四対一……数だけ見ればベルナルドは圧倒的に不利に見える。

しかし、数の差など無意味だというかのようなベルナルドの猛攻にレイナたちは苦戦を強いられていた。

前衛であるレイナ、静穂、蓮也の攻撃をものの見事に受け、もしくは避けながら隙を見て反撃を繰り出す。

そして前衛の攻撃の切れ目という隙を見つけては後衛であるリゼッタへと瞬時に火球を放つ。

その戦闘者としての腕前は、さすが学園の講師と言う他なかった。

 

「っ!」

 

自分へと放たれた魔法へリゼッタは瞬時に狙いを定め、魔力を込めた矢を放ち相殺する。

そもそも障壁魔法自体覚えてはいないリゼッタが持つそういった攻撃を防ぐ方法といえばそれぐらいしかない。

だがそれは言ってしまえば大きな隙を作る行為であり、本来ならばベルナルドほどの者であればそんな隙を見逃すことはない。

そう、つまりこれがリゼッタとベルナルドの一対一での戦いならば、リゼッタは確実に先ほどの隙を突かれて負けていただろう。

 

「はあっ!」

 

「ぬっ」

 

しかしそれはあくまで一対一だった場合の話。

リゼッタの隙を見つけてベルナルドがそれを突こうとしても、前衛として戦っている三人がそれを許しはしない。

そうやって互いの弱点を補い合うことで、レイナたちはベルナルドとの力の差を埋めていた。

 

「くっ……中々、やるようだな」

 

個々の攻撃はそこまで脅威とはならないが、連携を組んでこられると話は別となる。

レイナが蹴りを放ち、それを避けて反撃しようとすれば静穂か蓮也がそれを邪魔するように得物を振るう。

最初のほうこそ反撃も出来ていたが、戦い始めてある程度経った今となっては簡単に反撃を返すことは出来なくなっている。

それはベルナルドの癖、もしくはパターンなどを読まれ始めているということなのだが、それは普通の生徒ならばこの短時間では無理だろう。

つまり、それを考えて今の状況が表していることは、今までの冒険でレイナたちの実力が着実に伸びてきているということ。

 

(さすが……彼らが眼を見張るだけのことはある)

 

ウィルヘルムの理想に賛同し、『教団』に身を置くようになってから耳にした人たち。

歴史で語られることはない十三年前の事件、それを解決に導いた人たち。

詳細を初めて聞いたとき、ベルナルドは素直に凄いと思い、もしかしたら尊敬さえしたかもしれない。

そんな人たちが眼を見張るほどの力を秘めたレイナたちに苦戦を強いられながらも、ベルナルドの口元には笑みが浮かんでいた。

それは対峙するレイナたちにも気づかれないほどの小さなものではあったが……確かに笑みと呼べるものが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

第二十七話 苦しみ招く二つの力

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルナルドとレイナたちが戦闘を行っているその頃。

恭也たちの部屋でただ一人両親と兄の帰りを待つ綾菜はベッドに座り、暇そうに足をぶらぶらとさせていた。

本来この時間ならば兄である蓮也はともかく、恭也かミラが帰っていてもおかしくはない。

しかし、先日負ってしまった怪我(もう治っているが)を理由に冒険お休みを言い渡された今日に限って二人は残業だった。

 

「む〜……」

 

テレビもない、部屋にある本もすでに読んだ、というこの状況で、綾菜の暇を紛らわすものは一切ない。

かといって留守番を言い渡されている現状で残業する二人のところに行けば、確実に怒られることが目に見えている。

つまるところ、何もない暇なこの状況を誰かが帰ってくるまで我慢するしかないということだった。

 

「暇……」

 

足をぶらぶらさせていた綾菜は小さくそう呟いてベッドの上から降りる。

そして何かないかと両親の机へと向かい、引き出しをガサゴソと漁り始めた。

 

「あ……」

 

漁り始めてしばし、綾菜は引き出しの中からクッキーの箱を発見した。

恭也がそういったものをあまり食べないところを考えると、おそらくはミラのだろう。

 

「〜♪」

 

時間的にお菓子を食べていい時間ではないが、恭也もミラもいないため綾菜は嬉々として見つけたお菓子を手に取る。

そして箱の蓋をパカッと開け、中から様々な形をした数個のクッキーを取り出して再び蓋を閉め、元の場所に戻す。

そのクッキーの一枚を口の中に入れて頬張りながら、綾菜は元の位置に戻ろうとする。

 

「……?」

 

