午後の講義が終わり、結局裂夜は見つからずに蓮也と綾菜はリエルと別れて部屋へと戻った。

そして部屋に戻ってしばらくすると、講義を終えた恭也が部屋に戻ってきた。

恭也が部屋に戻ると同時に綾菜は恭也へと駆け寄って抱きつき、堰を切ったかのように泣き出してしまう。

事情を知る蓮也は、その様子に相当怖かったのだろうと改めて思うが、事情を知らない恭也は困ったような顔を浮かべる。

その後、困り顔を浮かべながらも恭也に宥められ、泣き止んだ綾菜は恭也に抱っこをせがむ。

それに恭也は苦笑を浮かべつつ綾菜を抱き上げ、頭を優しく撫でながら蓮也へと視線を向けて事情の説明を頼む。

説明を頼まれた蓮也が事情を言い終え恭也に顔を向けると、恭也は少しだけ怖い顔をして考え込んでいた。

 

「……父さん?」

 

「ん? あ、ああ……どうした?」

 

「いや、なんか少し、怖い顔してたから……何か、心当たりでもあるの?」

 

「ふむ……まあ、少しな」

 

それだけ言うと恭也は黙り込み、綾菜を抱き上げたまま椅子へと座る。

そして、綾菜の頭を撫でながら、蓮也の述べた説明について考え込む。

 

(真の姿というのは……まあ、おそらくは魔眼のことだろう。 だが、災厄というのは一体……)

 

思考に没頭するも考えはそこで詰まり、恭也は小さく溜め息をつく。

そしてそこで気づいた……撫でられ続けていた綾菜が、いつの間にか寝息を立てているということに。

そのことに恭也は再度苦笑を浮かべ、椅子から立ち上がって綾菜をベッドへと寝かす。

そして蓮也の傍に寄って少し出てくるとだけ言い、蓮也の頭を二、三度撫でた後、部屋を出る。

 

(この事件……背後に誰がいるのかは分からんが、やはり一筋縄ではいかないだろうな)

 

部屋を出て、廊下を歩きながら恭也はそう考え、嫌な予感を抱く。

そして、自身の内から来るその嫌な予感が杞憂であってほしいと祈りつつ、廊下をゆっくりと歩き続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

【第二部】第四話 それぞれの平穏の昼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時間が流れ、翌日の昼。

恭也は中庭の一角にて、盆栽の手入れをしていた。

本当なら部屋にでも置きたいのだが、日当たりが悪いし、なにより部屋が狭いからとミラに却下された。

そういうわけで置き場所に悩んでいた恭也が見つけた場所、それが中庭だったということだ。

幸い、中庭では一部の生徒が鉢に植えた花を育てていたりするので、置いても違和感はない……と、恭也は思ったのだ。

まあ、実際は違和感バリバリなのだが、同じ植物なのだからということで恭也は違和感を感じないらしい。

というわけで、午前の講義を終えた恭也は手入れの道具を片手に、盆栽の手入れをしている次第だった。

ちなみに、その横には同じく講義を終えたミラが、かなりつまらなそうな表情で座っていた。

 

「……」

 

「ねえ、恭也」

 

「ん、なんだ?」

 

「……楽しい?」

 

「ああ、楽しいぞ」

 

「そう……」

 

先ほどから、ずっとこれと似たような問答が続いていた。

ミラが話しかけても、恭也は手入れに没頭するあまりに会話が続かないのだ。

だからといって恭也から話しかけてくるのを待っても、当然の如く恭也は手入れに没頭しているため話しかけてはくれない。

そのことに、ミラはいい加減爆発しそうな自身の怒りを抑えるので精一杯だった。

 

(盆栽ばっかり見て……私のことも少しくらい、構ってくれてもいいじゃない)

 

盆栽ばかり見る故に、ミラは盆栽に対して絶賛嫉妬中だった。

これが人間なら、ミラは間違いなく相手に雷撃でも落としていただろう。

だが相手は盆栽……そんなことをしても空しいだけである。

 

