天気も良く、冬の寒さも完全に無くなったポカポカした暖かさのある日差しのとある休日の日。

大学も休みになため彼――恭也もその日は鍛錬を挟みつつ、のんびり盆栽の手入れでもしようとしていた。

最近は多少のんびりお茶を飲む時間はあっても盆栽の手入れは疎かになっている。だからこそのこのプランというわけだ。

でもそのプランは前日、講義から帰った後に覆される羽目となる。誰でも無い、自分が大事にしてる妹の一言によって。

 

「えっと、明日なんだけど……なのはとフェイトちゃんでシェリスちゃんの服を買いに行こうかなって思ってるの。だから、お兄ちゃんも一緒にどうかなって……」

 

「……何が、だから、なのかよく分からないが、兄が一緒に行っても邪魔にしかならんと思うぞ?」

 

「そ、そんな事無いよ! お兄ちゃんに来てもらったら男の子としての意見も聞けるって事だし、人数は多い方が楽しいし……それから、それから」

 

かなり必死になって誘おうとしてるのが様子から窺え、恭也も少しばかり疑問を抱かずにはいられなかった。

自分をそこまでして誘うのか、明らかに異質としか言いようが無い状況をなぜ敢えて作ろうとするのか。

そんな疑問を抱いてしまうのだが、未だ必死に理由を考えてる彼女を見ると自分の些細な休日予定を強行する事も出来なくなる。

だからやはり妹(なのは限定)には甘いなと自分でも思ってしまいつつも、恭也はなのはの提案を飲む意味合いの返事を返した。

それに一変して嬉しそうな顔を見せるなのは。絶対だよと念入りに約束を取り付け、嬉しさが冷めやらぬままに背を向けてリビングへと戻っていった。

そんな彼女と入れ替わるようにして一人の少女が出迎えに来る。それは蒼いセミロングの髪を特徴とした少女、リースである。

擦れ違った彼女を可笑しな者でも見るような目で見送りつつ歩み寄ったリースは、恭也の前に立つと未だ彼女が去った方を見ながら口を開いた。

 

「……なのは、どうしたの? なんか妙に嬉しそうな顔してたけど……」

 

「いや、明日買い物に付いてきて欲しいというから承諾しただけなんだが……」

 

「ふ〜ん……買い物って、何の?」

 

「シェリスの服らしいんだが……そもそも何であそこまで俺を連れて行きたがったのかが分からん」

 

先ほども抱いた疑問を心底不思議だと言わんばかりにリースへ呟くが、彼女は返事を返さずに溜息をつくだけ。

というのも恭也が口にした情報からフェイトが一緒なのだろうと悟り、そこから連れて行きたがる理由が把握出来たからだ。

普通に考えれば察しは付くような理由。でも彼は気付いていない……だけどそれを実際に口にして教えるのも憚られる。

故にこそ溜息をつくだけだったのだ。相変わらずだなぁと呆れるような、そんな意味合いの籠った溜息を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはB.N

 

【第三章】第十話 お買い物は慌ただしくも穏やかに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはとの約束から時間が経って翌日の十時頃。恭也となのは、そしてなぜかリースまでも加えた三人は家を出た。

なぜリースが一緒に行く事になったのかと言えば、簡単に言ってしまえば恭也が一緒に行かないかと誘ったからだ。

別段男女比が変わるわけではないが、万が一の場合でシェリスを確実に抑えられる者が必要になってくる。

だから、最初こそ渋っていたリースを本で釣り、予定していたメンバーの中に急遽組み込むという形になったというわけだ。

そしてフェイトの家であるマンションへと立ち寄って二人と合流(アルフは眠気を理由に辞退したらしい)。そこから真っ直ぐに海鳴デパートへと向かった。

 

「あの、恭也さん。今日はその、突然誘うような形になってしまって、すみませんでした……」

 

「いや、気にしなくていい。特にする事もなかったからな……ただ、俺が行っても大して役には立たんと思うが」

 

彼がそう言えばフェイトは前日のなのはと同じように強く否定する。そしてその後に続く口実まで、なのはと同じであった。

別に打ち合わせたわけでもないのだろうが、全く同じになるのは仲の良い証拠。それを見せ付けられ、恭也は僅かに苦笑を浮かべる。

続けてなのはも苦笑したのを見てフェイトは自分が叫ぶような声を上げた事に気づき、恥ずかしそうに顔を赤くして俯けてしまった。

 

