「主様……」

 

「ん……スレイ……帰ってたんだ」

 

スレイの声に美由希は目を覚ます。

具合が良くなっているのか朝よりも顔色はよくなっていた。

そんな美由希の様子を見てスレイは内心で安著し、言うと決めたことを言う。

 

「主様……その」

 

「どうしたの……?」

 

「えっと……あの」

 

言うと決めたのに言葉はいつまで経っても出てこない。

本人を前にすると決めていた言葉が頭の中から抜け真っ白になる。

だから……

 

「主様……私は」

 

「うん……?」

 

「主様が……好きです」

 

自分の正直な気持ちを伝えた。

そしてしばしの沈黙が流れる。

時間にしてほんの数秒でしかない。

だがスレイにはその数秒はとても長く感じられた。

 

「私も……好きだよ、スレイ」

 

沈黙を破ったのは美由希の声。

そしてその言葉はスレイの望んでいた言葉。

 

「あるじ……さま……」

 

「私もスレイが好き。 スレイを妹のように思ってるよ」

 

「あ……」

 

そっとスレイの頬に美由希の手が触れる。

その手から美由希の体温がスレイへと伝わる。

 

「だから……そんなに気負わないで、スレイ」

 

「はい……ありがとうございます」

 

頬に触れる美由希の手に自らの手を重ねる。

気づけば、涙が流れていた。

 

「これからも……よろしくね」

 

「はい……はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

第八話 動き始める運命

 

 

 

 

 

 

 

 

ライルたちは薄暗い地下水路を歩いていた。

学園内を探検していたところこの地下水路への隠し通路を発見し好奇心からここへ降りたわけである。

地下水路は地下なだけあり学園内よりも薄暗い。

ほとんど手に持つ明かりだけが頼りである。

そんな場所をライルたちはゆっくりゆっくり進んでいく。

 

「ほんとに暗いな〜……」

 

「地下水路だからしょうがないよ、ライル」

 

愚痴をこぼすようにそう言うライルに苦笑しながらジャスティンが返す。

そんなやり取りをしながら一同は進んでいく。

 

「――――っ」

 

どれくらいか歩いたとき、不意に奥のほうから声らしきものが聞こえてくる。

少し離れているためか性格に言葉を拾うことはできない。

 

「な、なにかいるみたい……」

 

「魔物でしょうか……?」

 

ライルたちは警戒をしながらその声のしたほうへと近づいていく。

そしてある程度近づいたとき、その声ははっきりと聞こえるようになる。

 

「お兄ちゃ〜ん……どこ〜……」

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

その声にライルたちは声を揃えて驚く。

その声は聞いたことのある声だったのだ。

しかもそれはつい最近……そう、昨日だ。

ライルたちは顔を合わせて頷きあうと少し早足気味で近寄る。

 

「だ、だれ?」

 

そこにいたのは案の定、昨夜の少女―レイだった。

レイはライルたちの姿が見えるようになるとあからさまに警戒し始める。

そして昨夜の如くじりじりと後ずさっていく。

 

「君、昨日の子だよな?」

 

「だったらなに? 私を捕まえようっていうの?」

 

「いや、そういうわけじゃないけど……とりあえず警戒しないでくれるかな? 君の思ってるようなことはしないから」

 

「信用できないよ」

 

「でも、警戒を解いてくれないとちゃんと話ができないだろ?」

 

「別にしたくないし」

 

ライルの言葉をばっさりと切り捨てる。

さすがにライルは困ったように唸り始める。

 

「そういえばこの子、なんでここにいるのかな?」

 

その疑問はその場にいた全員が思っていた。

ジャスティンの言った言葉にわかりやすいくらいびくっと反応する。

 

「もしかして迷子……とか?」

 

「いや、さすがにそれはないんじゃないでしょうか」

 

瑞穂はモニカの言葉を否定するが自信はなさげだった。

だが、ジャスティンがこの話題を出してからレイはまったく言葉を発しない。

しかも顔を見てみると今にも泣き出しそうな顔をしている。

その様子にライルたちは確信してしまう。

 

「迷子……なのか」

 

「ち、ちがうもん! ちょっとお兄ちゃんとはぐれちゃっただけだもん!」

 

「それを世間では迷子っていうんだぞ?」

 

「う……」

 

正論を言われ、レイの目はうるうると今にも泣きそうな目になる。

そんな目をされ、さすがのライルも慌てる。

 

「そ、そうだ。 俺たちがそのお兄ちゃんを一緒に探してあげるよ!」

 

「え……ほんと?」

 

「あ、ああ。 皆もいいよな?」

 

ライルの言葉に誰も異は唱えなかった。

さすがに泣かれるよりはいいと思ったのだろう。

 

