悪神ロキと女巨人アングルボダとの間に生まれた三人目の子供。

死者の国を支配し、女神とも魔物ともされている存在。

それがヘルだ。

 

 

 

 

 

ヘルは生まれながらにして強すぎる力を持っていた。

本人はそれを特に良いことにも悪いことにも使うことなく、ただ普通に過ごしていた。

しかし、ヘルの力が自分たち神々に災難や不幸を起こすのではないかと皆は恐れた。

故に両親や二人の兄を除いて、誰もヘルとは関わろうとはしなかった。

だが、ヘルはそれを特に苦であるとは思わなかった。

両親と兄たちがいればそれだけで幸せだった。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、ヘルの幸せは長くは続かなかった。

自分たちへ齎されるかもしれない災難や不幸を恐れた主神オーディンは神々に命を下したのだ。

その命は、ヘルを捕らえ二ヴルヘイムへと追放せよ、というもの。

下されたその命令に両親と兄たちは反対しヘルを守ろうとした。

だがその努力空しく、ヘルは神々に捕まり二ヴルヘイムへとただ一人投げ込まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

二ヴルヘイムに投げ込まれたヘルにオーディンはある権限を与えた。

それは二ヴルヘイムを訪れる死者の運命を決めるという権限。

そしてそれと同時に九つの世界を支配できるほどの力を与えられた。

だが、ヘルはそんな権限も力も欲しくはなかった。

ヘルの願いは一つ、両親や兄たちの元に帰して欲しい、ただそれだけだった。

しかし、その願いは決して受け入れられることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつか皆のところに帰してもらえる。

それを信じてヘルはずっと孤独に耐え続けていた。

しかし、そのヘルの希望を砕くこと出来事が起きた。

神々と巨人の戦争、ラグナロクが起き神々の世界が沈んでしまったのだ。

それにより神々の世界が沈む中、ヘルのいる死者の国二ヴルヘイムのみが残された。

そしてそれはヘルにとって両親を、兄たちを、そして帰る場所さえも失ったということを意味していた。

こうしてヘルが心の支えとしてきたものがすべて失われてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが人々の間で語られている神話の中のヘルに関してのこと。

それ以上のことは神話上でも語られてはおらず、ヘルがどうなったかも記されることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

【第二部】第十八話 二つの世界を繋ぐ鍵

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「……」」」」」」

 

恭也(悪)の口にした少女の名にほとんどの者は絶句する。

まあ美由希とレイに至っては名を聞いてもわからないため首を傾げているのだが。

その二人を除いた皆が絶句している理由は簡単に信じられないからだった。

いきなりあの少女が神話上で登場する死の女神ヘルであるなどと言われれば誰でも信じられないと思うだろう。

それを考えれば以前の話で出てきた二ヴルヘイムというのもそうだが、それと同じくらいこの事実が信じられない。

 

「二ヴルヘイム……そして今度はヘル、ですか。 これではまるで……」

 

ジャスティンの言葉はそれ以上続かず俯いてしまう。

信じられない事実に信じられない想像が浮かんだが、それを口にするのが躊躇われた。

ジャスティンが思ったそのことは今まで誰も考えなかったわけではない。

だが、誰も事実それがあると実証できなかったのだ。

しかし、その誰もが実証できなかったそのことが今、目の前の青年の言葉によって存在を証明されることとなった。

 

「そう、お前の考えたとおり……神々の世界は実在していたんだ」

 

ジャスティンが躊躇った言葉を恭也(悪)はまったく躊躇うことなく言う。

それにやはりというか、皆の間には若干の動揺が走った。

 

「では……ヘルというその少女も」

 

「ああ。 あいつも正真正銘、本物だ」

 

動揺はある種の絶望へと変わる。

神と巨人族との間に生まれた存在であるヘル。

それはヘルが神と同等の存在であるということを示す。

そして神話上での話が本当ならば、ヘルは神々でさえ恐れた力を持つのだ。

これが意味するのは、人では決して敵わない存在である、ということだった。

 

「そんな相手に……どうしたら」

 

絶望からかジャスティンは暗い表情で呟き俯く。

他の面々も同じ様子でだった。

 

「手がないわけではない」

 

