投降した恭也たちは地下牢へと入れられた。

そこは地下牢というよりは普通の部屋というような感じである。

 

「それではあなたはホムンクルスなのですね?」

 

「ええ、そうよ。 爺さんの研究の失敗のせいで今では哀れな吸血鬼になってるけどね」

 

現在、地下牢ではミリアムによる交渉が行われていた。

その交渉とは情報提供するのなら、ミラが望んでいることを叶えてあげるというものだった。

ミラの望みとは人間になりたいというもの。

それは賢者の石を使うことでできるはずだった。

だが、賢者の石は失われミラはその手段を失った。

だからミリアムの言っていることはミラにとってとても魅力的なことだった。

プライドというものもあるが囚われの身となった今、それくらいの妥協は必要と判断し、ミラはそれを受け入れる。

 

「あなたたちもそれでいいですね?」

 

「ああ。 その条件なら俺たちから言うことはない」

 

「私もだよ〜」

 

二人の望みとミリアムの提示した条件は一致していた。

二人の望みはミラの望みを叶えること。

だから特に言うこともない。

というかこちらからお願いしたいくらいだった。

 

「わかりました。 ではことが終わり次第、ミラさんの望みを叶えましょう」

 

ミリアムはにっこりと笑ってそう言うと地下牢を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

第十一話 ただ君のために……

 

 

 

 

 

 

 

 

地下牢に入れられて一日が経った。

三人は特にすることもなく椅子にやらベッドやらに座っている。

ミラはじっとしていることには馴れているからか特に苦痛には感じない。

だが、恭也とレイは若干苦痛を感じていた。

だからか、恭也は立ち上がり床にうつ伏せになると腕立て伏せを開始した。

 

「恭也……何やってるの?」

 

「ん? 何って……腕立て伏せだが?」

 

「そうじゃなくて……はぁ、やっぱりいいわ」

 

疲れたように溜め息をつく。

今までじっとしているということが少なかったのか恭也のこういう面を初めてみたミラは呆れるばかりだった。

それからしばらくし、ただ腕立て伏せをすることに不満を感じてきた恭也は動きを止めずにレイに言う。

 

「レイ、ちょっと手伝ってくれないか?」

 

「手伝うって、何を?」

 

「ああ、俺の上に乗ってくれ。 この部屋にはちょうどいい重りがないからな」

 

「それって女の子に頼むようなことじゃないと思うけど……ま、いっか」

 

レイは椅子から立ち上がり恭也の背中に乗っかる。

それがちょうどいい重量となり満足感を感じながら恭也はまたしばらく腕立て伏せを続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、一つしかベッドがないためか恭也は椅子に腰掛けながら眠る。

ミラは構わないといったが恭也自身が拒否したのでそうなったわけである。

 

「う……んん……」

 

その呻きに恭也は閉じていた目を開く。

そして立ち上がり呻きの元へと近づいていく。

 

「大丈夫か、ミラ」

 

「きょう……や……?」

 

恭也に視線を向けながらも苦しそうにしているミラ。

その状況を見て恭也は悟ったかのように肩の部分をミラに差し出すように近づける。

 

「俺の血を吸え、ミラ」

 

「で、も……」

 

「俺は血の気が多いほうだから多少吸われても大丈夫だ。 それにミラが苦しんでるのを見るのは、嫌なんだ」

 

ミラを抱き起こし顔をその部分へと向けさせる。

それにミラは我慢できなくなったのか恭也の肩に歯を立て血を吸いだす。

 

「ん……んく……」

 

ゆっくりゆっくりと飲んでいく。

飲んでいくうちにミラの顔色はだんだんとよくなっていく。

 

「恭也の血……美味しい……」

 

飲みながらうわ言のように呟く。

しばらく血を飲み、満足したミラは肩から口を放す。

 

「っ……」

 

「大丈夫、恭也?」

 

多く吸われたのか眩暈を起こす恭也にミラは心配そうに声をかける。

心配そうな顔をしながら声をかけてくるミラを安心させるように恭也は微笑を浮かべる。

 

「大丈夫だ。 言っただろ? 血の気は多いほうだって」

 

「うん……ありがとう、恭也」

 

