騒動があってから一夜明けて翌日の朝六時。

一般生徒には少し早いといえるその時間に保健室のベッドで寝ていた少女は目を覚ました。

目を覚ました少女は昨日気を失った場所とは別の場所にいることに困惑を浮かべながら上半身を起こし、状況確認をするようにきょろきょろと回りを見渡しつつ頭で考えを廻らせる。

そして状況を認識する前に周りを見渡していた少女の視線は隣で椅子に腰掛ける一人の男と合ってしまう。

隣に人がいたことに気づかなかった上に視線が合ってしまったため、少女はしばし呆然とした後に困惑を見せる。

自分と目が合い困惑を見せる少女にその男―裂夜は不意に少女の顔へ覗き込むように自身の顔を近づけて口を開く。

 

「具合はどうだ? どこか悪いところがあるか?」

 

「え……あ、いえ、特には」

 

いきなり近づいてきた裂夜の顔にしばし呆然としていた少女は裂夜の言葉で我に返り顔を赤くしてそう返す。

悪いところはないと言っているのに顔を赤くした少女に裂夜はやはりどこか悪いのかと考えて少女の額に手を当てる。

 

「あ……」

 

「ふむ……熱はないようだな」

 

そう呟いて裂夜は少女の額から手を離し、本当に悪いところはないのかと聞く。

それに少女はさっきのように言葉で返すのではなく、顔を赤くしたままコクコクと首を縦に振って返す。

再度聞いても同じく悪いところはないと返す少女に裂夜はならなぜ顔が赤いのか不思議に思いながらも納得することにした。

 

「なら、俺はそろそろお暇する。 もし俺が出て行った後で具合が悪くなることがあったら、お前の隣で寝てる奴を起こして診てもらえ」

 

「は、はい。 あの……ありがとうございました、恭也先生」

 

そう言って小さく頭を下げる少女に裂夜は、またか、というように溜め息をつく。

この学園で裂夜を見かけた者は必ずと言っていいほど裂夜を恭也だと勘違いして声を掛けてくる。

まあ恭也と裂夜は一つの存在から別れた半身同士であるため、性格などはともかく顔は違うところがあるのかというほど似ている。

故にそのことを知らない生徒たちが恭也と間違ってしまうのも仕方のないことだが、毎度毎度間違われる裂夜からしたら堪ったものではない。

そして目の前の少女に至っても例に漏れず勘違いをしているため、裂夜はいつものように訂正の言葉を口にする。

 

「勘違いしているようだが……俺は恭也じゃないぞ」

 

「え……でも」

 

「まあ、あいつとは容姿が瓜二つだから信じられないと思うかもしれないが、事実俺は恭也ではない」

 

「じゃあ……あなたは?」

 

「俺か? 俺は裂夜……高町裂夜だ。 恭也とは……まあ、兄弟のようなものだ」

 

裂夜は簡単にそう自己紹介をしてから腰を上げ、じゃあな、と背を向けつつ軽く手を振りながらそう言って保健室を出て行く。

裂夜が出て行った後、少女はしばらくの間裂夜が出て行った扉にじっと視線を向けながら……

 

「裂夜……様」

 

頬を赤く染めつつそう小さく呟いた。

これで分かると思うが、この時点で少女は裂夜にある感情を抱いていた。

危ないところを助けてもらったこと……それは重要なことではあるがその感情を抱いた決定的な理由ではない。

恭也とそっくりなこと……確かに少女は恭也に好意を抱いたこともあるが、それも差たる理由ではない。

ならば裂夜のどこに惹かれたのか、それはこのとき少女にすらはっきり分かることではなかった。

だが、唯一つだけはっきりと言えることがある。

それは恭也に抱いたものと同等、もしくはそれ以上の好意を裂夜に対して抱いてしまったということ。

つまりこの少女はこの学園に来てから、二度目の恋をしてしまったということだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

第二十一話 増えゆく謎と些細な共通点

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裂夜が退室してからしばらくして、目を覚ましたフィリスによって少女は軽く診断を受ける。

少女を診て特に異常がないとフィリスが判断した後、少女は小さく頭を下げつつお礼を言って保健室を出て行った。

そしてそれから更に三十分程度が経ち、フィリスが保健室の机で少女に関することを紙に書いていた最中に保健室で寝ていた最後の一人であるカールが目を覚ました。

カールが目を覚ましたことにすぐに気づいたフィリスは書き物を中断してカールの傍へと歩み寄り、目を覚ましたカールが酷い焦りを浮かべた表情をしていることに不思議そうな顔をしつつそのわけを尋ねる。

