それは突然の出来事だった。

写真の裏に書かれた事実を間の辺りにして、二人が真相を問いただそうとしたとき。

問いただされるのを見越し、自ら先んじて真実を話そうとミレーユが口を開こうとしたとき。

その二つの時が重なり合おうとした瞬間――

 

 

――洞窟の奥ともなるこの場所に響くほどの、爆発音が響き渡った。

 

 

音が耳に嫌というほど届いた途端、三人は開きかけた口を閉じて顔を見合わせる。

聞こえた爆発音が洞窟内のどこかではないことは分かっていた。もし洞窟内なら、振動が伝わってくるはずだから。

故に洞窟内での爆発ではない。ならばどこからのものか……その答えは考える以前に一つしかない。

 

「里のほう、から……?」

 

爆音が静まった静寂の支配する洞窟で、三人の内の誰かが呟いた。

そしてその呟きが事実であると伝えるように、二度目の爆発音が洞窟奥まで響き渡る。

再び聞こえてきた音に三人は呆然としていた状態から我に返り、顔を見合わせる。

だが見合わせたのは僅か数秒……すぐに入り口方面へと一斉に向き、弾かれたように来た道を引き返す。

 

「っ……」

 

激しい運動をあまりしないリゼッタは不安定な洞窟内の足場を疾走することで躓きそうになる。

だけど、先立つ心配がすぐに体勢を立て直させ、体力の限界を忘れたかのように速度を緩めず走る。

里からの爆音だとすれば、洞窟奥にここまで大きく聞こえてくるのは明らかに普通ではない。

なぜなら里と洞窟はそれなりに距離があるから。だから、もし聞こえたとしても本当に小さな音でしかないだろう。

なのに聞こえてきた音は大音量。これからすると里で起こったと思われる爆発は、非常に大規模なものであると考えられる。

そう考えられるからこそ心配になる。里にはたくさんの民が住み、それ以外にも今は自分たちの仲間も滞在しているのだから。

だからこそ限界を忘れるほど走る。走って、走って、ただ走り続けて洞窟を抜け、森を突っ切って里を一直線に目指す。

そして息を切らせながら走り続け、ようやく到着した先で三人が目の当たりにしたのは――

 

 

 

 

 

――殺戮と破壊が包み込む、悪夢のような里の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

【第二部】第二十三話 私怨の殺戮、異端の力

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発により出来たクレーターの周りには、木々の欠片が僅かに散らばっている。

それは民家が爆破された証。ならばその民家に住んでいた人はどうなったのかなど、考えたくもない。

だけどそれを考えなくとも、逃げ回る里の人たちの虐殺が目に映り、自然と顔が青褪めるのを止められない。

ある者は無残に切り刻まれ、ある者は頭や胴体を吹き飛ばされる……そしてそれは老人や子供の区別もない。

無差別と言える殺戮。逃げ行く人たちも見逃すことなく、立ち向かってくる者も返り討ち、ただ殺し尽くす。

しかし驚くべきことは目の前に広がる光景などではない。最も驚くべきは――

 

 

――その殺戮が、たった二人の男によって成されているということ。

 

 

一人はハルバートと呼ばれる斧槍。斬ることにも突くことにも優れている武器。

そしてもう一人は手甲のみの無手式。しかし、斧槍を持ったほうに引けを取らないほどの実力を持っている。

そんな二人の男は無抵抗な人を切り刻み、突き、殴り砕き……ただただ破壊と殺戮を繰り返すだけ。

 

「ば、化け物――」

 

恐怖のあまりに呟くようではあるも、言葉はしっかりと聞こえる。

だがそれを言ったのが誰なのかはもう分からない。なぜなら、呟いた次の瞬間には頭が吹き飛んでいたから。

だから判別なんて出来ず、見知らぬ誰かは血を噴出して静かに倒れた。そしてそれにより悲鳴がまた大きくなる。

それでも民家が倒壊する音や残った家を焼く業火の音に紛れ、ただ雑音としてしか聞こえることはない。

 

「…………」

 

襲撃者の一人――ティルオスは流れる多数の雑音を耳にしながら、己の拳を見詰める。

先ほどまでで多くの人を殺めた拳は赤く染まっている。だがいつもと違い、不思議と笑みが零れる。

本来なら人を殺すことを好まないにも関わらず、血に染まる拳が今は自分に充足感を与える。

それはなぜなのかは分かりきっている。今の行っていることは、自分が今まで目指してきたことだからだ。

自分を失意のどん底に叩き落した里の民共への復讐……それを自分は今、成し得ているからだ。

 