だからその恭也(悪)の言葉には耳を疑った。

ヘルがどれだけ凄い存在であるかを知って尚、手があるといったことに。

それはまるで暗闇に差した一陣の光のように皆は思えた。

 

「あいつの計画の詳細は俺にもわからんが、計画の大本になっているのは高町恭也を手に入れることだ。 つまりそれが手に入らなければあいつの計画は破綻することになる」

 

「つまり、恭也さんを敵の手に落ちないようにすればいいということですか?」

 

「そういうことだな。 だが、それだけでは防戦一方である今の状況を変えるには至らない」

 

「なら、どうすれば?」

 

「あいつのいる二ヴルヘイムの古城、エリュードニルそのものが最終段階に入った計画の舞台だ。 だから、数名で二ヴルヘイムへ乗り込み、その舞台である古城を破壊する」

 

「……ちょっと待ってください。 二ヴルヘイムは死後の世界なんですよ? そんな場所にどうやって行けというのですか」

 

何を言っているんだ、というような目でスレイは言う。

以前、恭也(善)から受けた説明によれば二ヴルヘイムへ行くには死ぬ以外に方法はない。

そこに乗り込むと言うのだからスレイがそう言ってもおかしくはないだろう。

だが、スレイのその言葉に当然というかのようにその方法を説明しだす。

 

「確かにあそこは死人が行き着く場所だ。生きている者が辿り着けないと思うのもしょうがないだろう。 だがな、実際は生きた者でもあそこに行ける方法が一つだけあるんだ」

 

「信じられません……」

 

「それが普通の反応だな。 まあ、とりあえず聞け。 ニブルヘイムを含めた三つの世界に根を伸ばす大樹の存在は知っているな?」

 

「はい。 確か……ユグドラシル、ですよね?」

 

「そうだ。 他にも名はあるが、まあそれは今は関係ないな。 で、そのユグドラシルは世界全体に存在するマナを生成している大樹だ。 そしてその樹自体にも多大な魔力を秘めている」

 

「それは知っています……ですがそれとこれとは関係が」

 

「ある。 いいから黙って聞け」

 

有無を言わせぬ恭也(悪)の言葉にスレイはむっとした表情で口を閉ざす。

ちなみにスレイのこの表情にはミラも美由希もレイも驚いていたりする。

あまり怒っているだとか喜んでいるだとかを顔に出さないスレイがこのような表情をするのは珍しいのだ。

それはそれほどムカっときたからなのか、それとも恭也(悪)に言われたからなのか、誰もわからなかった。

 

「説明の続けるが、ユグドラシルの発する魔力とある二つの物を使用してあそこに行くことが可能となる」

 

「なんですか、その二つの物というのは?」

 

「一つは、スレイプニルという神器と呼ばれる代物。 名前くらい聞いたことあるだろ?」

 

「え、ええ。 でも、主神オーディンの乗っていた馬、ということくらいしか……」

 

「ふむ……まあ、神話ではそうだな。だが実際、スレイプニルというのは馬ではなく神器だ。 そしてスレイプニルはニブルヘイムへすら渡れる空間転移系の力を持った神器。 だが、それだけではあそこへ行くことはできない」

 

「なぜですか? 空間転移系の物ならそれだけでも行けると思うんですが……」

 

「簡単なことだ。 空間転移をしていく際には必ず道が必要だ。 だが今、二ヴルヘイムに向かうための道は存在しない」

 

「道?」

 

「道というのは簡単に言うなら二つの場所を繋ぐトンネル、のようなものだな。 昔、まだ神々の世界があったときは二ヴルヘイムへの道はあったのだがな。 ラグナロクが起こった際に壊れてしまったらしい」

 

「つまり、昔は生きた人でも二ヴルヘイムに行くことができた、ということですか?」

 

「スレイプニルを使えばな。 だがスレイプニルは公には出なかった上に、見つけたものでもさすがに行こうとは思わないだろ」

 

「確かに……死の国ですからね」

 

「ああ。 と、話が脱線したな。 で、二つの世界を繋ぐ道が壊れてしまった今、どうやってあそこに行くかだが…」

 

しばしそこで言葉を切り、恭也(悪)は小さく息を吐く。

そして静かに目を閉じて続きを口にした。

 

「神剣を使用する……」

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

一瞬、何を言ったのか皆は分からなかった。

絶句してしまう皆に恭也(悪)は淡々と続きを語る。

 