「シェリス……そんなに引っ付かれるとお姉ちゃん、歩き辛いんだけど?」

 

「にゃ〜♪」

 

「聞いてないし……もう、相変わらずの甘えん坊なんだから」

 

こちらはこちらで三人のやり取りは目に入っておらず、まるで恋人のように腕に抱きついてくるシェリスにリースは困っていた。

以前よりもフェイトとの仲は進展したように思える。でなければいくら本人の物とはいえ、お菓子以外で買い物に付いていくわけがない。

でも、リースがそこにいるとなればまだフェイトよりリースに引っ付く。まだまだ姉離れが出来ない、相変わらずの甘えん坊。

だけど困り顔を浮かべてこそいるが、リースも満更でもない様子。どんな子だとしても、彼女にとってシェリスはただ一人の妹なのだから。

 

「そういえばお兄ちゃん。別に嫌って言うわけじゃないんだけど、何でリースちゃんも一緒に来る事になったの?」

 

「ふむ、それはだな――」

 

「あ、それは恭也が付いてきて欲しいって言ったからだよ。私も最初は気が進まなかったんだけど、本を買ってくれるって言うから仕方なくね〜♪」

 

「……お兄ちゃん?」

 

別に疚しい事があるわけではないが、ジト目で見られてしまって反射的に視線を逸らしてしまう。

なのはたちにはリースも行く事になったとだけしか言わなかったのが不味かった。理由をしっかり言っておくべきだった。

だけど何を怒っているのか正直分からないながらも、今言ったところでただの言い訳にしかならないとは分かるから言えない。

しかし言わなければ言わないで彼女が諦めるわけもなく、歩く最中でまるで詰問するかのように恭也に聞き続けるなのは。

反対に理由が分かっても敢えて言わずに状況をリースは楽しみ、シェリスは頭に疑問符を浮かべ、フェイトはフェイトでオロオロしていた。

そしてなのはのジト目詰問攻撃は長く続き、結局恭也はデパートに着く前に耐えかねて白状してしまうのだった。

 

 

 

 

 

理由を白状してしまえば何の事も無く、なのははあっさりと納得。反対に恭也は妹からのジト目詰問攻撃で若干げっそり気味。

そんな彼を心配するかのように頻りに大丈夫ですかと聞いてくるフェイトに彼も大丈夫だと答えつつ、一同の歩調に合わせて歩き続ける。

そうして辿り着いたデパート。休日という事もあって非常に人が多く見受けられ、中々な賑わいを見せていた。

その中を五人は歩いていき、案内盤に従って一階の洋服売り場である場所へと赴き、子供サイズの服があるコーナーの前へと立った。

 

「ふ、服って一杯あるんだね……やっぱり手伝いをお願いしたのは正解だったかも」

 

「あれ、フェイトちゃんってお洋服売り場には来た事がなかったっけ?」

 

「う、うん。服のほとんどはリ――お母さんが用意してくれてたし、私自身もあんまり服に執着ってなかったから」

 

「そうなんだぁ……じゃあ、ついでにフェイトちゃんの服も見繕っちゃおっか♪ フェイトちゃんもシェリスちゃんも黒が似合うから、黒と黒のお揃いで♪」

 

シェリスの服選びで来ているのにフェイトの物まで買おうと言い出すなのは。正直、いきなり過ぎて彼女も戸惑うしかない。

もちろんリンディに話して何着か買うために十分なお金は貰っている。だから、自分の服も買おうと思えば何着か買える。

だけど話していない買い物をしていいのかどうかが判断は出来かねる。それ故にフェイトは戸惑うしか出来なかったのだ。

しかし、すでに決定事項で選び始めてる彼女を見ると遠慮するなんて言葉は浮かばない。浮かんだとしても言う事は出来ない。

出来ないからフェイトは後でリンディに言うという形で妥協する事にし、なのはと共に服選びへと移った。

 

「あ、これなんかどうかな、フェイトちゃん? ちょっと派手な感じはあるけど、可愛くて良いと思うの」

 