「はぁ……」

 

あからさまについた溜め息、それにも恭也は気づかずに手入れに没頭する。

自分を構ってくれというサインを込めてついたそれに気づかない恭也に、ミラの嫉妬は増大する。

そしてその嫉妬の矛先は、やはり恭也を奪った盆栽へと向けられる。

 

(やっぱり……壊そうかしら)

 

あまりに構ってくれない故に、ミラは内心でそんな不穏なことを考える。

しかし、盆栽を破壊した後の空しさ、そして浮かぶ恭也の悲しそうな顔。

それを考えると盆栽を破壊するという手はやはり削除せざるを得なかった。

ならどうすればいい……どうすれば、恭也の目を盆栽から自分へと向けられる。

それを頭で考え続け、ふとミラは一つだけ方法を見つけた。

 

(ああ……でも、これって結構恥ずかしいわよね)

 

考えた案を実行したときのことを想像し、ミラは恥ずかしさで頬を赤く染める。

だが、恥ずかしい分、おそらくは確実に恭也の目を自分に向けさせることが出来る方法でもあった。

故に、ミラは恥ずかしさを押し殺し、考えた案を実行することにした。

 

「ねえ、恭也……ちょっと話があるんだけど」

 

そう言いつつ、ミラは立ち上がって恭也のほうを向く。

そして、手入れを手を止め、なんだと聞きつつ恭也はミラのほうを向いた。

その瞬間、ミラは計画を実行した。

 

「っ!?」

 

精一杯背伸びをして、自分のほうを向いた恭也の唇に自身の唇を重ねる。

ミラの考えた計画……それは、昼ということで人が多いこの中庭にて恭也にキスをすることで、周囲の注目を集めること。

そうすれば、さすがに集まった視線に恭也は手入れを続けることなどできず、この場を離れようとするだろう。

そしてこの場を離れさえすれば、恭也は盆栽の手入れをし続けることはできず、ここに居続けるよりもずっと自分を構ってくれる。

これはそういった作戦だった。

案の定、唇を重ね続ける恭也とミラに、中庭にいるほとんどの生徒の視線が集まった。

その後、ゆっくりと唇を離され、恭也はミラの予想通り周囲の視線に居心地の悪さを感じ、手入れ道具を片付けてミラと共にその場を後にした。

そして、逃げるように中庭からロビーへと来た後、恭也は意外そうな表情でミラに対して口を開いた。

 

「……珍しいな、ミラが人前でキスなんて」

 

「仕方ないじゃない……どこかの誰かさんが盆栽ばかり構って、私のことを構ってくれないんだもの」

 

「あ〜……それは、すまなかった。 久しぶりだったから、遂没頭しすぎたようだ」

 

ミラの言い分を聞いて恭也がそう謝罪すると、ミラは気にしてないというように首を振る。

実際、滅茶苦茶気にしてたのだが、恭也の関心が自分に向いた今となってはもうどうでもいいらしい。

 

「じゃあ、この後はどうしましょうか?」

 

「そうだな……」

 

ミラはそう聞きつつ恭也の腕を取り、恭也は答えを考えつつ共に歩き出す。

ここで気づいて欲しいのは、ロビーも中庭と同じくらい生徒がいるということ。

つまり、そんなラブラブな状態を作れば、中庭と同じく周囲の注目を集めることとなる。

しかし、これまたミラにとってはどうでもよく、恭也は視線に気づいても今回ばかりは何でだと思うしかなかった。

なんで視線が自分とミラに集まっているのかに気づけない辺り、キス以外の行為が日常化している証拠だろう。

そんなわけで、最後まで集まっている周囲の視線の意味に気づけないまま、二人はロビーを後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じく昼のテラスにて、リエルは友人と一緒に昼食を取っていた。

本来ならば、裂夜を探し出して一緒に昼食と行きたかったのだが、肝心の裂夜がまたも見つからなかった。

そのため、友人からの誘いもあったので、見つからないのならしょうがないということでそちらと昼食を、というわけである。

 