「フフフ、ハハハハハハハ……」

 

故に笑いが止まらない。拳から目を外して逃げ惑う者たちを見るとより一層深まってしまう。

自身を里から追いやった民共が、今正に自分の手によって死を迎えている光景が心地よい。

だから彼は笑う……笑い続ける。拳についた血を拭うこともなく、額に手を当てて静かに笑い続ける。

 

 

 

「ティルオス、さん……?」

 

――だが、笑みはその声が聞こえた瞬間に途絶えた。

 

 

 

聞き覚えのある声だった。最近のことではないのは分かっているが、今でも鮮明に思い出せる。

里から追われた自分と妹を優しく迎えてくれた男の娘。セイレーンでありながら、自分たちとまともに接してくれた少女。

自身の妹は歳が同じなのに彼女を姉のように慕い、自身も本当の妹のように接してきた女の子。

そしてその優しさ故に暗黙の決断を強いらせ、妹を残して復讐に進ませるという道を選ばせた、元凶とも言える少女。

 

「リゼッタか……」

 

「…………」

 

返答に対してリゼッタは言葉を返すことが出来ない。何を返していいのかが分からない。

これが純粋な再会だったのなら泣いて喜んだかもしれない。即座に彼の手を取り、リエルと会わせにいくかもしれない。

だが、この再会はそんな純粋なものとは逸脱している。今、目の前にある彼の姿からしてもそれは明らかだ。

業火に包まれる変わり果てた里、悲鳴を上げて逃げ惑い殺される民、そしてそのちょうど中央にて立つ血に濡れた彼。

そこから想像出来るのはただ一つ……この惨劇を作り出したのが、彼なのだということである。

だからリゼッタは我に返ると前へと進もうとする。なぜこんなことをするのか、それを問いただしたい衝動に駆られて。

だが、その動きは寸でのところで隣にいるカールに止められた。止められた瞬間、なぜ止めるのかと聞くために顔を向ける。

しかし言葉はまたしても口から出ることはなかった……ティルオスへと視線を向けているカールの目を見ることによって。

 

「お前は、例の教団とかいう組織の人間だな……」

 

放たれた言葉はリゼッタやミレーユをも驚かせる言葉だった。

教団という組織が現在学園の脅威になっているのは協力を求められたときの説明にて聞かされた。

だが、構成メンバーなるものは一切聞かされていないため、本来ならばカールが知るはずなどないのだ。

にも関わらずカールはティルオスを教団の人間だと断言するように言ったことに二人は驚くしかない。

しかし言葉を放たれた本人は驚いた風はなく、その言葉に対して一切の感情が窺えない表情で答える。

 

「如何にも……アルナ・ベルツ『代行者』が一人、ティルオスだ。そういうお前は、学園の生徒か?」

 

「……そうだ」

 

「そうか……なら――」

 

そこで一度言葉は止まり、ほんの僅かだけ視線を今一度リゼッタへと向ける。

だが視線はすぐに逸らされ、あろうことか三人へと背を向けて続きを口にした。

 

「すぐにでもそいつらを連れてここから立ち去れ。上からの命もある故、今回は見逃してやる……」

 

告げた言葉と共に背を向けたまま歩き出そうとするティルオス。その先にあるのは、逃げ惑う民たち。

そこから彼が何をしようとするかが容易に想像できる。だからか、カールはティルオスの言動を聞くことはない。

洞窟に入る前に万が一ということで持ってきた長棍を瞬時に組み上げ、軽く振るって風切り音を響かせる。

その音により彼は動き出した足を止め、半身だけ振り向いた状態で溜息をつき、再び口を開いた。

 

「命を粗末にする気か? お前と私、どちらが上かぐらい、未熟な身でも分かるはずだ」

 

「それでも……殺しをしようとする奴を黙っていかせて、自分たちだけのうのうと逃げることなんて出来ない!」

 

「なるほど……立派といえる心がけだ。だが、思いだけでどうにかなるほど私は甘くないぞ……」

 

