場所は学園にある機械室。

そこが轟音の中心部だった。

機械室には何が起こったのか煙が充満していた。

 

「もう! なんで開かないの!!」

 

その煙の中から人の声が聞こえてくる。

それは髪も服も真っ黒な少女。

この特徴からわかるように少女というのはレイである。

 

「こうなったらもっと大きな魔法で」

 

レイはそんなかなりやばいことを言いながら右手に魔力を収束させていく。

その魔力密度はこの機械室を吹き飛ばすには十分な密度である。

手に集まった魔力をいざそれに放とうとする瞬間、その声は聞こえた。

 

「な、なんだ、この煙は」

 

「え?」

 

普段なら探知魔法で人が来る前に察知できる。

だが、血が上った状態だったレイは探知魔法を解いてしまい探知できなかったのだ。

 

「しばしお待ちを。 煙を晴らしますので」

 

聞こえてきた声にレイはまさかと考える。

その声はレイがよく知っているものだったのだ。

魔力が放たれ機械室に充満していた煙が消える。

そして、互いの姿が晒される。

 

「え?」

 

「げっ」

 

レイを見たスレイは驚きの表情を浮かべる。

スレイを見たレイは少女とは思えない声を上げる。

二人はそのまましばし硬直していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

第六話 光と闇が出会うとき 後編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

硬直状態の二人にどうしたものかと悩む面々。

そんな中、美由希はスレイの声をかける。

 

「スレイ、もしかしてあの子、知り合い?」

 

美由希の言葉に我に帰ったスレイとレイ。

スレイはレイと睨み合うような感じのまま美由希の疑問に答える。

 

「あの子なんです……」

 

「え?」

 

「あの子が闇の魔剣、ダーグレイなんです……」

 

「え、ええええ!?」

 

スレイの言ったその言葉に美由希はかなり驚いた声をあげる。

他の面々はスレイの言ったことが何を指すのか解らず自体についていけてなかった。

 

「それじゃあ……」

 

「はい。 あの子がもう一刀の魔剣で主様が契約を結ばなければならない子……なんですけど」

 

「て、敵意まるだしだね……」

 

「ええ。 そもそもなんであの子が・・・・・」

 

レイから視線を逸らさずスレイは何か考える。

レイはというと逃げる機会を窺っているのかジリジリと後ろに後ずさっていた。

その行動は美由希もスレイも、そこにいた全員が見て解るほどあからさまだった。

 

「待ちなさい、レイ。 どこに行く気ですか」

 

「どこだっていいじゃない。 私の勝手でしょ」

 

「よくありません。 あなたは主様と契約してもらわないといけないんですから」

 

「やだよ! 誰がそんな奴と契約なんか」

 

「口を慎みなさい、レイ。 主様に向かってそんな奴だなんて」

 

「知らないよ、そんなの。 とにかく私はそいつとは契約しない」

 

「わがままも大概にしなさい。 怒りますよ」

 

「うるさい!! 私は私の意志で主を決めたんだもん!! スレイなんかが選んだ主よりずっと、ずっといい人なんだもん!!」

 

「決めた? ……レイ、あなた、まさか」

 

「うるさいうるさいうるさいうるさい!!」

 

二人は話せば話すほど険悪になっていく。

それをただ見ているしかない面々。

 

「仕方ありません……主様」

 

「な、なに?」

 

「レイを捕縛します。 説得はその後で」

 

「で、でも、それは……」

 

「あの状態になったあの子は何を言っても聞きません。 ですからこうするしかないのです」

 

「……」

 

「わかっていただけませんか、主様」

 

「仕方、ないんだね……」

 

「はい……」

 

スレイは頷くと光を放ち剣化する。

美由希は剣化したスレイを握り構える。

 

「スレイなんか……スレイの選んだ主なんか……いなくなっちゃえ!!」

 

叫びと共にレイから膨大な、そして黒い、黒い魔力が溢れる。

それは闇というのに相応しいほど禍々しい魔力。

それを見た面々は例外なく体が強張り凍えるような肌寒さに襲われる。

 

「さ、寒いっす……」

 

「なんなんだ、この魔力は」

 

『あれは人の負の感情が集まった闇の魔力。 ダーグレイを形作る闇です』

 

スレイはそう皆の頭に直接言葉を流すように言う。

 

「闇の魔力……しかもあんな量の魔力を一気に放出したら」

 

『下手をすれば、この学園が闇に染まってしまいます』

 

「そ、そんなことになったら学園が魔物の巣窟になります!」

 

「ライル……」

 

「ああ。 俺たちも加勢しよう。 あの子を止めるんだ」

 

