その日もカールは夜の保健室へと行き、そこに置いてあるベッドで眠りにつく。

なぜなのかはわからないが、それがカールの知るキャサリンと会うための唯一の方法。

そして今日もいつもと変わらず、眠りについたカールは先ほどまでいた場所とは別の場所で目を覚ます。

 

「えっと、キャサリンは……学園長室かな?」

 

周りを見渡してキャサリンの姿がないことにカールはそう予想を立てて部屋を出る。

そして廊下を歩いてまっすぐに学園長室を目指し、数分程度でその場所の扉前へと辿り着く。

扉の前に立ったカールは扉を開けて中に入ろうと取っ手を握った。

が、それと同時に扉越しに内部から聞こえてきた話し声にカールの手は止まり不思議そうに首を傾げる。

カールがキャサリンに聞いた話ではこの世界ではキャサリンの敵と言える者はいても味方と言える者はいない。

だからキャサリンと会話をする相手がいるのならばそれはキャサリンを討ちに来たハンターだと推測できる。

しかし、それならばなぜ扉越しに聞こえてくるキャサリンの話し声は自分と話すときのような明るさが見えるのか。

それがカールの不思議に思う理由だった。

 

「キャサリン……?」

 

「あ、カール? 入ってきていいわよ」

 

なんとなくカールはノックをして声を掛けるとキャサリンは先ほどと変わらぬ声で返す。

それにカールは扉の取っ手を再度掴んで回し、なぜか恐る恐るといった感じでゆっくりと扉を開く。

開いた扉から顔を覗かせるようにして内部を見ると、その先にはいつも自分に見せてくれる笑みを浮かべたキャサリンの姿。

そして、その手前のほうのソファーには見慣れぬ黒髪をした人物の頭が見えた。

 

「いらっしゃい、カール。 ノックなんかしてどうしたの? いつもは普通に入ってくるのに」

 

「あ、いや……扉越しにキャサリンと誰かの話し声が聞こえたから」

 

「ああ、そういうことね。 そういえばカールはこの人とは会ってなかったわね。 紹介するわ、この人は――」

 

キャサリンが向かいのソファーに座る人物の紹介をしようとしたと同時に、その人物はカールのほうに振り向く。

そしてにっこりと笑みを浮かべてキャサリンの紹介を遮るように口を開く。

 

「また会ったね、少年」

 

「え……」

 

カールはその振り向いた人物を見て信じられないと言った顔をして絶句する。

なぜなら、その人物は元の世界で何度か会ったことのある女性なのだ。

自分のいるこの世界が元の世界とは別の場所のはずなのに、なぜ目の前の女性はこの世界にいるのか。

というか、自身は学園の生徒と言ってはいたがほんとは何者なんだろうか。

そういった疑問が次々と浮かびカールは思考が混乱する中、その女性の名前を呆然と呟いた。

 

「ヴァル……さん?」

 

そのカールの呟きに、女性―ヴァルは肯定するように笑みを深めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

第十四話 彼女の素性と目的

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら……二人は知り合いだったの?」

 

「まあ、そんなとこかな。 ほら、少年もそんなとこに突っ立ってないでこっち来て座ったら?」

 

「あ……はい」

 

ヴァルに言われ、カールはキャサリンの座るソファーに歩み寄って隣に腰掛ける。

その光景を見てヴァルは意地悪な表情を浮かべて口を開く。

 

「ごく自然にキャサリンの隣に座る辺り、お二人のラブラブ度を見せ付けられちゃうね〜♪」

 

「ふふ、いいでしょ? 言っておくけど、あげないわよ♪」

 

「あはは、そんなこと言わないって。 私にも心に決めた人っていうのはいるしね」

 

「あら、そうなの? どんな人?」

 

「強くて、格好良くて、優しい人だよ♪ 今は会えないんだけどね……」

 

「それって……」

 

「あ、勘違いしないでね? 別に死んじゃったわけじゃないから。 会えないのは……私の覚悟の問題かな」

 