「あ、リエルさん、あれあれ!」

 

「はい?」

 

ベンチで隣り合って座り昼食を取っているとき、突然友人が若干興奮気味に言ってくる。

それにリエルは返事を返しつつ、友人の指差す方向に視線を向けた。

 

「……猫?」

 

「うん! しかも子猫、それも二匹だよっ!」

 

二匹の子猫、それが友人の興奮とどう関係しているのかは簡単である。

この学園では、猫というものを誰しもよく見かけるのだが、子猫という存在を見た者はほとんどいない。

まったくいない、というわけでもないのだが、見た者はほんの数名で、しかも見たのは少しの間だけだったそうだ。

というのもこの子猫、片方はそれなりに人馴れしているのだが、もう片方のほうが寄っていくとすぐ逃げてしまうのだ。

そして、逃げた子猫を追うようにもう片方も去っていくので、結果として二匹ともすぐに逃げられる、ということになる。

そういうわけで、見た者というのが極少数しかいないにも関わらず、見た者でさえもほんの十数秒程度しか見れていないという。

言ってしまえば、子猫の姿を見ただけでもレアな体験という感じに学園ではなっているということだった。

 

「……」

 

とりあえずその話はリエルも知ってはいるが、友人ほどの反応は示せなかった。

それは、真っ黒、二匹、寄り添うように歩く……この三つのキーワードでリエルは子猫の正体がなんとなくわかるからである。

そもそもリエルは以前、図書館で猫の状態から人間になるという現場をその目で目撃している。

三つのキーワードに加え、そんな現場も見ているため……

 

(あの子猫……やっぱり蓮也くんと綾菜ちゃんなんでしょうか)

 

その二人だということが、なんとなくではあるがわかるのだ。

わかるが故にリエルは友人ほどの反応は示せず、ただ子猫を見続けるぐらいしかできなかった。

そんなリエルの横で興奮冷めやらぬ状態の友人は、少し慌てたような様子で自分の昼食であるサンドイッチを一つ手に取る。

そしてその場にしゃがみこみ、サンドイッチを持った手を二匹の子猫に向けて差し出すように前に出した。

 

「ほ〜ら、おいでおいで〜」

 

少し猫撫で声でそう言いつつ、サンドイッチを餌に子猫を誘い込もうとする。

しかし、一匹はちょっと警戒しながらも近寄ろうとしているのだが、後ろにいる警戒心全開状態の子猫のほうがそれを許さなかった。

自身の前にいるほうが近寄れば、後ろに隠れるようにいる自分も近寄らないと孤立してしまう。

だが、人間が怖いのであろうその子猫は近寄ることすら嫌がり、近寄ろうとする一方の子猫を半ば強引に止めるのだ。

そのため、食欲はあるものの、一方が止める故にもう片方も近寄れず、均衡状態が保たれていた。

 

「うぅ……全然寄ってきてくれない」

 

餌を前にしても寄ってこない子猫たちに、友人は呟きつつがっくりとうな垂れる。

まあ、その程度で二匹とも寄ってくるのならば、あのような噂が広まったりなどはしないだろうが。

そんなわけで、寄ってきてくれない子猫たちを前に、差し出したサンドイッチを引っ込めて友人はベンチに再び腰掛ける。

 

「やっぱり警戒心強いってほんとだね……普通の猫ならすぐに寄ってきてくれるのに」

 

「まあ……全部全部そういうわけじゃないってことですよ」

 

「だね〜……でも、やっぱり触りたいなぁ」

 

名残惜しそうに見詰める先で、子猫たちは今だその場から移動せずに同じく見詰め続けていた。

そしてしばし見詰め合った後、不意に友人は子猫にあげるはずだったサンドイッチをリエルに差し出してきた。

いきなり差し出されたサンドイッチを前に、リエルはこれをどうしろというのかと頭に疑問符を浮かべる。

だが、同時に浮かべられている友人の笑顔を前になんとなくその意図がわかり、リエルは少し戸惑いを浮かべながらも受け取る。

 

