開いた扉からリースが蒼色の宝玉と何やら大きな風呂敷包みを持って出てきた。
ちなみに続けて出てきたカルラはやはりというか涙目。さっきとは別の意味で同情したくなる光景であった。
「……一体何なんだ、それは?」
「ふえ? 何って……見ての通り、オリウスだけど?」
「いや、そっちではなく背中の風呂敷包みの事なんだが……」
「ああ、これ? これは〜……まあ、後で部屋に戻ったときにでも話すよ。今は案内の途中だしね」
言いつつよいしょと風呂敷包みを背負い直すリース。その際、ガチャガチャと中身が音を立てる。
音からしてもほんとに何が入ってるんだと気になるが、彼女がそう言うのであれば頷くしかなかった。
とりあえず渡しておくと言われて差し出されたオリウスを受け取った後、三人は艦内巡りを再開する。
歩くたびにガチャガチャと煩い音が立つが、まあそこは気にせず三人は第二区画から第三区画へと赴いた。
なぜ反対の第一区画ではなく第三区画を選んだ理由は簡単で、第一区画にはブリッジぐらいしか目ぼしいものがないらしいからだ。
故にブリッジなんて別に見なくてもいいよねというカルラの言葉に頷き、真逆の第三区画へと来たわけだ。
「この区画から先は私もあんまり行ったことないなぁ……」
「ふむ……この区画には一体何があるんだ、カルラ?」
《誰もがよく使う場所だと、給仕室でしょうか。この艦には食堂がないので、簡易な食事を作ったりお茶を沸かしたりするのに使われますね》
「ふ〜ん……で、他には?」
《後は動力室に下りるための階段とか通信室とか、私たちでもあんまり行かない場所ばっかりかな。通信は基本的にブリッジでも出来るし、動力室なんて下手な問題でも起きなかったら近寄りもしないしね》
第三区画の説明をされながら歩き続け、見えてきたのは最初に説明された給仕室。
遠くからでもそうだったが、近くまで来て見てもそこまで広いものではなく、人が三人程度入ればいいほうな部屋。
置かれている物もお茶用のヤカンやらポットやらと、どこかの会社の給仕室とでも言えるような場所であった。
そんな場所だからこそ別段見る物も特に無く、給仕室を通り過ぎてしばし直進していくと第四区画へと差し掛かる。
《この区画はトレーニングルームや談話室などがあります。といっても、私たちがトレーニングルームと使うくらいでここも頻繁に人が来るところではないです。談話室も給仕室から少し離れてるせいか、お茶を飲みながらというのがしにくくて利用者もほとんどいませんし》
「談話室なのに人の出入りがほとんどないっていうのは正直どうなのよ」
《あ、あははは……で、でも全く使ってないわけでもなくて、たまに私たちの内の誰かがいる場合も》
「限られた人しか使わないんじゃ、結局意味ないじゃん。ていうか、談話室と給仕室を離して作ってる辺りが馬鹿だよね」
リースの駄目出しが非常に痛いところ。それ故か、カルラも乾いた笑いしか浮かべられなかった。
二人は知らない事だが、この艦をジェドに提供したのはアドルファ一同。よって設計も開発も、したのは彼女たちの組織。
要するにこういった部分を馬鹿だという事は、彼女たちを馬鹿だと言っているに他ならない。
だけど確かにカルラ自身もこれはないだろうと思いもしているため、駄目出しに対して反論は出来なかった。
《あ、あとこの区画には一応娯楽室もあるかな。でも結局ここも利用者が少ないから、ほぼ私たちの溜まり場みたいな感じになってるんだけど》
「給仕室は近くに作らないで、何で娯楽室と談話室を一緒の区画に作ってんのよ。というかさ、娯楽室があるなら談話室なんて作らなくてもいいじゃん……マジでこの艦の設計者は馬鹿だね」
《あうぅ……》
ここまで言われるとアドルファならば開き直るだろうが、カルラの場合はそれも出来ない。
故に馬鹿馬鹿と言われて呻き(念話でだが)を漏らしつつ落ち込み、それに言った本人も恭也も首を傾げる。
それに気づいてかカルラは何でもないと慌てて返し、話を転換すべくその提案を告げた。
《せ、折角近くまで来たんだから、娯楽室に寄ってみるのはどうかな? この時間帯だから、誰かいるだろうし》
「……参考までに、誰かとは?」
《えっと、ヒルデは長期外出中ですからそれ以外……時間的にはアルかラーレ辺りがいるんじゃないかと思います》
「うわぁ、どっちも嫌だなぁ……」