そのとき、綾菜はふと気づいたおかしなことに首を傾げる。

なぜかはわからないが、綾菜の目に映る光景がどこか赤みを帯びているように見えたのだ。

いや、正確には見えたではなく、今でもそう見えている。

 

「ん……」

 

変だなと思い、綾菜は空いている手で眼を擦り、もう一度開いてみる。

しかし、それでも視界に映る光景の色は変わらず、それどころか先ほどより酷くなっていた。

 

「ふぅ……ただいま」

 

「あ、お母さん」

 

もう一度眼を擦ってみようとしたちょうどそのとき、残業を終えたミラが帰ってきた。

帰ってきたミラの姿を見て、綾菜は目を擦ろうとした手を下ろしてミラへと駆け寄る。

自分が帰ってきたことで嬉しそうな笑みを浮かべて駆け寄ってきた綾菜にミラは優しい笑みを浮かべる。

そして、そのときに綾菜が片手に持っているものにちょうど目がいき、苦笑しながら尋ねる。

 

「綾菜〜、その左手に持ってる物は何かしら?」

 

「あ……」

 

綾菜はミラの言葉でそれを思い出し、左手を背中にサッと隠す。

それにミラは更に笑みを深めながら、少しだけ屈んで綾菜の頭を撫でる。

 

「別に隠さなくても怒ったりしないわよ。 ただ、食べたらちゃんと後で歯磨きしましょうね」

 

「う、うん……」

 

頷いた綾菜をミラはもう一撫でした後、屈んでいた腰を上げてお風呂に入るための準備をする。

その後姿を綾菜はクッキーを頬張りながら見つつ、先ほど起こったことをふと思い出してミラに話す。

 

「お母さん」

 

「ん〜? なに、綾菜?」

 

「さっき……目が変だったの」

 

「変? どんな風に?」

 

「えと……周りが、みんな赤かった」

 

綾菜の口から言われたことに、ミラはタンスから視線を綾菜に移す。

そのときの表情は、とても驚いたような、それでいてどこか強張った感じがあった。

 

「綾菜……それ、ほんと?」

 

「うん」

 

信じきれず聞き返した言葉に綾菜が頷いたことで、ミラの表情は更に強張る。

そして、顎に手を当てて何かを考えるように目を瞑る。

そのミラの様子に綾菜はやっぱり変なのだろうか、と不安に思い始め、少しだけ俯いてしまう。

それに考え事をしていたミラは我に返り、すぐに先ほどのような笑みを浮かべて口を開く。

 

「きっと綾菜は疲れてるのよ。 ほら、最近いろいろとあったから」

 

「? 疲れてると、こうなったりするの?」

 

「ええ。 だから、早くお風呂に入って歯磨きをして寝ましょ。 そうすれば疲れも取れるわ」

 

「うん」

 

ミラの言うことを素直に信じ、綾菜は不安そうな顔から一転して笑みを浮かべる。

ミラもそれに笑みを深めることで返し、用意した物を持って綾菜と共に脱衣所へと入っていく。

このとき、ほんの少しではあるがミラの表情には不安という感情が窺えた。

しかし、少しであるが故に、隣にいる綾菜はそれに気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視点を戻して、地下水路の一角。

そこで行われていたベルナルドとレイナたちの戦いは、そろそろ決着がつきそうな状態だった。

所々に傷を負い、互いに息を切らせながらも武器を構えるベルナルドとレイナたち。

しかし、傷の深さを見る限りでは、ベルナルドが追い込まれているということが明白な状況。

それでも、ベルナルドは諦めることなく攻め続け、構えた剣をレイナたちへと振るう。

 

「っ……もう、降参してください。 これ以上戦ったら、あなたの命が危ないです!」

 

剣を交えながら、蓮也はベルナルドに向かってそう叫ぶ。

実際、静穂や蓮也の斬撃、リゼッタの矢を掠りとはいえ受け、レイナの攻撃に至っては直撃を受けている。

それによってできた傷から流れる血の量、そしてレイナの攻撃でおそらくは肋骨の何本かは折れている。

痛みで気を失ってもおかしくないそんな状況で戦い続けるなど、自殺行為にしかならない。

 

「そういうわけにも、いかない。 ウィルヘルム様の理想は私の理想……それを諦めることなど、できない!」

 

「くっ……そのためなら、リィナがどうなってもいいって言うの!?」

 

「っ……無論だ」

 

