『蒼き夜』の面々とジェド、恭也とリース以外には知られていない動力室の最深部に位置する隠された部屋。
そこには『蒼き夜』が所有しているロストロギア……彼らの言葉で言うなら、『古代遺産』と呼ばれる物が納められている。
個体名を『レメゲトン』と呼ばれるそれは彼らにとっては無くてはならない物とされており、大事であるために隠されているのだ。
けれど、その場に隠しておけるのも言ってしまえば今日まで。それ故、彼女――アドルファはそれを回収するためにそこに赴いていた。
ただ、一言回収と言っても簡単な事ではない。なぜなら『レメゲトン』は現在、この艦――『ブラズスキルニル』のメイン動力となっているから。
具体的な原理は彼女にも他の面々にも分からないが、何でも『レメゲトン』はエネルギーと名の付くものならどんな種類のでも生み出すのだ。
しかしこの部分はあくまでオマケに過ぎないと彼らの主は言っていた。これの真価は、古の都への回廊を開く事なのだと。
『古の都』が何を示す言葉なのか……それは彼らもよく知っている。それと同時に『古の都』がどれほど危険な存在なのかという事も理解している。
――だけどそれでも、彼らはそれを求めなければならなかった。
主にこの方法を持ち掛けられた時点で彼らには拒否という選択肢など存在しなかった。
他人のため、仲間のため、愛する者のため、自分のため……理由はバラバラではあったが、答えは一致している。
それ故に彼ら全員、迷う事無く手を伸ばした。それが悪魔との契約するようなものだとしても、行き着く先が地獄であったとしても。
自分たちが変わる事無く、自分たちのままで在り続けられるように。誰かが口にしたその言葉を胸に、前へ進むしかないのだ。
「…………」
しかし、なぜだろうか……計画を練り、実行し始めてから今まで後悔などしなかった彼女は今、迷いを感じていた。
迷いの根源となるのは小さな少女たち。自分とは肉体的にも年齢的にも大きく離れ過ぎている、小さな小さな女の子たち。
純粋な心を持ち、大切な物を守ろうとする意思を持つ子たち。だけど自分たちとは違い、その純粋さは歪みの一つも生じてはいない。
彼女にとってはそれがあまりにも眩し過ぎた。過去、自分にもあんな純粋な瞳をしていたときがあったのだろうかと思わせるくらい。
「本当に……どうしてあそこまで、似てるんだか」
作業を行いながらポツリと呟いた言葉と共に脳裏に浮かぶのは、十数年前から忘れる事など一度となかった彼女の姿。
その彼女は自分たちの策に嵌り、結果として自分たちの手で殺してしまった。そして今、またも同じような性質の少女たちが自分を迷わせる。
もっと別の方法があったのではないか。大部分の他人を切り捨てるのではなく、手を取り合って結果を目指す方法もあるのではないか。
きっとカルラの心境の変化も彼女たちと一人の青年が齎した。自分だけではなく、他の面々にまで少なからず影響を与えている。
計画を推し進めなければという思いは当然ある。でも、あの人たちなら手を取ってもいいのかもと考えてもしまう。
「……いや、もう遅いっスね。その選択を選ぶには、ウチらはあまりに犠牲を出しすぎた」
今までに出した犠牲の数々を頭に浮かべ、迷いを振り払おうとする。他の選択を選ぶにはもうすでに遅いのだと。
それでも簡単に拭えるほど抱いている迷いは小さなものじゃない。故に残ってしまう迷いは、なるべく考えないようにする。
そうでもしなければ計画を続行する事が出来なくなるから。自分の決意をたったそれだけの迷いが折ってしまうかもしれないから。
だから振り払えなくても考えなければいい。そうすれば計画の最後を迎えるまで、きっと自身の決意は保ってくれる。
――少なくとも今は、そうやって迷いを拭っておくしかないのだ。
魔法少女リリカルなのはB.N
【第二章】第三十八話 久方ぶりの邂逅、脱出までの制限時間
合流場所となる分かれた通路が一つとなるポイントに赴くや否や、なのはは先ほどの事について説明を求めた。
彼女の言う先ほどの事というのはつまり光に包まれた次の瞬間に消えたシェリスと、変貌したフェイトの姿に関しての事。
