現在、保健室で治療を受けてなんとか復活したカールと共に一同は船着場を目指して歩いている。

最初合流した際にいつの間にかメンバーに加わっている蓮也を見てカールは若干の驚きを浮かべつつも短く挨拶を交わした。

そして夕方の騒動で自分を見捨てたレイナと綾菜をさりげなくジト目で見るが、二人はそれをスルーした。

 

「そういえば、綾菜はどうしたの?」

 

「えっと……綾菜は、大事をみて今日は冒険お休みとのことです」

 

蓮也のその答えで皆は納得したように頷く。

ミラの魔法で治療された綾菜は次の日……つまり今日なのだが、保健室のフィリスの元へ連れて行くと言われた。

髪を結わせるということで今回のことを許してもらったと安心していた綾菜だったが、こればっかりは避けられない道だったのだ。

しかし恭也の似なくてもいい所が似てしまったのか、綾菜は保健室という場所が大嫌いだったため、即座に猫へと変化して逃げ出した。

まあその結果が夕方の件に繋がるのだが、結局捕まった綾菜はそのまま一直線に保健室へと連行された。

そしてそこでフィリスの診断を受けた後、一応異常は見られないが今日一日は激しい運動を控えたほうがいい、と言われ現在に至る。

 

「そうなんですか……では戻ったら、お大事にと綾菜さんに伝えておいてもらえますか?」

 

「あ、はい」

 

ちなみに、その場に居合わせなかったカールは会話についていけてなかった。

場に居合わせなかった故に何があったのかわからず、リゼッタと同じように言うのも憚られる。

なら聞けばいいということになるのだが、すでにその会話が完結してしまっている現状では聞くに聞けない。

そんなわけで、一体自分の居ない間に何があったのか、という疑問だけを内に残す羽目になった。

 

「あ、船着場が見えてきましたよ〜」

 

指を差しながら静穂がそう言い、一同は同時にその指の先へと顔を向ける。

学園の端のほうにある船着場……そこは本来あまり使われる場所ではないため人気は皆無だった。

そのため、誰もいないその場所には静かにチャプチャプと水の音が響き聞こえてくる。

 

「じゃあ皆、準備はいい?」

 

船着場に到着し、カールはそう聞きつつ後ろに視線を向ける。

視線を向けられた皆はそれに答えるように頷き、魔法資質がゼロのレイナを除いて各自魔法の詠唱を開始する。

口にし始めた詠唱の言葉が終わると、レイナ以外の皆の体を薄い膜が覆う。

その次にカールが再度魔法を詠唱し、レイナの体を同じく薄い膜で覆った。

 

「じゃあ……行こう」

 

その一言の後、一同はゆっくりとした歩調で船着場から水の中へと入っていった。

そして入った水の中で足のつく地面に降り立った一同は同じくゆっくりとした歩調で歩き始める。

賢者の石が眠る……古の塔へと向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

第二十五話 賢者の力を取り戻せ!! 後編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばリゼッタさん、一つ聞きたいことがあるんだけど……」

 

水中の地面を歩き始めてから、カールはリゼッタのほうを向いて唐突にそう口にする。

それにリゼッタだけならずカールが何を聞くのか気になるのか、他の面々も一斉にカールのほうを向く。

 

「聞きたいこと……ですか?」

 

「うん。 いいかな?」

 

「あ、はい」

 

リゼッタはそれに了承するように小さく頷き、それを見てカールは質問を口にする。

 

「図書室でリゼッタさんと一緒にいたリエルさんなんだけど……二人は知り合いなの?」

 

「はい。 リエルさんとは私が幼い頃からの付き合いです」

 

「そうなんだ……だったら仲が良さそうに見えたのも納得かな」

 

