魔法少女リリカルなのはB.N
【第三章】プロローグ
話し合いが終わったその日にはリースとシェリスの件もあり、さすがに帰る事は出来なかった。
なのはたちは特に関係もないので先に帰す事も出来たのだが、残る事を本人らが決めたのでその日は全員滞在。
そしてその次の日の昼になってようやく二人の件に関する処理が終わったらしく帰宅許可が下りた。
ただはやてや守護騎士たちは共に本局まで行かなければならないのでアースラに残らなければならず、帰宅は残りの面々のみ。
こちらに関しても先に帰ってしまう事の引け目を感じてはいたが、さすがに本局まで共に行く事は出来ないので断念。
それ故にはやてたちに一旦の別れを告げ、リースとシェリスを含めたなのはたちのみで海鳴へと帰ったのがその日の午後二時頃。
そこからフェイトたちと別れてなのはたちは高町家へ……というわけにもいかず、全員揃って高町家へと向かった。
なぜフェイトたちも一緒でなければならないのかといえば、簡単に言ってしまえば管理局として今回の一件に関しての説明をしなければならないからだ。
さすがに恭也が戻ってきたのだからいいだろう、と都合良くもいかない。被害にあった者の家族には、ちゃんとある程度の事は説明しないといけない。
それにシェリスはハラオウン家で生活する事になっているが、リースは恭也を主としている以上は高町家に居座る事になる。
シェリスがかなり嫌がったが彼女に関してはすでに説得済み。だけど高町家に関しては恭也やなのはだけの判断ではどうにもならない。
だから恭也に関しての事半分、リースに関しての事半分で話に行くため、嘱託とはいえ管理局員であるフェイトが代表で説明をしに行くのだ。
もちろん本当ならリンディ辺りが説明しに行くのが妥当なのだが、リンディもクロノも今はアイラやはやてたちの件でそれなりに忙しい。
だからこそ管理局の代表としてフェイトが指名されたのだ。もっとも、本人は自身が代表で行く事に抵抗を示し、決定になった後もかなりの緊張を抱いていたのだが。
――そんなこんなで現在、赴いた高町家の居間にて、高町家在住の方々と皆は正面から向き合っていた。
桃子を中心として左右に美由希、レン、晶と座り、その対面には恭也となのはを中心として残りの面々が座っている。
今でこそ少しばかりの静けさを取り戻しているが、高町家の門を潜って恭也の姿を捉えた彼女らの取り乱しようは凄いものがあった。
泣く者、喜ぶ者、怒る者、様子は様々であったが、総じて言えるのは誰もが恭也が無事な姿で帰ってきたというのが嬉しいのだ。
だが、さすがにそのままというわけにもいかず、何よりそのままでは話の進みようが無い。それ故、恭也がどうにかして落ち着かせた。
そして現在にように居間にて集まって面と向い、基本的にフェイトを主として恭也やなのは、アルフなどがフォローを入れながら話すべき事を話した。
といっても事件に関しては詳しくは語れないためある程度暈して、リースの件についてはその派生でお願いをする形だったのでそこまで時間は掛からなかった。
そうして話し終えた後はしばしの静寂が訪れるという現状に至るというわけである。
「まずは恭也の事について、母親としてお礼を言わせていただきます。息子を助けていただいて、ありがとうございます」
なのはの友達であるフェイトではなく、管理局の代表として赴いたフェイトにそう、丁寧な感謝を述べる。
それはいつもの明るい桃子の印象とはかなり異なるため、正直フェイトとしては戸惑いを隠す事は出来なかった。
だけど代表としているのだから戸惑うばかりで言い訳も無く、どうにか自分を落ち着かせて一人の管理局員として言葉を返した。
するとそれに桃子はもう一度だけ丁寧にお礼を言った後、雰囲気を一転させてリースのほうを向き、いつもの調子で口を開いた。
「リースちゃんの事については、私は反対する気はないわ。ううん、むしろ良い子そうだからウチとしては大歓迎よ♪」