先ほどは戦闘中だったから詳しくは聞けなかった。だが、一段落ついた今なら、多少なりと事情は聞けるだろう。
それ故に口にした言葉に対してフェイトは小さく頷き、もう一組が合流するまでの時間で出来る限りの説明を彼女にした。
それはあの光の中で自分がシェリスにされた物と全く同じ。今のシェリスは融合型デバイスで、フェイトの変貌はユニゾンによるものだというだけ。
具体的にシェリスがそうなるに至った理由や、フェイトを選んだ理由は彼女も話されていないし、シェリスも今話す事じゃないと理解してるから話さない。
そのため本当に簡単な説明だけ。しかし、なのははそれだけでも十分なのか納得とばかりに頷き、気になっても現状で深くは聞かなかった。
「シェリスちゃんがデバイスにされちゃったのって、私たちが間に合わなかったせいなのかな……」
「そうかも、しれない。少なくとも私たちはシェリスがこうなるかもって知ってたから……」
《にゃ?》
深くは聞かずとも責任感というものは出てくる。もう少し行動を起こすのが早かったら、シェリスは人のままだったのではないかと。
結局はもしもの話でしかない。けれど阻止する事が出来た事象を阻止できなかったとなるとそう思わざるを得ないのだ。
反対に話題の本人は気にしてるどころか、話の意味が分かってない様子。おそらくは、自身がそうなったのを苦と思ってないのだろう。
深く考えすぎる姉のリースとは逆で深くを考えず行動する。こういう場合それは良い所とも悪い所とも判断できるから可笑しなものだ。
ともあれ、当の本人が気にしてないのに誰のせいだとここで議論しても仕方ない。それ故、二人とも後悔は一旦仕舞っておく事にした。
「それにしても、思ったより時間が掛かったから皆いると思ったんだけど……あっちも何かあったのかな?」
「分からないけど、可能性はあるかも。シェリスはその辺り、何か知ってる?」
《ううん、知らない。シェリス、ついさっきまで部屋で寝てたもん》
「そっか……」
過剰に期待していたわけでもないからか、シェリスの返答に対しては落胆の色もなかった。
だが、落胆しないからと言ってもう片方の通路を進んだ組が自分たちより遅い理由が分からない事に変わりはない。
時間もない手前、心配と同時に焦りも出てくる。そのためか、あちら側に行ってみようかという話すら挙がってしまう始末。
しかしそれが実際に実行されるより早く、自分たちの来た通路とは反対の通路のほうから足音が聞こえ、数秒の後にようやく待ち人たちが姿を現した。
「はぁ、はぁ……わ、悪い。予想外の邪魔が入って、遅れちまった」
「い、いえ、こっちも遅れましたからそんなに待ってはないですけど……やっぱりそっちでも何かあったんですね」
「やっぱりっつうと、お前らのほうも? ていうかお前……フェイト、だよな?」
背中の翼は現在消しているから無いが、瞳や髪の色が目に見えて変わっているフェイトに驚きの目を向ける。
対してなのはたちも明らかなに重症だと言わざるを得ない傷を負っているシグナムに同様の表情を浮かべていた。
それ故かまずは状況整理のために互いに起こった事の簡易報告。それによって簡単にではあるが、互いの思う疑問や驚きは解消された。
「なるほどなぁ……でも、危惧していたとはいえ、まさか現実になっちまうとはね。それだけアイツも本気だったって事か……」
「こうなった以上、仕方ないと割り切るしかないのだろうな……ただ、元の肉体に戻す方法があれば話は別なのだが」
「方法が無い、とは言い切れないな。肉体から心を切り離してデバイスに移植する技術の大半はあのロストロギアを用いて行われる事だから、逆もまた出来るかもしれない」
軽い話し合いにより足を止めたのを切っ掛けとして魔法による簡易な治療を受け、シグナムも普通に話す程度には余裕が出た。
そんな彼女から放たれたアイラの言葉に返答は普通に聞けば希望的観測。だが、理論的には可能だと予想外の言葉をアイラは返してくる。
だけどその言葉も結局は現状では無理だと締め括る。その理由はあのロストロギア――『レメゲトン』はまだ完全に解析し切れていないというもの。
『蒼き夜』の人間は下手な物にアレを任せないが、ジェドにだけは違う。リースやシェリスの事もある手前、変な事はしない約束で貸し与えてもいた。