そう言って疑問が解けたというように頷きつつ、この話題をそこで終える。

しかしカールはリゼッタの答え……リゼッタが幼い頃からの付き合い、というところに新たな疑問を浮かべる。

人以外の種族は多種族同士でも共存していた大昔と違い、現在ではまるで魔物と同種の存在というような目で見られていた。

それはセイレーンとて例外ではなく、リゼッタも幼い頃から人間たちによる迫害を受けてきた。

そのため、リゼッタは現在も自分がセイレーンであることを隠していることもあって人と深く関わらないように学園で生活をしている。

そんなリゼッタが幼い頃……つまりはまだ迫害を受けていたであろう頃からの付き合いと言える者がいるとしたらそれは、言い方は悪いが人族とは考えられない。

故にリゼッタと関係の深いであろうリエルは人族なのだろうか……もしかしたら他の種族ではないだろうかという疑問が浮かぶのだ。

しかし、世界の人間の誰もが多種族を受け入れないというわけではなく、受け入れる人間も極少数ではあるがいる。

それを考慮して考えると、リエルはその極少数に含まれる人なのかという考えも浮かぶ。

 

(ん〜……リゼッタさんに聞くのが一番なんだけど……)

 

そう考えつつカールはレイナと会話をしているリゼッタを横目で見て気づかれないように溜め息をつく。

この場にいるのがリゼッタのみなら聞くことはできるのだが、如何せん今は冒険の最中であるため他の面々もいる。

しかもリゼッタがセイレーンであることはそこにいる誰もが知らないことな上、リゼッタから話さないように口止めされている。

そのため迂闊に聞くことも出来ず、結果としてカールのその疑問を解くことは後回しになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会話をしつつ歩くこと数十分、ちょっと道に迷ったりしながらも一同は進む先に巨大な塔を発見する。

それに向かって一歩一歩近づくにつれて大きくなっていく塔は、最終的に皆を唖然とさせるほどの大きさになっていた。

 

「でかい……な」

 

「そう……ね」

 

先頭で唖然と塔を見上げるカールとレイナはそう口にし合う。

他のものたちも口には出さないものの、二人に同意するかのように塔を見上げていた。

 

「と、とりあえず……入ろうか」

 

「そうですね」

 

我に返ったカールがそう言い、最初に頷いたリィナに続けて残りの者たちも頷き返す。

皆が頷いたのを見て歩き出すカールに続いて皆も歩き出し、一同は高く聳え立つ塔の入り口を潜っていった。

 

「うわ……なんていうか、ボロボロですね」

 

入り口を潜ったすぐそこに広がる光景は、静穂がそう口するのも無理はない光景だった。

辺りの壁はボロボロに崩れ、塔を支える柱の何本かは砕け倒れていた。

しかし、唯一つだけ不自然な光景があることに皆は気づき、不思議そうな顔でそこへと歩み寄る。

 

「この扉……自然に崩れたものではないですね」

 

「それって、誰かの手で破壊されたってこと?」

 

「おそらくはそうじゃないかと思います」

 

辺りの破片の散らばり様から見ても、それが自然に崩れたものではないことが明白。

そして誰かの手によるものであるとするならば、自分たちよりも先に誰かがここを訪れたということ。

破壊された扉からそれを読み取った一同は揃って顔を見合わせる。

 

「僕たち以外の人がこんな場所に来る目的って……やっぱり、賢者の石なんでしょうか?」

 

「たぶん、ね……」

 

頷きながら返すカールの表情には焦りという感情が読み取れた。

何時かはわからないが、誰かが賢者の石を目的として塔に訪れたとするなら、賢者の石の安否が心配になる。

もしかしたら、もう賢者の石は持ち去られた後かもしれない……この塔にはすでに存在していないかもしれない。

それらを考えるとカールが焦りや不安を抱いてしまうのも仕方の無いことだった。

 

「先を……急ごう」

 

負の考えを拭い去るように首を振り、カールはそう呟くように言って歩き出す。

その歩調は先ほどよりも若干速くなっており、胸に抱いている不安感を拭い去れていないことが皆にも分かる。

しかし皆はそれに対して何も言うことなく、カールの歩調に合わせて同じく歩き出し、塔の内部を上へと上っていく。

二階、三階と早足ではあるがゆっくりと上っていく一同には、一階と大差ないほど崩れが目に映る。

そしてそれと共に目に映るものがもう一つあり、一同は四階へ向かう階段の壁にあったそれの前で足を止める。

 

「これ……なんでしょうか?」

 