「満足してくれたのなら何よりだ」

 

そのまま、二人はしばらく離れなかった。

互いの温もりを感じ合うように抱き合っていた。

 

「恭也……」

 

「ミラ……」

 

若干体を離し、二人は見つめ合う。

そして目を閉じ、二人の唇は近づいていく。

 

「じ〜……」

 

そこで気づく。

さっきから興味津々で二人の様子を見る人物に。

 

「レ、レイ……いつの間に」

 

「ていうか同じ部屋なんだからずっと見てたけどね〜」

 

「こ、声をかけてくれればいいのに」

 

「お邪魔かな〜って」

 

その後、二人はしばらくレイにからかわれていた。

からかわれる二人は終始顔を真っ赤にしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

それからしばらくし、ミラは安らかな寝息を立てながら眠っていた。

眠るミラを愛おしいように恭也は撫で、そして立ち上がる。

その手には恭也の愛刀、八景が握られていた。

 

「お兄ちゃん……ほんとに行くの?」

 

「ああ」

 

「でも……きっとミラお姉ちゃんは怒ると思うよ?」

 

「それでも……俺は行く。 奴がいる限り、ミラはずっと苦しむことになるから」

 

恭也の決意は固かった。

これから恭也がしようとしていること。

それはこの事件の元凶、アイザックを討ちにいくこと。

 

「勝てないかもしれないんだよ? 死んじゃうかもしれないんだよ?」

 

恭也を踏みとどまらせようとレイは言葉を紡ぐ。

確かに戦っても勝機はほとんどないに等しい。

それほどアイザックは脅威なのだ。

だが、恭也の決意は絶対に揺らぐことはない。

 

「俺の身を賭けてでも……必ず奴を討つ。 それがミラを救うことになるのだから」

 

「そんなの……だめだよ。 お兄ちゃんが死んじゃったらミラお姉ちゃんが悲しむよ」

 

「だが、これだけは譲れないんだよ、レイ。 これは誓いなんだ。 ミラとの……そして俺との」

 

止めることはできない。

それほど恭也の決意は強い。

だからもうそれ以上レイは何も言わなかった。

 

「ゲート……開くよ」

 

「ああ、頼む」

 

レイは詠唱を開始する。

そしてすぐにそれは終わり、ゲートは開かれる。

恭也は手に持つ八景を強く握り、ゲートへと歩き出す。

ゲートの前に立ち、ミラのほうへ振り向く。

 

「ミラ……もしかしたらこれが最後になるかもしれない。 だから言うよ……」

 

ふっと微笑み、恭也は愛おしそうに言う。

 

「愛してるよ、ミラ……この世の誰よりも」

 

「君だけは守るから……たとえ、この身に朽ちることになったとしても」

 

その言葉を残し、恭也はゲートの中へと姿を消す。

それに続くようにレイもゲートへと入り、そしてゲートは閉じられる。

後の残ったのはただ安らかに眠るミラだけ。

 

「恭也……」

 

眠っているにも関わらずミラは呟くように恭也の名を口にする。

そして呟くミラの頬には一筋の涙が流れるのだった。

 

 


あとがき

 

 

十一話はちょっと短かったかな〜。

【咲】 そうね。

でも、ここが一番区切りがいいからね〜。

【咲】 確かにそうだけどね〜……で、次回はどうなるのかしら?

まあ、見た感じわかると思うけど、アイザックと対峙する恭也っていうのがメインかな。

【咲】 ふ〜ん……。

ということで、終盤の終盤へと差し掛かったわけです。

【咲】 何がということでなのかわからないんだけどね。

あ、あははは、ともかく予定では残り三話ということになります。

【咲】 意外に短いわね。

そうだね。 で、最終話のここである告知をします!

【咲】 どうせくだらないことでしょ。

失礼な……ということで、この作品を見てくれた方々、是非とも最後までお付き合いください!!

【咲】 じゃ、今回はこのへんでね♪

次回また会いましょう!!




いよいよ元凶との対決。
美姫 「そこで何が起こるのかしら」
あの謎の少女はどうなっているのか!
美姫 「次回、次回も待ってますね」
待っています!



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