メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜
外伝 暗躍する影
魔法学園がある地とは遠く離れた北の地に建つ小さな教会。
一見普通の平凡な教会に見えるそこでは朝も、昼も、夜も、人の姿を見ることはない。
教会が人で溢れかえるのもおかしな話だが、人の気がまったくないというのも同じくらいおかしな話だった。
だが、人の気がないというのも実際のところ不思議な話ではなかった。
なぜならこの教会は、人の目には見えていないのだ。
何もないただの平地にしか見えないそこに近づいていく物好きはいない。
故にこの教会は何年、何十年もの間、誰にも気づかれることなくひっそりと建っていた。
「……」
そんな目に見えぬはずの教会を一人の男が無表情で見上げていた。
なぜ見えぬはずの教会を見ることが出来るのかはわからない。
だが、男の視線は逸れることなくまっすぐに教会を見続けていた。
しばし男は教会を見続けると、小さく笑みを浮かべて教会の扉に手を掛けて開け放つ。
そしてコツコツと足音を立ててゆっくりと教会の奥へと進んでいく。
「ご報告に上がりました……『教団』の要にして我らが麗しの姫君」
教会の最奥一歩手前で男は敬うように片膝をついて頭を垂れる。
その男の目の前には金の長髪に真っ白な服を着た女性が男に背を向ける形で立っていた。
その女性は男の言葉を聞いて男のほうを向くこともなく小さく口を開く。
「聞きましょう……『教団』の『断罪者』にして私を守る剣さん」
「ふふふふ……」
「何かおかしかったですか?」
「いえいえ……姫には敵わないな、と思っただけですよ」
男の言葉に女性は頬を若干赤くするが背を向けているため男には見えない。
そのため女性のそれに男は気づくことなく報告を口にする。
「まずは『暴』の報告ですが、各地に眠る賢者の石の収集は滞りなく進んでおり、現在の数は七つとのことです」
「そうですか……砕かれた一つを除けば、あとは二つですね」
「はい。 彼の地に建つ学園に眠るものが一つ、代々子供の胎内に石を受け継いでいく人間の一族のものが一つ……現在、『壊』は後者のほうを追っているとのことです」
「わかりました。 それでは、あなたの報告とやらに移っていただけますか?」
「はい。 ハンター協会本部施設に隠してある炎剣についてなのですが……」
「あれに何かあったのですか?」
「ええ……おそらくは、炎剣の存在が――様に気づかれたと思われます」
「……そう、ですか」
静かに女性はそう呟くが、内心では酷く焦りを感じていた。
それが分かっているのかいないのか男は、如何いたしましょう、と女性に聞く。
女性はそれに内心の焦りを必至に隠しながら冷静を装って口を開く。
「守り通してください……なんとしてでも」
「かしこまりました」
その言葉に男は垂れていた頭を更に深く垂れてそう言う。
そして報告が全て終わったのか、では、と言って立ち上がり女性に背を向けて歩き出す。
ゆっくりと歩いていく男に女性は何かを思い出したかのような表情をして一度も振り向くことなかった体を男に向ける。
「『暴』の騎士に伝えてください。 対象は殺さぬように、と」
女性は男の背中を見ながらそう告げる。
その言葉に男は歩んでいた足を止めて小さく呆れたような溜め息をつく。
そして半分だけ体を振り向かせて女性の目を見ながら冷たく言う。
「まだ、そんなことをおっしゃっているのですか……姫」
「え……」
男の冷たい目、冷たい言葉に女性は信じられぬというような表情をする。
先ほどまで敬うような態度を取っていた者がいきなりそんな風に変われば誰でもそう思うだろう。
そしてそんな表情をする女性に男は妖しげな目をしながら淡々と口を開く。
「人間たちが姫に何をしたのか……お忘れになったわけではないでしょう?」
「っ……」