そしてわけを聞いた結果、フィリスがカールに預けていたペンダントが光を、力を失ってしまったということが原因だということがわかった。

なんでそれでそこまで焦っているのかとフィリスは疑問に思うが、預かり物がそんなことになってしまったということに対する申し訳なさからのことだと考えてフィリスは納得する。

その後、焦りを浮かべながらも差し出してくるペンダントを受け取ったフィリスは少しだけペンダントを見た後、あらあら、困ったような困っていないようなというどっちつかずな感じで独り言のようにペンダントが光を失った原因を口にする。

 

「魔力が切れちゃったのね。 ん〜……これはまた充填してしないと駄目かなぁ」

 

「え……?」

 

フィリスが呟いた独り言にカールは小さく声を漏らしながら自身の耳を疑う。

そして驚きを浮かべつつどういうことかとフィリスに聞いたところ、それは学園の近くに安置される賢者の石の欠片をペンダントにしたものらしい。

だが如何に賢者の石とはいえ欠片であるためか内蔵される魔力にも限界があり、それが切れるたびに賢者の石が安置される場所の付近に行って充填をしないといけないらしい。

それを聞いたカールは先ほどの表情の暗さと焦りは消えるが、代わりにかなり慌てた様子でその場所はどこにあるのかと聞く。

そのカールの勢いにフィリスは少し驚くもすぐにその場所を教えるが、申し訳なさそうな表情で追記するようにそれも伝える。

なんでも、賢者の石の本元が安置される場所は船着場の橋の下のある道を進んだ先、つまりは海底にあるらしいのだ。

故に海底に潜る術がない限り、賢者の石が安置される場所には行くことができない。

ならば今までどうやってフィリスはペンダントの充填を行ってきたのか?

それは以外に簡単なことで、船着場からボートでその賢者の石が安置される場所のだいたい上辺りに行き、海底にあるその場所から微妙に漏れ出る賢者の石の魔力でペンダントを充填するという方法を取っているのだ。

だが、その方法は何日もに分けて行われることであるため、すぐにでも充填して過去へと行かなければならないカールには使えない方法だった。

だからといってもう一つの方法も海底に潜る術がないため現状では行うことが出来ず、つまるところ八方塞の状態だった。

フィリスの説明を聞いて結局は現状で打つ手がないと痛感したカールは再度先ほどと同じ暗さと焦りを表情に浮かべて深く落ち込む。

そんなカールにフィリスはどう声を掛けていいのかもわからず、ただ申し訳なさそうな顔していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、朝の鍛錬を終えた恭也と蓮也は部屋へと戻るため廊下を歩いていた。

現在廊下を歩きながら二人が話している話題はもっぱらミラと綾菜に関してのこと。

昨夜、レイナたちを送った後で部屋に戻ってみると、ミラは恭也の予想通り自己嫌悪のような感じで落ち込んでいた。

レイナたちが綾菜を守ろうとしたということは分かる、必死に守った結果綾菜が傷を負ってしまったのは仕方のないことだということも分かる。

しかし、家族が傷つけられたという怒りはそれらが分かるからと言って抑えられるものでもなく、傷つけた相手を責めることができないため守りきれなかったレイナたちを責めてしまった。

怒りという感情を爆発させて、たくさんたくさんレイナたちを責めて、皆が部屋から出て行って少し冷静になった後に自分がどれだけ酷い事を言ったのかを思い出して落ち込んでしまった。

そんな予想通りのミラの様子に恭也は仕方のないことだとはいえ小さく溜め息をつき、その後でミラの傍に寄り優しく諭すように慰めた。

そして慰め始めて一時間程度経ち、まだ気落ちしている面はあるもののいつもの表情へ戻るに至った。

まあそんなこともあってから一夜明け、いつもの時間に起きた恭也と蓮也は用意をしてから鍛錬へと出かけ、今に至るというわけである。

ちなみに綾菜も同じ時間に起きるには起きたが、昨夜のこともあるため大事を取るという名目で鍛錬を休ませた。

だがまあ、実際そんな名目を出さなくてもまだ眠っていたミラに抱き枕のように抱きかかえられた状態では行こうにも行けないのだが。

そんなわけで二人だけで鍛錬に出かけ、中庭にて一時間ほど鍛錬を行ってからそんな話題を話しつつ二人は部屋へと戻った。

 

「あら……お帰り、恭也、蓮也」

 