《駄目、かな……?》
なぜかオドオドとした様子で控え気味に聞いてくるカルラ。その様子は小動物という単語がとても良く合う。
そんな視線を向けられるとリースはともかく、恭也としては無碍に出来ずに首を縦に振るしかなかった。
その途端にカルラの表情には笑みが戻るが、反対にリースは不満気。相当その二人と会うのが嫌なのだろう。
だが勝手にとはいえ了承してしまった以上は撤回も出来ず、適当な理由を付けて彼女を納得させる事にした。
曰く、アドルファはともかくラーレという少女とは会った事はあってもまともに話をした事がないから、いたら話をしてみるのもいい。
その際にカルラが話さなかった何か、彼女の自身の目的やらその他の情報が引き出せる可能性もあるのだから。
急拵えな理由だが筋はある程度通っているためか、念話にてそれを聞いたリースは未だ不満気だったが頷きはした。
そんなわけで結果的にカルラの提案を了承した二人は、彼女の案内に従ってその部屋を目指し、再び歩き出した。
同じ第四区画にある娯楽室は当然距離的にも近いため、歩き出して間もなく到着した。
部屋の前から見ただけでは他の部屋と特に変わりなく、ただ扉に『娯楽室』と書いてあるだけの部屋。
そんな部屋の前からでも感じる内部からの人の気配。数にしてそれは、カルラが言っていたのと同じ数。
それが彼女の言っていた通り、アドルファとラーレという少女の二人ならば、本当に運が悪い事この上ないだろう。
だが部屋前まで来たらさすがに引けないため、意を決して恭也とリースは扉を潜って中へと入ろうとする。
しかし扉に手を掛ける寸でカルラが二人に静止を掛け、ちょっと中の様子を見てくるからと言って先に扉を開けて入っていった。
一体何の様子を見るというのか気になりはしたが、待っていてと言われたのを無視して入るのも憚られる。
故に彼女が入っていってから了解が出るまで待つことにした……のはいいのだが――――
――彼女が入ってから聞こえ出したガタンバタンという騒々しい音は、どうしても気になってしまう。
ただ様子を見てくるだけでなぜそんな音が外まで響くのか。様子を見に行った過程で一体何が起こったのか。
気配は分かっても内部の状況までは恭也にも分からず、無断で入る事は出来ないためか二人とも首を傾げるしかなかった。
そうして待つことおよそ五分程度。内部から響く音が収まったかと思えば扉が開き、カルラが顔だけでして視線で入ってと促す。
それに従って早速扉を潜った後、二人の目に広がったのは今までの部屋とは一風変わった若干派手な部屋。
明るかった廊下とは異なって少し薄暗く、様々な色のライトが天井で部屋を照らす。そして周りには様々な置物が多数ある。
その中で一番多いのが、ぬいぐるみ。娯楽室なのに乙女チックな部屋という感じを窺わせるような、ぬいぐるみの群れ。
誰の趣味なのか気になりもしたがとりあえず気にしない事にし、部屋の右側に置かれるソファーへと視線を移した。
「娯楽室へようこそですわ、蒼天のお二人方」
「あ、あははは、いらっしゃいっス……」
残念な事に予想は当たり、目が合って声を掛けてきたのはアドルファとそれより若い小柄な少女。
少女のほうはウエーブの掛かった茶色の長髪、フリルの付いた丈の長い黒色のスカートと上着。
そのどれもが以前見たのと一致する事から、ラーレ・バルテルスという少女が彼女だという事はすぐに分かった。
そしてその横には見慣れたというほど会ったわけでもないが気分的にはそうも思える人物、アドルファの姿がある。
だが彼女は以前会ったときとは少し様子が異なり、ソワソワした様子で薄っすらと乾いた笑みを浮かべていた。
だけどそれ以上に目立つのは、なぜその位置から見ても分かるほど彼女の纏う衣服が乱れているかである。
一体この部屋で先ほどまで何が行われていたのか、正直本当に気になるところであった。
「そ、それじゃ博士にも呼ばれてる事ですし、ウチはこれで……」
「そう……でも後日、ちゃんと約束は守っていただきますわよ? もししらばっくれでもしたら、こ〜んなものを艦内にばら撒きますからそのつもりで」
こっそりとした足取りで去っていくアドルファに何か写真のような紙を数枚チラつかせながら告げるラーレ。
それに彼女はガックリと項垂れ、ドンヨリとした空気を纏いながら恭也とリースの間を抜けて部屋を去っていった。
