学園にて入学式が行われていたその頃、ハンター協会の本部と言える施設の内部にて一人の女性が立っていた。

そして、その女性の周りには剣やら弓やら拳やらを構えるそれぞれがさまざまな格好をした男女たち。

一人立つ女性をまるで囲むように立ち武器を構えて警戒を露にしている者たちにその女性は、あはは、と小さく乾いた笑いを浮かべていた。

 

「一つ聞いてもいいかな、ランちゃん」

 

『ランちゃんって呼ばないでください。 それで、なんですか?』

 

「なんでこんな状況になってるんだろ?」

 

『言わないとわかりませんか?』

 

女性の質問に腰に携える大太刀―ランドグリスは呆れたように返す。

その答えはこの状況になっているのがその女性のせいだと言っているように聞こえるが、まったく持ってその通りだった。

学園の見える丘からゲートを使ってこの施設の手前に転移した二人はある目的のために施設へと侵入した。

といっても侵入したというよりもどうどうと真正面の門から入り、しかも何をトチ狂ったのか、たのもー、などと大声で女性は入る際に言ってしまった。

本人曰く、一度言ってみたかったらしいのだがそれは時と場合を考えてするべきだとランドグリスは思い頭を抱えたくなった。

だがまあ、頭を抱えたところで状況が変わるわけではなく、今考えることはどうこの状況を切り抜けるかということだった。

 

『で、どうするんですか? 一度逃げますか?』

 

「冗談。 ちょっと予定は狂っちゃったけど、この程度で逃げるなんてごめんだよ」

 

『そう言うと思いましたよ。 じゃあ殲滅しつつ目的を遂行する、でいいですね?』

 

「うん」

 

ちなみにだが、女性はランドグリスとこうして話しているがランドグリスの声は現在その女性にしか聞こえない。

そのため周りの者たちには目の前に立つ女性が独り言をぶつぶつと言っているようにしか見えない。

それがあってか、周りの者たちの警戒はどこか強くなっているのが感じ取れる。

 

「あ、でもシステムはオフにしといてね」

 

『殺してしまう可能性が高いからですか?』

 

「そうそう。 それに使う必要もないでしょ。 『代行者』や『断罪者』ならともかく、この人たちはただの人間なんだし」

 

よく分からない単語も混じっているはが、それは言外に周りを囲んでいる者たちでは自分を止めることはできないということ。

馬鹿でもない限りそのことが読み取れてしまうこの言葉に周りの者たちは表情に若干の怒りを露にする。

戦いもしない内にそんなことを言われればそれは挑発以外に捉えられないのも無理はないだろう。

そしてその怒りを抑えきれず感情のままにその女性へと手に持つ武器を振り上げて襲い掛かってもそれはおかしなことではない。

だが、それはこの女性に対しては間違った行動であると次の瞬間いやでも分かってしまうこととなった。

 

「あなた、それでもハンター? 冷静さを失って感情のままに動くのはもっとも愚かな行為だよ」

 

『まったくですね。 常に冷静に相手の力量や自分の置かれている状況を判断し行動する……それはハンターとして当然の心構えです』

 

女性の言葉(ランドグリスのは聞こえていない)に攻撃を仕掛けた男は何も返せず絶句する。

それは女性の言葉に返す言葉が見つからないということではなく、目の前の現在の状況に唖然とするしかないのだ。

そしてその男と同じく女性の言葉に怒りを抱いていた周りの者たちも同様に唖然とし言葉を失っていた。

その目の前の光景に、女性が斬りかかってきた男に対して取った行動に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

振り下ろされた剣を、素手で止めたその女性に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

第三話 平穏の影に潜む者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その行為は常人では不可能な行動だった。

如何にその男がハンターとしてまだ未熟だったとしても、振り下ろされた剣はそれなりの威力や速度を持っている。

それを避けるやら武器で防ぐやらするのならば別におかしくはないが、女性はまるでなんでもないかのように素手で止めた。

誰にもこの女性と同じことができないとは言えないが、その場合人並みはずれた握力や動体視力などが必要になる。

更に言えば、練習や鍛錬ならともかくこういった実践の戦闘でしようとするものはまずいないしできるものもほとんどいないだろう。

だが現に目の前の女性はそれを普通の事というようにやってのけた。

男も周りの者も驚きを通り越して唖然とするしかないが、それに追い討ちをかけるかようなことを女性は更に行った。

 

「それに、剣の手入れもちゃんとしないと簡単に壊れちゃうよ? こんな風にね」

 

