『マスター』

 

「ん……なに?」

 

失われし古の塔に安置される賢者の石を見つけるよりも少し前。

船着場の橋の前でヴァルがようやく見つけた賢者の石の反応を辿るために、水の中へと潜ろうとしていた。

といっても別に泳いで潜るわけではなく、とある魔法を使って潜るという方法である。

その魔法をヴァルは使用しようとしていた矢先、突然ランドグリスが声を掛けてきたためヴァルは詠唱を中断して何かと聞いた。

詠唱を中断して自分に意識を向けたヴァルに、ランドグリスはいつもより少しだけ重々しさを感じさせる声でそれを口にする。

 

『……『血』が動き出しました』

 

「……マジで?」

 

『マジで、です』

 

「うっわ……予想よりも動き出すのが早すぎるよ。 こっちはまだいっぱいやることがあるっていうのに」

 

頭が痛いとでもいうように額を押さえてヴァルはそう愚痴を漏らす。

だが、すぐに真面目な顔に戻って先ほどのランドグリスの言葉で思ったことを尋ねる。

 

「状態はどんな感じなの? 完全に目覚めたってわけじゃないんでしょ?」

 

『そうですね……確かにまだ完全に目覚めていませんが、簡易の能力なら使える、といった状態でしょうか』

 

「簡易な能力って……『魔血』の生成とか?」

 

『それと学園内で微弱な魔力の反応が見られるところを見ると、『ガイスト』の生産も可能のようですね』

 

「……それって、今学園に何体くらいいるの?」

 

『広域で見たわけではありませんのでなんとも言えませんが……先ほど見ただけでは、三体です』

 

「……広域じゃなくても三体ってことは、結構いそうだね」

 

『ですね』

 

ヴァルはランドグリスが短くそう返すと小さく溜め息をつく。

そしてズボンのポケットから数個の小さな朱色の玉を取り出す。

 

「少ないから、あんまり使いたくないんだけどね〜……」

 

『使い終わった後に拾わず放置するからなくなるんです。 マスターはもっと物を大事にすべきです』

 

「はいはい。 じゃ、さっさとやっちゃおう」

 

『軽く流さないでくださいよね……まったく』

 

ヴァルはぶつぶつと何かを呟くランドグリスを無視しつつ手に持った玉を宙に放る。

放った玉は地面に落ちることなく、宙にふわふわと漂うように浮いていた。

その宙を浮く玉をヴァルは見据えながら、ヴァルは小さく呟くようにそれを口にする。

 

「憎悪の闇よ、死の淵より舞い戻れ」

 

ヴァルが呟くと朱色の玉は妖しく光を放ち、黒い霧が玉に収束していく。

そして霧はたちまち人の形を成し、傍目から見れば人の影が具現化したような姿でヴァルの前に立つ。

 

「我、―――の名において命ずる。 この地に住まうものを守護し、仇なすものはすべて撃ち滅ぼせ」

 

ヴァルがそう命令すると、影たちの朱色の目は妖しく光り、フラフラとたどたどしい足取りでヴァルの前を後にする。

ヴァルはそれを最後まで見送ることなく背を向け、再度橋の先にある湖に視線を向ける。

 

「じゃ、こっちも行こっか」

 

『そうですね、マスター』

 

ランドグリスの返答の後にヴァルは先ほど唱えようとしていた魔法の詠唱を開始する。

そしてその詠唱が終わるとヴァルの体を巨大な気泡が包み込み、ヴァルは内側からそれをちゃんと出来ているかを確認した後、その姿を湖の中へと消していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

第十九話 血と影

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カールが過去に行っていた時刻、レイナたちは地下水路を歩いていた。