皆もいいわよね、と尋ねるように残りの面々へ視線を巡らせれば、異論はないのか全員一様に頷いて返す。
元々家長である桃子がいいと判断した時点で決定に近いし、何より反対するどころか全員桃子と同じで歓迎しているようだった。
むしろ戸惑いを感じてしまうのはリースのほう。直接話したわけではないが、高町家の面々については性格もある程度把握してるつもりだった。
だが、人一人住まわせる事をここまで簡単に決めてしまうほど軽いとは知らず、思わず彼女自身が反論を返してしまう。
「え、えっと……こういった事ってもう少し、慎重に決めないといけない事じゃないのかな? 厄介になる事を頼んでる側の私が言う事じゃないけど、人を一人養うのっていろんな面で大変な事だし……」
「え〜、駄目なの? 桃子さんとしてはこのままウチの子にしてもいいくらいなんだけど」
「いや、そう言ってくれるのは凄く有難いし嬉しいんだけど……でもほら、やっぱり私って実質初対面の子なわけだしさ」
「初対面でも恭也となのはが信用してるなら、桃子さんも全然信用しちゃうわよ? それとも、こんな人がお母さんになるのは嫌?」
「い、嫌じゃないけど……うぅ」
理論で話すだけ馬鹿に思えてきてしまうのが桃子という女性。それ故に若干理論派のリースは困惑ばかり。
何を言ってもこの家に住まわせる事決定……いや、むしろこのままいけばリースは高町家の養女という事になりかねない。
それが嫌というわけじゃなく、どちらかと言えば嬉しい。母親がいなかった自分に初めて、母親が出来るかもしれないのだから。
だけどやっぱりどこか抵抗してしまう。シェリスの姉としている事が多かったから、自然と甘える事を理性で抑えるようになってしまったから。
甘えたい、でも甘えられない。そんな欲求と理性の狭間で揺れ、終いには隣に座る恭也に助けを求めるような視線を向けてしまう。
しかし、彼はその視線に対して微笑で返してくるだけ。助け舟は出してくれない……そして他に視線を巡らせても、全員反応は恭也と同じ。
だから困惑の念は募り、自然と俯いてしまう。だが、そうして大した間もなく、俯いた彼女を誰かが正面から優しく包み込んだ。
「本当に嫌なら、正直に言ってくれてもいいわ。だけどこれだけは分かって欲しいの……軽く聞こえたかもしれないけど、貴方を引き取ろうとした気持ちは本物だって。そこに話を聞いた上での同情が全くないわけじゃないけど……でも、リースちゃんを見てるとそれよりも愛情のほうが上回るの。甘えたくても甘えられなったんだろう貴方を、人並みに甘えさせてあげたいって」
姉という立場が甘え下手にさせている。それを先ほどまでの軽い調子の会話の中でしっかりと見抜いていたのだろう。
だから今まで甘えられなかった分、目一杯甘えさせてあげたい。母親がいなかった彼女に、母親が与えたであろう愛情を教えてあげたい。
その全ての想いを言葉に込め、抱き締める。それが切っ掛けとなったのだろうか、リースの中で何かが決壊した。
――そして自然と桃子の服を小さな手で掴み、嗚咽を漏らし始める。
自分は姉なのだからしっかりしないといけない。誰かに甘えるなんて、以ての他だ。
そう考える事で戒めてきた甘えたいという気持ちを持つ自分。その戒めもあって、今まで恭也ぐらいにしか甘えるという行為は見せた事が無い。
だけどその戒めは今、脆くも砕かれてしまった。恭也の母というだけでほとんど初対面と近い、一人の女性に手によって。
その瞬間に今まで我慢してきたものが溢れ、自然と流れ始める涙が止まらず、嗚咽を漏らしながら彼女に抱きついてしまう。
妹が見ている、だから我慢しないといけない。そう思っていても戒めの言葉はもう意味を為さず、涙が止まる事はない。
そんな彼女を桃子は変わらず抱き締め、優しく背中を撫でる。そしてその光景を皆は黙って見守っていた。
一人の少女が全ての責から解放され、今まで出来なかった子供としての一面を見せる。それを微笑ましくも、喜ばしいものと思うように。
