突然聞こえた声に皆は言葉を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声は皆がよく知る、だがもう聞くことの叶わないはずの声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてある一人にとっては、忘れられない愛しき人の声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あう……」

 

美由希の呻き声で皆は我に返る。

影は首を掴んでいた手を離し、美由希は地面に尻餅をついて咳き込んでいた。

美由希から手を離した影は美由希から視線を離しゆっくりと消えていく。

完全に影が消えると皆は美由希のところへと駆け寄った。

 

「だ、大丈夫ですか、美由希さん」

 

「けほっ……な、なんとか」

 

まだ若干苦しそうにしながらも美由希は頷く。

 

「私よりも……その子は」

 

「……」

 

フィリスの抱える生徒の安否を確認するように美由希は聞く。

聞かれたフィリスは言葉で答えるのではなく、首を横に振ることで答える。

 

「そう、ですか……」

 

また犠牲者を出してしまった。

それが美由希を暗く沈ませる。

だがそれは美由希に限ったことではない。

その場にいた全員が同じ思いなのだ。

 

『そういえば、さっき聞こえた声……皆も聞こえた?』

 

レイの言葉で皆は先ほどのことを思い出し頷く。

だがその中で一人だけ、頷くことすらできないものがいた。

 

「そんな…そんなはず……」

 

ミラは八景を抱きかかえるようにして震えながら呟く。

皆ですら、あの声が聞こえたときは信じられないと思いながら呆然とするしかなかった。

それがその声の人物と親しい仲にあったミラならば、皆以上に信じられないと思っても無理はない。

その声が聞こえたことが信じられないほどに……

 

「恭也……」

 

お互いを深く、想い合っていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

【第二部】第六話 学園という名の檻

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八景を抱いたまま、ミラは自室のベッドで眠る。

眠るミラの目元には涙が浮かんでおり、うわ言のように、恭也、と漏らす。

それをベッドの横で美由希、スレイ、レイの三人が見守るように座っている。

あの後、巡回の時間もすでに終わっていたため、生徒の亡骸をフィリスに任せて三人は部屋に戻ることにした。

だが、ミラは今のようにずっと八景を抱いたまま、恭也、と繰り返すだけで歩き出そうとはしなかった。

それほど、あの声に対するショックが大きいのだ。

しかし、このままその場にいても意味がないため、動き出そうとしないミラを美由希が抱き上げて部屋まで連れて行ったのだ。

部屋に戻った三人はミラをベッドに寝かせ、落ち着くまで傍にいた。

それから十数分くらい経った頃、次第に落ち着いてきたのかミラは目を閉じて眠った。

ミラが寝たことで三人はほっとし、自分たちも眠りにつこうとしたがミラの様子を見るとそれができなくなった。

恭也、恭也、と呟き、涙を浮かべるミラを見ると、今までどれだけ我慢してきたのかが感じ取れ胸が痛くなる。

ミラは今まで弱音らしきものは一つも吐かなかった。

それはミラが立ち直りを見せたのだと三人は思っていたのだが、今のミラの様子がそれは間違いだったと語っている。

立ち直ったんじゃない、ずっと我慢してきたのだということを。

悲しみを、孤独を……ずっと、ずっと。

それに気づけなかった、気づいてあげられなかったことが三人の胸を痛める。

 

「ごめんね……ミラお姉ちゃん」

 

眠っているミラがその言葉を聞いているわけじゃないけど、レイは謝罪を口にする。

そしてミラの頭に手を伸ばして、いつもミラがしてくれたように優しく撫でる。

美由希とスレイも口にはしなかったが心の中は謝罪の言葉でいっぱいだった。

気づいてあげられなくて、ごめんね。

つらい思いをさせて、ごめんね。

そんな言葉で、いっぱいだった。

 

「ごめん……っ……ね」

 

レイの目からも涙が流れる。

ミラの今まで耐えてきた悲しみを感じるように涙を流す。

気づけなかった自分の不甲斐なさに涙を流す。

 

「レイ……―――」

 

「っ!」

 

そのとき、ミラが呟いた言葉はレイの驚愕した。

一番悲しいのはミラのはずなのに。

一番苦しかったのはミラのはずなのに。

それなのに、ミラが呟いた言葉はレイが予想だにしなかった言葉。

本来なら、レイがミラに言っても言い足りない、言葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで……なんでミラお姉ちゃんが謝るの」

 

聞いても答えることはない。

でも、聞かずにはいられない。

 

「ミラお姉ちゃんは……全然悪くないのに」

 

流れる涙を止められず。

溢れ出る言葉も、止められず。

答えが返ってくる事もないのに。

レイは聞き続ける。

 

「悪いのは、私なのに……どうして」

 

聞くことをやめないレイに美由希とスレイは口を挟めずに。

涙を流すレイを慰めることなんて出来ずに。

二人はただ、見ているだけしか出来ない。

 

「う…っ……うあぁぁ…」

 

