入学式を明日に控えた魔法学園は現在、とても活気に満ちている。

さまざまな目標を持って学園への入学を決めたものばかりなのだからそれは当然のことだろう。

そんな者たちからすると明日の入学式は楽しみ以外の何物でもない。

まあ、それも一部の人間を除いてだ。

 

「ふむ……」

 

その日の夜、恭也は椅子に座って机の上で一枚の書類を眺めていた。

手に持っているその書類にはこの学園に入学を希望するものたちの名前が載っている。

つまりは、入学希望者の名簿といったところで恭也が見ているのはその内の一枚に過ぎない。

その一枚の名簿を恭也はちょっと難しい顔をしてじっと眺めていた。

 

「あら、どうしたの?」

 

難しい顔で書類を見る恭也の後ろからゴスロリを来た小柄な女性が声をかけてくる。

説明するまでもなく、その小柄なゴスロリ女性というのはミラのことだ。

 

「いや、これなんだが……」

 

声をかけてきたミラに恭也は見ていた書類を手渡す。

ミラはその書類を受け取り、そして軽く流すように目を通す。

そして、これがどうしたのか、というように首を傾げる。

 

「その名簿に、リィナ・クライトンという名前があるだろ?」

 

「あるわね。 でも、クライトンってことはジャスティンの親戚か何かだと思うけど、それだけであんなに難しい顔してたわけじゃないでしょ?」

 

そう返しながらミラは書類を恭也に返す。

恭也は頷きながらその書類を受け取り、今度は眺めることなく机の上に置く。

 

「裂夜に聞いた話なんだが……リィナ・クライトン、彼女には内に膨大な魔力を秘めているらしい」

 

「そう……でも、それは単に珍しいってだけじゃないかしら? 現に膨大っていうなら私もそうなんだから」

 

自分で言うのもどうかと思うが、ミラはそれに関して当然の如く言う。

自分の力にある程度の自信があるからこそそう言えるのだろう。

それは恭也自身よく分かっていることであるため、その言葉には苦笑しながら、そうだな、と呟く。

だが、その苦笑も言葉が終わると同時に消え、かなり真面目な表情になる。

 

「普通ならそうなんだが……彼女に至ってはその一言では片付けられることじゃないんだ」

 

「どういうこと?」

 

「人間では、実質ありえないほどの魔力を秘めているらしい」

 

その言葉にはさすがのミラも驚きを隠せなかった。

人間ではありえないほどの魔力を秘めている人間が今までにいなかったというわけではない。

だが、その人間のほとんどは内の魔力に蝕まれて若くして死ぬことがほとんどなのだ。

故に思うのは、そんな人間がこの歳まで生きていたのはいいとして、なぜ入学をしてくるのか。

たとえハンターとしての資質があれど、そんな体ではまともなハンターになれはしない。

 

「また、この学園で何かが起こるのかもしれないな……」

 

その入学は本人の希望か、それとも他の誰かの思惑によるものか。

前者であるのならば本人に対してある程度の注意を払っておけばいい。

だが、後者であるのならば、最悪十数年前のようなことが起こりかねない。

結局のところ、今現在ではどちらなのかわからないため行動の起こしようがない。

 

「リィナ・クライトン……だったわね。 わかったわ……私のほうでもある程度注意して見ることにする」

 

「頼む……」

 

だから、今は出来うる限りのことをするしかない。

なるべく、事が悪い方向に進まぬようにと願いながら。

もう、十数年前のようなことが繰り返されぬようにと願いながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

第一話 入学式前夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

列車が走る線路を囲むようにして広がる森の中。

深夜ともあってか、その森は薄気味悪いくらい静かでとても暗い。

そんな森の中で、明かりもなしに歩く二人の人影があった。

 

「くそ……なんで俺がお前なんかと行かねばならん」

 

「それはこっちの台詞だよ……ミラお姉ちゃんやジャスティンお姉ちゃんの頼みだからしぶしぶ一緒に行ってあげてるんだからね」

 