「さあ……でも、さっきからよく見かけるわよね、これ」

 

リゼッタの疑問に首を傾げつつ、レイナは目の前のそれ……壁画へと手で触れる。

手で触れた目の前の壁画はそれまで歩いてきた壁画たちとさして変わらずボロボロで、

何が描かれているのか辛うじてわかるというレベルだった。

 

「天使、でしょうか?」

 

壁画に描かれているもの……それは背中に羽を生やし、片手に剣を持つ人らしきもの。

見た感じで言えば蓮也の言うように天使にも見えるのだが、それに対してリゼッタが否定するように首を振る。

 

「羽があるからと言って、一概にそうとは言えないと思います」

 

「そうなんですか?」

 

「はい。 羽を持つ種族というのは他にもありますから……」

 

それは自身のこと、セイレーンのことも示しているのだが、カール以外に者にはわからなかった。

その後、それが何の壁画なのかわからぬまましばらく見ていた一同の中で、

リィナがふと何かに気づいたかのように壁画へと歩み寄る。

 

「ここに書かれているのは……この壁画の名前か何かでしょうか?」

 

「え?」

 

リィナの言葉に皆は一斉にその部分へと視線を向ける。

そこには確かにリィナの言うとおり、文字のようなものが薄っすらと掘り込まれていた。

その文字をなぞるように皆は視線を動かし、それを読んでみる。

 

「えっと……『鎧を纏いし白翼の戦乙女(ヴァルキリー)』って書いてありますね」

 

「白翼の戦乙女(ヴァルキリー)……それって、ブリュンヒルドのことでしょうか?」

 

「ぶりゅんひるど? ……なんですか、それ?」

 

「えっと、そんなに詳しくは知らないんですけど……確か神話上で登場する戦乙女(ヴァルキリー)の一人で、別名『罪を背負いし戦乙女』とも言われる人物だったはずです」

 

自分が図書室の本で見たものを思い出しながらリゼッタはそう説明する。

その説明に質問した蓮也以外の者も、なるほど、というように頷いていた。

 

「でも、なんでこんなものが塔の壁に描かれているんでしょうか?」

 

「う〜ん……たぶんだけど、この塔が神話と何か関係があるってことじゃないかな。 たとえば昔、この塔には神様がいたとか」

 

「まっさか〜。 この世に神様なんているわけないですよ〜。 そもそも、神話だってほんとは作り話って言われてるんですから」

 

笑いながらそう言う静穂にカールは、そうだよなぁ、と呟き、他の者も同じ考えなのか頷く。

事実、本やら何やらでは神というのをよく見かけても、史実で見たというのはほとんど記載されてはいない。

故に神だとか神話だとか言われても信じる者などほとんどおらず、カールたちとて例外ではないのだ。

 

「――と、こんなところで時間を潰してる暇はないわね……」

 

「そうですね……先を急ぎましょう」

 

レイナとリィナがそう言い、皆もそれに頷いて四階への階段を上がっていく。

しかし、ただ一人……カールだけは今だ壁画のある一部分に目を向けていた。

その部分とは、壁画に描かれる人物――ブリュンヒルドが手に持っている剣。

 

(これ……どこかで見たような……)

 

ブリュンヒルドが手に持っている剣の形、それはどこかで見たことがあるような気がした。

だが、それがどこでだったか、というのはまったく思い出せず、カールは首を傾げるしかなかった。

 

「カール〜! 早く来ないと先行っちゃうよ〜!?」

 

結局どれだけ考えても思い出すことは出来ず、カールはレイナのその言葉で壁画から目を外す。

そして、階段を見上げてもすでにレイナたちの姿がないことに慌てて階段を駆け上がっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

塔を上ること数十分、途中にあった多くの壁画に足を何度か止めそうになりながらも一同は最上階へと辿り着いた。

辿り着いた最上階は他の階と比べるとそこまで壁画などがあるわけではなく、ただ若干先のほうに大きめの扉があるだけの場所。

そのため、最上階だから今までの階よりも壁画があったりするのかと考えていた一同は少し拍子抜けした様子で扉へと歩み寄る。

扉の前まで歩み寄った一同は手を伸ばして扉を開けようとするが、そこで扉に描かれる壁画に違和感を感じて手を止める。

 