アドルファが部屋から出たのを見届けるとラーレは数枚の紙を懐に戻し、後ろのソファーのゆっくりと腰掛ける。
ちなみにその隣には先ほどからずっといたのであろうカルラがちょこんと膝に手を置くような姿勢では座っていた。
「貴方たちもそんなところにいつまでも立ってないで、こちらに来て座ったらどうかしら?」
初めて会った以前とは違って偉く普通な物言い。それには二人も僅かに呆気に取られる。
だが、確かにずっと入り口前で立っているのもあれなため、少し遅れて彼女の言葉に頷くと近寄っていく。
そして彼女が指差した対面のソファーまで歩み寄り、ラーレとカルラの二人と向かい合う形で並んで腰掛けた。
二人が腰掛けたのと同時に二人が来る以前から用意してあったティーカップを手に取り、彼女は静かに口をつける。
「ふぅ……カルラから、大体の話は聞きましたわ。案内とはいえ第二区画から第四区画までは距離もあるでしょうに、ご苦労な事ですわね」
「そのご苦労な事した私たちにはお茶の一つも出ないわけ?」
「私が招いたわけではないのだから、用意するしないは私の自由ですわ。まあ、どうしても欲しいというなら入れて差し上げてもよくてよ?」
訂正……普通な物言いに見えたのは最初だけで、彼女の言動は以前とほぼ同じだ。
妙に上から視線の発言。相手を見下してますという気がバリバリに感じられるような言動。
そんな感じの言い方でそう問われてもリースが欲しいなどと言うわけはなく、反発するようにいらないと不機嫌に告げる。
それに続けて彼女が今度は恭也へと視線を向けると、彼も遠慮しておくという意思を示すように首を横に振るった。
「自分からお茶がどうのとか言っておきながら、いるのかと聞けば返答はいらない……ほんと、勝手ですこと」
「アンタの言い方に問題があるんでしょうが……」
「物の言い方なんて人それぞれですわ。そこをいちいち気にして反発する辺り、まだまだ子供な証拠ですわね」
口を開けば挑発するような言い方ばかりする彼女。それにはいい加減、リースも我慢しきれない様子だった。
下手したら怒りが爆発して何をするか分からない。それ故、とりあえず恭也はリースを宥めに入った。
反対にラーレのほうもカルラが何とか落ち着かせ、今にも漂いそうだった不穏な空気はどうにか黙散した。
「ところで……貴方たちがここに立ち寄ったのがこの子の提案によるものだとは聞きましたけど、実際のところ貴方たち二人からすれば私たちの溜まり場になってるここは本来立ち寄りたくない場所のはずですわよね? なのに、なぜそんな場所に立ち寄るという提案を受け入れたのかしら?」
「そんなの、アンタたちに聞きたい事があったからに決まってるじゃん。じゃなきゃこんな場所、頼まれても来ないよ」
「……ああ、要するにカルラからでは引き出せない『蒼き夜』に関する情報を私たちから引き出そうとしているわけですのね」
「正直に言えば、そういう事になるな……」
ここに来た正確な理由を言えば、カルラのお願いに恭也が押し切られたからというのが正しい。
だが、リースが口にしたのも建前ではあるが理由の一つ。故に恭也はラーレの返しにそう言って頷いた。
本当なら情報を引き出すにしても本題は口にせず、話の中で相手に悟られないように情報を引き出すのが一番良いだろう。
しかしラーレがすでにその部分に気づいてしまったわけだし、誤魔化そうにも誤魔化しが効く相手とは思えない。
故に正直に言うしかなかったのだが、それはそれで少しでも情報を引き出せる可能性を消してしまったという方が強い。
だから恭也としてもどうしたものかと困り気味になるのだが、彼が危惧した事とは全く別の反応を彼女が返してきた。
「いいですわ……貴方たちが知りたいとお思いになっている私たち『蒼き夜』に関する情報、教えて差し上げましょう」
ラーレのその返答には恭也やリースだけでなく、彼女の隣に座るカルラでも驚きを示した。
身内の者から見ても彼女は高飛車で意地の悪い性格。故に知りたいと相手が思う事には大概答えない場合が多い。
それが重要な事であってもそうでなかったとしても。だが、そんな性格の彼女が事もあろうに了承を口にした。
これを驚くなというほうが無理な話である。しかし、そこで彼女の言葉は終わりではなかったのか、ただ……と言葉を続ける。
「これで私に勝てたら、の話ですけども……」