先頭をゆっくりと歩いていくレイナと静穂と蓮也、その後ろにつくように歩くリィナとリゼッタ。

ちなみに綾菜はいつもと変わらず蓮也の後ろに隠れるように張り付いている。

しかも今日は蓮也がレイナや静穂と共に先頭を歩いているため、後ろに隠れようとも横にリィナやリゼッタがいるため終始ビクビクしている。

そんな最近ではいつもと変わらぬような感じではあるが、唯一ついつもと違うことがあった。

それは、いつもは結構口数は少なく下手をすれば終始無言であるリィナが、自分から話を振っていることだった。

といっても話を振っている相手はレイナでも静穂でもリゼッタでもなく、最近メンバーに加わったばかりの蓮也と綾菜であった。

カールやレイナが話しかけても少しぶっきらぼうに短く返すだけなのに、会ってからあまり日が経っていない二人にリィナが自分から話しかけていることに皆は驚きを隠せなかった。

しかしまあ二人と話すリィナからは昼間の件を引きずっている様子はほとんど見られないため、驚くと共にほっと安心したのもまた事実だった。

 

「そうなんですか……じゃあ、恭也先生はお二人が生まれるよりもずいぶん前からこの学園にいたということですか?」

 

「はい。 でも詳しくは聞いたことないですから、どのくらい前かはわからないんですけど」

 

「それだったら……」

 

そのときの話題が恭也自身から聞いたことのあることであるため、リゼッタは今思い出したかのように呟く。

そのリゼッタが呟いた瞬間、三人の顔がまったく同時にリゼッタのほうへ向けられ、リゼッタは思わずビクッと驚く。

 

「……リゼッタさんはいつ頃から恭也先生がここにいたのか知ってるんですか?」

 

「え……あ、はい」

 

「……なんでリゼッタさんが知ってるんですか?」

 

「え、えっと……ちょっと前、カールさんと一緒に図書室で調べ物をしてたときに……恭也先生とミラ先生から」

 

傍目から見たらなんであなたが知っているのかと責めているようにも見える感じでリィナはリゼッタに聞く。

もっともリィナからしたらそんな気はこれっぽっちもないのだが、周りの者からしたらそうにしか見えない。

そんなリィナの矛先となっているリゼッタは若干の怯えを見せながらも質問に答えるが、答えるたびにリィナの纏う空気が黒いものへと変わり、リゼッタは更に怯えてしまう。

さすがにその様子からリゼッタが憐れに思えてきた皆はなんとかリィナを落ち着かせ、やっとのことで解放されたリゼッタはほっと息をつく。

その後、皆に止められてなんとか落ち着いたリィナだったが、無表情に見えるその表情からはどこか拗ねている感じが見られ、リィナの普段は見られないような一面が今日一日で多々見られたため皆は驚きの連続だった。

 

(ねえ、レイナさん……さっきのリィナさんを見て、どう思いました?)

 

(どう思ったって……なんでそんなに怒ってるんだろうか、くらいしか思わなかったけど)

 

(ん〜……レイナさんって、案外鈍感なんですね)

 

(鈍感……じゃあ、静穂にはリィナが怒ってる理由、わかったの?)

 

(わかるも何も……わからないほうがどうかしてるってレベルですよ?)

 

(そ、そうなの?)

 

(はい♪)

 

と、レイナと静穂が小声でそんなことを話していたのだが、リィナには聞こえることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まあそんなこともありながらも、皆は楽しく?談笑しながら地下水路を歩いていく。

途中で魔物との遭遇も何度かあったが、面子が面子なだけにほとんど時間も掛けずになんなく倒してしまう。

まあカールが抜けたとはいえ、レイナたちだけでも十分戦えていた状況で蓮也と綾菜が加われば当然といえば当然である。

その後、その何度かあった戦闘でレイナがふと気になったことがあるのか歩きながら蓮也にそれを聞いた。

 

「綾菜って、武器を持つと性格とか変わったりする?」

 

「性格……ですか? う〜ん……僕の知る限りではそんなことはないと思いますけど」

 

「ん〜、じゃあやっぱり私の気のせいなのかなぁ?」

 

「気のせいって、レイナさんから見て綾菜に何か変わったことでもあったんですか?」

 