「この壁画、なんだろ? ちょっと不思議な感じがする……」

 

伸ばした手を引っ込めてカールは不思議そうな顔で壁画を見る。

扉に描かれている壁画は三つ、そのどれもにおそらくは女性と思われる人物が描かれていた。

そしてその壁画は三角を形作るように扉に描かれており、中央には何かがはめ込まれていたのだろうか、小さな窪みがあった。

その不思議な壁画に違和感を覚えたのはカールだけでなく他の者も同様なのか、同じように壁画に視線を向けている。

そんな中、皆と同様に壁画を見ていたリィナは三階のときと同じく壁画の名前らしき文字を発見し、それを読み始める。

 

「『ウルド』、『スクルド』、『ヴェルダンディ』……」

 

「この壁画の名前?」

 

「たぶん、そうだと思います」

 

リィナが頷いて返すと同時に皆はその名前について考える。

しかし、やはりこういったことに関して知識が乏しい一同に思いつくわけもなく、結果としてリゼッタに説明を頼んだ。

説明を頼まれ話し出したリゼッタによると、その三つはノルンと呼ばれる三女神のことであるらしい。

そしてそれらは運命、存在、必然という各自別々の役割を司り、ウルドを筆頭とするためか、総称して運命のノルンと呼ばれている。

だが、神話上でもこれらのノルンはほとんど表舞台には立つことがなく、本で得られる知識もそれが限界であった。

故に説明を聞き終わった後も、一同はその壁画が示す意味がいまいちよく分からず首を傾げるしかなかった。

 

「ん〜……まあ、分からないことをいくら考えてても仕方ないわね。それよりも早く用事を済ませちゃいましょう」

 

分からないことを考えてても時間の無駄だというようにレイナはそう言い、前に出て扉を開け放つ。

そんなレイナにカールも他の面々も少しだけ苦笑を浮かべ、開け放たれた部屋の内部へと入っていく。

その部屋の内部には皆の予想通り、賢者の石らしき大きな結晶が部屋の中央に静かに佇んでいた。

しかし、それに対しては予想していたため驚きはしなかったが、目の前にあった別のことに対しては皆驚きを浮かべる。

 

「ようやく来たね、カール。 あんまり遅いから待ちくたびれちゃったよ」

 

目の前にあったこと、それは一部の者を除いて皆が会ったことのある人物――ヴァルがいたということ。

誰かがこの塔に来ている、というのは一階の扉でわかったが、それがヴァルだとは誰も思わなかった。

その中でも、レイナたち以上にヴァルを知っているカールはそのことに驚きを浮かべるしかなかった。

 

「ヴァ、ヴァルさん……どうして、ここに」

 

カールの口から呟かれたその言葉は、自分たちよりも先に塔へと来ていたことに対するものだけではない。 

カールが過去に行くことが出来ない現状で、キャサリンを守ることができるのはヴァルのみだ。

故に本来ならばヴァルは過去に行っているはずなのに、なぜ今、自分たちの目の前にいるのだろうか。

それを含めて、カールはその言葉を口にしたのだ。

 

「ん〜……君たちさ、賢者の石がどれだけ重要なものか、わかるかな?」

 

言葉に対して、ヴァルはすぐに答えることなく質問をぶつける。

その質問に皆はすぐ首を縦に振りかけるが、ふと思ったことに動きを止めて考え込む。

賢者の石が秘宝中の秘宝と云われていることは知っているが、それ以外のことは何一つ知ってはいない。

一体誰が生み出したものなのか、一体どれだけの力を秘めたものなのか、何も知りはしないのだ。

だから、その質問に対して一同は答えることが出来ず、口を噤んで黙り込んでしまう。

 

「ま、予想通りの反応だね」

 

カールたちが答えられないのを知っていてした質問なのか、ヴァルは小さく一度だけ頷いて呟く。

そしてカールたちにゆっくりと背を向け、賢者の石に目を向けながら口を開いた。

 