あの後、リースが高町家に引き取られる事に対して頷いた事で正式に高町家に住む事が決まった。
改めて誰もに歓迎され、賑わいの中に包まれる。だけどもう彼女の顔に戸惑いはなく、自然な少女の笑顔を浮かべていた。
それをある程度まで見届けたフェイトとアルフ、そしてシェリスの三人はお暇する事を告げ、高町家を後にした。
夕ご飯の誘いというのも当然あったが、今日の所はフェイトも丁重に断った。シェリスに自身の家を、案内しないといけないから。
そして三人が高町家を後にしてからしばらくの後、そこまで距離もないためかフェイトたちが住んでいるマンションへと到着する。
そこからマンションのセキュリティとかについて説明しつつも部屋のある階へと上がり、部屋の前に立つと扉を開けてシェリスを中へと招いた。
「にゃ〜……フェイトお姉ちゃんのお家、そんなに広くないね」
「そりゃ、なのはの家とかはやての家とかと比べると狭いだろうねぇ」
リビングまで駆けていって周りを見渡した後、正直な感想を述べてくる彼女にアルフが答える。
元々闇の書事件のための仮指令本部として使っていた部屋をそのまま海鳴でのハラオウン家にしただけの部屋。
だから当然一軒家に比べれば狭い。しかしマンションとして見ればかなり上等であり、広い部類に入る部屋ではある。
しかしシェリスは一軒家もマンションも一括りで見てしまうため、これを狭いと思うのもしょうがないと言えばそうかもしれない。
「うにゅ〜……一杯歩いたから、喉が乾いちゃったの」
「あ、うん。ちょっと待っててね、何か飲み物でも入れてくるから」
辺りを見渡すや否やソファーへと座り、背凭れから顔を覗きこませてフェイトを見ながら飲み物を強請ってくる。
正直かなり図々しいという他ない。例に漏れずそれを感じたアルフは自分で入れろよとか思わなくもなかったが、それも図々しいと気づいて言わなかった。
反対にフェイトはアルフと違って嫌な顔一つせずに冷蔵庫へと向かい、お茶の入ったボトルと出して棚から出した三つのコップに注いだ。
それに加えて何かお茶請けがないかと探した後、結局お菓子系は見つからず、ちょうど目に入った蜜柑をお椀に乗せ、それらを運ぶために今度はお盆を探す。
そこでようやくフェイトにばかりさせるわけにもいかないと思ったのか、アルフが自分が運ぶよと言ったのだが断られ、仕方なくシェリスとは斜め横の場所に腰掛けた。
彼女が腰掛けてから間もなくして三つのお茶の入ったコップと蜜柑が積まれたお椀の乗ったお盆を手にフェイトが近寄り、各自の目の前にコップを置いた。
そして蜜柑を中央に置いてお盆はテーブルの足に立て掛け、自身もアルフの横に腰掛けて僅かな微笑を浮かべてどうぞと飲むよう促す。
図々しいとはいえさすがに礼節はあるのか、指示があるまで待っていたシェリスはその合図に弾かれたようにコップを手に取り、一気に飲み干した。
それからお茶請け代わりの蜜柑へと手を伸ばし、一つだけ手に取る。だが、すぐに食べ始めるでもなく蜜柑を眺めながら頭に疑問符を浮かべる。
「これ、どうやって食べるの?」
「どうやってって、皮を剥いてに決まってるだろ……ていうか、もしかして食べた事無いのかい?」
「うん。シェリスの食べるお菓子は飴とかばっかりだったから、こういうのは見た事もないの」
「そっか。じゃあ、貸して……食べ方を教えてあげるから」
フェイトがそう言って手を差し出すとシェリスはソファーから立ち上がり、アルフの足元辺りまで寄って蜜柑を手渡す。
そしてそこにしゃがみ込み、見上げるようにしてフェイトの蜜柑の食べ方講義を静かに聞き入る。
そこまで注目される事にフェイトは少しばかり気恥ずかしさのようなものを感じるが、表には出さず実際に皮を剥きながら食べ方を教える。
それから教えながらにしても大した間もなく皮を剥き終わり、後は剥いた後のそれから一つずつ取って食べるだけと言って締め括り、手渡そうとする。