答えるベルナルドの表情からは、どこか迷いのようなものが窺えた。

話しているときも、講義のときも、戦っているときも、ほとんど表情を変えないその表情に浮かぶ明確な迷い。

それは主治医として、今まで接してきたものとして、リィナに対し、非情になりきれていないことを表していた。

しかし、ベルナルドの理想に対する思いは相当強いのか、それを抑えて戦い続ける。

もしこの状況下でベルナルドを止める方法があるとすれば、それはベルナルドの戦意を奪うことだろう。

だが、先ほども言ったとおり、口で説得したところでベルナルドは理想を諦めたりなどしない。

ならばどうすればいいか……それを、戦いながら蓮也は考え、ふと一つだけ思いつく。

それは自身のことを考えても成功率は低いが、このまま戦い続けてはベルナルドが命を落としかねない。

故に、蓮也はその思いついた策を実行することにした。

 

「静穂姉さん!」

 

少しだけ視線を向けつつ叫ぶ蓮也に、静穂はそれだけでわかったかのように頷く。

そして、自らの得物を握り、レイナとリゼッタの攻撃に気を取られているベルナルドへと瞬時に近づく。

 

「隙ありです!」

 

綾小路流薙刀術 飛龍

 

「ぬぅっ!」

 

薙刀による至近距離からの高速の突き。

だが高速且つ隙を突いたその技も、ベルナルドは腕に刃を掠めつつもかろうじて避けてしまう。

しかし、それは技を放った静穂にとって避けられることは狙い通りのことであった。

 

「はぁぁぁ!!」

 

「なに!?」

 

静穂の攻撃をかろうじて避けることである程度体勢を崩してしまったベルナルド。

そして、それに追い討ちを掛けるように攻めてきていた蓮也を見て、それを狙っていたのだろうということに今更ながらに気づく。

しかし、気づいたときにはもう遅く、蓮也は二刀をクロスさせるように重ねてベルナルドの剣へと放つ。

 

御神流 奥義之肆 雷徹

 

二刀をクロスさせた状態で徹を重ねがけを放つ奥義。

御神流の中でもっとも破壊力を持つそれは、蓮也もまだ恭也から言葉で聞き、実際に見せてもらっただけ。

しかし、たったそれだけであるはずなのに、蓮也は土壇場でそれを使うことに成功した。

それは蓮也の才能か、それとも別の何かがあったからか。

ともかく、その奥義の行使により、直撃を受けたベルナルドの剣は見事に砕け折れた。

 

「終わりです……」

 

剣を砕かれ、瞬時に突きつけられた切っ先はベルナルドの負けを意味していた。

その負けをベルナルドは受け入れたのか、目を閉じ折れた剣を地面に捨て降参の意を示す。

 

「よ〜し、後は……って、あれ?」

 

降参したベルナルドを見た後、静穂はウィルヘルムのいた方向に眼を向ける。

しかし、そこには立っていたはずのウィルヘルムの姿はどこにも見当たることはなかった。

 

「逃げられた……わね」

 

「みたいですね……」

 

レイナと静穂は互いにそう呟き、各々の武器を納める。

そして、降参したベルナルドをどうするべきかと相談し、結果としてジャスティンのところへと連行することにした。

そのとき、レイナたちによって連行されていくベルナルドをリィナはただ一人動けずに見続けていた。

その表情は先ほどのように青褪めてはいないが、どこか絶望したようなそんな表情。

だが、それも無理のないことだろう……信じていた人にまた、裏切られたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルナルドをジャスティンへと引渡し、もう時間も遅いということで一同は解散した。