「俺は頼んでない。 というかむしろ、お前のようなお子様は邪魔にしかならん」

 

「お子様って言うな!!」

 

二人、もう分かると思うが裂夜とセリナは飽きもせずに言い合いをしながら進んでいく。

この二人が現在どこに向かっているのかというと、簡単なことで単に最後に残った入学希望者の試験の監視だ。

本来は特に必要もないのだが、その入学希望者が学園長であるジャスティンの親戚にあたるらしく、本人曰く心配らしい。

学園長がそういった感情からこういうことをするのは本来良くはないのだが、恭也の、いいんじゃないか、といった一言でこうすることに決まった。

もっとも、贔屓にするわけにもいかないので見守るだけで手出しはしないのだが。

そういったわけで二人はその入学希望者を探しに行っているわけだが、そこで疑問としてなぜこの二人なのだろうかというのが上がる。

学園内では二日で広まってしまうほどの犬猿の仲である二人に行かせるのは本来かなり不安なことだ。

下手をすれば森の一部が焼け野原になってもおかしくない。

だが、他の者たちは入学式の準備やらなんやらで忙しく手が離せないため、不安ではあるが暇そうにしていたこの二人に任せたのだ。

 

「ふん、お子様にお子様と言って何が悪い」

 

「見た目がそう見えるだけであんたより年上だって言ってるでしょうが!」

 

「ふむ……確かにな。 見た目で判断するのは良くないことだ」

 

「へ……?」

 

「お子様に見えても実際お前は百越えのお婆ちゃんだったな。 いや、失礼した」

 

「ムキーーーーー!!」

 

森全体に響きそうなほど大声量で叫び、セリナは裂夜に殴りかかる。

だが、それは届くこともなく、手を伸ばしてガシッと頭を抑えられ止められてしまった。

怒りにほぼ我を忘れているセリナはそれでも猪のように前に進もうとし、届くはずもないのに握った拳を振るう。

 

「ほらほら、どうした。 全然届いてないぞ、お婆ちゃん」

 

挑発するようにそう言ったところで、裂夜は近場から接近する気配を感じ手を下ろす。

いきなり手を下ろされたセリナはというと勢い止まらず前のめりかつ盛大にこけた。

こけたセリナは呻きを漏らしながら裂夜を睨むが裂夜はまるで気にした風もなくその気配を探る。

 

(数は……二。 だが、こっちに向かってきているわけじゃないな。 とすると、例の入学希望者というやつか?)

 

気配からそう読み取った裂夜は瞬時にセリナの襟首を掴んで草むらに移動する。

それに驚き呆然としてしまうセリナはすぐに我に返ると抗議の声を上げようとする。

だが、その声は急停止した裂夜の手によって口を塞がれ発されることはなかった。

 

「んー! んーーーー!!」

 

「うるさい、少し黙れ」

 

そう言いつつセリナに状況を認識させるためか視線をある一点に向ける。

セリナはしぶしぶながらも黙り込んで、なんなんだ、というような顔で裂夜の視線の先を見る。

その二人が向けた視線の先には線路沿いに歩く学生服を着た二人の人が歩いていた。

 

「あれって……例の?」

 

「たぶんな。 学生服も着ているわけだし間違いないと思うぞ」

 

「ふ〜ん……でも二人とは聞いてたけど、片方は男だったなんて知らなかったな〜」

 

二人がそんな会話をしつつ視線を向ける先ではその入学希望者の二人が魔物と遭遇し戦闘を開始していた。

男のほうは長棍を主体として戦いながら時折魔法も扱い、女のほうは完全に拳や蹴りのみで魔物をねじ伏せていっている。

多少動きに無駄はあれど手早く魔物を倒していくその二人に裂夜は感嘆の溜め息をつく。

 

「あの二人、どちらもいい資質を持っている。 磨けばかなりの実力者になるだろうな」

 

「へ〜、珍しい。 あんたがそこまで言うなんてさ」

 

「どういうことだ?」

 