二人が部屋に戻ったとほぼ同時にミラが気づいてそう言い、すぐに手元へと視線を戻す。

ミラが今何をしているのか……それは、ミラの目の前にある椅子に腰掛ける綾菜の髪を櫛ですいているのだ。

これは朝方ではよく見られる光景であるため、恭也も蓮也もそこまではいつものことだと苦笑するだけ。

しかし、この後のことにはさすがの恭也と蓮也も若干の驚きを浮かべた。

一体何が起こったのかというと、髪をすいていた櫛を机に置いて綾菜の肩を通り越して腕ほどまである髪を三つ編みに結い始めたのだ。

普通ならそんなことで驚くことはないのだが、それが綾菜に関してだと驚かざるを得ないことだった。

なぜなら、綾菜は髪を結ったり結られたりすることを極端に嫌がるのだ。

以前、ミラが髪をすいた後に髪を興味本位で結おうとしたら折角すいた髪を振り乱してまで暴れて逃げ出したということがあった。

それ以降、ミラは綾菜の髪をすくことはあっても結うことは絶対にしなくなったのだが、今またこうして髪を結い出した。

しかもさらに驚くべきことは、髪を結われているにも関わらず綾菜が逃げ出そうとしないということだった。

 

「ん……はい、できたわ」

 

「うぅ〜……」

 

驚きを浮かべている恭也と蓮也を余所に、三つ編みの先端をゴムで止めてミラは満足そうにそう言う。

だがそんな娘の髪を結えて満足そうなミラと違い、綾菜は結われた髪がめちゃくちゃ気になるのか軽く構いながら嫌そうにしていた。

これから分かるように、どうやら逃げ出さないからといって髪を結われることを綾菜が嫌がっていないというわけではないらしい。

 

「じゃ、約束どおり、今日一日はそのままだからね♪」

 

「あぅ……」

 

笑みを浮かべがらそう言うミラに綾菜はしきりに髪を構いながら力なく頷く。

その後、もう一体全体どうなっているのかまるでわからない顔で恭也と蓮也がミラに聞くと、ミラは満足そうな笑みを浮かべたままこの事態について話した。

その説明によると、恭也と蓮也が鍛錬に出た後に起きたミラはいつも通り着替えをしてから髪をすくために綾菜を椅子に座らせた。

そしてそこで綾菜は昨夜の件について詳細は気絶していたため覚えていないものの心配を掛けたということはわかったらしく、ごめんなさい、と小さな声で謝罪を口にした。

呟くようなその謝罪にミラは微笑を浮かべつつ、無事だったのならいい、と言おうとしたのだが、髪をすくための櫛を手に取った際にとあることを思いついた。

そして思いついたが矢先、ほんのちょっぴり意地悪な笑みを浮かべてそれを口にした。

 

「じゃあ、お母さんのお願いを聞いてくれるなら、昨日のことは許してあげるわ♪」

 

つまりそのお願いというのが、現在のこの状況というわけである。

だが実際は許すといってもミラはすでにもう怒ってなどいないし、お願いというのも綾菜が本気で嫌がれば無理強いはしない。

ようするにミラから綾菜へのちょっとした悪戯のようなものであり、これを言ったときはミラ自身もまさか了承されるとは思ってなかった。

とまあそんなことがあり、了承が出たということでミラは綾菜の髪をといた後にその髪を三つ編みに結ったというわけである。

 

「で、どうかしら恭也、蓮也?」

 

今だ結われた髪を嫌そうに弄っている綾菜の肩をぽんと掴み、恭也と蓮也のほうを向かせてそう聞く。

それに恭也はまじまじと見た後に短く、似合ってるぞ、と言い、蓮也はなぜか顔を赤くして視線を逸らしてしまった。

蓮也の反応が気にはなったが、恭也に褒められたことの嬉しさのほうが上回ったのか、綾菜は少しだけ嬉しそうな顔を浮かべる。

その笑みに恭也も微笑で返し、そして一目だけ時計を見てその後ろにいるミラへと視線を向けて口を開く。

 

「ミラ、そろそろ時間じゃないか?」

 

「え……ああ、そうね。 もう行かないといけない時間だわ」

 

ちょっとだけ驚いた表情を見せて同じく時計を見た後、ミラはそう言って会議のための簡単な準備をしだす。

そして尋ねた恭也も鍛錬用の服から着替えて準備を整え、同じく準備が終わったミラと共に扉の前へと向かう。

 

「じゃあ、お母さんたちはそろそろ行くから、いつも通りちゃんといい子にしててね」

 

扉の前で二人へと振り返りそう言うと、二人はわかったというようにコクンと頷く。

頷いた二人を見て恭也とミラは微笑を浮かべつつ、扉を開けて部屋を後にするのだった。

ちなみに二人が出かけた後、綾菜が先ほどの反応について蓮也へと不思議そうに尋ね、その返答にかなり困っている蓮也の姿が見られたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上が、生徒からの証言を元に纏めた昨夜のことに関する報告です」