「覚悟?」

 

「うん。 詳しくは言えないけど、私はあの人に……あの人たちに酷いことしちゃったから。 あの人なら許してくれるとは思うけど……」

 

「怖いのね?」

 

キャサリンの言葉にヴァルは少しだけ悲しげな笑みを浮かべながら小さく頷く。

 

「それに、本来なら私はいないはずの存在だから……受け入れてくれても、きっと迷惑を掛けちゃうから」

 

ヴァルの呟いたこと……ないはずの自身の存在、受け入れれば迷惑を掛ける。

それらが一体どういうことなのか、カールはもちろんキャサリンにも分かることはない。

なぜなら、ヴァルは自身の過去を決して話そうとはしないから。

ヴァルの過去を知っているランドグリスに聞いたとしても、きっと言いはしないだろう。

だから、彼女にどんな過去があり、それがどれだけのことを背負っているのか、分かることはない。

悲しい過去なのだということしか、分かりはしない。

 

「ん……ちょっとしんみりな空気になっちゃった。 ごめんね、二人とも」

 

小さな笑みを浮かべて謝罪をするヴァルに二人は気にしてないと首を横に振る。

それにヴァルは、ありがと、と短く呟くようにお礼を言って仕切りなおすように明るい声で言う。

 

「じゃ、少年が何やらいろいろと気になってるみたいだから、質問タイムといこっか♪」

 

「そうね」

 

「あ、はい。 でも、その前に……その少年というのは、ちょっと」

 

「ん? だって私、君の名前知らないし」

 

「す、すみません。 僕は、カールって言います」

 

慌てて名乗るカールにヴァルは苦笑しつつ呼び方を少年からカールに変える。

そしてその後、カールが気になっていることを挙げさせてヴァルはそれに一つ一つ丁寧に答えていく。

なぜ自分と同じ世界にいるのか、そもそもここは何なのか、などなど……。

その多くの質問に答えるヴァルの言葉はどれもがカールを驚かせるには十分な内容だった。

 

「ここが……過去の学園」

 

「その様子だと、うすうすは気づいてたみたいだね」

 

「まあ、うすうすですけど……でも、どうして急に僕はここに来れるようになったんでしょうか?」

 

「う〜ん、それがわかんないんだよね。 時間転移はそう簡単に起こるようなものじゃないし……見たところだと、カールは意識体だけこっちに来てるみたいだし」

 

「意識体?」

 

「つまりは、体は元の世界にあって精神だけがこっちの世界に来てるって事。 まあ簡単に言えば夢のようなものかな」

 

「夢……ですか」

 

「といっても、ここで怪我をすれば肉体にも傷が出来るし、ここで何かを無くしたとすれば現実でも無くなってることになるし……つまりは現実とあまり変わりはないってことかな」

 

「そう、ですか……」

 

「まあそれが分かったところで、なんでカールがここに来れたのかってことは分からないままなんだけどね。 ここに来る前に、何か変わったことはなかった?」

 

「変わったこと……う〜ん」

 

カールは腕を組み考え込んで数分、何かを思い出したかのように小さく声を上げる。

それにヴァルとキャサリンが何かと思い顔を向ける中、カールは自分の首から掛けられている首飾りをヴァルに見せる。

 

「えっと、初めてここに来れた時なんですけど、それがこれをもらった夜だったんです」

 

「……ちょっと見せて。 あ、外さなくていいからね」

 

外して渡そうとするカールをそう言って静止してヴァルはカールへと近づいていく。

そして、カールの首に掛けられた首飾りを、正確には首飾りにつく宝石を手にとって見る。

その際に予想以上にヴァルの顔がカールに接近しているためカールが顔を赤くし、キャサリンがカールの横腹を抓った。

だが、その宝石に意識を集中しているためか、そんな二人にヴァルは気づくこともなかった。

 

『これって……賢者の石?』

 

『魔力の流れが酷似していますので、賢者の石ではありますが……たぶん、これは本体から欠け落ちた欠片なのでしょうね』

 