「あんたって自信過剰だか何だか知らないけど、人の実力見て鼻で笑うことが多いじゃん」

 

「それは今までにその程度の奴らしかいなかっただけの話だ。 良いものは良いとちゃんと評価はする」

 

二人の会話が切れると同時に魔物と戦っていた二人は勝利したのか軽く会話をしながら歩き出す。

そして、その二人を見失わないように気配を消しつつ裂夜とセリナはゆっくりと後をつけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裂夜とセリナがつけていることに気づくことなく二人は何度か魔物と戦闘を重ねながらもようやく学園前に辿り着いた。

やっとついたというような溜め息をつきつつ二人は軽く笑いあいながら会話をしつつ学園への橋を渡ろうとする。

だが、その橋に突如現れる巨体に二人の行く手は阻まれることとなった。

 

「ゴ、ゴーレム!?」

 

「な、なんでこんな奴がここに……」

 

まるで学園への道を塞ぐようにたつ巨体の魔物―ゴーレムはドシンドシンと大きな足音を立てながら二人に迫っていく。

ゴーレムの出現にしばし呆然としていた二人だったが、迫り来るそれにすぐに我に返る。

 

「こいつを倒さないと、学園へ入学する資格はないってことね……」

 

「前向きな考え方だな……レイナは」

 

「でもカール、どの道こいつを倒さないことには学園には入れないよ。 だったら……」

 

「わかってる。 僕らの道を阻む者は……」

 

「何者であろうと、倒すのみ!!」

 

そう口にして二人―カールとレイナはゴーレムへと駆け出す。

ゴーレムはその二人を迎え撃つように足を止め斧を振り上げて二人目掛けて振り下ろす。

二人はその攻撃を左右に分かれることで避け、左右から同時攻撃を仕掛ける。

だが、どちらの攻撃も当たりはするが体の硬いゴーレムには対してダメージを与えることが出来ない。

 

「っ……硬いわね」

 

「まあ、ゴーレムだからなっ!」

 

後ろに下がるレイナにゴーレムが気を取られている隙にカールは鎧の覆っていない部分に長棍を力いっぱい叩きつける。

その攻撃を受けたゴーレムは少しだけグラリとよろめくように揺れ、長棍で叩かれた部分は若干欠ける。

それにゴーレムは怒りを露にしカールのほうを向いて斧を再度振り上げ力いっぱい振り下ろす。

だが、その攻撃はカールに掠ることなく空振りし、その空振りした隙を狙って再度カールは同じ場所を攻撃する。

それと同時にレイナもその隙を狙ってカールの攻撃した部分を同じく狙い拳を放つ。

二人の攻撃をほぼ同時に受けたゴーレムは先ほどよりも大きく揺らめき、攻撃された部分は致命的とまでに欠け崩れる。

そして大きく揺らめくゴーレムは足音を立てて後方へと仰け反っていき、大きな音を立てて倒れる。

 

「や、やったかっ!?」

 

「たぶん……ね」

 

少しだけ息を切らせながら二人は起き上がってくる気配を見せないゴーレムを見てそう言い合う。

そんな二人を気の影から覗き見ていた裂夜とセリナは今度は二人とも感嘆の溜め息をついていた。

 

「実に見事だな。 如何に強固な体を持つゴーレムとて同じ場所を集中的に狙われればダメージは蓄積していく」

 

「で、ダメージが蓄積していけばゴーレムもいずれは倒れる。 状況判断とかちゃんとできてるみたい」

 

「ふむ……だが、個々の一発一発も大した威力だ。 頭だけでなくやはりそれなりの腕もある」

 

「でも……少し詰が甘いね」

 

「そうだな。 倒れたからといってそれで終わりというわけではない。 現に……」

 

「ゴーレム、まだ生きてるしね」

 

セリナが呟くとほぼ同時に倒れていたゴーレムはゆっくりと立ち上がる。

そのことにカールとレイナは驚きを浮かべるが、すぐに戦闘体勢を取る。

だが、ゴーレムは一向に二人には襲い掛からず、それどころか意味もなく斧を振り回している。

そのゴーレムの行動に二人は?を浮かべるが、すぐにどういうことか理解し嫌な汗が流れる。

 