彼はそう口にするともう半身を振り向かせ、再びカールたちのほうへと向くと拳を構える。

それに対してカールはリゼッタやミレーユを守るように前へと一歩進み、長棍を両手で持つ。

そして二人が同時に放つのは戦う者特有の気迫……それにリゼッタは今一度我に返った。

 

「だ、駄目ですカールさん! あの人は――っ!」

 

我に返ったリゼッタのその言葉は、空しくも辺りを包む多数の雑音にて阻まれる。

そして同時にそれを合図にしたかのように、二人は互いに向けて一気に駆け出した。

片や拳、片や長棍……リーチの差から考えると、明らかにティルオスのほうが不利というように見える。

しかし、その考えは彼には成立しない。なぜなら、彼は長物との戦いに酷く慣れているからだ。

それを知らないカールは自身の武器のリーチを生かし、射程内まで寄ると鋭くも速い突きをティルオスへと向けて放った。

 

 

――そして当然の如く、ティルオスは突きに対して身体を捻らせて避けた。

 

 

捻らせた体勢から一回転すると同時に距離を詰め、左の拳でストレートを放った。

突きが見えてるかのような避け方、距離を詰める速さ、そのどちらにしてもカールを驚愕させるには十分。

だがそこで止まってしまうほど彼も素人ではなく、瞬時に身を拳の直線上から反らせる。

それにより拳を避けることに成功し、空を切った状態のティルオスを迎撃するべく瞬時にしゃがみ、長棍で足払いを放つ。

しかし、まるでそこまで読んでいたかのように彼は軽く飛んで避け、同時に飛んだ状態から左足にて蹴りを放った。

長棍を避けられ振り切った、そんな状態では避けることも受けることも出来ない。それ故、放たれた蹴りはカールの右肩にぶつかった。

 

「ぐっ!」

 

呻きを漏らしてカールは力の掛かった方向へと吹き飛び、地面へと激突する。

飛んだ状態からの不安定といえる蹴り……なのに威力は肩が砕かれたのではと思うほどのもの。

そのためカールは痛みに顔を顰め、すぐには立てなかった。そして相手もそこを見逃すほど馬鹿ではない。

着地すると同時に地面へと倒れたカールへと駆け出し、追い討ちを掛けるべく拳を振り上げる。

 

 

――しかし、突如飛来した何かによって彼の動きは中断させられた。

 

 

駆け出した体勢から飛来物を避けるべく後ろへ下がり、飛来物を目で確認する。

彼に避けられ地面へと刺さったそれは刃……そしてそれは水で出来ているのか、数秒後に液状へと戻る。

これは要するにセイレーンの得意とする水の魔法。加えて、発射角度から見て誰が放ったのかが簡単に分かる。

 

「お前も、逃げずに歯向かうというのか……リゼッタ」

 

「…………」

 

放ったのは、リゼッタ。彼のしていることに戸惑い、静観するしか出来なかった彼女だ。

なのに彼女が魔法を放ってでもティルオスを止めた理由、それも容易に想像が出来た。

 

「それほどまで、この少年が大事だということか……」

 

「……カールさんだけじゃありません。学園の人たちも、この里の人たちも同じです……ティルオスさん、もちろん貴方も」

 

「出会ったばかりの者だけでなく、敵対している私も大事と言うか……その甘さ、以前と変わらないな」

 

そこで初めて、昔の彼が垣間見えた。彼の少しだけ口元に浮かべた笑みによって。

だけどそれは本当に一瞬だけの事。すぐに笑みは消え、同時に右腕を右水平に軽く振るう。

するとそれに合わせて白き翼が彼の背中から生え、耳の部分にも小さな羽根が顕現する。

 

「セイ、レーン……?」

 

「なんで……セイレーンは、女しか生まれない種族のはずなのに」

 

驚きの言葉を呟いたのは肩を抑えながら立ち上がるカールと、リゼッタの隣にて佇むミレーユ。

だが驚くのも当然といえば当然。ミレーユの言ったとおり、セイレーンは女しか生まれない種族なのだ。

それ故に里に住む民は全て女性や少女……男の姿などは一切この村には見受けられなかった。

だからこそおかしいのだ。男にしか見えない彼が、どうしてセイレーンの翼を持っているのかということが。

だがその答えは予想外にも彼本人からではなく、彼の後ろから掛けられた声によって判明することとなった。

 