「神剣の魔力を使用すれば二ヴルヘイムとの道を再度繋ぐことが可能になる。 その後、スレイプニルを使えば二ヴルヘイムに行けるだろう」

 

「そ、そんなの無理に決まってるじゃない!!」

 

すぐに復活したレイが恭也(悪)に噛み付くように否定する。

だが、その否定に恭也(悪)は心底不思議そうな顔をして聞き返す。

 

「なぜだ?」

 

「なぜって……確かに美由希お姉ちゃんは継承者だけど、それは光に限定したことであって闇を扱えるわけじゃないんだよ!? それなのに神剣を使うことなんてできるわけないよ!」

 

「そういうことか……それならば問題はない」

 

「どこがよ!? 全然問題有りじゃない!」

 

「アホかお前は……なんのために俺がいると思っているんだ?」

 

「なんのためって……あ」

 

そこで気づいたかのようにレイは声を上げる。

他の面々も恭也(悪)のその発言で同じく気づく。

 

「そいつが光しか使えないならば、闇は俺が使えばいい話だ。 もともと前に使えたのも同じ方法だったのだからな」

 

呆れたような感じでそういう恭也(悪)にレイはぶすっと膨れながら口を閉ざす。

それにジャスティンは若干苦笑しつつ違う疑問を恭也(悪)に尋ねる。

 

「神剣、に関しては分かりましたが、神器に関してはどうするんですか? 手元にあるわけではないのですよね?」

 

「ああ、手元にはないな」

 

「じゃあ結局問題有りじゃないのよ、ば〜か」

 

「ガキかお前は……いやすまん、ガキだったな」

 

「ガキじゃないもん!! あんたよりずっと年上だもん!!」

 

「………ふ」

 

「笑った!? 今私の体見て笑ったでしょ!? 中身だけじゃなくて体型もお子様とか考えたでしょ!?」

 

ムキー―!!と叫んで座りながら地団駄を踏むことでレイは怒りを露にする。

それを恭也(悪)は明らかに馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、そんなことはない、と言う。

そんな顔で言われてもレイが信じるわけもなく当然の如く怒りがさらに燃え上がる。

ちなみにその様子を他の面々は止めることなく笑いを押し殺していたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくしてレイの怒りが静まった。

というよりもミラに窘められて静めざるを得なかったのだが。

まあ一応静まったのを見て恭也は言いかけていたことを口にする。

 

「手元にない、というだけで在りかがわからないというわけじゃない」

 

「では、どこにあるかがわかるんですか?」

 

「ああ……この学園から見て北に位置する場所に遺跡だ」

 

「遺跡って……賢者の石事件のときに私と恭ちゃんが再会した?」

 

「そうだ。 あそこの地下には封印を掛けられた部屋が存在する。 誰が封印したかは知らんがそこに神器、スレイプニルはあると聞いた」

 

「聞いたって……誰によ」

 

「ヘルだ」

 

「……それ、当てになるの?」

 

「さあな。 あいつは何を考えてるのかわからんから嘘を教えられた可能性もある。 だが、何も手がかりがないよりマシだろ」

 

「まあ……そうだけど」

 

なぜか睨むようにそう言うレイ。

まださっきのことを根に持っているというのが見て取れる様子だった。

そのレイの様子に恭也(悪)は敢えて知らぬ顔をして口を開く。

 

「早めに動くに越したことはないから確認も兼ねて今日にでも行ってみようと思う」

 

「そうですか……あ、でも」

 

「ん? なんだ?」

 

「えっと、申し上げにくいのですけど、今は学園外に行く手段がないんです……」

 

「どういうことだ?」

 

首を傾げて尋ねる恭也(悪)にジャスティンは簡単に説明する。

機械室の橋を下ろすための機械が壊されたこと、地下水路の扉が封鎖されてしまっていること、そして渡し舟の一隻すらも残されてはいないということ。

完全に外部から遮断されてしまった現状をジャスティンは説明すると恭也(悪)は驚きの一言を口にする。

 

「それだけか?」

 

「え、あ、はい…」

 

「ならば問題ないな」

 

「どこがよ!? どこが問題ないのよ!?」

 