「いや、ね……戦闘中にちらっとだけど綾菜を見たら、ちょっと笑みが浮かんでるように見えたから……あ、でもたぶん気のせいだよ。 綾菜に限ってそんなことあるはずないし」

 

慌ててそう言うレイナに蓮也も綾菜に限ってそんなことないだろうと思ったのか同意するように頷く。

ちなみに綾菜はレイナと蓮也の話に自分の名前が出たからか不思議そうに二人に視線を向けてレイナと目が合ったと同時に蓮也の後ろに隠れた。

まあそんな会話もありつつ一同は地下水路を歩いていき、曲がり角に差し掛かったところで先頭のメンバー、レイナたちが足を止める。

後ろにいるリィナとリゼッタは先頭の者たちがいきなり足を止めたことにどうしたのかと聞こうとするが、それはレイナの人差し指を立てて口元に持っていく静かにという合図で止められる。

一体なんなんですか、とリィナがかなり小さな声で呟き、レイナたちが視線を向けている曲がり角の向こうを同じく覗き見て絶句する。

 

「それで、彼女のほうはどうだ?」

 

「前と比べて発作が起きる頻度も少なくなってきておりますので、今のところは安定していると言えます」

 

「そうか……では、次の指示を出すまで引き続き現状を維持しろ」

 

「はっ」

 

曲がり角の向こう側、視線の先にいたのは昼間ロレンツと共にやってきたハンター協会代表理事のウィルヘルム。

そして、白魔法講師でリィナの主治医であるベルナルド、その二人の姿だった。

二人の会話はそこまで大きな声ではないが、地下水路であるが故に声が響くのでレイナたちには十分に聞こえていた。

だがこんなところでひっそりと話す割にその内容は別に妖しげなものではなく、言ってみればリィナの容態に関する報告のようなもの。

しかし、だったらなんでこんな場所で話す必要があるのか、という疑問が浮かんでならない。

そんな疑問を浮かべつつレイナたちが見ていると、二人は会話を終えたのかベルナルドは通路の奥へ、ウィルヘルムはレイナたちに向かって歩いてくる。

そして間もなくしてウィルヘルムはレイナたちと出くわすも驚きは浮かべず、まるで気づいていたかのように笑みを浮かべる。

 

「君たちはこの学園の学生だね? こんな遅くまで冒険かな?」

 

「あ、はい……」

 

「そうか。 こんなところにまで来れるほどということは、君たちはとても優秀なようだね」

 

「いや〜、そんなことないですよ〜」

 

ウィルヘルムの言葉に静穂が照れたように返すと、ウィルヘルムも小さく苦笑する。

そしてその後、失礼する、と去っていくウィルヘルムの姿が見えなくなるまで見届けた後、静穂ははぁと小さく息をつく。

 

「なんか、すっごい人ですね〜。 ただ立ってるだけなのに圧倒的な存在感っていうのが感じられましたよ」

 

「そうね。 伊達に代表理事は名乗ってないってとこかしら」

 

レイナと静穂がそう言い合い、それにリゼッタが同意するように頷く。

そしてそこでリィナが先ほどから黙ってしまっていることに気づき、リィナに視線を向けて絶句する。

リィナは視線を向けられていることにも気づかずに、今にも震えだしそうなほど酷く顔を青褪めさせていた。

 

「リ、リィナ? どうしたの?」

 

「……え? あ、いえ、なんでもありません」

 

レイナが心配そうに声を掛けると、リィナは少し反応に遅れながらも我に返りそう返す。

我に返っても若干青褪めてはいるが、リィナがなんでもないと言う以上追求しても答えないと思いそれ以上何も聞くことはなかった。

しかしだからと言って心配であることには変わりなく、レイナは今日はこの辺にしとこうかと提案をする。

だが、他の者はともかく、リィナはそのレイナの意図に気づいてかその提案を拒否して冒険を続けるように言う。

それにレイナも少しだけ渋るが、リィナが自分は大丈夫だといって譲らないため冒険は続けることとなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィルヘルムとの遭遇から少し後、レイナたちは地下水路の奥へと進んでいき、立て札のあるところへとやってくる。