言葉と同時に剣を止めた手に力を加え、剣の刃の握られている部分は音を立てて砕ける。

それに男が驚く暇もなく女性の拳が男の腹に叩き込まれ、男の意識は闇に落ちた。

ドサッと倒れる男に目の前で起こった出来事に呆然としていた者たちは再度強い警戒を露にする。

そんな周りの者たちに、倒れた男に視線を向けることもなく女性は一通り見渡すような瞳を動かして溜め息をつく。

そして腰にある大太刀を右手で抜き放ち、持った手を構えることもなく隙だらけというようにだらりと下げる。

 

「今のであなたたちでは私には勝てないってわかんないのか、それとも分かっていて尚諦めないっていう意志を見せているのか……どっちだと思う?」

 

『前者ではないでしょうか。 先ほどの者の行動などから考えるとこの方々も利口とは思えませんし』

 

「だよね〜。 そもそも後者ならそこまでしてこの施設を護ろうとすること自体、私には不思議だし」

 

そう言って本当に不思議そうな表情を女性はし、ランドグリスも同意するように、そうですね、と呟く。

そんな囲まれ警戒されていながら周りには独り言にしか見えないことを呟く女性に周りの者たちはじりじりと近づいていく。

隙だらけであるはずなのになぜすぐに仕掛けようとしないのか。

それは未熟なものなら仕掛けているだろうが周りを囲むものとてハンターであると同時にそれなりの腕もある。

だからこそ、女性のその隙だらけであるはずの構えがそう見せているだけで実際は一つの隙もないものだとわかるのだ。

 

「まあでも、何かを護ろうと思うこと自体は嫌いじゃないかな。 本来ならそういったところを見せてくれた時点で見逃してあげてもいいところだけど」

 

『事が事だけに……ですね』

 

「そゆこと。 ま、少し眠っててもらうだけだからそこんとこは許してね♪」

 

にこっと笑みを浮かべて女性は言い、次の瞬間にはその姿が周りの誰もの視界から消えた。

そして先ほどの男と同様に、驚く暇もなく男と同じように意識を刈り取られ次々と倒れ付していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ものの一分弱ですべての者たちは倒れ、女性はそれを見下ろすこともなく大太刀を持ちながら立っていた。

倒れている者たちは意識を刈り取られただけで傷らしき傷は一つもついてはいない。

この場に誰かいたのであれば、これだけの数の者たちをその程度の時間でしかも意識だけを奪ったことに驚愕を浮かべるだろう。

 

「えっと、終わりかな?」

 

『終わりですね。 にしても、一分十七秒ですか。 いつもの事ながら腕だけはいいですね』

 

「それほどでも♪ ……って、だけって何よ!?」

 

『言葉の通りですよ。 腕は良くとも性格やらに難ありということです』

 

「このナイスな性格のどこに難があるっていうのよ!?」

 

『そんなの……有りすぎて言えませんよ』

 

「ふふ、ふふふふふ……そんなこと言うランちゃんには少しお仕置きが必要みたいだね」

 

『だからランちゃんじゃないと……て、何をする気ですかっ!? いたっ、痛いです!!』

 

太刀の両端を持って本来曲がることのない方向へと力を加えていく。

ランドグリスはそれに、痛い、と連呼し、女性はその叫びに気を良くしながら徐々に力を加えていく。

 

『あ、謝ります、謝りますからやめてくださいっ! マスターの馬鹿力でやられたらほんとに折れますから!!』

 

「馬鹿って言った……」

 

『そ、そう言う意味じゃ……痛いっ!! ほんとに折れますからやめてぇぇぇぇ!!!』

 

女性はその叫びを聞きながら笑みを浮かべてそれを続ける。

ランドグリスは本気ではないと分かっていても痛いのに変わりはないのか叫び続ける。

本人たちからしても傍目からしてもじゃれあいに見えるそれはしばし続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず面白い人たちですね、あなたたちは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声が聞こえてくるまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『っ?!』」

 

じゃれあいをやめて女性はばっと声がしたほうを振り向く。

そこには先ほどまで誰もいなかったはずなのだが、振り向いた先にはいつの間にか一人の男が立っていた。

女性と同じく黒い服、その上に真っ黒な法衣を身に纏い、腰には少し変わった形をした剣を携えている。

その女性を酷似した格好をした男はクスクスと笑いながら警戒を露にしていく女性に対し口を開く。

 

「じゃれあうのは構いませんが、場所を考えたほうがいいですね。 ここはあなたたちにとって敵地なんですから」

 

