彼の持つ力は人として異常とも言えた。

 

如何に人を早く殺すかを追求した殺人術。

 

でも彼はそれを無闇に振るうことはしない。

 

それは心に決めた信念がそうさせていた。

 

出来るだけ人を殺すことなく家族を守るという信念。

 

それが彼の強さであり、弱さだったのかもしれない。

 

家族や友達を守ることが彼の生き甲斐とも言えた。

 

でも、それの生き甲斐を失ってしまった。

 

生き甲斐を失った彼の心はあっけなく壊れてしまった。

 

私はそんな彼を見ていられなくて。

 

彼にこの世界を……生き甲斐を与えた。

 

そこで笑っている彼を見るたびに私は胸が痛む。

 

彼の笑っていられるこの世界は……偽りなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の望んだ世界

 

第三話 過去に囚われた少女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭也は呆然と授業を受けていた。

頭の中には昨日のことが渦を巻いている。

鎌を持つ死神の少年、天使と呼ばれた少女。

彼らはいったいあのとき何をしていたのか。

考えてもわからないそれが恭也の頭を支配している。

 

「行けば……わかるか」

 

そう誰にも聞こえないような声で呟く。

そして気づけば放課後になっていた。

恭也は鞄を持ち、親友に別れを言うと教室を後にする。

そして学校を出ると約束の時間まではまだ少しあった。

どこかで時間を潰そうかと思いながら歩く。

そしてしばらく歩いていると先のほうに公園が見えてきた。

恭也はそこでふと疑問に思う。

 

「こんなとこに公園なんて……あったか?」

 

そう呟き考える。

すると不意に頭に頭痛が走る。

 

「っ…?!」

 

片手で頭を抑え、しばらく立ち止まる。

すると次第に頭痛は治まってきた。

 

「なんだったんだ……?」

 

そう呟き考えるがやはり答えは出ない。

まあいいかと思い公園へと足を向ける。

公園に入るとブランコに見知った顔の少女が座っていた。

 

「あれは…神楽さんか?」

 

そう呟きながら声をかけようと近寄っていく。

夏希も恭也に気づいたのか笑顔で小さく手を振る。

恭也も少し微笑を浮かべながら近づいていく。

すると不意に不穏な気配を感じる。

 

「っ!?」

 

恭也は立ち止まり辺りを見渡す。

すると夏希より少し先のほうに何かがいた。

 

「あれは……犬…か?」

 

そう呟く。

それは確かに見た目犬のようにも見えた。

しかし、それはまるで鎧でも着ているかのように外面が黒い装甲のようなもので覆われている。

そしてそれの眼は真っ赤に染まっており、ゆっくりと夏希に近づいていた。

 

「っ…!」

 

恭也は夏希へと駆け出す。

それと同時にその犬のようなものも駆け出す。

そして飛び掛ろうとしたところで袖から小刀をだしそれに向かって投げる。

小刀が当たるがそれに刺さることなく弾かれる。

だが犬のようなそれはそれに怯んだのか一歩後方に下がった。

恭也をその隙に夏希とそれの間に入った。

夏希もそれに気づいたのか恭也の後ろに隠れるように眺める。

 

「な、なんですか…あれ」

 

「わかりません……でも、ただの犬には見えませんね」

 

そう返しつつ恭也はそれと対峙する。

それはぐるると唸り声を上げながらじりじりと迫ってくる。

恭也は背中に小太刀を持ってきてはいるが夏希がいる手前出すのを迷う。

そしてそれはついに飛び掛ってきた。

恭也は小さく舌打ちをして背中にある小太刀を抜きそれへと振るう。

ガキンと音を立ててそれは後ろに吹き飛ぶ。

その瞬間恭也の体にも痛みが走った。

 

「ぐっ!」

 

呻きを上げその痛みに耐えながら恭也は構える。

攻撃を受けたわけでもないのになぜ痛みが走るのかと思う。

しかし、考えている余裕はなかった。

なぜならそれが再度襲い掛かってきたからだ。

それの爪を小太刀で受け反射的に反撃する。

小太刀がそれに当たった瞬間、再度痛みが走った。

 