その立て札に書かれていることは、「これより先、凶暴な魔物が多数いるため危険」という立て札だった。

つまるところ、立て札より先の魔物はこれまでの魔物よりも凶暴であるため不用意に立ち入らないように、ということだろう。

その立て札を見た後にレイナは簡単に話し合い、腕にそれなりの自信もついてきてるし、時間もまだまだあるので行っていようということになった。

そしてそう決まったが矢先、レイナたちは立て札を通り過ぎて鉄橋の上をコツコツと足音を立てて歩いていく。

 

「っ!?」

 

鉄橋の真ん中辺りに差し掛かったとき、何やらぞくっとするような気配を感じてレイナは体を震わせる。

それに皆は足を止めてどうかしたのかというような視線を向けるが、レイナは首を振りながらなんでもないと返して歩みを再開する。

皆はそれに首を傾げながらも同じく歩みを再開するが、レイナがまたも足を止めたのにまたかと思いながら足を止める。

 

「姉さん、今度は一体どうしたんですか?」

 

「あ、あれ……」

 

呆れながら尋ねるリィナにレイナはお化けでも見るかのような目をしながら前方を指差す。

そのレイナが指差す方向に皆はその視線を向け、その先にあった物に一同は言葉を無くす。

その先にあったのは、今までに見たこともない魔物の姿。

全身が血のように真っ赤で、まるで血が人が人の形を取っているというような異形の姿の魔物。

その魔物に絶句していた皆の耳には、魔物が立てるピチャ、ピチャという足音が怖いほどに聞こえてくる。

 

「な、なに……あれ」

 

いち早く我に返った静穂が少しだけ震えるような声でそう呟く。

それがただの魔物であるというのならレイナたちがここまで驚いたり怯えを見せたりすることはない。

だが、その目の前の魔物はただの魔物と判断するにはあまりに異形すぎる。

そして何よりレイナたちに怯えを走らせるのは、その魔物の発する空間が凍結するほどの殺気。

その殺気を放ちながらゆっくりと近づいてくる魔物を前に、レイナたちはまるで足を射抜かれたように固まってしまう。

 

「っ!」

 

そんな中、唯一その呪縛から抜け出した綾菜は即座に魔物へと駆け寄り、小太刀を抜刀して斬りつける。

魔物はその斬撃を避けずその身に受け、上半身と下半身が両断されて上半身がバチャッと音を立てて落ちる。

異常なほどの殺気の割にはあっけなく倒れた魔物に綾菜は不思議そうに首を傾げながらも小太刀を納めてレイナたちのほうへ戻ろうと背を向ける。

魔物があっけなく倒されたことや綾菜があの殺気の中でいち早く動けたことにレイナたちが唖然とし、そして次に起きた出来事に驚きを走らせる。

上半身と下半身を両断されて倒れた魔物が、静かに一箇所に集まって瞬時に元の形へと戻り、綾菜へと腕を振り上げていたのだ。

 

「危ない、綾菜!!」

 

「っ!?」

 

レイナの叫びに綾菜はすぐに振り返るが、気づくのが遅すぎたのか避けることが出来ずモロに拳を身に受けてしまう。

振り下ろす速度からして威力も相当なものだったのか、攻撃を受けた綾菜はレイナたちと魔物の間辺りまで吹き飛び背中を強く地面に打ちつける。

なんとか先ほどまでのことで殺気の呪縛から抜け出したレイナたちはすぐに綾菜へと駆け寄って抱き起こす。

抱き起こされた綾菜は先ほどの攻撃と背中を打ちつけたことで気を失っているのかグッタリとしていたため、レイナたちはすぐに治癒の魔法をかけようとするが、そんな暇を与えないというように魔物が自身の腕を振るって血の水弾をレイナたちへと放つ。