「ご忠告どうも。 じゃ、私たちは失礼してもよろしいかしら?」

 

「いやいや、そういうわけにもいきませんよ。 見つけてしまった以上見逃すわけにはいきませんから」

 

「ならどうする気? 私をナンパでもする気かしら?」

 

「ふふふ、それも魅力的ではありますが……」

 

男は笑いながら腰の剣を抜き放ち、女性に対して構える。

そして途中で切った言葉の続きを言い放つ。

 

「ここで、あなたを捕らえさせてもらいますよ。 あなたは彼女と同じほど私たちにとって貴重なサンプルですから」

 

「あなたにできるかしら?」

 

そう返しながら女性もランドグリスを構える。

 

「できるできないで言えば……できますよ、今ならね。 あなたは『あのとき』と違って大幅に力を失っているんですから」

 

「へえ……さすがは『断罪者』といったところね。 発言もいやに強気なところが」

 

「いえいえ、それほどでもありませんよ。 現にできるというだけで手加減やらはできませんからね」

 

「それは当然でしょ。 そんなものしてたら……即、殺すわ」

 

「ふふふ、怖いですね。 では、そろそろいきますよ」

 

言葉と同時に男の手に持っている剣からは禍々しき気が流れ始める。

それを見た女性は表面上には出さないが、内心で焦りを感じながらランドグリスに念話を飛ばす。

 

『まさか『断罪者』と出くわすなんてね……ランちゃん、システムの準備は?』

 

『今やってますから待ってください。 システム起動に基ずく術式構成開始……10……15……』

 

『なるべく早くね。 素の状態じゃあ多分そんなにもたないから』

 

最後にそう言って女性は男へと駆け出す。

男は自分に向かって駆け出した女性に笑みを消すことなく迎え撃つように剣を両手で握って横に構える。

その構えに女性はどんな攻撃が来るかを予測しながらランドグリスで横一閃を放つ。

男はその斬撃を見えているかのように体を逸らしてぎりぎりで避け、その体勢のまま両手で握った剣を同じく横に振るう。

女性はその攻撃を予測していたため、瞬時に振るったランドグリスを戻してその斬撃を受け止める。

受け止められたことに男は驚いた感じも見せず、逸らしていた体勢を戻して力を加えていく。

加えられていく男の力に女性は徐々に苦悶の表情浮かべていくもなんとか最大限の力で剣を押し弾く。

そしてそれと同時に瞬時に男の後方へと移動しランドグリスを男に目掛けて振り下ろす。

だが、男は弾かれて若干体勢を崩したにも関わらず体を反転させて剣でその斬撃を受ける。

 

「くっ……」

 

「いやいや、さすがですね。 『堕神』していても昔の名はまだ健在のようだ」

 

「余裕で受け止めといて……嫌味にしか聞こえないわね」

 

「ははは、このくらいで討たれていては『断罪者』の名折れですからね」

 

女性は男と話しながらも力を加えていくが、男はなんでもないかのように平然と受け続ける。

見た目力が均衡しているようにも見えるが、実際は明らかに女性のほうが分が悪かった。

それを見せ付けるかのように男は受け続けていた女性の刃を弾き返し、同時に剣を引いて突きを放つ。

女性はその突きを横に動くことでなんとか避けるが避けきれずに女性の頬が若干切れ血が滲み出る。

だが、男の攻撃はそこで終わらず、追い討ちをかけるように突きを放った状態の剣をそのまま横に一閃する。

横に動くことで突きを避けた女性はそのときに体勢を崩してしまったのかそれを避ける手段はなかった。

横薙ぎは女性の命を奪うことを目的としていないのか首などではなくランドグリスを握る腕を狙って放たれている。

だからといって当たれば痛みが来ることには変わりなく、女性は来るであろうそれに身を強張らせる。

 

『構成完了。 『ブリュンヒルドシステム』、起動します』

 

剣が当たるぎりぎりのところでランドグリスの声が響き、同時に女性の体から光が放つ。

男はその光に怯むことなく剣を止めずに女性を斬りつけようとするが、その刃は予想に反して金属音を響かせる。

そして光が収まると同時に女性の刃が男へと放たれ、男は舌打ちをしながら後方へと下がって避ける。

 

「ナイスタイミングだよ、ランちゃん」

 

『かなりギリギリでしたけどね。 それとランちゃんじゃありませんから』

 