「えっと……シェリスはともかく、そういう可愛いのは私には似合わないかなって。だからもうちょっとこう、地味なのが……」

 

「え〜、似合うと思うんだけどなぁ……あ、これだったらどう? 派手すぎないし、かといって地味すぎるわけでもない……結構私は良いと思うんだけど」

 

「んっと、私も良いとは思うんだけど、このヒラヒラがちょっと邪魔かも……私的にはもう少し、動き易いのが――」

 

恭也もリースも主役であるシェリスさえも放って服選びに没頭する二人。周りはもう、目に入っていない様子。

なのはがこれはどうかと聞いてフェイトが拒否して条件を提示して、それを考慮してなのはがまた違う服を手に取る。

すでにシェリスの物からフェイトの物に選ぶ対象が変わっているという事さえ気付かない。あまりに集中し過ぎている。

しかし集中し過ぎているからこそ三人も声が掛けられず、黙って成り行きを見守るしかなかった。

 

「それじゃあね〜……こういうのだったら、どう? ちょっと地味過ぎる気がするけどヒラヒラもないし、これにスカートじゃなくてズボンを合わせれば動き易さも出てくると思うんだけど」

 

「確かに良い、かも……恭也さんは、どう思いますか?」

 

「――ん? あ、ああ、似合うんじゃないか?」

 

唐突に聞かれて答えた返事は非常にいい加減な物。故にか、彼の返答になのはが小さく溜息をついていた。

だけど反してフェイトはいい加減でも似合うと言われたのが嬉しかったのか、若干頬を染めてこれにすると呟いた。

いい加減な返事だったとは自分でも思っているせいか、フェイトのその反応は彼には理解出来ず、首を傾げるしかなかった。

ともあれフェイトがそれを買うと決まった所でようやく思い出したのか、続けてシェリスの服を選ばないとと選んでいた本人であるなのはが口にする。

それを聞いて同じく思い出したフェイトはシェリスの服を選ぶ上でシェリスの意見が必要になると近場で暇しているであろう彼女を呼び寄せようとする。

 

 

 

――しかし、三人が振り向いた先にはなぜか、シェリスどころかリースの姿すらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

服選びというのは見ている側からすれば非常に退屈なもの。それがリースとシェリスがその場から離れた理由だ。

折角普段あまり来ないデパートに来たのだから、いろんな所を回りたい。本売り場や服売り場だけでなく、いろんな場所を。

だから黙って三人の所から離れ、デパート内を歩き回るリースとシェリス。もちろん、歩き出した時点では目的地は決まっていなかった。

そのため目的地は歩きながら考え、エスカレーターを介して二階へ上がり、そこの案内盤を見た所で最初の目的地を玩具売り場へと定めた。

テレビゲームやプラモデル、ジグソーパズルやぬいぐるみなどなど様々な玩具が売られている非常に種類の豊富な玩具売り場。

当然、そこにはリースにもシェリスにも興味引かれる物があり、物珍しげにあっちへ行ったりこっちへ行ったりととても動きは世話しなかった。

 

「お姉ちゃん。これ、何ていう玩具なの?」

 

「んあ? ああ、それは積み木って言うのよ、シェリス。ちょっと古い物だけど、小さな子供には喜ばれる玩具ね」

 

「ふ〜ん……じゃあ、あれは?」

 

「あれは〜……ん〜、パズルか何かじゃないかなぁ? お姉ちゃんにも良く分かんないから、たぶんだけどね」

 

玩具に詳しい訳ではないが、最低限の知識と見た目で判断してシェリスの問いに答えていくリース。

ちなみに二つ目に彼女がパズルと称したそれは『知恵の輪』という玩具。ジグソーとはまた違うパズルの一種だ。

しかし先も言ったように玩具に詳しくない彼女はパズルとしか言えず、シェリスも聞いただけで別段興味は薄いのかそれで納得した。

そしてその後もシェリスの問いに答えながらいろいろと見て回り、最終的にある一つのコーナーにて足を止めた。

 

「このぬいぐるみ、可愛いの……」

 

「見た目的に猫のぬいぐるみだね、それ。ええっと、お値段は〜……うわ、高っ!」

 