「期待してるよ、リエルさん♪」

 

「いえ、期待されても……たぶん寄ってこないと思うんですけど」

 

「大丈夫大丈夫、リエルさんならできるよ」

 

「その根拠のない自信は一体どこから来るんですか……」

 

呆れ混じりの苦笑を浮かべながら、リエルはベンチからゆっくりと立ち上がる。

そして先ほど友人がしたように、しゃがみ込んで手に持ったサンドイッチを子猫に向けて差し出す。

 

「……」

 

どうせ寄ってこないだろうなと思っているからか、友人のように猫撫で声で何かを言ったりはしない。

ただ、サンドイッチを差し出した状態で静かに前のほうにお座りしている子猫と見詰め合う。

そしてそんな状態がしばし続き、やっぱり駄目かとリエルも友人も思い始めた頃、ふと子猫がゆっくりと動き出した。

リエルのほうへと向かって一歩、また一歩とゆっくりではあるが、着実に近づいてきていた。

その光景にもっとも驚くべきことは、本来なら止めるはずのもう一方も隠れるようにではあるが近づいてきていたこと。

どんな人に対しても警戒心を全開で出し、寄ってくるどころか目すらも合わせてくれない子猫が寄ってきている。

この光景は、リエルやその友人どころか、噂を知っている誰もが驚きを浮かべるほどのものだった。

 

「あ……」

 

歩み始めてしばし、ようやくリエルの元まで辿り着いた二匹はパクッとサンドイッチを口に銜えて若干後ろに下がる。

そして、加えたサンドイッチを地面に置き、傍目から見て少し慌てた様子で二匹はそれを食べ始めた。

 

「すごぉい……ほんとに食べた」

 

「……」

 

その光景に、友人は信じられないとでも言うかのように呟き、成した本人に至っては手を差し出したまま呆然としていた。

そんな状態で二人がしばし見続けた後、子猫たちはサンドイッチを食べ終え、一匹はまだ欲しいと強請るようにリエルの元に近寄り、お座りをして見上げる。

そしてもう一匹も同じく欲しいと思っているのか、近づきこそしないがジッとお座り状態でリエルを見続けていた。

二匹に見詰め続けられ、我に返ったリエルは自分の昼食であるサンドイッチを一つ掴み、先ほどと同じように自分の元で見上げる子猫に差し出す。

すると、これまた先ほどと同じく差し出されたサンドイッチを銜え、若干後ろで待機している子猫の元に戻って食べ始める。

 

「はぁぁ……可愛いね〜」

 

「そうですね……」

 

少し慌て気味に食べる二匹の子猫を、友人はポーッとした様子で眺め続けていた。

そしてリエルのほうも、子猫のその様子が可愛らしいと言う友人の言葉に同意しつつ、微笑ましそうに見続ける。

そうしてその後も、子猫が満足してその場を去っていくまで、この行為は何度となく繰り返されたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

またまた同じくお昼と言える時間の食堂。

そこの調理場にて、他のコックたちと混じるにはあまりにも違和感がある黒と白の少女の姿があった。

 

「ねえねえ、アーティ」

 

「なんですか、セリナ」

 

「なんでさぁ、私が皿洗いなんかしてるのかな?」

 

黒と白の少女―セリナとアーティは調理場の流しで、並ぶように立って皿洗いをしていた。

普段、自主的に手伝いを買って出るアーティがここで皿洗いやその他の事をするのは別段珍しいことではない。

だが、その隣でセリナまで手伝っているというのは、いつもからしたらあまりにも珍しい光景だった。

というのも、セリナは基本的に面倒くさがりなところがあり、手伝いはおろか、講義でさえすっぽかすこともざらなのだ。

そんなセリナが食堂で皿洗いをしている……この光景は珍しいと思うと同時に、セリナを知っている人物ならばどういう理由かがだいたい予想がつくことであった。

 

「なんでって……あなたがミラ様の講義でお馬鹿な事をしたからでしょ?」

 