「本来、これは人の手にはあまる代物なんだよね。 個々の力が強すぎて、手に入れた者は必ず身を滅ぼす石……なんて言われたこともあるくらいだし。 でも、身を滅ぼすと分かっていても人はこの石を手にしようとする。 何人、何十人、何百人の人がこの石の力を求める。 誰よりも強い力が欲しいからってね」

 

「……」

 

「そして争いが起きる……賢者の石を賭けて、人は争い奪い合う。 どれだけの命が奪われようとも、ね。 それほどまでに、賢者の石は人にとって重要な代物なんだよ」

 

説明を終え、ヴァルはふっと目を一度閉じ、開くと共にカールたちへと振り向く。

そのときヴァルの目に映ったカールたちの表情は、とても不思議そうな表情だった。

それもそうだろう……ヴァルのした質問も、答えも、カールがした質問の直接的な答えにはなっていないのだから。

 

「質問の意図がわからない、って顔だね」

 

それが分かっていたからか、ヴァルは少しだけ笑みを浮かべて呟く。

しかし、すぐにその浮かべた笑みを消して元の表情に戻し、再度口を開く。

 

「人が喉から手が出るほど欲している秘宝、賢者の石がここに存在する。 もし、それが他の人に知れたとしたら?」

 

「……自分の物にしようと奪いにくる、ですか?」

 

「そゆこと。 まあ、そういった輩が簡単に来られないようにこんな場所に安置されてるんだろうけど、君たちがここに来たみたいに必ずとは言えないからね。 だから私が、君たちが来るまで石を守ってたってわけ」

 

「そうだったんですか……ありがとうございます、ヴァルさん」

 

ヴァルの言った説明に対し、カールはそう口にして頭を下げる。

それにヴァルは何も返さず、ただ小さな笑みを再度浮かべるのみだった。

しかし、内心では……

 

『でもさ、これって本来私の役目じゃなくて彼女たちの役目だよね? ちょっと平和になったからって、職務怠慢なんじゃないかな』

 

『マスターが言えたことではないでしょ、職務怠慢については』

 

ランドグリスにそんな愚痴をこぼし、見事に返されていた。

 

「さて、私がここにいる理由も話し終わったところで……本来の目的に移ろっか?」

 

「あ、はい」

 

そう言ってくるヴァルにカールが頷くと、ヴァルは足を進めてカールの前へと歩き出す。

そしてカールの前まで辿り着くと、ヴァルは何も言うことなく右手を前に差し出す。

差し出された右手の意図にカールはすぐ気づき、自身の首に掛けられているペンダントを外して渡す。

渡されたペンダントをヴァルは軽く握り、踵を返そうとしたところである一点に目がいった。

 

(似てる……あの人に)

 

視線が向けられているのは、一同の後ろ辺りに立つ蓮也の姿。

その容姿はヴァルが頭に浮かべる『彼』と重なるため、表には出さないものの内心で驚く。

 

「……?」

 

驚きを内心に浮かべながら視線を向け続けてくるヴァルに気づいた蓮也は不思議そうにしながらも小さく頭を下げる。

それにヴァルは笑みを浮かべることで返しつつ、頭の中でそれについて軽く整理する。

 

(あの人の子供、かな。 あれから何年も経ってるんだから、いてもおかしくはないし)

 

重なる面影に関して、ヴァルはそう考え結論付ける。

そしてもう一度だけ蓮也を視線に捉えた後、ヴァルは踵を返して賢者の石の前へと歩み寄る。

 

「……」

 

賢者の石の前まで歩み寄ったヴァルは、受け取ったペンダントを石の前に掲げる。

すると、石とペンダントと呼応するかのように光を放ち、失われたペンダントの光が徐々に戻ってゆく。

その数秒後、完全に光を取り戻したペンダントを持って再度賢者の石に背を向け、カールたちの前へと戻る。

 

「はい、充填終わり。 今度は最大まで回復させたから多少のことじゃ切れたりしないけど、だからってあんまり無茶な使い方はしないようにね♪」

 

「は、はい……ありがとうございます」

 

差し出されたペンダントを受け取り、カールは再び首に掛けなおす。

 