ライルの言葉に皆は頷き、各々の武器を取り出す。

そしてレイと向かい合うように構える。

 

「ああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

悲鳴のような声を上げながらレイは魔力を放出していく。

そんなレイを止めるべく皆は仕掛けようとする。

そんなときだった。

レイの放つ魔力よりも深い、深い闇がその部屋を支配したのは。

 

『まだ……』

 

その声は少女のような幼い声なのに……

 

『完全になる……それはまだ』

 

突然闇から現れたのは見た目幼い少女のようなのに……

 

『でも、目覚めは……近い』

 

少女は笑顔を浮かべているのに……

 

『闇が目覚めるまでは……』

 

その少女はどこまでも……

 

『彼が目覚めるまでは……』

 

歪んで見えた。

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだ……」

 

皆は呆然とする。

例外はいない。

ライルたちも、美由希も、スレイやレイですらも。

 

「行きなさい……」

 

少女はレイと美由希たちの間に現れ、静かな声でそう言う。

 

「え?」

 

「あなたは彼を目覚めさせる鍵。 ここで散るのはあなたの運命ではないわ」

 

「う、うん。 ありがとう!」

 

そう言ってレイは走り去っていく。

 

『ま、待ちなさい、レイ!!』

 

「あなたも……」

 

呼び止めようとするスレイの声に少女は遮るようにそう言う。

そして続く言葉を紡いでいく。

 

「あなたたちはあの子と同じ……鍵。 ここで争うのは運命ではない」

 

『……あなたは何者ですか?』

 

「今はそのときではない。 そのときになれば……いずれ」

 

『なんでも知っているような口ぶりですね』

 

「ええ。 闇の魔剣のことも光の魔剣のことも賢者の石のことも……」

 

『……ありえません。 私たちのことはこの学園の誰も知らない。 なのにあなたが知っているわけが』

 

「魔と魔が重なりしとき、其は神となる。 神は主に大いなる力を与え、すべてを守護する剣となるだろう」

 

『な……』

 

「信用したかしら……ふふふ」

 

『なんであなたがそれを……』

 

「知っているから……といったでしょう?」

 

当然と言うように少女は告げ、クスクスと笑う。

笑っているはずなのに、その少女の笑みは凍えるような冷たさがあった。

 

『あなたは……いったい』

 

「時が来たら、といったでしょう?」

 

『時……?』

 

「ええ。 闇が覚醒し、世界が終焉を迎えるそのとき……あなたはすべてを知る」

 

『……』

 

「そのときまで……あなたたちの運命がくるそのときまで……」

 

少女は自らを抱きしめる。

そして小刻みに震える。

 

「おとなしくしていなさい……ふふふ」

 

「「「「「「「……」」」」」」」

 

「あははははははははははははははははははは!!!!!」

 

少女は笑う。

狂ったように笑う。

 

『主様!!』

 

「うん!」

 

スレイと美由希はその短いやり取りで行動を起こす。

二人の考えが一致したのだ。

こいつをここで逃がせばまずいことになる。

それが二人の考え。

いや、その場にいた全員の考え。

だからライルたちは美由希に続くように行動を起こす。

少女に攻撃を仕掛ける。

だが……

 

「聞き分けのない子たち……」

 

皆の攻撃は見えない障壁によって無と化した。

 

「「「「「「「!!!!」」」」」」」

 

例外なく皆驚く。

障壁によって守られた少女は小さな、でも皆に聞こえるほどの声で言葉を紡ぐ。

 

「来たれ深淵の闇、地の底より響く憎悪の悲鳴」

 

少女は右手を皆に向ける。

そしてそれは放たれた。

 

「ゾーンスピリッツ……」

 

手から闇が放たれる。

それに皆は一人残らず包まれる。

 

「な、何これ……すごく気持ち悪い」

 

『これは……精神魔法!?』

 

「精神……魔法?」

 

それが何かスレイに問いかけようとする美由希。

だが聞く前にそれは聞こえてきた。

闇の淵に消えていった者たちの嘆きの声。

 

「くっ……」

 

『主様!!』

 

スレイは美由希に呼びかける。

だが、それよりもその声は大きい。

美由希はそれをこれ以上聞きたくなくて、耳を塞ぐ。

だが、それでも声は聞こえてくる。

 

「いやあああああああ!!!」

 

美由希の絶叫が響く。

それと同時にその世界は終わりを告げた。

気づけば元の場所に立っていた。

 

「あ、ああ……」

 

心がそこにないようなそんな表情の美由希。

それは美由希だけではなかった。

そこにいた全員がそんな表情だった。

ただ、一人無事だったスレイに目の前の少女は背を向けながら口を開く。

 