そう言って二人に見せるように前に掲げたのは、一束のトランプ。
要するにラーレとトランプでゲームをして、勝った場合のみ彼らが知りたいと言う情報を教えるという事らしい。
タダで教えてもらえると思ってしまった二人はそこで少し落胆するが、それでもトランプならば勝機はある。
それ故にラーレの提案に頷いて了承を返し、トランプで何のゲームをするのかと彼女に尋ねた。
「ゲームの内容は、ポーカーですわ。当然、ご存知ですわよね?」
「まあ、触り程度なら……」
「私も一応知ってるかな」
「ん、ではゲームのルールに関しては説明を省いて……それ以外の事について説明しますわ」
頷きつつそう告げ、話し始めたルール以外の概要の説明は以下の通り。
この場にいる恭也とリース、ラーレとカルラ、その四人二組によってポーカーを行う事とする。
四人で勝負を行い、一番強い役を作った者のチームが勝利。それを合計十回行い、より多く勝利したチームが勝ちとする。
カードチェンジの回数は時計回りで各自二回ずつ。その間ですでに役が出来た場合は止め、出来ない場合はそのまま勝負となる。
尚、仮に一回での勝負で勝敗が決しない場合はドローとし、合計での勝利数が同率の場合は勝敗が決するまで行う。
合計点で勝利したチームが恭也&リースだった場合は『蒼き夜』の情報に関して、どんな質問にも答えるというのが景品。
反対にラーレ&カルラが勝利した場合、恭也とリースに対して各自一回ずつ好きな事が命令できる権利を得る事が出来る。
以上がこれから行われるポーカーの概要と景品について。それにいいかしらと視線でラーレが尋ねると二人は頷いて了承を返した。
ただ一人だけ……カルラは勝手に進められていく内容に困惑を浮かべ、いざ始めるといった段階でラーレに文句を告げる。
《な、何で私まで参加する事になってるの? 私、出来ればこういう賭け事みたいなのはしたくないんだけど……》
「しょうがないですわよ。あちら側には二人いるのに、こちら側には私のみというのは不公平なんですから」
《だ、だったら他の人を呼んでくれば……》
「無理ですわね。一番率先して参加しそうなヒルデとライは外出中ですし、ギーゼはトレーニングルームで鍛錬中。アルに至ってはさっき貴方たちが来るまでに完膚なきまでに叩きのめしてしまいましたから言っても参加しないですわね、絶対」
《だから落ち込んでたんだ、アル……》
ゲームに負けただけで落ち込むような玉ではない。だが、これが罰ゲーム有りとなると話は別。
特にラーレが決める罰ゲームは過酷な物ばかり。それで以前も、アドルファだけでなくカルラも被害を受けた事がある。
故にアドルファがゲンナリとしていた理由に納得出来るからこそ、尚の事彼女は参加を遠慮したかった。
もしゲームを始めて負けでもしたら景品とかそんなの関係なく、どんなお仕置きを受けるか分かったものではない。
だからゲーム参加を出来れば断りたかったのだが――――
「つべこべ言わず参加しなさいな。でないとそこにある貴方のぬいぐるみの群れを全部、消し炭に変えますわよ?」
――そんな脅しを言われ、彼女は首を縦に振らざるを得なかった。
誰に対しても容赦ないラーレは、可愛がられている部類のカルラ相手でも当然変わらない。
唯一ラーレの唯我独尊気味な態度に対抗できるとしたら、面子の中ではアドルファかヒルデくらいだろう。
だけどその内片方はすでに撃墜され、もう片方は外出中。要するに、彼女を助ける人材は一人としていない状況。
しかも部屋にある実はカルラの物であった大量のぬいぐるみを人質に取られ、泣く泣く頷くしか選択はなかった。
「ではカルラも了承したところで、早速ゲームを始めますわよ」
正確には了承したではなく了承させたなのだが、そこは彼女にとって全く関係ない様子だった。
そしてカルラが先ほどのアドルファと同じような空気を纏いつつある中、ラーレは各自五枚ずつカードを配る。
配り終えると残りの束をテーブルの中央に置き、各自は手元に置かれたカードを同時に取って目を通した。
(ふふ、中々良いカードが来ましたわね。これなら、まず負ける事はありませんわ)
(うっわ、初っ端からバラバラ……これじゃあどんな役を作るにしても難しいなぁ)
(現時点ではワンペア、か。無難なところでツーペアかスリーカードを狙うか……)
(…………?)