それに噛み付くように怒鳴るのはまたもレイだった。

そしてそれにまたも不思議そうな顔をする恭也(悪)。

さらには、またか、と頭を抱えるミラ。

その三者の様子に皆はやはり声を押し殺した笑いを浮かべていた。

 

「どこに問題があるというんだ?」

 

「どこって、問題だらけじゃないのよ!! 地下水路も封鎖、橋も下ろせない、挙句の果てには渡し舟もない…どう見ても問題ばっかりじゃない!!」

 

「お前……自分がゲートを開けることを忘れたのか?」

 

「……あ」

 

「……やっぱりアホだな、お前」

 

「なっ! ま、またアホって言った!? お父さんにも言われたことないのに!!」

 

「言えなかったんじゃないのか? あまりに不憫で」

 

「ムキーーーー!! ムカつく!! やっぱりこいつムカつくーーーー!!」

 

だんだんと壊れていくレイに恭也(悪)は挑発するように鼻で笑う。

それによりレイの怒りを増すこととなり、二人の喧嘩?は激化させることとなった。

ちなみにその二人の喧嘩?を見て頭痛を覚えていたミラは……

 

(二つに分かれただけなのに……なんでこうも性格が違うのかしら)

 

心中で溜め息をつきながら、そのことに頭を悩ませるのだった。

 

 


あとがき

 

 

恭也(悪)の性格がもう凄いことになってます。

【咲】 そうね。 あれじゃ悪というよりも恭也の意地悪な部分がそのまま形を成したって感じよね。

まあそれでも補いきれないほどの性格だけどな。

【咲】 確かにね。 でもなんでこんな感じになったわけ?

う〜ん、最初は破壊とか殺戮とかしか考えられないから言動が冷たくなる、という感じにしようかと思ったんだが……。

【咲】 書いてるうちにこうなったと?

その通り!!

【咲】 ……。

あ、で、でもこれはこれで予定通りなんだよ!? ほら、恭也(悪)の言動から無神経さが滲み出てるからさ!

【咲】 ………。

え、えっと、その、だからね……。

【咲】 言い訳は終わりかしら?

あ、あうあう……。

【咲】 終わりみたいね……なら、えい♪

ふごっ!!(パンと思われる物体を口に押し込まれる。

【咲】 ペルソナのところのざからさんから頂いた美味しい美味しいパンよ。 よく味わって食べなさい。

むぐ、んぐ……ゴクン(無理矢理口を動かされて食べさせられる。

【咲】 さあ、お味は?

……バタ。

【咲】 倒れちゃった……ほんとにこいつはこの反応ばっかりでつまんないわね。

【葉那】 お姉ちゃ〜ん♪

ふぎゅ!(通りがけに思いっきり踏まれる

【葉那】 あれ? 今なんか変な音しなかった?

【咲】 さあ? 私は聞こえなかったわよ?

【葉那】 ふ〜ん……ま、いっか♪あ、それ美味しそうだね♪

【咲】 これ?

【葉那】 それそれ。 一口ちょうだい♪

【咲】 これはダメよ。 大切な実験材料なんだから。

【葉那】 そっか〜……じゃ、諦める〜。

【咲】 いい子ね。 それで私に何か用?

【葉那】 あ、そうだった。 メイド服が完成したんだけど、すぐに行くの?

【咲】 う〜ん……それもいいけど、手土産がないのはさすがに申し訳ないわ。

【葉那】 じゃあ、何か買うの? それとも何か作るの?

【咲】 そうね……じゃあクッキーでも作ってきてくれる。 手作りの物のほうがなんとなく良さそうだし。

【葉那】 わかった〜。 じゃ、ぱぱっと作ってくるね〜♪

ふぎゃっ!!(帰り際に再度踏まれる

【咲】 ……悪意がなっていうのがまた怖いわね。

う、うぅ……痛い。

【咲】 ……えい♪

ぴぎゃっ!!(思いっきり力を込めて踏まれる

【咲】 じゃ、今回はこの辺でね〜♪

……ま、また…じかい……ガク。




次回、遂にメイドさんが訪れる!
美姫 「いきなりそれか!」
ぶべらっ! う、うぅぅ、ま、間違ってないはずなのに。
美姫 「バカは放っておいて、とんでもない事実が発覚よね」
だな。まさか神を相手にするとは。
次回は神器を取りに行くお話かな。
美姫 「すんなりと行くのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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