『欠片ってことは、本体は結構な大きさってことになるね』

 

『はい。 そしてそれ故に力も今までの石とは比べ物にならないほどでしょう。 そんなものが、『教団』の手に渡れば……』

 

『かなりまずいね。 もし下手をして魔女まで奪われたら、『炎剣』を使われかねないよ』

 

『そうですね。 ですが、それをさせないために私たちがいるのです』

 

『だね』

 

ヴァルはランドグリスとそう話をしてから、小さく礼を言ってカールから離れる。

その際にカールが少しだけ顔を顰め、隣のキャサリンが不機嫌そうな表情をしていたのに首を傾げる。

 

「どうしたの、二人とも?」

 

「あ、いえ……」

 

「気にしないで……ただカールが浮気者なだけだから」

 

「だ、だから違うんだって!」

 

慌てて弁解するカールにやはりキャサリンは不機嫌なままだった。

そんな二人の様子に自分のせいだとは思っていないヴァルは首を傾げるしかなかった。

だけど、ヴァルの目には二人の様子がどこか微笑ましくも映り、自然と笑みが浮かぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとかカールがキャサリンを宥めてから十数分、話があると言ってヴァルはカールを連れて部屋を出た。

キャサリンもついていくと言ったのがキャサリンには聞かれるべきではない内容だったため待つように言った。

そのときのヴァルの真剣な表情にキャサリンはしぶしぶながらも頷いて二人は部屋を出て扉の横で話をし始める。

 

「カールは、キャサリンについてどこまで知ってるの?」

 

「どこまで……ですか? えっと、この学園の学園長なんだと言うことと、サキュバスっていう種族の人だということと……ハンター協会に命を狙われているってことくらいです」

 

「そっか。 じゃあさ、キャサリンがなんでハンター協会に命を狙われてるのか……知ってる?」

 

「……いえ」

 

「……キャサリンには聞かなかったんだ。 まあ、そうだよね。彼女にとっても辛いことなんだし」

 

「ヴァルさんは……知ってるんですか?」

 

「ん……まあ、ね。 言っておくけど、教えないよ? 私が教えていいことじゃないし」

 

「……」

 

「まあ、どうしても知りたいならキャサリン本人に聞くか、元の世界で学園の歴史について調べるかするといいよ。 そして、その上でどうすればいいのか悩んで、君自身の答えを出すべきかな」

 

「僕自身の……答え」

 

「そ。 といっても、君の答えはたぶん決まってると思う。 そしてそれは、世界の流れに逆らう行い……非難や中傷はもちろん、下手をすればたくさんのものが敵に回る」

 

過去を変える、それは世界の流れに逆らうこと。

そしてそれは時間転移が禁じられ、世に伝えられなかった理由の大部分を占める行為。

真実を知った上で、カールがそれを選択できるのか、キャサリンを愛し続けることができるのか。

ヴァルの言葉は、まるでそう聞いているようだった。

 

「まあ、無責任に聞こえるかもしれないけど、大いに悩むといいよ。 悩んで、悩んで……答えを出す。 それは君にしか出来ないことだし、彼女を愛してしまった君の罪に対する罰でもあるんだから」

 

「はい……」

 

「ん……じゃ、もう戻っていいよ。 今日の学園の掃除は私がしとくから」

 

「ひ、一人で……ですか?」

 

「うん。 久々に暴れたいしね♪」

 

「だ、大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫大丈夫♪」

 

ヴァルは軽い調子でそう言って、廊下を歩き出し部屋から遠ざかっていった。

その後姿を見ながらカールはヴァルの心配をするも言われたとおりに部屋の中へと入っていく。

その後、キャサリンより語られたヴァルの実力にカールが唖然としてしまったのを余談として語っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

カールと別れて廊下を歩き続けるヴァルとその腰に携えているランドグリス。

二人は学園内から感じる人の気配を辿りながら、その気配のある場所を目指して歩き続ける。

 