だが、そう思って開こうとした口は直後に閉じられる。まるで雛鳥のように小さな口をあ〜んと開け、食べさせてくれるのを待っている彼女の姿を見て。
彼女のそんな姿を見るとそのまま渡すという事も出来ず、僅かに苦笑を浮かべながら蜜柑を一つ摘み上げ、彼女の口へと運んだ。
「あ〜む♪」
「美味しい?」
「うん! ちょっと酸っぱいけど、甘くて凄く美味しいの!」
満面の笑みでそう返されると何となくフェイトとしても嬉しくなる。そして今度こそ後は自分でと蜜柑を手渡そうとする。
しかし今ので味を占めたのか、次とばかりに再び口を開けてくる。こうなるとフェイトも無下には出来ず、また食べさせてしまう。
そんな事を続けてると終いにはシェリスもアルフの足下にしゃがむのではなく、アルフの膝の上に座り出す始末。
リースが言っていた甘やかしたが故に甘え癖。もしもこの場にフェイトしかいなかったのなら、済崩し的に甘やかしてしまうだろう。
だが、この場にはフェイトだけでなくアルフもいる。そしてアルフはフェイト以外には差して甘やかすという性格をしていなかった。
「こらこら……さすがにそれは甘えすぎだよ、シェリス」
「ふにゃ!?」
「ア、アルフ……私はそんなに気にしてないから、シェリスの好きなように――――」
「フェイトはフェイトで優しすぎだって。これからここで一緒に住む事になるんだから、甘やかしてばっかりじゃ駄目だよ」
膝の上に座るシェリスの両頬を軽く引っ張りながら、フォローを入れようとするフェイトにも言い聞かせる。
それは別に意地悪がしたいからでも、嫉妬したからでもない。ここで共に生活する上で、シェリスのためを思っての発言だ。
管理局に於いてまだ正式ではないがフェイトのユニゾンデバイスとなっているシェリスは基本的に彼女と行動を共にする事が多い。
だけど私生活に於いては全くの別物。フェイトだって学校があるのだから、シェリスとずっと一緒に居てやる事は出来ない。
アルフは大体家にいる事が多いが、こちらも絶対というわけじゃない。だから必然的にシェリス一人でお留守番という事も考えられる。
となれば甘やかすのもいいが、時には厳しくしないといけない。そうでもしないと一人でお留守番など、到底出来る訳が無いというのがアルフの考えだ。
「で、でも、お姉ちゃんのリースがここにはいないんだから、やっぱり寂しいと思うの。だから、少しでもそれが紛れるなら甘えさせても……」
「別にアタシは甘えさせちゃ駄目って言ってるわけじゃないんだよ、フェイト。甘やかしつつも、時には厳しくしないといけないって言いたいんだ」
フェイトの言い分はリースがいないという寂しさを少し紛らわせてあげたいため、甘えさせてもいいじゃないかというもの。
実際はいないと言っても近くにいないだけで高町家に行けば会える。だが、常に一緒にいる事が出来ないという点ではそうかもしれない。
元々自他共に認めるリースにベッタリの子。だからこそ多少でも離れて暮らすのは寂しいに違いない。
だから少しでも甘えさえる事で寂しさを紛らわせてあげたい。だがしかし、アルフの言う事も正論であるため、反論が出来ない。
自分の言い分もシェリスのためなら、アルフの言う事もシェリスのためなのだから。だけど頭では分かっていても、甘えさせてあげたいという気持ちが勝る。
それ故にフェイトは何とかして反論を返そうとするが、彼女が口を開くより早く――――
「痛っ!」
――そうアルフが声を上げ、表情が若干痛みで顰められた。
一体何が起こったのかと言えば答えは簡単。頬を引っ張るという行為から逃れたシェリスがその手に噛みついたのだ。
血が出るほどではないが軽く歯形が残る程度には強めに噛まれた。それ故に一瞬ではあるが、痛みに表情が歪んだのだ。
それに驚きを浮かべ、止めようとするフェイトの行動は若干遅く、アルフの手から口を放したシェリスは膝から飛び降りて逃げた。