光の晴れたそこには先ほどまでの服装とは対極する色の鎧を纏った女性の姿。

そしてその女性の背中には鎧と同じ色の、まるで天使と見えてしまうような翼が現れていた。

その先ほどとは打って変わったような姿に男は邪笑といえるような笑みを浮かべて口を開く。

 

「『白翼の甲冑』……ですか。 まさかあの土壇場で展開されるとは思いませんでしたよ」

 

「それは私としても同じだけどね。 ま、これで形勢は逆転かな?」

 

「確かに。 このまま戦ってあなたに勝てる見込みはありませんね」

 

「ならどうする? おとなしく引き下がる?」

 

「ははは、ご冗談を。 確かにこのままでは勝てる見込みはありませんが、それはあくまでこの状態での話です」

 

「やっぱり……本気を出してなかったわね」

 

「侮っていたわけではありませんが、その通りです。 まあ、それもここまでですけどね」

 

言葉と同時に男の剣から放たれる気が男へと纏わりつく。

纏わりついた禍々しい気は次の瞬間には真っ黒な甲冑へと姿を変える。

そして甲冑を身に纏った男はやはり笑みを浮かべたまま女性へと口を開く。

 

「あなたなら気づかれていると思いますが、これであなたと私の力はほぼ同等となりました」

 

「……忌々しいわね。 本気を出してなかったこともそうだけど、あんたの甲冑を纏ったその姿そのものが」

 

「あなたがそう思うのも無理はないですね。 あの時、あなたをあそこに直接的に追いやったのは私たち五人なんですから。 それにしても……」

 

言葉を切って男は近場に倒れている者をドスッと蹴り飛ばす。

蹴り飛ばされた者は呻きを上げながら蹴られた勢いで俯いていた状態から仰向けへと変わる。

男のそうした行動に女性が若干の驚きと怒りを覚えているのに男は気を良くしながら言葉の続きを口にする。

 

「あなたが相手では無理もないかもしれませんが、これだけ集まってあの程度しかもたないとは……情けないですね」

 

「だからって仲間に対してそういうことするのは感心しないわね」

 

「仲間? いえいえ、違いますよ。 これらはあなたがここに来ることを見越してこの施設を護るために召集されたハンターたちです。 もっとも、そうと協会の者と偽って召集させたのは私たち『教団』ですけどね。 ですので仲間ではなく、私たちにとっては捨て駒同然の存在なんですよ。 それよりも、どうしてそんなに怒ってるのですか?」

 

「そんなの見せられたら誰でもこうなると思うけど?」

 

「いやいや、確かに人間であればおかしなことではありませんよ。 ですが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは人間ではないでしょう、――様?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

「なのに、人間と同じ感情を抱くのはおかしいのではないですか? いや、だからこそ私たちはあなたを貴重なサンプルとして見ているわけですが」

 

男の言葉はすでに女性の耳には届いていなかった。

抱いていた若干の怒りは先ほどの言葉で強く燃え上がり抑えきれなくなっていく。

 

「その名で……」

 

抑えきれない怒りを抱いたまま女性は小さく呟くように口を開く。

男は女性から感じ取れる怒りを心地よいものと感じるように笑みを浮かべ、女性の言葉を待つように視線を向ける。

そして、呟くようだった声は施設内に響き渡るほどの叫びのようなものとなって女性の口から放たれた。

 

「その名で私を呼ぶなっ!!」

 

叫びながら斬りかかってくる女性の刃を男はやはり余裕の表情で受け止め、その威力からか二人からゴウッと風が巻き起こる。

初撃を受け止められたことに女性は焦ることもなく怒りを露にしながら絶え間ない斬撃を繰り出しつつ叫び続ける。

 

「その名前は私の過去と一緒に捨てた!! だから、私はもう――じゃない!!」

 

「過去を捨てることなどできませんよ……そして、自身の名前も然りです。 故にあなたがどう思おうと、あなたが――であることに変わりはない」

 

斬撃を受け続けながら男は女性の叫びを否定していく。

だが、その否定を聞くこともなく女性は同じような事を叫び続ける。

怒りで我を忘れているのかだんだんと単調になりつつある女性にの連撃に男は、やれやれ、と溜め息をつく。

そしてすでに見切ってしまったその攻撃を受け止めると同時に甲冑越しに女性の腹に手を当てる。

 

「冷静さを失って感情のままに動くのは愚かな行為……あなたが言ったことですがね」

 