「で、もうここに用はないかな?」

 

「え、あ、はい、特には……」

 

「そ……じゃあ、送ってあげるから帰った帰った♪」

 

「送るって……」

 

どうやって、と聞こうとしたが、それよりも早くヴァルはランドグリスを地面に差し込む。

すると差し込まれた地面に小さな魔法陣が浮かび上がり、ヴァルとカールたちの間にゲートが開く。

 

「学園直通のゲートだよ♪ わざわざ上がってきた塔をまた降りるのも面倒でしょ?」

 

ヴァルは軽くそう言うが、ゲート魔法を見たことがないカールたちからしたら驚きものだった。

そんな驚きを浮かべつつ、ヴァルに早く入るように促された一同はゲートの中へと姿を消していく。

そして、最後となったカールはゲートへと歩き出し、潜る一歩手前で足を止めてヴァルに尋ねる。

 

「ヴァルさんは、一緒に行かないんですか?」

 

「私? ん〜……私はまだやることがあるから、ここに残るよ」

 

「やること……ですか?」

 

「そ。 やること♪」

 

ウインクをしてそう返され、カールは頷くだけでそれ以上何も聞くことはなく歩き出す。

再開された歩みがゲートへと達し、カールの姿が内部へと消えたところでヴァルはゲートを閉じる。

それと同時に地面に突き刺したランドグリスを抜き、もう一度踵を返して賢者の石の前へと歩み寄った。

 

「もうこれは、用なしだね……」

 

『そうですね……破壊しますか?』

 

「もちろん」

 

問いかけに即答し、ヴァルはランドグリスを頭上へと振りかぶる。

 

『魔弾はいくつぐらい使いますか?』

 

「一つで十分……ようは再生不可能なまでに砕けばいいんだから」

 

『わかりました』

 

言うと同時に、頭上に振り上げたランドグリスからガコンと音がする。

その音を耳で聞くと共に、ヴァルは目の前に捉えた賢者の石に向けて振り上げたランドグリスを一直線に振り下ろす。

振り下ろされたランドグリスの刃は賢者の石の表面に当たり、バチバチと二つの力が均衡するような音を立てる。

それと同時に、ランドグリスの刃を強烈な光が包み込み、均衡はゆっくりと崩される。

そして完全に均衡が崩され、止まることない刃が賢者の石へと直撃したとき……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幾多もの結晶を散りばめながら、石は砕け散った。

 

 


あとがき

 

 

第二十五話でした〜。

【咲】 ……。

【葉那】 ……。

あ、あれ? 何ゆえ無言ですか?

【咲】 イワナイトワカラナイカシラ?

いえ、分かっております。 本当に申し訳ありませんでした。

【咲】 アヤマレバスムト?

め、滅相もない。 そんなことはまったくもって考えておりません!

【咲】 ソウ……ジャア、アトデラボニイラッシャイネ?

え、あ、う……はい。

【咲】 ……で、話が変わるけど、次回はどんなお話?

え、え〜、次回はですね、学園へと戻ったカールがすぐに保健室へと駆け込み、再び過去へ。

そしてそれに対し、カールと分かれたレイナたちがある事態に直面し、真実を知る。

この二つですかねぇ……。

【葉那】 つまり、二つの視点を一話で書くってこと?

そういうことだな。 まあ、どちらも次回だけでは終わらないけどな。

【咲】 だったら一話に纏めなくても二話にわけて書いちゃえばいいじゃない。

それも検討中。 まあ、結局はまだどっちになるかはわからないってことだな。

【咲】 そう。 じゃあ、今回みたいに遅れないようにさっさと書いちゃうように!

イエス、マム! では、今回はこの辺で!!

【咲&葉那】 また次回ね〜♪




無事に賢者の石の力を取り戻せたみたいだな。
美姫 「賢者の石を壊したわね」
やっぱり悪用されないためなのか。
美姫 「うーん、そうなのかな」
まあ、それはさておき、久しぶりに過去へ行くのか!?
美姫 「しかも、レイナたちにも何かがあるみたいよ」
次回が待ち遠しい。
美姫 「続きを待ってますね」
ではでは。



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