いろいろと見て回った中でシェリスが唯一興味を示した物。それが現在彼女の手にある猫のぬいぐるみであった。

真っ白なシェリスの頭ぐらいのサイズのそれは確かにシェリスの言うように可愛いという部類に入り、尚且つとても手触りが良い。

高そうだなと思って若干恐る恐る値札を見てみれば、その値段たるやリースが桃子から貰うお小遣いのおよそ二分の一である。

小遣いを二分の一も消費するような値段は彼女にとって高い以外の何物でもない。それ故、早々に元の棚へと戻させようとする。

しかし、そう思って掛けようとした口が自然と閉じられてしまうほど、今のシェリスはそのぬいぐるみを幸せそうに抱きかかえていた。

 

「…………」

 

フェイトと同じく、リースもまたシェリスには甘い。普段あれこれ言ってはいても、本当は愛おしくて堪らない。

だから、そんな最愛の妹からそれを奪う事が出来なかった。笑った顔がよく似合う彼女に一瞬でも悲しい顔を浮かべて欲しくはなかった。

それ故、リースの中では彼女のそんな顔を見た時点で答えが決まった。一片の悩みも抱かず、さっきまでの思考など一瞬で忘れて。

 

「シェリス。それ、ちょっと貸して」

 

「にゃ?」

 

一言告げてシェリスが抱きかかえていたぬいぐるみを奪い、歩き出す。追い掛けてくるシェリスを引き連れ、玩具売り場のレジへと向けて。

少しでも妹が笑っていてくれるなら、お小遣いがどうの何て問題じゃない。要は、自分が我慢してしまえば済む事なのだ。

ずっと前からそうだったのだから、正直今更な事。そして何より、妹が喜ぶというのは姉の自分にとっても喜びでもあるのだから。

 

 

 

一応持ってきていたお小遣いの大半を失う結果となったぬいぐるみの入れられる紙袋を大事そうに抱えるシェリス。

そんな彼女を横に連れてリースはその後も様々な場所を回り続けた。そして回り続ける際、お金の消費が全く無いわけではなかった。

デパート内の飲食店でお茶をしたり、本売り場で本を買ったり(後で恭也に返してもらう予定)。気づけば、財布にはもう小銭しかない状態。

でも、隣を歩くシェリスはずっと笑顔のまま。だからこそ、財布の中身が寂しくなっても、別段気落ちするという事もなかった。

そうしていろいろと回った結果、最終的に行きついた場所は――――

 

 

 

「お菓子♪ お菓子♪」

 

「はいはい、分かったからそんなにはしゃがないの……」

 

――デパートの地下に位置する場所に広がる、食品売り場であった。

 

 

 

リースがここを訪れた理由は単純にお腹が空いたから。だから、試食コーナーでタダ飯が食べられるここに来たのだ。

だけど己の空腹故に、失念していた……シェリスが無類のお菓子好きだと言う事を。和洋中を問わずのお菓子好きだという事を。

タダで食べる事が目的で来たのに結局ここでもお金を使う羽目になる。唯一財布に残る、小銭を使い果たす羽目になる。

だがまあ、自分の失念が原因だしシェリスを落ち込ませるのも憚られる。それ故、溜息は出るも仕方なくシェリスのしたいようにさせた。

 

「にゃ〜……どれにしたらいいか、迷うの」

 

「どれでもいいじゃん……お菓子なんて皆同じなんだからさ」

 

「それは甘い考えなの、お姉ちゃん。お菓子にもお饅頭とかスナックとか飴とか、添加物が一杯入ってるのとか入ってないのとか、いっぱいい〜っぱい種類があるの!」

 

「ああ、分かった分かった。はぁ……何で他の事は無関心で学ぼうとしないのにこんな事にだけは異常な関心を持つのかなぁ、この子は」

 

御座なりに返事をしつつブツブツと言うが、後半の呟きは生憎とシェリスには全く聞こえてなどいなかった。

今の彼女が全意識を向けているのは目の前のお菓子の羅列にのみ。どれがいいかという悩み以外、頭には何も考えなど無い。

そんな彼女を横目で見て再度深々と溜息をつき、だけどそれ以上は何も言わずシェリスが選ぶのを黙って見守った。

そうして選び続ける事、約十分。羅列の中から欲しい物をようやく二種にまで絞り込んだシェリスは、その二つを交互に眺めて未だ迷う。

 