「姫ほどの方に愛されていながら……人間たちは姫を裏切り、――を奪った。 姫はそれを許せるというのですか?」
「あ……あぁ……」
忘れたくても忘れられない記憶。
それを今、目の前の男によって呼び起こされた女性は徐々に瞳から光を失っていく。
そんな女性に、男は気づかれないほどの小さな笑みを口元に浮かべる。
「どうなのですか? 我れらが姫君、――様」
最後に放たれたその言葉がきっかけとなったのか、女性の瞳から完全に光が消える。
そして、なんの感情も篭らぬ声で静かに口を開く。
「許せま……せん」
「ならば……どうすればいいのか、お分かりでしょう?」
「人間を……すべて……滅ぼ、す」
その言葉に男は満足したように頷いき、再度背を向けて教会を出て行く。
男がその場からいなくなった後も、男の出て行った扉のほうを見ながら女性はその場に立ち続ける。
まるで、生気の欠片も感じられない人形のように……。
『――、聞こえますか?』
『うおっ! ……って、――か。 驚かすなよ』
教会を出た男は歩きながら念話にてある者とコンタクトを取る。
念話を送られた相手は突然聞こえた男の声に驚き、不機嫌な声でそう言う。
その不機嫌そうな声に男は小さく苦笑を漏らしながら用件を口にする。
『先ほど命が下りましたよ。 対象を殺してでも賢者の石を手に入れろ、だそうです』
『まあ言われなくてもそのつもりだけどな。 って、あの甘ちゃんの女がよくそんな命令出したな』
『いえいえ、最初は殺さずなどと言っていましたので私が説得しました』
『説得……ねぇ。 洗脳の間違いじゃねえのか?』
『ふふふ、そうとも言いますね』
『おお、怖え。 ほんと、お前って主のためとなると容赦ねえな』
『当然ですよ。 主の望みは我らの望み。 そのためならばいくらでも非情になりますとも』
『はははは、よく言うぜ。 元々非情な性格のくせしてよ』
念話相手はそう言うと声を大にして笑い、男もそれにつられるように笑う。
そしてひとしきり笑い合うと二人は完全に笑いを収めぬまま再度話し出す。
『で、命令のほうはわかったけどよ……お前はこの後どうするんだ?』
『炎剣の守護ですよ。 彼女にあれが隠されていることを知られてしまいましたからね』
『げ、あの嬢ちゃんにか。 それって、かなりまずいんじゃねえか?』
『ええ。 ですので今しばらくはあそこに滞在していようと思います』
『ま、がんばれや。 と、俺のほうもそろそろ動かねえとな』
『はい。 では、また何かあったら連絡してください』
男はそう言うが念話相手は何も返すことなく早々に念話を遮断してしまう。
それに男は、せっかちですね、と呟いてクスクスと笑い、半分だけ体を教会へと振り向かせる。
そして、先ほどのような歪んだ邪笑を浮かべながら……
「せいぜい上手に踊ってくださいよ。 我らと、我らの主のために」
そう、呟くのだった。
あとがき
さて、今回も作ってしまいました外伝話。
【咲】 謎をばら撒くのが好きね〜。
当然。 謎は多いほうが楽しいのだよ。
【咲】 あんただけじゃないの?
そ、そんなこと……。
【咲】 そんなこと?
あるかもしれない……。
【咲】 馬鹿者!!
げばっ!!
【咲】 まったく……で、今回の外伝は何個くらいあるの?
う、う〜ん……まだ未定だけど、これ含めて二個か三個かな。
【咲】 はっきりしない奴ね……。
し、仕方ないだろ!!
【咲】 ということで、今回はこの辺でね♪
何がということでなのかわからんけど、まあいっか。 では、また本編で会いましょう!!
うーん、黒幕かと思った姫と呼ばれる存在もどうやら操られているみたいだな。
美姫 「やっぱり、本当の黒幕は主って方なのかしら」
一体、何者なんだろうな。
美姫 「敵の目的も正体も未だに不明のままね」
これから先の展開を待つべし!
美姫 「本編の方も待っていますね」
ではでは。