つまりはそういうことである。

セリナが手伝いをするときは、基本的にミラの怒りを買ってしまい、罰としてやらされるときだけだ。

ちなみに今回は何を仕出かしたのかというと、ミラの講義……つまりは黒魔法の講義でへまをやらかしたのだ。

詳しいことは省くが、後にそのとき講義を受けていた生徒の話によると、あれはトラウマになりかねないとのことだったらしい。

 

「むぅ〜……」

 

「だいたい、なんであなたはいつもミラ様の講義を手伝っているにも関わらず、いつも怒られるようなことをするんですか」

 

「だってさ〜……」

 

「だっても何もありません。 あなたがちゃんとミラ様の言うことを聞いてやっていたなら、こんなことにはなっていないんですよ?」

 

「うぅ〜……」

 

皿洗いの手を止めることなく、アーティはセリナをクドクドと説教する。

そして説教され続けるセリナは、すべて正論故に反論できず、不貞腐れたように頬を膨らませていた。

 

「――――って、ほら、手が止まってますよ」

 

「むぅ、わかってるわよっ!」

 

指摘されたことが更に苛立ちを増加させ、セリナは反抗するようにそう言って皿洗いを再開する。

しかし苛立ち故か、先ほどまでと異なって皿洗いの手は雑になり、洗った皿を置くときもガチャッと音を立てて置いたりしていた。

それにアーティは少し呆れたように小さく溜め息をつき、セリナにそれを指摘しようとする。

が、それは一足遅く、皿をガチャッと置く音と共にガチャンと割れる音が響く。

 

「あ……」

 

「まったく……何をしてるんですか、あなたは」

 

「うっさいなぁ! 片付ければいいんでしょ、片付ければ!!」

 

「あ、駄目ですよ、割れた物を不用意に触ったら」

 

慌てたようにアーティはそう言うが、不機嫌なセリナは聞く耳を持たず、割れた皿の破片を集めようとする。

そして案の定、アーティが危惧したとおり、セリナは破片を掴むと同時に顔を顰め、すぐに手を引っ込める。

引っ込めた手の人差し指には切り傷が出来ており、傷からは赤い血が薄っすらと滲み出てきていた。

それをアーティは目にするや否や、注意したときよりも慌てた様子でセリナの手を強引に手に取る。

 

「ん……」

 

「ちょっ、アーティ!?」

 

強引に手を取られたことにも驚いたが、その次に行ったアーティの行動にセリナはもっと驚いた。

手に取った手の切り傷がある人差し指の先を、アーティは迷うことなく口に含んだのだ。

そして驚いたまま固まるセリナの指を、アーティは少し音を立てつつ消毒し、ゆっくりと口から離した。

 

「もう……さっきも言いましたけど、人の言うことを聞かないからこんなことになるんですよ」

 

「だ、だからって……別に口で消毒することないじゃん」

 

「ばい菌でも入ったら事でしょ? 私たちも元とはいえ人間なんですから、こういったことに対しても念には念を入れておかないといけません」

 

「いや、だからさ……魔法で治癒すれば済む話って言ってるんだけど」

 

「あ……」

 

おそらくは慌てていたためであろうが、すっかりそれを忘れていたアーティは恥ずかしさから頬を若干朱色に染める。

そして頬を染めたまま、アーティはすぐさま魔法で切り傷を治癒し、恥ずかしさを隠すように割れた皿の破片を集め始める。

 

「ふ〜ん……」

 

「な、なんですか?」

 

「アーティでも、そんな風に慌てたり恥ずかしがったりするんだね〜」

 

「し、失礼ですね……私だって、それくらいはしますよ」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべながら言ってくるセリナに、アーティは顔を背けつつそう返す。

顔を背けたアーティをセリナはもうしばし笑みを浮かべつつ見た後、笑みを微笑と呼べるものへと変えて破片集めを手伝う。

 

(長いこと姉妹をやってたけど、あんなアーティは見たことなかったから新鮮だなぁ♪)

 