「威力は抑えたから、一時間もすれば元に戻るわ。 それじゃあね、シャインスレイ、鍵の皆さん」

 

そう言って少女は闇の中に姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お兄ちゃん!」

 

「ん? レイか……どこいってたんだ、まったく」

 

「ご、ごめんなさい。 て、それよりも!」

 

「なんだ、そんなに慌てて」

 

「スレイ……光の奴と接触しちゃった」

 

「……ふむ。 それで大丈夫なのか?」

 

「あ、うん。 なんか、途中変な人が来て助けてくれたの」

 

「変な人?」

 

「うん。 レイと同じで闇の魔力を使ってたよ」

 

「ふむ……それでか、かなり強い魔力を感じたのは」

 

「あれだけ強い魔力……初めてだよ」

 

「この学園で何かが起こってるということか……」

 

「たぶん……」

 

「なら、ごたごたが起こる前に見つけるぞ、賢者の石を」

 

「うん!」

 

レイは頷くと恭也と共にその場から歩き去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇は少しずつ、だが着実に学園を、世界を覆い始めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、それは真の闇の目覚めを待つ少女から

 

 

 

 

 

 

 

 

彼への一途な愛だということは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰も知らない。

 

 


あとがき

 

 

後編終了〜。

【咲】 かなり暗い感じで終わったわね。

まあ明るいときは明るい、暗いときはとことん暗いが俺のモットーだからな!

【咲】 ふ〜ん……で、魔剣説明は?

ちゃんと用意してありますよ、今回は。

【咲】 じゃ、ちゃっちゃとしなさい。

では、説明開始〜。

 

 

【闇の魔剣ダーグレイ】

 

【剣の説明】

一昔前にラウエルという人物が作った二刀のうちの一刀。

名前の通り闇を宿す魔剣。

剣自体に精霊が宿りその精霊が主と認めた人にしか扱うことは出来ない。

主になるには闇の理を知るものでなければならない。

賢者の石を守護するという目的で作られたが、その力はそれに匹敵する。

守護するというだけでなぜそこまでの力があるのかは不明である。

 

【精霊の性格】

見た目通り幼い少女のように無邪気で人懐っこい。

だが、これと決めたことは絶対に譲らない頑固なところもある。

そのせいか自身が間違っていても意見を変えず逆ギレすることもしばしば。

恭也やミラの前ではとても素直でキレたことはないが。

唯一の難点はすぐに迷子になること。

 

 

【光の魔剣シャインスレイ】

 

【剣の説明】

一昔前にラウエルという人物が作った二刀のうちの一刀。

名前の通り光を宿す魔剣。

闇と同じで剣自体に精霊が宿っている。

これの主になるには光の理を知らなければならない。

作られた目的は闇と同じであるため、力も闇と同じくらいある。

 

【精霊の性格】

見た目とは違いとても大人びた性格。

表情はいつも無表情で笑ったり怒ったりすることはほとんどない。

主を一番に考え、主の命令ならなんでも聞くというくらいの忠誠を誓っている。

主であるものの友人や知人には様付けしてしまうという癖もある。

例外は敵であるものとレイだけ。

難点を上げれば主の言うことを何でもかんでも信じ込んでしまうということである。

 

 

 

【ゾーンスピリット】

 

闇の上級魔法。

周囲の人間を闇の中へ引き込み、嘆きの悲鳴を聞かせる精神攻撃系の魔法。

取り込まれた人間は例外なく精神を破壊されてしまう。

 

 

 

 

以上、魔剣と今回出てきた魔法の説明です。

【咲】 かなり最悪な魔法ね。

まあ、そうだね。

【咲】 取り込まれたものは例外なくってことは美由希たち……やばいんじゃない?

どうだろうね。

術者も手加減したといってるし。

【咲】 じゃあ大丈夫なの?

それは次回わかることです。

【咲】 そ。 じゃあ早く書きなさい。

へいへい。 じゃ、今回はこの辺で。

【咲】 また次回会いましょうね♪




レイが闇の魔剣だったなんて!
美姫 「意外だったわね」
うん、予想外だよ。
しかし、途中で出てきた少女の目的とは何なんだろう。
美姫 「恭也を目覚めさせる事でしょう」
いや、その後どうするのかな〜と。
美姫 「そう言えば、恭也も賢者の石を探しているわね」
そうか! それが目的だったのか!
美姫 「……まあ、良いけれどね」
何かが起こりそうな予感をひたすら感じさせつつ、また次回。
美姫 「次回も待ってますね」
待ってます。



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