「どっちが良いかなぁ……どっちが良いかなぁ。お姉ちゃんはどっちが良いと思う?」

 

「どっちでも――――あ、いや、えっと、あ、飴が良いんじゃないかな、うん」

 

「そっかぁ。じゃあ、そうするね♪」

 

どっちでも良いと言い掛け、途端に歪みそうになった顔を見るや否や若干慌てた様子を見せながらも答える。

その言葉で本当に迷っていた疑うくらいにシェリスはあっさりと決め、目当ての飴袋が置かれる場所……棚の一番上へと手を伸ばす。

だけど彼女の背丈ではちょっと高すぎるために及ばず、む〜っと唸った後にあろう事か棚の段を足掛けにして登ろうとする。

さすがにそれは許容できるわけもなくすぐさまリースが止めるが、それでも彼女が手を放せばまた昇りかねないほど棚の上を見詰めていた。

 

 

 

――その直後、横から近づいたらしき人影が二人の隣りで足を止め、シェリスが見詰める飴袋を手に取った。

 

 

 

まるで狙ったかのように二人が見ていた物を手に取ったその人物は続けて、もう片方の手で二人の頭を軽く小突いた。

これもまたいきなりである故にポカンとした表情で二人が見上げれば、その人物の顔は非常によく知ったものであった。

 

「全く、どこに行ったかと思えば……本当に心配したぞ、二人とも」

 

「あ、うん、ごめんなさい……って、それよりも何でここが分かったのよ?」

 

「別に分かったから来たわけじゃない。さんざん探し回った結果、残る場所がここしかなかったから来たんだ」

 

あの短時間でデパート内全てを駆け回ったらしい。なのに体力的に疲れた様子がないのはやはり恭也なのだという事だろう。

故に若干呆れるリースとは裏腹にシェリスはと言えば、怒られた事自体全く気にしておらず、さっきから必死に恭也の手にある飴袋へと手を伸ばしていた。

もちろんそれにも気付いていた彼は小さく溜息をつきつつ、飴袋をシェリスに手渡すと同時にリースへ五百円玉を渡した。

それにキョトンとするが、すぐに彼の意図が読めた。つまり、その五百円玉でシェリスにその飴袋を買ってやれと言いたいのだろう。

彼とてリースが小遣いを貰っている事も財布を持ってきている事も知っている。だが、シェリスが片手に持つ紙袋とリースが持つ本の詰まった袋で察した。

だから自分の財布から硬貨を出して手渡したのだ。そんな彼の意図を読んだリースは何も言わず、頷いてシェリスの手を取り、レジへと向かっていった。

 

 

 

 

 

恭也と共にリースとシェリスも一度立ち寄った飲食店に留まらせていたなのはとフェイトの二人を合流したとき、二人は怒っていた。

なのははそうでもないが、フェイトは普段あまり怒る事が無い。何より、シェリスが相手だと怒る気力さえ抱く事がないほどなのだ。

だけどそんな彼女でさえも、今回ばかりは怒っていた。つまりはそれほど、彼女も心配していたのだという事なのだろう。

そんな二人のよって説教をされ、若干シュンとなる。だけどそこは飴と鞭……怒った声色の後には優しげな声でちゃんと諭していた。

これが幸いしてリースもシェリスも気を持ち直した所で再び服選び、とはいかず、丁度お昼という事でそのまま食事という事になった。

 

「う〜ん、どれがいいか悩むなぁ……シェリスは何にするか決まった?」

 

「にゃ、シェリスはこれにするの!」

 

「……アンタ、お子様ランチって。精神年齢がお子様過ぎるのは今更だけど、さすがにそれは無いでしょ……」

 

「うにゅ、駄目なの?」

 

「駄目じゃないけど……はぁ、シェリスを参考にしようとした私が馬鹿だったよ。なのはとフェイトは、何にするの?」

 

「なのはは、あんまりお腹が空いてないからミックスサンドだけにしようかなって」

 

「私はカルボナーラかな。恭也さんは何にするんですか?」

 