その水弾を気を失っている綾菜を抱えながら横に跳んで避けるが、さらに追い討ちをかけるように魔物は水弾を放ってくる。

ほとんど絶え間なく水弾を放ってくる魔物を倒さないことには綾菜の治癒ができないと考え、綾菜を抱えているレイナ以外の者は各々の武器を手に持って攻撃に移る。

 

「はっ!」

 

静穂が放たれる水弾を避けつつ駆け寄り、振るわれる魔物の腕を長刀で斬り落とす。

だが、腕を切り落とされたにも関わらず魔物は一切に怯みを見せずに反対側の腕を振るう。

その腕を静穂はしゃがむことで避けるが、腕から放たれた水弾が静穂の後方にいる綾菜を抱えるレイナを襲う。

 

「させません!」

 

レイナへと迫る水弾をリゼッタは横から矢を放ち、すべての水弾に直撃させることで遮る。

そしてそれと同時にしゃがんだ状態から静穂は立ち上がると同時に長刀を斬り上げてもう片方の腕を斬り落とす。

魔物はやはりそれに怯みを見せることはないが、腕を斬り落とされたことでほぼ無防備になった。

それを見て蓮也とリィナは魔物との距離を一気に詰め、蓮也が振るった小太刀が魔物の首から上を斬り落とす。

そしてそれとほぼ同時にリィナがレイピアを持っていないほうの手を魔物の胴体に当たるか当たらないかの位置に掲げ……

 

「デッドヘイザー!!」

 

叫ぶと共に手の平に気を集中させて魔物の胴体へと放つ。

気の直撃を受けた魔物の胴体はバシャッと音を立てて水が弾けるように飛び散る。

下半身は残るものの、今度はさっきと違い上半身をバラバラにしたため再生はしないだろうと皆は考える。

だが、その皆の考えとは反してバラバラになった魔物の体を構成する液体が一箇所に集まり、先ほどと同じように再生を果たす。

 

「冗談でしょ……」

 

レイナがぽつりとそう呟くが、それを否定するように魔物は腕を振るい水弾を放つ。

その水弾はまたも一直線にレイナと綾菜を狙っており、レイナは綾菜を抱えたまま横へと跳んで避ける。

避けるレイナに追い討ちをかけるように魔物は水弾を放ち続け、静穂やリィナ、蓮也はそれを阻止すべく武器を握って魔物へと仕掛ける。

それを支援しつつレイナと綾菜に迫る水弾を遮るように矢を放つリゼッタは、先ほどからの魔物の行動のおかしな点に気づく。

 

(私たちを無視して、レイナさんと綾菜さんを集中的に狙ってる……ううん、最初のことを考えると、あの魔物が狙ってるのは)

 

そこまで思考して、またもレイナと綾菜のほうへと放たれる水弾を矢を放って遮る。

その間もリィナたち三人が魔物へと攻撃を仕掛けているが、魔物は倒しても倒してもすぐに再生してしまう。

このままでは前衛として戦う者の体力が尽き、こちらが倒れてしまうのも時間の問題だった。

しかしどうやったらあの魔物を倒せるのか、その方法がまったく浮かばないのもまた事実。

結局のところ、何か策が思いつかない限りはこの状況を打破することなどできず、皆は必死に目の前の魔物を倒す方法を考えながらも戦い続けるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、学生寮三階にてレイナたちが対峙している魔物と同一の魔物と裂夜は戦闘をしていた。

裂夜は魔物に小太刀で斬り刻むもすぐに再生してしまうそれに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら見据える。

そして、その裂夜の後ろには魔物に対して怯えを見せている学園の生徒らしき少女の姿。

この状況がつまりどういうことか、それは至って簡単なことだった。

いつものように学園内を見回っていた裂夜に突如聞こえてきた少女の悲鳴。

その悲鳴を聞いた裂夜はすぐに駆け出して悲鳴の聞こえた三階へと駆けつけ、その異形の魔物を前に腰を抜かし怯えている生徒を見つけた。

裂夜はその光景を見るや否や、すぐに生徒へと駆け寄るとその体を抱き上げて振り下ろされた魔物の攻撃を横に跳んで避ける。

攻撃を避けると共にすぐにその生徒を地面に下ろして守るように生徒の前に立ちながら魔物を倒すべく小太刀を抜き放ち魔物と対峙する。

そして今に至るというわけなのだが……

 