「あ、ありがと〜!」

 

泣きそうな顔から一転して満面の笑顔になる。

それを見て皆が内心ほっとするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで……レイ、だったよな、たしか」

 

「うん! お兄ちゃんは?」

 

「俺はライル、隣にいるのがモニカで後ろにいるのが右からジャスティン、リサ、フィリス、瑞穂だよ」

 

紹介と共に頭を下げたりよろしくといったりという風に挨拶する。

 

「それで、レイはどこでそのお兄ちゃんとはぐれたんだ?」

 

「えっと……わかんない」

 

「は?」

 

「気づいたらいなかったの……」

 

レイの迷子になる原因はその好奇心にある。

見る物すべてといってもいいくらい興味を示すのだ。

だから、他のものに気を取られ気づけばはぐれている。

そのためどこではぐれたかもわからないのでかなりやっかいである。

それは親しい者なら知っていることなのだが、口を利いたのが今日初めてのライルたちは驚きと同時にかなり困る。

 

「あ、そういえば……」

 

「何か思い出したの?」

 

「はぐれる前にお兄ちゃんとどこに行こうとしてたのか、なんだけど」

 

「どこ?」

 

「お城の外、だったと思うよ」

 

「お、思うって……」

 

語尾に思うをつけられるとかなり不安な感じに聞こえる。

だが、今は手がかりがないためとりあえずそこを目指すことにした。

 

「でも、お城の外ってことは学園の外だと思うけど、それがどうして地下水路に迷い込んだんだ?」

 

「お兄ちゃんが言ってたの。 ここの出口がお外に繋がってるって」

 

「へ〜。 レイのお兄ちゃんって学園関係者なのか?」

 

「ううん、違うよ」

 

「あれ? じゃあ、なんでそんなに学園に詳しいの?」

 

「う〜ん……お兄ちゃんに直接聞いて。 私じゃちゃんと説明できないし」

 

「そっか。 じゃあとりあえず探すのが先だな」

 

会話をしながら地下水路の奥へどんどん歩いていく。

 

「そういえば、今日はなんであいついないの?」

 

「あいつ? ……ああ、美由希とスレイのことか」

 

「うん……で、なんで?」

 

「体調が優れないで今日は部屋で休んでるんだよ」

 

「ふ〜ん……あっ」

 

一同が歩き続け、やっとのことで出口らしき階段を見つける。

そしてその階段の横には一人の人影があった。

 

「お兄ちゃ〜ん!!」

 

嬉しそうな笑みを浮かべてレイはその人影に走りよる。

人影のほうもレイの声を聞いてかゆっくりとレイのほうへ歩み寄る。

そしてその人影がライルたちの見える位置まで近づき、その人物にライルたちは驚く。

 

「きょ、恭也じゃないか」

 

「ん? ライルか?」

 

「あれ? お兄ちゃん、知ってるんだ」

 

恭也の腕に抱きつきながら意外そうな顔する。

 

「ああ。 学園でたまに会うことがあったからな」

 

「そうなんだ〜」

 

「それはそうと……あれほど迷子にならないようにと言っただろ」

 

「あう……ごめんなさい」

 

「はぁ……まあ合流できたしいいとしよう。 ライルたちがここまで連れてきてくれたのか?」

 

「うん」

 

「そうか。 すまなかった、ライル。 それに皆さんも」

 

頭を下げる恭也にライルたちは少し慌てた様子で気にしないように言う。

 

「それじゃあそろそろ行こうよ、お兄ちゃん」

 

「ああ」

 

「ま、待つっす!」

 

背を向けようとする恭也に突然リサが待ったをかける。

それに恭也は動きを止め、リサに視線を向ける。

 

「どうかしましたか?」

 

「リサと勝負するっす!!」

 

「はい?」

 

恭也はなぜいきなり勝負なのかわからず首を傾げ、ライルに説明を求めるような視線を向ける。

視線を向けられたライルは小さく溜め息をついて説明する。

 

「いや、最初に会ったときにな、恭也がただものじゃないって話をしてたんだ。 それでリサが戦ってみたいっていうから頼んでみるように言ったら真に受けちゃって……」

 

「……はぁ」

 

説明を聞き終わり恭也も溜め息をつく。

そしてちらっとリサに視線を向けてみるともうやる気満々だった。

 

「やってみたら、お兄ちゃん? 私を扱う訓練にもなるし」

 

「いや、レイを使って戦うのもな……」

 

「でも、八景は今ないでしょ? お兄ちゃんはこの辺りだと小刀とか飛針だけでも戦えるから」

 

「まあ、な……」

 