レイはずっと、涙を流し続けた。

何十分も、何時間も……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、午前の授業が始まる一時間近く前。

学園の教師たちは昨日と同じ部屋にて会議を行っていた。

その中にミラとレイは入ってはいない。

二人は昨日のこともあり、今日は休みを取らせるという形で欠席しているのだ。

そして二人を抜かして行われている会議の内容は昨夜のことに関して。

生徒を深夜外出禁止にしたにも関わらず、またも犠牲者を出してしまった。

このことはすぐにでも生徒の間に広がるだろう。

そうなれば、生徒たちの恐怖感はさらに強まり、下手をすれば正気でいられなくなるものも出てくる。

これはおそらく免れることの出来ない事態。

だから、一刻も早くこの事件を解決しなければならない。

これはそのための対策会議である。

 

「昨夜の生徒も、死因は前回と同じです。 このことから同一犯である可能性があります」

 

「そうですか……それで、フィリス先生と美由希先生、それとスレイさんはその犯人を目撃したのですよね?」

 

「はい。 ですが、フィリス様のおっしゃられた同一犯である可能性は限りなく低いと思われます」

 

「それは、なぜですか?」

 

「一昨日の夜も私たちは昨夜目撃した犯人と同じ姿をした者と交戦したんです。 それはその日生徒が死亡した時間も通して続いていましたから、昨日の犯人と一昨日の殺害犯が同じということはないと思うんです」

 

フィリスは殺害犯である影を昨日のものしか見てはいない。

だが、美由希とスレイはそれ以外の影を見ているため、フィリスの言った可能性を否定する。

 

「つまり、事件の犯人は二人いる、ということですか?」

 

「二人、というのは断定できませんが、少なくともそのくらいいるのではないでしょうか」

 

スレイの答えにジャスティンは、そうですか、と重々しく頷く。

犯人が最低でも二人はいる。

そして生徒たちを夜、部屋から出ないようにしても無意味。

このままではさらに被害は増え続ける一方だろう。

 

「なら、事件解決まで生徒を学園外に非難させておくのはどうでしょうか?」

 

ある教師がそう提案する。

だが、その提案は違う教師によって否定された。

最悪の事実を突きつけると共に。

 

「それは無理でしょう。 昨日、機械室を見回った際に橋を下ろすために機械はすべて破壊されていました」

 

「な、なら地下水路や渡し舟を使えば……」

 

「それらも考え、もう調査積みです。 地下水路への扉は何者か、おそらくは犯人でしょうが封鎖されてしまっています。 渡し舟に関しましても橋のほうには一隻も残されてはいませんでした」

 

その教師が述べたことは、言わば最悪の事態。

外へと続く道をすべて絶たれてしまったということなのだ。

 

「つまり、生徒を含めた私たち全員は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「閉じ込められたということですね……この学園という監獄の中に」

 

 


あとがき

 

 

【咲】 唐突だけど、あんたサスペンス物、好きでしょ?

ああ、大好きだよ。

【咲】 やっぱりね……。

この話もそういったのを意識してるからな。

【咲】 殺人事件の起こった島から解決するまで脱出ができなくなる。あんたが好きそうな展開よね。

まあな。 でも、サスペンス物というよりは、名探偵コ○ンとか金○一少年の事件簿って感じだとなんか俺自身思ったり。

【咲】 でも、前も言ったけど収拾つくわけ、これで?

つけてみせますよ。

【咲】 妙に自信ありげじゃない、珍しい。

珍しいは余計だけど、まあ、自信はそこそこにある。

【咲】 ま、それが最後まで続けばいいんだけどね。

ど、努力するさ。

【咲】 そこはがんばるって言いなさいよ……いや、がんばるもダメね。続けるみせるとかじゃないと。

それは欲張りというものだよ。

【咲】 それもそうね。

素直に納得されるのも悲しいな……。

【咲】 じゃ、今回はこの辺でね♪

また次回会いましょう♪




クローズド・サークルと呼ばれるものをご存知ですか。
美姫 「いや、そんなどこぞの超能力者みたいな台詞は良いから」
ちっ。
美姫 「ほほう。この私に舌打ちを」
あ、いや、これは違うんだよ。そう、たまたま舌がね。
美姫 「そう偶々舌が勝手に鳴ったの」
そうそう。困ったもんだよ。
美姫 「そんな困った舌なんて、引っこ抜いちゃおう♪」
可愛らしく恐ろしい事をさらりと口にしますね、あーた。
美姫 「さっさ」
いやいや、何か可笑しいから。
美姫 「なら、大人しく殴られる?」
何で! ほら、お話、お話!
美姫 「確かに、閉じ込められた状態というのは困るわよね」
ああ。下手をしたら、無意味にパニックになる生徒も出てくるぞ。
美姫 「結果、助からないと思い込んだ者による暴動が起きる可能性も」
一体、どうなるんだろうか。
美姫 「あの声の正体も気になるしね」
次回はどうなる!?
美姫 「それでは、また次回で!」



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