各自カードを見ながら様々な思考を巡らせつつ、ゲーム開始の合図が告げられる。
チェンジの順番は時計回り故、順序的にはラーレ→リース→恭也→カルラという具合に回る。
「一枚、チェンジですわ」
初めはラーレ……彼女は自身の手札から一枚を場に捨て、山札から一枚を補充する。
だが狙ったカードが来なかったのか小さく舌打ちをする。彼女がそんな様子の中、次であるリースが手札から四枚を場に捨てた。
「四枚チェンジ……」
捨てたときにそう告げ、山札から四枚のカードを取って手札へと加える。
そしてチェンジしたカードを見て彼女が思考するのを見つつ、恭也は手札から三枚手に取る。
「三枚、チェンジだ……」
手に取った三枚を前の二人が捨てた場所に重ねるように捨て、山札から三枚を取る。
順番的にその次としてはカルラ……のはずなのだが恭也が変えた後、彼女はキョトンとした様子。
手札を見て何かを考えているわけでもなく、ただ手札と山札を交互に見ながら呆然としていた。
そんな様子が一分程度続いたとき、隣のラーレが見かねたのかさっさと変えるか何かしなさいなと口にする。
するとカルラはオロオロと慌てた様子で手札から三枚ほど掴み、捨て札置き場へとカードを捨てた。
《え、えっと……三枚引きます、ね》
前の三人とは言う事が少し異なるが、意味合い的にはおかしな事ではないので誰も何も言わない。
そうして一週目が終わり、各自チェンジした手札を見ながら思考しつつ、二週目へと移っていった。
それからすぐにして全員が二週目のチェンジを終え、各自は様々な表情を浮かべていた。
ニヤける者、頭を抱える者、なぜか疑問符を浮かべる者……そんな様子で手札を見ながら向かい合う。
「では一斉に……と言いたい所ですけど、折角ですから引いた順序で公開していく事にしましょう」
「何でよ? 一気に見せ合ったほうが手っ取り早くていいじゃん」
「分かってませんわねぇ……一斉に見せ合ったらそこで終わりですけど、順に見せ合ったら一人一人公開していく間でドキドキ感があるでしょう? そういった部分を楽しむ事もまた、こういったゲームの醍醐味なのですわ」
彼女自身がそうであっても、実際はそのドキドキ感を煩わしい思う者もいるにはいるだろう。
つまり彼女の言い分はあくまで彼女からしての物言い。ここからしても彼女の性格がよく窺える。
しかしまあ、ここで反論したって正論風に屁理屈小理屈を言われるだけ。故にリースもそれを学んでか、何も言わず頷いた。
そして残りの二人、恭也とカルラも分かったと頷いたところで、順番的に最初となるラーレが自身の手札を公開した。
「私は……フルハウスですわ♪」
スリーカードとワンペアの組み合わせ、それがフルハウスという役柄。
強さの順位は中間よりも若干上くらいだが、それなりに作りやすく安定した強さを持つ。
そんな役柄を出されれば、自ずと勝てる役柄を結構限られるため、リースは小さく舌打ちをした。
「私は、ツーペア……うぅ、負けちゃった」
ラーレに負けた事でかなり嘆いているが、実際は大したものだとも言える。
最初がバラバラだと何の役を作るにしても困難が極まり、下手をすればブタで終わったりもザラ。
故にツーペアに持ってこれただけマシなほうだが、彼女自身からしたら負けたというのが悔しいのだろう。
だがしかし、順番的に次となる恭也が提示した役柄にて、リースの表情は一転した。
「ふむ……俺は、フォーカードだな」
「「……え?」」
フルハウスを出された時点で勝てる役は三つという本当に限られた数になる。
ロイヤルストレートフラッシュ、ストレートフラッシュ、フォーカード。ワイルドポーカーではないため、勝てるのはこれだけ。
だとすれば勝つ役を作るのはかなり難しいのだが、それを恭也は見事に作り出した。
フルハウスよりも一段階上に位置するフォーカード。だがたった一段階とはいえ、勝っている事に変わりはない。