普段は持っているが学園での行動のときはほとんど携帯していないのだ。

だから、リサが戦いたいというのはおそらく本気の自分と戦いたいということだとわかっている。

しかし、レイを使うと反則のように感じてしまうためそれも躊躇われる。

 

「でも、あっちはやる気満々だよ?」

 

「難儀だな……」

 

「だから〜、レイを使って戦っちゃえばいいんだよ」

 

「はぁ……それしかないか」

 

溜め息を一つついて恭也はレイを使うことに決める。

 

「ライルたちも参加するのか?」

 

「いや、俺たちはいい。 この勝負はリサ個人の意思だからな」

 

「そうか……」

 

頷くと恭也はレイに視線を向ける。

その視線にレイはわかってるとばかりに頷き、黒い気を放ち始める。

それは昨夜のような魔力が溢れるような感じであってどこかが違った。

黒い気がレイを包み、気が晴れるとそこには刀身まで真っ黒な小太刀があった。

恭也はそれを握り、リサのほうへ向く。

 

「それじゃあ、始めましょうか」

 

「来いっす!!」

 

リサは恭也の言葉と同時に拳を構える。

そのリサの構えに恭也はほうと感心したような声を上げる。

 

「隙の少ない、いい構えだ」

 

そう言う恭也の顔には少しだけ笑みが浮かんでいる。

 

『闇刃はどうしようか?』

 

『いや、あれは使わない。 当然魔法もな』

 

『ん〜、じゃあ闇歩は?』

 

『闇歩も……といいたいところだがあれはまだ完全に使いこなせていないからな。 練習がてら使ってみよう』

 

『りょ〜か〜い』

 

念話でそう話し合うと恭也はリサへと切りかかる。

リサの武器は拳のみであるため剣類との戦い少し不利である。

 

「はっ!」

 

横一閃をリサは見切ったように避け、拳を繰り出す。

 

「ほう……」

 

その拳をリサと同じく見切ったように避ける恭也。

避けると同時に蹴りを放つ。

小太刀での攻撃でないためリサはそれを腕で受け止めるが、それは間違い。

その蹴りには徹が込めてあるのだ。

だが、徹の衝撃が入っているにも関わらずすぐに攻撃へと移ってくる。

恭也は内心驚きつつリサの攻撃を捌いていく。

自らの攻撃がまったく当たらないことにだんだん焦りが出てきたのかリサの攻撃は単調になってくる。

 

「ふむ……」

 

リサが放った蹴りを避けると同時に後方へと下がる。

息がまったく上がっていない恭也とは違い、リサは少し息を切らせていた。

 

「只者ではないとは思っていましたが、あれほどとは」

 

「リサは俺たちの中でも結構強いほうだけど……そのリサを赤子の手を捻るように扱う恭也って」

 

「すごい、としかいいようがありませんね」

 

「そういえばあの剣って……スレイと同じなのかな?」

 

「どうなんだろうな……これが終わったら聞いてみようぜ」

 

二人の勝負を見ているライルたちはそんな会話をしていた。

そのライルたちの会話が聞こえていた恭也は疑問が浮かびそれをレイに尋ねる。

 

『スレイ? レイと同じ剣ということは光の魔剣か?』

 

『うん。 昨日ライルお兄ちゃんたちと一緒にいたよ。 主も一緒に』

 

『ということはあの中に主が?』

 

『ううん、光の主は眼鏡で三つ編みの女だよ。 今日はいないみたいだけど』

 

『眼鏡に……三つ編み。 もしかして……』

 

『知ってるの、お兄ちゃん?』

 

『俺の知っている奴と一致するんだ。 確証はないがな』

 

『ふ〜ん。 じゃあとりあえず勝負を終わらせてから直接聞いてみたらいいんじゃないかな?』

 

『ああ、そうだな。 では、あれを使うぞ』

 

『闇歩? わかった〜』

 

話を終えると恭也は構えを解く。

それに直感的に何か来ると悟ったリサは警戒する。

 

「我、闇夜を渡り歩く者……闇より訪れ、闇へと消える者なり」

 

 

御神流闇式 歩法術 闇歩

 

 

「え?」

 

恭也が詩のような言葉を呟くと同時に姿が消える。

ゆっくりとゆっくりと……まるで闇の中に溶け込むように。

そして……

 

「っ……」

 

気づけば後ろから小太刀を突きつけられていた。

それはリサの負けを意味する。

 

「まいったっす……」

 

リサがそう言うと恭也は小太刀を退ける。

そして小太刀は黒い気を放ち始め、少女の姿に戻る。

 

「速度、鋭さ、どれも申し分ないほどです。 ですが後半からは攻撃が単調になってました。 避けられて焦ったからだとは思いますが、単調になればなるほど攻撃は当たらなくなります。 ですからそこを直すともっと強くなると思いますよ」