などと頭で考えながら、セリナは指を今度は切ることなく破片を集めていく。

そして時折アーティの顔をちらっと見て、今だ頬を朱に染めているアーティににやけ顔をする。

そうしてゆっくりと破片を集めていき、集め終わった後に袋を持ってきて破片を袋の中に全て入れる。

袋の中に収めると、アーティは近場のコックに謝りつつ手渡し、戻ってくると再び皿洗いへと戻る。

そのときにはすでに気が落ち着いたのか、朱色に染まっていた頬は元の色を取り戻していた。

それを皿洗いに戻りつつ横目で確認したセリナは何かを思いついたのか、悪戯っ子のような笑みを浮かべて考えたそれを実行した。

 

「ねえ、アーティ」

 

「今度はなんですか?」

 

「さっきのこと、ありがとね」

 

「っ……め、珍しいですね。 あなたが素直にお礼を言うなんて」

 

セリナの言葉で先ほどのことを再び思い出したのか、アーティはそう返しつつまた頬を染める。

そして、それを見たセリナはニヤニヤと笑みを浮かべながら……

 

(う〜ん、やっぱりいいなぁ……見たことない一面を見れるって)

 

などと頭で思っていたりしていたのだった。

その後も、悪戯心が芽生えたセリナによって、アーティは恥ずかしさから頬を赤く染め続けていた。

そしてそれは、皿洗いが終わるときまで、ずっと続いていたとそうな……。

 

 


あとがき

 

 

それぞれ、と言っても限定された組み合わせのお昼の一場面でした。

【咲】 最初は恭也とミラ、次はリエルと蓮也&綾菜、そして最後はセリナとアーティね。

【葉那】 一番目と二番目は、まあそこそこあるとして……最後のってあまりないよね。

まあ、一部ではあまり出番なかったからな……特にアーティが。

【咲】 つまり、これは出番が少なかったアーティに対しての救済処置みたいなものなわけ?

ま、そう思ってもらっても構わないよ。

【葉那】 ふ〜ん……でもさ、これってあまり話に影響のないものばかりだよね〜。

まあ、そりゃな。 たまにはこういうのも書かんとと思って書いたわけだし。

【咲】 あんたのことだから、他にも意図があると見たわ。

鋭いねぇ……ま、簡単に言えば、これ以降の話はしばしこういったのが少なくなるから、ということだ。

【葉那】 それって、シリアスとか戦闘とかが続くって事?

そういうことだな。

【咲】 ふ〜ん……でも、話戻るけどほんと限定された組み合わせよね。

そりゃ、全部書いたら長くなりすぎるからな……。

【葉那】 読んでる人たちはこの組み合わせが見たい〜、とか思ってたりするんじゃない?

ん〜……まあ、その場合は先のほうになるけど必ず書くから今はこれで我慢してくれ、としか言えん。

【咲】 ま、この三つの中で満足してくれる物があると祈るしかないわね。

そうだな……。

【葉那】 じゃ、ここいらで次回予告いってみよ〜。

次回はだなぁ……裏方ばかり徹してきていた彼らが遂に本格的に動き出す、というお話だな。

【咲】 短いわね〜……それだけなの?

まあ、これしか言いようがないしな。 あ、後もう一つ言うなら次回から少しの間、戦闘&シリアス?が続く予定だ。

【葉那】 ふ〜ん……どのくらい続くかはまだわかんないわけなの〜?

明確にはまだわからんなぁ……まあ、予想でいうなら、三、四話くらいかな。

【咲】 予想ってことは、それよりも短くなったり長くなったりするわけね?

そゆこと。 じゃ、今回はこの辺で!!

【咲&葉那】 また次回ね〜ノシ




ちょっとした一休みという感じで、ほのぼのと。
美姫 「アーティにもようやく出番がきたわね」
いや、本当に。一部では名前は出てくれど、だったからな。
美姫 「次回からは、シリアスの連続みたいよ」
ドキドキワクワクしながら、次回を待ってます。
美姫 「待ってますね〜」



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