ベルナルドの裏切りのショックでか、足取りがおぼつかないリィナをレイナが送っていくのを見送り、一同は各自の部屋へと戻る。

そして一同が眠りについてから翌日、ジャスティンはレイナたち(リィナを除く)を呼んでベルナルドの処遇について話した。

白魔法講師という職業を降りてもらい、ハンター協会への引渡しまで地下の牢屋に身柄を拘束する。

それはベルナルドたちが抱いていた理想やらを考えると、少し軽い気もするが、おそらくはリィナのことを考えての配慮だと皆は思った。

その次に述べられたのが、ウィルヘルムに関してのこと。

行方が分からず、おそらくは学園のどこかに潜伏しているだろうということで、見つけ次第捕まえて欲しいとレイナたちは依頼された。

もちろん、講師陣も捕まえるために動くが、仕事を疎かにもできないため、レイナたちにも協力をお願いしたのである。

この二つに関しては何の問題もなく話が進んだが、最後に一番問題とされることが残された。

それはリィナに関してのこと。

信頼していた人に裏切られたショックで、また以前のようになってしまうのではないかということが皆は心配でならない。

そして何より、精神的に追い込まれた今の状況では、下手をすれば魔女の血が目覚めかねない。

そんなことになればリィナはもちろんのこと、学園にどんな被害が出るかわからないのだ。

さらにそれをどうやってかぎつけたのかは知らないが、ハンター協会はリィナを差し出すように要請し続けている。

それに対し、ジャスティンはレイナとリィナの父であるロレンツの意思を再度確認し、断固として拒否の姿勢を続けることにした。

そしてリィナに関しては、今の状況で一番リィナの近い位置にいるレイナたちに任せることとなった。

 

「はぁ……どうしたらいいのかしらね」

 

それらの話を終えたレイナたちは、現在食堂で朝食を取っていた。

朝食を取りながら話す話題は、もちろんリィナに関してのことだった。

 

「そういえば……カールさんは?」

 

「ああ、カールならまだ保健室で寝てるわ。 たぶん、まだ過去のほうにいるんじゃないかしら」

 

「そうなんだ〜……カールさんがいれば、もう少し状況が楽になるかもって思ったんですけどね」

 

「どうかしらね。 カールも、まだリィナと昔のような関係に戻りきれてないし」

 

少し遅めなペースで食事を口にしながら、レイナたちはそう話し合う。

しかしまあ、ことはそんなに軽いことではない上に、いくらレイナたちでも限界があるため話は進まず。

そのため、どうしたものか、と三人は溜め息をつかざるを得なかった。

 

「あら、レイナたちじゃない」

 

「どうしたんだ? そんな深刻そうな顔をして?」

 

「あ、ミラ先生に恭也先生……おはようございます」

 

「蓮也くんと綾菜ちゃんも、おはよう〜」

 

「「おはようございます」」

 

傍目から見たら暗い顔をしているレイナたちに、食事の乗ったトレイを持った恭也とミラが声を掛けてきた。

そしてその傍には蓮也と綾菜もおり、静穂の挨拶に二人とも返しつつ頭を下げる。

 

「それで、さっきも聞いたがどうかしたのか? やけに皆、暗い顔をしているが」

 

恭也たちはレイナたちの隣に腰掛け、食事を取り始めながら再度そう尋ねる。

その質問に、レイナたちは少しだけ悩んだ末に事情を説明し、相談を持ちかけた。

 

「ふむ……そんなことになってたのか」

 

「はい。 それで、こういったことは本来聞くべきじゃないと思うんですけど……私たちだけじゃ、どうしても」

 

「限界がある、か。まあ、確かに君たちにも少し荷が重い問題ではあるな」

 

「そうね。 でも、それに関して私たちに相談しても無意味よ」

 

「え? どうして、ミラ姉?」

 

「あのね……付き合いの長いあなたたちが悩む問題を、講師としてでしかほとんど接していない私たちがどうにかできるわけないでしょ?」

 

「で、でも、どうしたらいいかくらいは……」

 

「それも無理ね。 これに関しては下手に他人のアドバイスを参考にしても、逆効果になる可能性が高いわ。 つまり、こういったことはあなたたち自身で悩んで解決する以外ないのよ」

 

少し突き放したような言い方だが、実際はその通りだろう。

他人の体験談やアドバイスを聞き、それを参考にしたところで成功するとは限らない。

下手をすれば、聞いた体験談やアドバイスで更に悩んでしまうことにもなる。

 

「う〜ん……自分たちで、かぁ」

 

ミラに言われた言葉で一同はさらに悩みだすが、やはり答えは出てこない。

下手な励ましや慰めも、おそらく今のリィナには意味を成さないだろう。

ならばどうしたらいいのか……それがレイナたちの頭には浮かんでこなかった。

 

「おはようございます、皆さん」

 

「「「え?」」」

 

そんな矢先、当の本人が何食わぬ顔でレイナたちの前に現れた。

それに驚きを浮かべるレイナたちを尻目に、リィナは恭也たちにも挨拶をすると席に座って自らの食事をテーブルに置く。

驚きを浮かべつつもレイナたちが本人の顔を見る限り、昨夜のような様子はまったく窺えず、いつもと変わらぬ表情のリィナ。

もう何がなんだか、というような心境でいち早く我に返ったレイナは恐る恐るリィナへと尋ねる。

 

「リィナ……その、大丈夫なの?」

 

「何がですか?」

 

「えっと……昨日のこと」

 