 

静まり返った室内でフィリスはそう昨夜の件に関する報告を述べた後、そう締めくくって椅子に腰掛ける。

フィリスの報告・・・昨夜出没した血の魔物に関する報告に講師陣は驚きを隠せないといった表情だった。

 

「体を血で構成した魔物……そんなの今まで聞いたこともありませんねぇ」

 

「確かにな……その生徒が嘘の証言をしている可能性はないのか?」

 

「いえ、それはないと思います。 その生徒以外にも裂夜さんが目撃していますし交戦もしたそうです。 それに、その魔物だったと思われる血の一部も昨夜採取しましたし」

 

裂夜が目撃して交戦したという事実とフィリスが取り出し机に置いた真っ赤な液体の入った瓶に講師陣は信じざるを得ない。

ちなみに前者でなぜ信じるに値するのかと言うと、裂夜は悪い意味で講師陣の中では有名だが、その人柄からか嘘をつく者ではないという信用もされているからである。

 

「フィリス先生……その血は、やはり人間の物だったんですか?」

 

「……はい。 何度も分析をしてみましたが、あれは間違いなく人間の物でした」

 

「そうですか……」

 

違うといって欲しい……そう思っていたためか、フィリスの返答にジャスティンは若干目を伏せてしまう。

そしてそれは他の講師陣でも同じことだったのか、ほとんどの者の同様の暗さが見え始める。

しかし暗さを帯び始めても事態を解決に導くには話し合いを進めなければならないため、ジャスティンは伏せていた目を上げて話を続ける。

 

「体の構成物以外で、何かわかったことはありますか?」

 

「一つだけ……偶然かもしれませんが、少しおかしな点が」

 

「……なんですか?」

 

「今回襲われた生徒、そして以前殺害された生徒……この二人にはちょっとした共通点があるんです」

 

「共通点……ですか?」

 

「はい。 そしてこの共通点が……おそらくその魔物の目的に繋がることではないかと、私は考えています」

 

続けるように放たれたその言葉に事態の深刻さからの暗さを帯びた講師陣に若干の驚きが走る。

正体を含めてほとんどが謎な魔物だが、不明確とはいえそれの目的が分かると言うのだから皆の驚きも当然と言えば当然だった。

そんな皆の驚きを見つつ、フィリスはさっきの言葉から続けるように一度閉じた口を開いた。

 

「それでその共通点とは何かですが……簡単に言えば、この二人の属性です」

 

「属性……魔力の、ということですか?」

 

「はい。 調べてみた結果なんですが、属性……つまり二人の魔力の本質はまったく同じなんです」

 

「ふ〜ん……で、その属性はなんなのかしら?」

 

二人の魔力が同属性である、それは黒魔法講師であるミラからしたら興味深い言葉だった。

だが実際同じ属性であるということはそんなに珍しいことではなく、本来ならミラだけでなく誰も興味を抱くことではない。

しかし講師なら誰もがそう思うであろうことにもったいぶるような様子を見せるフィリスに、特別な何かあるのではないかとミラは思いそう聞いた。

そして、返ってきた言葉はミラの思ったとおりの返答だった。

 

「闇、です……」

 

「闇……ねぇ。 確かにそれならおかしな点と言っても不思議じゃないわね」

 

人の内に秘める魔力の本質、つまり属性は一般的に知られているもので、火、水、風、地、光、闇、と六つある。

その中でも光と闇の属性を本質として持つ者はあまり多くはなく、この学園内でもほんの数名しかいない。

そんな数少ない二つの属性の内、闇の属性を持つ者をまるでピンポイントで狙っているかのような魔物の行動。

一体その行動が何を意味してのものなのかというのはそれだけではわからないが、少なくともフィリスの言うとおりおかしな点というのには当てはまっていた。

そして、その点から読み取れる魔物の目的……それはもうその場にいるほとんどの者が予測できていた。

 

「つまり、あの魔物の目的は……闇の属性を持つ者を狙い、殺すことかもしれない……ということですね?」

 

「この点だけでは確信とまではいきませんが……私はそう思います」

 

確信とまではいかないが、そうである可能性は十分に考えられる。

そして可能性が少しでもあるのならば、早急にそれに対しての対策を取らねばならない。

でなければ先日の生徒のように、犠牲者は増える一方になるかもしれない。

そんなことになれば秘密にしていたとしても学園内の生徒は不安を抱き始め、最悪十数年前の事件の再来となりかねない。

そうなる前に、なんとしてでも事態を解決の方向へと導かなくてはならない。

故に皆は、一様にそう同じ思いを抱きながら事態解決に向けてその後も話し合いを続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下水路の奥、一部の人間以外には誰も知る者のいない隠された一室。