 

「わかったっす! そこを直してもっともっと強くなるっす!」

 

恭也の助言を素直に聞き入れる。

こういうところがリサといいところでもあるだろう。

二人の勝負が終わったためライルたちが近寄ってくる。

 

「恭也ってすっごい強いんだな……」

 

「そんなことはない。 俺なんてまだまだだ」

 

「いつも思うけど、お兄ちゃんは謙遜しすぎだよ〜。 少しは自信持ったほうがいいよ」

 

「ふむ……善処しよう」

 

そう言いながらレイの頭を撫でる。

レイはそれに目を細めて気持ち良さそうにする。

 

「そういえば最後に使ったあれ、なんなんだ?」

 

「あ、それはリサも気になったっす」

 

「あれは俺が編み出した歩法術だ。 まあレイの力を借りないとできないがな」

 

「へ〜。 と、もう一つ聞きたいことがあったんだった」

 

「ああ、ちょうど俺もライルたちに聞きたいことがある」

 

「じゃあ恭也が聞きたいことから先に言ってくれ」

 

「ああ。 さっきレイに聞いたんだが……」

 

恭也はそこで少し間を置く。

それは自分の考えが外れてくれという恭也の願いの間だったのかもしれない。

 

「この学園に……美由希という奴がいないか?」

 

外れてくれ。

ライルの言葉が返ってくる間、恭也はずっとそう思っていた。

だが、恭也の期待は打ち破られる。

ライルの答えによって。

 

「美由希? ああ、確かにこの学園にいるな」

 

「……それは三つ編みで眼鏡をかけているか?」

 

「ああ。 でも、なんでそんなに詳しいんだ?」

 

「いや、ちょっと知り合いでな……」

 

それだけ言うと恭也は何か考え込む。

 

(美由希がこの世界に来ている? なぜ? いや、この世界に来ているということとレイの言ったことからするとあいつが……光の主)

 

「お〜い、恭也〜」

 

「ん? あ、ああ、すまん。 それでライルは何が聞きたいんだ?」

 

「あ〜、レイのことなんだけどさ」

 

「レイのこと?」

 

「私?」

 

「ああ。 ほら、昨夜レイとスレイが知り合いだってこととさっきのことで思ったんだけど。 レイもスレイと同じなのか?」

 

「うん。 少し違うところはあるけどだいたいは同じだよ」

 

「へ〜、そうなのか……」

 

なぜか納得したように頷くライル。

後ろにいた面々もライルと似たような表情だった。

 

「聞きたいことはそれだけか? それなら俺たちはもうそろそろ行くが……」

 

「あ、ああ。 引き止めて悪かったな」

 

「いや、こちらもレイが世話になったしな。 ああ、それと……」

 

「ん? なんだ?」

 

「その美由希に伝言を伝えてくれ」

 

「ああ、わかった。 なんて伝えるんだ?」

 

恭也はライルたちに背を向けながら伝えるべき言葉を言う。

 

「この学園を出た北のほうにある遺跡で待っている……と」

 

そう言うと恭也はレイと共に歩き出す。

そして闇に溶け込むようにその後姿は見えなくなっていった。

 

 


あとがき

 

 

第八話でやっと美由希がここにいることを恭也は知る、と。

【咲】 けっこう遅かったわね。

ほんとはもうちょっと先になるはずだったんだけどね。

【咲】 ならなんで早めたわけ?

あんまり先延ばしするといろいろと面倒なことになるから。

【咲】 ふ〜ん……そういえば思ったんだけど。

なんだい?

【咲】 恭也とミラのカップリングだって聞いたけど、ライルは誰となの?それと美由希は?

ライルについては後々になるとわかるよ。美由希は特になし。

【咲】 特になしって……。

まあ、これも後々になればわかるよ。

【咲】 そればっかりね。

しょうがないだろ。 じゃ、今回はここまで。

【咲】 また次回ね〜ノシ

 

 

 

 

 

【御神流闇式 歩法術 闇歩】

恭也が編み出したダーグレイの力を使って使用できる歩法術。

神速と違い速度が速くなったりするわけではなく、気配と姿を魔法で消すことで相手から知覚されずに忍び寄ることができる。

それは相手から見ればまるで闇に同化したように見える。

使用時間は本人の魔力量に左右される。




ようやく恭也が美由希の存在に気付く。
美姫 「いよいよ、二人が出会う事になるのかしら」
どうなるんだー! とっても気になるぞ〜。
美姫 「美由希の反応も気になるわよね」
うんうん。どっちにせよ、次回が待ち遠しい!
美姫 「次回も楽しみに待ってますね」
待ってます!



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る


inserted by FC2 system