そしてそれに続き、またもフェイトが大丈夫と聞く前にアルフが立ち上がり、逃げたシェリスの名を叫びながら追いかけ始める。
シェリスは年の割に小柄で逃げ足は速い方。しかしやはり身体差的にアルフには敵わず、一分と経たずして捕まった。
「にゃーーーー!!」
「こ、こら、そんなに暴れるなって――ごふっ!?」
噛まれた事は若干頭に来たが、捕まえてもアルフは大して怒る気などなく、ただ多少注意をしようとしただけだった。
しかしシェリスは怒られる、もしくはお仕置きされるとでも思ったのか、捕まってからもジタバタと暴れ続ける。
そのせいかバタつかせていた腕がアルフの腹に直撃。見事という他ないほど綺麗に肘鉄が決まって彼女は腹を抑える。
それによって拘束が解けたのを幸いにシェリスはまたも逃げ出し、今度は本気で怒ったのか間を置いて再び追いかけ始めた。
そしてこれまたあっさり捕まってしまい、今度は瞬時に地面に座り込んで足で腕をバタつかせるのを抑え、お仕置きとして梅干しをお見舞いする。
「にゃうううう!!」
「ほ〜、まだ暴れる元気があるってか。なら、威力倍増版を食らいな!」
痛いのだから暴れるのは当たり前だが、それをまだ抵抗する元気があると取り、アルフは更に力を強めてグリグリする。
一言でも謝ればお仕置きは終わるだろうが、意外とシェリスは頑固。その上に悪い事をしたとは全く思ってないから謝らない。
だから当然お仕置きも終わる事無く続けられ、それらの一連の流れを呆然と見ていたフェイトは悩み始めていた。
これを仲が良い者同士のスキンシップと見て微笑ましく見ているのがいいか、それとも喧嘩と捉えて仲裁するのがいいかの二択で。
だけど結局結論が中々出ずに結果としてオロオロとしてしまう羽目となり、その間もシェリスの叫び声が室内に響き渡るのだった。
時空管理局の本局についた後のはやてたちの行動はそれなりに忙しいものがあった。
夜天の書修復後で何か不具合がないかの検査、嘱託として管理局の魔導師になる上での全員の面接及び試験。
闇の書事件に於いての簡単な事情聴取などなど……全てが全てその日に行われるわけではないが、それでもハードには変わりない。
ただそれだけの内容でも彼女らは文句を言わず行う。そもそも自分たちで招いてしまった事態だという意識が強いから。
しかし、その中でただ一人、このハードな内容に嫌がる者がいた。その人物とは何を隠そう、リィンフォースの子という事になっているアスコナだ。
中々に人見知りが激しく、面接系のものでは誰かが付き添いしないと怯えるだけ。検査のときはそれに加え、詰まらないと言い出す始末。
生まれたのがつい最近だから守護騎士の中で末っ子の位置付けになるだが、その末っ子に母や姉たちは皆振り回されていた。
そしてそんなこんなもありながら午前の分が終わり、昼の休憩へと入った現在、皆を困らせていたアスコナは食堂にて皆に囲まれながら、昼食を食べていた。
「ウチらが皆いるおかげか、それともご飯のおかげかは知らへんけど、さっきまでとちごうて随分大人しゅうなったなぁ」
「これくらい大人しいまま今日の残りのも受けてくれると助かるのですが……」
「絶対無理だろ……午前であれだけ我儘発揮してんだから、下手したら午後なんかはもっと酷くなるんじゃね?」
「実際あり得そうで怖いところだな……」
アスコナと違っていろいろな意味で疲れたせいか、昼食の進む手が異様に遅くなっている一同。
しかも中には溜息をつく者さえいる。皆がそんなになっているのに当の本人は美味しそうに食べるのだから、正直恨めしさも出てくる。
だけど同時に子供らしさがよく窺える故に微笑ましくもあり、溜息の後に苦笑しつつ、各々昼食を口にしていく。
「しかし、管理局に入れば必ずしも私たちの誰かが一緒にいるとは限らない。そうなるとこの人見知りの激しさは後々困る要因になるのではないか?」