「それは、その子がこの里始まって以来の異端児と呼ばれる子ですよ、カールくん、ミレーユさん」

 

声を掛けてきたのは里の族長であるイリサ。そして彼女の視線は真っ直ぐにティルオスを捉えていた。

そんな彼女の表情にも若干の揺らぎが見える。よく見れば、こめかみの部分から僅かに血が流れている。

おそらくはこの騒ぎで負った怪我なのだろう。しかし、その揺らぎも僅か、視線はそれよりも強い感情が覆っていた。

それは悲しみ……族長として、里を襲うのが同じ種族の者であるという事実を悲しむ瞳だった。

 

「復讐、ですか……貴方たちを里から追放した、私たちへの」

 

「そうだ。そのために私は力をつけ、闇に魂を売った。全てはこの日のために……私たちを汚物のように扱い、追いやったお前たちへの復讐のために」

 

「馬鹿なことを……とは言えませんね、私には。私は貴方たちの追放するという決定を覆せませんでしたから……」

 

悲しみを目に浮かべたままそう言い、彼女は俯き口を閉ざす。

だが同時に彼女のかなり後方から爆発音が再び響き、俯いた顔を再度上げた。

 

「覆せなかっただと? 覆す気がなかったの間違いだろう……その証拠に、貴様は父と母の死さえもただの事故で済ませた。明らかに放火された跡があったにも関わらず、だ……」

 

「…………」

 

「父がただの人間だったのがそんなに悪いか? 異端の力を持った私や妹がそんなに怖いか? ただ普通に過ごしていくだけを望んだ私たちに絶望を味わわせなければならないほど、私たちの存在が邪魔だったとでも言うのか!?」

 

半身だけ振り向き怒りを瞳に浮かべながら、彼は怒鳴るような声で彼女へと叫ぶ。

しかし、それにイリサは何も言えない。何を言ったとしても、今となってはただの言い訳にしかならないから。

そしてそれを彼が望むはずなどない。だからこそ、彼女は彼に怒りの言葉に押し黙るしかないのだ。

だけどそれも今の彼にとっては苛立つ要因にしかならず、腹立たしげに前髪を右手で掻き上げる。

 

「だから私は貴様や、この里の者たちが許せない。私たちの日常を打ち砕き、自分たちだけのうのうと過ごしている貴様らがな……」

 

憎悪の言葉を放ち睨みの目を向けると同時に、彼の周りに水滴がポタポタと落ちる。

それはあまりに不自然……業火に包まれる現在の里で、雨も降っていないのに水滴が落ちるなど本来はない。

だが彼がセイレーンだというのならそれも疑問にはならない。マナを収束して水を生み出すことに長けているのだから。

だけど、攻撃に使うわけでもなく水滴として顕現する理由は分からず、疑問を浮かべるしかなかった。

 

「貴様らが気味悪がったこの力で、私の前から消え去るがいい……」

 

声と共にまたもおかしな現象が起こる。それは、落ち続ける水滴が突然音を発しなくなったこと。

彼の周りを見るとまだ水滴は顕現している。なのに、落ちる音が一切しなくなったのだ。

しかしそれはよく見れば分かる……顕現した水滴は、落ちる前に空中で消えていっていることが。

だからといってなぜそんな現象が起きるのかは理解できない。だから疑問は疑問のまま残り続ける。

 

「駄目です、ティルオスさん!!」

 

だが、この現象が非常に危険なことだということは響くリゼッタの叫びにて分かる。

だけどどう危険なのかが分からず、カールもミレーユも動くに動けず、ただ静観するしか出来ない。

そんな中でティルオスはリゼッタの言葉を無視し、今一度右腕を水平に振るう。

そして、それを合図に――――

 

 

 

 

 

――彼らの視界が、眩い光に阻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じとき、ティルオスと同様に里へと襲撃してきた一人であるフェリスタはかなり離れた位置である少女と戦っていた。

自分の得物と近い形状をする武器――薙刀を駆使して、中々の技量を見せる着物姿の少女。

その少女とはカールたちと共に里を訪れた静穂。彼女はただ一人、襲撃者の一人と刃を交えていた。

しかし二人が得物を交えて競り合いをしている最中、かなり奥のほうから大きい爆発音が響き渡った。

 

「へぇ……あれだけデカイのを放つってことは、ティルオスの奴も本気だなぁ」

 