そのためリースは一転して嬉しそうにガッツポーズを決め、反対にラーレは苦虫を噛み潰したような表情となる。
「ま、まだ勝負は決まってませんわ! 覚悟なさい……次は、こちら側の期待の星の番なんですから!!」
要するにカルラの事を言いたいのだろうが、突っ込みとしてはいつから彼女は期待の星になったのかという事。
だが実際、そこを突っ込む者は誰一人としておらず、本人が困惑するだけの中で期待の星は手札を公開した。
――その瞬間、何とも微妙な空気が室内に充満する事となった。
公開されたカードの数字は右から5、7、4、9、6という揃ってもいなければストレートでもない数字。
スーツにしてもハートやらスペードやらとバラバラ。これは要するにブタを意味しているのだが……
《えっと、これって……何て名前の役、なのかな?》
本人は提示したカードと三人の顔を交互に見ながら、そんなすっ呆けた事を言い出す始末。
しかし、聞いてきた彼女の目は至って真面目な様子。これにはもう笑っていいのか呆れていいのか分からない。
つまるところ、彼女はポーカーというゲームを知らなかったのだ。ルールに関しても、役柄に関しても。
順番で回っているからルールは前の人を見ればある程度分かるが、役柄に関してはどうしようもない。
だが、どうしようもあろうがなかろうがラーレには関係ない。それ故、カードを見た途端にプルプルと震えだし――――
「貴方は……一体何をやってるんですのよ!?」
――怒りのままにカルラの両頬に手を当て、ギュッと抓りだした。
《痛い!! 痛い痛い!!》
「これが何の役って、何の役にもなるわけないでしょう!! 馬鹿じゃありませんの、貴方は!? というかそもそも、ルールが分からないなら何で初めにそう言わないんですのよぉぉぉ!!」
《そ、そんなのラーレが勝手に進めて始めちゃうのが――あ、あうううぅぅう!!》
「言い訳するんじゃありませんわよ、このバカルラ!!」
傍目から見ればじゃれ合いに見えない事もないが、両者とも本気で怒って本気で痛がっている。
しかもラーレは怒り狂ってるから収まりはしないし、カルラも下手に反論しようとして更なる仕打ちを受ける始末。
そうして結果としてこの状況はしばらく続く事となり、二戦目が始まるまで若干の時間が空く事となるのだった。
あとがき
案内ツアー前編は最初こそ普通に回ってたが、最後では妙な状況になりました。
【咲】 ポーカー勝負ねぇ……でもさ、恭也側が勝ったら事態は急展開じゃないかしら?
まあ、確かに大きな進展にはなるだろうね。ただ、そうなったら『蒼き夜』の面子も全力で彼らの脱走を阻止するだろうけど。
【咲】 まあ、条件はあくまで話すことまでであって、脱走を阻止してはいけないというのはないしね。
そういう事。だが、反対に『蒼き夜』側が勝っても事態はちょっと不味い方面に進むかもしれんわな。
【咲】 カルラはともかく、ラーレは何を要求してくるかわかったものじゃないものねぇ。
うむ。彼女の要求がいつも酷なものだということはアドルファの様子で大いに分かる事だしな。
【咲】 ていうかさ、アドルファってラーレにどんな罰ゲームを言い渡されたわけ?
ふむ、それは一応後で出てくるが、まあ簡単に言えば『女としての人生捨てろ』的な罰ゲームだな。
【咲】 どんな罰ゲームよ、それ……。
まあ、それは後をお楽しみにという事で。
【咲】 はいはい……にしても、カルラって以外に天然だったりするのかしら?
どうだろうね。実際状況に流されるタイプの子だから天然とは少し違うかもしれんし、もしかしたらそうかもしれん。
【咲】 まあどっちにしても、不幸性な子であるのは確かよね。真面目な事に関しても、こういった事に関しても。
まあな。でも実際、彼女が集団の中で可愛がられてるのは事実だよ。
【咲】 それってさ、ラーレも含んでんの?