「ふむ、本当なら和食が良いんだが、さすがに無いようだからナポリタンとミックスサンドにしようかと思ってるが……」

 

「……結構食べるんですね」

 

恭也だけでなく妹の美由希もそうだが、二人ともそれなりに食べる方であり、こういった店では一種類だけを頼む事はまず無い。

なのはやリースからすれば見慣れているため驚きでも無いが、恭也と食事などほぼした事が無いフェイトには驚きでしかなかった。

そんな彼女の驚きの一言を耳にしつつリースは考える。今の三人の意見を元としてメニューを見た際、自分は何を食べたいと思うのかを。

意見には種類的にスパゲティ系が多いからまずはそちらへ目を向けてみる。だが、表記されてる物にはいまいち食べたいと思う物が無かった。

だから次はミックスサンドというのが多かったからサンドイッチ系へ目を向けてみるが、こちらは量的をちょっと少ないかなと思って断念。

自分が食べたいなと思う物で、尚且つちょうど良い量の物。もうすでに全員の意見が無駄になりつつあるが、それを念頭に入れてメニューを見渡す。

そしてその結果、目に止まったオムライスの絵に若干そそられで決定する事となり、それを恭也に告げると彼は店員を呼び止めて注文をする。

それからしばらくして店員が何度か行ったり来たりしつつ出来上がった注文の品を運び終え、全てが揃ったのを境に皆は昼食を食べ始めた。

 

「はぐはぐはぐっ、んぐ! はぐはぐ――」

 

「こらこら、別に逃げるわけじゃないんだからそんなにがっつかないの……」

 

「かなりお腹空いてたみたいだね、シェリスちゃん。デパート内を歩き回る中で何も食べなかったの?」

 

「食べなかったわけじゃないんだけど、シェリスって食欲は結構旺盛なほうだからさ……間食してもご飯の時間になるとお腹が空くようになってるみたいなんだよね。その辺、一緒に住んでるフェイトはよく分かってるんじゃない?」

 

「確かに、家でもどれだけお菓子を食べてても朝昼晩のご飯のときは一杯食べてたかも……」

 

デバイスだとかそんなの関係無く、昔も今もシェリスは間食含めて食欲旺盛らしく、お子様ランチを慌ただしく食べていた。

しかも口に含んだ量を問わず飲み込む時は一度で飲み込むものだから、いつ喉を詰まらせるかが気が気でならない。

そこもあってリースが窘めつつ無理矢理にでも一息つかせるべく口の周りの汚れを拭いたりする。このやり取りは家では、フェイトがやっている事。

要するに家でも外でも変わりが無いという事。それに呆れのような感情を浮かべながらも、皆は苦笑しながら食事を続ける。

 

「ところでさ〜、この後ってまた服選びなんだったよね?」

 

「シェリスちゃんの服がまだ決まってないから、そういう事になるね。それがどうかしたの?」

 

「いやね、服選びの際に私っていなくても別にいいんじゃないかな〜って思うのよ。だぁかぁらぁ……私は本売り場のほうで待ってるってのは駄目かなってね」

 

「それはいいけど……本はもう買ったんじゃないの?」

 

「んっと、買ったには買ったんだけどさ……シェリスがいる手前、長く物色する事が出来なくてねぇ」

 

つまりはシェリスがいない状況でもう一度ゆっくりと本を物色したいという事。二度も本売り場に行きたいと言う辺りは完全に本の虫である。

ともあれ、これは別段悪い事でも無いので駄目だという理由は無い。むしろシェリスはともかくリースはしっかりしてるから、一人で歩かせても問題は無いだろう。

故になのはとフェイトの二人はそれで納得し、首を縦に振ろうとした。だが、僅かに早く恭也の口が開かれた事により、それは遮られる。

 

「まだ本を買うという事に関しては今更だから良いんだが、お金はあるのか? 見た限り、それだけでもずいぶんな額になるように思えるんだが」

 

「う……いや、えっと、そこは、約束に基づいて恭也に出してもらうとか?」

 

「……確かに約束はしたから出すのも吝かではないが、そんなに多く出すつもりはないぞ? 精々、そうだな……二、三千円程度までだな、多くても」

 

「ええ!? そ、それはさすがに、ちょっと少なすぎるとリースちゃんは思うんだけど……」

 