爆発音と軽い爆風に対して彼は驚いた風もなく、余裕の表情で口を鳴らしていた。

対して静穂はかなり本気で得物を交えている。なのに、膠着状態から一歩として動くことがない。

それほどまでに相手との実力の差、ここだけで言うなら腕力の差が歴然と言えるほど大きいということだ。

その事実に加えて余裕の表情を見せられ、静穂としても心中穏やかにはなれなかった。

 

「どうして、こんなことをするんですか……」

 

「へ? こんなことって……何がだよ?」

 

「この襲撃のことです! 家を一杯壊して、人も一杯殺して……いくらなんでも酷すぎます!!」

 

叫ぶと同時に渾身の力を振り絞り、彼の得物を押し返すことに成功する。

そしてそれと同時に薙刀を水平に振るい、鋭い一閃をフェリスタへと放った。

しかし、彼は崩れた体勢にも関わらず手に持つ斧槍で弾き返し、バックステップで彼女と距離を取る。

 

「酷すぎるっつってもなぁ……俺はこれが仕事なもんでね。ま、もう片割れはそれだけじゃねえけど」

 

「人を殺すのが仕事なんて、そんな間違った仕事今すぐ止めるべきです!」

 

「おいおい……人から職を奪うなよ。まあ、お嬢ちゃんが俺の目的を叶えてくれるなら、職を捨ててもいいんだけどな」

 

「じゃあ言ってみてください、その目的っていうのを! 出来うる事なら、僕がお手伝いしますから!」

 

里を襲撃した男が個人的に目的ありと聞いて手伝うと断言する静穂。

悪い言い方をすれば馬鹿。だけど、良い言い方をするならば人を疑うことをしない純粋な子と言える。

故にか、フェリスタはそんな返答が来るとは思ってはおらず、少しばかりポカンとした表情を浮かべた。

だけどすぐに可笑しそうな笑いを浮かべた。世にも珍しいものでも見たかのように、可笑しそうな笑いを。

 

「そうか、叶えてくれるか。じゃあ――」

 

笑いを抑え、言葉が終わる前に彼は動き出す。斧槍を両手で振り上げて。

対して静穂は驚きを浮かべながらも反射的に応対し、薙刀を再び水平に振るった。

それにより振り下ろされた彼の得物とぶつかり、今一度均衡状態の競り合いが始まる。

そしてその競り合いが始まると同時に彼は先ほど以上の力を込め、言葉の続きを口にした。

 

「俺と戦え。そしてお嬢ちゃんが俺より強いのなら、さっき言ったとおり俺は今の仕事を捨ててやるよ」

 

「くっ……ほんと、ですね?」

 

「ああ、ほんともほんと。俺が教団に身を置いてるのは、ただ強い奴と戦いたいだけだからな……それ以外は正直、どうでもいいんだよ」

 

告げながら浮かべる笑みを見ると、彼の言うことが本当だというのは良く分かる。

強い人間と戦うことが望みだということが。それ以外は本当にどうでもいいのだということが。

だからか、静穂は分かったとばかりに頷き、突如力を抜きしゃがみこんで足払いを放つ。

突然の力抜きと着物姿での足払い……彼女がそう来るとは予想しておらず、フェリスタの表情に僅かな驚きが広がる。

しかし、気づくのが僅かに速かったためか宙に飛ぶことで避け、同時にその体勢から今一度斧槍を振り下ろす。

すると驚くことに彼女も足を振り切った体勢から薙刀を上げ、振り下ろしを受けきってしまった。

 

「へぇ……やるじゃないか」

 

着地すると同時に彼は賞賛の言葉を告げ、同時に受けられた状態から力を込める。

体勢が体勢故に静穂は苦悶の声を漏らす。しゃがんだ状態での受けでは踏ん張りも効かないのだ。

だけど彼女は懸命に知恵を働かせ、思いついた策として今一度腕から力を抜いた。

今度はフェリスタもそれで体勢を崩すことはない。だけど、今度はただ力を抜くだけではなかった。

 

「うおっ!」

 