「もしかして……」

 

「暴走……しちゃった?」

 

二人の恐る恐るといった言葉にまるで返すようにゴーレムは暴れ続ける。

そのゴーレムの様子を見てさすがに、まずい、と思ったのか裂夜とセリナは助けに入ろうとする。

だが、二人が助けに入るよりも早く、ゴーレムの後方に人影が飛び降り手に持っている武器でゴーレムの背を一突きする。

その攻撃を受けたゴーレムはぴたりと動きを止め先ほどのようにゆっくりと大きな音を立てて倒れた。

突然のその人物の出現にカールとレイナだけでなく、助けに入ろうとした裂夜とセリナも驚いた。

 

「暴走したゴーレムを一突き、か〜。 あの子、強いな〜」

 

「……」

 

「ん? どうしたのよ、黙りこくっちゃって」

 

セリナの言葉に返すことなく、裂夜はその現れた人物をじっと見る。

その人物はレイナと同じ服を着ていることから入学生であることがわかるが、もっと驚くことはレイナと驚くほど似ている。

だが、裂夜の黙り込んでいるのはそれが理由ではなく、その人物に心当たりがあるからだ。

 

「リィナ……クライトン」

 

「はい? ああ……あの子の名前ね。 にしても、珍しい……あんたが女の子見て固まるなんて」

 

「ん? あ、ああ……少し、気になってな」

 

「気になる?」

 

裂夜の言葉にセリナは首を傾げつつその人物―リィナをじっと見る。

カールやレイナと話しているリィナはどことなく冷たい目をしており、二人を拒絶するような態度を取っている。

全体的に見た感じ冷たそうな子と認識したセリナは少しにやけながら裂夜へと向き直る。

 

「ふ〜ん……あんたって、ああいった子が好みなんだ〜」

 

「好み? どういうことだ?」

 

「だから、気になるってことはああいった子が好きだってことでしょ?」

 

「何を言ってるんだお前は……俺が気になってるのは」

 

「まあまあ、そう照れることないじゃん」

 

まったく聞く耳持たずにやけながらそう言うセリナに裂夜は溜め息をつく。

そしてそれ以上何を言っても無駄だと悟り、裂夜はもう一度リィナを一瞥してその場から歩き出す。

それにセリナは遅れながらも慌てて歩き出し、二人は三人とは別の道で学園へと向かっていった。

そして、二人が去ってからしばらくして、リィナはカールとレイナに背を向けて学園へと入っていく。

後にはリィナの様子に呆然するしかなかった二人のみが残されるのだった。

 

 


あとがき

 

 

プロローグに続いて早速書き上げました!!

【咲】 珍しく早いわね。

【葉那】 だね〜。

ふ、たまにはこんなこともあるということさ。

【咲】 たまにしかないのね。

毎日は俺の身が持たん。

【葉那】 貧弱だね〜。

いやいや、かなり普通かと……。

【咲】 にしても、入学式まで辿り着いてないわね。

まあ、次の話がそれだからここで切るのが一番ちょうどいいんだよ。

【葉那】 なんかネタが出ない人の言い訳っぽく聞こえる〜。

【咲】 そうね。

そ、そんなわけないだろ。ネタならいっぱい……。

【咲&葉那】 いっぱい?

あったらいいな〜。

【咲】 おばかっ!!

げばっ!!

【葉那】 相変わらず馬鹿だね。

【咲】 まったくよ……じゃ、今回はこの辺でね♪

【葉那】 次回は続編に入って初めての実験コーナーがあります!!

ご期待しないでね〜……はべっ!!

【咲&葉那】 じゃ、またね〜♪




新たな新入生たちが学園へと集い出す。
美姫 「そこで待ち受けているものとは」
裂夜のぽつりと漏らした言葉が気になる所。
美姫 「今度は一体、何が起ころうとしているの!?」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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