しかし彼はその約束を違え、それが何なのかを数々の手段で調べていた。アイラやリースがここにいたときからだから、彼女もそれを間近で見ている。
その立場の彼女に言わせれば、アレは並の科学者に解析できる代物じゃない。デバイス専門とはいえ並ではないジェドでも、大部分が解析出来なかった。
隠れて行っていた作業故に時間も限られていたのも手伝い、おそらくは解析し切れず終い。だから、実際にそれを行うなら高確率で賭けになる。
大事な人の娘である手前、そんな危険な手段に出るわけにはいかない。その考え方は他の面々にも分かる故、先の言葉には納得とばかりに頷いた。
「もっとも、当の本人はあんまり気にしてないみたいだけどな……」
《にゃ?》
ヴィータの言う事は先ほどなのはとフェイトも思った事。普段の彼女を知れば今の彼女が以前と変わりなく見えるのだろう。
あまり深く関わったわけでもないヴィータやシグナムでさえも思ってしまうくらいだから、それはかなり分かりやすいと言ってもいい。
もっとも先ほども言ったようにその部分はこの際良い部分であるとも言える。下手に取り乱したり、自暴自棄になったりする事がないのだから。
普段姉に言われていた部分がこんなときには役に立つのだから、本当に可笑しな事だと言えるだろう。
「さぁて、時間もないから本格的に二人を探さないと不味いわけだけど……見た限り、そっちにはいなかったんだよな?」
「は、はい。絶対とは言い切れないですけど、少なくともここに来るまででは恭也さんもリースも見当たりませんでした」
「ん〜……そうなると本当、どこにいるんだろうな、あの二人は」
「ここに来るまででいなかったのだから、この先のほうにいるのではないのか?」
「いや、それはねえだろ。この先のほうにあるのは動力室とか訓練室とかだから、脱出を考えてる現状で行くような場所じゃないからな」
結論を言うなら、ここに来るまでで見落としたという事になる。だけどそれが分かったからと言って、闇雲に探すほど時間は無い。
かといってこれだけ混沌とした状況下で魔力探査魔法を行使しても、特定人物を絞り込むほど万能ではないから難しい。
ある程度慣れた人の魔力なら何となく感じ取れるシェリスでも、恭也はおろかリースの魔力でさえ現状では感じ取れないらしい。
探す時間もなければ居場所を特定する事も出来ない。八方塞がりと言わざるを得ない状況……それ故にどうしたものかと皆は悩む。
しかしその悩む時間さえも惜しい状況なため、結局は時間の許す限り闇雲にでも探すしかない、という結論に達せざるを得なかった。
だから一同は再び集合場所を決め、今度は組を更に複数に分けて二人を探すために早速動き出そうとした。
「未だ廊下で屯ってるのは誰かと思って来てみれば……まだ居たんスね、皆さん」
――だけど一瞬早く聞こえた声によって動きは止まり、同時に警戒の念を抱かせる羽目となった。
近づいてきていたのに気づかないほど話に没頭し過ぎていたのか。それとも、相手が悟られぬよう近づいていたのか。
どちらかは分からないが、油断していたのは事実。それ故に第四区画方面から近づいてきていた彼女――アドルファに声を掛けられるまで気付かなかった。
だが、声を掛けられた時点で油断していた事を悔む気持ちこそあれ、それ以上の油断は見せないとばかりに振り向き、警戒態勢を取らせる。
しかし声を掛けてきた当の本人は臨戦態勢どころか警戒すらしておらず、かといっていつもの笑みも浮かべず眼先に立っていた。
「警戒態勢全開のところ申し訳ないっスけど、皆さんを相手にしてるほど今のウチは暇じゃないんスよ。ですんで、黙ってそこを通していただけないっスかね?」
「暇じゃない、か……お前にしては珍しく余裕がないみたいだな、アドルファ」
「みたいじゃなくて、実際余裕がないんスよ。本当ならすんなりいくはずの事がトラブル続き、挙句身内が我を忘れて暴走状態に入る……余裕を持ち続けるほうが無理っスよ」
「身内が暴走状態って……もしかして、カルラの事?」
肩を竦めつつ口にしたアドルファの一言に反応して聞いたフェイトに対し、アドルファはまたも珍しく驚きを露わにする。