「っ……なんなんだ、いったい」

 

考えてもわからないその疑問を愚痴のように呟く。

二度も攻撃を防がれ、さらに攻撃を受けたことでそれは怒っているように唸る。

そして三度目の攻撃をそれが仕掛けようとしたとき、白い閃光がそれに直撃する。

直撃を受けたそれは後方へを吹き飛んだ。

 

「だ、大丈夫か!?」

 

「灯夜…それにユリエルさんか」

 

「ええ…大丈夫?」

 

「ええ。 俺よりも彼女のほうが心配ですが」

 

「あ、私は大丈夫です……」

 

「そうか…よかった」

 

そう言ってそれのほうへ小太刀を構える。

 

「やっぱり、恭也さんはあれが見えるのね…」

 

「あれは普通では見えないようなものなんですか?」

 

「ええ。 その説明は後でするわ。 今はあれをなんとかしないと」

 

「そうだな…」

 

そう言って灯夜は大鎌を構える。

それはさっきのことで怒っているのかすぐさま灯夜に襲い掛かってくる。

灯夜は迎撃するように大鎌で一閃する。

その攻撃はそれに直撃し、追い討ちをかけるようにユリエルが閃光を放つ。

攻撃を受けたそれはまだ余力があるのか立ち上がる。

そしてそのまま襲い掛かってくる。

迎撃のため灯夜が構えるがそれが向かったのはそこではなかった。

 

「なっ!?」

 

「しまった!!」

 

予想外にもそれが向かったのは夏希の方だった。

しかし気づいたときにはすでに遅く攻撃も間に合わない。

 

「きゃあ!!」

 

悲鳴をあげる夏希。

その瞬間恭也は神速へと入る。

モノクロの中で小太刀を構え、それへと駆ける。

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小太刀の先端はそれに吸い込ませるように刺さり、背中のコアのような部分を貫く。

そして、恭也の体には激痛が走った。

 

「ぐううっ!!」

 

痛みに耐えながら小太刀を抜く。

貫かれたそれは光を放ち、装甲のような部分が剥がれていく。

そしてあとに残ったのは宙に浮かぶ一匹の犬だった。

襲い掛かられ眼を閉じていた夏希はゆっくりと眼を開ける。

そしてその犬を見て信じられないものをみたような顔をする。

 

「え…そんな……ルーズなの?」

 

夏希がそう呼ぶとその犬は返事をするように鳴く。

灯夜とユリエルはそれに近づき、灯夜は夏希に聞く。

 

「知ってる子?」

 

「う、うん……友達の飼い犬なの…」

 

「そう……」

 

それを聞きながら恭也は小太刀をしまう。

 

「灯夜……」

 

何かを促すような視線を灯夜に向けるユリエル。

 

「わかってるけど……ここは彼女に任せたほうがいいと思う」

 

「またそんなっ!!」

 

抗議をしようと声を荒げるがすぐに口を紡ぐ。

それは夏希の様子を見たからである。

夏希は触れることの出来ないそれを抱くようにして涙を流していた。

 

「ごめん……ごめんね…」

 

ひたすら謝罪を口にする。

その犬はまるで本当に抱かれているような嬉しげな声で鳴くと夏希の顔を舐める。

そしてそのままゆっくりと姿が消えていく。

そしてついには見えなくなる。

 

「……ルーズ…」

 

そう呟き夏希は涙を流し続ける。

恭也たちは夏希が落ち着くまでしばらくそのままでいた。

 

 

 

 

 

 