「過去を変えることが罪……か。 じゃあ、私のしようとしてることも、罪なんだよね」

 

『そうですね。 しかし、あなたのしてきたことに比べたら、可愛いものではないでしょうか?』

 

「ランちゃんは容赦ないね……まあ、その通りだけど」

 

クスクスと笑いながらヴァルはそう返し、コツコツと音を立てながら差し掛かった階段を降りていく。

歩く足が響かせる音と共に、人の気配と殺気が強くなっていくのを感じながら……。

 

「間違ってたんだよね……あの頃の私は」

 

『しようとしていたことはそうですが、すべてが……とは言えません。 あの頃があったから、今のマスターがあるのですから』

 

「そうだね。 あの人が……あの人たちが、私の気持ちと向き合って、私を受け入れてくれたから、今の私がある」

 

『その恩を返すことが、今のマスターのすべてなのでしょう?』

 

それに小さく頷くと同時にヴァルは階段を降りきって先の扉を出る。

扉を開いた先は、中心の壊れた噴水が目立つ中庭。

そしてそこにいるのは、キャサリンを狙っていると思われる数名のハンターの姿。

 

「でも、本当の私は欲張りだから……誰にも私みたいな悲しみは背負って欲しくない。 だから……」

 

言葉をそこで切り、それ以降続けることなくヴァルはランドグリスを抜き放つ。

そして切っ先をハンターたちに向けながら、殺気と共にその言葉を言い放った。

 

「逃げたいものは逃げればいい……でも、向かってくる者には容赦なく死を与えてあげる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は、死神だから……」

 

 


あとがき

 

 

ん〜、怪我も徐々に治り、全快も近いなと思いつつ執筆したT.Sです。

【咲】 怪我だから仕方ないって事にしとくけど、ずいぶん遅れたわね。

それは仕方ないよ。 もう執筆どころか横になって寝るのさえ辛い状況だったんだから。

【葉那】 そうなるほど盛大にこけたみたいだしね〜。

【咲】 一部の傷なんか焦げてたしね。

うう、あそこが一番痛かったですよ。

【咲】 ま、ほとんど治ったんだから、これからは執筆速度を元に戻すように。

イエッサー。

【葉那】 で〜、次回はどんなお話なの?

ん、まあ前に言ったとおり交互だから、次回はあちら側のお話だな。

蓮也と綾菜が冒険に参加したことにお怒りを見せるミラとそれにたじたじになる恭也のお話。

それと綾菜の人見知りに対してレイナたちが奮闘するお話。

まあどちらにしても主に昼間のお話になるから冒険風景はほとんどないかな、次回は。

【咲】 どっちがメインのお話になるわけ?

う〜ん、どっちも同じくらいに、かな。

【葉那】 でもさ〜、蓮也と綾菜って昼間はあまり出てないみたいだけど?

出てないだけで一応いることはいる。 ていうか、まったく出てないわけじゃないし。

【咲】 あ〜、確かにね。

【葉那】 え? え? どういうこと?

ま、いずれ分かるさ。

【咲】 そうね。 じゃ、今回はこの辺でね♪

あれ? 実験コーナーは?

【咲】 怪我が治りかけてる奴で実験するほど酷い奴じゃないわよ、私は。

【葉那】 わ〜、お姉ちゃんやさし〜。

優しい……か?

【咲】 何?やって欲しいの?

いえいえ!! 丁重にご遠慮願います!!

では、また次回会いましょう!!

【咲】 逃げたわね。 ま、いいけど。

【葉那】 またね〜♪




うーん、もしかしてヴァルって……。
美姫 「さあ、それはどうなのかしらね」
まあ、今後の楽しみにしておきますか。
美姫 「そうしなさい」
さて、次回は学園側というか蓮也たちのお話みたいだな。
美姫 「こっちはこっちでどうなるのかしらね」
怒ったミラをどうするのかが問題になりそうだけれど。
美姫 「次回も待ってますね〜」
ではでは。



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