言葉と同時に当てられた手からは魔力弾が放たれ、女性の体は後方へと吹き飛ぶ。

吹き飛んだ女性は甲冑越しであっても貫通したかのような痛みに顔を顰めながらゆっくりと立ち上がる。

そして男に指摘されて尚、怒りに我を忘れているような様子で睨みつけながら再度構えて斬りかかろうとする。

 

『マ、マスター、落ち着いてください!! 怒りに冷静さを欠くなんてあなたらしくないですよ!!』

 

『うるさい!! ランドグリスは黙ってて!!』

 

ランドグリスの言葉も聞かず、女性は男を睨み続ける。

そんな女性にランドグリスは、仕方ないですね、と呟いて女性の足元に魔法陣を展開する。

その魔法陣が転移系のものだとすぐに分かった女性は驚き、怒りのままに抗議しようとする。

だが、それを遮るように申し訳なさそうな声でランドグリスは言葉を口にする。

 

『状況からこちらの分が悪いと判断しましたので強制転移を行わせていただきます。 お叱りは転移先で受けます』

 

その言葉と同時に足元に展開する魔法陣から上がる光が二人を包み込む。

そして次の瞬間、二人の姿は男の目の前から完全に消えてしまった。

 

「逃げられましたか……まあ、いいでしょう。 急ぐこともありませんし、あなたが逃げられる場所などこの世界のどこにも有りはしないのですから」

 

甲冑を消し、剣を腰に戻して男は誰に聞かせるでもなく呟く。

そして小さく邪笑を浮かべて施設の通路へと歩き出し、そのまま奥へと消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転移した先、そこは施設に行く前にいた丘の上だった。

出発する前と同様に風がそよぐそこで女性は不機嫌極まりないと言った表情で立っていた。

そしてその不機嫌さを声に出すかのような感じでランドグリスへと口を開く。

 

「なんであんな勝手なことしたの……?」

 

『転移前も言ったとおり、こちらの分が悪いと判断したからです』

 

「そんなこと……」

 

『あります。 元々分の悪い状況だったのに怒りに我を忘れた状態で勝てると本当に思ってるのですか? 私のマスターはそこまで愚かではなかったと認識しているのですが?』

 

「……」

 

『ですが、勝手な判断と行動をしたことは事実です。 煮るなり焼くなり……というのもあれですが、マスターのお気の済むように為さってください』

 

言外に覚悟は出来ているという意味合いの言葉をランドグリスは口にする。

マスターのすることに反発することなく力を貸す、それが女性がランドグリスと契約するときに出した条件の一つ。

その提示された条件を受け入れて今があるのだから、条件に反した行動をしたランドグリスはどうされても文句は言えない。

 

「そう……なら」

 

女性は呟いてランドグリスの両端を持つ。

そして、ゆっくりと徐々に力を曲がるはずのない方向へと加えていく。

 

『いたっ!! 痛い痛い!!』

 

力が加えられていくと同時にランドグリスは痛いを叫ぶように連呼する。

そしてある程度力を加え終えると女性は加えていた力を抜いて微笑む。

 

「はい、お仕置き終わり」

 

『って、あれ? それだけなんですか……?』

 

「何? もっとしてほしいの?」

 

『あ、いえ、そういうわけじゃないんですけど……なんかこう拍子抜けというか、もっと凄い罰があるものと』

 

「う〜ん、まあ今回はランちゃんの判断は正しいって思うからね」

 

『そうですか。 じゃあ、もしそうでなかったらどうする気だったんですか?』

 

「それはもちろん……こう、ボッキンと」

 

『勘弁してください……』

 

そのランドグリスの言葉に女性は、あはは、と笑い、ランドグリスもつられるように笑う。

そしてひとしきり笑った女性は甲冑と翼を消して底から見える学園に視線を向ける。

 

「にしても、目的が果たせなかったのは痛いね」

 

『そうですね。 ですが、今はそれを言っていても仕方ありませんし、当面は施設破壊は後回しにして学園に潜入するほうがよろしいかと』

 

「だね。 『教団』の今の目的は魔女の覚醒と確保だから、学園に潜入して彼女を護りきれば……」

 

『敵の思惑を崩すことは可能、ですね?』

 

「そゆこと。 じゃ、転移魔法よろしく♪」

 

『わかりました』

 

了解の言葉と同時に女性の足元には魔法陣が展開し光を放つ。

そして一陣の風が吹くと共に女性とランドグリスの姿は丘の上から消える。

後には誰もいなくなった丘にて、静かに風がそよぐだけだった。

 

 


あとがき

 

 

ということで、あの女性も学園へ!!