「くそっ……なんなんだこいつは」

 

首を斬り落とそうが体を両断しようがすぐに再生してしまう魔物に裂夜は苦戦していた。

裂夜からしたら魔物の攻撃はどれも遅すぎるくらいで避けることなど容易にできるのだが、避けているだけでは倒すには至らない。

更に言うと、下手に避ければ後ろの生徒に水弾が当たる可能性が高いため、ほとんどの水弾は避けずに小太刀で弾くしかない。

そのため、裂夜の手に持つ小太刀はその血と思われる液体がべっとりとついており、斬れ味がかなりといっていいほど落ちてきている。

小太刀を振るって液体を払っても払っても放たれた水弾でまたも小太刀にはべっとりと水滴がついてしまう。

まあ斬れ味が落ちることに関しては目の前の魔物にはほとんど意味を成さないのだが、それでもあまりいい気はしない。

地面や小太刀にこびりついた液体からは血そのものと思えるほどの匂いが発せられているのだ。

裂夜はいい気はしないものの別に問題はないのだが、後ろの生徒に至ってはすでに顔を青褪めさせてしまっている。

 

(く……長期の戦闘は後ろの奴のほうが持たないか)

 

内心でそう呟き、またも放たれてきた水弾を小太刀で弾く。

実際、倒す以外にもその生徒を連れて逃げるという手もあるのだが、それを選ぶことは出来ない。

ここで逃げれば確かにその生徒は助かるだろうが、冒険に出ているのはこの生徒だけではない。

故にこの魔物が他の生徒を狙わないとも限らないため、ここで倒さなければ結局のところ結果は同じなのだ。

 

「はっ!」

 

逃げることも出来ず、だからと言って守りに徹していては勝つことはできない。

裂夜はそう考えて生徒に魔物の攻撃が行かないように注意しながら魔物に小太刀を走らせる。

振るわれた小太刀を魔物はその身に受け上と下が両断されはするものの、それではすぐに再生してしまうことは目に見えている。

故に裂夜は再生できないほどに斬り刻めばいいと考えたのか、瞬時に二刀の小太刀を構えてそれを放つ。

 

御神流 奥義之伍 花菱

 

放たれた無数斬撃は避けることをしない魔物にすべて当たり、微塵に近いと言えるほどまで斬り刻む。

斬撃を放ち終えた裂夜は念を入れて後方へと下がり、生徒を守るように立ちながら斬り刻まれた魔物の欠片を見据える。

見据えながら裂夜はもう再生してくれるなよ、と内心で呟くが、その願いは裏切られることとなった。

あれほどまでに斬り刻んだ欠片が一点へと集まり、まるで何事もなかったかのように再生を果たしたのだ。

 

「くそ、駄目か……」

 

苦々しく呟き、裂夜は小太刀を再度構える。

それに対し再生を果たした魔物は腕を振り上げ、裂夜と生徒に向けて水弾を放とうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、魔物の体は粉々に弾け飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

突如粉々に弾け飛んだ魔物に裂夜は驚きを浮かべる。

そしてその驚きを浮かべたまま、粉々になった魔物の後ろに立つ者に視線を向け言葉をなくす。

それは、先ほどの魔物と比べても差して違いがないくらい異形な姿。

怖気が走るほどの朱色の眼、人の影が具現化しているのではと思えるような姿。

そしてその片手にはその姿と同化しそうなほど真っ黒で刀身が禍々しく歪んだ剣。

そのどれもが十数年前、学園に恐怖と災いをもたらした存在であり、もうすでにいないはずの存在と重なるもの。

その存在に言葉をなくし呆然としていた裂夜は我に返ると共に、それの名を呟くように口にした。

 

「ゲシュペンスト……だと」

 

その呟きに呼応するように、朱色の眼は妖しく光を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

事態がどんどん動いてきました。

【咲】 みたいね。 そういえば前に言ってたけど、カールは次回出るの?