恭也たちはあの犬と夏希の関係について語られるのを黙って聞いていた。

あの犬……ルーズは今近くの病院で入院している少女の飼い犬なのだそうだ。

その少女が病院で入院してしまってルーズの世話は夏希に任されていた。

ルーズも夏希には懐いており、夏希もルーズのことが好きだった。

そんな日々の中、それは突然起こった。

ルーズの散歩をしていた夏希の前で、横断歩道を渡っている子供に向かって車がスピードを緩めずに走ってきたのだ。

あとから聞かされたことによればそれは運転中の携帯使用による前方不注意だった。

車はそのまま走り次の瞬間衝突するであろうその光景を前に夏希は眼を閉じた。

そしてドンっと音がし、眼を開けると信じられない光景が目の前にはあった。

何かに突き飛ばされ泣き出している子供、そして停止している車。

その車の先には今まで自分の側にいたルーズが血まみれで横たわっていた。

あわてて近寄りルーズを抱き起こす夏希。

ルーズはすでに虫の息でぐったりとしていた。

すぐに手当てしたとしても助からないであろうと誰もが思っていた。

そして、ルーズは夏希の腕の中で静かに息を引き取ったのだ。

 

 

 

 

 

「それでね、ルーズが死んだことをいままでひーちゃん…あ、その入院してるって言う飼い主の子ね…で、ひーちゃんには今まで言えずにいたんだ」

 

ブランコに揺られながら懺悔するように語る夏希。

それを三人は黙って聞いていた。

 

「言おう、言おうって思っても……病院を前にしちゃうと足がすくんじゃうの」

 

そこでブランコをとめ、空を見上げる夏希。

 

「ルーズは……やっぱり私を恨んでるかな…」

 

「それは…違う」

 

「え…?」

 

呟くように言う恭也に夏希は驚き視線を向ける。

 

「神楽さんはいままでそうやって苦しんできたんだろ? そこまでルーズを想っている神楽さんを恨むわけがない」

 

「でも……」

 

「たぶん……ルーズがこの世界に留まっていたのは神楽さんに謝りたかったからじゃないかな…」

 

「謝りたかった…?」

 

「ああ……自分が死んだことで神楽さんを苦しめている。 だから……」

 

「だから…謝りたかったってことですか?」

 

「ああ…」

 

「そんな……一番苦しかったのは…あの子なのに」

 

そう言ってまた泣き出す。

恭也はそんな夏希を優しく抱きしめ頭を撫でる。

 

「泣いたらいい。 それでまた笑顔になれるなら…今は泣いたらいい」

 

優しくそう言う恭也の胸で夏希は静かに涙を流す。

残された二人はそれをただ黙ってみていた。

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、泣き止んだ夏希は恭也からゆっくりと離れる。

その顔には最初のような笑顔が浮かんでいた。

 

「ありがとうございます……先輩」

 

「いや…」

 

「私……今から病院にいきます」

 

はっきりとそう言う夏希に恭也は微笑を浮かべる。

 

「そうか……言うんだな」

 

「はい」

 

決意が見えるような声で返事をする。

そして四人はそのまま病院へと向かった。

 

 

 

 

 

病院の前で夏希は笑顔で三人にさよならを言う。

三人はそれを見送るとマンションのほうへ歩き出した。

 

「ちょっと見直したわよ、灯夜」

 

「ん…」

 

それに短く返事をする。

そして今度は恭也に視線を向ける。

 

「恭也さんもかっこよかったですよ」

 

「そんなことはない…」

 

少し照れているのか頬を掻きながら横を向いてしまう。

それに灯夜とユリエルは小さく笑っていたのだった。

 

 


あとがき

 

 

第三話はルーズのお話ですね。

【咲】 シリアスね。

まあ、ルーズに関しては嫌でもそうなっちゃうんだけどね。

【咲】 シリアスばっかりじゃあれだから今度の話は笑いを入れなさい。

無理だ!!

【咲】 ……もう少し考えるとかないわけ?

俺の文才考えろ!!

【咲】 ……確かに無理かな。

なんか簡単に納得されるのも悲しいな。

【咲】 なら書きなさい。

これ以上仕事が増えるのは……。

【咲】 か、き、な、さ、い。

は、はい……。

【咲】 よろしい。 では今回はこの辺で。

また次回見てください!! では〜^^ノシ




うぅぅ、悲しいお話だね〜。
美姫 「そうね」
今回は、まだ灯夜たちに関する事柄は語られなかったけれど。
美姫 「この事件と何か関係あるのかしらね」
分からん! 次回待ちだな、うん。
美姫 「次回も待ってますね〜」
ではでは。



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