「それは確かにそうだろうが、現状ではどうしようもないのもまた事実だ、烈火の将。現に検査のときや面接のときでも相手側はこの子の怯えを無くそうと努力していたが、結局誰一人としてそれを為し得なかったのだからな」
「それってさ、はやてやリィンフォースがどのときも一緒にいるからじゃないのか? 安心できる人がいるからソイツらに靡く必要はないって考えてるとか」
「全くその意識が無いと言い切る事は出来ないが、可能性は低いだろう」
「むしろ現にアスコナちゃんがそう考えてたのだとしても、一人で行かせたら余計に怯える場合が考えられるから……やっぱり、誰かが付いていないと駄目だと思うわ」
「だとすれば、やはり現状で解決策は考える事は難しいという事になるな……」
守護騎士組はどうにかしてアスコナの人見知りを治せないかと昼食を食べつつ考えるが、やはり答えは浮かばない。
同じ夜天の書のプログラム体である自分たちを除けば、アスコナが気を許しているのははやてとリンディくらいなものだろう。
クロノもある程度は話しているから過剰に人見知りは出る事はないが、彼の場合は別の部分で怖がられていたりする。
とまあ結局のところ彼女が大小含めて懐くのはその程度。彼女とて管理局員になる事前提でここにいるため、このままでは正直宜しくない。
かといってここで人見知り解消のために一人で検査やら面接やらを受けさせても、下手をしたらシャマルが言ったような事態になりかねない。
「はぁ……こないな子は案外、シェリスちゃんみたいな子と一緒におったら少しは変わるのかもしれへんけどなぁ」
「そうですねぇ。シェリスちゃんはアスコナちゃんとは真逆の性格をしてますから、一緒にいたら人見知りも治っちゃうかもしれませんね」
人見知りのアスコナとは正反対に懐っこい性格をしてるシェリス。真逆な性格をしてるからこそ、一緒にいれば人見知りも治るかもしれない。
シェリスと接する機会も話す機会も皆の中では多かったはやてとシャマルはシェリスの事を信用してるからこそ、こう思える。
だけど逆に信用してないというわけではないが、シェリスにアスコナを任せるのに不安感を抱いている者もいた。
「アタシは反対だなぁ。確かにアイツに任せたら人見知りは治るかもしんねえけど、同じくらい悪影響も出そうだしさ」
「私もヴィータに同意ですね。彼女自体が悪いというわけではありませんが、アスコナの今後を考えるとやはり良くないかと」
ヴィータは基本的にシェリスに突っかかるタイプ故の反対。シグナムの場合は、教育上の問題を考えての反対。
どちらも過剰にシェリスを敵視してるわけではない。加えて彼女自身を全面的に嫌っているというわけでもない。
ただヴィータとしては彼女に任せるのが癪に障り、シグナムとしてはヴィータの言う悪影響というのを懸念してるだけ。
前者は個人的な意見でしかないが、後者はアスコナの事を考えての意見。それ故、頭ごなしに否定するというのも出来なかった。
「私は彼女と多く接したわけではないが、主はやてや風の癒し手がそこまで言うのだから信用しても良いのではないか? それに見た目の年代で言うなら近いものがあるのだから、人見知りするアスコナでも多少が気が楽だと思うのだが」
「自分も同じく。もしもアスコナに悪影響がありそうだったのなら、その時点で何かしらの手を打てばいい事だろう」
どちらかと言えばはやてとシャマルの意見寄りなリィンフォース、そして彼女と同じだがヴィータとシグナムの意見も頭に置くザフィーラ。
とまあ各々意見を言い合ってはいるが、総じてアスコナの事を考えている。要するに末っ子の今後について一様に心配しているのだ。
しかしまあ、かなり重要な事なためか中々意見は纏まらず、自分の意見を譲らない者もいるため結論は簡単に出る事はなく話し合いは続く。
そんな中でも当の本人たるアスコナはその話し合いを気にも留めておらず、昼食を食べ終えて満足そうにジュースを飲みつつ、マッタリしていた。
あとがき
そんなこんなで始まりました第三章!!