含んでるね。今回とかはそういった部分が見えないけど、彼女なりの優しさはちゃんとカルラに注いでる。
【咲】 ふ〜ん……ただのわがままで高飛車で唯我独尊な女ってわけじゃないのね。
さすがにそんなのが面子にいたら、煙たがられるって。彼女には彼女なりの良さというのがあるのですよ。
【咲】 ま、良さとか何とかって言っても、結局彼女らは敵なわけだけどねぇ。
それを言ってしまったらおしまいだって……。
【咲】 まあねぇ……で、話を変えて次回はどんなお話になるわけ?
ふむ、次回は今回の話の続き……要するに後編だな。
ポーカー勝負での決着、そしてその後の話の流れでトレーニングルームへと向かう事になる。
そこで遭遇したのはギーゼルベルト……鍛錬をしていた彼と出くわし、彼は恭也とリースにある提案を持ちかける。
その提案とは如何に……というのが次回の話の概要だな。
【咲】 ふ〜ん……ところでさ、今回や次回予告を見てもライムントとヒルデの出番がないけど、実際出ないわけ?
ヒルデは前回の一章以降、長期遠征中だからそもそも出れない。ライに関しては〜……あれはなのは側で出てくるよ。
【咲】 なのは側? ……ああ、そういえばライムントって、あっちではアルヴィンって名前で二人と会ってるのよね。
そうそう。つまりは彼らはもう一度会うことになるという事だが、それは組織の目的としてか、それとも独断か。
【咲】 独断ならまたアドルファに怒られるわね。
ま、それはもうちょい先になったら分かる話だな。では、今回はこの辺で……と、その前に!!
【咲】 何よ?
いや、今回出たポーカーの用語で一つだけ補足説明をしておこうかと思ってね。
気になる人とかもいるかもしれないしさ。
【咲】 そう……なら、さっさと言っちゃいなさいな。
うい。今回の地文で出ていた『ワイルドポーカー』という用語、これについての簡単な説明をば。
『ワイルドポーカー』とは『ワイルドカード』と呼ばれるカードを山札に加えて行うポーカーの事だ。
で、この『ワイルドカード』というのは分かりやすく言えばジョーカーだな。
それ以外で『ワイルドカード』としてあるとすれば、2の札とか10、J、Q、K、Aとかもそう呼ぶ場合がある。
まあその辺のもっと詳しい事は各自で調べてもらうとして、ここでは『ワイルドカード』はジョーカーとしている。
そして『ワイルドポーカー』ではない今回のポーカーでは当然ファイブカード(ファイブ・オブ・ア・カインド)が作れない。
要するに簡単な解釈として、『ワイルドポーカー』はファイブカード抜きのポーカーと思ってくれればいい。
ちなみにだが、『ワイルドポーカー』の場合はロイヤルフラッシュがストレートフラッシュ扱いになる場合もあったりする。
以上が今回出た『ワイルドポーカー』に関する補足……まあ、要するに豆知識みたいなもんだな。
【咲】 実際調べてみる人がいえ、この説明は違うだろうとか思う人がいたら?
それはまあ、各々の解釈の違いだなぁ。俺はこう思って解釈した事でも、他の人では違う場合はある。
【咲】 まあ要するに、この説明は事実を含めたアンタなりの解釈ってわけね。
そういう事。そんなわけで浩さん、美姫さん、そしてこれを見てくれている方々!
【咲】 ポーカーに関する豆知識……役に立つかどうかは微妙ですけど、受け取ってください♪
とと、では説明も終わったところで今回はこの辺にて!!
【咲】 また次回も見てくださいね♪
ではでは〜ノシ
ポーカー、それは古い歴史を持つゲームでポーカー伯爵が考え出したと言われる。
美姫 「って、ナチュラルに嘘を言うな!」
ぶべらっ!
美姫 「今のは絶対に信じちゃ駄目ですよ〜」
う、うぅぅ、酷いな。ポーカーに対する豆知識のお礼に、嘘知識をちょっと披露しただけで。
美姫 「お礼に嘘という時点で間違っているからね!」
と、冗談はこれぐらいにして、今回は艦の案内だったな。
美姫 「その辺りは無難だったんだけれどね」
いや、最初にリースがこそ泥まがいな事をしているんですが?
美姫 「さてさて、ポーカー勝負はどうなるかな」
うわ〜い、無視された!
と、それは兎も角、カルラのちょっと不幸っぽいのも含めてちょっと可愛いと思ってしまったよ、今回。
美姫 「確かに良いキャラよね、カルラ」
うんうん。恭也とリースがどうなるのかも気になるけれど、彼女もどうなるのかちょっと気になるな。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待ってます。