「少なくない、よね……?」

 

「う、うん。むしろ多いくらいだと思うけど……」

 

リースの反論に対してなのはとフェイトの二人が小さな声でツッコミを入れるも、彼女の耳には届いておらず未だ説得しようとしていた。

ただ二人のツッコミの通り恭也の提示した額は別に少なくは無い故、その説得も筋が通っておらず、逆にお説教されていたりする。

説教の内容はもちろん、何でそんなにすぐ小遣いを使い果たすのかとか、いくら本好きだからと言ってもさすがに買い過ぎだとかというもの。

ここを突かれるとリースも反論が出来ないのか、反論も封じられてただ説教されるだけとなり、それはその後五分程度まで続く事となった。

 

 

 

 

 

昼食後、二千円ほど貰ってトボトボと本売り場へ向かうリースを見送り、四人は再び服売り場へと足を運んだ。

午前中は脱線してしまってフェイトの服選びになってしまったが、今度は本題であるシェリスの服をしっかり選ぼうと意気込む二人。

そうしてあれこれとシェリスの身体に当てつつ、相談しながら選ぶのを恭也は午前中のときと同じく一歩引いた位置で眺めていた。

服を選ばれる対象であるシェリスに関しては姉に買ってもらったぬいぐるみと飴袋を抱えながら、時折眠そうに欠伸などをしていた。

ここから察するにかなり暇そうだと窺えるのだが、そうだとしても今度は注目されてるから逃げる事も出来ず、ただ為すがままになるしかなかった。

そんなこんなで選び続ける事、約一時間半。ようやく二、三着ほど選び終え、会計を済ませて洋服売り場を後にして向かった本売り場にてリースを発見する。

発見したときのリースはまだ悩み中だったのか、両手に一冊ずつ持って交互に目を向け、う〜んと僅かに唸り声を上げるなどしていた。

そして四人が近づいた事に気付くと少しして溜息をつきつつ右手の本を棚へ戻し、左手に持っていた本を持ってレジへと向かっていった。

それから会計を済ませて戻ってきたリースを連れ、用事が全部終わったという事でデパートを後にし、帰路へとついた。

 

「ふぁ……にゃむにゃむ」

 

「……もしかして眠いの、シェリス?」

 

「うん……」

 

「そっか……そういえば、このくらいの時間はいつもお昼寝してるもんね」

 

デパートを出てから数分歩いた地点にて欠伸をするシェリスにフェイトはそう思いだしつつ、小さく苦笑を浮かべる。

そして何も言わずにシェリスの前に出て背中を向け、若干しゃがむ。それは自分がおんぶするから、寝ても良いよという合図。

フェイトの身長からしてシェリスをおんぶするのはちょっとギリギリ。だから、自分がしようかと恭也が申し出ようとした。

だけどすぐさまフェイトの好意に甘えて背中に抱きつき、背負われた途端に寝息を立て始めた事で開こうとした口は閉じられる事となった。

何というか、表情的に見て非常に安心し切ったような顔。リースを相手しているときとどこか似てる、そんな様子で彼女は眠っていた。

ここへ割り込む事が憚られたから申し出を口にはせず、疲れたら言ってくれとだけ告げてシェリスの寝息を聞きつつ、帰路を歩き続ける。

 

「ん〜、見た感じ、以前と比べてフェイトも結構シェリスの事が分かるようになってきたねぇ」

 

「そう、かな……?」

 

「そうだよ。だってさっきみたいなのが自然と出来るって事は、暗黙にシェリスの望んでる事が分かるようになってるって事だもん。それに何となくだけど、シェリスも前よりフェイトに慕ってるように見えるし……そりゃまだまだな部分はあるけどさ、それでもたった数か月でここまでになるのは結構凄い事だと思うよ?」

 

実姉であるからこそ、シェリスの性格等がほとんど分かる。だからこそ、彼女のその言葉は非常に嬉しいものがあった。

故にフェイトは少し恥ずかしげな様子を見せながらも微笑を浮かべ、どこかシェリスと似た感じを窺わせる明るい笑顔でリースも返した。

リースのこんな笑顔は早々見れるものじゃない。だから言える……姉という立場として彼女もフェイトを認めているのだろう、と。

恭也はもちろん、リースの事をそこまで多く知っているわけでもないなのはでもそこが分かり、兄妹は二人に気付かれず顔を見合せて苦笑を浮かべる。

意図せずとも皆の顔に笑みが浮かび、穏やかな空気が辺りを包む。そんな中を皆はシェリスを起こさぬよう談笑しながら、帰路を歩き続けた。

 