「ああ、そういえば皆さんには昨夜ご迷惑をお掛けしましたね。 ですが見ての通り、私はもう大丈夫ですからご心配なく」

 

「そ、そう……ならいいけど」

 

レイナがそう言うと、リィナはテーブルに置いた食事を取り始める。

その様子はいつものリィナと変わらず、本人の言うとおり本当に大丈夫なのだろうと皆は思う。

だがしかし、皆がそう思った矢先にそれは起きた。

 

「っ……あ……ぅ……」

 

「リィナ!? どうしたの!?」

 

食事を取り始めてからすぐに、リィナは手に持っていたスプーンを落として苦しみだす。

それにレイナはかなりの焦りを見せるも、すぐにそれがいつもの発作なのだと気づく。

そして気づくと同時に、レイナはリィナから薬の有無を聞き、リィナの服のポケットから薬を取り出して飲ませる。

しかし、薬を飲めば収まるはずの発作が、飲んだにも関わらずなぜか収まらない。

そのことにレイナも他の面々も同様に焦り始める。

 

「これは、保健室に連れて行ったほうがいいわね」

 

「そうみたいだな」

 

ミラの言葉に恭也はそう返し、立ち上がって苦しむリィナを保健室に連れて行こうとする。

だが、そのとき……

 

「「っ!?」」

 

突然、膨大な闇の魔力を二人は感じた。

そしてそれと同時に発作で苦しんでいたリィナの顔色が徐々に元へと戻ってゆく。

 

「はぁ……はぁ……あ、れ? 苦しく……ない?」

 

薬でも止まらなかった発作が、どういうわけか急に収まった。

先ほど感じた闇の魔力を含めて、恭也とミラは一体どういうことなのかまるでわからなかった。

そしてそれに関してはレイナたちも同じなのか、不思議そうにしながらもリィナに大丈夫かと声を掛ける。

その掛けられた言葉にリィナがもう大丈夫ですと返すと、レイナたちは安心したように息をつく。

しかし、レイナたちが息をつくと同時に、ドサッと誰かが倒れる音がした。

 

「綾菜っ!?」

 

倒れたのは、リィナの向かいに座っていた綾菜。

倒れた綾菜に恭也とミラはすぐさま駆け寄って抱き起こす。

そして、抱き起こした綾菜を見て、二人の表情は驚愕に染まった。

 

「これは、まさか……」

 

「そんな……」

 

驚愕を浮かべながら、まるで信じられないといった表情をする二人。

それに位置的に何がどうなっているのかわからないレイナたちは身を動かして覗き見る。

 

「え……?」

 

覗いたその光景を見て、レイナたちは自身の眼を疑う。

いや、正確に言うなら倒れた綾菜を見て、もっと正確には……綾菜の目を見て、だ。

本来、綾菜の目は父親譲りの綺麗な黒い目のはずだった。

しかし本来は黒いはずの綾菜の眼が今、なぜかレイナたちが覗き見たときには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左目のみ……朱色に染まっていた。

 

 


あとがき

 

 

さて、綾菜の過去に関わる綾菜自身の秘密が明かされました。

【咲】 あの目って……あれよね?

君のあれが何を指すのかわからんが、たぶんそれで間違いないと思う。

【葉那】 それで〜、このことが綾菜の過去にどう関わってくるの?

それは次々回辺りに明かされるのでお楽しみに、だな。

まあ、あえて一つだけ言うならば、言葉というのは時に心を深く傷つける、ということだな。

【咲】 あ〜、だいたいわかったわ。

ま、詳細はお楽しみにしていてくだされ。

【葉那】 わかった〜。 で、次回はどんなお話なの?

次回はだな〜、再度視点が変わってカール側のお話だな。

前回ので分かると思うが、カールとキャサリンがシーラと対決をする。

そして、その戦いの末にカールはキャサリンを救うことができるのか、という感じだな。

【咲】 ヴァルは出ないわけ?

まあ、介入はするけど、シーラとの戦いでは出ない。

それは歴史上で重要なイベント故に、ヴァルは助けたくても介入できないのだよ。

【葉那】 じゃあ、どこで介入してくるわけなの?

それは次回のお楽しみに。 では、今回はこの辺で!!

【咲&葉那】 また次回ね〜ノシ




倒れた綾菜。
美姫 「ああ、大丈夫なのかしら」
それ、朱色の瞳。まさか、あれって。
美姫 「うーん、どうなのかしらね」
ああ、一体どうなっているんだろうか!?
美姫 「次回も待ってますね」
待ってます。



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