続けて視界に入ったフェイトを凝視した後、顎に手を当てて何かを考え込む。だけどそれもすぐに止め、今度は顎に当てていた手を耳に当てる。
そしてそれから数十秒の静寂の後に耳から手を退けると視線を彼女らへ戻し、若干の余裕を持てたのかいつもの笑みを浮かべた。
「ちょっと確認したいっスけど……フェイトさんはカルラと会ったんスよね?」
「え……あ、うん。会ったと言えばそうだけど……」
「なら、フェイトさんと会った後、カルラがどこに行ったのか……そこも分かってたりしないっスかね?」
そこに関しては返答に若干困る。というのも、シェリスは分かるだろうがフェイトは分からないからだ。
パンドラで飛ばしたのは彼女、飛ばす座標を指定したのも彼女。だから、この問いに対する答えは彼女に聞かないと分からない。
しかし分かるというのは事実であるため、若干間を置きつつも肯定を示すように小さく頷いた。
それを見た彼女は途端に浮かべていた笑みを深め、警戒態勢を崩さない彼女たちへと近づき始めながら口を開く。
「だったら……ウチと取引しないっスか、フェイトさん?」
「取引……?」
「ええ、取引っス。といってもそんなに難しいものじゃない……言ってしまえば、互いに必要とする情報の交換をし合うだけの事っスよ」
「……つまり、貴方が何か情報を与える代わりに、私からカルラの居場所を話せって事?」
「理解が早くて助かるっス。もっとも、拒否権は無いに等しいっスけどね……なんていったってウチが提示する情報は――――」
「恭也さんとリースちゃんがいる場所、なんスから♪」
その言葉が放たれた瞬間、フェイトは表情が強張るのを感じた。それほど提示された情報は意味のあるものなのだ。
それは彼女だけに限らず、他の面々も同じな様子。拒否権が無いに等しいとはよく言ったものである。
だが、疑り深いというわけではないが安易に信用も出来ない。例え彼女は嘘を言わない人なのだと頭にあっても。
彼女らにとって恭也もリースも必要。だからこそ攫ったのだろうから、可能性としてこちらから情報だけを貰うだけというのも考えざるを得ない。
だからまずそれを承諾する前に彼女の真意を問う必要がある。そしてその上で、信用できるかできないかを判断しなければならない。
それ故に彼女は必要となる問い掛けを口にしようとするも、それより早く別の方面からその問い掛けは為された。
「またずいぶんと簡単に手放すような真似をするものだな……必要だから、二人を攫ったのではないのか?」
「手元に置いておきたかったのは事実っスけど、状況が変わった今となってはそうも言ってられないんスよ。今はあのお二人よりも、カルラを確保するほうが先決っスからね」
「先決、ねぇ……それほどソイツの存在が重要っていう事かよ」
「重要ではなく、大切っスよ。貴方達だってあるでしょう? 仲間意識っていうものが」
そう聞き返されると言葉に詰まってしまう。仲間を大切だと思う気持ちは、確かに彼女らにもあるから。
しかも表面上だけでそう返しているわけじゃないのが彼女からは窺える。それほど今の彼女は、先ほどまでと違う穏やかな笑みを浮かべていた。
だからカルラを大切だと思うから手段を問えないという彼女の考えも納得でき、同時に本当にそう思っているのだと信じさせられてしまう。
それは守護騎士だけじゃなく、なのはやフェイトたちも同じ事を思わされ、少なくとも先ほどよりは信用という二文字を抱かせた。
だけどそれでも完全ではなく、若干の迷いが残るため安易に頷けない。それを見兼ねたのか、アドルファは困ったように頬を掻きながらそれを口にした。
「ウチを信用出来ないと言うなら、まずはウチから情報を話しましょう。それなら少なくともウチは情報の貰い逃げを出来ない……それならどうっスか、フェイトさん?」
「……逆の可能性は考えないの? 私たちが情報を貰うだけ貰って、逃げるとか……」
「あはは、確かにその可能性も否定は出来ないっスね。でも、さっきも言ったとおり下手に迷うほどウチにも余裕は無いんスよ。それにフェイトさんはそういう事をしないって信じられるっスから、こういう譲歩も出来ちゃうんスよ♪」