【咲】 今回もいろいろと謎があったわね。

【葉那】 だね〜。

まあな。 でもわかることもあっただろ。

【咲】 まあ、魔女っていうのは誰のことか大体わかるわね。

【葉那】 でも結局のところ女性は何者なのかまだわからないんだね。

直接的に明かしたわけじゃないからな。 でも、よく考えれば分かるんだなこれが。

【咲】 それって……。

【葉那】 私たちが考えもしない馬鹿って言ってるみたいだよね。

そ、そんなこと言ってないじゃないか!?

【咲】 問答……。

【葉那】 無用!!

げばっ、あがっ、へぶっ!!

【咲】 さて、制裁を加えたところで……。

【葉那】 例のコーナーへ行ってみよ〜♪

 

(しばらくお待ちください)

 

【咲】 咲と!

【葉那】 葉那の!

【咲&葉那】 おもしろ実験コーナー!!

【咲】 はい、連日始まりました実験コーナー!!

【葉那】 今日は初めてT.S以外の実験台……ご紹介します、FLANKERさんです!!(カーテンオープン

【F】 ……。(台に磔にされつつグッタリとしているFLANKERさんさん登場

【葉那】 元気ないね?

【咲】 ああ、ダンボールから出したと同時に暴れたから黙らせたの。

【葉那】 なるほど〜♪

【F】 ん……あれ、ここは……って、体が動かない!?

【咲】 まあ、磔にしてるからね。

【F】 あ、こんにちは、咲さん……じゃなく! これは何事ですか?!

【葉那】 聞いてないの? FLANKERさんは相方の恭也さんに実験コーナーにって送られたんだよ?

【F】 なっ?! 恭也のやろ〜!

【咲】 ま、私たちとしてはありがたいけどね。 こうして別の人で実験できるんだし。

【葉那】 だね。 じゃ、実験のほういってみよ〜。

【F】 嫌だぁぁ! 離してくれぇぇぇぇ!!!

【咲】 はいは〜い、しばらく黙ってましょうね〜♪

【F】 ふごっ?!(布を口に押し込められる

【葉那】 じゃ、ゲストの方も静かになったとこで、今回の実験品の紹介です!!

【咲】 今回は、これよ!!(異様な色をした粉の入った缶を取り出す

【葉那】 今回のそれは何?

【咲】 これはね……まあ簡単に言えばドリンクやら錠剤やらの粉バージョンよ。

【葉那】 わ〜、分かりやすい説明だね〜。

【咲】 でしょ? しかも、前のと違ってすぐ効き目が出てくるわよ。

【葉那】 粉だしね〜。 じゃ、実験いってみよ〜。

【F】 んー! んーー!!

【咲】 は〜い、布を取り出して。

【F】 ぷはっ……や、やめ。

【葉那】 粉を丸ごと全部ぶち込みま〜す♪

【F】 ふがっ!(缶の入り口から口にぶち込まれて全部流し込まれる

【咲&葉那】 さて、効果のほどは!?

【F】 う、うぅ……い、胃がぐるぐる回りながら熱を発してる。 しかもチクチクした痛みが……。

【葉那】 さすがだね〜。 T.Sとは違ってえらく正確に説明してくれるよ。

【咲】 そうね。 あ、第二の兆候が見え始めてるわね。

【F】 い、痛い!! チクチクした痛みが刺すような痛みに!! 気持ち悪いのと痛いのが合わさって最悪のハーモニーを奏でてる?!

【葉那】 ふむふむ〜、いい感じだね。

【F】 あ、が……ガク(青褪めて気絶

【咲】 あら、気絶しちゃった。

【葉那】 でもまあ、いい実験にはなったね〜。

【咲】 そうね。 じゃ、気絶したFLANKERを再びダンボールに入れてと。

【葉那】 ついでにこの粉缶もたくさん入れて……更についでに浩さんにも同時に粉缶を発送〜♪

【咲】 ふう、有意義な実験だったわね。

【葉那】 だね♪

【咲】 あ、そういえば、次回はペルソナを招く予定だから、悪いんだけど丁重にお連れしてきてくれる?

【葉那】 わかった〜♪(いつも通り鎌を持ってラボから飛び出ていく

【咲】 じゃ、葉那も行っちゃったとこで、今回はこの辺で。 次回もお楽しみにね〜♪




うーん、謎の少女の目的とは何なのか。
美姫 「ちょことちょこと意味深な単語が出てきたわね」
まあ、まだ序盤だから謎だらけなのは仕方ないか。
美姫 「これからどうなっていくのかよね」
うんうん。次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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