ん〜、次回はこれの続きだからまだかな。たぶんその次辺りになると思う。

【咲】 ふ〜ん……で、次回はこの話の続きというだけ?

う〜ん、どうだろな〜……正直まだわからん。

【咲】 無計画ね。

うっさいわ。 じゃ、今回はこのへげばっ!!

【咲】 はいは〜い、馬鹿いってないでこっち来ましょうね〜。

うぅ……やっぱりやるんですか?

【咲】 当然。

 

(しばらくお待ちください)

 

【咲】 咲と!

【葉那】 葉那の!

【咲&葉那】 おもしろ実験コーナー!!

【咲】 はい、久しぶりにやってきましたこのコーナー!

【葉那】 実験台は相も変わらずこの人です!

あはは〜、どうも〜。

【咲】 じゃ、早速今回の発明品の紹介といきましょう。

【葉那】 今回はどんな発明品なの?

【咲】 ふふふ、今回はね〜……これよ!!(一見普通のハリセンを取り出す

【葉那】 ハリセン?

【咲】 見た目はね。 でも、普通のハリセンじゃないわ。

いや、どう見ても普通のハリセンだろ。

【咲】 (無視)このハリセンはね……対象の頭を強く叩けば叩くほど叩かれた者は強さに比例して眠気が吹き飛ぶという優れものなのよ!!

【葉那】 わ〜、すご〜い。

やっぱり普通のハリセンにしか思えないんだが……。

【咲】 (無視)じゃ、さっそく実験にいってみましょう。 お願いね、葉那。

【葉那】 うん! じゃ、いっくよ〜♪(思いっきり振り上げる

ちょ、タンマ! ど、どこに向けげばっ!!(顔面に力いっぱいハリセン直撃

【咲】 さて、効果のほどは!?

……(威力が強すぎたため気絶

【葉那】 ん〜、これじゃ眠気がどうのとかはわからないね〜。

【咲】 ま、実験台がこいつだからね〜。

【葉那】 で、今回もこれはいつもの面子に送るの?

【咲】 そうね。 FLANKERもペルソナもそろそろ薬に対する体性がついてそうだから、ちょうどいいと思うしね。

【葉那】 元からそういった物に体制のある浩さんにも効きそうだね〜♪

【咲】 そうね。 あ、でもこいつみたいに眠気がとんでも気絶したりしてね。

【葉那】 打撃に体制ついてそうだから大丈夫じゃないかな?

【咲】 ま、どっちにしたって美姫さんが有効活用してくれるわよ。

【葉那】 だね〜。 じゃ、今回はこの辺で♪

【咲】 また次回会いましょうね♪

【咲&葉那】 それじゃね〜♪




いやー、暑い暑い。このままだと、十二月にはどれだけの暑さになってしまうんだろうか。
美姫 「なんでやねん!」
ぶべらっ! ……や、やっぱりハリセンと来ればこの辺りはお約束だろう。
美姫 「吹っ飛ばされてもすぐに普通のコメントをありがとう」
いやいや、慣れだよ、慣れ。というか、ただのハリセンで人一人を吹き飛ばすお前に問題ありだと思うが。
美姫 「これで眠気がさめるなら良いじゃない」
……普通に殴られてもさめるんだが?
美姫 「そんなんじゃ駄目よ! 人は道具を使う事で進化してきたのよ」
お前は道具を更に凶器、武器へと進化させているような気がするんだが。
美姫 「やっぱりハリセンのこの縦のラインを刃にするべきだと思うのよ」
思うな! 流石にそれは洒落にならないから!
美姫 「ちぇ〜」
おいおい……。
美姫 「それはそうと、物語の方は何か動き出しそうな予感よね」
だな。色々と出てきたりしてるし。一体どうなっていくんだろうか。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待ってます。



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