そこの中央、台座の上に静かに浮いているのは……柄から刀身まで黒で統一された禍々しき剣。

剣の周りにはそれとは対照的な白い輝きを放つ二本の鎖が輪を作り囲んでいる。

しかし、その鎖の輪が放つ光さえも無にするかのように、圧倒的な存在感を禍々しき剣は漂わせていた。

 

『目覚め……』

 

誰もいないはずの室内には男の者と思われる低い声が響き、禍々しき剣は妖しく不気味に輝く。

輝きは徐々に徐々に、時間を置くごとに強くなっていき……放たれた端から光はまるで霧のように室内を包み込み始める。

 

『目覚め……近い……』

 

声は室内に反響し続け、放たれ続ける黒き光は完全に室内を包み込もうとしていた。

しかし、それを遮るように剣を囲む鎖の輪から放たれる白き光が強さを増す。

増した光は禍々しき剣の放つ光をゆっくりと遮り始め、最後には室内を元の状態へと戻してしまう。

 

『足りない……まだ……足りない』

 

声は憎悪を露にするように、先ほど以上に低い声を響かせる。

そして声が響き終えた後、禍々しき剣の刀身から真っ赤な……真っ赤な液体が滲み出る。

どこか若干の黒さを帯びているその真っ赤な液体はゆっくり、ゆっくりと滲み流れ出る。

 

『血が……欲しい……』

 

ゆっくりと滲み出る液体は遂には台座からすらも流れ落ち、ピチャ、ピチャと音を立てる。

その音に合わせるように台座はもちろん、地面すらも侵食するようにゆっくりと液体を広めていく。

 

『闇を……秘めし者……血……欲しい』

 

ゆっくりと広がっていく液体はとうとう、室内の地面全体を真っ赤に染める。

そして、広まった液体の一部分がゆっくりと隆起していき、やがてそれは人の形を成していく。

人の形を成した数体の化け物……それは地面に広がる液体の上を歩き出し、足音を立てながら室内を出て行く。

 

『我の、目覚めは……―――を……招く、礎』

 

すべての化け物がいなくなった後も、禍々しき剣は真っ赤な液体を流し続ける。

尽きることなく、ゆっくりと、ゆっくりと流し続ける……。

 

『受け入れよ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『世界の……―――を』

 

 


あとがき

 

 

やっとできた……。

【咲】 おっそい!!

げばっ!!

【咲】 まったく……前の投稿から一体どれだけ経ったと思ってるのよ!

えっと……四日?

【葉那】 くらいだね〜。

ん〜……確かに今回のはちょっと掛かりすぎた気が。

【咲】 気じゃなくて実際掛かりすぎなのよ!!

げばっ!! ぐばっ!!

【葉那】 お姉ちゃん、今日はいつにも増して激しいね♪

【咲】 まあね。 あまりにこいつの執筆が遅すぎたからいつもの三割増しでやっちゃったわ。

いたた……遅すぎたのは悪かったけど、この仕打ちは酷すぎるかもしれないと思う今日この頃です。

【咲】 すぐ復活するんだからいいじゃない。

よくねえ!!

【葉那】 でも実際復活は早いよね〜。

もう慣れたからな。

【咲】 慣れることはいいことね。

事こういうことに関してはよくないかと……イエ、ナンデモアリマセン。

【咲】 ふぅ……で、もはや恒例となりつつあるけど、次回はどんなお話?

ん〜……次回はだな、今回のお話の最初で出てきた少女と裂夜のお話。

それとペンダントの力を取り戻すためにカールとその仲間たちが奮闘するお話。

これを半々で、だな。

【葉那】 あの少女っていうのは、後々も出てくるの?

出てくるね。 ていうか、結構重要になってくるキャラだ。

【咲】 オリジナルよね?

オリジナルだね。 ちなみに、あの少女の名前は次回明かされます。

【咲】 そ。 じゃあ、今回はこの辺でね♪

【葉那】 また次回会おうね〜♪

では〜ノシ




少女を襲った魔物の正体が片鱗とはいえ判明。
美姫 「あの剣が今回は重要になってくるのかしら」
ゆっくりと真相に近付きつつあるのか!?
美姫 「でも、まだまだ分からない事ばかり」
いやー、一体どうなるのか予想もつかないよ。
美姫 「次回が待ち遠しいわね」
うんうん。次回も待ってます!
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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