自分とは違って真っ向から信用できると口にされ、彼女が敵であると分かっていても若干の照れが浮かぶ。
だけどそれは首を横に振ってすぐに消し、その条件故に今度こそ信用できるようになったのか、やっと彼女は頷いた。
それにアドルファは笑みで返し、条件を守るように早速自身の持ちうる情報を彼女たち全員に聞こえるよう口にした。
口にされたその情報によれば恭也とリースは現在、第二区画にあるジェドの研究部屋とされている場所辺りにいるとの事。
これは彼らの動向を把握していた上でブリッジにいる仲間の裏付けも取ったかなり信憑性の高い情報……それ故、信用も出来る。
普通の人ならこれを嘘だと思う事もするかもしれないが、アドルファの人となりをある程度知るフェイトからすれば嘘ではないと判断出来る。
そのためこの情報を信じた上でフェイトはシェリスからカルラをどの座標に飛ばしたのかを聞き、それを彼女へと隠す事なく話した。
「その座標だと、第四区画の談話室付近っスねぇ……なるほど、了解っス。にしても、パンドラは短距離しか転移が出来ないはずなんスけど……いやはや、さすがはシェリスちゃんと言うべきっスかね」
「っ! ……やっぱり、知ってたんだ。シェリスがデバイスになった事も、私とユニゾンしてるって事も」
「知ってたというか、知ってて当然なんスよね、ウチの場合。シェリスちゃんのデバイス化はウチも手伝ったっスから。もっとも、本当にフェイトさんを選んだっていうのは驚きだったんスけど」
「本当に……?」
まるで可能性として考えていた風な言い方だったため問い返してみたが、それ以上は何も語らなかった。
そして本当に急いでいるからか踵を返し、フェイトが口にした座標の場所――第四区画の談話室付近へと向かおうとする。
しかしそれを今まで沈黙していたなのはが待ってと静止を掛け、それに反応して背を向けたまま顔だけを向けた彼女になのはは口を開いた。
「今のカルラちゃんは、本当に我を忘れてるだけなんですか……?」
「……というと?」
「えっと、どう言っていいのか分からないんですけど……さっきのカルラちゃんって、前に見たカルラちゃんと同じには思えなくて。だから、その……」
何かを伝えようとするも言葉にし辛いのか口籠ってしまう。だけど、アドルファには彼女が言わんするが理解出来た。
今の彼女は我を忘れて暴走してるのではなく、もっと別の何かによって本人の意思関係なく突き動かされているではないかと言いたいのだろう。
要するに分かりやすく言えば誰かに操られているのではないかという事。そう言いたいのだと分かるからこそ、彼女も言葉を選ぶ。
確かになのはの考えはある程度的を得ている。本人の意思関係なく突き動かされているというのは、事実と言えばそうなのだから。
だけど詳しい事情を話すのもどうかと考える。それは同情を買う行為であり、何より当の本人が一番嫌う事だと知っているから。
それ故に未だ伝えようと口籠っているなのはを背にしばし言葉を考え、僅かの後に背を向けたままではあるが頭に浮かんだ言葉を口にした。
「本人の意思を無視するわけにもいかないので詳しくは話せないっスけど、言ってしまえば一種の病気みたいなもんっスよ」
「病気……?」
「ええ、病気っス。普段は何とか抑えてるんスけど、今回はいろいろとあって発症しちゃったみたいっス。だから、早く見つけ出して助けてあげないといけないんスよ」
「そ、そうなんですか……」
病気と言われて納得できるものではないが、詳しくは話せないというのだから追及するわけにもいかない。
それにここで追求する時間が彼女にも自分たちにもない。それ故にそれで納得する事にし、それを見た彼女は再び歩み始めた。
そしてそれと合わせてなのはたちも急ぐ気持ちからか背を向けて来た道を戻り始め、間も無くして互いの背中は見えない距離まで離れて行った。
結論から言ってしまえば、二人――恭也とリースが研究室に赴いたときにはすでにシェリスの姿はなかった。
よくよく考えてみれば、それは必然だったのかもしれない。あのシェリスが一ヶ所に留まるなどあり得ない事なのだ。