力を抜くと同時に彼女がした行動は、瞬時に立ち上がって彼の横に回り、内側から彼の得物に力を加えること。

そうすると彼は元々静穂のいた方向に力を加えていたため、そこに彼女の力も加わって得物は当然の如く地面に激突する。

これも彼にとっては予想外の行動。だけど、今度は驚いている間も静穂は見逃すことはなかった。

地面に激突した彼の得物からすぐさま自身の薙刀を持ち上げると同時に上段斬りを放つ。

だが、惜しくも彼は反射的に身を逸らすことで刃は頬を掠める程度で通り過ぎ、彼の反撃を警戒して静穂は下がった。

 

「本当にやるなぁ……学園にお嬢ちゃんみたいな使い手がいたなんて驚きだぜ」

 

「僕なんて、まだまだなほうです。恭兄や裂兄に比べると、本当に未熟な小娘ですよ」

 

「そう謙遜すんなよ……お嬢ちゃんは強い。少なくとも俺が今まで見た中では、かなり上に位置するほどにな」

 

そう言いつつ彼は片手で斧槍をクルクルと回転させ、止めると同時に両手で構える。

掠められ僅かに頬から流れる血を拭うこともせず、笑みだけが彼の顔を支配している。

そしてそんな様子のまま彼女を見据え、両手で持つ得物に力を込め――――

 

 

 

「いくぜ、お嬢ちゃんよぉ!!」

 

――右斜め上に振り上げながら、彼女へと再び駆け出した。

 

 


あとがき

 

 

セイレーンの里側は急展開。ほぼ壊滅状態にまで陥っておりますです。

【咲】 いきなりねぇ……ミレーユとリュシーとの事もまだ話されてないのに。

【葉那】 ほんとほんと。

むぅ、でもこれはしょうがないのだよ。元々こういう予定だったし。

【咲】 ま、別にいいけどね……で、今回の疑問だけど、レイナやフィリスやアーティはどこに行ったわけ?

【葉那】 そういえば同じ場所にいるのに全然出てこなかったね〜。

ふむ、彼女らは別の場所で交戦中だな。

【咲】 あれ? 襲撃者って二人じゃなかったの?

それはカールたちの目から見てだよ。別に彼ら二人だけが襲撃してきたわけではない。

【葉那】 じゃあ他にも代行者の誰かが来てたりするの?

さあ、どうかな。代行者かもしれんし、断罪者かもしれんし、別の何かかもしれん。

まあ、次々回明かされるからそれまで待ってくれい。

【咲】 そう……じゃあもう一つ、ティルオスの持つ異端の力って結局何なわけ?

それもまた後になれば詳しく明かすが……まあ、今回で大体の予想はついたのではないかな?

【咲】 まあ、大体はね……でも、詳しく聞かないと不可解な部分が多いわよ。

ま、そうだろうね。でもまあ、そこはここで明かすわけにはいかんから、これも次回以降を待ってくれ。

【葉那】 ぶ〜、そればっかりぃ……。

仕方ないだろ……。

【咲】 ま、そういうことなら明かされるまで待ちましょう、葉那

【葉那】 むぅ〜……分かったぁ。

【咲】 いい子ね。じゃ、次回予告にいってみましょうか?

ふむ、次回はだな……視点変更して学園側、こちらでも里同様に大事態が起こっていた。

地下水路と正面門、二つの入り口から教団の襲撃……中には代行者も含まれ、彼らをこれを迎撃する。

しかし如何せん数が多い上、彼らが何を目的で襲撃してきたかが分からない。

ヘルの知恵を借りようにも彼女はいない……そんな苦戦を強いられる中で、恭也と裂夜に異変が!!というのが次回のお話だな。

【咲】 異変って何よ?

これも次回のお楽しみだな。ああ、ちなみにさっきは次々回が里側と言ったが、もしかしたら続けて学園側かもしれんと言っておく。

【葉那】 なんで〜?

そうじゃないと今まで以上な生殺し状態になるかもしれんからだ。まあ、詳しくは次回にならんと分からんがな。

【咲】 そう……じゃ、今回はこの辺でね♪

【葉那】 また次回会おうね〜♪

では〜ノシ




他にも襲撃者がいるなんて。
美姫 「片や復讐で、もう一人は単に強い奴と戦いたいという理由」
うーん、復讐を望んでいる以上、そう簡単には引き下がらないだろうな。
美姫 「そうよね〜。カールたちはどうするのかしら」
しかも、予告がまた気になるじゃないですか。
美姫 「ああ、早く続きが読みたいわ」
次回を待ってます!
美姫 「待ってますね〜」



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