 


あとがき

 

 

シェリスの服を買うためのお買い物……のはずが、それだけでは終わらなかったと。

【咲】 フェイトの服とリースの本、シェリスのぬいぐるみと飴、あと買い物とは違うけどお昼ご飯……それなりに盛り込んだわね。

まあ、さすがにシェリスの服選びだけじゃ足りんから付け加えようとは思ってたんだけどね。

でもまさか、ここまで多くなるとは思わんかった。文字数的にはそこまで多くならなかったのが幸いか。

【咲】 もっと濃く書けばどのくらいになったのかしらね、これ。

予想で言うなら、この1.5倍ぐらいにはなったんじゃないか?

【咲】 それはまあ、確かに多いほうね……。

まあね。ともあれ、今回はお買い物へ行こうなお話だったわけだが……。

【咲】 途中ではリースとシェリスが勝手な行動してたわね。

女のお買い物は長いからねぇ……リースはともかく、シェリスは落ち着きが無いから、耐えられなくても仕方は無いのだよ。

【咲】 ふ〜ん。まあ、そのお陰でリースのお財布が多少軽くなっちゃったわけだけどね。

リースもシェリスには甘いって事だよ。たった一人の可愛い実妹だからね。

【咲】 その妹は妹でやっぱり子供な感じよね。お昼に食べるのがお子様ランチってところが特に。

お子様ランチを馬鹿にしてはいかんよ。あれは普通の定食とかよりも、なんか美味しそうに見えるんだからな。

【咲】 まあ、確かにお子様ランチを食べるような歳から遠ざかるにつれてそう思えるってのもあるらしいわね。

結構種類が豊富だからな、アレ。まあ、それはともかく、確かにシェリスが子供なのは事実だな。

【咲】 それがあの子の良いところでもあるんでしょうけどね。

まあ、ねぇ。とまあ今回の話はこの辺にして、そろそろ次回予告に行きますか。

【咲】 そうね。それで、次回はどんなお話になるのかしら?

次回は僅かに時間が流れてはやての聖小転入のお話。

まだ車椅子は必要ではあるものの足は順調に回復へと向かい、同時に聖小への転入手続きもようやく終わって転入する事になった。

道端でなのはたちと合流して初めての通学路を歩き、バスに乗って聖小へと赴き、多少の説明も兼ねてはやては職員室へと向かう。

そしてその後、幸運にもなのはたちのクラスにて転校生紹介という言葉が担任から告げられ、彼女ら四人は一様に喜びの笑みを浮かべる。

だがしかし、その笑みは次の瞬間、目の辺りにした予期せぬ光景によって驚愕へと変わる。

というのが次回のお話だな。

【咲】 予期せぬ光景って、何?

考えればすぐ分かる事だよ。ああ、ちなみにだけど……はやてだけでなく、四人の中のもう一人だけ誰より驚く者が出てくるな。

【咲】 ……分かるような、分からないような。

まあ、次回になれば分かるよ。てな訳で今回はこの辺にて!!

【咲】 また次回会いましょうね♪

では〜ノシ




迷子ではないけれど、どっかに行っちゃった子がやっぱり出たか。
美姫 「出たわね」
うーん、迷子アナウンスが利用されて、みたいな展開はなかったか。
美姫 「しかし、リースも何だかんだと言いながらも妹には甘いわね」
だな。シェリスにとっては良い一日だったんじゃないかな。
大好きなお姉ちゃんと一緒に歩き回り、ぬいぐるみだ、飴だと。
美姫 「ほのぼのとしたお話だったわね」
うんうん。で、次回はとうとうはやてが転入。
美姫 「予期せぬ事が起こるみたいだけれど」
うーん、幾つか思いついているんだが、果たして正解があるかどうか。
美姫 「次回も楽しみに待っていますね」
待ってます。



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