その辺りもリースは認めないのだが、姉妹よく似ている部分。だからカルラがそこにいると言っても、いない可能性のほうが高かった。
そして案の定、彼女はいなくなっていた。部屋の妙な散らかり様、開け放たれた大きな試験管……その二点から、実際に居たのは確か。
だが、結局のところ何時ここから出てどこに行ったのかまでは分からず、時間もない現在では判断に困る所である。
「それにしても、カルラから言われた時はまさかとも思ったが……本当にデバイス化を実行してたとは、な」
「まあ、確かにいきなり過ぎるっちゃそうだよね。こうなるって事、予測してたのかな?」
「断定は出来ないが……もしかしたら、そうなのかもしれないな」
リースが以前話してた事を前提で言うなら、シェリスのデバイス化実行は少なくとも後一か月近く先だとの事だった。
というのも姉のリースとは違い、シェリスはデバイス化するのに必要なリンク率というのものがかなり上がり難い性質だったから。
上がり難い具体的な理由までは分からないのだが、そうなると一定の値になるまでは安全を考えて長く時間を取る必要があった。
だから現在どこまでリンク率があるのかは定かではなかったが、上がり難さを見ていた限りではそのくらい先だろうというのが彼女の予想。
しかしその予想は裏切られ、こんなに早く実行された。もしこれが時期を早めたものだとしたら、リースの言った事が正しい可能性は高い。
ともあれ、それが事実か事実でないかは調べようもない。それよりも現状で問題となるのは先も言った通り、シェリスの所在だ。
目覚めたのがいつかは分からないが、今の状況で外に出た可能性は無い。となれば、彼女がいるのは艦内のどこかと限定される。
だけど範囲がそれで限定されても広いという事実に変わりはなく、闇雲に探すという手段も安易には取れないのが現状だと言う他なかった。
「特定人物を捜索する魔法、というのはあったりしないのか?」
「ん〜……魔力とか熱源とかで探す魔法っていうのはあるけど、そういった捜索条件を絞るっていうのは無いかな」
「ふむ……カルラはアレ以降連絡が付かないようだし、そうなるとやはり自分の足で探すしかないか」
「やっぱりそれしかないかなぁ……下手したら私たちもこの艦と一緒にドカーンだけど」
魔法は万能じゃないと改めて実感しつつも変わらぬ結論に溜息をつくしかない二人。
とはいえ何もしないまま時間だけを経過させるわけにもいかず、すぐに二人してシェリスの行きそうな場所を考え始める。
といっても実際はそう多いわけじゃなく、本当に絞り込もうとしたら二、三ヶ所というぐらいにまで限定できる。
しかしその程度の数まで絞り込めるから余計に悩む。絞り込んだ場所は全て、同じくらいの確率で彼女が行きそうな場所だから。
更にはこれらは全て互いに結構離れている場所故、全てを虱潰しに探すというのも選択としては取れなかった。
そうなると更に絞り込む必要があるため、より二人は悩むのだが、ふと思い浮かんだかのように口にされた恭也の言葉が意外にも光明を見出す事となった。
「彼女の事だから、意外とリースと合流するために俺たちが寝泊まりしていた部屋に行ってたりするかもしれないな……」
「あ〜、それは確かにありそうだね。姉の私が言うのもアレだけど、あの子って甘えん坊でかなりのシスコンだから」
「となると今挙げた場所よりも確率は高いか……これ以上場所は絞り込めそうにないのだし、そこに賭けてみるか?」
反対する理由はないのか、リースはそれに頷く。そして彼女が同意した直後に行動を開始し、二人は部屋を後にしてそこを目指した。
同じ居住区にある場所故に距離的にはそこまで離れてはいない。だから、時間もそこまで掛からないからそこで見付かれば最良。
しかし、もしも当てが外れて見つからなかったとなれば最悪の状況に逆戻り……それ故、若干の不安もないとは言えない。
だけど不安だ不安だと言っても仕方ないのは確かであるためか、二人ともなるべくそっち方面は考えないようにしつつもその場所へと駆けて行った。
あとがき
ちょっと短めだけど、今回は二組がようやく合流のため動き出すというお話だ。
【咲】 今回これって事は、次回では合流まで持っていくわけ?