【咲】 初っ端は事件後の皆は……って感じのお話だったわね。
うむ。ちなみに三章は基本が日常風景だから、これは三章を始める上で欠かせない部分でもある。
【咲】 なるほどね。で、順番で行くなら高町家、ハラオウン家、八神家って感じだったわね。
はやてたちの場合は八神家って言っていいのか迷う所だが、その順序で間違いはないわな。
【咲】 最初の高町家サイドでは恭也の帰還とリースの受け入れ、という感じね。
恭也の帰還もそうだが、リースの受け入れに関してはこちら側での一番の問題だからね。
もっとも、それも桃子によって結構簡単に受け入れられたが。
【咲】 今まで甘えられなかった子が甘えられる場所を手に入れた……つまりはそういった話よね、こちら側は。
そうだな。そしてハラオウン家のほうではシェリスの甘え癖に関して。
しかしまあ、こちらは特に問題らしい問題でもなく、自然に馴染んでいると言ってしまえばそれまでだ。
【咲】 アルフのポジションがアイラに近いわよね。もっとも、アイラほど過激ではないけど。
まあね。誰がどこのポジションかと聞かれればアルフはそうなるし、フェイトはリース的な立場になるだろうな。
だけどそんな感じだからこそ、ここでもシェリスは上手くやっていけるだろうさ。
【咲】 確かにね。で、最後の八神家サイドではアスコナの事に関しての話し合いね。
アスコナは現状では結構人見知りだからねぇ。さすがに管理局に入る上でこれは直しておかないといけないわけだが。
【咲】 簡単には治らないって事ね。もっとも、解決策に関しての案は一応上がってるみたいだけど。
まあねぇ。でも、シグナムはそこまで過剰な反対でもないが、ヴィータがかなりの抵抗感を出してるけどな。
【咲】 まあ、シェリスは良くも悪くもマイペースだものねぇ。ヴィータとは確かに反りが合わないかもしれないわね。
嫌ってるわけじゃないんだけどねぇ。まあ、そこのほうも三章の中にしっかりと組みこんであるから期待しててくれ。
【咲】 はいはい。それで今回のプロローグはこんなだったけど、次回はどんなのになるわけ?
うむ、次回はハラオウン家に於いてのシェリスのお話だな。
初めてハラオウン家にシェリスが来てから数日後、事件解決故に復学したフェイトは学校へと登校する。
それ故に家に残るのはシェリスとアルフのみ。当然の如く、出掛ける予定も無い二人はお留守番をする羽目となる。
しかし比較的物分かりも良く、落ち着きのあるフェイトばかり相手にしていたせいか、シェリスの扱いにアルフは悪戦苦闘。
何より何をするにも悪気というものが一切ないから学習もせず性質が悪い……そんなシェリスと一緒に、アルフは果たして無事お留守番を果たせるのか!?
というのが次回のお話だな。
【咲】 一言で言っちゃえばシェリスとアルフがお留守番するお話ね。でもさ、思ったんだけど学校の事ってどうなってるわけ?
どうなってるとは?
【咲】 ほら、本来なら闇の書事件が終わってから少しして冬休みが終わるじゃない? でも、この話ではその後に別の事件があったから……。
つまり、およそ一か月近くのラグがある状態でなのはやフェイトはどういった名目で学校を休んでいた事になるのか、ってことかな?
【咲】 そうそれ。で、実際のところ名目上はどんな風になってるわけ?
そりゃ、家庭の事情でって以外無いだろ。管理局の事を話すわけにもいかんし、むしろ信じられるとは思えんし。
【咲】 でもさぁ、それだと約一カ月分勉強が遅れてるって事になるわよね?
その分はまあ、ノートやらを借りる程度で済むだろうよ。場合によっては補習という可能性もあるだろうが。
【咲】 まあ、当然そうなるわよねぇ。
ああ、それとちなみにだが、二章の最終話の最後の部分では一か月の経過があったが、三章の最初の時点ではその経過はないので。
【咲】 つまり、文中で説明はしてるけど、改めて言うなら時間軸は事件後すぐの辺りだって言いたいわけね。
そう言う事。てなわけで、今回はこの辺にて!!
【咲】 また次回も見てくださいね♪
では〜ノシ
三章のスタート。
美姫 「前回の続きからね」
事後処理や、高町家への説明などだな。
特に大きな問題もなかったみたいだな。
美姫 「三章は日常が中心になるのかしらね」
さてさて、どうなるのかな〜。
ともあれ、次回は初めてのお留守番みたいだし。
美姫 「どうなるのかしら。次回も待ってますね」
ではでは。