合流までというか、次回で二章最終決戦は終わりだよ。
【咲】 ふ〜ん……最終決戦という割には、大したバトルもなかったわね。
そういうわけでもないと思うが……まあ、決着が付かなかったという点ではそうかもな。
【咲】 決着どころか、ジェドや『蒼き夜』にまで逃げられて正直管理局側の敗北じゃないの?
いや、『蒼き夜』側もリースや恭也はともかく、シェリスまで手放したわけだから言ってしまえば痛み分けだな。
【咲】 でもさ、現状で三人を失う事はあちらにとって大した損失じゃないみたいな言い方してるじゃない。
まあ、実際そうだからな。痛み分けではあるが、ここで三人を損失するのは大した問題じゃないんだよ。
だけどカルラが入れ込んだ時点でリースと恭也は予想してたけれど、シェリスまで予想してなかったのは事実だ。
【咲】 つまり、予想外の損失まで出てしまったから、大した問題じゃなくても痛み分けではあるって事ね?
そゆこと。
【咲】 なるほどねぇ。それにしても、なのはたちの存在って意外にもアドルファの悩みの種なのね。
最初は計画に使える存在かもって思っただけなんだけどね……あの人――エティーナと同じ性質だとどうしても揺らいじゃうんだよ。
【咲】 依存というか、彼女もエティーナに影響された一人ってわけね。
そういう事だな……まあ、今後も彼女は同じ事で悩み続けると思うよ。
【咲】 そしてそれが今後の話に大きな影響を与えていく、と?
それはまあ、今後の展開を見てれば分かるよ。
【咲】 はいはい。ところでさ、次回か次々回かは知らないけど、二章はもう終わるのよね?
そうだけど?
【咲】 じゃあさ、一章がA‘sで二章がその後って事は、三章はStSになるわけ?
それは前に言ったような気もしないでもないけど……三賞はまだStS編にはならんよ。
【咲】 ならどうなるわけよ?
ふむ、三章は一言で言ってしまえば、二章の時間軸からStSの時間軸までの間の話だな。
基本は今まであまり出来なかったコメディやほのぼの話。そして時折真面目なお話を織り込んでいく。
つまりは、今までとは真逆な感じになるってわけだ。
【咲】 ふ〜ん。ということはさ、今まで出番が全くなかったキャラも出るわけ? とらハのキャラとか。
まあ、ある程度は出るだろうな。全キャラ出る事はまずないだろうけど。
【咲】 ま、一応クロスオーバーである以上、ある程度は出さないと良くないわよね。
出さなきゃクロスさせた意味ないしな。もっとも、そういったキャラのほとんどは三章限定になるだろうけどね。
【咲】 それもどうなのよ……。
まあまあ。そんなわけで二章も終りが間近になってきましたが、どうか最後までお付き合いくださいませ。
【咲】 というわけで今回はこの辺でね♪
また次回会いましょう!!
【咲】 ばいば〜い♪
アドルファとの思わぬ遭遇だったけれど。
美姫 「現状が幸いしたというべきかしらね」
恭也たちの居場所を聞けたしな。
とは言え、こんな事がなくても恭也たちが逃げるのは見逃すような感じだったけれど。
美姫 「何を考えているのか読み取るのが難しいわね」
だな。さてさて、これから先はどうなるのかな〜。
美姫 「気になる次回は……」
何と、何と、この後すぐ!